ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二十話 ダブルデート

「ふんっふふんふ~んっ♪」

 

「……はぁ」

 

炎佐は前を歩くロングヘアベレー帽メガネっ子こと霧崎恭子変装状態を見ながら一つため息を漏らす。炎佐が数日前リコとデート(籾岡談)をしている中で手に入れたウサギさん人形を恭子を見つけ、その事から炎佐が女の子とデートをしたのだという事を知った彼女は何故か不機嫌になってしまい、機嫌を治すために一緒にお出かけをすることになってしまったのだ。ちなみに炎佐は恭子とのお出かけそのものは別に良いのだが何故恭子が不機嫌になったのかが理解できずため息を漏らしているのである。

 

「さーエンちゃん。まずはゲームセンターにでも行こっか!」

 

「へいへい」

 

恭子の言葉に炎佐はため息を漏らしながら頷く。が、彼は恭子の向こうに見覚えのある後ろ姿を見る。

 

「あれって……ちょっとキョー姉ぇごめん」

 

「え?」

 

炎佐は恭子の肩に手をポンと置いて一言詫びてから目線を遠くに向ける。

 

「サル!」

 

「ん?」

 

響く呼び声に彼が見ている少年は声に反応して振り返る。ちなみに彼の隣に立っていた少女もびくぅっと飛び上らんというか身体を震わせるような反応を見せ、硬直していたが。

 

「お、炎佐!」

 

炎佐が声をかけた少年、サルこと猿山は炎佐を見てにっと笑い、炎佐達が猿山の方に駆け寄ると、猿山は彼の隣に立つ恭子を見る。

 

「あ、えーっと確か彩南祭に来てた炎佐の従姉弟の姉ちゃん、だっけ? 初めまして、猿山ケンイチっす」

 

「うん、氷崎恭香。今はエンちゃんとデート中♪」

 

「ご機嫌取りの散歩だよ。最近仕事の合間に遊びに来るのはいいけど部屋の隅っこでむくれられちゃこっちの気が滅入る。仕事のストレスだったらしょうがないけど喋ろうとしないしさ」

 

猿山の自己紹介に対し恭子も現在の状態での偽名を名乗って冗談交じりに炎佐とのデートだと口にする。が、炎佐はあくまでも恭子の原因不明の不機嫌を治すための散歩だと主張していた。

 

「で、サルも散歩?」

 

「ふっふ~ん。それはどうかな? 実は俺達もデート中なのだ!」

 

炎佐の言葉に猿山は得意満面な笑顔で宣言。と、彼の隣に立っている少女が僅かにうつむいたのに炎佐は気づくが、直後うつむぎ気味な状態から見えるその顔立ちが以前、というか最近見たものなのに気づく。

 

「……もしかして、リコちゃん?」

 

その言葉に少女はびくぅっと身体を震わせ、僅かに飛び上がる。

 

「こ、こんにちは……」

 

そして少女――リコは炎佐の方を向くと引きつった笑みで挨拶を見せる。

 

「ん? なんだ、炎佐ってリコちゃんと知り合いなのか?」

 

「ああ、まあね。ちょっと前にチンピラに絡まれてるのを助けたんだ」

 

炎佐とリコの掛け合いを見た猿山が尋ねると炎佐はそう答える。と、猿山はへーと頷いてははっと笑った。

 

「世間って結構狭いよなー。あ、炎佐知ってっか? リコちゃんってリトの遠い親戚なんだってよ」

 

「そうなの!? それは知らなかったよ。リトったらだったらあの時紹介してくれればいいのに」

 

猿山と炎佐は笑い合いながらそう言い合う。

 

「ご、ごめんなさい。その時はそんなつもりじゃなか……じゃなくって、炎佐さんがリトさんの知り合いだったなんて知らなくって……あの、この前は急用が出来たとはいえごめんなさい」

 

「ん? あーいいよいいよ」

 

今度はリコと炎佐が話し合い始めた。と、リコは炎佐がじろじろとした不躾な視線ではないものの、自分の格好に注目していることに気づく。

 

「あ、あの……どこか変ですか?」

 

「え? あ、あぁごめん! 前の時はボーイッシュな格好だったから新鮮だなって」

 

「そ、そうですか……に、似合わない、ですか?」

 

「え? ううん。むしろとっても可愛いと思うよ?」

 

「可愛い……その、ありがとうございます」

 

炎佐はリコに可愛いという評価を与え、リコもリトとしては内心複雑だがどこか嬉しさを隠しきれず嬉しそうにお礼を言う。

 

「「……」」

 

炎佐とリコに話に没頭されて面白くないのは元々二人の相手役だった猿山と恭子だ。完全に忘れ去られている。

 

(くっそー。まさかリコちゃんと炎佐が知り合いだったとはな……自慢してえから呼び止められちまったけど、こんな事なら聞こえなかったことにして無視しちまえばよかった……ってかリコちゃん、なんか楽しそうだな……)

 

(むー。エンちゃってば……まさかあの子がそのデート相手? むむむ、結構可愛いなぁ、それに話によるとエンちゃんの友達の従姉弟……だったらその繋がりでどんどん進んでいく事もあり得ない事はない……強敵出現かな?)

 

猿山と恭子は互いにライバル出現に戦慄する。といっても恭子の方は今回初めてライバルになりうる女子を見つけただけなのだが、既に用事もなく雑談で話したり一緒にお出かけしたりといえるほどに仲が良い女子なら炎佐には何人かいる事は知らない。

 

「「!」」

 

と、二人は互いにもう一組の相手に気づく。そして、二人とも自分にならば分かった。互いに目的は一緒だ。

 

「「!!」」

 

二人はがしっと握手をする。この瞬間、炎佐とリコを引き離す同盟が二人の間に誕生した。

 

「ねえキョー姉ぇ、サル。リコちゃんがせっかくだから一緒にどうかって言ってきたんだけど?」

 

「一緒の方が楽しいですよね…(…さっき映画館で猿山のやつ妙な事企てやがったからな……炎佐が一緒なのは違う意味でやべえけど、これも自衛のためだ。うん)」

 

リコ――というかリト――はさっきラブロマンス映画を見ていた時猿山が手を握ろうとしてきた事を思い出し、これがエスカレートされる前に炎佐を巻き込み、人を増やしてそんな雰囲気に持ち込ませない事を画策していた。人、それも知り合いが増えるというのは自分の正体がばれる可能性が高まるという事でもあるのだが、そこは自分の直接的な身の安全のために許容するらしい。

 

「え? いやでもエンちゃん、二人の邪魔しちゃ悪いし……」

 

「いいよね、サル?」

 

恭子はすぐさまそれを止めさせようとするが炎佐はにこりと微笑みながら猿山に問いかけ、本人無意識だろうが軽く威圧。さらにリコが「猿山さん……」と上目遣いに潤んだ目で言う。

 

「……お、おう! やっぱ友達同士が楽しいもんな!」

 

炎佐の無意識威圧&リコのお願いに負けた猿山が同行を許可。つまり多数決でダブルデートな形が可決され、リコはさりげなくよしっとガッツポーズ、恭子はがくっと肩を落とし、猿山がすんませんと恭子に手を合わせ、炎佐がそれらに首を傾げていた。

それから傍目ダブルデート、実際のとこ男女一人ずつがデートと主張、残る男女一人ずつはそうとは思っていないお出かけ――しかもデート主張組はカップルではない――が続き、炎佐とリコが談笑。恭子が炎佐の隣に、猿山がリコの隣に立って話に入れず不満げになっていた。

 

「あら、氷崎君に猿山君じゃない」

 

「あ、古手川さん」

 

そこに声をかけてきた少女――古手川唯に炎佐が声をかけ返す。

 

「そのコ達は……お友達?」

 

唯がリコと恭子を見て問いかけ、猿山が「おう!」と返すとリコは硬直しつつ「こんにちは」と挨拶。と、唯はリコと恭子を交互に見た後不思議そうな表情を見せ、リコの顔を覗き込む。

 

「なんか……誰かに似てるような……」

 

「……え?」

 

唯のまじまじとリコの顔を覗き込みながらの言葉に彼女もどきっとなる。

 

「ああ、このコ、リトの親戚らしいんだ」

 

「結城君の!?」

 

猿山が説明というか助け舟を出し、唯も驚いたように声を出した後何かを考えるような表情を見せる。

 

「どうかしたのか?」

 

「な、なんでもないわよっ!!」

 

猿山の言葉に唯は僅かに声を荒げて返し、ぷいっと顔を背けるがその時顔が恭子の方を向いてしまう。

 

「あ、えっと……」

 

「初めまして、エンちゃ……炎佐の従姉弟の氷崎恭香って言います♪」

 

口ごもる唯に恭子はにこっとアイドルスマイルをサービスしながら偽名を名乗る。

 

「えっと……ん?……失礼ですが……どこかでお会いしましたか? 見覚えがある顔のような……」

 

(ぎくっ!)

 

唯の首を傾げながらの問いかけに炎佐が反応。恭子は今をときめく女子高生アイドル。テレビにもよく出ているため顔はよく知られている。そのため騒ぎにならないように現在彼女はロングヘアベレー帽メガネっ子に変装しているのだが、間近で確認されたらばれる可能性は高い。が、恭子は「あ~」と納得したように頷いた。

 

「私、この辺で派遣社員やってるからさ~。よく外回りとかしてるし、きっとどこかですれ違ったりしたんじゃないかな?」

 

「……そう、かな?……」

 

恭子の誤魔化しに唯は首を傾げぶつぶつ何か呟くが、やがて納得したようにうんと頷く。

 

「そうかもしれません。失礼しました」

 

「ううん、気にしないで」

 

ぺこりと深く頭を下げる唯に恭子はにこにこ微笑みながら返す。唯は「もう帰らなきゃ」と呟いた後、四人、特に猿山を睨むように見る。

 

「……氷崎さんは良識ありそうだし、氷崎君がいるなら心配なさそうだけど……くれぐれもハレンチな事はしないようにね!!」

 

唯は形式的にそう注意をした後、歩き去っていく。リコはほぉっと胸を撫で下ろした後、何か思いついたようにごくりと唾を飲み込んでいる猿山に気づいて戦慄する。

 

「サル、一応言っておくけどキョー姉ぇはもちろん、友達であるリコちゃんに手を出したら殴るからね?」

 

「な、なんのことかなあははははーっ!!」

 

様子の変わった猿山に炎佐が目を研ぎ澄ませ殺気を送ると猿山はびくっとなって慌てて誤魔化し始めた。

 

 

 

 

 

(う~ん、でも……やっぱりどこかで見たような。すれ違いとかじゃなくってしっかり顔を……)

 

唯はまだ気になっているのか、帰路につきながら恭子を見た時に感じたデジャブを考えていた。

 

「あっ」

 

何かを思い出し、立ち止まった唯は肩にかけていた鞄から参考書に紛れて入っていた雑誌を取り出す。[爆熱少女マジカルキョーコ特集]という文字が目立ち、その文字の下ではマジカルキョーコがポーズを取っていた。

 

「……」

 

じっとマジカルキョーコの顔を見つめる唯。が、少しするといやいやと首を横に振って雑誌を鞄にしまった。

 

「まさかね。氷崎君宇宙人だし、だったらそれの従姉弟だっていう氷崎さんも宇宙人のはず。きっと他人の空似ね」

 

唯は霧崎恭子が宇宙人のはずがない、宇宙人である炎佐の従姉弟ならば氷崎恭香も宇宙人のはず。よって氷崎恭香と霧崎恭子は同一人物ではない。と彼女らしい筋道立てた論理的な思考で納得。

 

「それに、見知らぬ人に対して詮索するのも失礼だし」

 

そう言って唯はこの疑問を解決したことにして再び歩き始める。が、彼女の推考は霧崎恭子=地球人という前提から間違っており、その予想が実は当たっていた事を彼女は知らない。

 

 

 

 

 

「君のこと~♪ 全部好き~、全部好き~、全部好きぃ~♪」

 

唯と別れた後、四人はカラオケにやってきていた。猿山の妙にハウリングが目立つ感じの歌に炎佐が笑いながら「下手くそ~」と茶々を入れ、リコは苦笑。恭子も笑っていた。

 

「はぁ~歌ったー。どうどうリコちゃん? 俺の歌!」

 

「あ、えーっと……上手ですね……」

 

「だろだろ! この歌をリコちゃん、君に捧ぐ!」

 

猿山はリコにアタックを繰り返し、リコは頬を引きつかせて愛想笑いを見せながら僅かに身を引かせる。

 

「じゃあさリコちゃん! 次は俺とデュエットなんてどう?」

 

「え、いやーえっと……」

 

「んじゃ、僕も適当に歌うか」

 

猿山がリコにアタックしている横で炎佐は適当な歌をセレクトし、リモコンで操作を始める。

 

「えーっと、いいの?」

 

「流石に猿山もあそこまで釘差しとけば無茶はしないって。まあしたらしたでぶん殴るけど」

 

リコを無視してカラオケを楽しもうとする炎佐に恭子は苦笑しながら炎佐に問いかけ、それに炎佐は若干だが猿山を信用しているというオーラを見せながらそう言い、歌を機械に入れるとマイクを取る。

 

「ふ~ん……信用してるんだねぇ」

 

何故か演歌を歌い出した炎佐を見ながら恭子はくすっと笑みを零した。

それからカラオケはなんと恭子が爆熱少女マジカルキョーコOPから始まって恭子CD曲メドレー――しかも全曲振付けつき、本来ないものは即興のアドリブだ――という、霧崎恭子オンステージを最後にして幕を閉じた。ちなみにリコと猿山は幸いにして「恭香さん歌上手だなー」くらいの感想しか持たなかったもののカラオケから出た後その件について、リコと猿山の後ろで炎佐が凄まじい剣幕かつ二人に気づかれないように恭子に説教をし、恭子は「はいはいさーせんさーせん」と悪戯っぽく笑いながら若干大雑把に返答していたのは別のお話。

 

 

 

 

 

「ん? あれって……」

 

四人が歩いている商店街にあるベンチ、そこに座っている美柑――その横ではヤミがたい焼きを齧っている――は目の前を歩いているリコと猿山と炎佐と恭子を発見する。

 

(リ、リト!? なんでまた女の子になって猿山さんと歩いてるの!? っていうか炎佐さんも、何あの女の人!……うぅ、び、美人で大人っぽい……)

 

美柑は我が実兄がまたも女の子と化してその親友とデートしている事に驚いた直後、実兄の親友にして頼れる存在が美女とデートしている事に絶句する。

 

「美柑……大変ですね」

 

「えっ!?」

 

何か見通したヤミの言葉に美柑はびくっと身体を震わせた後、顔を真っ赤にしてヤミの方を向く。

 

「い、いや別にっ! あれが炎佐さんの恋人だって決まったわけじゃないし、そもそも別に私――」

「……エンザがどうかしたのですか?」

「――……はい?」

 

あたふたと弁解を始める美柑にヤミがことんと首を傾げながら問い返し、それに美柑は目を点にしてぴたっと動きを止める。

 

「いえ……あの前方を歩いている女性……あれは結城リトではないですか? 何故あんな格好になっているかは知りませんが、この星ではああいうものはあまり一般的ではないと聞いています」

 

「えっ!? あ、あ~、うん! そうだね! そ、そういう趣味に目覚めちゃうなんて、私流石に認められないよねあははははー!」

 

ヤミの冷静な指摘に美柑は誤魔化し笑いを始め、ヤミは不思議そうに再びかくんと首を傾げた。

 

 

 

 

 

「ちょっと疲れたね、休もっか!」

 

「うん……」

 

適当な公園の適当なベンチ。猿山の言葉にリコが頷いてベンチに腰掛けると猿山もその隣に座ろうとする。

 

「はいサル、ジュースでも買ってくるよ」

 

「なっ!? 一人で行きゃいいだろ一人で!」

 

「気の効かない男は女にモテないよ~」

 

「行ってきます!!!」

 

炎佐の言葉に猿山が叫ぶと恭子が茶々を入れるように炎佐を援護。それを聞いた猿山は素早く立ち上がって背筋を伸ばし、びしっと敬礼まで決めて「さあ炎佐自販機はどこだ!?」とか言いながら走っていく。

 

「じゃ、キョー姉ぇ。すぐ戻るから。念のため言っとくけどリコちゃんに変な事吹き込まないでよ?」

 

「はいは~い♪」

 

炎佐は釘を刺してから猿山と一緒に自動販売機に飲み物を買いに行き、しかし手近な自動販売機は偶然にも故障中。少し離れた場所に行かねばならず、二人の姿がリコ達の視界から消えた。

 

(た、助かったぜ炎佐……猿山が戻ってくるまで少し休憩……)

 

「ねえねえ」

 

リコは炎佐が彼は意図してないとはいえ猿山を連れだしてくれたことに対し心中で礼を言い、今の内に少しでも精神的に回復しておこうと考えるが、その前に恭子がリコに声をかける。それにリコはうっと漏らしながらも「なんですか?」と笑顔で返す。

 

「そういえば聞きそびれてたんだけど。あなたってエンちゃんの友達のリト君の親戚なんだってね?」

 

「あ、はい。そういうことに……じゃなくって、そうです」

 

恭子の問いかけにリコはこくんと頷き、それを聞いた恭子は「そっか」と嬉しそうに微笑んだ。

 

「エンちゃんさ、いっつもリト君の話してるから気になってたのよ。会ってみたいのに会わせようとしてくんないしさ」

 

「……どうしてですか?」

 

「ん~。まあ、こっちも色々複雑な事情があるから……えっと、リコちゃんってエンちゃんの秘密知ってる?」

 

「……あ、はい。宇宙人の事ですか?」

 

恭子が確認するように尋ね、それにリトが炎佐の正体の事を指しているのかと察して確認を取ると恭子はそう、と頷いて右掌を上に向ける。その上からくるくると炎が球体状に渦巻いた。

 

「私はフレイム星人と地球人のハーフでね。ほら、今この星じゃ宇宙人の存在って大っぴらにされてないじゃん? だからエンちゃんはもし私が宇宙人だってばれて社会的に危うくなったらって心配してるんだと思う。あんま詳しく言えないけど、私評判とかが超優先な仕事だから」

 

「はぁ……でも、それでなんで……」

 

「後は、エンちゃん昔色々暴れて名が売れて恨み買ってるっぽくってね。私を守るためにもなるべく関係を秘密にしてるみたい。実際ちょっと前に私とエンちゃんの関係がばれて、私捕まって人質にされかけたし……」

 

「……」

 

恭子の説明を受け、リコは絶句。それはちょっと前にリト達の学校の養護教諭であり宇宙の闇医者ドクター・ミカドこと御門先生を攫うために地球に来たソルゲムの襲撃の事を言っていた。

 

「纏めたら、エンちゃんは私の心身の安全及び社会的信用、もしエンちゃん自身の正体がばれても私にまで火の粉が飛びかからないように私達の関係を内緒にしてるって事だね……エンちゃん、昔の癖なのか妙に相手を疑ってかかるとこあったし」

 

恭子はそこまで言うとふふっと笑った。

 

「でも、だからこそリト君には興味あるんだな~」

 

「え?」

 

恭子の笑いながらの言葉にリコはぽかんとする。

 

「そのエンちゃんが親友と言って、自分の正体を明かしてる。そこまでエンちゃんに信用されてるなんてどんな手を使って籠絡したんだろ? 興味があると同時に少しばかり妬けちゃうね」

 

「あ、あはは……」

 

親友云々はともかく正体を明かしてしまったのはララによるのっぴきならない事情であり、多分それがなかったら今でも炎佐は地球人氷崎炎佐としてリトと接していたんだろうが。まあ、そんなifは置いておく。

 

「まあ、まずはエンちゃんがいない内にリト君へのアプローチだね」

 

「あ、アプローチ!?」

 

「そ。というわけで、リコちゃん。リト君の携帯番号とか教えてみない?」

 

にやっと悪戯っぽく笑って携帯を取り出しながら迫る恭子。その姿にリコは笑みをこれ以上ないほどに引きつかせて恭子から離れる。ある意味、猿山相手以上のピンチだった。

 

「ふんっ!」

 

と、そんな掛け声、ヒュンッという風切音、

 

「ぎゃん!?」

 

恭子の悲鳴が連続する。その後ベンチに何かが当たり、落ちる。ジュースの缶だ。

 

「きょ、お、ね、ぇ?」

 

「あ、あら~エンちゃん……」

 

その直後ベンチの前に炎佐が立ちはだかった。多分恭子がリコに迫っているのを見て買って来たジュースの缶を投げたのだろう。と、思うと炎佐は恭子の腕を取って引っ張り立ちあがらせる。

 

「リコちゃん、ちょっとキョー姉ぇ借りるね」

 

「あ、は、はい……」

 

威圧感を消しきれてない微笑みにリコは軽くびびりながら頷き、しかし炎佐は返答も聞かずに恭子を引っ張っていた。

 

「ちょ、ちょっとエンちゃん! 私リコちゃんに用事が!?」

 

「その用事の内容含めお前がリコちゃんに何吹き込んで何を話したかゆっくりじっくり聞かせてもらおうか!?」

 

「きゃー助けて攫われるー」

 

炎佐と恭子はそう言って消えていき、リコは目をパチクリさせ、猿山も頬を引きつかせながらも心なしか「GJ!」と言いたげに小さく親指を立ててリコの隣に座った。

そして公園から出た道路、人気のないそこで炎佐は恭子に尋問を行っていた。と言っても恭子自身隠す理由もないためか割と正直にさっきリコに話していたことを話す。

 

「……リコちゃんが、俺の正体を知ってた?」

 

「うん」

 

「んな馬鹿な、俺リコちゃんに正体教えた覚えなんてないぞ? リコちゃん助けてチンピラと戦った時も徒手空拳だけで倒したし……」

 

「そうなの? ごめん。迂闊だったね……でも、私エンちゃんの秘密としか言ってないのにリコちゃん宇宙人の事かって聞き返してたし……」

 

「もしかしたらリトが話したのかも……後で確認取っとこう」

 

あっさり宇宙人としての正体をばらしてしまった軽率さに流石に恭子は謝るが炎佐は何故リコが自分の正体を知っていたのかに首を傾げ、後でそれを教えそうな相手に確認を取ろうと決める。

 

「で、リトの携帯番号知ろうって……なんで?」

 

「だってエンちゃん、いっつもリト君の話して、会わせてってお願いしても会わせてくんないんだもん。だったらいっそ私から会いに行っちゃおうかなって」

 

「絶対ダメ。断固阻止する」

 

恭子のリトに会ってみたいという願いを炎佐は一蹴。恭子はジト目にふくれっ面で「エンちゃんの意地悪」と言うが炎佐はふんと鼻を鳴らして彼女から顔を背けた。

 

「そもそも、リトの友達にキョー姉ぇの大ファン……っていうのかな? マジカルキョーコの大ファンがいるからばれたら色々と話がややこしくなるんだよ」

 

「なんか余計に気になっちゃうんだけど。なに? ファン?」

 

「しまった……」

 

炎佐の言葉を聞いた恭子が目を輝かせ、炎佐は己の失言を悔いる。

 

「さ、そろそろ戻ろうか」

 

「こらーエンちゃん誤魔化すなー」

 

さっきの発言をなかったことにする炎佐とそれを追いながら文句を言う恭子。わあわあと言い合いをしながら二人はリコ達のところに戻ろうと公園に向かう。

 

「え!? あ、え、氷崎君!?」

 

「西蓮寺さん?」

 

「あ、去年の黒猫の子だ」

 

と、どこか慌ててる様子の春菜に遭遇、彼女が目をパチクリさせながら炎佐を呼び、炎佐もどうかしたんだろうかと首を傾げながら彼女の名を呼ぶと恭子は去年の彩南祭を思い出す。

 

「あ、えっと氷崎君の従姉弟のお姉さん? こ、こんにちは! えと、それじゃ!」

 

春菜は恭子への挨拶もそこそこに慌てた様子で走り去っていく。

 

「……どうしたんだろ?」

 

「何か急いでるみたいだったし、何か用事でもあったんじゃない?」

 

炎佐が首を傾げ、恭子がそう予想すると炎佐も「そっか」とだけ返し、二人は公園に入る。

 

「「あれ?」」

 

が、そこにいたのは猿山のみ。「よう」と手を挙げている。

 

「リコちゃんは?」

 

「あーいや、なんかいつの間にかいなくなっちまっててよ」

 

猿山は「きっと用事があったんだな。きっとそうだ」と一人納得しており、炎佐は「まさかセクハラでもしたんじゃないよね?」と呆れた様子で問いかけ、それに猿山が「んなわけねえだろ!」と憤慨。炎佐はやれやれと肩をすくめて「そういう事にしといてあげるよ」とまるで漫才みたいな掛け合いを行う。

 

「ま、リコちゃんがいなくなっちまったんじゃしょうがねえよな。今日はもう解散って事でいいか?」

 

「うん。またね」

 

猿山が解散を宣言。恭子がばいばいと手を振ると猿山もにやけながら「さいなら~」と言って去っていく。

 

「この前もリコちゃん黙っていなくなっちゃったんだよね。リトに伝言残して」

 

「そうなんだ……実は仕事でもしてるのかな?」

 

首を傾げながら話す炎佐に恭子も自分がそうであるためかリコが何か仕事に就いている可能性を考える。

 

「まあ、気にしてもしょうがないか。帰りに晩御飯の材料でも買おう。キョー姉ぇ、何食べたい? 明日からまたしばらく仕事でしょ?」

 

「あ、うん。んじゃハンバーグとカレー」

 

「はいはい」

 

晩飯の献立の相談をしながら二人は公園を出ていき、手近なスーパーへと足を進めたのであった。

 

 

 

 

 

「で、で! 今日炎佐さんと一緒にいた人は、炎佐さんの従姉弟で、別に恋人ってわけじゃないんだよね!?」

 

「あ~、いや俺も詳しくは知らないけど、そうなんじゃねえの?……」

 

結城家。美柑からの強い口調での確認にリト――妙に落ち込んでいる――は若干投げやりに返し、しかし美柑は「よかったー」と安堵の台詞を漏らしていた。

 

「どうしたんだよ、美柑?」

 

「えっ!? べ、別にリトには関係ないじゃん! じゃ、私ご飯作るから!」

 

流石に疑問を持ったのかリトの問いかけに美柑は若干顔を赤くしながらそう言い、台所に向かう。が、その足取りは弾んでおり、僅かながら鼻歌を歌っていた。

 

「?……ん?」

 

美柑の様子にリトは首を傾げた後、自分の携帯が鳴っているのに気づきポケットから取り出す。

 

「炎佐?」

 

噂をすればなんとやら。電話の相手の名前を呟いた後、リトは電話に出る。

 

「もしもし?」

 

[リト? 今日サルがリコちゃんと遊んでるとこに偶然合流して、その中で聞いちゃったんだけど。リト僕が宇宙人だって事リコちゃんに話したんだって?]

 

「えっ!? あ、あー……うん、まあその、つい口が滑って……」

 

[あのさー。リトはララちゃんが近くにいるから麻痺ってるかもしれないけど、宇宙人の正体が公になったら困っちゃうんだって。特に僕は賞金稼ぎとかに顔売れてるし……]

 

「いやー悪いって! 気をつけるから!」

 

実際はリトとリコは同一人物なので情報漏えいもくそもないのだが話がややこしくなるしリコの正体をばらすわけにもいかないのでリトはとにかく平謝りをし、炎佐は「まったく」とため息交じりに呟く。

 

[まあ、ちょっと確認と念押しだけのつもりだったから。でもほんと気をつけてね? 僕の正体を知っちゃったがために無関係の人まで狙われるなんてなったら後味悪いし]

 

「うん、ほんとごめん。気をつける」

 

炎佐は自分の正体が公になってしまう事よりも、自分の正体を知ってしまったために無関係の人を巻き込んでしまう事を心配している。それを察したリトは再び謝罪の言葉を口にする。炎佐もリトを信じているのか「お願い」と返すだけだった。

 

[あ、それとリコちゃんに今日は楽しかったっていうのと、もしサルにセクハラでもされたらいつでも相談に乗るからって伝えといて]

 

「……ああ、伝えとくよ」

 

最後に炎佐が明るい口調で伝言を頼み、リトがそれに苦笑交じりに頷くと、「またね」という言葉を最後に電話は切れ、リトも「おう」と頷いた。

 

「リトー。カレーに使うニンジン、冷蔵庫から出しといてくれるー?」

 

「ああ、分かった」

 

美柑からの呼びかけにリトは頷き、携帯を手近なテーブルに置いて立ち上がると台所に入っていった。




というわけで二話連続のリコ編および恭子とのデート編でした。ちなみに最初は恭子の目の前でリコの女体化が解けてしまい、恭子に対してのみリコの正体、つまり彼が炎佐の親友リトであることをばらす。という流れを考えていましたがめんどくさい事になりかねないと思ったのでやめました。
さて、いよいよ彼女らの登場回だ。どういう風に書こうかなっと……ま、今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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