ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二十八話 バレンタインデー

「なぁリト、炎佐。もうすぐバレンタインだよなぁ。俺、もうドキドキしちゃってさぁ」

 

「「ドキドキ?」」

 

彩南高。休み時間にリト、炎佐、猿山が駄弁っており、猿山はバレンタインデーを話題に出す。

 

「そう……もしかしたら、リコちゃんが……」

 

猿山が締まりのない表情で自分の妄想を話し始める。シチュエーションは下校途中、一人帰っている猿山に恥ずかしそうに話しかけるリコ。もじもじとしながら彼女は猿山にチョコを手渡す。それを受け取りながら猿山はお礼を言い、でも自分はチョコよりもリコの方が欲しい。と告白、リコもそれを聞いて嬉しそうに頬を綻ばせ……

 

「なーんて事になったら!!」

 

(お前の脳内で俺はそんな事になってんのか……)

 

ムハー、と興奮しながら叫ぶ猿山。その光景にリコの正体であるリトは顔を青くする。

 

「ん? どうしたの、リト?」

 

「あ、いやいやなんでもねえよ!」

 

炎佐がリトの様子がおかしいのに気づくが彼は慌てて誤魔化す。

 

「まぁ、そこまでゼータクは言わねえけど……女の子からチョコ貰えると義理でもなんでも嬉しいよなー」

 

「そうだなー」

「そうなの?」

 

猿山の言葉にリトが同意、炎佐はイマイチピンと来ないのか首を傾げる。

 

「その点いいよな、リトと炎佐は」

 

「え?」

「何が?」

 

と、猿山が嫉妬するような視線をリトと炎佐に向け、二人が首を傾げると猿山は突如二人を睨みつけた。

 

「少なくともリトはララちゃんと美柑ちゃん! 炎佐はあの姉ちゃんから貰えるだろーが!!」

 

怒鳴った後、「フン、テメーらなんか味方じゃねーや!」と拗ねたように顔を逸らす猿山。リトも困った様子で「急に怒るなよー」と漏らし、炎佐も苦笑していた。

 

それから翌日。炎佐は自転車をこいで学校への道を通っていた。

 

「お、炎佐!」

 

「リト!」

 

炎佐とリトが合流。リトが声をかけ、炎佐もリトの隣まで走ると自転車を止めて降りる。

 

「すぐ会えて良かったぜ」

 

リトはそう言って荷物の中から一つの箱を取り出し、炎佐に差し出す。

 

「これ、貰ってくれ」

 

「……ごめん、リト。気持ちは嬉しいんだけど……僕にそういう趣味は……」

 

「……ちげーよ俺にもねーよ! そうじゃなくって、美柑からいつものお礼だっつーの!」

 

リトが差し出してきた箱の中身を予想した炎佐は首を横に振って断ろうとするが、彼の言葉から一拍置いて意味を理解したリトは顔を真っ赤にして怒り、自分ではなく美柑からの贈り物だと力説する。

 

「あ、美柑ちゃんからなの? うん、ありがとうって伝えておいて」

 

「お、おう……」

 

美柑からのプレゼントだと知った炎佐はすぐに箱を受け取って荷物に入れ、彼から美柑宛ての伝言を聞いたリトも微妙な顔を見せながら頷く。そのまま二人は一緒に学校へと向かい、教室へと入る。

 

「よぉリト! 炎佐!」

 

「あぁサル、おはよ」

「どうしたんだよ。朝からテンション高いなー」

 

「あったりめーだろ!!」

 

テンション高く挨拶する猿山に炎佐が普段通りに挨拶し、リトが朝っぱらからのハイテンションを指摘。それに猿山はぐっとサムズアップを見せた。

 

「みんな見てみ! 今日はどいつもこいつもバレンタインのチョコ貰えるかどうかでギラギラしてんだよ!」

 

猿山が言い、リトと炎佐は教室内を見回す。確かに教室内の男子勢は(このクラスの委員長こと的目あげる君を除き)目の色が変わっている。

 

(なんていうか……殺気を感じるね……)

 

炎佐は思わずそんな事を考えてしまった。

 

「おーっす、猿山に結城、氷崎ィ」

 

「ほらよっ!」

 

「「義理チョコだよーん♪」」

 

最初に出会った女子ことリサミオが声を合わせて一口サイズのチョコがたくさん入った箱を差し出した。

 

「おお、サンキュー」

「ありがと」

 

「にしし、ホワイトデーには期待してるよ? 三倍返しとは言わず、三十倍三百倍でも喜んで受け付けるかんね?」

 

「「ど、努力します」」

 

お礼を言うリトと炎佐に里紗は悪戯っぽく笑いながらそう言い、その言葉に二人も苦笑を漏らしながら返す。

 

「ホレ猿山、最初で最後のチョコ♪」

 

「んだとォ!」

 

その横では未央が猿山をからかっていた。

 

それから時間が過ぎて昼休み。弁当を食べ終えた炎佐は殺気にまみれた教室内――しかもその殺気がやや自分に向けられている――では落ち着かないため廊下の方に逃げ出していた。

 

「はあーあ。殺気のシャットダウンくらいから簡単だけど、なんか普通の殺気と違うからやりにくいなぁ……」

 

そんな事をぼやきながら彼は廊下を闊歩していた。

 

「ああ、やっと見つけたぞ」

 

「あれ、九条先輩? 何かご用ですか?」

 

と、凜が炎佐に歩き寄り、炎佐も首を傾げて問いかける。

 

「いや、今日はバレンタインだからな。これを貰ってくれ」

 

「ああ、義理チョコですか?」

 

凜がそう言って小さな箱を炎佐に渡し、炎佐も納得したのかあっさりと受け取る。彼の解釈に凜もこくりと頷いた。

 

「まあ、そんなところだ。この前のクリスマスには変なアクシデントがあったからそのお詫びと、私を凶弾から助けてくれたお礼だ」

 

「別に、あの銃弾はただの不発ですよ?」

 

「……ふ。分かった。そういう事にしておいてやろう」

 

凜の言葉に対し炎佐は微笑を浮かべながらそう返す。その言葉を聞いた凜も僅かに笑った後、そう言って去っていく。

 

「あ~ら。モテモテねえ、エ・ン・ちゃん?」

 

「っ!!??」

 

そこに背後から声をかけられ、気配に気づいていなかった炎佐は驚いて飛び退く。

 

「ドク……御門先生!?」

 

危うくドクター・ミカドと呼びそうになったがここは学校のため直前で御門と呼び変える。

 

「籾岡さんは予想してたけど、まさか九条さんからもチョコなんて驚いたわ。美柑ちゃんもいるし、案外モテるのね、エンザ」

 

「籾岡さんはリト達と一纏めだし、九条先輩はこの前の詫びっつってましたよ。つーか御門先生、なんか目が笑ってないように見えるのは気のせいですか?」

 

「気のせいよ」

 

口元こそ普段のくすくすとした笑みを見せ、冗談っぽい口調も普段通り、しかし目が全く笑っていない御門に炎佐はそれを指摘するが御門はやはり笑っていない目で言い放つ。

 

「ま、いいです。それよりなんのご用ですか?」

 

「いくつか聞きたいことがあるんだけど……」

 

追及を諦めた炎佐は用件を尋ね、御門は彼の顔を覗き込むようにしてジト目を見せる。

 

「あなた、なんでお正月に結城君達と一緒じゃなかったの?」

 

「は? リト?……あー。いや、リトから新年会の誘いが来た時にはキョー姉ぇと一緒に初詣に行く約束があったからそっちを優先しただけだよ。つーかそれがあんたと何の関係があるんだよ?」

 

「う……いや、別に。ちょっと気になっただけだから」

 

御門からの質問に炎佐は正直に答え、間髪入れずにそもそもリトとの新年会に関係ないであろう御門が何故それについて詰問するのかと質問を返すと、御門は一瞬言いよどみ、彼から少し離れると誤魔化すように目を逸らして気になっただけだと返した後、ごほんと咳払いをする。

 

「ま、まあその、本題はこっちね……はい、これ」

 

目を逸らし、心なしか頬を赤くしながら直方体の箱を炎佐に差し出す。どうやらバレンタインのプレゼントらしい。が、炎佐は冷めた目でそれを受け取ると御門の前でひらひらと振る。

 

「で、また俺を使った新薬の実験ですか? 今度はどんな薬を混ぜ込んだ?」

 

「ちょっ、し、失礼ね! あなた私をなんだと思ってるの!?」

 

「前科がいくつあると思ってます?」

 

「うっ……」

 

炎佐の失礼な言葉に御門は怒るものの、彼が冷たい目――心なしか両方の瞳も青くなっている――できっぱり言い放つと反論できなくなる。

 

「えーと、でも、その……こ、今回は本当にバレンタインのプレゼントってだけで……実験台とかの他意はないから……ちゃんと食べて欲しいなーって……」

 

顔を逸らして人差し指をつんつんするという妙に乙女チックな動作をしている御門に炎佐は無言になるが、やがて「はぁ」とため息をつく。

 

「分かったよ、あんたを信じる。帰ってからゆっくりいただくよ。ありがと、ミカド」

 

プレゼントに対するお礼を言ってから、炎佐は教室に戻っていく。とりあえず受け取ってもらえた、ということにか御門はほっと安堵の息をついていた。

 

それから時間が過ぎて放課後。炎佐は再び自転車をこぎ帰路についていた。

 

「エーンちゃーん♪」

 

家の前に着いた時に聞こえてきた嬉しそうな声。炎佐はやれやれとため息をつくとブレーキをかけ、家の前で一旦自転車を止める。

 

「キョー姉ぇ、やっぱ来てたの? っつーか家入ってればいいのに、寒かったでしょ?」

 

「ふっふふー。だって少しでも早く渡したかったんだもん♪」

 

炎佐の呆れたように笑いながらでの言葉に対し恭子はそう言って一個の箱を取り出し、両手で持って炎佐に差し出す。

 

「はい、ハッピーバレンタイン♪」

 

「サンキュ」

 

満面の笑顔でチョコを渡す恭子と、照れ臭そうに笑いながらチョコを受け取る炎佐。が、恭子は「でもって」と呟いてもう一つ別の、恭子がさっき渡した者と比べて一回り大きな箱を取り出す。

 

「こっち、ストレイキャッツ一同から。また遊びにおいでねってさ」

 

「ははは、ありがとって伝えといて」

 

「おっけ♪」

 

炎佐と恭子は互いに笑顔で喋り合っていた。

 

「で」

 

が、その次の瞬間恭子の笑みの質が変わる。

 

「エンちゃん、今日はどれくらいチョコをもらったのかな?」

 

「ん? えーと、リトの妹さんと、クラスメイト、学校の先輩と、ドクター・ミカドから一個ずつ」

 

「へー……モテるんだねーエンちゃん」

 

恭子の心なしか黒い笑顔での質問に、炎佐はその黒い笑顔に気づかずに正直に答える。それを聞いた恭子はぷくぅと頬を膨らませた。

 

「どしたの?」

 

「べっつにー」

 

いきなり機嫌を損ねた恭子に炎佐は困惑。だが恭子は頬を膨らませたままぷいっと顔を逸らしており、炎佐は意味分からんというように頭をかいた後、彼女の手を取る。

 

「とりあえず、話は中に入ってからにしようか」

 

そう言い、自転車を片手で押しながらもう片手で恭子の手を引く炎佐。そのまま自転車は庭に止める。

 

「あ、そだキョー姉ぇ。今度暇な時に買い物付き合ってよ。ドクター・ミカド達へのお返しを考えなきゃなんないし、アドバイスとかもらえないかな?」

 

自分以外へのバレンタインのお返しを考えるのを手伝ってくれ、と言ってくる炎佐に恭子はジト目を向けるが、やがて呆れたようにため息を漏らした後、にやっと悪戯っぽく笑う。

 

「高いよ?」

 

「夕食のリクエスト、ご自由にどうぞ。それとお返し考える時、キョー姉ぇの好きなもの買ってあげるってのでどう?」

 

「ふっふーん。とりあえずはそれでよし、後の条件交渉はゆっくり行いましょうか? さしあたってはご飯を食べながら♪」

 

にししっと笑う恭子に炎佐も困ったように笑って返す。二人はそのまま一緒に家に入っていった。




今回は前回クリスマスに恭子が出られなかったのでお正月に出演してもらってのオリジナルストーリー……と思いましたけど、諦めました。いや、うち毎年初詣するはするんですけど近所の神社行ってお賽銭やってお参りやってで終わりってのしか知らないから話が膨らませられない……。
なので代わりにバレンタインデーまですっ飛ばしました。(こら)……バレンタインも何か関係あった事なんてないけどね、彼女どころか女友達いないから、思い出にあるのはせいぜい高校時代にその日がでかい模試で血のバレンタインだなっと友達と愚痴り合ってたくらいだよ。でもイベント自体は有名だから話膨らませるのは楽だし。
とりあえず今回はヒロイン及びサブヒロインと一通り絡んでもらいました。美柑は残念ながらリトを通じての間接的な登場のみに終わってしまいましたが。
ちなみに今回は没案にリトがこっそりチョコを作って、リコの名前を使って美柑の分に紛れて炎佐に渡す。という案がありましたが「いや、これはまずいな」と思い直しました。流石に僕もそっち系は専門外ですのでね……。(苦笑)
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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