ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第十七話 彩南高スポーツフェスタ

「彩南高スポーツフェスタ!! いよいよだね、リトッ!」

 

ララの嬉しそうな声が彩南高校のグラウンドに響く。現在彩南校生徒は全員体操服。というのも当たり前、本日は彩南高校の体育祭、正式名称彩南高スポーツフェスタだ。ララは初めてなのだろう体育祭というイベントに一人盛り上がっており、リトはそれを見守る様子で微笑を浮かべている。

 

「協賛が天条院グループってのが気になるわね……」

 

「確かに……」

 

その横で唯が彩南高スポーツフェスタの看板の下に書かれている協賛名――天条院グループの名前を見ながらぼそりと呟くとリトも苦笑交じりに頷いた。

 

「ララ様ー」

 

「美柑! ザスティン!」

 

と、男性がララを呼び、それにララが反応する。ザスティンと美柑がやってきていた。

 

「頑張ってください、ララ様! デビルーク王家の名に恥じぬよう!」

「ムチャしないようにね」

 

ザスティンがエールを送り、美柑がムチャしないようにと注意する。ザスティン曰く「自分と美柑でお弁当も用意している」そうだ。

 

「ホーホホホ!」

 

そこに横槍を入れるように高笑いが聞こえてくる。

 

「ごきげんよう皆さん、今日はゆっくり楽しんでいらしてね」

 

「あ、サキ」

 

今回のスポーツフェスタの協賛である天条院家の沙姫だ。彼女に気づいたララが声をかけると沙姫もザスティンに気づき、途端にハートマークを乱舞させる。

 

「まぁザスティン様! 来てくださったんですわね!」

 

「え?……あ、はい」

 

沙姫の黄色い声に対しザスティンもぽかんとした表情で返し、次に凜が「このスポーツフェスタに沙姫様の率いる3年D組が優勝した暁には沙姫様と食事をしていただきたい」と述べる。それをザスティンが不思議そうに了承すると沙姫は恥ずかしそうに身悶え、美柑がどういうことかと首を傾げていると、リトは先日凜から教えてもらった――というかザスティンに近しい存在として拉致られた時に教えられた――沙姫がザスティンに恋慕の情を抱いていることを伝える。ちなみにほんの数日前沙姫がザスティンに思いを伝えようとした際、またララ発生源のどたばたによってリトが振り回され、その告白の邪魔をしてしまったのはほんの余談だ。

 

「へ~、ザスティンさんもスミにおけないねぇ」

 

まあとにかく沙姫がザスティンに恋慕の情を抱いていることを伝えると美柑はザスティンを見ながらにやつき、美柑の様子にザスティンはまた首を傾げる。

 

「ザスティンがねぇ……ま、天条院先輩もよっぽど頑張らないとね」

 

「氷崎」

 

一歩引いたところで見守り、クスクスと笑っている炎佐に今度は凜が話しかける。

 

「……今日は負けん」

 

「……こちらこそ。学年別対抗リアルファイト系の競技はないでしょうけどその時はお手柔らかに」

 

「……ふん」

 

敵対心バリバリの凜をあしらうように炎佐は笑い、凜はふんと鼻を鳴らして踵を返すと沙姫と共にその場を歩き去る。

それから里紗や未央、春菜達と合流。今回のスポーツフェスタ優勝クラスにはなんと豪華客船でのディナー招待券がもらえるという情報を聞き、優勝目指してやるぞ2-Aと決意を新たにし、スポーツフェスタがスタートする。

 

「リト! 最初の競技はペアで参加だって! 一緒に出よー!!」

 

「おう!!」

 

ララの無邪気な言葉に優勝に燃えるリトは二つ返事で承諾。しかしその競技はおんぶ競走、それは走者役の人間がパートナーをおぶってゴールまで走るという競技だ。ちなみにペアに関しては自由だがほとんど男子同士女子同士になっており、スタイル抜群美少女であるララをおんぶする形になっているリトは男子勢から嫉妬の視線をくらいまくっていた。

 

「おーおー結城のやつ男どもから嫉妬視線くらいまくってるねー」

 

里紗がけらけらと笑いながらリトを見てそう言い、炎佐を見る。

 

「どう、氷崎? ここは私と一緒に出て親友君と共に針のむしろに座ってやっては?」

 

「まあ、別に参加するのはいいけど……出来れば籾岡さんよりは沢田さんの方がいいな」

 

「えっ、私?」

 

里紗の言葉に炎佐が参加はいいけどパートナーは里紗よりも未央の方がいいなと言い、未央も突然話を振られて驚く。里紗もまさかの展開に思わず真顔で「な、なんで?……」と尋ねていた。

 

「いやだって……沢田さんの方が身長小さいし体重軽いからおぶって走るには楽だし」

 

「「……」」

 

表情一つ変えずにそう言ってのける炎佐に女子二人の表情が固まる。

 

「ふんっ!!!」

 

「あいだっ!?」

 

そして里紗が突如回し蹴りを叩き込み、見事に油断していた炎佐はその一撃をくらい悲鳴を上げる。

 

「今のは氷崎が悪い」

 

「ど、どういうこと?……」

 

未央の呆れきった言葉に炎佐は訳が分からぬ様子でそう問い返した。

 

[さーいよいよ始まります、最初の種目おんぶ競走! 実況は私、放送部の猿山ケンイチと特別ゲスト校長でお送りします。それでは各自、スタートラインへ]

 

放送部である猿山が実況、進行を行う。そして係の先生が銃を上に向けて「よーい」と言い、「スタート!!」という声でパンと音が響き、一気にリト達が我先にと走り出す。

 

「フフフ、そんなに急いでいいのかしら? 皆さん♪」

 

その後ろを悠々とした様子で、綾におぶられている沙姫が呟いた。するとトップを走っていた女子生徒コンビ目掛けて突然水が噴出、体操服がビショビショになる罠が発生。さらに他の男子生徒達にも網が発射されたりばね仕掛けのボクシンググローブが射出されたりと罠が襲い掛かる。

 

「ホホホ、お先に~♪」

 

[おっと、他のペアがトラップの洗礼に苦しんでいる中軽やかに3-Dペアが進んでいく!]

 

綾&沙姫のペアはまるでトラップの位置が分かっているかのような軽やかな足取りでトラップゾーンを抜けていった。

 

「くそー、これじゃ怖くて進めないぜ……」

 

「大丈夫、任せてリトッ!」

 

罠への恐怖でトラップゾーンへと踏み出せないリトに対しララはそう言って尻尾をトラップゾーンに向ける。その先端にエネルギーが集中、ビームが発射されてトラップゾーンが消滅する。

 

「流石です、ララ様!」

 

「また派手な真似を……」

 

ザスティンが歓声を上げるが炎佐は頭を抱え、美柑がぽんぽんと肩を叩いて慰めていた。

その間にも競走は進んでいく。現在トップは綾&沙姫ペア、割と距離がある状態で続いてリト&ララペア以下少し遅れて他のペアというところだ。しかし綾のスピードが落ちてきており、それを見たリトが一気に追い上げていく。そしていよいよリトが綾を追い抜かんとする。

 

「ぶあっ!?」

 

その時突然リトの目に違和感が走る。何か細かい粉のようなものが目の前に飛び散り、それが目に入ってしまった他に吸い込んでしまったのかごほごほと咳き込み、目が見えない事や咳き込んでいるせいで足取りもふらついてしまう。

 

「わっ!?」

 

そしてついにリトはバランスを崩して転んでしまい、彼におぶられていたララは反射的に右手を伸ばしすぐそこにあった掴まるもの――沙姫の体操服を掴んでしまう。ビリッ、と何かが破ける音がした。

 

「へっ?」

 

ビリビリビリッ、と音が続く。そして沙姫の体操服は布切れと化し、服という人間の肌を隠す役割を持てなくなり重力に従って地面に落ちていく。

 

「な……なな」

 

沙姫は頬を赤く染め、ギンッ、という様子でララを睨みつける。

 

「何するんですのこの馬鹿力ー!!!」

 

「はわわっ!?」

 

いきなり背負っていた人が引っ張られ、さらに平常心を失って叫ぶためかバランスを崩してしまった綾はふらふらヨロヨロと、歩きながらバランスを取るのに精いっぱいになってしまう。そしてついにドンッと何かにぶつかって綾は背負っている沙姫ごと倒れてしまった。

 

「あいたた……綾! 大丈夫――」

 

沙姫は倒れた時にぶつけたのだろうか後頭部に手をやりながら痛みに呻き、しかし綾を心配する声を出す。が、その直後彼女は自分のあられもない姿をザスティンがポカン、としか言いようのない表情で見ている事に気づいてしまった。

 

「キャー! 見ないでザスティン様ー!!」

 

「や……わ、私は……何も……」

 

顔を真っ赤に染め上げて大慌てで叫ぶ沙姫にザスティンはわざとらしく目を閉じ顔を背けゴホンと誤魔化すような咳払いをしながらそう呟いた。

 

[そのスキに別のペアがゴール!]

 

そんなどたばたが起きている間にリト&ララ、綾&沙姫以外のペアがどんどんとゴールしていった。

 

「リトったらもう……」

 

「……」

 

美柑は突然の兄のミスに苦笑を漏らす。が、炎佐は笑みを見せることなく辺りを探るようにちらちらと目のみを動かしていた。

それからスポーツフェスタは徒競走やパン食い競走、玉入れなどの競技が進んでいき、今度は男女混合1kmマラソンという競技が終了に近づいていた。

 

「キャッ!?」

 

「西蓮寺!?」

 

後ろの方から巨体を揺らしながら走ってきた男子生徒にぶつかり、春菜はバランスを崩し転びそうになる。しかしすぐ近くを走っていたリトが春菜の悲鳴を聞いて咄嗟に彼女を助けようと無理矢理進行方向を変えて飛び込んだ。

 

「づあっ!?」

 

春菜を抱きしめるように抱え込み、彼女と地面の間に自分の身体を捻じ込む。そしてリトの身体が地面に叩きつけられ、彼の右足にピシッという鋭い痛みが走った。

 

「リト!? どうしたの!?」

 

「私をかばって……」

「足、くじいちまったみてーだ……」

 

2-Aの待機場所に戻ってきたリトは春菜に支えられて右足をひょこひょことさせており、ララの心配そうな声に春菜とリトがそう説明するように言う。

 

「保健室に連れて行くわ」

 

「私も行くよ!」

 

春菜の言葉にララが同行を申し出る。が、リトがそれを手で制し、痛そうながら笑みを見せる。

 

「大したことねーって……それより次の競技、ララ出るんだろ?……頼んだぜ」

 

「リト……」

 

リトの言葉にララはそうとだけ声を漏らす。

 

「大丈夫よリト! ちょーどあんたの代役連れてきたとこだから!」

 

と、いつの間にやらやってきていた美柑がびしっとサムズアップを決めてそう言った。それと共に、一人の金髪美少女が美柑の隣に立つ。

 

「ヤミ!!??」

 

「な……なんで……私が……」

 

リトが素っ頓狂な声を上げ、ヤミはそう呟く。その頬は原因こそ分からないが淡い赤色に染まっていた。

 

「コーチョーが体操服貸してくれたの!」

 

「いやーお似合いでなによりです!!」

 

ララの言葉に校長がほっほっと朗らかそうに見えながら何か下心満載な笑い方でそう言い、すすすとヤミに近づく。

 

「それ、()()なんで後で返してくださいねっ! 洗わずに!!」

 

その次の瞬間、校長の身体はヤミの髪の毛によってぐるぐる巻きに拘束されて肘や膝などの関節を極められ、さらに髪の一部が変身(トランス)した牙によって顔を噛み砕くとまではいかないが噛まれる事になってしまった。

 

「私物って……校長先生……」

 

校長の台詞が聞こえた唯もドン引きした表情でそう呟いていた。

 

[次の種目は借り物競走です。参加する生徒は移動を開始してください]

 

「あっと出番だ。ララちゃん、ヤミちゃん、行くよ」

 

猿山の進行放送を聞いた炎佐が二人を呼び、ララは「は~い」と言った後「リト大丈夫かな~」と校舎の方を見ながら呟き、校長を解放したヤミは「わ、私も出るんですか?……」と呟いていた。その道中で合流した、この競技に参加するレンとも「頑張ろうぜ」と健闘を誓い合い、彼らはスタート位置につく。それと同時に炎佐は同時に競技を行うメンバーをちらりと見た。

 

(……天条院先輩と九条先輩が一緒か)

 

相手の中から意識を向けておくべき相手をピックアップしておく。そして「よーい、スタート!」という掛け声とパァンという音で生徒達は飛び出す。だがその中でも特にララとヤミが早かった。

 

[飛び入りのヤミ・ララの二人が速い! 借り物のフタに早くも到達ー!!]

 

「流石ララちゃん! やはりキミは最高――」

「させませんわ!!」

 

ララに向けて歓声を上げるレンを沙姫が突き飛ばし、彼女はどこから取り出したのか爆弾の導火線に着火するとララ目掛けて爆弾を投げつけた。

 

「おっと」

 

しかし、彼女より数歩前に出ていた少年が爆弾に向けて左手を振るう。その後爆弾は借り物のフタの上に着地した後転がるが爆発する気配を見せなかった。

 

「流石に爆弾は危険なのでね」

 

少年――炎佐は振り返り、ふっと笑みを見せる。ヤミがちらりと爆弾を見た。

 

「……凍らせているようですね……」

 

爆弾全体が薄い氷で覆われているのを見てそう分析するヤミ。だが近くで注視しないと分からない程度の氷、観客からではただ単に爆弾が不発だったようにしか思えないだろう。

 

「ムッキー!!」

 

むきになったのか沙姫は次々と爆弾を投げていく。それを炎佐は左手を爆弾の方に向けて爆弾を凍らせ、不発状態にした爆弾はヤミが回収していく。

 

[おぉーっと炎佐、借り物競走ではなく天条院先輩の妨害をさらに妨害し始めたー!!]

 

猿山が実況を行う。と、爆弾の対処を行っている炎佐の懐に何者かが潜り込み、重い拳を打ち放つ。

 

「っと!」

 

それを炎佐は空いている右手でいなし、距離を取った。

 

「九条先輩……」

 

「……言ったはずだ、負けないと」

 

凜は体術の構えを取りながら静かに言う。どうやら主である沙姫の邪魔をする炎佐をさらに邪魔しようというつもりのようだ、まあ以前負けた事に対するリベンジというのもあるのだろうが。それに炎佐もふうと息を吐く。

 

「最初の競技でリトの妨害をしたのもあなたですよね?」

 

「……全ては沙姫様のためだ」

 

「悪いけど、こっちも形式上とはいえプリンセス・ララとリトの護衛でしてね……二人に仇名す敵ならば排除します……まあリトはこの場を離れてるし、プリンセスはしばらく放っといても地球人相手にピンチになるわけないですけど」

 

二人は構えを取りながらそう言い合う。その間に沙姫はララ目掛けて爆弾を投げ、対処されていない爆弾が爆発、ヤミがその爆風に紛れてさっき炎佐が凍らせた爆弾を斬り刻んで処理した。

 

「はぁっ!!」

 

「甘い!」

 

凜は踏み込み、一瞬の加速で拳の射程距離に入ると重い正拳突きを入れる。しかしそれを炎佐は両手をクロスして受け止め、ハイキックで反撃した。が、凜はそれを正拳突きを入れた方とは逆の腕で受ける。

 

[おぉーっと炎佐&九条先輩! なんと借り物競走を放棄するような勢いで戦闘を始めたー!!]

 

実況の猿山が熱く声をたぎらせる。炎佐と凜は拳を交わし、しかしその拳撃は互いの身体に当たる事はない。そして互いの左腕が交差し、まるで鍔迫り合いのようになる。

 

「どうした? 以前と比べて手応えがないぞ?……」

 

「こっちにも事情があるんですよちくしょう……」

 

凜の言葉に炎佐はそう呟き、周りをちらりと見る。

 

「……周りを気にしているか」

 

「プリンセス・ララが異星人だとこの町で公になったとはいえ、俺の正体を知ってんのはリトやサル達除けばあんたぐらいなんですよ。俺はなるべく自分が異星人だとばらしたくないんです」

 

凜の呟きに炎佐はそう告げる。

 

「そうか……なら、せめてすぐ楽にしてやる!」

 

凜は叫び、鋭い正拳突きを放つ。

 

「まあ、とはいえ」

 

「っ……」

 

その次の瞬間、凜の意識が暗転した。

 

[おぉーっとどうしたんだー!? 九条先輩がいきなり倒れたー!!??]

 

「地球人に気づかれない速さで攻撃しちゃえば僕が何かしたなんて気づかれるわけないんだけどね」

 

猿山が驚いたように叫び、炎佐は静かにそう呟くとさっきの目にも止まらぬ速さで叩き込んだ一撃によって気を失った凜を抱え上げた。

 

「さてと……」

 

それから炎佐は顔を上げる。

 

「キーッ! あんたのせいで! あんたのせいで!!」

 

「どーしたの、サキー?」

 

そこには沙姫がどっから持ってきたのか怒り心頭の様子でバズーカ砲をぶっぱなし、それを平然とかわすララとヤミ、そして流れ弾で辺りに被害が出ている光景があった。

 

「……とりあえず、天条院先輩を止めないとな……」

 

炎佐はぼそりと呟き、はぁと大きくため息をついた。ちなみにこの騒動で怪我人が続出、結局今年のスポーツフェスタは中止になったというのは余談である。




お久しぶりです。どうにかギリギリ十月になる前に投稿できました。今回はスポーツフェスタ……ちなみに当初は特別ゲストとして迷い猫メンバー出そうかと思ったけど彼らを非現実の世界に巻き込んだら絶対面倒な事になると思い考え直しました。一度二度ミスったからには学習しますよ俺も……。(汗)
さーて次回はどうしようかな。もうすぐゲーム世界のあれだし、もう一気にすっ飛ばそうか、それとも……。
ま、今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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