ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第十九話 SexChange

「氷崎、炎佐君……ん~? ひふぁきは休みか~?」

 

とらぶるくえすとから数日後、彩南高校2年A組、朝のHRで出席を取っている担任骨川教諭は炎佐の名を呼び、しかしそれに返答がないため確認を取る。と、リトが手を挙げる。

 

「あ、えっと、氷崎は今日風邪で休むそうです!」

 

「お~そうか……ん~? この前も風邪で休んでたような……えーっとではー」

 

リトからの伝言を聞いた骨川教諭は次の生徒の名を呼ぼうと生徒名簿を見始める。

 

(……炎佐、大丈夫かな?……)

 

リトは心配した様子で心中そう思う。この前――とらぶるくえすとの翌日――は炎佐はバーストモードの反動で体調不良を起こし欠席をしてしまった――ちなみにその日はリトも春菜やララと色々あったのだがそれはまた別のお話――のだが、今日は実はそういうわけではない。

 

それは昨夜の事である。

 

「はぁ!? 明日学校休むから口裏合わせてくれ!?」

 

部屋でごろごろしていたらいきなり炎佐から電話があり、電話に出たら開口一番学校を休む口裏合わせを炎佐から頼まれたリトが驚いたように声を出すと電話の向こうで炎佐が申し訳なさそうに言葉を濁らせていた。

 

[ああ、いきなりで悪いが頼む。ニャル子の奴がいきなり“宇宙の密輸業者が手違いで逃がしたという報告がある危険性生物が地球に飛来したらしく、討伐を手伝ってくれ”って依頼してきやがってよ。報酬もちゃんと出る惑星保護機構からの正式な依頼って形になってるし断り切れなくてよ……まあ標的の規模から考えて明日の早けりゃ昼には終わると思うんだが……]

 

「あーえっと、炎佐も大変なんだな……分かった。風邪で休むって事にすりゃいいよな? プリントとかは俺が届けりゃいいし」

 

[ああ、悪い]

 

……というわけで、現在炎佐は風邪で寝込んでいるのではなく、今頃ニャル子と共に、地球に飛来した宇宙の危険生物討伐に励んでいる事だろう。

 

 

 

 

 

「「……」」

 

事実、とある山奥にてエンザは鎧に刀という戦闘モードでニャル子と背中合わせになり、地球にはまず存在しないであろう不可思議な生物の群れ――エンザとニャル子は囲まれている――と向かい合っていた。

 

「……ニャル子、オレはこんなに多いなんて聞いてないぞ?」

 

「あ、あはは……どうやら増えちゃったっぽいですね」

 

ギロッと睨みを効かせながらのエンザの言葉にニャル子も苦笑する。と、不可思議な生物が一斉に襲い掛かり、エンザもチッと舌打ちを叩くと不可思議生物目掛けて突進。

 

「状況によっては追加料金の請求も考えるぞ!」

 

「それは私の担当じゃないので上の方にお願いします!」

 

一体斬り倒し、そっちを見ることなくまた別の一体を斬り、またそれを見ることなくさらに別の一体を、と流れるように次々不可思議生物を斬り捨てながらエンザが叫ぶと名状しがたいバールのようなもので次々不可思議生物を撲殺しつつニャル子も叫び返した。

 

 

 

 

 

「ふ~。後片付けの当番で着替えが遅くなっちまったぜ」

 

さて一方彩南高。リトは体育の授業の後片付けの当番を終え、玄関にやってきていた。

 

「?」

 

と、誰かが玄関前にある大きな鏡の前に立っているのに気づく。

 

「……邪魔……かな……」

 

そこに立っていたのはぽよんと柔らかな胸を揺らし、全体的にバランスが整ったまま大きくなった姿のヤミの姿があった。

 

「っ……ヤミ!?」

 

「!」

 

あまりにも驚愕の光景にリトが声を上げると、ヤミの姿が一瞬で元の状態にまで縮こまる。

 

「……見ましたね?」

 

彼女はゆっくりと振り向くと真っ赤に染まった顔でリトを睨みつける。その時彼女の髪が刃、棘付き鉄球、金棒と様々な凶器に変身(トランス)、一斉にリトに襲い掛かった。

 

「おわーっ!! 見てない!! 何も見てませーんっ!!」

 

またも命の危機に陥り、リトは背後から襲い来る凶器から逃げ惑い始めた。

 

 

 

 

 

「よーっし、出来た!」

 

[ララ様、何を作ったので?]

 

一方校庭。また何か発明をしたらしいララにペケが尋ねる。彼女の目の前にはなんというか、巨大な――と言っても青年男子一人くらいの大きさだ――ミサイルがあった。

 

「ぱいぱいロケットくん! 当たった人のホルモンバランスを調整して、理想のおっぱいに出来るの!」

 

[なぜロケット?……]

 

今日の体育の授業から妙におっぱいに関心を持ってしまったララの発明、ペケも何故ロケットと漏らす。

 

「これを使ってリトの好みのおっぱいになればリト大喜びー!」

 

ララは嬉しそうにそう言い、発明に使っていた万能ツールを振り上げる。と、その瞬間校舎がちゅどーんと大爆発を起こし、そこからリトが吹っ飛んでくる。きっとヤミの攻撃のせいだろう。

 

「リト?」

 

ララが驚いたようにそう呟いた瞬間、彼がぶち当たってヒビが入ったぱいぱいロケットくんが爆発する。

 

「あーっ! ぱいぱいロケットくんが暴発したー!!??」

 

[これは……まさかリト殿が……]

 

さっきの説明を聞いたペケはよからぬ想像をする。それに対しララは「まだ入力(インプット)してなかったし……男の子には効き目はないはず……」と気のせいか歯切れの悪い声を漏らす。それからララはリトに「大丈夫?」と声をかけようとするが、その声は途中で止まる。

 

「いちち……酷い目にあった……」

 

そこにはリトと同じオレンジ色の髪をし、なかなか大きなおっぱいをした女の子が座っていた。彼女は自分の胸をムニムニと揉み、突如股間に両手をやる。

 

「な……ない……」

 

そして絶望した顔でそう小さく呟いた。

 

[リト殿が……女の子に!?]

 

「あれー?」

 

ペケが驚きに叫び、流石のララも呆然とした様子を見せていた。

 

 

 

 

 

「これで終わりか……」

 

「はい。クー子とハス太君が巣を見つけてそっちの駆除も出来たそうなので、これで依頼終了です。お疲れ様でした」

 

「たっく。昼前に終わると思ってたがもう放課後になっちまうじゃねえか」

 

不可思議生物最後の一体を斬り倒し、エンザがニャル子に聞くと彼女も連絡を取りながらグッドとポーズをし、お疲れ様でしたと言う。思った以上に時間がかかり、エンザはぶつくさと文句を言った。

 

「で、追加料金の請求はどうします?」

 

「もう疲れたからいい。お前ら相手なんだし今回はサービスしてやるよ」

 

「あら、それはどうも。んじゃ後で地球の日本通貨で振り込んどくようにしますんで」

 

「おー、今後ともごひいきに。それと今度はもうちょっと正確な情報掴んでから依頼してくれよ?」

 

ニャル子とエンザはそう話し合い、エンザは刀を肩に担ぐと左手をひらひらさせながらその場を後にした。

 

 

 

 

 

さて、視点は再び女の子リトに戻る。彼女はあの後早退、帰ってきた美柑に助けを求めたはいいのだがララと美柑に弄ばれ、最終的に美柑がからかい目的で出したブラジャー――もちろんリトが着用する目的だ――を見た瞬間限界になり、家から逃げ出した後動揺の余り家から離れた繁華街まで走ってきていた。

 

(うぅ、何か視線がやけに気になる……お、男の格好が不自然なのか?……)

 

女の子リトは周りの男性から視線を浴びながらどこか気分悪そうな表情で歩いていた。

 

(!! げ、猿山!?)

 

と、彼女は目の前に親友の一人である猿山がいるのに気づく。

 

(やべっ、すげーこっち見てる!!)

 

猿山は顔を淡く赤色に染めながら女の子リトをガン見、女の子リトはなるべく目を合わせないようにしながらそ~っとその場をやり過ごそうとする。

 

「ま、待ってくれ!」

 

(げっ、バレた!?)

 

猿山の声に女の子リトはびくっと硬直、足を止めてしまう。その隙に猿山もぐぐいっと女の子リトに近寄った。

 

「キ、キミどこの学校!? 俺と友達になってくんない!?」

 

(何言ってんだこの馬鹿!?)

 

いきなりナンパしてきた親友(猿山)に女の子リトはつい心の中で暴言を吐いてしまう。しかしぐいぐい押してくる猿山に言い返すのも大変、当然正体を明かすわけにもいかず彼女は無言のまま走り去った。後ろから猿山が「待ってよー!」と言っているが無視だ。

 

(くっそー。俺は男だっつーの……)

 

女の子リトは心中悔しそうに呟きながら走る。

 

「キ、キミ!」

 

と、また別の男性が彼女を呼び止める。

 

「なんて美しいんだ!! 俺と結婚してくれ!!」

 

『流石弄光センパイ! 久しぶりに登場したと思ったらいきなりプロポーズだぜ!!』

 

「こ、ここ断ーる!!!」

 

『流石センパイ! 即効(ソッコー)で断られたぜ!!』

 

一応彼らの学校の先輩である弄光のプロポーズを女の子リトは一蹴して走り続ける。

 

(なんなんだ~どいつもこいつも~……)

 

女の子リトは走りつつも後ろを見ながら心中毒づく。と、前を見てなかったせいかどんっと誰かにぶつかってしまう。

 

「あ、ごめんなさい」

 

自らの前方不注意であったため女の子リトはすぐに非を認め、謝りながら前を見る。と、すぐにげっ、と心の中で漏らした。女の子リトがぶつかってしまったのは言っちゃなんだがチャラかったり柄が悪かったりする男達五人――中肉中背の色々平均的な感じのが二人、長身に痩せ型でチャラそうな見た目が一人、シャツの上からでも分かる程度に筋肉質でがっしりした体格なのが一人、デブ、もといふとましい体格が一人だ――でぶっちゃけ絡まれたら相当めんどくさそうだ。

 

「あぁん?」

 

リトがぶつかってしまったデブは女の子リトを見るとニヤリ、と下品な笑みを見せる。

 

「人にぶつかっといてごめんで済むなんて思っちゃねえよな? 姉ちゃん」

 

「そうそう。怪我しちゃったかもしれないしさぁ、ちょっと一緒に来てくれない?」

 

デブに続いてチャラそうな男がそう言い、女の子リトを男五人が囲む。どれもこれも下品な笑みを浮かべており、本能的に危険を感じたのか、女の子リトの背筋に悪寒が走っていた。

 

「何してるんだ?」

 

と、男五人バリケードの向こうからそんな聞き覚えのある声が聞こえ、男達は「アァン?」とドスの効いた声でそっちに凄む。その隙に女の子リトも男達の隙間から声の主を見る。

 

(炎佐!)

 

「状況は読めないが、女一人を数人がかりで性質悪いナンパってとこか?」

 

女の子リトは驚いたように心中で叫び、炎佐は睨みを効かせながらそう言う。だが彼は妙に疲れた様子を見せていた。

 

「あんだとテメエ!?」

「テメエにゃあ関係ねえだろうが!?」

 

中肉中背の男二人が凄みながら炎佐に迫る。と、炎佐は「ん?」と声を漏らした。

 

「……お前ら、よく見たら以前妹カフェでナンパしてた奴ら?」

 

「「ん?……げっ!!??」」

 

炎佐の言葉に二人は声を漏らした後炎佐の顔をまじまじと見、げっと声を漏らすとざざざっと引く。

 

「や、やべえよ! こいつあん時の!!」

「人間とは思えねえ強さの奴だ!?」

 

男二人は慌てたように叫び、女の子リトもまあ地球人じゃねえんだしなぁ。と心中ぼやく。

 

「ふ、ふざけんな! あん時はちょっと油断してただけだ!!」

 

長身チャラ男が叫び、筋肉質男とデブも前に出る。中肉中背男二人組は戦う気がないのか、女の子リトよりも後ろの方に怯えた様子で下がっている。

 

「はぁ、疲れてんだがなぁ……」

 

炎佐も心の底からめんどくさそうな様子で呟き、その隙を突いて男三人は一斉に殴り掛かって来る。

 

「ふっ!」

 

まず長身チャラ男の一撃をいなしてカウンター気味に拳を叩き込み、そのままチャラ男の腕を引いて筋肉質男の拳の盾に使い、仲間を殴ってしまった事に驚いた筋肉質男が硬直した瞬間チャラ男を突き飛ばし、同時に蹴りを入れて二人纏めて倒させる。

 

「せいっ!!!」

 

「ぐふっ!!」

 

そして最後にデブの首目掛けて刈り取るような回し蹴りを叩き込み、昏倒させる。

 

「……やる? 疲れてるから手加減できないけど?」

 

ぽきぽきと拳を鳴らしながらそう言うと中肉中背の二人はぶんぶんと首を横に振り、慌ててその場を逃げていく。気絶したデブは長身チャラ男と筋肉質男に運ばせ、炎佐はふぅと息を吐いて女の子リトを見る。

 

「大丈夫ですか?」

 

「え? あ、はい……」

 

炎佐の呼びかけに女の子リトはぼうっとした声で返し、炎佐はふわぁと欠伸を漏らすと帰ろうと歩き出し、女の子リトの横をすれ違う。

 

「あっ」

 

と、女の子リトは無意識に炎佐の腕を掴んでいた。

 

「……なに?」

 

疲れているのかぼうっとした目で呟くように聞く炎佐にリトは「えっと」と声を漏らす。

 

「あの、その……」

 

「あ~……さっきみたいなのに絡まれたら怖いとかそういうの?」

 

「え? あ、まあ、はい」

 

もじもじしながら口ごもる女の子リトに対し炎佐は勝手に解釈。女の子リトもまあまた絡まれたら怖いというのは当たりなのかこくんと頷く。

 

「まあ、それもそうか。ところで君、あまり見覚えないけど最近引っ越してきたとかそういうの?」

 

「えっと、まあ、あの、その、散歩してたら道が分からなくなってしまって……」

 

炎佐の疑問の言葉に対し女の子リトはそう、言われて納得できるような嘘を話す。

 

「あの、よければこの辺の案内とか、してくれませんか?」

 

「ん? まあ、いいよ。暇だし」

 

女の子リトの申し出に炎佐は疲れてはいるもののそれくらいならいいかと受け入れる。

 

「で、君の名前って?」

 

「あ、えーっと……り、梨子……夕崎梨子です♪…(…我ながらテキトー)」

 

炎佐の問いかけに女の子リト改めリコはテキトーに偽名を考えて口にし、えへっと笑みをプラスしつつその裏では自らのネーミングセンスをぼやく。炎佐も微笑みを返した。

 

「へぇ……僕は氷崎炎佐。よろしく、リコさん」

 

その優しげな笑みでの自己紹介にリコの胸がドキッと高鳴る。

 

「あ、はい…(…ドキッてなんだよ俺!?)」

 

リコは曖昧に頷きつつ、さっきの胸の高鳴りに自分でツッコミを入れていた。それから二人はその場を後にして、普段の生活でよく訪れている商店街のゲームセンターにやってきた。

 

「とりあえず、僕がよく遊びに来るとこ来ちゃったけど……リコさんってゲームとか興味あるの?」

 

「え? あ、はい。まあ少し……」

 

炎佐の問いかけにリコは頬を引きつかせながら返し、炎佐は「そっか」と安心したように微笑む。

 

「さってと、でもなんとなく来ちゃっただけだしなぁ……適当に回ってみるか」

 

炎佐は頭をかきながら呟き、ゲームセンターをうろつき始める。リコも余計なトラブルに巻き込まれたくないためその後について行った。

 

「……ん? これ……」

 

炎佐がふと見たのはクレーンゲームの中にあるふわふわな触感を思わせる白犬の人形。

 

「ふむ……」

 

炎佐は少し考えるとクレーンゲームの前に立ち、財布を取り出すと中から100円玉を出す。

 

「えっ……と……」

 

「あぁ、ごめんごめん。ちょっと待っててね」

 

頭の上にクエスチョンマークを浮かべたリコに対し炎佐は申し訳なさそうに謝ってクレーンを動かす。狙いは白犬の人形だ。

 

「……あーくそ」

 

しかしクレーンは全く見当外れの場所に降下、狙った白犬どころか別のぬいぐるみすら取れずに上がっていくと定位置に戻った。

 

「あれ?……」

 

もう一度お金を投入しリベンジを行うものやはり上手くいかない。

 

「……えーっと」

 

「あ、ごめんごめん。美柑……親友の妹さんにプレゼントでもしてあげようかなって思ってさ」

 

リコが声をかけようとすると炎佐はまた申し訳なさそうにそう説明する。

 

「美柑ちゃんにもその兄である親友にもいつもお世話になってるからね。たまにはこういうプレゼントでもしてお返しをしないとって思って」

 

(炎佐のやつ……律儀っつーかなんつーか)

 

炎佐はクレーンゲームに悪戦苦闘しながら説明し、その内容にリコは親友の律義さや心遣いを嬉しく思う。

 

「ちょっとどいてください」

 

リコはそう言って炎佐をどかせて自分がクレーンゲームを操作する。

 

「え?」

 

「大丈夫です。こういうの得意なので」

 

そう言ってリコはクレーンを操作。炎佐が狙っていた白犬の人形や、おまけに猫と兎のファンシーな人形さらっと獲得。三つのぬいぐるみを持って彼らはゲームセンターを後にする。

 

「ありがとね、リコさん」

 

「いえ。助けてくれたお礼です」

 

炎佐のお礼に対しリコもにこっと微笑んで返す。

 

「それにしてもリコさん、クレーンゲーム得意なんだね。名前も似てるしなんだかリトを思い出すなぁ」

 

炎佐の言葉にリコはギクッと身を震わせる。

 

「ん? どうかした?」

 

「あ、い、いえ、なんでもないですよ!」

 

身を震わせたのに気づいたのか炎佐が問いかけるとリコは慌てて取り繕うように笑う。

 

「あれっ! 氷崎に結城!」

 

「ん?」

「!?」

 

そこに突然後ろから声をかけられ、炎佐は声に反応して振り返りリコはビクッと身を震わせて冷や汗をだらだらと流し始める。

 

「籾岡さん。どしたのこんなとこで」

 

「学校帰りのウィンドウショッピングに決まってんじゃん♪ それより氷崎って今日風邪で休んでるんじゃなかったっけ?」

 

声をかけてきた相手――里紗に炎佐が問いかけると里紗はにししと笑いながら返し、次に炎佐は今日学校を風邪で休んでいるはずなのに何故ここにいるのかを問い、炎佐が返す前に「あー分かった♪ ずる休みだ~。いっけないんだ~♪」と悪戯っぽく笑う。

 

「んで、なんで結城もいんの?」

 

「リト? いや違うって」

 

里紗は未だ自分達に背を向けているリコを見ながら尋ね、炎佐も首を横に振ってリコを見る。

 

(や、やべえ……逃げる、いやでも……)

 

リコは逃げようと考えるがなんとなくそれは避けたいとも思う。

 

(ええいままよ!)

 

覚悟を決めて振り返り、にこっと笑った。

 

「は、初めまして!」

 

「……ん? 結城じゃない?」

 

「ゆ、夕崎梨子って言います♪」

 

リコの強い「初めまして」の挨拶を受けた里紗はようやく相手がリトではない――いやリトなのだが――事に気づき、しかしリコの顔を見ながら首を傾げる。リコは必死に笑顔を取り繕い、偽名である名前を名乗って全力で誤魔化しに入る。

 

「不良に絡まれてたとこを助けたんだよ。なんか散歩してたら迷子になっちゃったらしくって、ここら辺来ないそうだから案内してるんだ」

 

「へ~なるほど……ふむ。つまりはデートね!」

 

「デッ!? あ、いやっ」

 

炎佐の説明を受け、里紗は顎に手をやってふむふむと頷くとウィンクにサムズアップをしながらそう結論を出す。その言葉にリコはボンッと顔を赤く染め上げて否定しようとするが里紗は「皆まで言うな!」とサムズアップしていた手を広げてリコの前に突きつけ言葉を遮る。

 

「うんうん分かるよー。炎佐って顔が傷ものだけどまあまあかっこいい方だし喧嘩も強いしね~。こわ~いお兄さん達から助けられてふらっとなるのも分からんではない」

 

「余計なお世話だよ」

 

腕組みをして分かる分かるというように頷きながらそう言う炎佐に顔が傷ものというのが気にかかったのかツッコミを入れる。

 

「でもね~」

 

と、里紗はそう言って心なしか目をキラッとさせる。そしてリコはもちろん呆れていたとはいえ炎佐が反応できない程の速さでリコの後ろに回り込んだ。

 

「こ~んな服でデートってのはいただけないわよ~。これ男物じゃ~ん」

 

「えっちょっひゃわっ!?」

 

そう言いながら里紗は服をまさぐり胸を触る。

 

「お、いい身体してますな~」

 

「ちょっやめっひゃんっ!?」

 

里紗はリコの胸を揉みながらエロ親父みたいな台詞を言い、リコは必死で抵抗しつつも未知の感覚に翻弄される。

 

「初対面相手に何やってんの!」

 

「ふぎゃっ!?」

 

と炎佐が里紗に拳骨を入れ、里紗はあたたと呟いて頭を押さえる。リコはその隙に脱出して軽く震えながら自分を抱きしめていた。

 

「いっやーなんか結城に似てるから、からかいたくなっちゃってさー」

 

「お前しばくぞ?」

 

「やはは~……グッバイ!」

 

悪びれてない里紗に対し炎佐が額に青筋を立てながらそう言うとこれ以上はやばいと判断したか里紗は素早く逃げ出す。それに炎佐は呆れたように頭に手をやってため息をついた後リコを見た。

 

「えーっと、ごめんね? リコさん……」

 

「あ、いえ……」

 

炎佐の謝罪の言葉に対しリコもえへへと誤魔化し笑いをする。その裏では里紗がいきなり現在の自分をリトと間違えたりさらにはリトと似ている。と自分の正体にもっとも近づいたことに戦慄していた。

 

(ほんっと心休まらねえ……もうここで炎佐と別れて諦めて家帰った方がいいか?……)

 

「リコさん?」

 

「ひゃいっ!?」

 

リコはララと美柑のおもちゃにされてる方がまだマシかなと考えるが、そう考えている間に炎佐が声をかけ、不意を突かれたリコは声を裏返す。

 

「さっきは僕の友達がごめんね? いっつもあんな感じで、悪気があったわけじゃないから許してあげてね?」

 

「あ、いえ、びっくりしただけですから……」

 

炎佐が申し訳なさそうにさっきの里紗の無礼を謝るとリコも苦笑いをする。

 

「まあその、お詫びと言ったらなんだけどさ。そこの公園でクレープ売ってるみたいだから奢るよ」

 

「え!? いや、そんな……も、もう帰ろ――」

「まあ遠慮しないで」

 

炎佐はお詫びをしなきゃ気が済まないと思っているのかリコを公園に引っ張っていく。

 

(……)

 

リコは居心地悪そうにベンチに座っていた。ちらちらと周りを確認するが同じようにベンチに座っているのはほとんどがイチャイチャしているカップルだ。ちなみに炎佐は屋台に行ってクレープを二人分買っている。

 

(……今の俺こんなだし、俺達もカップルに見られるのかな?……って何考えてんだ俺は!?)

 

さっきの里紗の「デート」発言のせいか妙な事を連想してしまい、リコは心の中でもぎゃーと悶える。

 

(でも、炎佐が恋人かぁ……)

 

リコは心中呟いてちらりと、前の方でクレープを焼いてもらっている炎佐を見る。里紗の言う通り鼻の上を通るよう顔の真ん中を横一文字に伸びている傷――曰く「ある宇宙犯罪組織壊滅させてる時油断してミスった」らしい――が目立つもののそれを除けば中性的でかっこいい部類に入る顔立ちをしており、修学旅行などで見ていた時は身体中傷だらけだが引きしまった身体をしており、宇宙で命を賭けた戦いを切り抜けてきた事を思わせるし今もなお静養中だと言いながら自分やララを命懸けで守ってくれている。それに性格も……

 

(って、だから俺は何を考えてんだー!!??)

 

またもリコは心中で悶える。もう心の中ではリコはもぎゃーどころか頭を抱えて転がっている。

 

「どうしたの、リコさん? 大丈夫?」

 

「え!? あ、は、はい! なんでもありません!」

 

と、戻ってきた炎佐は心中悶えていたのが外見にも出ていたのか心配そうにリコに声をかけており、はっとなったリコは慌てて取り繕う。

 

「えっと、ストロベリーでよかったよね?」

 

「は、はい!」

 

炎佐からストロベリークレープを受け取ったリコは慌ててクレープを食べ始め、炎佐も自分の分であるチョコクレープを食べ始めた。

 

「にしても、なんかごめんね? 町を案内するって言いながらさ」

 

「い、いえ。楽しいです」

 

炎佐の言葉にリコも微笑んで返す。それに炎佐は「ありがと」と微笑んで返した。

 

「あ、そうだ。飲み物とかもいるよね。ちょっと買ってくるよ」

 

「え!? いやそんな!?」

 

「まあいいからいいから。適当にジュースでいいよね?」

 

炎佐にそこまでパシらせるのは悪いとリコは慌てるが炎佐は気にせずに自動販売機――リコからも見える位置のものはカップルがいちゃつきながら選んでおり、時間がかかりそうなのでリコから見えなくなる遠くのもの――に向かっていった。

 

(はぁ~……やっべぇ。この後炎佐とどう顔合わせりゃいいんだろ……)

 

リコは心の底から困った様子を見せ、ゲームセンターで取った白犬をもふもふと抱く。

 

[ワンワンッ! ここから匂うワンッ!!]

 

「ん?」

 

と、なんか犬っぽい鳴き声が混じった声が聞こえてきた。

 

「リト発見っ!! ありがとね、くんくんトレースくん!!」

 

「ララ!?」

 

犬っぽい鳴き声のする方からさらにララの声が聞こえ、リコは驚いたようにそっちを見る。ララは「それ、解除ミサイル!」と言いながらバズーカの砲口をリコに向け、直後何かミサイルのようなものが発射される。

 

「ぎゃあっ!?」

 

ミサイルが着弾し、煙が辺りに舞う。それに一瞬リトの意識が飛んだ。

 

「……はっ」

 

意識を取り戻したリトは胸が軽くなっていることに気づき、胸に触れる。ムニムニとした感触はない。股間に触れる。いつもの感触だ。

 

「お、おお! 戻った! 男に戻った!!」

 

「ふ~。よかったよかった」

 

歓声を上げるリトにララは一安心したようにそう言う。が、リトは直後はっとした顔を見せる。

 

「やっべっ! ララ! 悪いけどちょっと先帰っててくれっ!!」

 

「え? なんで?」

 

「なんでも! 頼むこの通りっ!!」

 

リトは両手を合わせて頭を下げ必死でララにお願い、ララも首を傾げながら「なんか分かんないけど、分かった!」と言ってくんくんトレースくんと共に公園を出ていき、リトもベンチに座り直す。

 

「リコさ……あれ!? リト!?」

 

「お、よ、よお、炎佐! 偶然だな!!」

 

自動販売機でジュースを買って戻ってきた炎佐はリコが待っているはずの場所にリトがいる事に驚き、リトもよおっとなるべく自然を振る舞い、しかし声を裏返しながら炎佐に話しかける。

 

「あれ? ここに女の子いなかった?」

 

「あ、ああ。えーっと、だな……なんか、急に用事が出来たから、よろしく伝えてくれって頼まれたんだ」

 

「そうなんだ……」

 

リトから伝言を受けた炎佐は残念そうな顔を見せる。

 

「ちゃんとした案内、まだ出来てなかったと思ったのに……」

 

「んなことねえよ。すっげえ楽しかった」

 

「え?」

 

炎佐の呟きにリトはそう返し、炎佐がリトの方を見ながら呆けた声を出すとリトはやべっと口を押さえる。

 

「あ、あー、いやその、そう伝えてくれって」

 

「そっか……まあ、楽しんでくれてたならよかった」

 

リトは必死で誤魔化し、炎佐もリコが楽しんでくれたならよかったと笑う。

 

「……炎佐」

 

「ん?」

 

「……ジュース、一本貰っていいか?」

 

「……うん、どうぞ」

 

炎佐はリトに買ってきたジュースの一本――と言っても両方オレンジジュースだが――を渡し、二人はベンチに座り直すとジュースを飲み始める。

 

「そだ。リト」

 

「ん?」

 

ジュースを飲みながら炎佐はリトに話しかけ、リトも「どうした?」と聞き返す。それに炎佐は白犬の人形を目で差した。

 

「その犬の人形さ、美柑ちゃんに届けてもらっていいかな? いつもお世話になってるお礼って」

 

「ああ、いいぜ……でもその代わりって言っちゃなんだけどさ」

 

炎佐のお願いをリトは快諾、しかし交換条件を彼に突きつけた。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

結城家。リトはいつものように帰ってくる。

 

「あ、お帰りリト。元に戻れてよかったね?」

 

美柑がにししと悪戯っぽく笑いながら出迎える。

 

「うっせ。あ、美柑。これ炎佐から。いつもお世話になってるお礼だってよ」

 

リトはそう言って白犬の人形を美柑に渡す。ふわふわもこもこでファンシーな人形に美柑は目を輝かせた。

 

「炎佐さんから!? わー! じゃあ今度お返ししなきゃ!」

 

「……無限ループって恐ろしいな」

 

お世話になっているお礼にお返し、そうなるときっとまたそのお礼を炎佐が出して美柑がお返し、というループが発生しかねない。リトはなんとなくそんな未来を予測し苦笑する。と、ララがひょこっと顔を出した。

 

「あれ、リト? そのぬいぐるみなぁに?」

 

ララが首を傾げて問いかけた通り、リトは美柑に渡した犬の人形以外にももう一つ、猫の人形を持っていた。

 

「ああ、こいつも炎佐から貰ったんだ」

 

「リトがねぇ……なんか似合わない?」

 

「うっせ。いいんだよ、別に」

 

リトの説明に美柑は笑い、リトはうっせと返した後部屋に上がっていった。

 

 

 

 

 

ちなみに後日。

 

「あっれ? エンちゃん、この前遊びに来た時こんなのあったっけ?」

 

氷崎家の炎佐の部屋。遊びに来ていた恭子は炎佐の部屋の勉強机の上に置かれているものを見て首を傾げる。

 

「どうでもいいでしょ別に。この前ゲーセンで取ったんだよ……汚さないでよ」

 

恭子の言葉にベッドの上で転がりながら漫画を読んでいる炎佐は強い口調で注意する。

 

「エンちゃんがねぇ……しかも大事なものと見た……分かった、デートでしょ!」

 

恭子は事件の真相を見抜いた探偵的口調で炎佐に問いかける。が、その口調にはどこか冗談っぽさが覗いている。

 

「……みたいなもんかな? 相手がどう思ってるかは知らないけど、そんな風に言われた」

 

それに対し炎佐は少し考えた後、恭子の言葉を肯定する。それに恭子もびっくりしたように目を丸くし、直後にやついた。

 

「ほほ~う、それはそれは……詳しく聞き出す必要がありますなぁ!!」

 

そう言うや否や恭子はベッドの上に寝転がっている炎佐に飛びかかり尋問をスタート。最初は冗談交じりだったが頑なに口を開かない炎佐にしびれを切らし、最終的にはセシルから護身として教えられた格闘術での間接極めなどによる軽い拷問にまで発展。しかしそれでなお炎佐は最後まで勉強机の上に置かれているもの――ゲームセンターで取った兎の人形――について口を割る事はなかったというのはまた、別のお話。




はい。というわけで今回はリト女体化、梨子編。ちなみにリコをサブヒロインにしたら笑えるかな~とか思ってます。(外道)
さてと、次回はどうするかな?……ここから先は割と飛ばしても問題なさそうな話ばっかりだし……まあまた後で考えるとしますか。
では短いですけど今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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