ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二十五話 惑星ミストア

「ん?」

 

とある休日。家でゆっくりしていた炎佐は突然携帯が鳴り始めたのに気づくと携帯を取る。

 

「リト?」

 

液晶に表示されている相手の名前を確認し、電話に出る。

 

「もしもし、リト? どうしたの?」

 

[た、大変なんだ炎佐! 頼む、手を貸してくれ!!]

 

「はぁ!?」

 

リトの開口一番血相を変えた言葉に炎佐は呆けた声で返すしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「セリーヌちゃんが病気?」

 

リトから要約すれば“戦闘準備をして家まで来てくれ”という頼みを受けた炎佐は首を傾げつつもその指示に従いデダイヤルを準備して結城家へとやってきていた。そしてリトから事情を聞いたところによると、どうやらララが以前プレゼントした巨大植物――セリーヌの元気がなく、モモがなんらかの病気ではないかと診断を下したらしい。

 

「あ、ああ。モモが言うにはカレカレ病? とかいうんじゃないかって……」

 

リトはやや自信なさげにそう言ってモモをちらりと見、その視線に気づいたモモもこくりと頷いた。

 

「惑星ミストア、というこの星から300万光年離れた星に、そのカレカレ病に効く“ラックベリー”という実があると聞いたことがあるのですが」

 

[私のデータでは、惑星ミストアは危険指定Sランクの星なのです]

 

「そういうわけなんだ……でも、このままじゃセリーヌが危ないんだ! だから俺はミストアに行きたい。頼む、炎佐! 力を貸してくれ!!」

 

モモの説明をペケが引継ぎ、最後にリトが力強くそう言って炎佐に頭を下げる。

 

「……当然だよ。僕はリトの護衛だ。リトが危険な場所に行くのを黙って見過ごすのはキング・ギドからの依頼に反する。何よりリトは僕の親友、力を貸すのは当然だよ」

 

「炎佐……ありがとう!」

 

リトのお願いを炎佐は二つ返事で承諾。リトは嬉しそうに笑って炎佐の手を取る。

 

「そうと決まれば頼む炎佐! お前、元宇宙傭兵だったんだろ? 宇宙船とか貸してくれないか!?」

 

「……えっ?」

 

「えっ?」

 

リトのいきなりのお願いに炎佐は目を点にして声を漏らし、リトも目を点にする。それから炎佐はララ達プリンセス三人衆を見回した。

 

「えーっと、プリンセス・ララにナナ、モモ……お前らの宇宙船は?」

 

「私が持ってるのは家出した時の一人用だよー」

 

「私達のも私とナナの二人用ですわ」

 

「おう」

 

炎佐の問いかけにララが返し、モモも言うとナナも同意する。その言葉に炎佐は頬を引きつかせた。

 

「……俺、宇宙船売っちゃったんだけど……」

 

「はいぃ!? う、宇宙船ってそんな簡単に売買できるもんなの!? ってか売っていいのか!?」

 

頬を引きつかせ顔を青くしながらそう返す炎佐にリトが驚いたように返すと彼は頭をかく。

 

「いやだってさ。俺今静養中だし、っていうかぶっちゃけ傭兵半ば引退のつもりで地球に来てたんだし……宇宙に出るつもりなかったら宇宙船とか無駄に場所取るし維持費かかるし邪魔なだけなんだよ。だったらもう、地球暮らしの足しにした方がマシっていうかさ……ララ達が来るまで俺、宇宙に出る用事なんてドクター・ミカドの依頼くらいだったし、そん時はドクターの宇宙船に乗せてもらってたからさ……」

 

目を逸らしながら頬をかきかき説明する炎佐にリトは呆然とする。炎佐は「プリンセス達が来てから宇宙系の騒動に巻き込まれる事多いし、売るんじゃなかった」とか後悔の台詞を漏らしていた。

 

「って、そ、そうだ! 御門先生に頼めばいいんだ!」

 

リトは炎佐の言葉を聞いて御門も宇宙船を持っていることを思いだし、「ちょっと御門先生に連絡取ってくる!」と言うと家に入るため玄関向けて走り出す。が、そこに置いてあったちり取りに足を取られ、いきなりすっ転んだ。

 

「ん?」

 

が、その身体は途中で何かに当たり、止まる。

 

「結城リト」

 

リトの上から聞こえてくる冷淡な声。リトの目の前にあるのは純白の下着。

 

「いつも、ワザとやってないですか?」

 

羞恥と怒りによって顔を真っ赤に染め上げている少女――金色の闇に対しリトは真っ青な顔で「いえ……」と返す。が、直後彼はヤミが髪を変身(トランス)させた巨大な足に踏みつぶされて動きを封じられてしまった。

 

「やあ、ヤミちゃん。偶然」

 

炎佐が右手を上げてヤミに挨拶し、ヤミも彼の方を見てぺこりと会釈をした後、美柑を見て少し残念そうに「今日はお揃いではないんですね……」と声をかけていた。

 

「近くを通りがかったら声がしたので、話は聞かせてもらいました」

 

それからヤミは彼らの目的を把握したかのようにそう言った後、「無駄死にはやめてください」とリトに向けて言う。

 

「例えエンザが一緒だとしても、あなたが死ぬ可能性は依然として高い……あなたは私の気まぐれで生かされている身。危険指定Sランクの星に行き、勝手に死ぬなど……認めません」

 

相手を屈服させる力を持つ冷たい声。それにリトは一瞬怯むものの「イヤだ」とヤミの言葉を否定する。

 

「俺は行く! セリーヌは家族だ!! 見捨てるわけにはいかねーよ!!」

 

真正面からヤミに対抗するように言うリト。その言葉にララやモモが「リト……」と声を漏らし、美柑や炎佐がそれでこそリトだ、というように微笑を浮かべる。

 

「……家族なんて、私には分かりません」

 

リトの言葉を受けたヤミが目を瞑り、静かに言う。

 

「でも……そこまでいうのなら、この私も行きます」

 

なんとヤミも同行を宣言。さらに自分の宇宙船ならばこの人数でも乗れる、と足まで用意してくれるようだ。

 

「ありがとー! ヤミさん!!」

「助かるよ。ヤミちゃん」

 

「……」

 

美柑が笑顔で、炎佐も嬉しそうに微笑を浮かべながらお礼を言うとヤミは照れたような無言になって彼女らから目を逸らした。

 

「な、なんかワリィな……」

 

申し訳なさそうに頭をかいてお礼を言うリト。が、ヤミは「気にしないでください」と彼に返す。

 

「あなたが死にかけた時、真っ先にトドメを刺すためですから」

 

本気なのか冗談なのか真顔でそんな事を言ってのけるヤミにリトは戦慄。しかしヤミは気にすることなく「では、船をここに」と言ってリモコンのボタンを押した。と、結城家上空の時空が歪み、そこに真っ黒い宇宙船が姿を現した。

 

「わーっ。これがヤミちゃんの宇宙船かー!」

 

感心したように言うララにヤミは首肯。幾多の死線を共に潜り抜けた相棒(パートナー)だとその宇宙船、ルナティーク号を紹介した。

 

「じゃ、セリーヌを頼むぜ。美柑」

 

「任せて!」

 

リトの言葉に美柑はサムズアップして答えた後、炎佐を見る。

 

「炎佐さん。どうか、リトをよろしくお願いします」

 

「任せといて。リトは絶対に守る、美柑ちゃんを悲しませる結果にはさせないと約束するよ」

 

「はい……でも、炎佐さんも怪我しないで帰ってきてくださいね?」

 

「ああ。努力するよ」

 

どこか不安気な様子を見せている美柑に炎佐は相手を元気づけるような笑みを浮かべてそう返す。

 

「行くぜ、惑星ミストア!」

 

そしてリトが自らを鼓舞するかのように声を出し、それと同時にルナティーク号から結城家の庭に円柱を描くように光が降りてくる。

 

「あ、燃料費は後であなたに請求しますから。結城リト」

 

「え゙」

 

出発前に確認、というように言い放つヤミにリトはぎくっとした様子を見せたのであった。

 

 

 

 

 

「リト」

 

惑星ミストアに向かう途中。家族であるセリーヌを助けると覚悟を決めているリトに炎佐が真剣な目つきで声をかけた。

 

「ミストアは危険指定Sランクだって聞く。全く防具無しじゃ正直、余程運が良くない限り命がいくつあっても足りない」

 

「……ああ」

 

炎佐の言葉は友を心配すると共に、命賭けの生活を繰り広げていた傭兵としての注意であり、リトはその言葉を肯定するしか出来なかった。

 

「だから、これを貸すよ」

 

「え?」

 

そう言って彼がリトに手渡したのはペケバッジ。デダイヤルによって鎧を転装させられるようになる前まで、鎧のレプリカデータを保存して使用していたものだ。

 

「僕が使うオリジナルに比べれば強度は劣るけど、前線に立たず自分の身を守るだけなら充分だからね」

 

「……ああ、悪い。使わせてもらうぜ」

 

リトはそう言って炎佐からバッジを受け取る、それを胸に装着。すると彼の身体を光が包み、その光が弾け飛んだ時リトの身体には炎佐が着用している白銀の鎧が装着されていた。

 

「重っ!!??」

 

と、思ったら突如リトは膝をつき、鎧の重さに悲鳴を上げる。どうにか身体を持ち上げようとしているようだが身体はぶるぶる震えており、微動だにしない。

 

「……あれ? これ、むしろ機動力重視してるんだけど……」

 

炎佐もぽかんとした様子で今自分が着けている、リトの装着しているものと全く同一の外見の鎧を見る。その後ろからヤミが冷淡な目で二人を見た。

 

「エンザ、あなたは地球人との筋力の差異等を考慮していますか?」

 

「あ」

 

その冷静沈着なツッコミに炎佐は思い出したように声を漏らす。つまり、宇宙人のエンザにとっては機動力重視といえる程度の軽さのものでもリトにとっては重すぎるわけだ。それに気づいた炎佐はすぐさまペケバッジをリトから取り外し、リトはぜえぜえと荒い息をしながら立ち上がる。

 

「ごめん、リト」

 

「い、いや、炎佐は俺を心配してくれたんだしさ……」

 

両手を合わせて謝る炎佐にリトは気にするなと返した後、ヤミを見る。

 

「ところでヤミ、どうしたんだ?」

 

「惑星ミストアが見えました」

 

「ほんとか!?」

 

リトの問いかけに答えるヤミ。それを聞いたリトが叫び、全員が操縦席へと向かう。そのモニターには真っ白な雲か霧のようなものに覆われている惑星が見えていた。と、ルナティーク号に搭載されている人工知能が[(マスター)!]と声をかけてきた。

 

[進行上のミストアの大気から異常なレベルの磁気の乱れを観測!! 多分惑星全体を覆っている霧の影響だ!! 船体に影響を及ぼす恐れがあるんで予定軌道を変更して侵入するぜ!!]

 

「……了解」

 

ルナティーク号の人工知能からの報告をヤミは了承。ルナティーク号がミストアに着陸――と言っても正確には上空で静止して光によるワープでリト達を下ろしたと言った方が近いが――してリト達を下ろした後、ヤミからの上空で待機の命令を受け、ルナティーク号は上空で静止する。

 

「とりあえずモモ、ラックベリーの実について聞き込みを頼めるか?」

 

「……」

 

装着している鎧の具合を確かめ、いざという時のために武器も準備しながらエンザはモモに指示を出す。が、モモは困惑気味の表情で辺りを見回しており、エンザは不思議そうに眉を顰めながら「おい、モモ?」とモモに声をかける。

 

「ど、どうしたの、ペケ!?」

 

が、突然聞こえてきたララの声にエンザは思わずそっちに目を向けてしまう。ララはペケが変化しているドレスを身にまとっているのだが、そのドレスに妙なノイズが走っていた。ペケの分析によるとここの霧が機械に影響する電磁波を含んでいるらしく、そのため若干調子が悪くなっているらしい。

 

「ッ!?」

 

今度はモモが何かに怯えた様子を見せ、エンザやララ達の意識がモモの方に向いてしまう。

 

「わぷっ!?」

 

そこに不意打ちをしたかのように、ララに何かの花粉がかかった。

 

「うっ!?」

 

さらにその隙をついてリトの足に蔦が絡み付き、彼が勢いよく投げ飛ばされる。

 

「うわーっ!?」

 

「リトさん!?」

「落ちるぞっ!」

「リトッ!!」

 

リトは悲鳴を上げながら落ちていき、咄嗟に空を飛べるララが彼を助けに飛ぶ。が、リトを掴んだララの腕はぷるぷると震えている。

 

「ララ!? どうしたんだ!?」

「まさか、さっきの花粉が……」

 

エンザが叫び、モモが何かに気づいた様子を見せる。このままでは二人が危険と判断したのかヤミが変身(トランス)で背中に白い羽を生やすが、それは突然消失。さらにその時霧が濃くなっていったと思うと、ペケの機能が停止したのかララの纏っていたドレスが消え、空を飛ぶことが出来なくなったララとリトはなすすべなく落ちていってしまった。

 

「リト! ララ!」

 

エンザが叫ぶが、霧が濃くなって下の状況が全く分からずこのまま一気に飛び降りるのは危険と判断できる。

 

「視認できる足場を伝って下に行ってみましょう」

 

ヤミが冷静に提案。エンザ達も頷くと下の方にある巨木の枝や蔦を伝って下に降りていく。その合間にエンザはデダイヤルを取り出してララと連絡を取ろうと試みていた。が、デダイヤルは各種ボタンを押してもディスプレイがつかず、電源ボタンを押しても全く反応を見せていない。

 

「くそ、デダイヤルが動かない……」

 

「そういやさっきペケが、この霧が機械に影響を与える電磁波がどうのこうの言ってたよな?」

 

エンザのイラついたようにボタンを叩きながらの言葉にナナがそう返す。つまりデダイヤルは封じられたというわけだ。エンザは悔しそうに表情を歪めてデダイヤルを懐にしまい込むと刀の柄を取り出し、それに力を集中する。しかし具現した刃はぐにゃぐにゃと揺れると霧散していった。

 

「武器も使えないか」

 

武器も、奥の手であるミーネから貰ったパワードスーツも封じられてしまった事になる。

 

「ところでモモ。さっきのララの調子の悪さに心当たりがあるみたいだが、分かるのか?」

 

「あ、はい。恐らくですが、お姉様がさっき浴びたのは“パワダの花粉”。吸い込むと一時的に体力を極度に消耗させる成分が含まれている、と聞いたことがあります」

 

モモはそう説明し、現在のララの体力は地球人以下になっているかもしれないと予測を立てる。それにナナが「やべーじゃん!」と焦りの声を上げる。

 

「確かにまずいけど……こっちもそれどころじゃなくなってきたようだ」

 

焦っているナナに対し、エンザが青い瞳を宿す目を鋭くさせてある方向を睨みつけた。ヤミもそっちの方を鋭い目つきで見ている。その二人の死線の先には鋭い牙を生やした植物が口から涎を垂らしながら根を足のように動かして近づいてきていた。

 

「なっ、なんだこいつら!?」

「私達を食べる気だわ!」

 

「ナナ、モモ、下がって!」

 

ナナが怯えた声を出し、モモは植物達の意思を読み取るとエンザが二人の前に立って左手に冷気を纏わせる。さらにヤミも右手を刃に変身(トランス)させるが、その刃がすぐに手に戻ってしまう。

 

「どうしました、ヤミさん!?」

 

変身(トランス)がキャンセルされる……どうやらこの霧……私の体内のナノマシンにまで作用するようですね」

 

モモがヤミに叫ぶように問い、ヤミは自分の状態を冷静に分析する。と、そのヤミの背後から現住生物である食肉植物が襲い掛かった。モモの「危ない!」という声が響く。

 

変身(トランス)が使えないのなら――」

 

が、ヤミは自然な動作で裏拳を叩き込んで食肉植物を殴り飛ばし、そちらをちらりと見る。

 

「体術しかないですね」

 

そう言いながらヤミは宙を舞うように飛び、食肉植物を勢いよく蹴り飛ばした。

 

「殺しはしないけど、眠ってもらうよ」

 

そう言いながら左手をとんっと地面に当てるエンザ。すると手を当てた部分から放射状に地面が凍り付いていき、その氷に触れた植物達が次々に凍っていく。しかし別の木々の影からまたぞろぞろと植物達は現れる。

 

「気持ちワル! ぞろぞろ来たぜ、モモ、エンザ!」

「やめてあなた達! 私達には戦っているヒマはないんです!」

 

エンザの攻撃の網を潜り抜けて襲い掛かってきた植物をエルボーで殴り飛ばしたナナが辺りを見回しながら二人に叫び、モモは植物達に説得を試みる。が、植物達は構うことなくナナ達に襲い掛かってきた。

 

(くそ、気配が読みづらい……しかもこいつら、刺客から上手く襲ってくる……)

 

エンザは氷の針を投げつけ、刺さった相手を凍らせながら辺りの気配を探るが辺りを覆う霧のせいで視界が悪いだけでなく、含まれる電磁波の影響で己の感覚が鈍っているのか気配が読みづらくなっていた。

 

「きゃっ!?」

 

「ナナ!」

 

エンザの防衛の隙をついて植物の一体がナナの腕に蔦を巻き付け、彼女を捕まえると宙づりにして四肢を蔦で拘束。彼女を先が無数の毛のようになっている蔦でくすぐり弄び始めた。

 

「ナナ!」

「モモ、下手に動くな!」

 

思わずナナに駆け寄ろうとするモモの前にエンザが立ちはだかり、彼女を捕らえようと迫る蔦を左手を突き出して作り出した氷の盾で防ぎ、そのまま氷の盾に触れた蔦を凍らせていく。

 

「うっ!?」

 

「ヤミ!?」

 

次に聞こえてきたのはヤミの短い悲鳴。彼女も感覚が鈍っている隙を突かれたのかニュルニュルとした、蔦というよりは触手に近い物体に両腕と両足を捕らえられていた。

 

「ヤ、ヤミさん! どうしたんですか!? あなたほどの人が……」

 

「ニュルニュルは……キライです……」

 

モモの呼びかけに対しヤミは精一杯のようにそうとだけ呟いた。

 

「キャハハハハ! や、やめ……」

「……」

 

「「……」」

 

片やナナは先が無数の毛のようになっている蔦でくすぐられ、ヤミは無抵抗な状態でニュルニュルとした触手で弄ばれている。それを見ているエンザとモモの目元には影が作られていた。

 

「クズ共が……調教が必要のようね……」

 

突如モモが呟く。と、食肉植物の内二体が不用意に彼女を前方から蔦を伸ばす。

 

「……」

 

しかし前方から来た蔦をモモは掴み蔦がメリッと嫌な音を立てる程に掴むと食肉植物を地面に叩き付ける。

 

「フッ」

 

続けてモモは小さく息を吐き、捕らえた食肉植物を勢いよく踏みつける。小柄とはいえデビルーク人の怪力による踏みつけに食肉植物は身動きが取れなくなり、まるで拘束を解かんとしようと暴れ回る。

 

「おだまり」

 

しかしモモはそうとだけ言って食肉植物に注射器を刺し、何かの薬品を打ち込む。と、その食肉植物の抵抗が止み、それは力なく地面に横たわった。すると別の食肉植物がまるで襲われた仲間を助けようとせんばかりに、まだ注射器を刺しているため無防備になっているモモ目掛けて無数の蔦を伸ばした。

 

「無駄だ」

 

が、次の瞬間その蔦の一本が燃え上がり、同時に別の一本の蔦が凍り付くという現象が全ての蔦にランダムで発生する。

 

「……俺も甘くなったものだ。生きるか死ぬかの戦場において、なるべく殺さないよう、敵に情けをかけるとは……」

 

その現象を起こした張本人、エンザが目を閉じて静かに呟く。その口調にはどこか自嘲が混じっていた。

 

「だが」

 

次に、彼は目を開き、紫色の瞳で現住植物生物達を睨みつけた。

 

「俺の仲間に手を出した以上、もはや容赦はせん。貴様ら全員、殲滅する」

 

エンザは右手に炎で形成された大剣を、左手に氷で形成された槍を作りながら殺気を放つ。と、その隣でモモもフフフ、と妖しげな笑みを浮かべて注射器を見せる。

 

「こいつに何をしたか? ですって?……これは“イソウロンα”という植物用の毒薬。間もなくこのコの身体は根元から腐り始める」

 

モモは毒薬が入れられている注射器を押し、その針の先からぴゅっと僅かに液体を出しながら再び妖しげな、それでいて艶やかな笑みを見せる。

 

「さあ、次はどなた?……今なら優しく逝かせてあげますよ……天国へ」

 

エンザとモモ、二人がかりの殺気から食肉植物達は闘争ではなく逃走を選択。ナナとヤミを放り捨てて我先にと逃げ出したのであった。

 

「はぁ……死ぬかと思った」

 

解放されたナナはさっきまでくすぐられていたせいで乱れた呼吸を整えながら呟き、次に植物用の毒薬なんていう恐ろしいものを持っていたモモに対し「恐ろしい物持ってるなお前」と呟く。

 

「ヤダわ。あれはただのハッタリですよ」

 

すると、モモはにこっと微笑んでそう返した。曰く、さっき食肉植物に注射したのはただの睡眠作用つきの栄養剤であり、数が多いからちょっと脅かしただけらしい。

 

「はぁ……それにしても……おびえて逃げていくあのコたち……かわいかった……」

 

モモは頬を桃色に染め上げ嗜虐的な笑みを浮かべてそう呟き、ナナはそんなモモの様子に唖然としていた。

 

「……はぁ。くそ、ちょっとしかバーストモード使ってねえのに、大分体力消費したな……行くぞ」

 

モモを守るためと相手への威嚇のためしか解放していないにも関わらず、バーストモードは彼の身体に負担をかけており、エンザは疲労からくる汗を拭いながらモモ達に行くぞと声をかけた。

それから食肉植物はやばい二人組がいる、という情報が行き渡ったのか彼らの前に姿を現さず、エンザ達はその妨害を受けることなくスムーズにリト達を探せていた。

 

「おい、アレ!!」

 

ナナが叫び、一行がナナの指差している先を見るとモモが「お姉様!」と叫ぶ。彼らの目に移るのはパワダの花粉を吸いこんでしまったはずのララが己の何十倍もの体躯を誇る巨大生物をぶんぶんとジャイアントスイングで振り回している光景だった。

 

「やーっ!!!」

 

そして掛け声と共に巨大生物はぶん投げられ、空の彼方へと消え去る。間違いなく本来のララのパワーだ。

 

「リト! ララちゃん!」

 

「炎佐! 無事だったのか!」

 

辺りに敵がいないのを確認しつつエンザが二人を呼び、リトもエンザ達と無事に合流すると彼らに怪我がない事に安心する。

 

「……よかった。リトさんもお姉様も無事で……」

 

「はは……ペケが停止しちゃってるけどね」

 

モモも二人が無事なのを確認して安堵の息を吐くとララが苦笑交じりに機能停止状態のペケを見せる。

 

「でも、どうして急にララの体力が戻ったんだろ?」

 

と、リトが首を捻ってそう呟き、モモも「パワダの実の花粉が抜けるのに三日はかかるはず」と彼の疑問点に賛成する。と、ララが齧りかけの実を見せていつの間にか近くにいた、頭に実の生えた木を生やしている植物型宇宙人を見る。

 

「あのコがくれたこの実を食べたんだよ。そしたら急に体が軽くなってね――」

「そ、それは! ラックベリー!!」

 

ララの説明を遮ってモモが叫ぶ。と、リトが「ええっ!」と驚いた声を上げてその実を生やしている植物型宇宙人を見た。

 

「じゃあこいつがラックベリーの木!?」

 

「キーキー」

 

リトの声に対し、ラックベリーの木が何かを話す。

 

「え?……命の恩人だから、欲しければいくらでもあげる。と言ってます!」

 

「おー!!」

 

モモがぱぁっと顔を輝かせて言うとリトが歓声を上げ、ナナも「やったぜー!」と喜びを全身で表現するように飛び跳ね、ララもラックベリーの木に頬擦りしながらお礼を言う。

 

「サンキュな!」

 

「キー!」

 

リトもお礼を言い、ラックベリーの木も嬉しそうに返す。

 

「お人好しが道を切り拓くこともあるんですね」

 

「それがリト、ってことだよ」

 

ヤミが冷静にそう言うと、エンザはリトを信じているかのようにそう返した。

 

「では急いで地球に戻りましょう! セリーヌさんが気がかりです!」

 

ラックベリーの実を貰ったモモが急ぐように言い、彼らは「おう!」と返すとルナティーク号に戻っていき、そのまま一気に地球に戻っていった。

 

「セリーヌ! 今戻ったぞー!!」

 

ラックベリーの実を抱えて庭を走るリト。

 

「リ……リト……」

 

それを出迎えたのは困惑の表情を見せている美柑だった。そして、家の影に隠れていたセリーヌの姿がリト達の視界に映る。

 

「セ、セリーヌ?……」

 

それは枯れたかのように茎を垂らし、その花弁の先がまるで石のように固まっているセリーヌの姿だった。

 

「光り始めたと思ったら、いきなりこうなったの……」

 

ララと遊ぶ約束をして結城家にやって来ていた春菜が状況を説明する。その後ろではお静が「大変ですー」とパニックに陥っていた。

 

「そんな……遅かったのか……」

 

ラックベリーの実を落とし、力なく地面に膝を突き、項垂れて両手を地面につけるリト。その哀しそうな姿に唯が「結城君……」と声を漏らした。

 

ピシッ

 

と、その時、そんな何かがひび割れるような音が聞こえた。さらにそのひび割れる音は続いていく。その音の元はセリーヌの花弁の先、石のように固まっている部分だ。

 

「まうまうー!!」

 

そしてパリーンという音と共に、そんなまるで母の胎内から生まれ出でた赤ん坊のような産声が石のように固まっている花弁部分から聞こえてくる。その声を出したのは頭の上に花を咲かせている、人間態の子供と言える存在だった。

 

『……』

 

あまりにも予想外過ぎる展開に全員が固まってしまい、

 

「……は?」

 

ようやく、リトがそんな間の抜けた声を出すのであった。




お久しぶりです。なんとか辛うじて二か月空きにはならずに済みました。
今回は惑星ミストア編……植物に効果抜群な炎と氷の両方を使いこなせるエンザが無双しないよう調整するのが大変でした。で、結論がモモに乗じての威嚇というね。
さて次回はどうするかな。流石にセリーヌのあのイベントに炎佐を出したら色々めんどくさそうだし……クリスマスまですっ飛ばそうかな?……まあ、そこはまた後で考えるとしよう。
では今回はこの辺で。仕事が忙しくなってきてしまい不定期な更新ですが、次回も楽しみにしていただければ嬉しいです。そしてご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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