ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第十八話 とらぶるくえすと

彩南町。彩南高スポーツフェスタでの爆撃事件の被害があった彩南高校舎やグラウンドも直り、以前旧校舎で怪談騒ぎが起きた時に炎佐達が出会った幽霊――村雨静が、メイドイン御門の人工体(バイオロイド)に憑依して転校して来たり、宇宙生物モシャ・クラゲが逃げてきてのてんやわんやがあったり、ザスティンがヤミに対して猜疑心から攻撃を仕掛けようとしてララからお叱りを受けたりしながらこの町での時間が過ぎていく。

ちなみにザスティンがヤミに攻撃を仕掛けようとした事件のプロローグとして、ザスティンが書いた漫画が最終候補に残った事を彼がギドへのララについての定期報告ついでに報告をしたところ、ギドから「誇り高きデビルーク親衛隊長が漫画家なんぞ目指してんじゃねー!!!」と激怒され、話を聞いた炎佐にも「今回ばかりはキング・ギドに賛成」と呆れられたりしていたのは別のお話。

 

「おはよー」

「おはよー」

 

朝の挨拶が飛び交う学校の下駄箱。炎佐もクラスメイトに「おはよう」と返しながら自分の下駄箱に靴を入れ上履きを取ろうとする。が、その時下駄箱に異物が入っているのに気づいた。

 

「……手紙?」

 

入っていたのは一通の手紙。炎佐は封筒入りのそれを調べるが宛名は書かれていない。

 

(罠か?……いや、だが妙な薬品の匂いはしないし……)

 

ラブレターとかの前に罠を疑ってしまう職業病というか、炎佐はふむと声を漏らすと手紙に他の誰も気づいてないのを確認するとまるで忘れ物をしたかのように自然な流れで靴を履き直す。それから彼は手紙を持って人気のない森に向かう。そして辺りに人の気配がない事をしっかり確認してから件の手紙に目を落とした。

 

「万が一爆弾系や毒煙系の罠だとしてもここならそう被害は出ないだろ……」

 

炎佐はそう呟くと以前のソルゲム幹部ケイズとの戦いの中で母ミーネから手渡されたデダイヤルを操作、白銀の軽装鎧――ペケバッジに入力されていたレプリカではなく、デダイヤルにセットし転送を可能にしたオリジナルの方だ――を装着する。爆弾系の罠だったとしてもこれで防御はオッケー。だが炎佐はさらに兜の側面を手で押し、カシュンという音と共にオリジナル鎧特有の機能であるガス対策のマスクを口と鼻を覆う形に展開、毒煙などだった場合の対策も取っておく。

 

「ここまでしておけば被害は出ないだろ。やばけりゃドクター・ミカドのとこに駆けこみゃいい」

 

罠、それも宇宙からの襲来者からのものであること前提で炎佐は考え、封筒を開く。と、その瞬間封筒の中から桃色の光が溢れ出、炎佐の視界を覆っていった。

 

「な……」

 

咄嗟に封筒を手放すが、なんと封筒は重力に逆らって浮遊。桃色の光は炎佐の視界どころか炎佐の身体を包み込み、それと共に彼の意識が暗転していく。その桃色の光が消えた後、炎佐の姿はどこにも存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……」

 

意識を取り戻したエンザは目を開き、起き上がる。天蓋付きのベッドにどこかの貴族を思わせる豪華な部屋。どう考えても日本の森の中ではない。

 

「ここは……」

 

「目を覚ましたようですね」

 

一気に警戒レベルを高めたエンザは目を研ぎ澄ませて辺りを見回し、少しでもこの場の情報を手に入れようと試みる。と、そんな声が聞こえ、ドアが開くと真っ白いローブで身体全体を覆い、顔は真っ黒で二つの目を思わせる白い点が明滅している小人が二人、部屋の中に入って来る。

 

「……何者だ?」

 

明らかに怪しい相手にエンザは睨みを利かせ殺気を放つ。それに小人二人はびくっと身体を震わせるが、少しするとクスクスと、小人の内一人が笑った。と言っても表情というか顔が見えないためクスクスという笑い声から笑った、と表現したまでなのだが。

 

「そう怒らないでください、エンザさん」

 

「そーそー」

 

甘ったるい悪戯っぽい声。その次に元気で元気というか能天気そうな声が続き、小人二人の身体が光に包まれる。そして数瞬の後にその二人はエンザ達と同じ人間態の姿になる。その服装も若干変化を遂げ、身体全体を覆うような白いローブを被っているのは変わらないが胴や腕を露出、口元を布で隠しているそのミステリアスな姿はどこかアラビアの占い師を思わせる。

 

「久しぶりだな、エンザ!」

「お元気そうで何よりですわ、エンザさん」

 

アラビアの占い師風の姿になった二人の存在――少女は、内一名元気な笑みを、一名お淑やかな笑みを見せてエンザにそう言う。その姿を見たエンザも呆れたような目を見せた。

 

「ハァ……これはあなた方の悪戯ですか?」

 

呆れたような目にため息のコンボをしつつ、エンザは二人の少女を見る。

 

「デビルーク星第二王女、ナナ・アスタ・デビルーク。デビルーク星第三王女、モモ・ベリア・デビルーク」

 

その口から、少女らの名、そして立場を示す称号が告げられた。

 

「まあとりあえず……プリンセス・ナナ、プリンセス・モモ。お二人ともお元気そうでなによりです」

 

ベッドから降りて床に片膝をつき、首を垂れて挨拶をする。と、少女の一人が「あーもー」と声を上げた。

 

「たっくあいっかわらずクソ真面目なやつだなー。ここにいるのはアタシらだけなんだからいつもみたいにナナでいいってーの!」

 

「うふふ。私もモモで構いませんわよ?」

 

元気な少女――ナナと、お淑やかな少女――モモはそう告げる。それを聞いたためかエンザはやれやれと髪をかくと立ち上がってベッドに腰掛ける。

 

「で、何のつもりだ?」

 

「ん~、まあ一言でいうとゲームだな!」

 

敬語を止め、タメ口に変化したエンザに対しナナは口元に八重歯を覗かせて笑いながらそう告げる。エンザが「ゲーム?」と首を傾げると次にモモが水晶を取り出した。そこにはリトの姿が映っている。

 

「リト!?」

 

「この方がお姉様にふさわしいかどうか。私達はそれを調べるためにこの体感RPGを作ったのです」

 

「作った?……どうせララが作って飽きたのを横取りしたんじゃねえか?」

 

「……ばれましたか」

 

モモがこのゲームの目的を述べ、エンザが茶々を入れると彼女はぺろっと舌を出す。

 

「姉上には囚われのお姫様役をしてもらって、あいつはそれを助けに来る勇者ってわけだ!」

 

「そこで、エンザさんには敵幹部、黒騎士の役をしていただきたいのです」

 

「黒騎士?……」

 

ナナとモモが説明し、エンザはそこで気づく。自分が纏っている鎧はこの世界に来る前に装着していた白銀の鎧ではなく、漆黒の鎧に変貌していた。それも基本的に機動力を重視した回避を前提とし急所を守る作りの軽装ではなく、身体全体を覆った防御重視のものだ。しかも何故かマントまで装着されており、その姿は正に騎士だ。さらに拘りなのか、今エンザが寝ているベッドの脇にはこれまた漆黒の、顔全体を覆う兜が置かれている。多分黒騎士エンザの頭装備品なのだろう。さらにその横には黒騎士エンザの武器のつもりだろうか鉄製だろう実剣が鞘に入った状態で立てかけられている。

 

「ぶっちゃけエンザにあいつらの味方されたらつまんねーからな! あれだ、バランスブレイカーだ!」

「しかも、お姉様の動きを封じるア~ンドエンザさんのモチベーションアップのため、ラスボスである魔王にもこだわりました!」

 

満面の笑顔でナナとモモはそう言って手をエンザの目の前の何もない空間に向けて差し伸ばす。と、突然そこに歪みが走った。

 

「は~い、魔王役のマジカルキョーコでーす♪」

 

その歪みが消えたと思うと、エンザの目の前に魔女風の帽子を被って布のマントを纏い、露出度抜群のギリギリ下着を身に着けた恭子――マジカルキョーコ――が立ちポーズを決める。

 

「ふん!!!」

 

その次の瞬間、エンザの右手の炎が纏い、直後振るわれたまるで炎の剣のようなチョップの一撃がマジカルキョーコを一刀両断に斬り裂いた。

 

「うわっ!? な、どうしたんだよエンザ!? こいつお前の従姉弟だろ!? ミーネが言ってたぞ!?」

 

「プリンセス・ナナ、プリンセス・モモ……これは流石に戯れが過ぎますよ?」

 

容赦ない一撃にナナが悲鳴を上げ、エンザがギンッと二人を睨みつける。その手にはまだ炎が、彼の怒りの度合いを示すかのように燃え盛っていた。

 

「あらあら~。まさか一瞬の躊躇いなく斬るなんて……」

 

「悪いな、ゲームクリアしちまったか?」

 

モモの、口の前に手をやって隠すようにしながら、ぽかーんとした表情での言葉にエンザはふんと鼻を鳴らす。

 

「いえ、そうはいきませんよ?」

 

しかしモモはそう返す。手で隠しているその口元には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。

 

「えーいっ!」

 

「うおわっ!?」

 

その次の瞬間、間違いなく一刀両断したはずのマジカルキョーコはまるで何もなかったかのようにベッドに腰掛けているエンザに飛びつき、彼をベッドに押し倒す。

 

「て、てめこのやろっ!? なんでだ!? 間違いなく炎手刀で斬ったはず!?」

 

「マジカルキョーコはこのゲームのラストボス。HP無限設定の最強キャラだったりするんですよね~」

 

驚愕しているエンザに対しモモはしれっとそう言う。手をどけてエンザにも見えるようにした口元に浮かぶ笑みや細められた目は悪戯っぽいというか小悪魔的だ。

 

「んふふ~。エンちゃんったら可愛い~」

 

「あぁ、キャラ設定はミーネさんからお借りしたマジカルキョーコDVDのマジカルキョーコのキャラクターと、ミーネさんからお聞きしたキョーコさんのイメージを元にしました」

 

「ちくしょー中途半端に面影あるのが余計むかつく!!!」

 

ベッドに押し倒したエンザに抱きついて頬擦りするキョーコと暴れるエンザ。その姿を見ながらモモはすらすらと説明をしていく。それを聞いたエンザはキョーコを引き剥がそうとしながら怒号を喚き散らしたのであった。

 

 

 

 

 

「……それで?」

 

暫くの後、エンザは腕組み仁王立ち状態で、彼の目の前で頭にたんこぶを作りながら正座しているナナとモモを見る。ちなみにマジカルキョーコは氷漬けにされていた。と言ってもモモ曰く「しばらくしたら氷状態は解ける」らしいが。

 

「えっと、まあその……エンザさんにはあの方達がお城に来たら適当に相手してもらいたいというか……」

「そ、それまでは自由にしてていいからよ……」

 

流石に悪ふざけが過ぎたかとモモとナナは正座状態で素直にそう言う。

 

「……ったく……だが。リトやララ達に俺とキョー姉ぇの関係を言ったらマジ承知しねえからな」

 

「「はい」」

 

エンザの言葉にナナとモモはこくんと頷く。かつてデビルーク王家親衛隊兼ララの遊び相手となっていた頃、二人のお兄さん役をしていた過去があるエンザ、ナナとモモからすれば幼い頃からの刷り込みとも言える。と、エンザは「ったく」と悪態をついて頭をかくとベッド脇にある兜を手に取る。

 

「で、こいつを被って剣を背負っておけばいいんだな?」

 

「あ、お、おう……」

「え、と……」

 

割と平然とそう尋ねてくるエンザにナナとモモがぽかんとしているとエンザはやれやれという様子で二人を見る。

 

「ま、暇潰しに付き合ってやるよ」

 

そう言って彼は剣を背負い、黒く重厚な兜を左脇に抱える。

 

「とりあえずリトと会わなきゃいいんだろ? それまでこっちはこっちで適当に過ごさせてもらう」

 

「あ、はい。それならこれを」

 

エンザがそう言うとモモはこくんと頷いて懐から何か腕輪のようなものを取り出すとエンザの右腕にかちゃりと付ける。全く無駄のない行動に反応が出来なかったエンザが腕輪を見ながら「なんだこれ?」と聞くと、モモはにこっと笑顔を見せた。

 

「この世界を自在に移動できる、転送アイテムです。しかも私達との通話機能、私達から探知可能なレーダー機能付き、さらには勇者さん達が近くに来たら瞬間的に城にワープされる素敵仕様ですよ? あ、ちなみにそれ、呪われてて外せませんから」

 

「!?」

 

モモの最後のにやっと悪戯っぽい笑みでの言葉を聞いたエンザは慌てて兜を落とし左手で腕輪を握ると腕輪を外そうとする。が、ガチャガチャとまるで鍵のかかったドアを開けようとした時の音と抵抗感があるだけで腕輪は全く外れる様子を見せない。

 

「もしも合流でもされたら厄介ですからね。対策はしておかないと」

 

「少し見ない間に腹黒くなったな、プリンセス・モモ」

 

「利口になったと言ってください」

 

小悪魔的な笑みを浮かべているモモと目を細めて睨むエンザはバチバチと目から火花を放ちながらそう言い合う。が、その睨み合いはエンザが目を逸らすという形で終了した。

 

「分かったよ。今のところはお前の手の平の上で踊ってやる……適当にうろついてくる」

 

そしてそう言い残すと兜を拾って被り、腕輪に手を置く。その次の瞬間エンザの足元に魔法陣が敷かれ、そう思ったらエンザの姿が光に包まれて消え去った。

 

 

 

 

 

「せいっ!!」

 

それからエンザは適当な森の中で、水色の体毛を生やした巨体と一つ目、そして長い舌が特徴的なモンスター目掛けて剣――こちらも普段使っている日本刀風のエネルギー刃が出る刀ではなく、むしろ刃が厚く刀身も長いロングソードに近い形状だ――を振るい、普段とは違う剣の訓練を行っていた。

普段使っているレーザーソードによる撫で斬りではなくむしろ重量を活かして叩き斬るような斬撃にモンスターは真っ二つに斬り裂かれ、巨体を揺らして仰向けに地面に倒れ込むとその姿を水色の0と1の集合体に変化させ、やがてその数字も消え去る。

 

「……」

 

周りに敵がいない事を確認し、エンザは剣を背負い直すと兜を脱ぐ。彼は先ほどからこの剣や身を覆い隠すような鎧に慣れるためにモンスターとの連続戦闘を繰り広げており、ゲーム上のHPゲージにほとんど問題はないものの額に浮かぶ汗が慣れない装備での激闘の証を見せていた。

 

「剣も鎧もなかなか重いな……特に剣は片手でもどうにか触れるものの、基本両手で振るった方がよさそうだ」

 

「きゃああぁぁぁ~っ!!!」

 

「!」

 

エンザが冷静に現在の装備での戦い方を分析しているといきなり女性の悲鳴が聞こえ、エンザは声の方を向くと兜を被って声の方に走る。

 

「だ、誰かぁ~! た、助けてくださぁ~い!!」

 

声の主――丈の短い忍び服とでも言えばいいだろうか服を着ている少女が上半分が緑色、下半分が灰色の毛の狼に追い掛け回されている。

 

「……ん? あれって……」

 

エンザはその相手に見覚えがあるかのように声を漏らし、「とりあえず」と言うと背負っている剣を引き抜いてグリーングレーウルフ(仮)の前に立ちはだかる。

 

「え?……」

 

「……」

 

少女は驚いたように足を止めて振り返り、エンザは無言で剣を両手で握り右肩に担ぐように構える。グリーングレーウルフ(仮)も牙を剥いてエンザに襲い掛かり、同時にエンザも地面を蹴る。

 

「せあっ!!」

 

右から左に剣を薙ぎ払い、その一撃がグリーングレーウルフ(仮)を横に一刀両断。0と1の集合体に変化させ、消し去る。

 

「大丈夫? 村雨さん」

 

剣を背負い、追いかけられていた少女――村雨静の方を向いて安否を尋ねる。それに静は「え?」と言いながらこてんと首を傾げ、その訳が分からないという様子の表情を見たエンザは直後自分が兜を被っていることに気づき、兜を外す。

 

「ほら、僕だよ」

 

「炎佐さん! 炎佐さんも来てたんですか!?」

 

エンザの顔を見た途端静はぱぁっと顔を輝かせた。

 

「ああ、まあ」

 

「よかった……あの、一緒に来てくださいっ!」

 

来てたというか知り合いが黒幕というか、という様子で苦笑するエンザに対し静はそう言ってエンザの手を取るといきなり彼を引っ張っていく。いきなりの展開にエンザもなすがままにされてしまい、二人は近くの街――巨大なパチンコを模した看板――目立つようにCASINOという文字が書かれている――が巨大な塔のように立っている、あるいはロンドンのビッグ・ベンの時計の代わりにパチンコを模した看板が飾られているとでも言えばいいだろうか――へとやってきた。

 

「ここです!」

 

そして静は一つの店を指差すとぐいぐいとエンザを店内に引っ張り込んだ。

 

『いらっしゃいませ~!!!』

 

と、数多くの金髪バニーガールが一斉にエンザを出迎える。スロットにトランプ、エトセトラ。どうやら町の看板が示す通りカジノのようだ。

 

「あれお静ちゃん! 他のお客さん連れ込んできたの!」

 

と、そこに妙に聞き覚えのある声が聞こえてきたと思うと女の子が二人――双方深紅色の際どいレオタード風の衣装を身に纏っている――が駆け寄ってきた。

 

「も、籾岡さんに沢田さん!?」

 

「えっ? その声……」

「もしかして氷崎!?」

 

エンザの驚愕の声に沢田が反応し、里紗がエンザの名を呼ぶとエンザも兜を脱いで二人を見る。

 

「二人、いや村雨さんと合わせて三人も来てたんだ……」

 

「あーうん。さっき結城と春菜と唯、あと美柑ちゃんも来てたわよ。来てすぐ帰っちゃったけど」

 

エンザが驚いたように三人を見て呟くと里紗が説明、エンザは「入れ替わりかよ……」と頭を抱え、モモが言っていた勇者が近づくと城に転送されるというシステムが働いていない事から考えて、そのシステムの効果範囲は分からないものの最悪既にこの町を出て行っている可能性さえあると結論づける。

 

「つーか籾岡さんも沢田さんも、なんなんだその格好」

 

「あーこれ? 運が上がるラッキーレオタードなんだってさ! どうどう、セクシーっしょ?」

 

エンザの呆れた様子の呟きに里紗はそう言い、うっふんとセクシーポーズを決める。が、エンザはさして興味を見せてない様子で「あっそ」と返すだけだった。と里紗もつまらなそうに目を細める。

 

「ちぇ、結城は顔真っ赤にして面白かったのに……」

 

「そりゃ悪かったね」

 

「ところで氷崎の格好ってなんか騎士っぽいよね。春菜は女勇者だったけど」

 

里紗の呟きにエンザは鼻で笑うように言い、次に沢田がそう言う。と里紗がうんうんと頷いた。

 

「そういえばそうね。てか、なんで氷崎は結城達と一緒じゃないの?」

 

「三人と同じ、別口でここに来たんだよ。まさかリト達も来てるなんて思わなかったよ。またプリンセス・ララの悪戯かな?」

 

黒幕は知っているというかむしろエンザ自身黒幕側の人間なのだが教える理由もないし話がややこしくなりそうなのでとりあえずすっとぼけておく。

 

「ふ~ん。ま、いいわ。んじゃあたしらスロットマシーンしてくるから。氷崎も楽しみなよ」

 

「悪いけど帰るよ」

 

里紗はせっかくだから楽しんだらとエンザを誘うがエンザはそう言って踵を返し、里紗達は「ぶーぶー」とブーイングを出すが構うことなくカジノを出ていった。それから町を出て行こうとした瞬間、突然腕輪が光り始めたかと思うとそこから声が聞こえてくる。

 

[エンザさん、聞こえますか?]

 

「プリンセス・モモ……どうかしたか?」

 

[いえいえ。先ほどは女の子とお話してて楽しかったかな~っと]

 

モモのクスクス笑いながらの言葉にエンザはイラついたように目を細める。

 

「盗聴とは悪い趣味をお持ちになられましたね。あぁ、リトを盗撮してるから今更でしたね?」

 

[やん、これもお姉様のためですもの……それより、今晩勇者達に対し、あるイベントを起こします。その結果によっては勇者達はすぐ最後の城に直行する事になりますのでエンザさんにもお城に戻っていただこうかと]

 

「……了解した」

 

モモからの指示にエンザは頷き、それと同時にまるで彼の了解の言葉がトリガーになったかのように彼の足元に魔法陣が敷かれ、そう思ったらエンザの姿が光に包まれて消え去った。

 

 

 

 

 

「ほぉ? 大魔王マジカルキョーコがリトに色仕掛けを、ねぇ?」

 

夜中。エンザ、ナナ、モモ。三人きりになった部屋――最初エンザが通されたというか眠っていた部屋だ――でエンザはモモのいうイベントの説明を聞いた瞬間冗談抜きで燃え盛る炎を背にし、さらに氷のように冷たい視線で正座しているモモとナナを射抜いていた。

 

「え、えーっとほら、この程度の色仕掛けに屈する人がお姉様の夫となりデビルークの王となるのは――」

「本音はどうだ?」

「――……ごめんなさい」

 

しどろもどろ弁解を始めたモモの言葉を一瞬で斬り崩し、モモに謝罪の言葉を出させる。

 

「い、いやでもさっ! このキョーコはただのプログラム――」

 

モモが黙り込んだ次に弁解を始めようとするナナだがエンザが威圧すると一瞬で口が止まる。

 

「……ま、リトがそんな色仕掛け如きに負けてプリンセス・ララを見捨てるわけがないけどな」

 

「ええ、見ている限りそうみたいですね。しかもなんと金色の闇がパーティイン。今夜はもう休むようですが、明日の朝にはこの城に攻め込んでくるはずですわ」

 

エンザはリトを信じているかのようにそう言い、モモも頷いて説明。

 

「っつーわけで。今日はエンザもこの部屋で休んでくれ。こっちのメンバーは明日紹介すっからよ」

 

「ああ、分かった」

 

ナナが言い、エンザが頷くと二人も退室。エンザは重い鎧や剣を下ろすとベッドに横になった。

 

「ゲームなのに布団もふかふかだな……」

 

そう呟いて彼は目を閉じ、やがてやってくる睡魔に身をゆだねたのであった。

 

 

 

 

 

「……で、魔王軍パーティは……」

 

翌日、エンザはララとモモ――二人とも何故か、エンザが最初に見た時の黒顔小人モードになっている――に連れられて魔王軍パーティの紹介をされる。

 

「まあ氷崎炎佐。あなたもこちらにいらして? しかしご安心なさい。あなたが私の配下となるのも運命、このデスティニークイーンである天条院沙姫がいるこちらに負けはありませんわ! オーッホッホッホッホ!」

 

その一人は彼の学校の先輩、天条院沙姫。鞭を持ちボンテージ衣装を身にまとった姿はまるで女王のようだ。曰く「マジカルキョーコから魔王側につけば元の世界に帰れる」と聞いたらしく、どうやら勇者がリト達だなどの詳しい事情は聞いていないらしい。沙姫の言葉に対し魔女っ子のような格好をした綾が「流石です、沙姫様!」と歓声を上げていると、静よりも数段忍者らしい忍者の格好をした凜がエンザに近づいてきた。

 

「今回は味方同士のようだな……君の力、見せてもらう」

 

「ええ。全力でいきますよ」

 

凜に対しエンザもにこりと微笑んでそう言い、挨拶を終えるとエンザは兜を被り、背負っていた剣を引き抜く。そしてララとモモが去っていった数瞬の後、数人の足音が近づいてきた。

 

「ホーホホホ! お待ちなさい!! ここから先には行かせませんわ!!」

 

沙姫が高笑いをしながら一番に声を張り上げ、その横に綾と凜も立つ。その姿に唯やリトも「天条院センパイ!?」、「てか、なんで敵!?」とびっくりしたように声を上げる。その横に立つ美柑が「あの黒い鎧の人は?……黒騎士?……」と呟くとエンザも顔を隠した兜の中でクスリと笑い、剣を構えるが、その瞬間ヤミがピクリと反応。素早くエンザ目掛けて突進したかと思うと右手を変身(トランス)させた剣で斬りかかり、エンザもそれを剣で防ぎその直後痛烈な剣劇が繰り広げられる。そしてエンザの剣がついにヤミを捉え、しかしヤミも咄嗟に左手を変身させた剣で防ぎ、弾き飛ばされる程度に被害を押さえる。彼女は空中でくるくると回転、すたっと着地をする。

 

「……まさか、あなたがそちらについているとは思いませんでしたよ……エンザ」

 

「なっ!?」

 

ヤミの台詞にリトが絶句、他のメンバーも驚いたように目を丸くしてエンザである黒騎士を見る。それにエンザもかぶりをふると剣を床に突き立て、兜を外して被っていた時に額にくっついた髪を顔を振って払いのけ、笑みを浮かべて見せる。

 

「まさか、一発で気づかれちゃうなんてね」

 

「炎佐……な、何でお前がそっちに……相手がララを人質にしてるのを知らないのかよ!?」

 

「やれやれ。ほんの少し前の味方に剣を振るわなければならない……これもまた傭兵の辛いところなんだよね~」

 

相手がエンザだと分かったリトは説得なのか、ただ本音をぶつけているのかエンザ向けて叫び、それに対しエンザは皮肉めいた笑みを浮かべてそう言い、兜を被って剣を引き抜くと沙姫達より数歩前に出て、剣を振り上げる。

 

「せあぁっ!!!」

 

そして、()()()()()()剣を振り下ろす。

 

「沙姫様っ!!」

 

咄嗟に凜が割り込み、背負っていた刀を引き抜いて刃を阻む。

 

「氷崎炎佐、貴様、なんのつもりだ?……」

 

「言ったはずですよ? ほんの少し前の味方に剣を振るわなければならない……これもまた傭兵の辛いところ、とね」

 

「その、()()()()()()()()()というのは私達を指していた、という事か……」

 

「ご名答。俺は現状リト及びララの護衛を仕事としている傭兵だ。この状況ではリトに与するのが当然だろ?」

 

エンザと凜は鍔迫り合いをしながら言い合う。

 

「リト、この場は俺に任せろ。お前はとっとと囚われのお姫様を助けに行くんだな」

 

「エンザ……ああ、分かった!」

 

エンザの言葉にリトは頷いて走り出し、沙姫が「待ちなさい!」と叫ぶがエンザが凜を押し飛ばすと素早く沙姫に斬りかかり、沙姫達がリトを追うのを妨害する。

 

「さてと……黒騎士エンザ、いざ参るってね!」

 

そしてエンザは普段とはちょっと違う口上を述べ、沙姫達に剣を突きつけた。その時、剣に炎が纏われた。

 

「「「なっ!?」」」

 

「宇宙を駆ける傭兵にしてフレイム星人とブリザド星人のハーフ……その力全てをもって仕留めさせてもらいます」

 

突然の手品のような技術に沙姫達が驚きの声を上げるとエンザは静かにそう言い、剣を両手で強く握りしめる。

 

[あらあら~。予想はしてましたがやっぱり裏切っちゃいますか~]

 

「ああ。お前の手の平の上で遊ぶのはここまでだ」

 

と、エンザの右腕に着けられている腕輪からモモの声が聞こえ、エンザもそう言う。

 

[ま、予想は出来ていたので。地球人である彼女達だけでもあなたを倒せるよう、ちょっとズルさせてもらいますね~]

 

「?……!?」

 

モモのそんな甘ったるい言葉の直後、突然エンザの鎧が重くなりエンザは思わず体勢を崩し同時に炎が消える。

 

[これだけ鎧が重ければ機動力も大分抑えられるでしょうし、普段通りに戦う事はまずできないでしょう。もちろん鎧の着脱は不可、ではでは裏切りの黒騎士さん、三対一、頑張ってくださいね~]

 

「テメエ……」

 

モモはケラケラと笑っているかのような声でそう言った後一方的に通信を切り、エンザはドスの効いた声を漏らす。しかしモモからの反応はなく、通信を聞いたらしい凜も表情を鋭くする。

 

「……何者かは知らんが、話は聞かせてもらった。悪いが、こちらも本気で行かせてもらう」

 

凜が刀を構え、沙姫が鞭でビシッと床を叩き、綾もむんっと気合を入れた目で魔導書を開く。

 

(……さっきはいきなりの重さで炎への集中が消えちまったが、炎と氷を操るだけなら問題ない……それに、重さに慣れれば動くには支障はないはず……)

 

それに対しエンザも兜の中で静かに思考を整え、再び剣に炎を纏わせる。

 

「ぜあっ!!」

 

そして勢いよく炎を横に一閃、その軌跡を炎が走り、前方に熱風が放たれる。

 

(ちっ。炎を放つつもりだったが、剣が走らない……思った以上に制限がきついか)

 

ご挨拶程度の一撃のつもりだったがそれでもなお普段通りの攻撃が出来ず、その隙に凜が熱風に怯むことなく突進、背負っていた刀を引き抜きざま斬りつける。

 

「せいっ!」

 

「ぐっ!?」

 

凜の攻撃をエンザも咄嗟に剣を引き戻して受け、直後凜との剣劇が開始される。凜の剣閃は地球人にしては速く鋭いもののヤミと比べたら雲泥の差。しかし重荷を着けられているエンザの剣も、その剣閃とどうにか渡り合えるレベルのものに引き下げられていた。

 

「ん、のっ!」

 

しかしそれでなおエンザの剣術は凜を僅かに上回っており、エンザが凜を弾いた剣劇の一瞬の合間にエンザはダンッと右足で震脚、それと共に地面から炎が噴き出て壁を作り、咄嗟に凜も炎を避けて後ろに下がる。エンザはふぅっと息を吐いて目を閉じると左手を後ろに、まるで槍投げのような構えを取る。と、共に左手に氷の槍が握られた。

 

「ふっ」

 

素早く氷の槍を投擲、それは炎の壁を突き破って凜目掛けて突き進み、炎の勢いから後ろに飛んでかわしていた凜は空中で身動きが取れず、刀で防ごうと前に突き出す。

 

「はぁっ!!」

 

「っ、沙姫様!?」

 

しかし槍は沙姫が鞭を使って叩き落とし、凜が驚いたように叫ぶと沙姫は鞭を手元に引き戻し、ぱしぃんと叩く。

 

「ご安心なさい凜! この鞭クイーン天条院沙姫の鞭捌きの前にはあのような攻撃、児戯にも等しいですわ!」

 

「やってくれるね。動きを封じる程度に抑えてたとはいえ、まさか叩き落とされるとは……」

 

沙姫の自信満々の言葉に対しエンザはそう呟く。そして炎の壁が消えると共に再び凜が斬りかかり、同時に沙姫が綾に「魔法で援護なさい!」と指示、綾もはいっと頷くと慌てて魔導書のページをめくり始める。

 

「え、えっと、ギ、ギガメクリン!!」

 

右手を突き出し、呪文を唱える。と、その右手に水色の球体状の光が集まり、それが弾け飛ぶと共に突如下から風が吹き上がっていく。

 

「突風!? そんな魔法まで使えるのか……」

 

エンザは体勢が崩されない様にと力を込め、向かってくる凜を睨みつける。が、その時、動きやすさを優先しているのだろうか、ともすればミニスカートと言ってもいいだろう長さの、彼女の忍び衣装が風によって動く。

 

「えっ?」

「へっ?」

 

二人の間の抜けた声が重なる。風は下から吹き上がっており、それに煽られる形で動く。それすなわちめくられる。ヒラリン、とでもいうような擬音が聞こえそうな後、凜のシミ一つない綺麗なおみ足と、忍者という職業に転職になった結果変えられたのか下着であるふんどしがエンザの目にさらされ、その光景にエンザも思わずフリーズしてしまう。

 

「みっ……見るなああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「へぶっ!!??」

 

咄嗟に衣装を左手で押さえた凜の、真っ赤になって気のせいか涙目での飛び回し蹴りが無防備になってしまっていたエンザの側頭部に直撃。その衝撃は重厚な兜をぶち抜いてエンザにまで届き、エンザは吹っ飛ばされた後地面に叩きつけられ、しかしそれでなお勢いは止まらず床を滑る。

 

「づあっ……い、いい蹴りでしたよ九条先輩……この重装備じゃなかったら意識が刈り取られてたかも……」

 

「だ、黙れ! もう一、二発叩き込んでさっきの記憶を消去させてもらう!!」

 

頭を押さえているつもりなのか兜を押さえながら立ち上がり、さっきの一撃を評価するエンザに対し凜は顔を真っ赤に染め上げ刀をエンザに向けながら怒鳴る勢いで叫ぶ。

 

「悪いけど、こっちも傭兵の名に懸けてそうそう負けてやるわけにもいかないんですよね……」

 

それに対しエンザも傭兵としての誇りから剣を構え直す。その時突然城がゴゴゴという音と共に揺れ始めた。いや、それだけではない。僅かながら、城が崩れている。

 

「これは、一体?……」

 

エンザから目を離して揺れ、崩れ、さらには空間が割れていく城を見る凜。

 

「兜が!?」

 

と、その次の瞬間エンザの兜が消えていく。それだけではない、鎧も、手に持っていた剣も消えていく。

 

(そうか、この世界をモモ達はゲームだと言っていた。もしこの装備全てがデータだとしたら……まさか、ゲームにバグが発生しているのか!?)

 

エンザはモモ達から聞いている情報を元に現状に関する仮説を組み立てる。

 

「ひっ、氷崎炎佐! こっちを見るなっ!!」

 

「わ、ごめんなさい!?」

 

その間に、凜達の服もどんどん消えていき凜は羞恥と怒りに顔を赤くしながら胸などを隠すようにしゃがみこみ、沙姫や綾達も同じような体勢になる。凜の叫び声にエンザも咄嗟に謝って彼女らの方を見ないよう身体の向きを変える。

 

「グルルルルル……」

 

「!」

 

と、いきなりそんな唸り声が聞こえ、エンザは思わず沙姫達のいる方を向いてしまい沙姫達から悲鳴が上がるが彼は彼女らの方は全く見る事をせず、それよりも先の方に目を向けていた。

 

「ゴ、ガアアアァァァァ……」

 

崩壊する城の奥。そこから巨体で、露出した上半身にはおびただしい数の傷が目立ち、右手に金棒を握るまるで鬼のような姿をしたモンスターが現れた。しかしモンスターはバグによって出現したのかその身体はノイズがかっている。

 

「ば、ばばばばば……化け物ですわ……」

 

沙姫が口をあんぐりとあけて目を点にして呟く。既に彼女らは武器どころか防具さえもない。まるで中ボスのような巨人に対し抵抗の手段はない。既に下半身の鎧も消失を始めているエンザもそれは同じ……だが、その時彼の足元にカコン、と何かが落ちるような音がし、エンザは足元に目をやる。

 

「デダイヤル!」

 

鎧に隠されていたものが鎧が焼失した際に落ちたのだろうか。だが今はそんな事どうでもいい、エンザは素早くデダイヤルを拾い上げると操作、直後彼の首から下が黒いインナーに包まれ、銀色の軽装の鎧が彼の身を覆う。そして最後に銀色の兜が額を覆う形で具現する。その間彼は目を閉じていたが、鎧の具現が終了すると目を開き、紫色の輝きを放つ両の眼でモンスターを睨みつける。

 

「エンザ、いざ参る!」

 

叫び、エンザは地を蹴ってモンスターに突進。沙姫を狙って振り上げられた金棒の前に立ちはだかると左手を突き出した。と、左手の前に氷の盾が発生、金棒を受け止めエンザが盾を押すと押し返しモンスターにたたらを踏ませる。

 

「ひゅぅっ」

 

右手に刀の柄を握り、力を集中して赤い刃を具現。軽く息を吐いて力を込め、刃を上にして刀をモンスターに突き刺すと刀の柄を両手で握り締める。その時刀から炎が燃え上がった。

 

「おおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

咆哮し、刀を振り上げる。モンスターの身体が縦に斬り分けられ、頭を斬ってその勢いのまま振り返ってモンスターに背を向け沙姫達の方を見るポーズになった直後、刀の軌跡が爆発。一瞬でモンスターを消し飛ばした。

 

「つ……強い……」

 

強そうに見えたモンスターを無傷で一蹴してみせたエンザの姿に凜は呆然とした様子で声を漏らす。と、その直後エンザはじめ沙姫や凜、綾の身体を光が包み込み、光が弾け飛ぶと崩れていく城の中から彼らの姿が消え去った。

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

目の前から光が消え、呟く炎佐。辺りに広がるのは森と、流れる大きな川。

 

「……どう間違っても学校の敷地内じゃないな」

 

まだゲームの世界にいるのか、もしくは現実世界に戻っては来たが転送場所がずれたのか。と炎佐は思考を始める。

 

「……氷崎炎佐……」

 

「あ、九条先輩。天上院先輩に藤崎先輩も無事のようですね」

 

そこに凜が声をかけ、沙姫と綾の無事を確認して炎佐は安心したように笑みを見せた。

 

「あ、エンザ! エンザもいたの!?」

 

「プ、プリンセス・ルン!? あなたもいたのですか!?」

 

「あ~まあ、うん……あと校長もいたんだけど……」

 

驚いたように炎佐に声をかけてきた相手――ルンを見た炎佐も驚いたように叫び、ルンは歯切れの悪い様子でそう呟く。その言葉に炎佐が首を傾げていると突然「ギャー!」という中年男性の悲鳴が聞こえ、その場にいた全員が声の方を向く。

 

「こ、校長がワニに!?」

 

凜が悲鳴を上げる。その言葉通り校長はワニに噛まれどころか軽く食われている。どうやらここはアマゾンの密林らしい。

 

「も、戻れたのはいいけど、なんでこんなところなんですのー!!??」

 

沙姫も悲鳴を上げ、炎佐はやれやれとため息をついて首を振るとデダイヤルを取り出し、通話モードにして一つの電話番号にかける。

 

「……もしもしザスティン? プリンセス・ナナとプリンセス・モモの悪戯の弊害でどっか吹っ飛ばされたらしい。ああ、天条院先輩と九条先輩と藤崎先輩、あとプリンセス・ルンとうちの校長の計六人。場所はたぶんアマゾン辺りだが、ワニがいて森があって川があってとしか分からん……ああ、悪いけど迎えに来てくれないか?」

 

炎佐はどこか疲れた様子でザスティンに通信。ザスティンからもこんな情報だけで探す手段があるらしく了承が取れたのか炎佐は「ああ、頼む」と言って通話を終える。

 

「さてと……」

 

炎佐はデダイヤルを手に、校長がワニに襲われてパニック状態になっている一行を見る。

 

「ザスティンが迎えに来るまで、皆を守らなきゃな」

 

そう呟き、炎佐は再びめんどくさそうにため息をついた。

 




お久しぶりです。今回はとらぶるくえすと編、ちなみにナナとモモの人間態衣装や里紗達との絡みの部分はOVA版を参考にしました。
でもって炎佐が裏切る事は決めていたんですが彼をラスボスマジカルキョーコとの戦いに放り込んだらもうどうなるか想像がつかないカオスな事になりかねないので彼の相手は凜達に任せました。ただでさえちょっと見ただけで本気でぶっ殺しかねない攻撃仕掛けましたし。あとはせっかくだからサブヒロインである凜と絡ませるか、という意図もあったんですけどね。
次回は、現在構想している流れでいくならば、新たなサブヒロインとなるかもしれない存在が登場する予定になっております。とだけ言っておきますね。(ニヤリ)……もっとも、小説書いてる僕のこういう場合の言い訳は「予定は予定であり未定」なので。もし次回そういう話にならなかったらごめんなさいと先に謝っておきます。もちろん流れのままいくよう善処はしますが。
今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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