ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二十三話 海水浴

「わーい! 海だよ春菜ー!!」

 

ララの嬉しそうな言葉に後ろに立つリトが「見れば分かるって」とツッコミを入れる。

 

「すげ~綺麗な海~」

「ほんとです~」

「へ~」

「け、けっこう波があるわね……」

 

ナナが歓声を上げ、お静が同意。美柑が海を見回しながら言うと唯がそんな声を漏らす。

 

「ホーッホッホッホッホ! 青い空、白い雲、そして私――天条院沙姫!!! ようこそ皆さん! 我が天条院家のプライベートビーチへ!!」

 

沙姫がそんな声を出すが、はしゃいでいるララ達は完全無視しており、「話を聞きなさい!」と沙姫は叫ぶ。今日はリトやララ、炎佐達は沙姫に誘われて天条院家のプライベートビーチに遊びに来ていた。

 

「いっやー、オキワナ星では酷い目にあったからな~。天条院先輩のとこなら安心だ」

 

「あぁ、大変だったね」

 

去年の事を思い出しながら炎佐はリトの言葉に同意する。なおそんな彼は下はトランクスタイプの海パンだが上にはTシャツを着て麦わら帽子を被って釣竿を肩に担いでいる。

 

「ていうか炎佐、なんだその格好? 泳がねえの?」

 

「ああ、釣りでも楽しもうかなって……実はフレイム星人は炎を扱うがため、水は苦手なんだよ」

 

「そ、そうなのか!?」

 

「嘘だよ」

 

「嘘かよ!? ノッちまったじゃねえか!!」

 

炎佐の冗談をリトは信じ、嘘だと聞いてツッコミを入れる。

 

「まあ、流石にここまで来て賞金稼ぎに狙われる事はないだろうし、たまにはのんびりしたいんだよ。この前の夏祭りもナナとモモの子守で忙しかったし、途中からララの婚約者とバトるわ賞金稼ぎを銀河警察に突き出すわででんやわんやだったしさ。なんか最近仕事が増えた気がするよ、俺静養中のはずなのに……」

 

「ご、ご苦労様です……」

 

炎佐の言葉にリトは思わずそう言って頭を下げてしまう。

 

「えー? 氷崎泳がないの~?」

 

と、そこに里紗が残念そうな声を出しながら寄ってきた。黄色の大胆な水着を着用し、抜群のスタイルを際立たせて艶やかな笑みを見せている。

 

「ねぇねぇ一緒に泳ごうよ~?」

 

「そうですよエンザさ~ん」

 

里紗に悪ノリして花柄ワンピースの可愛らしい水着を着用しているモモもすり寄り、二人は胸を当てるような形で炎佐の腕に抱き付く。

 

「はぁ……」

 

それに対し炎佐はため息を漏らし、

 

「あれ?」

「あっ、ひゃっ!?」

 

直後間違いなく捕まえていたはずの里紗とモモの目の前から炎佐の姿が消え去る。そう思うとモモが突然宙に浮かぶ。違う、後ろに回り込んでいた炎佐に抱きかかえられていた。

 

「調子に乗るな。少し、頭冷やそうかっ!」

 

「ひゃわー!」

 

そしてそう言いながら炎佐はモモを海目掛けて投げ飛ばし、モモが海に落ちるどっぽーんという音が聞こえてくる。標準程度の体格で地球人の力では到底届かないような遠い場所に平然と投げ飛ばしている辺り、仮にも宇宙人の賞金稼ぎである。

 

「って、モモー!!!」

 

「大丈夫大丈夫。デビルークの子はこの程度で死にゃしないよ、いい薬だ」

 

「エンザ、本当容赦ねえよなぁ……」

 

リトが悲鳴を上げるかのようにモモを呼び、しかし炎佐はパンパンと手を埃でも払うように打ちながらそう言う。その様子にナナは苦笑を漏らしていた。

それからララ達は海に入る。なお戻ってきたモモが本人としてはちょっとしたからかいのつもりだったのにいきなり海に放り込まれる(しかも同じことした里紗は無傷)という理不尽な扱いに頬を膨らませており、彼女の怒りを鎮めるため結局炎佐も海に入る羽目になったのは別のお話。

 

 

 

 

 

「皆さん!! この辺りでスイカ割りなどいかがかしら!?」

 

沙姫がスイカを用意しながら皆を呼び、ララが「わー、楽しそー!」と目を輝かせて賛成する。と、その時ひゅーという音が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

その風切音に沙姫が気づいた直後、沙姫が立っていた地点に何かが直撃。砂が巻き上がる。

 

「「沙姫様!?」」

 

凜と綾が叫び、炎佐は遠くのナナが「あっ」と呟いたのを聞き逃さず、彼女を睨みつけると相手もにゃははと誤魔化し笑いを漏らしながら目を逸らす。

そして空から飛んできた物体こと結城リト――炎佐がナナとモモから聞き出したことによると、胸を触られた(しかもこれも御門がお願いしたお静ちゃんの念力が暴走したのが原因で、炎佐は今度は御門を睨むが御門はすいっと受け流していた)ナナが思わずリトを投げ飛ばしたのが原因らしい――が沙姫にひっぱたかれる。しかしリトの直撃の衝撃で沙姫の用意した高級スイカが全て割れて砂まみれになってしまっていた。

 

「ナナ、お前のせいだぞ」

 

「わ、悪かったって……」

 

炎佐がジト目でナナを睨むとナナもぼそぼそと謝る。

 

「あ、そーだ! モモ、スイカ持ってる?」

 

ララの言葉にモモが「あっ」と気づいたように声を出し、デダイヤルを取り出して操作を始める。

 

「? どう見ても持ってないじゃない?」

 

「モモはね、宇宙の色んな植物や木の実を収集して保管してるの!」

 

「ウリ星の食用スイカがありましたわ、お姉様」

 

沙姫が怪訝な表情でそう言い、ララが説明するとモモがデダイヤルを操作。モモの隣に光が走ると、彼女の身長ほどもあるスイカ――なお、茎なのだろうか手足が生えて大きな口からは舌がべろんと出ている――が出現する。

 

「これでいかがでしょう?」

 

モモは平然と、むしろ輝くような笑顔で尋ねるが手足が生えてるわ口があるわ挙句には舌が出てるわなスイカにリト達地球人はドン引きしている。なお炎佐は慣れてるのか感心した様子で「へえ、いいスイカだな」とか言っていた。

 

「こ、これで……スイカ割り、するの?」

 

ドン引きした様子の春菜が頬を引きつかせ、心なしか震える指でスイカ(仮)を指差しながら尋ねる。

 

「ご心配なく。食用なので大人しいですよ!」

 

「ああ。俺も食ったことあるしな」

 

が、モモは安心させるようにウインクしながらそう返し、炎佐もそれに同意する。なお後ろの方ではスイカ割りを知らないヤミに美柑がスイカ割りを端的に説明していた。

 

「だ、大丈夫かな?……何か怖い……」

 

モモの笑顔での説明でも恐怖を浄化しきれなかった春菜は怯えた様子で呟き、後ろの里紗と未央がうーんと声を漏らす。

 

「つーか不味そう」

 

「うん、不味そうだよね」

 

そして単刀直入に評価を下し、それを聞いたスイカ(仮)がぴくんと反応して震えだし、モモが「このコ結構味にプライド持ってるんですからそんなコト言うのやめてください!」と慌ててフォローに入る。

 

「ホーッホホホ!」

 

と、沙姫が高笑いを上げる。

 

「言っておきますけど、見かけがスゴい程味が大したことないのは常識でしてよ!! ましてお化けスイカの分際でプライドだなんて!! 生意気ですわ!!」

 

高笑いやその悪態は強がりなのだろうか、引きつった笑みでそう言う沙姫。

 

[うがーっ!!!]

 

とその瞬間スイカ(仮)が吼え、怯んだ沙姫目掛けて赤いベトベトした液体を吹き出す。スイカの果汁だ。

 

「ベ、ベトベト……ですわ……」

 

殺傷力自体はないが精神的に大ダメージな攻撃に沙姫はへたり込んで呆然とした声を漏らす。そしてスイカ(仮)は今度は里紗達の方を向くとその綺麗な球体状の身体を生かして転がり攻撃を仕掛けてくる。

 

「ひゃーっ! めちゃ怒ってる!!」

 

スイカ(仮)からすれば自分を侮辱した相手である里紗目掛けて回転突進、里紗も慌てて逃げ出すがスピードは段違いだ。

 

「ったく、世話の焼ける!!」

 

が、その時スイカ(仮)の前にエンザが立ちはだかり、青い両目でスイカ(仮)を睨みながら地面に左手を付けて力を集中。その瞬間砂場から氷の柱が斜め方向に突き出、転がってきたスイカはその氷の柱を転がる勢いで上がっていくとジャンプ台のように飛んでいく。

 

「「あ、あっぶなー……」」

 

「やれやれ。万一刺客に襲われた時の為にブリザド星人御用達、超低温にも耐えきれる特別素材の水着を着用しておいてよかったよ」

 

リサミオがほっと安堵の息を吐き、エンザはそう呟くとデダイヤルは近くにないのか直接氷の棍棒――手を滑らせて取り落さないよう握りやすいグリップも凍らせ具合を調節して作っている――を作り出して左手に握る。のんびりしたいと言いつつも刺客に備えてしまう辺り賞金稼ぎの職業病である。

 

[ギャース!!!]

 

なんか怪獣っぽく吼えるスイカ(仮)。まだ暴れるつもりらしく、モモが「スイカさん落ち着いて!」と呼びかけるが効果は薄い。

 

「待て!! それ以上暴れるなら、僕が相手だ!!」

 

「レンちゃん!」

 

と、一緒に海水浴に来ていたレンが凛々しく声を上げてスイカ(仮)の前に立ちはだかる。

 

「叩き割ってやる! くらえ必殺!!――」

 

叫び、同時にスイカに飛びかかる。凄まじい突進力だ。

 

「――サイクロン・グレネイド!!!」

 

その勢いのまま振りかぶった拳をスイカに叩き付けんと振り下ろす。

 

[ブーッ!!!]

「ぶわーっ!!??」

 

しかしその拳が届く前にスイカ(仮)が果汁を吹き出して反撃、その勢いにレンは吹っ飛ばされた。なお砂場に叩きつけられた時巻き上がった砂に鼻腔を刺激されたかくしゃみをしてしまい、レンの代わりに出てきたルンがリトに抱き付いているのは全くの余談である。

 

「せいやっ!!」

 

続けてエンザがスイカ(仮)に氷の棍棒を叩きつけるが、全力でぶっ叩いたにも関わらずスイカ(仮)の身体にはヒビ一つ入らず、エンザは相手が手を変形させて触手のように巻き付いてくるのをかわして距離を取る。

 

[ププププププッ!]

 

が、スイカ(仮)は口からなんとスイカの種を吹いて遠距離攻撃を仕掛け、エンザはぎょっとしつつもそれを棍棒を振るい叩き落とす。そして棍棒を投げ捨てると左手をスイカに向けた。

 

「だったら冷凍スイカにしてやるよ!!」

 

スイカ(仮)周辺の温度を急激に下げ、スイカ(仮)を凍らせようと試みるエンザ。だがスイカ(仮)は動けなくなる前に再び転がってエンザに突撃、さっきのように氷柱を使って受け流すのも間に合わず、エンザは咄嗟にその場を飛び退いた。

 

「へ? うぎゃー!!!」

 

スイカ(仮)の回避兼エンザへの反撃である転がり突進をエンザ自身は避けたもののその突進の先にいた猿山が巻き添えをくってその突進をくらってしまい、海の方へと撥ね飛ばされる。

 

「まずい!」

 

モモならともかく地球人である猿山では危険だと判断したエンザは咄嗟に彼を助けるために走り、海の上に足を乗せる。

 

「はああぁぁぁっ!!!」

 

彼が踏もうとした海面が凍り付き、彼の片足を乗せられる程度の大きさの足場となる。さらにその氷の塊が沈むより前にもう片足を前に出してその足が踏もうとする海面を凍らせる。そしてさらにその氷の塊が沈むより前にもう片足を前に出す。というのを繰り返し、まるで海の上を走っているかのようにエンザは猿山を追いかけた。

 

「間に合わない……」

 

だが撥ね飛ばされた猿山のスピードはなかなかのもの、エンザはそう呟くと少しでも追いつきながらも猿山が海に叩きつけられるより前に左手を海面に叩き付ける。

 

「凍り付け!!!」

 

叫ぶと共にブリザド星人の力を解放、海を猿山の方目掛けて一直線に氷の道を作るように凍らせていき、猿山の落下予想地点に当たる部分でその氷を広げる。

 

「へぶぎゃっ!!」

 

海に叩きつけられる代わりに氷に叩きつけられる羽目になった猿山の悲鳴が聞こえてきた。

 

「サルー! 大丈夫ー?」

 

「さ、さみー! 早く助けてくれー!!」

 

猿山を助ける代わりに自分が海にダイブする羽目になってしまったエンザが呼びかけ、猿山は水着一丁で氷に囲まれていてはしようがないか、また別の悲鳴を上げていた。

 

 

 

 

「モモ! 姉上が捕まってるぜ!!」

 

エンザが猿山を助けに走っている間に、スイカ(仮)は転がった先にいた美柑を捕らえ食べようとしたのだが、それを阻止するためにララが飛び蹴りをくらわせるが、スイカ(仮)の丈夫さはララの蹴りをも耐え、逆にララを長い舌で捕らえると彼女他デビルーク女性の弱点である尻尾に巻きつき、ララを無力化させたのだ。

 

「スイカさーん、もうお止めになってー!! スイカさーん……」

 

モモが呼びかけるが、その呼び声はどんどん小さくなっていく。ナナも不思議そうに「モモ?」と声をかける。

 

「モ……」

「恐怖をもって理解させるしかないのかしら……」

 

そう呟くモモの目元には影が出来ており、双子の姉であるナナも引いていた。

 

「止めろー!! ララを離せー!!!」

 

と、リトがスイカ割りに使う棒を手にスイカ(仮)に果敢に挑む。うりゃあああ、と雄叫びをあげながら棒でスイカ(仮)を滅多打ちにするが、ララの力でさえ動じなかったスイカ(仮)は全く意に介さず、いや、うっとうしいと思ったのかリトを押し潰さんと片腕を振り上げる。

 

 

「あわわわわわ」

 

慌てるリト。しかし、その次の瞬間ズカッという音が聞こえたと思ったら、スイカ(仮)が中心から真っ二つに割れた。いや、それは鋭利な刃物で斬ったかのような跡を見せている。

 

「……」

 

スイカの後ろに、目隠しをしたヤミが刀に変身(トランス)させた髪を握りながら立っていた。

 

「これでいいんですか? スイカ割りという遊びは?」

 

「え?」

 

「け、気配を頼りに斬るのはちがうかな……」

 

この大パニックに関わらず平然と本人的にはスイカ割りをしてみせたつもりであるらしいヤミにリトは呆然とし、美柑も冷静にツッコミを入れた。

 

 

 

「ん~……美味しいですね、このスイカ!」

 

「ホントね」

 

シャリシャリと小気味いい音を立てながらスイカ(仮)の残骸を食べるのはお静ちゃんに御門、ルンや炎佐と、お静ちゃん以外は宇宙人メンバー。お静ちゃんの満面の笑顔での感想にモモは「これでスイカさんも報われます!」と嬉しそうに言う。

 

「ごめんなさいね、お騒がせして。皆さんもいかがですか?」

 

次に地球人メンバーに呼びかけるモモ。しかし沙姫がまだぴくぴくと足を動かしているスイカ(仮)を見て「結構ですわ!」と絶叫して拒否する。

 

「やれやれ……」

 

「リト……」

 

ぼやくリトと彼を見るララ。彼女は恋する乙女のように愛らしい笑みを浮かべていた。

 

[? どうかしましたか、ララ様]

 

「えへへ、なんでもない!」

 

ペケの問いかけるような言葉にララは笑いながらそう返した。




今回は海水浴。今回は特に凜にスポットを当てる事を目指したんですけどね……失敗です。なにせこの子、自分からすすんで炎佐と絡んでくれないんですよね。基本的に炎佐の行った先に偶然いました、でもって炎佐から絡んでいきますみたいな受動的なパターンしか出せないんですよ。あと、沙姫が一緒だと沙姫優先しちゃうから炎佐と絡んでくれない。(なお、サブヒロイン仲間でも美柑はリトの妹だし、里紗はクラスメイトだしで能動的に絡んでいける。御門もやろうと思えば絡んでいけるし彼女の場合炎佐も割とエンザとしての素を見せてくれるのでまた別の絡み方を出せる。メインヒロインの恭子に至っては設定の関係上普段は出しづらいものの出そうと決めてネタが思いついてくれれば全力で自分から絡みに行ってくれる……なおサブヒロイン候補(笑)だがリコは例外とする)
さて次回はどうするかな……今回凜にスポット当てられなかったし、どこかで凜にスポットを当てるオリジナル回でも考えるか……ま、それはまたその内考えるとしますかね。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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