ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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無印編最終話 夏の思い出、大切な人

「どうやら頭痛の原因は疲労とストレスみたいね」

 

御門診療所。宇宙人専門の診療所であるここで御門は診断を行い、結果を下す。それにどことなく魚人風の宇宙人は「はぁ」と声を漏らし、御門はメモを取る。

 

「薬は出しますけど、根本的な問題を解決しないと同じことの繰り返しになってしまうわ」

 

そう言い、彼女はメモをメモ帳からぴりっと破る。

 

「エンザ。このメモに書かれてる薬品を準備しておいて」

 

「へいへーい」

 

御門の指示を受けた炎佐はメモを受け取る。彼は今日ちょっとしたバイトで御門診療所の手伝いにやってきていた。

 

「やっぱ原因はあいつかなぁ」

 

「あいつ?」

 

宇宙人の呟きに御門が反応すると、宇宙人は話し始める。四日前にペットが逃げてしまい、それはミネラルンという激レア種なのだそうだ。

 

「激レア種……ミネラルン、聞いた事ない生き物ね……」

 

「名前はヌップルって言います。先生! 見つけたら教えてくだせぇ!!」

 

御門は聞いた事のない生き物の名前にふむと呟き、宇宙人はそう言って頭を下げる。

と、そんな時診療所の黒電話が鳴り始め、近くにいた炎佐が電話を取る。

 

「はい、御門診療所……あれ、西連寺さん? お静ちゃんに用事?……うん、プールに? リトも行くの?……うん、じゃあお言葉に甘えて。うん、お静ちゃんにも伝えておくよ。うん、じゃあね」

 

炎佐は春菜から遊びの誘いを受け、お静ちゃんにも伝える事を承ると電話を切る。そして近くで仕事をしていたお静ちゃんに伝えると彼女は「やたー」と満面の笑顔で嬉しそうに両手を挙げる。

 

「お静ちゃんにはストレスなんて関係なさそーね」

 

その姿を見た御門も微笑ましく思いながらそう呟いた。

 

それから翌日。一行は彩南町の彩南ウォーターランドへとやってくる。

 

「わーっ、おっきなプールだねー!」

 

無邪気に喜ぶ水着姿のララ。その後ろで猿山がにやけながら「おっきなプルンプルン」とララの胸を評し、リトが呆れた目で猿山を見る。

 

「ヤミさん、プールは初めてだよね?」

 

と、後ろからやってきた美柑が一緒に来たヤミに尋ねている。そのヤミは普段来ている戦闘衣(バトルスーツ)によく似た黒色の水着を着ていた。

 

「お、美柑。ヤミも誘ったんだな、よかった!」

 

「……あまり、えっちぃ目で見ないでください」

 

声をかけてくるリトに対しヤミは心なしか顔を赤くして水着を隠しながら返し、すたすたと歩いていく。

 

「リト……ヤミさんと何かあったの?」

 

「え? い、いや……別に…(…ヤミ、この前の事まだ気にしてるな……)」

 

美柑の言葉をリトは否定しつつも心の中では以前、ヤミがセリーヌの花粉を吸いこんだことでセリーヌのリトが大好きという気持ちが伝染。リトにぞっこんになった上に最後にはキスまでしようとしていた事を思い出す。何か隠している様子を見せつつもそれを言いそうにないと悟った美柑は呆れたように一つ息を吐いた後、ヤミの方に走っていった。

 

「お、君達可愛いねー」

 

ヤミと合流した後、美柑は何故か男達にナンパされていた。その近くには途中で会ったモモとナナもいるため美柑ではなく彼女らを狙っている可能性もあるのだが。ちなみにヤミは美柑を守るように彼女の前に出ている。

 

「ねえねえどう? 俺達と遊ばない?」

 

「結構です。お引き取り下さい」

 

チャラ男な男性の誘いをモモはつんとした様子ではねつけるが、逆にナンパしてくる男達は盛り上がる。

 

「おいモモ、どうしたんだ?」

 

「あぁ、エンザさん」

 

と、様子がおかしいのに気づいた炎佐が近寄り、モモも彼に声を返すとナンパ男達は全員ひぃっと悲鳴を上げる。炎佐はかつて宇宙を駆ける傭兵業を生業としていた。その激戦の中で刻まれた傷跡は全身にあり、特に鼻の上を横一文字に通る傷が目立つ。普段服で隠れている傷は現在水着のためすべて露出。しかも何故かサングラスをかけているがその格好は知らない人が見たら完全に一般人が関わってはいけない危ない人である。

 

『し、失礼しましたぁ~!!!』

 

現にチャラ男達は全員一斉に逃げ出しており、自分が原因だと分からない炎佐は首を傾げていた。

 

「つかエンザ、お前なんでそんなもんかけてんだ?」

 

「あぁ、籾岡さんが似合うかもしんないじゃんって押し付けてきた」

 

押し付けられたサングラスを律儀にかけている炎佐も炎佐だが、その後ろの方で里紗は未央と共に笑いをこらえており、完全に確信犯である様子を見せていた。

それから全員好き好きに遊び始め、その途中リトは猿山と共にプールの隅に背を預けて小休憩を取っていた。

 

「しっかし、変わったなぁ。リトよぉ……」

 

「ん?」

 

猿山はどこか感慨深げな様子さえ見せながらリトに話しかける。以前のリトの純情さと言えば、猿山による脚色もあるのかもしれないが“水着のグラビアを見ただけで気絶した”と評された事もある程。それが今では水着の女子と普通に会話が出来る程に成長している。と猿山はリトの成長を評価する。それをリトは「うっかり胸元とか直視しないようにしてるだけだ」と返答するが、猿山が「それでも昔のお前なら気絶してた」と間髪入れずに指摘するとリトは反論できなくなる。

 

「これもララちゃんとの生活の影響なのかねぇ……ったく、羨ましい奴め」

 

猿山はリトを妬むような事を言うが、口元に浮かぶ冗談っぽい笑みからはそれが本気ではなくただ単にリトをからかっているだけという事を感じ取れる。

 

(ララの……影響……)

 

だがリトは自分が成長したのであれば、その一因が彼女の影響である事は間違いない。と心のどこかで認めているのか。じっと見てくる彼に気づいて無邪気な笑顔で「リトー」と呼び手を振ってくるララを見ていた。

 

 

 

「いっやーそれにしてもグラサン氷崎は傑作だったねー。今度からプールとか海行く時は氷崎にボディガード頼もうかなー? ナンパってうざったいし」

 

「しばくよ?」

 

ケラケラと笑う里紗にサングラスを外した炎佐は細目で呟くように言う。彼はナナにツッコミを入れられるまで自分の姿が傍から見て威圧感抜群であることに気づいていなかった。

 

「えー? ほらほら、こ~んなスタイル抜群の美少女とのプールデートよん?」

 

「興味ねーし」

 

うっふん、とセクシーポーズを取ってくる里紗に炎佐は冷めた目を見せ、それを聞いた里紗がむっとした表情を見せる。その時、炎佐が突然里紗を押し倒した。

 

「きゃっ!? ちょ、炎佐、こんなとこでっ!?」

 

いきなりの積極的な行動に途端に顔を真っ赤にする里紗だが炎佐はそれ以上の行動を起こす事なく里紗から離れる。いや、離れている、というよりも……()()()()()()()

 

「えええぇぇぇぇっ!!??」

 

里紗はいきなりの展開に驚愕の悲鳴を上げるが直後、彼の片足に何か半透明の触手状の物体が巻き付いていることと、それをエンザが青色の瞳を宿す両目で睨んでいる事に気づく。

 

「ふぅっ!」

 

エンザがその半透明の触手状の物体に吐息を吹きかけると、触手状の物体は凍りつきエンザは巻き付かれていなかった方の足で氷ごとその物体を蹴り砕く。そのまま彼は重力に引き寄せられて落下するが、空中で体勢を立て直すと足から着地。里紗に前に立つ。その前にあるプールには巨大な液体状の巨大生物がいつの間にか存在していた。

 

「キャー!!! 水のバケモノだー!!??」

 

宇宙人という未知なる存在が身近にいるとはいえ常識外の存在に里紗は悲鳴を上げる。と、エンザは右手に巻き付けていた鍵付きのゴムバンドを外すと里紗に投げ渡す。

 

「籾岡さん、僕のロッカーからデダイヤルを持ってきて……こいつ、見た事ないけど厄介そうだ」

 

「た、戦えんの?」

 

「幸い水着はブリザド星人御用達のやつだからね。でも逆に言えば今じゃ氷しか使えないし……あの体積の奴全部凍らせるのは結構辛い。とりあえず、急いでデダイヤルを持ってきて。それまでは被害を出さないよう持ちこたえる」

 

「わ、分かった!」

 

指示を受け、鍵を両手で抱きしめるように持って走っていく里紗。エンザはそれをちらりと見送った後、左手を前にして構えを取る。そしてブリザド星人の冷気を操る力を集中し、左手に氷の剣を作り出した。

 

「エ、エンザ!」

 

「ナナ。お前、あの生物の事知ってるか?」

 

慌てて駆け寄ってくるナナにエンザは開口一番問いかける。それにナナはこくこくと頷いた。

 

「あいつ、アクアン星系の原始生物、ミネラルンだ! すっげーレアなやつで、こんなとこにいるはずが……」

 

「ミネ……ラルン?」

 

ナナから謎の液体巨大生物――ミネラルンの話を聞いたエンザはその名前に聞き覚えがあると考える。

 

「そうだ。ドクター・ミカドのとこの患者のペットが逃げ出したって話があって、そいつの名前がミネラルンだ」

 

「って事は、あいつはその患者のペットってことかよ……」

 

思い出したエンザの言葉にナナはげんなりとした表情を見せる。その隙をついたのかミネラルンの触手――正確に言うならばミネラルンの身体である液体が触手状に変化したもの――が二人を狙うが、エンザはすぐにナナの前に出ると剣を振るい、まき散らされた冷気が触手を凍らせ、剣が凍り付いた触手を砕く。しかし砕いたのは触手の先端部分のみ、それもすぐに元に戻る。

 

「やはり、液体生物では斬ってもムダみたいですね」

 

「とは言っても、あの巨体全部を凍らせるのもあいつが余程とろくないと無理だし、襲ってくる触手を少しずつ凍らせて削ってたんじゃ日が暮れる……籾岡さんが来てデダイヤルさえ使えれば……鎧状態になればあんな奴、一気に炎で蒸発させられるんだが……」

 

美柑を守りながら、相談を持ち掛けるつもりなのかそう言ってくるヤミに対しエンザがそう返すと、ヤミは冷めた目でちらりとエンザを見る。

 

「なら、とっとと炎を使ってください。全力で」

 

「全力で断る! 水着が耐えきれず焼け落ちるわ!」

 

「別に私は構いませんし」

 

「俺が構う!」

 

言い合いつつも襲いくる触手を全て斬り払う辺りはお互い流石というべきだろうか。ちなみに美柑は後ろの方でエンザの水着が焼け落ちた後の事を想像したのか顔を赤くして「きゃー」と言いながら顔を隠していた。

 

「ちなみにナナ、お前が説得して大人しくさせるって手段はないのか?」

 

「ダメだ! あいつ知能が低くて話にならない!」

 

エンザの提案をナナは首を横に振って無駄だという。

 

「「キャー!!!」」

 

「! 西連寺さん! と――」

 

その時二人の少女の悲鳴が聞こえ、エンザは悲鳴の主を見つけて声を上げる。一人は春菜、もう一人は……

 

「キョ、キョー姉ぇ!?」

 

「「助けてー!!!」」

 

もう一人の捕まった少女は恭子。エンザはなんで恭子がここにいるんだ、なんでこのタイミングで捕まっているんだ、という二つの驚愕で固まってしまい、その間に二人の少女はミネラルンに食べられるように取り込まれてしまう。

 

「春菜! キョーコちゃん!」

 

二人が捕まったのを見て助けに走るララだが、ミネラルンがプールの水を操って津波を作り出し、ララが津波に呑み込まれるとそのまま自らの体内に取り込む。三人とももがいてはいるが、怪力のララをしても脱出できるようには見えない。

 

「ちょっと……コレ、やばいんじゃ!」

 

「くそ! これじゃデダイヤルが来ても……」

 

美柑が声を上げ、エンザも襲いくる触手を弾きながら表情を歪める。仮にデダイヤルに入れている鎧を着て炎を扱えるようになったとしても、ミネラルン全体を蒸発させるほどの炎を放っては内部の三人も危険。デビルーク星人の強靭な肉体を持つララ、フレイム星人の血を引き常人以上の熱耐性を持つ恭子はともかくとして、地球の一般人である春菜の命は確実にない。

 

「っ……うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

と、リトが突然ミネラルン目掛けて突進。唯が「危険よ!」と叫ぶが彼は止まらず、ミネラルンに飛び込むともがくように泳いで春菜とララ、恭子の方に向かうと近くにいた春菜とララを抱きかかえるように助け、もう片方の手を伸ばして離れた場所にいる恭子を助けようとする。が、その手は恭子に届かずに彼は流されてしまい、しかし最後の力を振り絞って二人だけでもミネラルンの外に投げ飛ばす。

 

「お姉様!」

「ハルナ!」

 

モモとナナが駆け寄って二人を介抱する。が、ララはすぐ立ち上がると「リトを助けなきゃ!」と言ってミネラルンに近寄ろうとする。しかしペケが[今近づいてはまた取り込まれてしまいます!]と、さっきのリトの健闘を無駄にしてはダメだと諭してその足を止めさせる。

 

「でも、このままじゃリトが……それに、キョーコちゃんが……」

 

しかしララは大好きな相手であるリトと、新しく友達になった恭子がこのままでは危険だと動揺を隠せない。

 

「氷崎ー!」

 

そこに聞こえてくる待ちに待った声、そして何かを投げるようなブンッという音とヒューン、という風切音が近づいてくる。エンザはそちらを見ることなく、里紗が投げよこしてきたものを取ると操作。虚空に刀の柄が具現し、炎佐はそれを片方は右足で蹴り上げ、片方は左手で一度持った後投げ上げる。武器を自ら手放すという行動にララ達が驚いている間にエンザはデダイヤルをまるで先端を相手に突きつけるように構える。

 

「パスワード入力」

 

呟き、“1”、“0”、“5”、“0”、と入力。そしてまた別のキーを押しながら彼はデダイヤルを口元に持っていく。

 

「転装!!」

 

叫ぶと共にデダイヤルから放たれた光がエンザを包み込み、僅か一秒にも満たない時間でその光が弾け飛ぶ。その光の中から、銀色に光るスマートな形状の鎧で全身に纏い、頭部は竜を模したフルフェイスタイプのヘルメットで覆ったエンザが首元に巻いている真っ赤なマフラーを風にたなびかせながら姿を現した。その鎧をまとっエンザはベルトのバックルにデダイヤルを装着。それと共に蹴り上げ、投げ上げた刀の柄が彼の両手に吸い込まれるように収まる。そしてヘルメットの目に当たる部分が右目は赤の、左目は青の輝きを放つと両手の刀の柄からもそれらと同色の刃がそれぞれから伸びる。

 

「氷炎のエンザ……いざ参る」

 

呟くように言うと共に右手の赤い刃の刀を持つ右側から陽炎が立ち上り、青い刃の刀を持つ左側から冷気が渦巻く。

 

「はあああぁぁぁぁ……」

 

力を込めつつ二刀を掲げる。

 

「ぜりゃああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

雄叫びと共に刀を振り下ろし、放たれた赤と青の衝撃波がミネラルンに直撃。赤い高温の衝撃波がミネラルンの身体を抉り、しかし熱が中にいるリトと恭子に届く前に青い低温の衝撃波がミネラルンの身体を凍らせてリトと恭子を氷の壁となって守る。と、いきなり水が消え水流の流れに乱れが生じたのか、氷で守られていたリトと恭子は勢いよくミネラルンの中から弾き飛ばされ、プールに着水する。

 

「リト!」

「結城君!」

「恭子!」

 

それを見たララと春菜がリトの方に、炎佐がパワードスーツを解除して恭子の方に走る。ミネラルンは攻撃の衝撃でふらふらしているがいつ復活するかも分からないためすぐにプールから引き上げた。

 

「恭子! おい、しっかりしろ!」

 

恭子を抱きかかえながら血相を変えて呼びかけるエンザ。その後ろではいつの間にか混ざっていたルンがあわあわとなっている。

 

「……ん、ぅ……ん……」

 

揺さぶり、頬をぺちぺちと優しく叩きながら恭子を起こすエンザ。すると恭子の口からそんな呻き声が漏れ出した。

 

「あれ?……私、ルンと一緒にライブしてて、そしたら変なのに襲われて……あれ? エンちゃん?……」

 

恭子はぽやぁとした顔で状況を整理するように口に出しており、それからようやくエンザが自分を抱きかかえている事に気づく。

 

「恭子……よかった……」

 

「ひゃっ!?」

 

と、彼女の意識が戻ったのを確認したエンザは良かったと呟いて彼女を抱きしめる。後ろの方で里紗が目を見開いて唖然とし、美柑が顔を真っ赤にしてあわあわとなっている。

 

「よかった、間に合って……恭子にもしもの事があったら、俺は……」

 

「……そっか。エンちゃんが助けてくれたんだ」

 

恭子を抱きしめながら今にも泣きそうな声で恭子の無事を喜ぶエンザ。その姿を見て恭子は状況を理解する。

 

「ありがと、炎佐」

 

チュ、というリップ音が聞こえる。恭子は助けてくれたお礼なのだろうか、エンザの頬にキスしたのだ。ちなみにいきなりのキスに里紗が口をあんぐりと開け、美柑は色々と限界に来たのかついに失神。隣のヤミが突如気絶した友人に慌てる結果になる。

 

 

 

 

 

「皆、大変だったみたいねェ。ヌップルちゃんは飼い主が来てくれたから安心してね♪」

 

「どうも、迷惑かけてすいやせん」

 

連絡を受けてきたのだろうか、黒いきわどい水着を着用してプールに来た御門はそう言い、ミネラルンことヌップルの飼い主である宇宙人は申し訳なさそうに頭を下げる。その足元には少し大きな水たまりくらいの大きさのヌップルがおり、唯達が「これが元の大きさ!?」と驚いていると、ナナが「プールの水と混ざっちまって錯乱したみたいだ」と説明する。

 

「ホントにもう大丈夫なの? 結城君……」

 

「ああ……」

 

唯がリトを心配すると、リトも曖昧に頷いて返す。

 

「えっと、それで……」

 

と、春菜はちらり、とある方向を見る。その視線の先にあるのは炎佐の隣に立つ恭子。するとその視線に気づいたのか恭子はにぱっと微笑んだ。

 

「チャオ♪ 初めましての人は初めまして、皆さん。エンちゃんの従姉弟こと、霧崎恭子です♪」

 

「ついに……皆にまで……」

 

スマイル満開で挨拶する恭子の横で顔を青ざめさせる炎佐。

 

「え……っと……え? で、でも、氷崎君……あなたの従姉弟って、恭香さんじゃあ……ほ、他にも従姉弟がいた、とか?」

 

唯が恐る恐る、という様子で以前出会った炎佐の従姉弟こと恭香の事を思い出して炎佐に問いかける。

 

「えーっと、もう隠しててもしょうがないよな……幸いこの騒ぎで他に一般人いないし……」

 

炎佐はミネラルンの暴走によって一般客が全員近くからいなくなっている事を確認してから恭子を指差す。

 

「キョー姉ぇ、恭子が変装した姿とその時の偽名が氷崎恭香だったんだ……俺とキョー姉ぇの関係がばれたらキョー姉ぇの身に危険が迫るかもしれないからな」

 

「私は考えすぎだーって言ってるのにね」

 

炎佐が説明すると恭子は考えすぎだと呆れ気味に呟く。するとリトやララ等、炎佐と恭子の関係を知っている者以外の全員が唖然とした顔を見せる。なお以前から関係を知っていたのか御門はクスクスとその反応を笑っていた。

 

『えええええぇぇぇぇぇぇっ!!??』

 

そして関係者各位の驚愕の声が響き渡った。

 

 

 

 

 

「んっふっふー。エンちゃんのお友達って面白いねー♪」

 

プール終了後、炎佐と恭子は二人きりで帰路についていた。ちなみに恭子はあの後里紗と未央からトップアイドル相手にも自重しないセクハラの洗礼を受けたり、美柑から「負けません!」と宣戦布告を受けたり(恭子は意味をよく分かっていなかったのか首を傾げていた)、妙にきょどった唯から「は、は、初めまして、こ、古手川唯です!」と普段の彼女とは打って変わって慌てた様子の自己紹介を受けたりしていた。

ちなみにそのほか、更衣室の方に消えたはずのリトが何故かジェットエンジンを背負って再びプールに飛び込んできたと思ったら、何故か唯やルン達に告白。また妙な騒ぎが起きていたのは別のお話である。

 

「ったく。この前リトとララにばれたと思ったらすぐさまこれかよ……」

 

「ふふー。もうこれで関係隠す理由もなくなっちゃったねー」

 

「別に霧崎恭子の従姉弟だーなんて公言する気はねえぞ。宇宙人云々もそうだがアイドルの従姉弟だなんて知られるのもめんどくせえ……むしろ、関係明かさざるを得なかった時にいたのが信頼置ける奴らだけで助かったくらいだ」

 

「はいはーい」

 

恭子と炎佐は話しながら帰路につく。

 

「……まあ、なっちまったものはしょうがない」

 

炎佐はふぅとため息をついて呟く。

 

「もしキョー姉ぇに……大切な人に何かあっても、絶対に助けるし、絶対に守る」

 

彼は決意を新たにするようにそう口に出した。その言葉を聞いた恭子は目を輝かせた後嬉しそうに微笑み、炎佐の腕に抱き付いた。炎佐もそれを拒絶する事なく受け入れる。

 

「ありがとね、エンザ」

 

恭子はにこっと、心の底から純粋で綺麗な笑顔を見せた。

 

「大スキ♡」

 

その笑顔での告白を受けた炎佐の顔が赤くなり、彼は照れくさそうに頬をかいて顔を背ける。

 

「……ふん」

 

まるで強がりでも言うように鼻を鳴らして彼は歩みを速め、しかし恭子もそれについていきながら二人は共に帰っていくのであった。




皆様、御読了ありがとうございます。これにて[ToLOVEる~氷炎の騎士~ 第一章―無印編]終了にございます。やや駆け足気味になってしまいましたがお付き合いありがとうございました。なんとか宣言通り今日までに終了できました。
もちろん[ToLOVEる~氷炎の騎士~]連載終了というわけではありません。次回より[第二章―ダークネス編]がスタートいたします。まあまず、入りのところのオリジナル部分構想から考えるとか、最近ToLOVEるの更新に集中してたからここでは他の二作(ペルソナ4とテイルズ)、あと別サイトでも連載してるものを書きたいので少々遅れるかもしれませんが……元々基本的に「思いついたら書く」スタイルなので。この流れのままもうちょっとToLOVEる更新続けるかもしれません。そこはまだ未定ですね。
一応今回で[無印編最終話]と銘打って、次回ダークネス編から再び[第一話]とカウントするようにします。ダークネス編になってからカウントずれるとなんかめんどくさいんで。
今までお付き合い、応援ありがとうございました。これからも[ToLOVEる~氷炎の騎士~]をよろしくお願いいたします。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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