ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

32 / 67
第三十一話 沈黙の島の黒猫

「ホホホホホ!! ようこそ皆さん! 我が天条院家の別荘へ!!」

 

沙姫が出迎え、リト達が立っているのは海のど真ん中に浮かぶ孤島にある高級そうな建物。沙姫が言っている通り天条院家の別荘だ。ララは目を輝かせて「わー」と小さく歓声を上げている。

今日、リトや炎佐達は沙姫から招待されて天条院家の別荘へと旅行に来ていた。

 

「沙姫様のご友人の方々ですね。よくぞいらっしゃいました」

 

「あなたは?」

 

「この屋敷を管理している執事の嵐山です。今日は皆さんのために海の幸をたくさん用意してあります。どうぞごゆっくりおくつろぎください」

 

「あ……ど、どうも。お世話になります」

「ヨロシクお願いしまーっす!」

 

挨拶をしてくる柔らかい物腰で穏やかな風貌の男性――嵐山に唯が礼儀正しく挨拶をし、その後ろからララも元気に挨拶する。

 

「サキ! 招待してくれてありがとね!」

 

「あなたには家出騒動の時お世話になりましたから。天条院家は受けた恩を忘れませんのよ」

 

ララの無邪気な笑顔での言葉に沙姫はやや照れた様子で返した後、「でもこれでチャラですからね!」と続ける。それにララも分かってるのか分かってないのかよく分からない様子で明るく「はーい!」と返す。

 

「じゃ、嵐山! 皆さんをお部屋にご案内して!」

 

「はっ、沙姫様」

 

沙姫の指示に嵐山は頷き、彼についてリト達も歩いていく。

 

「リサミオやお静ちゃんも来れたらよかったのにねー」

 

「急な話だったから残念だったね」

 

ララと春菜が話しながら、彼らはその場を去っていった。ちなみにこっそり戻ってきた招待客の一人――ルンが沙姫を口車に乗せて何か企んでいたのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

「なんか雲行きが怪しくなってきたな……」

 

「そうだね。明日辺り釣りでもしようと思ったけど、天気によっては無理かも」

 

リトは窓から、外の雲行きの変化を見ながら呟き、炎佐もそう返しながら何故か戦闘で使っている武器の手入れを行っていた。

 

「リト……炎佐……」

 

と、彼らと同室――というか男子はこの三名だけだったので議論するまでもなく押し込まれた――である猿山がベッドに腰かけた状態で口を開く。

 

「女子たちは今、大浴場にいるらしいぞ」

 

「ああ。だから俺らは夕食の後にでも――」

「そうじゃねえ!!!」

 

猿山の言葉にリトは間違えても鉢合わせしないようにと紳士的に自分達の入浴時間を決める。が、それを遮る勢いで猿山は叫び、立ち上がった。

 

「覗きに行こうぜ!!」

 

「はぁ!?」

「はぁ~」

 

突然の言葉にリトが意味分からんとばかりに声を上げ、炎佐は予想していたのかため息を漏らす。猿山は「猿山ケンイチ! 目標に飛翔する!」とか言い出して入り口に走り、リトが大慌てで彼の肩を掴み「やっぱマズイだろそれは」と諭し始める。

 

「分かってる……こいつは地獄へ続く道かもしれねえ」

 

と、猿山は案外冷静にリトの言葉を肯定。リトもホッとした様子で肩から手を離す。

 

「だがな二人とも……男ってのは追い求める生き物なんだよ。おっぱいという名の黄金郷(エルドラド)をな!」

 

しかし猿山は彼の意見を完全無視して無駄に良い表情でそう言い残す。

 

「そのために地獄に落ちるならば本望!! 行くぞ、リト!!」

 

「お、俺もか!?」

 

「行ってらー」

 

猿山はばぁんっとドアを押し開きながら言い、その最後の言葉にリトが驚愕の声を上げると炎佐は興味なさげにひらひらと手を振る。

 

「どこへ?」

「お、お風呂、皆あがったから呼びに来たんだけど……」

 

そのドアの向こうでは唯(肩には懐かれたらしいセリーヌを乗せている)がきつい目で、春菜が恐る恐るという様子で立っていた。

 

「「……」」

 

いきなりの女子登場に男子二人も固まる。特にリトは春菜に下手したら聞かれたかもしれないという事に顔面蒼白になっていた。

 

「い、いや違うんだ、リトの奴がおっぱいは男のロマンとか言って……」

 

「何ーっ!?」

 

すぐさまリトに全ての罪を擦り付けようとする猿山にリトは声を上げて猿山に掴みかかると「勝手な事言うな!」と猿山に吼えるが、その猿山は口笛をぴーぴーと吹くなどという今時見ないレベルの誤魔化し方をしていた。

 

「「ロマンなの?……結城君……」」

 

「言ってねー!!!」

 

唯はやや睨み、春菜は頬を引きつかせながらの言葉にリトは絶叫。続けて主に春菜にだろうか、弁明を始めようとする。が、その時突然パァンッという銃声が聞こえてきた。

 

「うわっ!」

「「きゃっ!」」

 

突然の銃声に怯むリト達。だが直後銃声に反応した炎佐が真剣な目つきで部屋を飛び出した。

 

「今の音、銃声? ホールの方から聞こえたみたいだけど……」

 

炎佐は冷静に状況を分析、「今の音何!?」と走ってきたララ達も連れてリト達と共にホールへと走っていく。

 

「!! あ、あれは……」

 

ホールに着いた時、リトが誰かが倒れていることに気づく。と、その時雲の切れ目からだろうか、月の光が室内へと差し込んで倒れている人を照らし出す。

 

「嵐山……さん……」

 

誰が呟いたのだろうか。だが、心臓がある部分に銃創だろう風穴を開け、血を流して倒れている嵐山氏を目の当たりにした、つまり殺人現場に遭遇した一般人達にその言葉を誰が呟いたのか確認する余裕などなかった。

 

 

 

 

 

「嵐山が……どうして、こんな事に……」

 

外ではザアアァァァ、と雨が降り注ぐ中、一番広い部屋に集められたリト達一行&沙姫達トリオ。沙姫は己の執事が殺された事を聞いてショックを受けつつも、綾が他の従業員に部屋で待機しているように伝えたという報告を聞くと彼女にありがとうとお礼を言う。

 

「大変な事になりましたわね……殺人事件なんて……」

 

沙姫は困ったように呟く。

 

「沙姫様」

 

「凜! 警察に連絡はつきましたの?」

 

凜が沙姫を呼び、沙姫は凜に警察に連絡はついたのかと尋ねる。しかし凜は静かに首を横に振った。曰く、電話やネット、あらゆる通信手段が使えなくなっている。まるでこの島が外界から遮断されたかのように。とのことだ。

 

「なんなんですかそのベタな推理ドラマみたいな状況!?」

「俺達このままこの島で過ごすのかぁ!?」

 

報告を聞いたルンと猿山が悲鳴のような声を上げる。が、その横でセリーヌは「まうー♪」と能天気な、むしろ楽しそうな声を上げていた。

 

「迎えの船はいつ来る予定なんですか?」

 

「明日の夕方ですわ……」

 

唯からの質問に沙姫は正直に答えるが、酷い大雨とそれによって荒れた海を見て「それもどうなるか」と呟く。

 

「…………そ、そうだ! ララのデダイヤルがある! それでザスティンに助けに来てもらえば――」

「いや、無理だ」

 

リトは地球外の技術であるデダイヤルで助けを求める事を思いつくが、それを遮るように入り口ドアの近くで待機していた炎佐が否定。デダイヤルの画面を向ける。それには通信圏外の文字が浮かんでいた。

 

「さっきから試していたんだがデダイヤルも使えなくなっている……ったく。鎧や武器をメンテのために出しといて助かった」

 

炎佐はそう言ってデダイヤルを閉じると外敵がいる可能性が極めて高い状況で丸腰という最悪の状況にならなかったことに安堵の息をついて鎧を着こみ始める。

 

「うーん、私のデダイヤルもだね」

 

「あたしとモモのデダイヤルもだぜ」

 

「ヘンですね……嵐の影響なんか受けるはずないんですけど」

 

デビルーク三姉妹もデダイヤルが使えない事を確認。しかしモモはそれを不審にも思っていた。するとその時窓の外に稲光が走り、直後ドオォォンという轟音が響いた。

 

「きゃっ!!」

 

「美柑!?」

 

「ご……ごめん。ちょっとびっくりしちゃって……」

 

「昔から苦手だっけな、雷……」

 

雷鳴に驚いた美柑は思わず近くにいたリトに抱き付き、リトも彼女が昔から雷が苦手だったのを思い出すが、直後彼は春菜や唯達女子が皆不安気に表情を曇らせていることに気づく。

 

「だ……大丈夫だよ皆! ここに全員でいれば安心だし……ホラ……なんたって炎佐とヤミがいるし! どんな地球人が相手だって――」

「地球人が犯人とは限りませんよ」

 

「同意見だよ」

 

リトの言葉を遮って言うのは窓の近くを陣取っているヤミ。その言葉に鎧を装着し終えたエンザも武器である刀の柄を弄びながら同意した。

 

「ど、どーゆー意味だよ、炎佐!?」

 

「この建物の通信手段だけならまだしも、地球外技術であるデダイヤルまでも使用不能……こいつが人為的であるなら犯人は異星人と考えた方がいい。つまり……」

 

エンザはそこまで言ってリトとララを見る。その視線の意味に気づいたリトも引きつった笑みを浮かべて自分を指差した。

 

「は、犯人の狙いは俺達……って事か?」

 

「確証は持てないけどね。またララの婚約者候補がリトの命を狙ってきたのか……いや、あるいはデビルークと敵対している組織がデビルーク王女であるララ達を直接狙ってきたのか……」

 

エンザは敵の狙いを読もうと考え始める。と、猿山がガタガタと震えながら「ううぅぅ」と唸り始め、彼の様子がおかしい事に気づいた春菜が「猿山くん?」と声をかける。

 

「うおおぉぉぉ! もう耐えらんねー殺人鬼のいる島なんか!! 俺は泳いででも帰るぞっ!!」

 

「ま、待て猿山! この展開でそれ死亡フラグ――」

 

我慢の限界とばかりにそう叫んで彼はドアの方に走り、リトが彼を落ち着かせようとするものの猿山はリトを突き飛ばしてドアを開け部屋を出て行った。なお突き飛ばされたリトは転んだ拍子で何故かルンのパンツをずり落とすという行為をしており、照れつつもまんざらではないルンに慌てたり唯に怒られたりしていた。

 

「うわぁぁぁぁーっ!!!」

 

「! 猿山!?」

 

その時部屋の外から悲鳴が聞こえ、リトは親友の悲鳴に「まさかフラグ成立!?」と叫びながら部屋を飛び出す。

 

「い、今、向こうに黒い影が……」

 

そこには腰を抜かして座り込んでいる猿山の姿があり、彼は闇に包まれた廊下の先を見ながらそう言う。リトは彼の指差す方を見て、何か手がかりになるかもしれないと思い歩き出す。

 

「待った」

 

が、エンザがそれを制する。

 

「私達が見てきます」

「プリンセス、皆をよろしく。皆は俺達が戻ってくるまで誰も入れないように、可能性は低いけど、これが囮って可能性もあるしね」

 

「オッケー♪」

「任せろ! 怪しい奴がきたらソッコーぶっ倒してやるぜ!」

「降りかかる火の粉は払う必要がありますしね……ですが、お二人もお気をつけて」

 

ヤミとエンザが探索に行くと言い、エンザが本来護衛対象に対する指示としてはおかしいがプリンセストリオは了解しており、二人は廊下を歩いていった。

コツン、コツン、と硬質的な足音が廊下に響く。と、ヤミが足を止め僅かな後にエンザも足を止める。コツン、と硬質的な足音が消え、場が静寂に包まれる。

 

「やはり……あなたでしたか」

 

ヤミが闇の中に向けて声を発する。

 

「こんな惑星(ほし)で……ドクター・ティアーユの生体兵器に出くわすとはな……」

 

闇の中から返す声。それと共に闇の中から彼女らに視認できる距離に一人の青年が姿を現し、外からの稲光がその姿を照らし出す。その瞬間ヤミの顔が引き締まり、エンザの眉が心なしか吊り上がる。

 

「私も……またあなたの顔を見るとは思いませんでした」

「久しぶりだな、殺し屋“クロ”」

 

「ふん、ミーネとセシルの息子か。お前までここにいるとはな……」

 

ヤミとエンザの言葉を聞き、青年――クロは涼やかな流し目を閉じてエンザにそう言葉を向ける。

 

「あん? つーかテメエ、こんな辺境の星に何の用事だアァ?」

 

いつもの冷静さはどこへやら、難癖つけてくるチンピラみたいに首を傾けながら完全にガンをつける形になっているエンザ。それにクロははぁとため息をついた。

 

「前に会った時もそうだが、お前は何故そんな妙な絡み方をしてくる?」

 

「テメエはなんか気に食わねえ……テメエ俺の姉ちゃんに近づいたら殺すぞ?」

 

「お前に姉などいたのか? 興味もない」

 

完全にチンピラみたいにガンをつけるエンザにクロは興味なさげに返す。

 

「エンザ。話は呑み込めませんが話が進まないので黙っていてください」

 

最終的にはなんとヤミがツッコミを入れて抑える始末。クロが彼女をちらりと見た。

 

「お前の事は……金色の闇……とでも呼べばいいのか?」

 

「ヤミちゃんでもいいですよ?」

 

「全力で遠慮する」

 

珍しいヤミのボケにクロは乗っからず、目を閉じると彼らに背を向けて静かな声を出す。

 

「金色の闇、氷炎のエンザ。一つ忠告しておくぜ……俺の仕事の邪魔をするな。でないと……」

 

そこまで言うと、彼は振り向いて涼やかな目に殺気を宿らせ、言葉にせずともその意味を理解したヤミとエンザも殺気をもってお返しする。

 

「こっちも言っておくぜ、黒猫(ブラックキャット)……お前の仕事が何かは知らない。だが――」

「――ここにいる私の友人達に手を出したら……許しませんから」

 

「……ともだち?」

 

エンザとヤミの言葉を聞いたクロは、その内ヤミの言葉に反応する。

 

「はい……あ、一人は“標的(ターゲット)”でした。訂正します」

 

律儀に一人だけ友人ではなく標的だと訂正するヤミに、クロは口元に笑みを浮かばせる。次の瞬間彼は懐から黒い装飾銃を引き抜いて振り返り様に引き金を引く。ドウッドウッと二発の銃声が響き、その光弾がエンザとヤミを狙うが、エンザは横に飛びながら銃を抜き、ヤミは宙を華麗に舞ってかわし着地しながら髪を刃に変身(トランス)させてクロのいた方に向ける。

 

「……逃げられたか」

 

「本当に……私が狙いではないようですね」

 

銃を両手で構えて辺りに注意を向けながらエンザが呟き、ヤミは敵の狙いが自分である可能性を考えていたのかそう呟く。

 

「あいつは仕事の邪魔をするなと言っていたな……逆に言えば、あいつの目的はまだ果たせてないという事か」

 

「……戻りましょう」

 

エンザはクロの言葉から目的を推測しようとするが、その横に立つヤミはそうとだけ言って彼に背を向けると部屋の方に歩いていき、エンザもその後に続く。

 

「……」

 

大雨が降る外、それが見える窓の外から一匹の黒猫が三人を見ていたが、それに気づいたものは誰もいなかった。

 

「炎佐! ヤミ! さっき銃声が聞こえたけど大丈夫だったのか?」

 

「はい」

「犯人の正体が分かった」

 

部屋に戻ると一番にリトが二人を心配し、ヤミはリトの質問に答え、エンザが話を進める。その言葉を聞いたリトは「え!?」と声を出す。

 

「私と同じ殺し屋……通称“クロ”」

 

「銀河でただ一人、精神エネルギーを弾丸に変えて撃つ“黒い装飾銃”を使いこなすフリーの殺し屋だ。何者にも縛られる事はなく、狙われた相手は死という不吉から逃れられない。故に付けられた異名は黒猫(ブラックキャット)

 

ヤミとエンザは静かに話す。と、春菜が殺し屋という言葉に怯え、ルンは明るい声で「私怖ぁい~」と言いながらあざとくリトの腕に抱き付く。

 

「な……なんで、そんな人が嵐山さんを……」

 

「それは、まだ分からない」

「ただ……クロはまだ目的を果たしていないようです。今は……下手に動かず相手の出方を待つのが得策でしょうね」

 

唯の言葉にエンザが首を横に振るとヤミもそう言う。

それから数時間部屋から出ずの籠城戦になっていたが、いつ殺し屋が襲ってくるか分からず、逃げ場もない。部屋から出る事さえ躊躇われる状況に一般地球人であるリトや春菜達は消耗。ナナ達でさえ緊張からくる疲れが見えてきており、最後には猿山が半ば発狂状態で「エンザやララちゃん、ヤミちゃんがいるなら大丈夫だよなぁー!?」とリトに掴みかかっていた。

 

「たっ、た、た、た、大変ですわーっ!!!」

 

と、そこに突然沙姫、凜、綾、そしてルンが飛び込んでくる。

 

「沙姫? どうしたの、そんなに慌てて」

 

「今……従業員から連絡が……エントランスにそのままにしていた嵐山さんの遺体が消えたそうです……血の跡も残さず」

 

「え!?」

 

「それ……どういうこと!?」

 

慌てている沙姫にララがどうしたのかと尋ねると凜が説明。人の遺体が消えた、それも血の跡も残していないという常識離れした事にリトと唯が驚きの声を上げる。その時部屋の電気がいきなり消えた。

 

「キャッ!!」

「て、停電!?」

「どうして急に……」

 

春菜が悲鳴を上げ、モモが声を上げる。唯も動揺を見せつつ何か気づいた様子を見せるとリトから距離を取った。

 

「どうした、古手川?」

 

「あ……あなたがいつものノリでコケるんじゃないかと思って……」

 

「なんだそりゃ!?」

 

唯の不審な動きを不思議に思うリトは唯の言い分にツッコミを入れる。と、その時唯の背中に「ひぃっ!」と悲鳴を上げた猿山が直撃。唯は前にいたリトを巻き込んで倒れ、春菜が座っているソファの背中に激突。ガツッという音に春菜がびくっと怯えた反応を見せた。

 

「へっ?」

 

「!? ちょ……ち、違うのよ! 今のは猿山君がぶつかってきたんだから!」

 

状況を理解できていないリトに対し顔を真っ赤にして叫ぶ唯。彼女は猿山に「そうよね!?」と証言を求めるが、その猿山を目の限界以上に見開いて震える指を前方に向けながら「あ、あれ……」と震える声を出していた。その指の先、窓のある方向には黒いコートを身にまとう黒髪の男性が立っていた。

 

「クロ!」

「!! あれが!」

「皆さん、下がってください!」

 

エンザが叫び、リトが声を上げるとモモが戦う力を持たない春菜達に下がるよう言う。

 

「まうまうー!」

 

「えっ?」

 

が、その時そんな無邪気な声が聞こえたと思うとなんとセリーヌがクロに抱き付いた。

 

「セリーヌ何やってんのー!?」

 

「通訳しますと……“わーい、お客さんまうー”と言ってますね」

 

「客じゃねー!!」

 

モモの通訳を聞いたリトが叫ぶ。が、クロはセリーヌに構うことなく装飾銃を取り出すとそれを猿山を守るために前に立っていたララへと向けた。

 

「!」

「ひっ、ララちゃん!」

 

「不吉を届けに来たぜ」

 

猿山が怯えたようにララの後ろに隠れ、クロは殺気を見せながらそう言う。

 

(やっぱ狙いはララか!……てゆーかセリーヌ空気読めー!!)

 

リトはクロの狙いに気づき、その後相手を刺激しかねないセリーヌに心中で叫ぶ。と、クロはセリーヌを掴むとそのままぽいっと投げ、モモが慌てて彼女を受け止める。

 

「覚悟を決めるんだな」

 

クロがそう言い、ララの方に向けられた銃の引き金に置いた指が動き出す。

 

「やめろっ!!」

 

「結城君!」

 

「邪魔だ、どけ」

 

「い……いやだっ!」

 

その時リトがララを庇うように前に出、唯の悲鳴とクロの冷淡な声が重なる。が、リトは顔を青くして震えながらも彼の言葉を拒否した。

 

「結城君とララさんを撃つなら、私を撃って!!」

 

と、さらに二人を庇うように春菜が彼らの前に出た。するとクロの動きが一瞬硬直、その隙に彼の背後をヤミが取った。

 

「ヤミさん!」

 

美柑が歓声を上げ、ヤミは髪を拳型に変身(トランス)するとクロ目掛けて拳を放つ。が、その拳は微動だにしないクロの横をすり抜け、春菜、リト、ララの後ろにいた猿山に直撃した。

 

「ぐげっ!」

 

「さ、猿山!? なんで!?」

 

拳に殴り飛ばされ、壁に叩きつけられる猿山と、いきなりヤミが猿山を狙った事に困惑するリト。

 

「動くな」

 

「炎佐!?」

 

と、さらにエンザが赤い刃の刀を猿山に向ける。

 

「……クロ。こいつがお前の真の標的(ターゲット)だったってわけか?」

 

『え?』

 

エンザの言葉にリト達一般人の声が重なる。と、突然猿山の身体にブレが走った。

 

「あっ」

 

直後猿山がいた場所に現れたのは人型のマシンに乗り込んだ、球体状の身体に触角と手足の生えたような生物だった。

 

「え!?」

「な、なんですの!?」

 

「万の姿を持つ変装の達人、カーメロン。ある銀河マフィアから機密情報を盗み、逃走中だった男だ」

 

唯と沙姫が訳の分からぬ声を上げるとクロがそう説明する。

 

「それが誰も見たことがない本当の姿か……俺に撃たれたお前は光学迷彩と仮死装置によって死んだように見せかけ、俺をやり過ごそうとしたわけだ。だが……俺には匂いで分かる」

 

「血の匂い。たしかにあの死体からは血の匂いがしなかった」

 

「初めは天条院沙姫によるイタズラの線を考えましたが、クロの出現によりその可能性はなくなりました」

 

宇宙人賞金稼ぎ&暗殺者三人は淡々とまるで推理するように話を進める。

 

「あなたは死んだふりをしてクロをやり過ごし、部屋を抜け出した猿山ケンイチと入れ替わり――」

 

ヤミはすっと右手を挙げる。

 

「――私やエンザを使ってクロを倒そうとした。そうですね?」

 

そしてびしっとカーメロンを指差し、台詞を決める。

 

「……ヤミさん、最近推理もののマンガとか読んだでしょ?」

 

「よく分かりましたね、美柑」

 

ポーズを決めるヤミに美柑がツッコミを入れ、ヤミもこくりと頷いた。

 

「くっ……」

 

「動くな、動いたら消し炭にする。それとも凍死体の方がお好みか?」

 

往生際悪く逃げようとするカーメロンに刀を向けるエンザ。

 

「ちくしょー!!!」

 

と、カーメロンは一か八かというように叫び、突然カーメロンの乗るマシンから煙が噴き出し、エンザは咄嗟に距離を取る。

 

「くそっ、見えねー!」

 

ナナが煙に混乱していると、突然彼女の前にもう一人ナナが姿を現した。

 

「!!」

「ナナが二人!?」

 

春菜も、実の姉であるララすらも驚いていた。

 

(ククク……どちらが本物か分かるまい!! クロ……お前は無関係の人間を巻き込まないのがポリシーだと聞く。これでは迂闊に手が出せまい)

 

ナナに変装したカーメロンはそう心の中で呟きながらこっそりと周りを見る。

 

(ん? なんだお前ら、その顔)

 

周りの人間、リトや唯はぽかーんとした顔を見せている。

 

「はっ!?」

 

そして直後彼も気づく。ナナと明らかに違う、その発育してふるんと揺れている胸に。

 

「お、おかしいぞ、ちゃんとスキャンして化けたのに……!!」

 

「あたしをバカにしてんな……」

 

「ひぃっ!?」

 

万の姿を持つ変装の達人という異名を持つにしては明らか過ぎる凡ミスに張本人も焦るが、自らのコンプレックスを思い切り刺激されたナナからゴゴゴゴゴという怒気が発されているのに気づくと悲鳴を上げる。

 

「ペタンコで悪かったなー!!!」

 

「ギャース!」

 

「やはりボディに損傷を受けてシステムが不調のようだな」

 

怒りのナナにタコ殴りにされているカーメロンを見つつ、クロは静かに語る。

 

「だから停電により暗闇になった時、突然の光の変化に対応できず像がぶれた。ほんの一瞬だったが偽物の判別には充分だったぜ」

 

語り、クロは装飾銃をもう一度構える。

 

「これで終わりだ」

 

その銃口がカーメロンへと向けられた。

 

「待ってください」

 

が、その銃をヤミが押さえる。

 

「邪魔をするな、と言ったはずだ」

 

「そのつもりはありませんよ。ただ……」

 

クロの威圧しながらの言葉にヤミはそう言い、ちらりと周りを見る。

 

「トモダチに……これ以上血にまみれた私やあなたの世界を見せたくない」

 

「……」

 

その言葉にクロはかつて自分が助けた頃の、冷たい兵器としての彼女を一瞬思い出して驚愕を露わにする。

 

「彼になら別にいいんですが。友達ではなく標的(ターゲット)ですし」

 

「ええ!?」

 

「悪いが」

 

ヤミの言葉にリトが驚いていると、クロは驚愕を見せていた表情を引き締めて彼女の願いを否定する。

 

「そういうわけには――」

「まうまうー!」

 

が、その言葉が終わる前に再びセリーヌが彼の顔に張りつくように抱き付いた。

 

「セリーヌまたー!」

 

「“みんな仲良くまうー”と言ってます」

 

リトが叫び、モモが苦笑しながら通訳するとリトは「もー!」と叫んでセリーヌを捕まえる。

 

「今大事な話してんの!! 離れなさいっ!」

 

そう言って何故か全く無抵抗のクロからセリーヌを引きはがす。

 

「わっ」

 

と、セリーヌがララの髪をかすり、その勢いでバッジ状態になっていたペケがララの髪から外れる。

 

「わわっ」

 

と、ララの衣服が光の粒子となって消滅。全裸になったララを見たクロの顔が赤く染まっていく。

 

「わ、ととっ」

 

セリーヌを引きはがした時の勢いでふらついたリトは最終的にセリーヌを手放してしまい、

 

「ひゃっ!?」

 

何故かララの方に倒れ込むと彼女の胸を後ろからわしづかみにした。

 

「ゆ……結城君、またー!!」

 

「ごっ、ごめーん!!」

 

顔を真っ赤にした唯が怒鳴り、リトは慌てて謝る。クロの顔がかぁぁ、と擬音がつくほどに赤くなった。

 

「なんなんだ、こいつらは……」

 

フラリ、とふらついて吐き出すようにクロは呟く。

 

「調子が狂う……」

 

「……同感です」

 

彼のコメントにヤミも素直に微笑みながら頷いたのであった。

 

それから一夜明け、嵐も止んだ快晴の空の下。エンザ、ヤミ、クロは屋敷の屋根の上で一緒にいた。ちなみにカーメロンが変装していた嵐山と猿山は二人とも物置に縛られていたらしく、無事に救出されていた。

 

「んじゃ、カーメロンは俺達の方で銀河警察に引き渡しておくが。それでいいな?」

 

「仕事をする気分じゃなくなった……今回は貸しにしておくぜ、金色の闇」

 

炎佐の確認に対しクロは静かに返し、ヤミに向けてそう言うと彼らに背を向け、直後姿を消す。

 

「ふう。一時はどうなる事かと思ったけど、とにかく全員無事でよかった。さて、僕達も戻ろうか」

 

そう言って炎佐は屋根から飛び降りる。ヤミもそっちを見た後、ふと空を見上げる。青色が広がり、雲一つない綺麗な青空。それを見たヤミはふと微笑を浮かべ、彼女はその笑みを消してから屋根を飛び降りた。

 

「……」

 

ヤミが飛び降りた数瞬の後、屋根のどこかに隠れていたのかどこからとともなく一匹の黒猫が姿を現す。

 

「ふふ、ふふふ……」

 

と、突然黒猫が笑い始め、黒猫が黒い光に包まれた。と思うとそこに一人の少女が立ち、闇のように黒い長髪を髪になびかせる。色黒の肌に真っ黒なキャミソールという黒ずくめの少女だ。

 

「ともだち、か……金色の闇よ……」

 

少女は屋根の上から、炎佐と共にリト達の待つ屋敷内に戻っていくヤミを見下ろし、クスクスと笑い声を漏らしていた。




ちょいと都合によりしばらくToLOVEる更新優先になりそうです。少なくとも無印分はとっとと終わらせないとな……つっても無印ストーリーで炎佐を絡ませられそうなのはこれ除いてあと二話くらいですけども。
今回はクロ登場。でもって炎佐は彼に絡むとチンピラになります。恭子を取られそうな気がして怖いとかいう理由で。(笑)……もしも万が一原作の方にもクロが再登場して恭子が一目惚れなんて展開になったら俺大爆笑する自信があるわ。というかそんな展開があったらエンザ(バーストモード&パワードスーツ装着状態)VSクロの決闘(むしろ殺し合い)が間違いなく起きる。
クロについてはToLOVEる原作ではなかった、BLACKCATでの異名、黒猫(ブラックキャット)及びその由来とか色々オリジナルで付け加えました……この後原作の方で矛盾が起きない事を祈ろう。
訳あって目標10月までに、というか来週までに最低無印編終了を目標に立てましたので。次回も早目の投稿を目指します。あ、もちろん無印編でこの作品を終了するつもりはありません。きちんとダークネス編も行いますからご心配なく……ちょっと個人的都合とだけ申し上げておきます。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。