「いくぞ、ザスティン!!! エンザ、いざ参る!!!」
エンザの叫び声と同時に二人は同時に地面を蹴り飛び出す。そしてエンザの剣とザスティンの剣がぶつかりあって澄んだ金属音にも似た独特の音を響かせる。そして互いに一歩も引かない鍔迫り合いが始まり、ザスティンはエンザの顔を間近で視認する。
「炎の剣にララ様が発明した簡易ペケバッジの試作品……やはり――」
「悪いが今のオレは
ザスティンの言葉に対しエンザは力強く叫んで剣を振るい、ザスティンを吹き飛ばす。
「そして!!」
エンザが叫ぶと同時に彼の身体から熱が発され始め、特に顔の一本傷から放熱されているような湯気が出る。
「オレはリトの親友であり、親友を傷つけられそうになったのは許せん!! ザスティン、貴様を焼き尽くす!!!」
「くっ……」
爆発的な熱量の増加、それはエンザの周囲に陽炎が立ち込めるほどであり彼の足元のコンクリートが僅かに溶けているような錯覚すら思わせた。
「はぁっ!!」
ザスティンは一瞬でエンザに肉薄し、剣を振るう。がエンザは軽くその剣を打ち上げて防ぐとそのまま自分の剣を左に持っていく、と同時に剣を炎が包んだ。
「せやあっ!!!」
叫びと共に横一閃、と剣の軌跡を炎が走りザスティンは咄嗟に上空にジャンプしてかわしてそのままとんぼ返りに回転し着地する。と同時に脇を締めて腰を捻り、剣を両手で握りしめると左下から右上へと剣を振り上げた。と同時に剣から放たれた衝撃波がエンザに向かっていく。
「くっ!?」
エンザは素早く剣を振りあげるように振るって衝撃波を剣で払いのける。がその直後突進していたザスティンが刃の腹目掛けて剣を一閃し、エンザの剣を弾き飛ばす。
「もらった!」
「甘い!!」
流石に殺す気はないのか柄でエンザの頭を殴打しようとするザスティン。しかしエンザは素早くザスティンの腕を自分の右腕でクロスさせるように止め、そこに右足で蹴りを叩き込みその蹴りがザスティンにぶつかると同時に爆発が発生、彼を思いきり吹っ飛ばす。
「くぅっ!」
「やっぱデビルーク一の剣士であるお前に剣術じゃ敵わないか……だがオレの技は剣だけじゃないんでね!」
着地してなお勢いが止まらず、僅かに地面を滑っているザスティンを見ながらエンザはそう呟き、直後彼がザスティンに右手を向けるとザスティン目掛けて火炎が一直線に突き進んでいった。その規模はさっきリトがかわしたものとは比べものにもならず、ザスティンはジャンプをしてぎりぎりその炎をかわしながら剣を振り上げた。
「しっ!」
「なぐふっ!?」
しかしエンザはそれを予期していたかのごとくザスティンの前に瞬時に現れるとがら空きの胴目掛けて回し蹴りを叩き込みザスティンを吹っ飛ばす。さらにエンザが空中を蹴ると同時にエンザの足からまるでブースターのごとく炎が吹き出し、まだ体勢を立て直せていないザスティンに突進する。
「はぁっ!」
「しっ!」
そしてザスティンが咄嗟に横に一閃した剣とエンザの回し蹴りがぶつかり合い、直後エンザは鎧の隙間からもう一本の剣の柄を取り出し、右手に握るとさっきと同じように炎を纏った刃を形成する。そして蹴りを叩き込んだ右足を地面に下ろすとそのまま踏み込みに入り、剣を両手で握りしめて思い切り振り下ろす。ゴォウッという音が辺りに響き、爆発が前面を覆い炎が剣の軌跡周辺を焼いた。
「っ! やはり、少し危険だが……」
しかしザスティンはマントで炎から身を守りながら素早くサイドステップを踏み、エンザの左側へと回る。
「接近戦に持ち込めば爆発は使えまい!」
ザスティンはそう叫び、距離を取ることは一切考えていない重い踏み込みと連続斬りでエンザを斬りつけ、エンザも必死の形相で剣を動かしどうにかザスティンの剣を防ぐがどんどん押されていく。
「もらった!」
ザスティンがそう叫んで剣を振り上げ、ついにエンザの二本目の剣が弾かれ宙を舞う。それに対しエンザは目を瞑っており、ザスティンはふっと笑う。
「潔く諦めたか。だが安心しろ、殺しはしない!」
ザスティンはそう叫んで剣の柄をエンザの頭に向けて剣を振り上げる。その時エンザの口の端が持ち上がった。
「ザスティン」
「?」
「……ボクがどういう異星人なのか、忘れた?」
「……っ!?」
そう言いながらザスティンを見上げるエンザ。その口元に浮かぶ冷たい笑みと両目に光る氷のように透き通った青い瞳を見たザスティンの顔がまるで凍り付くように固まり、直後エンザが左手をザスティン向けて伸ばし彼は咄嗟に後ろに飛ぶが地面を蹴った右足が僅かにその左手に触れる。と同時にエンザの触れた部分から放射線状に足が凍り付いていった。
「速いねぇ……けど」
エンザは冷たい笑みを浮かべながら呟き、左の手のひらを上空に向けてかざす。とパキパキパキという音と共に左手に氷でできた針が数本握られた。
「機動力を落とすのはボクの氷術の得意技だよ」
そう言うと同時に放たれる氷の針、ザスティンは剣を連続で振って針を打ち砕くがその内の一本を逃してしまい、その針が鎧に刺さると同時に鎧が一気に凍り付いてザスティンの動きを鈍らせる。その瞬間凍り付いた右足に限界がきたのか彼はがくんと膝をつき、それを見たエンザがにやりと笑ったその時、彼の両方の瞳が赤く変色した。
「もらった!!!」
踏み出すと同時に足の裏を爆発させ、一気に加速しながら炎を纏った右拳を振りかぶる。目の前で膝をついているザスティンは回避できそうにない。
「やめろ!!!」
とザスティンの前に何者かが立ちはだかり、エンザは目を見開く。ザスティンを両手を広げて庇っている少年、それはリトだ。
「ぐっ!?」
このままではリトに拳が当たる。瞬時にそれを直感したエンザは右腕に左手を押し当ててまるで祈るように目を閉じ、ほんの直後エンザの左手から冷気が出て熱せられている右手を冷却。
「「へぶっ!!」」
しかし突進の勢いは止まらずエンザはリトに思いっきりタックル、二人は吹っ飛んで絡み合うようにごろごろと道路を転がった。そして道の脇に置かれているゴミ捨て場のポリバケツに激突してようやく二人は止まる。
「あたた……」
「いっつー……あ、リト、大丈夫か!? どこか火傷してないかしもやけになってないか!?」
「う、うわっ!? ちょっ、大丈夫だって!」
リトは頭を押さえながら起き上がり、続けて起き上がった炎佐はリトを見ると慌てたように顔や両手などとにかく身体が露出している場所を赤と青のオッドアイで確かめ始め、リトはわたわたとなりながらも大丈夫だと叫ぶ。
「そっか……よかった」
リトが大丈夫だと聞いた炎佐は安心したように笑みを浮かべる。とその瞬間炎佐の身体がぐらついた。
「あ、やべ……」
「お、おい炎佐!?」
身体がふらついた炎佐の手をリトが咄嗟に握るが炎佐の身体は脱力し糸が切れた人形のように地面に倒れこんだ。
「え、炎佐!? 炎佐!?」
リトが必死に呼びかける、が炎佐はそれに返す余力もなく目の前が真っ暗になる感覚を味わいながら気を失った。
「……っ……」
炎佐は僅かに唸り声を漏らしてから置き上がり、辺りをきょろきょろと見回す。見慣れた内装の、一般高校生らしいと自分では思っていると自己評価している部屋。炎佐の部屋だ。そのベッドに彼は寝かされており、そのベッド脇ではリトがベッドに突っ伏して眠っていた。
(……リトが運んだのか? あるいはザスティン……あれ? ってかザスティン、氷溶かせたのか?……)
「んぅ……」
炎佐は自分の今の状況を分析しながらそんな事を考える、とベッドに突っ伏して眠っていたリトが身じろぎを一つした後目を開け、ぼーっとした目で炎佐を見る。と彼の顔がぱぁっと輝いた。
「炎佐、よかった。目が覚めたんだな」
「ああ……」
リトは心底安心したように微笑みながらそう言い、炎佐は曖昧に頷いた後自分の身体を見る。それは気絶する前まで着用していた鎧ではなく一般的なシャツとパンツになっていた。
「あれ?……ねえ、バッジは……」
「ああ、あの変なバッジか? 外れちまったら鎧みたいなのも消えちまってさ。とりあえずお前が持ってた剣の柄みたいなのと一緒にそこの箱に放り込んだけど……悪かったか?」
炎佐の問いにリトは部屋の隅っこに配置されている100均で売っていそうな箱を指差しながら尋ね、それに炎佐は一つ頷く。
「ああ。いつもあそこに片付けてるからさ……サンキュ」
「おう……ところでさ」
リトは炎佐の返答に笑みを見せて返した後神妙な表情を見せる。
「お前、一体――」
「リトー! エンザ目が覚めたー?」
彼の言葉を遮る勢いで突然部屋のドアが遠慮なく開き、部屋にララが入ってくる。とその顔を見た炎佐は驚いたように飛び起きるとベッドの上で彼女に片膝をついた。
「お、お久しぶりですプリンセス・ララ! このような格好で大変申し訳ありません!」
「あ~も~。別にいいってばー」
片膝をつき頭を垂れてララに挨拶する炎佐とからからと快活に笑いながら彼にそう言うララ。その光景にリトはぱちくりと目をしばたかせた。
「ララ、炎佐と知り合いなのか?」
「え? リト知らないの? エンザってね――」
「プリンセス・ララ!」
リトの問いかけにララがきょとんとした表情でそう言おうとした瞬間炎佐は彼女の言葉を遮り、顔を上げる。
「申し訳ありません。リトには今から説明いたしますゆえプリンセスは一度席を外していただけますか?」
「……うん、分かった」
炎佐の言葉を受けたララはシリアスな雰囲気を感じ取ったのか頷くと部屋を出ていき、静かにドアも閉める。それを見送った炎佐はふぅと息を吐いて座り直し、リトはさっきララが出ていった扉と炎佐を交互に見る。
「で、でさ炎佐、炎佐って一体……何者なんだ? ララと知り合いみたいだし……」
「ああ……」
リトの言葉に炎佐は一つ声を漏らした後ふふっとどこか自嘲気に笑った。
「プリンセス……ララが宇宙人だってのは聞いてるかな?……僕もそうなんだよ」
突然の告白、それにリトが目をしばたかせていると炎佐は右手の手のひらを上に向けて少し念じる。と右手のひらからライターから発されたかのように小さな炎が現れてチロチロと揺れ始めた。
「うおっ!?」
「ララはデビルーク星っていう星の第一王女、ってのは聞いてるかな? 僕は炎や熱を操るのを得意とするフレイム星人と、それと真逆の氷や冷気を操るのを得意とするブリザド星人のハーフ。その二つの特性である炎と氷を操る力を受け継いでるんだ」
突然何もない場所から炎が出てきたことにリトが驚くと炎佐は自身の境遇を説明しながら炎を消し、今度は左手のひらを上に向けてまた少し念じ、そう思うと左手のひらに氷が現れる。それから炎佐は氷を左手で揉み潰してからまた口を開いた。
「僕は元々父さんと一緒に宇宙で賞金稼ぎや傭兵の真似事をしててね。ララの家、デビルーク王家はちょっとしたお得意様みたいなものかな? ララやその妹君の遊び相手もたまにやらされてたよ。まあだけどそんな殺伐とした生活が嫌になっちゃってね、地球で従姉弟が暮らしてるっていうからそれを頼るように地球に来たってわけ。ま、結局姉ちゃんとは別の高校に通う羽目になっちゃったけど……」
炎佐はすらすらと言葉を並べていく。
「ああ、地球で名乗ってる氷崎炎佐ってのも偽名なんだ。まあ炎佐は本名であるエンザをもじったんだけどね、日本では炎を意味する言葉をエンって読むからありがたかった。上手く名づけたって自賛してるよ」
「炎佐……」
「あ、この事は内緒にしてもらえれば嬉しいかな? 宇宙人って地球じゃまだ公式に認められてないでしょ? 流石に宇宙人の生態を調べたい研究者に追い掛け回されるのはごめんだからさ。姉ちゃんにも迷惑かかるし」
「炎佐!!!」
炎佐が並べ立てていく言葉をリトが必死に叫んで強引に止めさせる。
「どうしたんだよ、炎佐? そんな焦ったように……まるで俺の言葉が聞きたくないみたいにさ……」
リトは心の底から炎佐を心配しているように炎佐に問いかけており、それに対し炎佐はまた自嘲するように笑った。
「怖いからだよ」
「え?」
炎佐はそう言いながら小刻みに震え、自嘲の笑みを崩さずにリトを見る。
「僕は……俺は宇宙人だ。地球人のリトとは身体の作りも違うしリトが持ってない力を持ってるからさ……俺はリトと友達でいたい……だけどリトが俺を拒絶したらって思うと、怖くてしょうがないんだ……」
炎佐は絞り出すようにそんな言葉を漏らしながら身体を小刻みに震わせて目を閉じる、その目の端からは涙が流れていた。すると彼の手を暖かいものが包み込む。
「大丈夫だよ」
「!?」
彼の耳に届く優しい声。それに炎佐は驚いたように目を開ける、とリトは炎佐の両手を自身の両手で包み込みながら炎佐に優しい微笑みを見せた。
「俺が炎佐を拒絶するはずないだろ? 俺達友達じゃないか」
「リト……でも俺は……」
「宇宙人だろうとなんだろうと炎佐は炎佐だ。それに炎佐は悪い奴じゃないって分かるよ……あの時、俺の心配してくれたじゃん」
リトはさっきの戦いの中でのエンザタックル&絡み合っての転がりあいの後を思い出しながらそう言う。
「それにさ、炎佐がララの知り合いの宇宙人ってならむしろ助かるよ。あの後また色々あってさー、ララが俺の家で暮らすのをあのザスティンってやつ許しちまって、これからも助けてくれね? あと愚痴とか聞いてくれりゃありがたいんだけど……」
それからリトは困ったように笑いながら炎佐にお願いしており、それを聞いた炎佐はくすくすと笑う。
「やっぱり、地球に来てよかった」
「え? なんで?」
「だってさ……」
炎佐の言葉にリトは驚いたようにそう漏らし、炎佐は目から涙を流しながら嬉しそうに微笑んだ。
「……リトに会えた」