ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第十六話 宇宙からの襲来者

(この惑星(ほし)に来てもう三年か……はやいものね)

 

黒髪を綺麗なショートに整えた美女――御門は心の中で呟き、自分に向けられる生徒達からの「綺麗だ」や「色気ムンムンだ」という言葉を聞き流しながら学校に向けて歩みを進めていく。と、その途中で彼女は登校中の人混みの中から見覚えのある後ろ姿を見つけ、悪戯っぽく微笑むと足音を消しながら歩みを進めていく。

 

「おはよ、炎佐君」

 

「っ!?」

 

耳元に息を吹きかけながらの挨拶にその相手――氷崎炎佐は驚いたように距離を取り、反射なのか御門を睨みつける。ちなみに人混みの中の為か押していた自転車は器用にハンドルを掴み支えたままである。

 

「ドク……御門先生……」

 

「たるんでるんじゃないかしら? 私が刺客だったら死んでたわよ?」

 

炎佐の睨みながらの言葉を御門は軽く受け流しふふっと笑う。それに炎佐は言い返せないのか舌打ちを叩いて顔を逸らした。

 

「うっせえ……考え事してたんだよ」

 

「お姉ちゃんとお話しできてなくて寂しいとか?」

 

「テメエいい加減ぶん殴るぞ?」

 

炎佐の考え事という台詞に対し御門はニヤニヤしながらそう返し、その言葉に炎佐はイラついたのか若干本気の目で脅しをかける。しかし御門は「まあ怖い怖い」とおどけるだけだった。

 

「そういえばリト君とララちゃんは? いつも一緒でしょ?」

 

「たまには別行動だよ」

 

二人は特に一緒に行く理由もないのだが離れる理由もないためか横に並んで駄弁りながら学校まで歩いて行った。

 

 

それから時間が過ぎて昼休み。リトとララが教室の外に出ていた春菜と唯を探しに出ていき、炎佐は一人でぼんやりとしていた。と、彼は教室の天井の隅に変なものがあるのを見つける。球体状の胴体にカメラを着け、四足の先が尖った足で天井に張り付いている。と、それは炎佐が自身を見つけると同時にまるで彼を誘うように教室を出ていき、炎佐は席を立つとそれを追いかけた。

それから彼がやってきたのは校外にある人気のない森。すると謎の機械は適当な木に止まり、突然彼の目の前に光を放射した。と、虚空に、右目に大きな傷のあるサングラスの男の映像が映し出される。

 

[お初にお目にかかります、氷炎のエンザ君]

 

「……何者だ?」

 

慇懃無礼に挨拶を交わす男に対し炎佐は明らかに警戒の目を向け、その気配に気づいたのか男はクックッと笑う。

 

[ああ、失礼。私の名はケイズ……ソルゲムのメンバー、と言った方が分かりやすいかな?]

 

「ソルゲム!?」

 

男――ケイズの言葉に炎佐は反応し、直後不敵な笑みを見せる。

 

「ふ、あの悪名高いソルゲムがこんな辺境の星までやって来るとは、銀河が平和になってからお暇なようで」

 

[ククク。あいにくだが、私達も忙しい合間をぬってでもここに来る必要があるのですよ]

 

不敵な笑みを浮かべ皮肉を放つ炎佐にケイズも慇懃無礼な様子で返し、

 

[ドクター・ミカド]

 

一人の人物の名前を挙げる。

 

[もちろんご存知でしょう。何せこの学校の養護教諭だ]

 

「ハッ。ドクターがテメエらみたいな奴らと手ェ組むわけねえだろ……帰れ」

 

[ククク……私が何と言ったか、理解できないようだ]

 

ケイズの言葉にエンザが吐き捨てると彼はクククと笑ってそう言い、それを聞いたエンザは一瞬怪訝な目を向けた後、はっとした顔を見せる。

 

「テメエ、まさか!?」

 

[人質というのは有効な手段、君もそれは分かっているだろう?]

 

彼の予測が現実となった、その直後彼の表情が憤怒のものに変わる。

 

「ドクター・ミカドに、そして人質に手ェ出してみろ……テメエ、チリも残さず焼き尽くす」

 

[ククク……それが出来ればいいのだがね、氷崎炎佐君]

 

エンザの言葉にケイズはにやにやと笑いながらそう言う。その時突然彼のポケットから携帯が鳴り始めた。

 

[出たまえ。話の邪魔をしないよう静かにしておいてあげよう]

 

「……」

 

ケイズが促し、エンザは彼を睨みながら携帯を取り出し、電話に出る。

 

[えっえっえっ、炎佐くーん!!!]

 

直後、電話の向こうから分かりやすいくらいにパニクった男性の声が聞こえ、炎佐は咄嗟に携帯を耳から離して少し待ち、その声が治まってから改めて携帯を当てる。

 

「もしもし、もしかしてマジカルキョーコの監督ですか?」

 

[あ、ああ]

 

炎佐は電話の相手を確認し、相手――監督は焦った様子の声でその質問を肯定する。

 

[わ、悪いんだけどさ! 恭子ちゃん知らない!?]

 

「はぁ?」

 

[朝は確かにいたんだけど、いつの間にかいなくなってるんだよ!?]

 

「は、いや、知りませんけど……!」

 

監督の慌てた声に炎佐はそう返し、少し考えるとはっとした様子で見上げる。

 

[どうかしたかね?]

 

そこにはくっくっと笑みを浮かべているケイズの映像があり、エンザは電話を切るとケイズを睨みつけた。

 

「テメエ、キョー姉ぇに何しやがった……」

 

[さっきも言っただろう? 人質とは有効な手段だ]

 

射殺さんばかりの視線を向けるエンザにケイズは笑いながらそう言い、その時さらに別の映像が映し出される。そこにはスライムに身体を拘束された恭子の姿があった。

 

「キョー姉ぇ!!!」

 

[あのスライムは我々が造った合成生物でね。人質の自由を奪い、命令一つで彼女らを窒息させることもできる……ああもちろん、フレイム星人と地球人のハーフである彼女の炎でも蒸発させることはできないのでご安心を]

 

エンザが声を上げ、ケイズが説明。その後半の説明を証明するように、恭子が口から火を吹いてスライムに攻撃を仕掛けているがまったく効いている様子はなかった。

 

[地球に君がいる事はドクター・ミカドを探している時に知ったが、少し調べれば君の弱点は発見できたよ]

 

「馬鹿な、俺達の関係は細心の注意を払って隠して……いや」

 

ケイズの言葉にエンザは呆然とした様子で呟き、しかし一つ、数日前の事を思い出す。

 

「まさか、マジカルキョーコの撮影の時に俺を狙ってきた奴らは……」

 

[私達の差し金だよ。あわよくば君を殺し、最悪でも実力を調査。君の弱点を発見できたのは嬉しい誤算だね]

 

「……テメエ、殺してやる……いや、死んだ方がマシだって思わせてやる……」

 

数日前マジカルキョーコの撮影時に襲われたことを彼は思い出し、ケイズが笑いながらそう言うと彼は憤怒の表情でそう呟く。

 

[おお怖い怖い。では氷崎君、なるべく大人しくしていてくれればこっちもありがたいので……]

 

ケイズがそう言い終えると共に映像は切れ、証拠を残さないためか謎の機械も爆散する。

 

「っ……」

 

恩のある相手が危機にさらされている。しかし同時にその相手を助けようとしたらまた別の恩ある相手の命が危険にさらされる。その現状に炎佐は固まってしまい、悔しそうにうつむくと歯を噛みしめながら拳をぎゅっと握りしめる。その時、握りしめた拳に握っていた携帯電話がまるで痛みにうめくかのように震え始めた。

 

 

 

 

 

「……くっそっ! 炎佐の奴電話に出ねえ!!」

 

一方学校の屋上。リトは苛立った様子で電話を切りながら怒鳴り声を上げる。

 

「ど、どうしようリト! ザスティンにも連絡が取れないよ!」

 

「嘘だろ!?」

 

ララの焦った声にリトも叫んで再び携帯電話のボタンをプッシュする。

 

「あ、もしもし親父!? な、なあザスティンは……えぇっ!? 休暇!? 上手い具合に締め切り前に仕事が終わったぁ!? あ、ああ……分かった……」

 

リトは呆けた声で叫び、電話を切る。

 

「こんな時に……」

 

「仕方がありません」

 

リトの言葉に、本を読みに学校へと来ていたヤミが呟き、自らの長く伸ばした髪の先に縛られている明らかに地球人ではない格好をしている存在――ソルゲム構成員二人を見る。

 

「この者達から聞き出した座標に向かい、人質を救出します。プリンセスは先行してドクター・ミカドの所へ」

 

「オッケー!」

 

ヤミの言葉にララはびしっとサムズアップする。

 

「は~っはっはっはっは!」

 

「何者!?」

 

と、そこに突然高笑いが聞こえ、ヤミがいち早く反応する。

 

「話は聞かせていただきましたよ!」

 

普段生徒達が使用している屋上部分より一段高い場所。そこにはいつの間にか一人、太陽のせいでほとんどシルエットしか見えないが、それを見る限り人間に見える存在がスカートやぴょこんと立っているアホ毛を風に揺らしながら仁王立ちをしていた。

 

 

 

 

 

「……」

 

一方校外の森。炎佐は何か意を決した表情でここを走り出しており、それを近くの屋根の上から望遠鏡で確認していた存在――ソルゲム構成員は通信機で連絡を入れる。

 

「氷炎のエンザが動き始めました」

 

[そうか……せっかく忠告をしてやったというのに、愚かな奴だ]

 

構成員からの連絡に通信相手――ケイズはクククと冷笑しながら呟く。

 

「ケイズ様、すぐに人質を……」

 

「まあ待て。我らソルゲムに逆らう者だ……見せしめにする」

 

ケイズは自らの横に立つ手下に対し冷笑したままそう言い、通信相手に声を向ける。

 

「監視を続けろ」

 

[了解]

 

ケイズはそう指示を出して通信機を切り、前方を見る。丁度一人の綺麗な女性――彼らの目的たる人物だ――が自分達の方に歩いてきている。

 

「ようこそ。待っていましたよ、ドクター・ミカド」

 

「生徒達は無事でしょうね?」

 

二人の部下を連れ、余裕綽々な様子で挨拶するケイズに対し御門は目を研ぎ澄ませながらそう尋ねる。それにケイズは「もちろん」と返した。

 

「あなたが我が組織ソルゲムに忠誠を誓ってくださるなら、すぐにでも解放いたしますよ」

 

「……そんなに私の医学が欲しいの?」

 

ケイズの言葉に御門がそう聞くとケイズは「欲しいですねぇ」と言い、御門の医療技術をもってすれば生体に強化改造手術を施し、最強の兵士を作り上げる事が出来る。そしてそれらを組織の商品として宇宙に出回せられればこの宇宙を再び戦乱の世に戻すことさえ可能だと組織の目的を話す。

 

「生体の改造と強化、か……そうやって生み出された子を一人知ってるけど……私は、医学をそんな事に使いたくないわ」

 

「しかし、生徒と引き換えにはできない」

 

御門の寂しげな目での言葉に対しケイズは嫌らしく笑う。それに御門は「ええ」と頷いた。

 

「残念だけど、あなた達の――」

 

「待ちなさーい!!」

 

「「――!?」」

 

御門がそう言おうとした瞬間そんな少女の声が響き、ケイズと御門は声の方を見る。

 

「御門先生はあなた達には渡さないんだからっ!」

 

「ララさん!?」

 

ララが空を滑空しながら叫び、彼女の取って置きである尻尾ビームがケイズ達向けて放たれる。

 

「くっ!?」

 

しかしケイズとその部下二人は俊敏にその攻撃をかわし、後ろに下がる。

 

「デビルークのプリンセス!? バカな、妙な動きをさせないよう監視させていたはずっ!?」

 

「もう大丈夫だよ、御門先生!」

 

ケイズが叫び、ララが御門を守るように彼女の前に立つ。さらにその二人を守る騎士のように、無言で一人の少年が彼女らの前に立つ。

 

「……いざ参る」

 

彼は静かにそう呟いてバッジを身に着け、直後銀色の鎧に身を包む。

 

「エンザ! そんな奴らやっつけちゃって!」

 

「氷炎のエンザか……ククク」

 

ララが叫び、ケイズはクククと笑うと片手を上げる。それと共に彼の二人の部下が前に出た。

 

「遊んでやれ」

 

「「はっ!」」

 

ケイズがそう言い、部下二人は頷くと共に身体に力を込めて飛び出し、エンザも素手で二人を受け止める。

 

「!?」

 

しかしエンザの方が押され、直後二人が同時に拳を振るうとエンザに直撃、エンザは弾丸のように吹き飛んで地面に叩きつけられ、しかしそれでもなお勢いが止まらずに地面が抉られる。

 

「そんな……これは、まさか!?」

 

御門は一瞬絶句した後気づいたように声を上げてケイズを睨みつける。

 

「ご名答。彼らは我が組織で開発した生体強化改造手術を受けているのですよ……もっとも、まだ未完成。だからこそドクター・ミカド、あなたに来ていただきたいのです」

 

しかし睨みつけられたケイズはクククと笑いながらそう返す。

 

「下種が……ドクターをそんなところに行かせるかよ……」

 

ケイズがそう言っている間に復活したエンザは再び彼女らの前に立つ。

 

「二人とも、下がっていてください」

 

「ふん……やれ」

 

エンザが二人を下がらせ、ケイズは部下二人に戦闘続行を命令。再び二人の部下がエンザに襲い掛かった。

 

「ふんっ!」

 

部下Aが思いっきり拳を振りかぶり、叩きつけるように拳を振るう。それをエンザは両腕をクロスさせて防ぐものの威力に押されてしまう。

 

「らぁっ!!」

 

「がぁ!?」

 

そこに背後に回り込んだ部下Bがエンザの背中目掛けて回し蹴りを叩き込み、前方後方から衝撃の挟み撃ちを受けてしまったエンザは悲鳴を上げて血を吐くと前の方に倒れ込みそうになる。

 

「おっと!!」

 

しかし部下Aがエンザの顎を抉るように蹴り上げ、部下Bがエンザを掴みあげて冗句へと投げ、エンザは重力によって地面に叩きつけられてしまう。

 

「エ、エンザ!? どうしちゃったの!?」

 

「……まさか!? ケイズ!! あなたはエンザにまで!?」

 

全く手出しをしないエンザにララが慌てて叫ぶと御門がケイズを睨みつけ声を荒げる。

 

「その通り。彼が地球で頼りにしている親族……その一人である彼の従姉弟を人質に取っているのですよ。まさかそれでもなおドクター・ミカドを助けに来るとは思いませんでしたが、やはり手は出せない様子」

 

ケイズはそこまで言うとクククと笑ってみせた。

 

「まあ、ソルゲムに逆らう愚か者への見せしめとして処刑させてもらいましょう」

 

ケイズはそう言ってエンザを見下すような目で見る。

 

「殺せ」

 

冷酷なまでにそう命令し、ケイズの部下は拳を鳴らしながらエンザの方に向かっていく。

 

「……それはどうかな?」

 

と、その時倒れていたエンザがそう呟いて起き上がった。その口元には不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「?……ぬ?」

 

その時、ケイズの二つの通信機が突然鳴り響き始めた。

 

「出ろよ。話の邪魔をしないよう静かにしておいてやるからよ」

 

エンザがそう言い、ケイズは舌打ちを鳴らしながら通信する。

 

「おい、何があっ――」

[ケ、ケイズ様! 敵襲、敵襲です!? こ、金色の、金色のやアアアァァァァッ!!!]

[な、なんでだ!? なんでこいつがここに、ギャアアアァァァァッ!!!]

 

ケイズの言葉を遮って二つの通信機から悲鳴が飛び交う。

 

「……!?」

 

「粘りに粘って……チャンスを待つ。ドクター・ミカドが連れ去られないための時間稼ぎ。それが、今回の俺の任務だ」

 

ケイズがエンザを睨みつけると同時に彼は不敵に笑いながらそう言う。その直後、彼の頭上に巨大な空飛ぶ真っ赤な海賊船のような船が姿を現した。

 

 

 

 

 

「ふひひひ、いい眺めだなぁ」

 

少し時間を戻そう。立ち入り禁止となっている工場の中、ソルゲムの構成員の二人が眼福というように目の前で、スライムに弄ばれ、頬を紅潮させながら艶っぽい喘ぎ声を出している春菜と唯を見ていた。

 

「この娘達、本当にミカドを説得出来たら解放するのか?」

 

「まさか! どっちも上玉だ。いくらでも商品価値はあるだろ――」

「ふざけんなーっ!!!」

 

構成員Aの言葉に構成員Bがまさかと返すが、その言葉が終わる前にそんな怒号が響き渡る。そして棒を手に持ったリトが二人に殴り掛かった。

 

「なっ!?」

「うおっ……こいつ、なんでここに!?」

 

ぶんぶんと棒を振り回すリトに構成員の二人が驚いて叫ぶ。

 

「「結城……君?……」」

 

「ガキがっ!!」

 

春菜と唯がリトの存在を視認すると同時、構成員の一人がリトの振るった棒目掛けて殴り、その衝撃で棒が折れるだけでなくリトまでも吹っ飛ばして尻餅をつかせる。

 

「舐めた真似しやがって……」

 

もう一人の構成員が拳をぽきぽきと鳴らす。

 

「はいどっこいしょー!!!」

 

「ぬがあっ!?」

 

その絶体絶命の空気をぶち壊すかのような掛け声と共に拳を鳴らしていた構成員が突如前方に吹っ飛ぶ。その背中には銀色の髪をなびかせた少女のドロップキックが突き刺さっていた。

 

「な、なんだ!?」

 

「ふっ!」

 

いきなり同僚が吹っ飛んだことに構成員が驚愕すると、後ろからそんな短く息を吐く声が聞こえた。そう思った瞬間彼の背中に鋭い痛みが走った。

 

「ぎゃっ!? な、なんぎゃっ!?」

 

痛みに振り返った瞬間再び鋭い痛みが今度は顔に走り、彼は咄嗟に痛みの元を引き抜く。

 

「フォ、フォーク!?」

 

銃弾でも矢でもなく、フォーク。それがいきなり自分の頭と恐らく背中に突き刺さった事に、彼は一瞬混乱。

 

「名状しがたい――」

「え?」

「――バールのようなものっ!!!」

「ぐふぇいっ!!??」

 

いつの間にか近づいてきていた、さっきドロップキックを同僚にかました少女が今度は名状しがたいバールのようなもの、というかバールでぶん殴ってきたのに気づくのが遅れてしまったのも、まあしようがないと言えるだろう。

 

「「え、え?……」」

 

目の前の光景に春菜と唯は目を点にする。

 

「ふ、二人とも大丈夫か?」

 

「ゆ、結城君……」

「あの人達、何者?……」

 

近づいてきたリトに春菜と唯は目を点にしたまま、さっき宇宙人二人を無力化した銀髪美少女と、入り口の方に立ちフォークをまるでダーツの矢のように構えている少年を見てリトに尋ねる。

 

「あーえーっと……なんていうか……」

 

リト自身も把握しきっていないのか、頬をぽりぽりとかいて困った様子を見せる。

 

「惑星保護機構」

 

「「ヤミさん!」」

 

と、そこにヤミが割り込んで説明するようにそう言う。

 

「ヤミ、他の連中は?」

 

「見張りを含め全員捕縛完了……」

「彼女らは惑星保護機構、宇宙連合に参加するだけの文明レベルに達していない惑星を宇宙人の介入による急激な変化から守るための組織の職員です」

 

「そのとーり!」

 

ヤミと一緒に入ってきた赤髪ツインテールの少女の報告の後、ヤミが短く説明するとさっきの銀髪美少女が割り込む。

 

「私はニャルラトホテプと申します。気軽にニャル子とお呼びください」

 

「八坂真尋。僕は地球人だけど、まあ今回はニャル子の手伝いってとこだ」

 

「……クー子」

 

銀髪美少女――ニャル子が名前を名乗るとフォークを手でくるくると弄びながら少年――真尋も名前を名乗る。その次に赤髪ツインテールの少女――クー子が名前を名乗った。

 

「ニャルラ……どこかで聞いたことあるような?……」

「ニャルラトホテプ……もしかして、クトゥルー神話の無貌の神?」

 

「おや、御存知でしたか。そりゃ話が早い。その通り! いつもニコニコ、あなたの隣に這い寄る混沌ニャルラトホテプ! です」

 

ニャルラトホテプという名称に春菜が首を傾げると唯がはっとした顔でそう尋ね、それにニャル子は満足そうにうんうんと頷くと某仮面の変身ヒーローが変身する時のように腕を動かしてポーズを決め、ウィンクする。

 

「それより、ここを離れましょう」

 

「そ、そうだな!」

 

ニャル子が決めている横でヤミが冷静にそう言い、同時に二人を束縛していたスライムを髪を<r変身:トランス>させた刃で木端微塵に切り刻み、二人を解放する。リトも頷くと携帯を取った。

 

「もしもし、そっちは……あ、ああ。予定通り合流だな。分かった!」

 

リトは電話相手と一言二言話すだけで電話を切り、二人に手を伸ばす。

 

「急ごう!」

 

「「あ、うん……」」

 

春菜と唯は自然にリトの手を取り、それからヤミが先行、リトが春菜と唯を連れて続き、その後を真尋が、しんがりをニャル子という陣営で彼らは脱出した。

 

 

 

一方春菜と唯が捕らえられていた場所とはまた別の立ち入り禁止となっている建造物内。

 

「やっはー!!!」

 

「うぎゃー!!??」

「ケ、ケイズ様に連絡しろ!!」

「な、なんでだ!? なんでこいつがここに、ギャアアアァァァァッ!!!」

 

そこは大騒ぎになっていた。赤いロングヘアーを燃え盛る炎のようにたなびかせ、ハイテンションで剣を振るいその軌跡が爆発を起こす。その光景にソルゲムの構成員は悲鳴を上げる。

 

「に、逃げろ! 人質を連れて逃げっ――」

 

構成員の一人が叫ぶがその声は途中で途切れる。この炎が撒き散らされている空間にもかかわらず、叫んでいた構成員は氷に包まれていた。

 

「……先に行く」

 

「オッケー、雑魚は任せといて。さー行くよ!!」

 

「お、お待ちください!」

 

炎の中にまるで冷気を放っているかのように涼しげな声が聞こえ、それに赤髪ロングヘアの女性が頷いて他の構成員の方に特攻すると、それを追うように髑髏を模した鎧を纏った金髪の青年が走っていった。

 

「あ……」

 

奥の方の部屋でスライムに束縛され監禁されていた少女――恭子は、部屋に入ってきた者――青色の髪を長く伸ばして後ろで一本に結んでいる髪型で、何故か口元を覆い隠すようなマフラーを巻いており、片手に巨大な銃を握っている男性――を見る。

 

「ゲロッ! 恭子ちゃん、御無事でありますか!?」

 

「あ、ケロロさん! 大丈夫です、ひゃんっ!?」

 

その横に立っていた緑色のデフォルメカエル人間、ケロロ星人のケロロの言葉に恭子が笑う。だがその時スライムが動き恭子は嬌声を上げた。

 

「……少し冷えるが、我慢しろ」

 

男性がそう呟いて恭子の方に手を向ける。その瞬間恭子の身体を弄ぶように蠢いていたスライムが全て凍り付く。しかし恭子の身体は一部分とて凍り付いていない。

 

「おぉ流石はセシル殿! お見事であります!」

 

「あとはミーネが来るまで待っていろ」

 

「はーい」

 

ケロロの歓声に対し男性――セシルがそう言うと恭子は元気に笑いながらそう言う。

それから赤髪ロングヘアの女性――ミーネとそのお供が合流し、ミーネが熱を放って凍り付いたスライムを瞬間的に蒸発させ、ようやく恭子は解放される。

 

「ふ~……あー疲れた~」

 

「ご苦労様」

 

恭子は立ち上がって伸びをし、ミーネが労を労う。

 

「うん。それと久しぶり、おじさんおばさん」

 

「ええ、久しぶり」

 

「……ああ」

 

恭子のにこっと微笑みながらの言葉にミーネとセシルは頷く。

 

「ああ、リト君か? ああ。こっちは予定通り進んでいる。ああ。予定地点で合流しよう」

 

と、後ろの方で金髪の青年がおじおば姪の談笑を邪魔しないように電話をかけており、電話を終えるとミーネたちの方を見る。

 

「皆さん、あちらの方も任務成功したようです。脱出しましょう」

 

「オッケー! 皆急ぐよ!」

 

青年の言葉にミーネが頷き、彼女主導の元メンバーは脱出していった。

 

 

 

 

 

そして現在へと時間が戻る。エンザの頭上に停泊した海賊船から長いロープが下ろされたかと思うとそこから滑り降りるようにして数人の男女が現れる。その内の一名を見てエンザは笑った。

 

「遅いよ、母さん」

 

「うるさい事言わない。もうちょい効率的に防御しとけば傷は少なく済んだものを」

 

エンザの言葉に、燃える炎のような赤い髪に真紅の瞳の女性――ミーネが笑いながらそう言う。

 

「遅くなりました、ララ様。デビルーク親衛隊、ただいま到着いたしました」

 

その横で三人の青年がララに向けて膝をつく。それにララが驚いたように目を丸くする。

 

「ザスティン! ブワッツ! マウル! どうして!?」

 

「ここ数日、さらには春菜さんと唯さんが危険になったにも関わらず連絡を絶ったご無礼をお許しください。これもミーネ殿からのご依頼ゆえ……」

 

「ミーネさんからの?……」

 

ザスティンの説明にララは、エンザが母と呼んだ女性――ミーネの方を見る。

 

「アタシらは独自の情報網でソルゲムが、今は地球にいるミカドを狙っていることを掴んだのよ。んで、この前キョーちゃんからエンザが狙われたって話を聞いてもしかしたらソルゲムがエンザの存在に気づき口封じや、もしかしたら弱みとしてキョーちゃんを狙ってくる可能性があると判断してね」

 

「まさか、キョー姉ぇは全部知ってた?」

 

「もち」

 

ミーネの説明にエンザが口を挟むと彼女はあっさりと頷く。ちなみに春菜と唯はここで一緒に下ろされており、恭子は仕事があるため先に仕事場近くで下ろされたらしい。

 

「それで……俺達は現在地球にいる惑星保護機構職員であるニャル子とクー子に情報を流し、ザスティンやケロロ達にも協力を要請したわけだ。恭子、そしてエンザの友には一時危険な目にあってもらって申し訳なかったが、全てはここでミカドの誘拐計画を立てたソルゲムの幹部を捕らえるために」

 

「さあ、神妙に縛についてもらいましょうか!!」

 

セシルによる状況説明が終了すると同時にニャル子がびしっとケイズを指差して叫ぶ。

 

「クク、ククククク……」

 

と、ケイズが笑い始める。

 

「……何がおかしい?」

 

「フフフ。ここまでの状況は予想外でしたが、まさか私が金色の闇と氷炎のエンザ、さらにはデビルークのプリンセスがいるという状況を想定出来ていて最悪の事を想定していないとでも?」

 

ケイズがそう言って指を鳴らす。とその瞬間ケイズの頭上にUFOが現れたと思うと彼の背後に次々と同じタイプの鎧で全身を包んだ軍勢が姿を現す。

 

「この者達はこの前売買した奴隷を強化手術したものでね……短命になったが思考能力はもはや存在せず、ただ目の前の敵を嬲り殺すことしか考えない。生体兵器の商品としてはまあまあと言ったところでしょうかね?」

 

「下種が」

 

ケイズの言葉にエンザが呟く。

 

「しょうがない。こっちも本気でいきますか……エンザ」

 

「ん?」

 

ミーネは構えを取りながら呟き、次にエンザを呼ぶと何か、まるで携帯電話のような機械をエンザに手渡す。なんかメモが貼りついていた。

 

「プレゼント。簡単な使い方はメモってるから」

 

「あ、うん……」

 

ミーネから受け取った機械のマニュアルであるメモをエンザは読み始め、ミーネは拳をぽきぽき鳴らしながらニャル子に呼びかける。

 

「さーてニャル子。久々に……派手に行くわよ!」

 

「もっちろんですっ!」

 

「ふ……」

 

ミーネの叫びにニャル子がテンション高く言うとクー子も頷く。そしてニャル子とクー子が光に包まれたかと思うとニャル子は漆黒のボディスーツに翼を思わせるマフラーをたなびかせたまるで特撮ヒーローのような姿に、クー子はまるで炎のようなデザインと言っていいのだろうか、肌のほとんどが露出しているかのようなスーツに変身。そのクー子の姿に後ろでリトが戸惑っていた。

 

「いくよ、変身!」

「チェンジ!」

 

次にミーネが左手のブレスを操作しながら叫ぶと彼女も光に包まれ、光が弾けた時彼女は真っ赤なボディスーツに身を包み、こっちもまるで特撮ヒーローのような姿に変貌していた。その隣には一緒に掛け声を行い似たタイプの青いボディスーツに身を包んだセシルもいる。

 

「相変わらずでありますな」

 

「ミーネの趣味でな。まあ、惚れた弱味というやつだ……強いから問題もないしな」

 

ケロロの言葉にセシルはあっさりとそう言ってのけた。

 

「ここからは私達のステージです!」

 

「さあ……ショータイム……」

 

ニャル子とクー子が台詞を決め、ミーネは一回腕を重ね合わせると右腕と左腕を擦りあわせるように右腕を後ろにやる。

 

「荒れるわよ~……止めてみなさい!!!」

 

そして左手を突き出しながら叫ぶと共にケイズが「ゆけー!!!」と叫び、二つの軍勢がぶつかり合おうと走り出した。

 

「ブワッツ、マウル。お前達はララ様達をお守りするんだ!」

 

「「はっ!!」」

 

ザスティンは部下に指示を出してから相手に突進、敵の一人を袈裟懸けに斬る。

 

「ぬ、硬い!?」

 

しかし簡素な鎧ぐらいしか着ていないにも関わらずその肉体が剣を受け止め、ザスティンは驚きに目を見開く。が、相手が単純なパンチで反撃を仕掛けてくると素早く後ろに下がってそれをかわし、身体を捻って剣を構え、相手集団目掛けて剣を薙ぎ払うとその衝撃波が一気に相手を吹き飛ばす。

 

「ナ~イス」

 

そこにミーネが武器である剣に炎を纏わせ、思いっきり剣を振り下ろすとその軌跡の形をした炎の衝撃波が放たれ、空中に吹き飛ばされた相手を全て焼き払った。

 

「ミーネ殿……感謝します。奴ら、肉体強化の影響か上手く刃が通りませんでした。これは本気で斬りかからねば殺すどころか戦闘不能に落とすことすらままならないかと」

 

「なるほど、了解。あぁそれと、さっきの救出劇から思ってたけど……ザスティン、腕上げたね」

 

「……ありがとうございます」

 

ザスティンの分析にミーネは頷いて返し、続けての彼女の評価にザスティンは嬉しそうに頷く。

 

「けど」

 

彼女がそう、評価を続けようとした瞬間四方八方からミーネに敵が襲い掛かる。

 

「ミーネさ――」

 

ザスティンが助けに入ろうとした瞬間、ミーネはふっと笑って剣を逆手に持ち直し、回転。

 

「斬撃無双剣!!!」

 

その回転しながらの斬撃が炎を帯びて敵集団を一撃で斬り崩した。そして彼女は剣を順手に持ち直すと肩に担いでザスティンの方を見る。

 

「まだまだアタシ程じゃないね」

 

「ははは……」

 

現在ミーネは特撮ヒーローのようにマスクをしているため表情は窺えない。が、ザスティンはそのマスクの中では彼女は勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべている事をなんとなく見抜いていた。

 

 

「……炎佐の母さん、強ぇ……」

 

後方でリトが唖然としている。と、彼らの護衛に立っているブワッツが「当然です」と言った。

 

「ミーネ殿はかつての銀河統一戦争にてデビルーク陣営に傭兵として参加。その戦闘力は相棒にして伴侶であるセシル殿とたった二人で敵艦隊一個を軽く壊滅させる程なんですから」

 

「さらにその剣術はザスティン隊長をも上回り、“紅の閃光”という異名を持つ凄腕の剣士です……正直な話、彼女らが私達の敵に回る事があるかもしれないと思うと彼女らが賞金稼ぎをしているのは末恐ろしいです」

 

さらにマウルもミーネの事をそう評価し、銀河統一を果たしたデビルーク、そこの王室親衛隊にまで任命されている彼らにそこまで言わせるミーネの実力にリトは唾を飲んだ。

 

 

「ふっ!!」

 

敵集団の中を縦横無尽に動き回り、髪を<r変身:トランス>させた刃で次々の敵集団を斬り倒していくヤミ。が、足を斬り裂いた敵の手がその刃を掴み、ヤミの動きを一瞬止める。

 

「しまっ――」

 

髪を掴まれての強制停止以外にもその相手を斬り倒すまた一瞬の停止の隙をついて襲い掛かる敵にヤミは残る髪の刃以外に両手を刃に変身させて応戦しようとする。しかしその直前無数の銃声が鳴り響き、ヤミの周囲にいた敵は全て倒れていく。

 

「……無事か? 金色の闇」

 

「……例は言いませんよ。セシル」

 

一瞬で敵集団を撃ち抜いた相手――セシルの言葉にヤミはそうとだけ返す。と、急所を外したのか何体かの敵が起き上がる。

 

「……外したか」

 

「奴らにはどうやら痛覚などがないようです。腕を斬ろうが足を斬ろうが、生きている限り敵とみなした相手を殺す以外の思考はないようです」

 

「……痛みも、死も恐れない、か……」

 

ヤミの分析にセシルはそう呟いた後再び銃を構える。

 

「援護する」

 

「必要ありません……が、あなたが私の獲物を横取りするのは勝手です」

 

セシルの言葉にヤミは静かにそう返して敵集団に特攻。セシルもヤミの背中を守るように援護を開始、ヤミもまるで援護がある事を考えているかのような立ち回りで戦い始めた。

 

 

「ケロロ小隊、突撃でありますっ!」

 

ケロロが突撃を命令し、タママが敵に飛び蹴りを叩き込んでさらに後ろの敵集団を巻き込んで倒していき、ギロロがビームサーベルで斬り倒し、ドロロも敵集団の中に入り込んだかと思うと次々と急所を的確に斬り裂いて暗殺していく。

 

「ゲロゲロゲロー!」

 

ケロロ自身もビームマシンガンで応戦していく。が、敵の一人がギロロ達前衛を抜け、本能的に司令官すなわちケロロを先に潰すべきと判断したのかケロロ目掛けて突進していく。

 

「ゲ、ゲロッ!?」

 

気づくのが遅れたケロロがマシンガンを乱射するがそれで止まる敵ではない。しかし、その時ケロロの前に何者かが割り込んだ。

 

「どっせーいっ!!」

 

そして一撃放たれた鉄拳が敵の頭部を吹き飛ばす。

 

「無事ですか、ケロロさん?」

 

「ニャル子殿! 助かったであります!」

 

援護に入ったニャル子にケロロが助かったとお礼を言う。と、一撃で味方を殴り殺したことを脅威に感じたのか、さらに敵がニャル子に襲い掛かる……が、それらはニャル子に触れる前に熱線により消滅する。

 

「ニャル子に手を出す奴……許さない」

 

そこに姿を現したクー子は静かにそう呟き、熱線によるオールレンジ攻撃を仕掛け始める。

 

「え、援軍到着であります! ケロロ小隊、負けずに意地を見せるでありますっ!!」

 

そしてケロロも士気を上げるように叫ぶ。惑星保護機構職員とケロロ小隊の連合軍が今ここに誕生した。

 

 

一方リトや春菜達非戦闘員が待機、ブワッツとマウル、そして真尋が護衛に回っている後方。先ほどの戦いで敢えて手出しをせず防戦一方の為に傷ついていたエンザは母から託された携帯電話のような新兵器らしき代物の説明書に目を通していく。

 

「え、炎佐。大丈夫なのか?」

 

「問題ない。予想以上の猛攻だったからダメージはくらったが……それより母さんも妙な暗号で説明書を書いてくれたもんだ」

 

リトの心配そうな声にエンザはそう返し、母が渡してきた新兵器らしき代物の説明書――何故か内容が暗号化されており、読み解くのにも一苦労のようだ――を読んでいた。

 

「ぐふっ!?」

「がっ!?」

 

「ブワッツ!? マウル!?」

 

「!?」

 

と、そこに聞こえてきたブワッツとマウルの悲鳴とララの声にエンザ達も声の方を見る。ミーネ達が奴隷兵士の相手に精一杯になっている隙を突いて先ほどエンザを痛めつけていたケイズの部下二人がブワッツとマウルを殴り倒したのだ。さらにその部下達の背後にはさらに奴隷兵士が集まっている。

 

「さあドクター・ミカド。一緒に来てもらいましょうか」

 

「さもなくば、生徒達の命はありませんよ?」

 

部下Aと部下Bが御門を脅迫する。と、エンザが立ち上がってリト達を守るように前に出た。

 

「やっと解読できた……ったく、息子相手に無駄にややこしい暗号なんて使うなってーの」

 

敵の前に立ちながら彼はそう呟き、携帯電話を、まるで先端を相手に突きつけるように構える。

 

「パスワード入力」

 

呟き、“1”、“0”、“5”、“0”、と入力。そしてまた別のキーを押しながら彼は携帯電話のような装置を口元に持っていく。

 

「転装!!」

 

叫ぶと共に携帯電話から放たれた光がエンザを包み込み、僅か一秒にも満たない時間でその光が弾け飛ぶ。

 

「……ったく。やっぱ母さんの趣味だな」

 

その光の中から、銀色に光るスマートな形状の鎧で全身に纏い、頭部は竜を模したフルフェイスタイプのヘルメットで覆ったエンザが姿を現した。その首元からは真っ赤なマフラーがたなびいており、まるで特撮ヒーローのような姿だ。その右手には変身アイテムであることが判明した携帯電話が握られており、エンザはそれをベルトのバックル部分に装着した。そしてヘルメットの目に当たる部分が右目は赤の、左目は青の輝きを放つ。

 

「ミカド以外は全員殺せ!!」

 

「ブワッツ、マウル。雑魚は俺が潰す」

 

「ああ……」

「手早く頼むぜ」

 

部下Aが叫ぶと共に奴隷兵士がエンザ達目掛けて突っ込んでいき、エンザは自分より強いであろうブワッツとマウルにケイズの部下二人を任せ、ブワッツとマウルも頷くと部下二人に殴り掛かる。それを見届けてからエンザも普段使っている刀の柄を取り出し、それに赤い刃を形成させると共に刃が炎に纏われる。

 

「せいっ!!」

 

振り下ろした刀から伸びる赤い刃が強靭な肉体を持たされた敵を苦も無く斬り裂き、さらに刃を返して横に一閃するとエンザが剣を振るった前方が爆発して残る敵を吹き飛ばす。

しかし炎は前方を焼き尽くしたのみ、左右と背後から別の奴隷兵士が襲い掛かるがエンザは静かにトンッと地面を足で叩く。その瞬間奴隷兵士達を地面から突き出た氷の槍が貫いた。

 

「……いい感じだ。これなら……」

 

ヘルメットのせいで表情は窺いしれないが、気のせいかどこか嬉しそうにエンザは呟き、目の前で蠢く奴隷兵士をヘルメットごしに睨みつける。

 

「氷炎のエンザ、いざ参る!」

 

名乗ると同時に奴隷兵士が襲い掛かり、それからエンザは襲い来る敵をただただ斬り倒し、燃やし、凍らせていく。

 

「せあっ!!」

 

最後にかかっていた奴隷兵士を斬り倒し、敵が全ていなくなったのを確認してからエンザはケイズの部下と戦っているはずのブワッツとマウルの方を見る。既に二人とも満身創痍という状況だ。しかし部下二人もなかなか傷ついており、一進一退の攻防であったことがうかがえる。

 

「ブワッツ! マウル! 下がりなさい!!」

 

突然ミーネの声が響き渡る。どうやらミーネは自分に襲い掛かってきた敵は全て片づけたらしい。と言ってもなんか偉そうに仁王立ちをしており、助けに入る様子もなくブワッツとマウルに指示を出していた。そして彼女は仁王立ちのままエンザを見る。

 

「さあエンザ! 今こそその武器の真の力を発揮する時よ!」

 

「はぁ!?」

 

「今ブレイブを解き放ちイマジネーションの力で勝利を掴みなさい!!!」

 

「意味が分からねえよ!!!」

 

ミーネの言葉にエンザはツッコミを叩き込む。

 

「それは、ただ単にここ数年で鈍り切ったあなたを現役並みに動けるようにするパワードスーツじゃないってわけよ。何せその武装はコンコンの能力を参考にしてるからね」

 

「……その名で呼ばないでください」

 

しかしミーネはむしろ不敵な笑みを浮かべながらそう言い、その後半の言葉にヤミがツッコミを入れる。

 

「ヤミの能力?……」

 

「隙あり!!」

 

ミーネの言葉を聞いたエンザがぼそりと呟いたその時、ケイズの部下Aが不意打ちのように殴り掛かり、その衝撃で辺りに砂煙が撒き散らされる。

 

 

 

「……なるほど、こういう事ね?」

 

砂煙の中からエンザの冷静な声が聞こえる。砂煙が止んだ時、エンザの右腕に青色のシールドが装着されているのを他の者は見た。と、その時エンザの左腕に装着されていた桃色のドリルがギュイイイィィィィッと音を立てて回転を始める。

 

「ふんっ!!」

 

「つっ!?」

 

部下Aはドリルをかわし、距離を取る。が、その瞬間彼の両腕が輝きを放ち、その光が消えた時にはエンザの右腕には黒いライフルのような銃が、左腕には緑色の爪状の剣が装着されていた。

 

「……まるで変身(トランス)ですね」

 

「まねー。昔コンコンと戦ったのを見たのを覚えてんのよ」

 

奴隷兵士はほとんど全滅、残党兵をザスティンやセシル等男性陣に任せてエンザの戦いの見学を始めたヤミとミーネがそう話し合う。

 

「こけおどしだ!!!」

 

部下Aがそう叫んで再びエンザに襲い掛かる。

 

「スラッシュ!!!」

 

一閃、それだけで部下Aの上半身と下半身が斬り分けられた。

 

「な……くそっ!」

 

部下Bは驚きに一瞬硬直した後近づいたら危険だと判断したのか後ろに飛んで銃を抜き、射撃戦に持ち込もうとする。が、その時には既にエンザは右腕を彼の方に向いた。

 

「ビームガン!!!」

 

咆哮と共にビームライフルからビーム弾が放たれ、その弾丸が部下の身体に風穴を開ける。たった二回の攻撃だけで戦闘は終了、エンザもバックルから携帯電話を取り外すと操作、鎧を解除した。

 

『……』

 

後ろの方でリト、春菜、唯はもちろんのこと真尋にララ、さらには御門までもぽかーんという言葉が示すかのような表情になってしまっていた。

 

「……すっげ」

 

エンザ自身も感想としてはそうとしか漏らせなかった。が、その次の瞬間エンザの身体が崩れ落ちる。

 

「エ、エンザ!?」

 

御門が大慌てで走り寄り、エンザを見る。彼の身体からは大量の汗が流れ出ていた。

 

「だるい……」

 

「当然よ」

 

エンザの呟きに、近くに歩き寄ったミーネがそう返す。

 

「その鎧は身体能力や防御力アップ機能の他に、エンザとっておきのバーストモードを使っても身体に異常をきたさないように調整しといたの。といっても、無理矢理身体能力を底上げさせるから身体に負担がかかり倦怠感自体は抜けない……バーストモード自体以上の取って置きにしといた方がいいわよ、少なくとも併用はお勧めしません。燃費もあんまよくないしね。ま、一つアドバイスをするなら……倦怠感を少なくしたけりゃとっとと現役並みに鍛え直しなさい」

 

ミーネが説明し、燃費が悪いと聞いたエンザは携帯電話を開いて鎧のバッテリーを調べる。確かにほとんどエネルギーは残っていない様子だ。

 

「あ、それってデダイヤルじゃないの?」

 

「デダイヤル?」

 

と、携帯電話を見たララが口を挟み、エンザが彼女の言葉にオウム返しに聞き返すとララはうん、と頷いて「私の発明品だよ」と言って懐から携帯電話型の発明品――デダイヤルを取り出す。

 

「あー、そういえばこの前一個ミーネさんにあげたっけ。あれ改良したんだ」

 

「そーそー」

 

ぽん、と手を打って思い出したように言うララと笑うミーネ。要するにエンザの新兵器の下地になったのはやはりララの発明品というわけだ。しかし暢気なララにエンザとリトは揃ってがくっと肩を落とす。

 

 

 

 

 

「く……くそっ! 撤退する!」

 

状況が悪くなっていることを察したケイズはついに御門の誘拐を諦め、自分のUFOに乗り込むと地球から逃げ出そうとする。

 

「おぉーっとそうはいかないわよ!」

 

しかしそれに気づいたミーネは通信機を持つ。

 

「よろしくーガレちゃん!」

 

[あいよっ!!]

 

その言葉に通信機の向こうから、通信機によるものを差し引いても機械的な音声が響いた。

 

[っつーわけで、サポートよろしく頼むぜ! クルルの旦那!]

 

「クーックックック。この俺をサポートたぁ言ってくれるねェ……お前こそ、俺に置いてかれるなよォ?」

 

ガレちゃんことミーネ達が乗っていた海賊船風宇宙船の高性能AIの言葉に、ガレちゃんにただ一人残っていたケロン人――クルルはそう言ってガレちゃんの武装である大砲を展開していく。

 

「ふん、あんな旧式――」

 

それを見たケイズは海賊船に古臭い大砲という旧式な取り合わせを鼻で笑うが、その次の瞬間ケイズのUFOに衝撃が走り、UFOが大きく揺れる。

 

[おらおらおらおらおらぁっ!!! 全弾発射ぁ!!!]

 

「クーックックック。見た目一昔前な海賊船なくせに中身は超最新鋭とはなァ……凝るもんだぜあの女」

 

[そりゃー地球のアニメに影響受けて宇宙船(オレ)の外装丸ごと変えるくれえだからな。色々勝手が変わるからこっちも苦労すんだぜ? 幸いここ数年は大丈夫だが、その内列車に変えるとか言い出しそうで怖ぇよ。それでなくとも巨大ロボットへの変形機能が欲しいとか毎日のように言ってるしよぉ]

 

「マニアな上司を持つとお互い苦労すんねェ」

 

ガレちゃんの砲撃をクルルがサポート、時にはクルルが砲撃照準を勝手にいじりしかし的確な場所に砲撃を見舞い、ソルゲムUFOからの反撃はエネルギーシールドで全て防ぐ。しかもその合間に互いに冗談交じりに愚痴るように喋り合う余裕さえ見せていた。

 

[この一撃で沈みやがれえええぇぇぇぇっ!!!]

 

そしてガレちゃんの大砲から流星群のような砲撃がソルゲムUFOに直撃、ついにUFOは煙を上げながら川に着水した。

 

「セシル!」

 

「任せろ」

 

ミーネが言うと共にセシルは右手を川につける。そして「ふっ!」と力を込めた瞬間川が一瞬で凍り付く。

 

「全員突撃!!!」

 

まるで司令官のようにミーネが号令し、その彼女がいの一番に突っ込んでいくとザスティン達もその後を追う。

 

「……あとは母さんたちに任せりゃ大丈夫だろ」

 

パワードスーツのせいか疲労困憊になっているエンザは大捕り物には参加せずそう呟いた。

 

 

それからケイズ達やUFOに乗っていた恐らく組織の技術者面々なのだろう者達はぼこぼこにされた後お縄につく。

 

「では、ソルゲム構成員は私達が連行いたします。ご協力ありがとうございました!」

 

「……ソルゲムのUFOは……後で惑星保護機構で回収する……」

 

ニャル子がビシッと敬礼を取りながら惑星保護機構としての職務を果たし、その横でクー子も敬礼を取りながら説明する。そしてミーネが「ガレちゃんで送るわ」と言ってセシルと共にニャル子とクー子、そしてソルゲム構成員を連れて地球を出ていく。

 

「まったく、とんでもない人達だったね!」

 

「ゴメンなさい……あなた達を危ない目にあなた達を危ない目にあわせて……」

 

腕組みをしながらぷんぷんという様子を見せるララの後ろで御門が春菜と唯に謝る。それに春菜は「先生のせいじゃないし……」と言い、唯は恥ずかしそうに「もう二度とごめんですけど」と続ける。それに御門はありがとうというように会釈をした後ヤミの方を見る。

 

「助かったわ、金色の闇。それにエンザ」

 

「いえ……あなたには借りもありますから」

「俺はキョー姉ぇを助けるついでだ」

 

御門からお礼を言われたヤミは冷静に、炎佐はあくまでも捕まってしまった恭子を助けるついでだとまるで照れ隠しのように言う。が、少し黙った後炎佐は「それに」と続けた。

 

「あんたはここが似合ってるよ。御門先生」

 

「みんな……」

 

そう言って彼はふんっと鼻を鳴らしながら顔を背け、ララが「そーゆーことだよ!」と元気よく言うと御門は嬉しそうに微笑む。

 

「ありがとう」

 

御門の笑顔でのお礼に皆も笑顔で返す。が、その後に唯が「ところで私達、学校は?」とふと思い出したように呟いたのにリト達学生メンバーは青い顔で「あ」と呟くのであった。




今回は例の御門回に折角の宇宙からの敵襲なんですからこっちも思いっきり宇宙人コラボを放り込んでみました。というかこの前のケロロコラボ回は、ケロロとのコラボを目くらましにした今回のための伏線ですからね。描写だけのニャル子とか最後の方の不穏な描写とか。まあ一番の問題点としては……俺ニャル子さんの小説持ってないし、一応アニメ視聴したつっても二期だけですからね……色々調べはしましたけどなんかおかしかったらごめんなさい。あ、ちなみに仮面ライダーシリーズにもあんま詳しくないです。今回は小ネタの小ネタ扱いなので大丈夫かなぁ、とまたも冷や汗だらだらでやってます……ちなみに名前だけは出てて今回初出演、エンザの両親の二人に関してはスーパー戦隊シリーズネタを放り込みました。ゴーカイジャー以降。彼女らが使ってる船ことガレちゃんの外見イメージはゴーカイガレオンですし……流石にロボ戦は出来ませんけど。あ、ちなみにミーネとセシルの変身イメージはゴーバスターズです。けどスーツまでもゴーバスターズイメージではありません……いやまあ、明確な元ネタのイメージはないんですが……。(汗)
んでエンザの方も新兵器登場です。鈍ってる現状を打破するための新兵器です……流石にぽんぽんバーストモード使わせるのもやばいんで(使ったら後で高確率で体調不良を起こすという設定的に)。まあ使用するだけで体力消費するという設定なのでパワードスーツ自体もそこまで使わせませんけど。
さーって今回は大丈夫かなぁ~っと、もはや開き直った方が楽だと思ってますが出来ないんですよねぇ……ま、それでは。さて次回はどうしようかな……。

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