ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二章-ダークネス編
第一話 新たな胎動


「そーいやぁよお、俺ふと思ったんだけどよぉ……」

 

「どうしたんだ、猿山?」

 

ある平和な登校中。猿山がなんとなく考えたことをそのまま口に出すように呟くとリトがそれに首を傾げる。と、猿山はリトの隣を歩くララと、さらにその隣を自転車を押して歩く炎佐を見る。

 

「ララちゃんって、お見合いが嫌で家出したって言ってたよな?」

 

「うん?」

 

「んで、炎佐はララちゃんの幼馴染なんだよな?」

 

「ああ。ララっていうかデビルークの王族親衛隊に所属していて、俺はプリンセス達の護衛っていう名の遊び相手だったよ」

 

猿山の質問にララと炎佐は素直に答える。

 

「んじゃあよ」

 

猿山はそう、本題を切りだした。

 

「なんで炎佐がララちゃんの婚約者にならなかったんだ? そうしたらララちゃんも家出する事なかったろうし」

 

「「「「…………」」」」

 

その言葉に炎佐とララだけでなく、一緒に登校していたナナとモモ――つい先日彩南校に転入したのだ――も固まる。

 

「え? な、なに? 俺、もしかして不味い事言っちまった?」

 

フリーズした四人を見た猿山も慌て出した。

 

「「「「……その発想はなかった」」」」

 

が、直後四人は心底驚愕した表情で異口同音に呟いていた。その違う意味で予想だにしない返答にリトと猿山が唖然とする。

 

「言われてみれば……何故お父様はエンザさんをお姉様の婚約者候補に上げなかったんでしょう?」

 

「そうだよな。そりゃまあ、家柄的には王家と釣り合うとは言えねえけど。父上はんな事あんま気にしねえし、むしろセシルとミーネの息子って時点で家柄はある意味クリアだろ?」

 

モモとナナも真面目に考え始める。

 

「だが、俺とララが婚約者ねえ……」

 

「う~ん……全然想像つかないね」

 

が、その渦中である二人は全くもって興味なさげだった。いや、興味は抱いたがいまいちイメージ出来ない。という感じだ。

 

「俺にとってララは悪戯好きな妹って感じだしなぁ」

 

「そうだねぇ。私にとってもエンザは真面目なお兄ちゃんだし」

 

婚約者という色気のあるイメージがつかないのは既にお互い兄妹というイメージを持っているせいだろうか。

 

[案外ギド様もセフィ様も、エンザが近くに居過ぎてそう考える事すらなかったのではないでしょうか]

 

「灯台下暗し、ってやつか」

 

ペケが笑うような調子で言うとリトも苦笑する。

 

「ま、それはラッキーだったな」

 

と、炎佐も笑ってリト達を見る。

 

「だって、そんな事が起きなかったから俺は無事宇宙に出て賞金稼ぎやって、静養のため地球に来て。プリンセス・ララだって家出して地球に来た……つまり俺とララは婚約者にならなかったおかげで地球に来てリト達に会えたんだ」

 

「そうだね! エンザと婚約者にならなくってよかったー!」

 

炎佐とララはそう言って無邪気にあははと笑い合う。

 

「……これは、笑うべき、なのか?」

 

「さ、さあ?」

 

「流石に、返答に困ります……」

 

「おう……」

 

が、横の四人はどういう反応を見せるべきか困り果てていた。特にモモに至っては完全に呆れたように顔に手を当て頭痛を堪えるような表情をしている。

 

 

 

 

 

「せいっ! はぁっ!!」

 

時間が過ぎて昼休み。炎佐は人気のない校舎裏で木刀――銀河通販で入手した、セールストーク曰く「辺境の星にある金剛樹という樹齢一万年の大木から作られた妖刀・星砕」とのことだが彼本人は眉唾ものだと思い、とりあえず間に合わせだったり強度があるならなんでもいいと購入した――を振るっていた。

 

「キョー姉ぇを、大切な人を守るって誓ったんだしな……少し真面目に、現役時代の勘を取り戻さねえと」

 

今まではなんだかんだなんとかなっていたがこれから先もそれが続くとは限らない。炎佐はそう考え、勘を取り戻すため学校内でも鍛錬を始めていた。すると突然携帯が鳴り始め、炎佐は木刀を振るう手を止めると携帯を手に取った。

 

「リト、どうしたの?……は? サル達が襲い掛かってきた?」

 

[あ、ああ。ヤミやモモが言うには操られてるっぽいんだけど……]

 

炎佐は突如リトからの連絡を受け、説明を受ける。曰くついさっきまで普通に話していた猿山の様子が豹変、さらに他の男子生徒も次々と様子がおかしくなり、彼らは自分やさらにはヤミを狙ってきた。ということだ。

 

「了解。今すぐ援護に向かいますって――」

 

炎佐は言い終える前にその場を飛び退き、直後ズドンという音が響いたと思うとさっきまで炎佐が立っていた場所にクレーターが完成していた。

 

「……リト、プリンセス・モモに伝えて」

 

エンザは左手に携帯を持ち替えてリトに話しつつ、右手でデダイヤルを操作し始める。その目は携帯にもデダイヤルにも向いておらず空を睨んでいる。

 

「こちらにも来客が、しばらく持ちこたえてください。と」

 

空に浮かぶ、真っ黒な仮面で口元を除く顔を隠し、ヤミの戦闘衣(バトルスーツ)に似た黒い衣服を身に纏った存在を睨みつけながらエンザは静かにそう言った。リトが電話の先で「えぇっ!?」と叫ぶがエンザは気にもせずに電話を切り携帯電話をしまうと己の武器である刀の柄を転送、右手に握ると同時に銀色の軽装な鎧を転送装着する。そして刀に赤い刃の刀を形成して戦闘モードに入った。

 

「何者だ?」

 

宇宙を駆ける賞金稼ぎの目になったエンザの睨みに、その相手は口元を緩めてクスッと一笑すると突如空中を蹴ったかのように加速してエンザに突進、その時仮面で隠せていなかった赤い髪が揺れた。そう思うと相手はくるんと回転、細い足で回し蹴りを仕掛けてくる。エンザはそれを片腕で防ごうとするが、蹴りが直撃する直前に凄まじい圧力を相手から感じエンザは咄嗟に蹴りの方向に跳ぶ。蹴りが当たった瞬間腕に重い衝撃が走るが跳んだ事によりダメージは軽減する。

 

(なんだあいつ、蹴りがとんでもなく重い……跳んでなかったら腕がへし折られてたかもしれねえ……)

 

腕に走るジンジンとした痛みを感じながらエンザは静かに相手を分析する。一見した見た目としては自分と同じく一般的な地球人とほとんど変わらない。いや、むしろ小柄な印象すら与える。とても鎧を纏ったガードの上から自分の腕をへし折らんばかりの威力の蹴りを放ってきたとは思えない。

 

「まあ、そういう意味で言えばヤミちゃんも似たようなもんだしな」

 

エンザは自分より小さく可憐で華奢な印象を与える外見ながら自分を超える実力を有する存在を思い出し、ふぅと息を吐く。

 

「悪いが。お前の目的が何か分からない以上、こちらも本気で対処させてもらう……狙いがリトか、俺か、ヤミちゃんかは知らんが……死ぬ覚悟がないのなら下がれ。さもなくば……」

 

エンザはそこまで言って構えを取り直しつつ殺気を放つが、謎の相手は口元に笑みを浮かべて不自然にゆらゆらと揺れるのみ。少なくとも逃げる様子は見えない。

 

「逃げる気はなし、か……なら――」

 

前に一歩踏み出したエンザの足の裏が爆発、その勢いを利用してエンザは謎の相手に高速で突進。

 

「――その命、いただく!」

 

その勢いのまま刀を振るう。命をいただくとは言ったものの実際はとっ捕まえて目的を吐かそうと考えているのか急所は外すように斬撃を放つ。

 

「なっ!?」

 

が、直後エンザは驚きに硬直する。胴を薙ぐように放った刀を謎の相手は肘と膝を使った変形の白刃取りで受け止めてみせたのだ。

 

「あつっ!?」

 

が、相手は驚いたように刀から肘と膝を離し、大慌てで下がる。まあ赤い刃はエンザのフレイム星人の力を利用して生み出された高温を宿すものだ。粗悪な金属製武器ならば鍔迫り合いに持ち込んだ時点でその武器を融解、そのままノーガードになった相手を斬り裂くことさえ可能にする。逆に言えばそんな高温の刃に直に触れておいて「熱い」などという反応だけで済ませる事が異常である。

 

同族(フレイム星人)か!?」

 

同族であるフレイム星人のように熱に耐性がある相手ならばその反応も分からなくはないと考えたエンザはしかし相手が隙を作ったためそのまま追撃に移り、振り上げた刀を勢いよく振り下ろす。

 

「残念♪」

 

が、謎の相手はそれを目の前に突き出した腕でガードする。いや違う、エンザの刀を防いでいるのは相手の腕に展開されていた剣。仕込み武器、ではない……それは、()()()()()()()()()()()()()だった。

 

変身(トランス)だと!? ぐふっ!?」

 

ヤミの能力、変身(トランス)。目の前の相手はそれを使っていた。その驚愕にエンザの動きが止まり、その隙をついた謎の相手はエンザの腹に蹴りを叩き込み吹き飛ばす。

 

「っ、てめえ、一体何者だ!? ヤミちゃん以外に変身(トランス)を使える奴が存在するはずが……」

 

「えー? 何マスター? えー、もういいのー? これから面白くなりそうだったのにー……はーい」

 

シリアスに叫ぶエンザに対し謎の相手は虚空を見上げて誰かと話をしており、話が終わるとその相手はエンザに背中を向ける。

 

「マスターがもう時間稼ぎはいいから戻ってこいってさ。じゃね~」

 

謎の相手は振り返って口元に無邪気な笑みを湛えながら、ひらひらと手を振って跳躍。力を入れてないように見えるそれで謎の相手は手近な屋根の上まで飛び移り、そのまま姿を消していった。

 

「……なんだったんだ、一体……」

 

敵の気配が消えたことを確認したエンザが一人呟く。またリトの命を狙うララ婚約者候補の襲撃か、しかし相手は婚約者候補であるリトとは直接の接点を持たない――一応、かつてララ婚約者候補リトの暗殺依頼を受け、今もなおリトの命を狙う暗殺者という意味では接点はあるが――ヤミも一緒に狙ってきていた。

 

(護衛である俺を狙うならまだしも、護衛どころかむしろリトの命を狙うヤミを狙うってのが解せない……)

 

エンザはそこまで考えた後、先ほどの赤毛の敵を思い出す。

 

(あいつ、あくまで動きを封じる程度に抑えるつもりだったとはいえ、俺と互角に渡り合った。しかもあいつ、本気を出していなかった……)

 

殺気を見せず、むしろ遊んでいるかのように戦っていた敵にエンザは身震いする。もしも本気を出されていたら周りに被害を出さずに勝つというのはまず不可能だっただろう。いや、ヤミと同じく変幻自在に様々な武器を使う変身(トランス)能力者が相手では下手をすれば敗れていた可能性すらある。

 

「……何が起きていやがる……」

 

そこまで呟き、エンザは頭をかいた。

 

「とにかく、今はリト達の無事を確認しねえと」

 

エンザは一人呟いて携帯を取り出し、リトに電話をかけながらその場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

「相手の目的は恐らく……金色の闇自身の手による、結城リトの抹殺」

 

「……マジ?」

 

また時間が過ぎて放課後、結城家のリト自室。昼休みに起きた事件について話し合うため炎佐も同席している中、モモがそう相手の目的を予測するとリトが頬を引きつかせる。

 

「それが猿山達を操って俺達を狙った犯人の目的だってのか!?」

 

リトの言葉をモモは「そうとしか思えません」と肯定。曰く、相手は確実にヤミを挑発していた。彼女を本来の“殺し屋”にするのが目的だとしか思えない。との事だ。

 

「それに、エンザさんが戦ったという変身(トランス)能力者と思われる殺し屋……」

 

「昔ミカドから、ヤミを生み出した組織はクロによって壊滅したって聞いた。ヤミ以外の被験者がいたなんて話は聞いた事ねえし、そこ以外に技術が流出したって考えるのが自然だが……だが、技術があるんならわざわざヤミを連れていく必要なんかないだろ?」

 

「そうですよね……つまり、敵は変身(トランス)能力者ではなく、金色の闇自身が狙いであると考えた方が……」

 

モモとエンザもそう話し合う。

 

「で、でも一体誰が、何の目的で!?」

 

「分かりません……洗脳が解けた猿山さん達も何も覚えていないようでしたし……ヤミさんの過去を知る者としか……」

 

リトが困惑のままに叫ぶが、モモも難しい表情をしてそう返すしか出来なかった。

 

「心配なのはあの敵の挑発を受けて、ヤミさんが心変わりしてしまうことです」

 

「ヤ、ヤミが俺を殺す!? いくらなんでも……」

 

モモの言葉を聞いたリトが声を震わせながら否定しようとし、モモも苦笑交じりに「今のヤミさんがそこまでするとは思えません」と返した。と、炎佐は携帯を取り出す。

 

「とりあえず、ニャル子に赤毛の異星人から地球への入星申請が来てるか聞いておく。まあ期待は出来ないけどな……今までの貸しを使ってごり押しで調査でも頼んでみるか」

 

「お願いします」

 

知り合いの惑星保護機構職員に調査を依頼するという炎佐。だが相手の顔などの特徴は赤毛程度しか分かっておらず、名前も分からないのでは個人の特定は難しい。そもそもとして暗殺者が律儀に惑星保護機構に申請をして地球に入っているとは到底思えないため期待はするなと言いながら彼はリトの家を後にした。

 

 

 

 

 

「おう。赤毛で身長は150ちょい、体格は15くらいの一般的な地球人タイプくらいってとこか? そんな女だ……は? 名前? そんなの知るわけないだろいきなり襲われたんだから……無理とか言うな、やれ。テメエの我儘にツケてた貸しをチャラにしてやるっつってんだ」

 

帰路につきつつ、夕闇の中炎佐は早速ニャル子に無茶振りをかましていた。

 

「ああ。流石に個人を特定しろとまでは言わないが……マジな話、この外見特徴の異星人には注意しておいてくれ。もしかしたらどこかの宇宙マフィアが地球に入り込んだかもしれない。ああ、可能な限りでいいから調査も頼む」

 

まあ流石に無茶振りは半分程冗談のつもりだったんだろう。炎佐は真剣な顔でニャル子に警告を促し、最後にもう一度調査を頼むと電話を切った。

 

「お、エーンザー!」

 

と、いきなりそんな呼び声が聞こえ、炎佐は声の方を振り返るとよう、と片手を挙げる。

 

「ナナ、今帰りか?」

 

「おう」

 

呼びかけてきた少女――ナナはそう言って嬉しそうににししと笑う。と、炎佐は暗くて気づかなかったがナナの隣に誰が立っているのに気づき、ナナも炎佐の視線で気づいたのか「ああ」と呟いて隣に立つ少女を見る。

 

「学校で新しく友達が出来たんだ! メア、こいつはエンザ! まあ、アタシの兄様みたいなもんだな!」

 

ナナはにひひぃと笑いながら隣に立つ少女に炎佐を紹介。その時さっきまで雲に隠れていた月が、その少女を照らし出す。

 

「!?」

 

「初めまして、エンザ」

 

その相手は赤毛で編んだおさげを揺らしながら元気な微笑みを浮かべて挨拶する。その見覚えのある姿に炎佐は一瞬硬直した。

 

「あたし、黒咲芽亜! よろしくね」

 

「……氷崎炎佐だ……よろしく頼む」

 

少女――芽亜の明るく無邪気な笑顔を見た炎佐はデジャヴを感じつつ、ナナの友達という事で邪険には出来ず名前を名乗り挨拶を返すのであった。




さて皆さんこんにちは。ToLOVEる~氷炎の騎士~ダークネス編のスタートです。
でもってダークネス編開始早々、猿山の本作の根幹ぶっ壊しかねないような不意の発言から始まったこの考察、「そういえばギドって要するにとっとと王位譲って遊びたいんだろ?ならエンザっていう格好の生贄がすぐ近くにいたんじゃねえか?」とふと思ったので解決(という名の言い訳)のためやってみました。なおこの二人の間に恋愛感情はありません、二人とも言っている通り互いの関係の認識が双子の兄妹なので。今となってはそれぞれ恭子とリトもいるんですしね。まあお互いに「可愛い」「かっこいい」くらいの評価は持ってるでしょうけど、それと異性として見るかは別です。
ちなみに仮にエンザがデビルーク親衛隊にいた頃にギドから「ララの婚約者になれ」って命じられてたら多分エンザ、断り切れないと思います。当時彼は恭子の存在自体知らないし、むしろ親衛隊当時なら一番近しい女性がララ達プリンセス姉妹だし。ララもララで多分エンザなら良く知ってる相手だから「これ以上お見合いする事なくなるんなら、知らない人よりいいや!」って感じのノリで受け入れて、エンザも流される形で婚約者という立場を受け入れざるを得なくなります。(笑)
もちろん今ギドから命じられたら「アホかお前」と一蹴しますけど。(炎佐本人はツンデレのせいで表面上認めてないけど)今の自分の隣には恭子がいるんだし、ララの隣にはリトがいるんだから。無論、ナナかモモでも同じ結果です。
そして新キャラ芽亜登場です。なお本作の新たなサブヒロイン候補でもあります。(笑)
さーて次回はどうしようかな。ま、また後で考えるか。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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