ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二十七話 クリスマス。買い物デートと食事と乱闘

[エンちゃん、ほんっとーにごめんね。クリスマスの生放送特番にいきなり出演が決まっちゃって……]

 

「あーはいはい構わないって」

 

電話相手――霧崎恭子の若干涙声のような声を炎佐はテキトーに流しながら返す。12月24日のクリスマスイブ、炎佐は恭子と過ごす予定――というか彼女が無理矢理予定を捻じ込んできた――だったのだが現役アイドルの恭子はクリスマスにも仕事が入ってしまい、泣く泣く予定をキャンセルという電話を彼にかけていた。

 

[じゃ、お正月に会おうね?]

 

「お正月緊急生放送特番が入んなきゃいいねー」

 

[……ありそうな事言わないでよー]

 

一応正月も一緒という予定はあるのだが、炎佐のふざけた口調でのからかいに恭子はまた泣きそうな声を出す。そして電話を切った後、炎佐はふむと呟いた。

 

「しかし、キョー姉ぇが来れないってのは想定外だったな……幸いまだ料理は作ってないから、材料は冷蔵庫突っ込んどけばいいが……さて、今日どうするか」

 

困った様子で呟く。家族で過ごすだの色々予定が入ってるだろう友達にいきなり誘いをかけるわけにもいかないし、と彼は考える。

 

「……しゃーね。テキトーに外ぶらついて考えるか」

 

そう呟き、彼は部屋にハンガーでぶら下げていた防寒用の赤いコートを着ると財布や携帯、デダイヤル等の道具をポケットに入れて家を出て行った。

 

 

 

 

 

「……と言っても、キョー姉ぇが来ること前提だったからな。さて何をしようか……」

 

流石クリスマスというべきか、辺り一面キラキラとしており男女のカップルがイチャイチャしている。それらを眺めながら炎佐は町を歩いていた。

 

「あら、そこを歩いてるのは氷崎君じゃない?」

 

「ん?」

 

いきなり後ろから声をかけられ、炎佐は足を止めると振り返る。

 

「ドクター・ミカド」

 

「こんにちは。こんな所で何してるの?」

 

声をかけてきた相手――御門はにこっとスマイルを浮かべて挨拶、続いてにまっ、という擬音が似合う笑みを見せる。

 

「あ、もしかしてカノジョと待ち合わせとか?」

 

「ちげーよ」

 

「あら、恭子ちゃんが彼女だって認めた?」

 

「……殴るぞ?」

 

御門の質問を炎佐は即否定するが御門はさらに会話の揚げ足を取り、それを聞いた炎佐は目を研ぎ澄ませて額に怒りマークをくっつけながら彼女を睨みつける。が、ころころと笑っている御門を見て意味がないと察したのか諦めたようなため息をつく。

 

「つか、あんたこそ何やってんだ?……あんたに男っ気なんてあるわけないし」

 

「あら、酷いわね。これでも言い寄ってくる男性は多いのよ?」

 

炎佐の反撃&皮肉にも御門はクスクス笑顔で返してみせる。

 

「お静ちゃんは籾岡さん達とドキドキ☆女子だけのクリスマスパーティに誘われて出かけちゃってるし、一人じゃ退屈だったから出かけてみたのよ。でも行く当てもないし、テキトーに薬の材料でも買い出しして帰ろうかと思ってたところ」

 

「あ、そ。んじゃとっとと買い物してとっとと帰ってくれ。用がないんなら俺はもう行く」

 

「あら、こんな美女から買い物デートのお誘いだと思ってくれないの?」

 

御門の目的を聞いた炎佐は御門向けて手の平をしっしっと振るが、彼女は残念そうにそう答える。と、炎佐はそれをはっと鼻で笑った。

 

「誰が興味もねえヤツと興味もねえ買い物の荷物持ちなんざしなきゃなんねえんだっつーの」

 

その言葉を聞いた御門の額に怒りマークがくっつく。

 

「……今度から治療代、特別割り増ししてあげようかしら? というか、長い付き合いでつけてあげてた特別割引、今度から帳消ししようかしら」

 

「きたねーぞテメエ!」

 

御門の腕組み&冷たい目での言葉を聞いた炎佐が怒号を上げる。が、御門は頬を膨らませてぷいっと顔を背けた。

 

「私の薬は興味ない人に特別サービスしてあげられる程安くないのよ」

 

そこまで言ってから、御門は炎佐に背後を向けた後、顔だけ振り返って彼に妖艶な笑みを向ける。

 

「さ、どうする? そんな時間は取らない予定の買い物に付き合って私のご機嫌取りをするか、この先の予定もないのに逃げて後の出費を多くするか」

 

「足元見やがってこのクソアマ……」

 

まるで悪魔の取引を思わせる雰囲気を漂わせる御門の言葉に炎佐は腕を震わせた。

 

 

 

 

 

「んーと……あとこの薬草をこの棚にあるだけいただける?」

 

「はいはい、いつもありがとうございます。ドクター・ミカド」

 

それからやってきたのはとある個人商店。御門はそこの棚に並んでいる薬草を見ながらさらっと商品の買い占めを行っていた。

 

「ふふ。今日は荷物持ちがいるから荷物が持てないって心配はしなくていいわ」

 

「そりゃどーも」

 

御門の嬉しそうな言葉に炎佐は舌打ちを叩きそうな程に歪んだ表情で返す。

 

「つーか、薬草ならオキワナ星とかに自生してるやつの方が質いいんじゃねえか?」

 

「いちいち準備して行くの面倒だし、燃料代もかかるでしょ? 今回作ろうと思ってる薬の材料ならここでも充分に揃うわよ。この店、薬草の質は結構いいし」

 

炎佐の質問に御門はそう答え、店員から受け取った袋詰めの薬草を「はいこれ持って」と即炎佐にパス。自分はまた薬草の吟味を再開した。

 

 

 

 

 

「ご苦労様」

 

「へいへい。ったく、せっかくのクリスマスに荷物持ちとはな」

 

そして時間が過ぎて夕方頃。御門の家まで荷物を運び終えた炎佐は御門からの労いの言葉をかけられるも、御門の方を見もせずに皮肉で返す。しかし御門はクスクスと笑った。

 

「ほら、こんな美女とのクリスマスの買い物デートって思えばお得でしょ?」

 

「脅されて荷物持ちってのが果たして買い物デートと言えるのか。という疑問を呈しておくよ」

 

御門の笑顔での言葉にもやはり相手の顔を見ずにもう一つ皮肉を漏らした後、彼はようやく御門を見る。

 

「まあ、あんたが美女だって事は認めるけどさ」

 

「!?」

 

笑みや口調は相変わらず皮肉気なものだが、完全に不意打ちでの褒め言葉に御門は仰天し、硬直。

 

「あー疲れた。んじゃ俺は行くから」

 

「え、え、ええ……」

 

肩をぐるぐる回しながらそう言って御門の家を出て行く炎佐。御門はさっきの炎佐の褒め言葉に硬直しており、こくこくと空頷きをするしかできず、彼女の頬が淡い赤色に染まっていたことに気づいたものはいなかった。

 

「さてと……もう今日はとっとと帰って飯でも作るか」

 

御門の家を出て行き、家に帰ろうと商店街を歩く炎佐。

 

「氷崎炎佐」

 

と、また声をかけられ、炎佐はその声に驚いたように振り向くと御門の時の皮肉気な笑みとは違う笑みをその相手に見せる。

 

「九条先輩……珍しいですね。天条院先輩達は一緒じゃないんですか?」

 

「ああ。沙姫様は今日は梅ノ森家主催のクリスマスパーティに参加しておられてな……本来なら私もお供する予定だったんだが……今日は暇を貰ってしまったんだ。ちょっとした謹慎処分と言ったところか?」

 

凜はそう言って苦笑し、ふと辺りを見る。

 

「ここで会ったのも何かの縁だろう。食事でもどうだ?」

 

「いいんですか?」

 

「この前迷惑をかけた詫びだ。奢るよ」

 

「……奢りってんなら喜んで」

 

凜の誘いを断れず、炎佐はにっと一つ笑みを見せて二人は凜が選んだ喫茶店へと足を運んでいった。高級そうな雰囲気を漂わせる喫茶店に入り、店員から「九条さん、いらっしゃいませ!」と弾んだ声での挨拶を受けながら凜は炎佐を伴い、店員に案内された、入り口からやや遠い席に座る。

 

「九条先輩、有名なんですね」

 

「ああ、この店は沙姫様がお気に入りの店でな。ここのケーキは美味しいから、私もプライベートだとつい来てしまうんだ。そうしている内に顔を覚えられてしまってな」

 

炎佐のメニューを開きながらの言葉に凜は恥ずかしそうに笑って返し、誤魔化すように頬をかく凜の姿に炎佐もくすくすと笑みを見せる。

それから凜の勧めるままにケーキと紅茶を二人分注文。その注文を聞く時と注文したケーキと紅茶を運んできた時に妙に炎佐の方をちらちらと見ている店員に対し訝しげにしつつも、店員が去っていってから凜は炎佐を見る。

 

「ところで、一ついいか?」

 

「はい?」

 

ケーキと紅茶には目もくれず、凜は炎佐に問いかける。

 

「君は宇宙人だ、と言っていたな?」

 

「ええ。証拠が欲しいなら炎か氷でも出しましょうか? 流石に一般人も多いのであまり派手なのは出来ませんが」

 

凜からの質問に対し、エンザは今更彼女には隠すことでもないためあっさり肯定。しかし証拠が欲しいのかという発言に対し凜はゆるゆると首を横に振った。

 

「別に疑っているというわけではないんだ……聞きたいことだが……宇宙人、というのは君やララの他にもこの地球に存在するのか?」

 

「……何故そんな事を? 場合によっては口外するわけにはいきません」

 

凜の質問に対し、炎佐は目を研ぎ澄ませて凜を威嚇。今はこの星で地球人として暮らしている彼ら――ケロロ等一部例外除く――の安寧の日々にヒビを入れるわけにはいかないと凜に話す。

 

「いや、別に宇宙人の存在をリークしようなどとは思わんさ……ただ、ララと言い君と言い、宇宙人というのは私達の常識を遥かに超える……もしもそれが沙姫様に牙を剥いたらと思うとな……」

 

「宇宙人もピンキリなんですけどね。バルケ星人辺りなら襲ってきたところで怖くもなんともないし。つーかぶっちゃけ九条先輩、っていうかリトの周りの宇宙人の戦闘能力が異常なんですよ」

 

凜の心配そうな言葉に対し炎佐は宇宙人と一口に言ってもピンキリ。そもそもとして戦闘力という一点で言ってしまえばデビルーク星人の中でも最強であるギドの血を引くララ達姉妹にその親衛隊であるザスティン達、宇宙最強の暗殺者金色の闇、そして自分エンザという、ルン等の一部例外は存在するがほとんどが平均を遥かに超える異常者が揃ってるだけだと話した。

 

「まあ、銀河系の中でも地球人は肉体的には脆弱な方だっていうのも事実ですけど。技術的にもまだ発展途上だし……ま、エンターテインメントなら銀河系随一ですけどね」

 

「そうなのか?」

 

炎佐の言葉に凜が驚いたように返す。炎佐もそれにこくんと首肯して返した後、「心配はいりませんよ」と凜に声をかけた。

 

「地球のような発展途上惑星では惑星保護機構や宇宙警察などの組織が影ながら目を光らせてます。宇宙法とかもあるし、余程の馬鹿か犯罪組織でもない限り一般宇宙人が下手に自分達の力を使って地球人に害なす事はありませんよ」

 

炎佐はそう話す。ちなみに地球人であるリトが危害を加えられている事に関しては、そもそも彼を狙う暗殺者はほとんど密入星のため惑星保護機構が認知出来ていなかったり、彼が現在銀河的には“デビルーク星第一王女ララ・サタリン・デビルークの婚約者候補”であり“デビルーク王の後継ぎ最有力候補”という、リト本人にあまり自覚がない間に割と重要な立場になっているため、例えば婚約者候補同士もしくはその代役を使っての決闘という建前を使う事で同じ婚約者候補から狙われるのはある意味合法になるかもというのが彼の見解だ。

 

「そうか……」

 

「まあ何かあればご相談を。静養中とはいえ腕利きの賞金稼ぎ、お金さえもらえればばっちり働きますぜ。それに俺、惑星保護機構にもある程度コネがあるから多少の無茶は効くし」

 

「はは、それは頼りになるよ」

 

結論からして沙姫が宇宙人に狙われる事はまずないだろう、という答えを得た凜は一安心し、炎佐の冗談交じりの言葉を浮けて微笑を見せてから紅茶とケーキに目を落とす。

 

「つまらない話を持ち出して悪かったな。そろそろ食べるとしよう」

 

「はい、いただきます」

 

凜はそう言ってカップを持ち上げ、ひょいと前に差し出す。それを見た炎佐は一瞬きょとんとするがすぐに意図を読み取ると同じようにカップを持つ。

 

「メリークリスマス。乾杯」

 

「乾杯」

 

言い合ってこつん、カップを当て合う二人。紅茶を一口飲み、それからケーキを一口食べた。

 

「本当だ、美味しい」

 

「気に入ってもらえると嬉しいよ」

 

ケーキを褒められた凜は嬉しそうに微笑みながら紅茶をもう一口飲む。それからさっきの宇宙人の話とは別の話題で二人が雑談をしていた時、突然ガラスの割れる音とその音を聞いた一般人による悲鳴が店内に響いた。

 

「「!」」

 

瞬間、二人の表情も引き締まり凜は持ってきていた竹刀を自分の方に引き寄せ、炎佐もデダイヤルを隠し持ちながら音の原因を探る。

 

「全員、動くんじゃねえ!!」

 

耳を打ち付けるのは銃声と怒号。そして再び響き渡る悲鳴。その怒号の主はバイクに乗った真っ黒な覆面に黒いジャンパーとズボンというあからさまに怪しい黒ずくめの格好をした男性、同じ格好をしている者があと二人。その手には銃やショットガンが握られており、バイクには膨らんだ大きな鞄を乗せている。

 

「……大方、銀行強盗の帰りと言ったところか」

「そうですね。警察に追われて逃げ場がなくなり、ここの客を人質に取ろう。ってとこですか」

 

パニックに呆然自失となっている客が多い中冷静に状況を判断する凜と炎佐。凜はそのまま炎佐を見る。

 

「一つ聞くが、君なら倒せるか?」

 

「やれなくはないですが……流石に地球産の服だと派手に炎や氷は使えないので実質単純な身体能力しか使えません。流石にこの距離で銃相手に肉弾戦はちょっと……俺も銃はある事はありますが威嚇や牽制用で苦手だし……九条先輩、拳銃は?」

 

「訓練はしている。だが、初めて握る銃を使ってこの状況で他に被害を出さず無力化させろ、と言われるとな……」

 

下手に銃撃戦になるとパニックになった一般人に被害が起きる可能性は極めて高いし、そもそも表向き一般人の彼らが銃を使ったりしたら色々面倒。つまり拳銃による遠距離戦、という線は却下となる。

 

「……そうだ」

 

「何か手があるのか?」

 

「この状態だと攻撃には使えないけど……俺が合図したら飛び出してください」

 

炎佐は親指と中指をくっつけながら凜に指示、凜も頷くと竹刀を手に飛び出す準備を整える。

 

「ふっ」

 

小さく息を吐きながらフリスビーを投げる時のような軌道で右腕を振り、同時に指を擦らせてパチンという音を立てる。と、空中をまるで走るように火花が散り、それが強盗達の頭上に言った時、バン、という爆発音を立てて爆発。

 

「な、なんだぁ!?」

 

強盗の一人が声を上げ、三人ともが爆発した頭上を見る。

 

「今だ!」

 

「!」

 

相手の一瞬の虚を突き、凜は席を飛び出すと加速、一気に強盗達への距離を詰めるとその内下っ端の一人を竹刀の一閃で沈黙させる。

 

「な、んだと!?」

 

下っ端のもう一人が驚いた様子で銃口を凜に向け、引き金を引くが凜はその弾丸をかわすと竹刀を振るえる距離ではなかったため柄を使った至近距離からの突きを首に入れ、怯んで後ろに下がり咳き込んでいる相手目掛けて回し蹴りを叩き込み蹴り飛ばす。

 

「舐めやがってこのアマ!!」

 

強盗のリーダーが怒号を上げてショットガンの銃口を凜に向ける。

 

「あいにくもう一人いますよっと!」

 

「!?」

 

そこに声が聞こえたと思うと彼の手に痛みが走る。彼の手の甲にフォークが刺さっており、その痛みによって一瞬彼は怯んでしまう。

 

「おらぁっ!!」

 

「ぐふぇっ!?」

 

彼がショットガンを撃てなかった一瞬の隙を突き、炎佐が飛び蹴りを叩き込む。吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた強盗リーダーの手にあるショットガンを遠く離れた場所に蹴り飛ばして彼が気絶している事を確認する。

 

「制圧完了!」

 

「こちらも制圧かんりょ――」

 

炎佐の報告に合わせて凜も報告しようとするが、その時シャコン、と銃の射撃準備をする音が聞こえる。

 

「ふ、ふざけんじゃねえ!!」

 

最初凜が竹刀で薙ぎ払った下っ端だ。竹刀の入りが甘かったのか元々打たれ強かったのか彼は目を覚ましており、自分に攻撃を仕掛けた凜に銃を向けている。

 

「っ!」

 

銃を向けられた凜も硬直してしまい、強盗はニヤリと笑って銃の引き金を引く。パン、という音が聞こえ凜は反射的に目を閉じてしまう。

 

「なっ……」

 

が、直後聞こえてきたのは強盗の驚愕の声、凜は驚いたように目を開ける。その目の前には一人の少年が立ちはだかっていた。

 

「……どうやら銃は不発だったらしいな?」

 

炎佐だ。彼は右手を手の平を開いて前に突き出したポーズで凜に背中を向け立っており、彼の皮肉気な笑みでの言葉に強盗は「んなはずは……」と呟く。

 

「ふう、ギリギリ間に合った。そして袖口焦がさずに済んだ……」

 

「「え?」」

 

「ああ、なんでもないよ」

 

炎佐の呟きに強盗と凜、両方が呆けた声を出す。が、炎佐はあっさりとそう言った後、「とりあえず」と言って強盗を見る。

 

「死ね」

 

次の瞬間、強盗は目の前にまるで瞬間移動してきたかのように近づいていた炎佐を見る。その両目がまるで怒りに燃えているかのような赤い瞳を宿している。それを見ながら強盗は彼の拳を受け、意識を暗転させていった。

それから気絶している強盗三人組は警察に連行され、炎佐と凜は警察および店から一人の怪我人も出さずに相手を無力化させた事を感謝されていた。

 

「それにしても、流石ですね。まさか銃を持った相手と渡り合えるとは。流石は九条さん」

 

「いえ。最後は油断していました」

 

店長からの言葉に凜は小さく首を横に振って返す。

 

「でも、偶然不発だったとはいえ銃から九条さんを庇うなんてすごいです」

 

続けて店員の一人が輝くような笑顔で炎佐を賞賛。

 

「流石は九条さんの彼氏ですね!」

 

そして爆弾発言を行った。

 

「「……彼氏?」

 

が、その言葉を浮けた炎佐も凜もきょとんとした表情になる。

 

「……違うんですか?」

 

「いや、彼は私の学友だ。以前少し世話になったので食事を奢っていた。それだけだ」

 

「俺も暇だったから食事を受けただけだ」

 

店員の確認に凜と炎佐は色気の欠片もなく説明。それから事情聴取等も終えてから二人は店を出て行った。

 

「ふう。いきなり変な事に巻き込んでしまったな、すまない」

 

「九条先輩は悪くないですよ……にしても、せっかくのクリスマスなのにあの店の人達、なんか変なケチがついちゃいましたね」

 

凜の謝罪に炎佐はそう返した後、クリスマスに変な事件に巻き込まれてしまった店の人達の事を考えて目を閉じ、何か思いついたような笑みを見せると目を開ける。その両目には青色の瞳が宿っていた。

 

「少しばかりサンタさんの代わりにプレゼントをしても、罰は当たりませんよね」

 

そう呟いて左手を頭上に掲げ、人差し指を伸ばしてくるくると回転。すると突然辺りの気温が下がり、つい凜は着ていたコートを深く着直す。

 

「……雪?」

 

彩南町に雪が降り始めた。

 

「ホワイトクリスマス、ってやつですね。あんま長くは持たないけど、店の人達に良い思い出が出来りゃ充分です」

 

炎佐はそう言うと凜から離れるように歩みを進めてから凜の方に身体ごと振り返る。

 

「では、僕はこれで。メリークリスマス、九条先輩。おやすみなさい」

 

そう言ってぺこりと一礼し、踵を返すと彼は夜の闇へと消えていく。

 

「……メリークリスマス」

 

凜も彼に聞こえないような声量で呟いた後、家に帰ろうと歩みを進めていった。




今回はサブヒロイン代表に御門と凜を選出してのクリスマス編。ちなみに本来は凜だけの予定でしたが時間的都合(最後のホワイトクリスマスに持っていくとすると喫茶店だけで一日潰すのは無理)のため御門を捻じ込みました。一応彼女もサブヒロインの一人と言えば一人ですし……今回炎佐の方は「興味ないヤツ」だの「クソアマ」だの散々な言い方ですけど彼女の事は慕ってるんですよ?
で、凜の方は何故だか強盗とのバトルなんて羽目になっちゃいました……イチャラブよりこうやって背中任せあって戦う方が書きやすいんだよなぁこのコンビ……。
さて次回は正月編?……かな?どうしよ……まあ、また後で考えるか。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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