ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

16 / 67
第十五話 特訓のちデートときどき喧嘩?

どこかの広い空間。エンザは鎧をまとい右手に赤い刀身の刃を宿した刀を握り、静かに前方を睨んでいた。その先には髑髏を思わせる鎧を身に纏い、マントを纏った美青年――ザスティンが剣を手にこちらもエンザを睨みつけている。

 

「「…………」」

 

二人は互いに睨み合いながら武器を構え、

 

「「はぁっ!!!」」

 

同時に飛び出した。

 

「ぬんっ!!!」

 

まずザスティンが剣を薙ぎ払うように横に振るう。が、エンザはそれを棒高跳びのジャンプの要領でかわしながらザスティンの背後に回り込みつつ刀を振り上げる形に持っていくとザスティンの背中目掛けて振り下ろす。

 

「はあっ!!」

 

「なんのっ!!」

 

しかしザスティンは振り返りざま剣を再び横に薙ぎ払ってエンザの刀を防ぎつつエンザを吹き飛ばす。

 

「もらった!!」

 

「くっ……」

 

体勢を崩したエンザ目掛けてザスティンは再び突進しようとするが、エンザは素早く懐に手をやると拳銃を取り出して銃口をザスティンに向け乱射する。

 

「むっ……」

 

体勢を崩しながらも的確な射撃にザスティンは素早くバックステップを踏み、エンザはその合間に体勢を立て直すと銃をしまい、刀を左手に持ち替えると右掌に炎の球を形成。

 

「でやぁっ!!!」

「はぁっ!!!」

 

ボールを投げるように炎の球を投げ、ザスティンが剣を振るい放った衝撃波と炎の球がぶつかると同時に球は爆発、周囲に炎を撒き散らす。

 

「「はあああぁぁぁぁっ!!!」」

 

しかしその炎の雨をものともせず二人は相手目掛けて突進、ザスティンが剣を縦横に振るい、エンザは左手に握っている刀で鋭い突きを連打する。その剣劇の応酬はエンザの刀が後ろに弾かれる結果に終わり、しかしエンザは後ろの方にやっていた足を、そのまま後ろにダンッという足音が聞こえる程に強く踏み込み、同時に彼の背後の床が一本道のように凍ると、エンザはその氷の上を滑るようにして距離を取る。

 

「逃がさん!」

 

「おっと」

 

このまま押し切るとばかりにザスティンも突っ込むがエンザは後ろに滑りながら左手を地面につける。と、いきなりザスティンの足元及び前方の床が一瞬で凍り付いた。

 

「ぬ、ぬおおぉぉっ!!??」

 

いきなりの床の摩擦係数の変化にザスティンは慌てるが、慌ただしく両足を動かした後結局バランスを崩してずっこける。

 

「形勢逆転っ!!!」

 

その隙にエンザは再び銃を抜き、ザスティン目掛けて連射。しかしザスティンは横に転がってその弾丸をかわし、弾切れになったのかエンザが銃弾を装填し始めた隙を突いて素早く起き上がると氷の床に素早く順応したのかスケートのように華麗に滑りながらエンザへと突進、エンザも立ち上がると左手に刀を構える。

 

「ふんっ! ぬっ!?」

 

突進の勢いのままザスティンは剣を振り下ろす。しかし氷の床のせいで思ったように踏ん張りが効かず、逆にエンザは氷の床を利用して滑り、上手い具合に衝撃を逃がしながら距離を取る。

 

「ならば、これでどうだっ!?」

 

叫び連続斬りを見舞うザスティン。その刃自体は届かずとも放たれた衝撃波がエンザを襲い、しかしエンザはそれらを氷の上を滑ってかわしていく。だがザスティンはさっきとは逆に距離を取りつつ衝撃波での攻撃を行う作戦に切り替えたらしく、エンザはチッと舌打ちを叩くと目を閉じ、少し拍子を置いて目を開くと赤い瞳でザスティンを睨みながら右手を氷の床へとつける。

 

「はぁっ!!!」

 

掛け声と同時に突如氷の床が溶け、いや、それだけではなく一気に蒸発。水蒸気がザスティンの視界を塞いだ。

 

「時間稼ぎか、だがっ!!!」

 

霧で目隠しをしている間に接近しようという作戦と読み、ザスティンは素早く剣を振るうとその風圧で霧を振るい飛ばす。

 

「さあ、どこから来る!?」

 

目を研ぎ澄ませ攻撃に備える。が、エンザは斬りかかってくる様子も銃撃してくる様子も見せずザスティンはきょろきょろと辺りを見回す。

 

「時間稼ぎは当たり」

 

と、ザスティンはギリギリ視界から外れる位置にいたエンザを視認。エンザは青色の瞳を宿す目を細めてにやりと笑う。

 

「でも目的は……こいつを作る事だったんだよね!」

 

そう言って彼は、氷の鎖を繋げその先端は巨大な氷の球になっている武器――モーニングスターを構えた。

 

「な!?」

 

「ぬんっ!!!」

 

ザスティンが大口を開けて驚いている隙を突いてリトはモーニングスターを振り回し、勢いをつけてザスティン目掛けて氷球を振るう。我に返ったザスティンも咄嗟に氷球目掛けて斬りつけるが、その刃は氷に阻まれ押し負けたザスティンは思いっきり吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐ……硬い……」

 

「当然」

 

ザスティンの感想にエンザは得意気に笑って球を手繰り寄せ手元でぶんぶんと振るって勢いを維持する。

 

「りゃあっ!!」

 

そして再びエンザは攻撃を開始し、身体全体を使って氷球を振り回しまるで竜巻の如きその圧力に押されているザスティンは剣を振るって氷球を弾くのが精一杯の様子だった。

 

「ふんっ!」

 

エンザは一歩踏み込み、勢いを込めて自分から見て右頭上から叩きつけるように氷球をザスティン目掛け振り下ろし、それを見たザスティンも剣を大上段に構えて氷球を待ち受け、タイミングを合わせて剣を振り下ろす。

 

「なっ!?」

 

その時バギィンと音を立てて氷球が砕け、驚きの光景に硬直してしまったエンザは同時に急激な先端の重量の変化によってバランスを崩してしまう。その隙を突いてザスティンは再び突進、エンザも鎖を手放して刀の柄を左手に取り刃を形成するが切っ先を相手に向けた瞬間ザスティンが剣を振り上げて刀を弾き飛ばし、直後エンザの喉元に剣を突きつける。

 

「……参りました」

 

エンザは両腕を上げて降参の意を示し、今回の戦い――実戦形式の訓練は終了した。

 

 

 

 

 

「ふう……久しぶりにいい汗をかけた」

 

場面は浴場へと移り、ザスティンは浴槽に浸かりながらタオルで優雅に汗を拭う。

 

「最近は才培先生のアシスタント業で私もブワッツもマウルも忙しくて鍛錬をする暇もなかったからな。感謝する、エンザ」

 

「こちらこそ」

 

ザスティンがそう言ってもう一枚持ってきたタオルをエンザに渡すと、彼はそうとだけ言ってタオルを受け取ってザスティンの隣で湯船に浸かる。

 

「なあ、ラストのあれって何をしたんだ? まさか俺が油断するのを待ってて手を抜いてたとかか?」

 

「流石にそこまで器用ではない。あの攻撃を受け流しながら一点に斬撃を集中、あの一撃で割れた。それだけのカラクリだ」

 

「な~るほど」

 

エンザの質問にザスティンはそう答え、エンザは「なるほど」と呟いて前方の窓ガラスから覗く巨大な青い星――地球を眺めながらはぁ~と大きく息を吐く。

 

「自覚が出てきたよ……確実に鈍ってきてる。ま、三年も命懸けの生活から抜け出してたら当然だけど」

 

エンザはそう呟き、はぁと今度は小さなため息をつく。

 

「この前は賞金稼ぎ時代の恨みでキョー姉ぇ達まで襲われたし、ケロロ達がいてくれて助かったよ」

 

「ケロロ? ん、彼らと会ったのか? 彼らが地球にいるという事は報告で確認していたが……」

 

「あ゙っ!?」

 

風呂場という開放的な空間のせいか軽くボロを出してしまい、ザスティンが首を傾げるとエンザは変な声を上げて口を手で覆う。

 

「というよりキョー姉ぇ――」

「いやっ! その、ちょっと遠出してたら偶然ケロロ達に出会ってさあいつら今地球人のとこでお世話になってるらしいんだよいやーあいつらが地球人のしかも一般人に捕虜にされてるなんて驚きだよなー!!」

「――あ、ああ……」

 

ザスティンが疑問の言葉を投げかけてくる前にエンザは言葉をまくし立ててザスティンに押し勝ち、いきなりのマシンガントークにザスティンは若干引いた様子を見せる。

 

「しっかしこの前襲われた時はケロロ達が援護してくれたというか、大部分はケロロ小隊が片づけてくれて俺はボスとの一騎討ちだけだったようなもんだけど、それでもかなり苦戦したし……鍛えないと本当にまずいな。母さんにも相談してみるか」

 

「ん? ミーネ殿だったら……」

 

「ん?」

 

エンザの呟きにザスティンが反応、彼がザスティンの方に顔を向けるとザスティンは何か思い出すように目を泳がせていた。

 

「あ、あー……いや、この前知り合いの結婚式に招待されてね。その時に偶然ミーネ殿とセシル殿にお会いしたんだ」

 

「あーなるほど。父さんも母さんも顔広いしな。俺がプリンセスの親衛隊に入ってたのも大部分コネみたいなもんだし」

 

「まあ、君に選択肢などなかったに等しかったがな。だが君の実力は親衛隊全員が認めていたはずだよ。親と同じ宇宙を駆ける賞金稼ぎになると言って親衛隊を辞めた時は惜しんだものだ。そしていつの間にか君は地球で地球人生活……」

 

「そこにプリンセス・ララがやってきて、俺は再び戦いの中にっと……人生何が起きるのか分かったもんじゃないなほんと」

 

「まったくだ。リト殿を試そうとして君が出てきた時は本気で驚いたよ」

 

エンザとザスティンは会話に花を咲かせていた。そして会話が一段落するとザスティンは湯船を出る。

 

「では、お先に。君はゆっくりしていくといい」

 

「どうも。ああ、後で射撃訓練場貸してくれる?」

 

「好きにしてくれ」

 

そう言い残してザスティンは浴場を出ていき、エンザは彼にお礼を言った後、ふぅと息を吐きのんびりと広いお風呂を一人で堪能し始めた。

 

 

 

 

 

それから数時間の後、風呂から出て射撃訓練を行い、再び風呂に入って汗を流してから炎佐はザスティン達の拠点である飛行物体を後にする。下ろされたのは日曜日のため人気のない学校の校庭のこれまた人気のない隅っこだ。炎佐はそのまま人気のない校庭を横切り、学校を後にする。

 

「それにしても、校舎もすぐに直ったもんだよなぁ。天条院グループ恐るべし」

 

綺麗な校舎を思い出しながら炎佐は数日前の事を思い出す。数日前、沙姫がララに屈辱を味わわせたいとかいう理由でヤミに、ララと戦うように依頼。ララも見たいテレビが始まるまでのちょっとした力比べとしてヤミからの戦いを承諾した。のだが銀河を治めたデビルーク星の王の長女であるララの力はとんでもないものがあり、さらにそれと互角に戦うヤミとの戦闘は校舎を全壊にする規模。炎佐も鎧を纏い無関係な生徒や教員に被害が出ないよう奔走する羽目になってしまっていた。そしてその損害はヤミの依頼人、沙姫へと請求されることになったわけである。

 

「あ、氷崎さん!」

 

「ん?」

 

と、いきなり背後から声をかけられ、炎佐は振り向くと頬を緩ませた。

 

「やあ、美柑ちゃん。どうしたの?」

 

「いえ、ちょっとお散歩に」

 

炎佐の言葉に美柑は機嫌良さそうに笑いながらそう返し、炎佐の隣に立つ。

 

「よかったら一緒に行きませんか?」

 

「ああ、いいよ」

 

美柑からのお誘いを炎佐は笑顔で承諾し、二人は歩き出す。

 

「炎佐さんも散歩してたんですか?」

 

「ん? いや、さっきまでザスティンとこにお邪魔して戦闘訓練してたんだよ。最近宇宙人の襲来が多いでしょ? 勘を取り戻さないと。一応形式上は僕ララちゃんとリトの護衛って事になってんだから。力不足で二人が殺されました~とか傭兵として最悪だよ」

 

歩きながらの美柑の質問に炎佐はそう返し、主武器である刀の柄を取り出すと手で弄ぶようにくるくると回転させる。

 

「とりあえず、ザスティンとまともに斬り合える程度までは勘を取り戻さなきゃ」

 

「……ハードル低くないですか?」

 

炎佐の呟きに美柑は困った様子でそう呟く。彼女にとってのザスティンのイメージと言えばララの発明品でたまに酷い目に遭っている、父親の新しいアシスタントというところだろう。それを察した炎佐は苦笑した。

 

「美柑ちゃんはザスティンを誤解してるよ。確かに親衛隊長としては抜けてるとこが目立つし変に目が離せないし心配なとこがあるけど」

 

炎佐の言葉に美柑が「炎佐さんも結構酷い事言ってますよ?」とジト目でツッコミを入れる。と、その時炎佐は真剣な表情を見せた。

 

「けどザスティンはデビルーク最強の剣士だ。純粋な剣術だと俺は足元にも及ばない……俺がザスティンと渡り合えるのはフレイム星人とブリザド星人という、他に二人といないだろうコラボレーション能力による搦め手と戦闘バリエーションのおかげと言っていいからな」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「まあ、後はザスティンがドジッたところを躊躇なく狙い撃つ」

 

「……」

 

真剣な表情での言葉に美柑も思わず真剣な表情になるが、彼の続けての言葉には思わず呆れたように目を細めてしまった。

 

「あっれー! 氷崎じゃん!」

 

と、そこにそんな声が聞こえ二人は声の方を向く。

 

「あぁ、籾岡さん」

 

「偶然ね。ん? そっちの子は?」

 

炎佐が声をかけ、炎佐に声をかけてきた少女――里紗はにししと笑い、美柑を見るとわざとらしく首を傾げてそう尋ねてくる。

 

「知ってるでしょ? リトの妹だよ」

 

「冗談冗談。久しぶり、美柑ちゃん。氷崎んとこにお見舞いに行った時以来だっけ?」

 

「はい。お久しぶりです、籾岡さん」

 

炎佐の呆れたような言葉に里紗はけらけらと笑って返した後美柑に挨拶、美柑も笑顔で挨拶を返すがその笑顔はどこか里紗を威嚇牽制しているようにも見える。

 

「籾岡さんも散歩?」

 

「え? いや、あたしは……」

 

炎佐の質問に里紗は用事を話そうとするが、何か思いついたのかニヤリッと笑うと美柑とは逆方向の炎佐の脇方向に移動、彼の腕に抱き付くようにしがみついた。

 

「うわっ!?」

 

「ちょっとこれから行きたいとこあるんだ。ね、一緒に行かない?」

 

色気のある上目遣いで炎佐を見上げつつさらに膨らんでいる胸まで腕に押し当てながら里紗は炎佐に提案してきた。

 

「え、えっと……うわっ!?」

 

それに炎佐が困った様子を見せていると、突然今度は美柑が炎佐を逆方向に引っ張った。

 

「申し訳ないですけど、氷崎さんは私と散歩してるんです。お引き取り下さい」

 

「へぇ~」

 

こっちも炎佐の腕にしがみつき、目を細めて威嚇するように里紗にそう言う美柑。それに里紗もにやりと笑う。なんか二人の間でバチバチと火花が飛び交っているかのような幻覚が炎佐に見える。

 

「ひ~さき~。せっかくの休日、クラスメイトと遊ぶってのも悪くないんじゃないの~」

 

「氷崎さん。氷崎さんは先にした約束を反故にするような人じゃないですよね?」

 

「……えーっと」

 

にやにやと笑いながら美柑を焚き付ける里紗とそれを本気にしジト目になりながら炎佐にそう言う美柑。それに炎佐もどうしようかという声を漏らすしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「美柑ちゃん、そんなに引っ張ったら氷崎が歩きにくそうよ?」

 

「籾岡さんこそ、そんなにくっついてたら氷崎さんの邪魔じゃないですか?」

 

里紗の楽しそうな笑顔での言葉に美柑は目を吊り上げて返す。現在炎佐は右腕を美柑に、左腕を里紗に掴まれての両手に花状態。しかし美柑は機嫌が悪そうに目を吊り上げて炎佐を里紗から引き離そうとしているのかぐいぐいと引っ張り、里紗は炎佐に密着する程に腕を絡ませて身体をくっつけながら自分の行きたい方に炎佐を引っ張る。つまり炎佐は二人の女子に引っ張り合われている状態だ。と言っても流石に一応運動部所属で部一番の力持ちを自称している里紗と小学生の美柑では力に差があり、炎佐もされるがままのため美柑はずりずりと引きずられていた。

 

 

 

 

 

「お帰り、お兄ちゃん! ってあれ、里紗! それに炎佐に美柑ちゃんも!」

 

「やほ、未央」

「あ、沢田さん……何してんの?」

 

それから里紗に連れてこられた――最終的には美柑も諦めて頬を膨らませながら炎佐と手を繋いですたすた歩いていた――とある店に入ると、まるで兄の帰宅を出迎える妹のように挨拶してきた少女に里紗がよっと右手を上げ、炎佐も目をパチクリさせる。と未央はにししと笑った。

 

「ここでバイトしてるの。妹カフェ」

 

「いも……」

 

「ま、いいからいいから。はい三名様ごあんなーい」

 

未央のいる世界に炎佐は口ごもり、未央と里紗が炎佐と美柑を連れて席に案内する。そして四人掛け――二人同士が向かい合わせになる形だ――の席に炎佐が奥、美柑が手前の位置の隣り合わせで、里紗が炎佐の向かいに座る。

 

「はい、どぞ。メニューが決まったらそこのボタン押してね?」

 

未央は友達相手だからか砕けた口調で接客し、水とおしぼりを炎佐達に配ると注文が決まったらボタンを押して店員を呼ぶようにと説明。「ごゆっくり~」と言って去っていった。

 

「じゃ、そういうことで。好きなもん頼みなよ美柑ちゃん。奢るから――」

「え? いいんですか、籾岡さん?」

「――氷崎が」

 

「俺かよ!?」

 

里紗の言葉に美柑が目を丸くすると里紗は悪戯っぽく笑ってそう続け、その見事な流れの言葉に炎佐はつい素でツッコミを入れてしまう。が、その後にはハァとため息を漏らした。

 

「しょうがないな。美柑ちゃんの分は僕が持つよ」

 

「いいんですか!?」

 

「小学生に払わせるわけにもいかないでしょ?」

 

「氷崎さん……」

 

炎佐の言葉に美柑は感動したように声を震わせる。

 

「ぶーぶー。差別だー」

 

しかしそれを聞いた里紗は不服そうに唇を尖らせながらブーイングを出す。

 

「高校生は自力で払ってください」

 

だが炎佐はどこか手慣れた様子であしらっていた。

 

「けちー、器のちっちゃい男はもてないわよー」

 

「彼女作る予定ないし」

 

「……学校で実はリトとデキてるって噂流してやろうか?」

 

「……やったら燃やすぞ?」

 

炎佐と里紗は売り言葉に買い言葉というか喧嘩腰で言い合い、美柑は水を飲んだ後はぁとため息を漏らしてメニューに目を落とした。

それから少し時間が過ぎる。

 

「はい、オムライス三つね? それと美柑ちゃんはドリンク」

 

「ありがとうございます。未央さん」

 

注文品を持ってきた未央がオムライス三つと美柑は別に頼んでおいたドリンクを受け取る。

 

「それにしてもさ、美柑ちゃんにっていうか小学生に気を使わせるってどうなの?」

 

「「面目ありません……」」

 

未央の呆れたような言葉に炎佐と里紗がしゅんとなって呟く。二人はあれから言い合いを続け、最終的に美柑が適当に注文したのだ。まあちゃっかり自分だけドリンクも注文しているのだが。

 

「しっかし、氷崎はよく知んないけど里紗がここまでむきになって口喧嘩するのも珍しいよね。そこまで怒らせること言ったの、氷崎?」

 

「え? いや、別にそんな事言った覚えはないんだけど……」

 

「もういいわよ。私も冗談にしたって性質が悪かったわ」

 

未央の言葉に炎佐は首を傾げながら困ったように頬をかいて返し、里紗は頬杖をついて呟く。

 

「お互いこの話は忘れるって事で。氷崎は自分の分と美柑ちゃんの分、私は自分の分を出す。おーけー?」

 

「あ、うん……」

 

里紗が言い、それでいいかと促すと炎佐は頷き。里紗は「よし」と頷くとオムライスを食べ始め、それからようやく氷崎もオムライスを食べ始めた。

それから三人が食事を終えようとした時、突然炎佐の携帯が鳴り始める。

 

「あ、ごめん」

 

炎佐は二人に一言断ってから電話に出る。

 

「はい、もしもし?……」

 

彼は電話に出ると突然真顔になり、席を立つ。

 

「ちょっとごめん」

 

二人にもう一言断り、近くにいた店員である未央にも「少し電話で外に出るけどすぐに戻る。何かあったら籾岡さん達にお願い」と軽く伝えてから彼は店を出ると近くにあったガードレールに座るように腰を落ち着ける。

 

「なんか用? キョー姉ぇ?」

 

[ううん、別に。ただこれからちょっと忙しくなるから、今の内に声を聞いときたいなーって]

 

電話相手――恭子の呑気な言葉に炎佐は「あ、そう」とだけ返す。

 

[そういうわけでね、これから忙しくなって、電話をかける余裕も、電話に出る余裕もなくなっちゃうかもしれないの]

 

「はいはい」

 

[だけど……心配しなくていいからね?]

 

「子供じゃあるまいに」

 

まるで子供に心配をかけないような柔らかい口調での言葉に炎佐は呆れた様子を見せる。

 

「……で、それだけ?」

 

[え?]

 

「いつもならいついつからスケジュールが埋まっていくからその前に遊びに来るとか言うでしょ? エンちゃん分補給~とか言って抱きついてくるし」

 

炎佐は慣れているかのようにそう言う。

 

[ふふ、ふふふ……]

 

と、電話口から恭子も笑い声が聞こえてくる。

 

「なに?」

 

[ん~ん。なんか嬉しくってね]

 

「地球に来た頃は毎日のように抱きつかれたり、家を出て一人暮らし始めても突貫されてたら嫌でも行動パターンが読めるようになるっての。そっちが暇な時はいつも一緒にいたようなもんだし」

 

恭子の言葉に炎佐はため息をつき、不本意そうな声で返す。しかしその頬は緩んでおり、どこか楽しげだった。

 

[じゃあね、エンちゃん]

 

「うん」

 

そして二人は一言二言言い合って電話を切り、炎佐も携帯をしまうと店内に戻る。

 

「ひ、氷崎……大変……」

 

「え?……って」

 

店に入ると共に未央が少し焦ったような様子で声をかけ、彼はそんな声を漏らして未央が指差している方を見ると声を漏らす。

 

「ねえねえ君可愛いね~? これから一緒に映画とか行かない?」

 

「チャラい奴お断り」

 

「お、強気。そこもいいねぇ」

 

炎佐達がいたテーブルには五人ほどの言っちゃなんだがチャラかったり柄が悪かったりする男達が里紗にナンパしていた。まあ彼女は慣れたようにあしらっているのだが。

 

「お、こっちの女の子もちっちゃいけど可愛いねぇ。妹カフェに来るとか、お姉ちゃんにあこがれてたり?」

 

「え?……と……」

 

と、男の一人が美柑に狙いを定め、美柑は今までにない相手にか萎縮し、怯えた様子を見せている。

 

「沢田さん、ちょっとごめん」

 

「え?」

 

「店に被害出さないよう善処するから」

 

「え!?」

 

炎佐は未央をどかしながらそう言い、未央は驚いたような慌てたようなリアクションを見せる。その間に炎佐は里紗と美柑に言い寄っている男達の内二人の肩にそれぞれ片手ずつ両手を置く。

 

「ちょっと失礼」

 

「「あん? なんだテメェ?」」

 

炎佐が呼びかけ、肩に手を置かれた男――二人とも中肉中背、色々と平均的な感じだ――は顔だけを振り返らせて炎佐を睨みつける。

 

「あぁ、いえいえ。僕、この子達の連れです――」

 

そう言いながら炎佐は肩を掴んでいる手に力を込める。

 

「――けどっ!」

 

「「っ!?」」

 

その瞬間、炎佐が掴んでいた肩からゴキンという音が響き、

 

「「ぎゃあああぁぁぁぁっ!!??」」

 

その男達は肩を押さえ悲鳴を上げながら床に倒れもがくように転がり始める。

 

「お、おいどうした!?」

「大丈夫か!?」

「てめえ、何しやがった!?」

 

「別に。その人達の肩の骨外しただけです」

 

残る三人の内二人が痛みに呻いている男二人に呼びかけ、一人が炎佐を睨むが炎佐はその睨みを受け流してしれっと言ってみせた。

 

「てめえ、ざけんじゃねえぞっ!!」

 

しれっとした炎佐の言葉にむかついたのか里紗をナンパしていた男――長身に痩せ型でチャラそうな見た目だ――は拳を振りかぶり殴り掛かる。

 

「ほい」

 

「ぬあっ!?」

 

しかし炎佐は右手の甲でその拳を受け流し、さらに軽く相手の足を払って相手のバランスを崩し前のめりにさせる。が、そのままの勢いで前方に吹っ飛んでしまわれたらどっかのテーブルもしくは飾っている観葉植物辺りにでもぶつかって店の備品を壊しかねないので拳を受け流した右手で素早く相手の服を掴んで勢いを止め、相手の背中に踏み下ろす形で蹴りを叩き込み、相手を地面に突っ伏させる。この一連の流れを炎佐はその相手を見る事すらせずにやってのけた。

 

「な、このっ!!」

 

その光景に別の男性――こっちはシャツの上からでも分かる程度に筋肉質でがっしりした体格だ――が驚き、こっちも単純に拳を振りかぶって殴り掛かってくる。

 

「っと」

 

「なっ!?」

 

しかしその拳を炎佐は開いた左手一本で軽く受け止め、直後右拳を相手の腹に叩き込み、相手が咳き込んだ隙に左手で相手の拳を握ると無造作に引き、追い打ちに腹に膝蹴りを叩き込んでおいてから後ろに投げ捨てるように放っておく。その時相手は踏み伏せられた男性の上に倒れ込み、炎佐はそれをちらりと横目で確認する。

 

「氷崎っ!」

「氷崎さんっ!」

 

「おらぁっ!!!」

 

と、その隙を突いて最後の一人――デブ、もといふとましい体格で、美柑に声をかけていたのはこいつだ――が思いっきり体重をかけた拳を叩き込む。里紗と美柑が悲鳴を上げるが遅く、ゴッ、と鈍い音を立てて男の拳が炎佐の顔面に直撃した。

 

「あ、が……」

 

しかし苦しげな声を出したのは殴ってきた男性。その腕はぶるぶると震え、顔も痛みに耐えるように引きつっている。

 

「今、何か触れたか?」

 

逆に殴られた炎佐は殴られた痛みなんて全くないかのような平然とした声を出しており、相手が突き出している右腕を左腕で掴むと相手が悲鳴を上げる程に握り込む。

 

「いでででで、なぁっ!?」

 

そして右手を相手の腹の方に持っていくと明らかに体格が上回り体重も明らかに重いであろう相手を軽々と持ち上げた。

 

「どっこいしょー!」

 

思いっきり床――もちろんそれなりにスペースが確保されている場所だ――に勢いよく叩きつけるように投げる。その一撃で店が揺れ、最初に炎佐が肩を外した男性以外の三人は気絶。里紗や美柑、未央はもちろん他の客及び店員もぽかーんとした目でその光景――見た目どちらかと言えば華奢な少年がチンピラ五人を平然と無力化した――を見ていた。と、炎佐は最初に肩を外した男性二人の方に歩いていき、その男達は「ひぃっ!」と悲鳴を上げて怯えの混じった目で炎佐を見る。

 

「動かないでくださいね~」

 

しかし炎佐は気にも止めずにそう言って外した肩とその腕に手を持っていき、再びゴキンという音が響く。と、男性は目を丸くし、二、三度腕を回す。どうやらさっき炎佐は肩をはめたらしい。

 

「あなた方をこうしておいたのはこの状態を見せておくためです……」

 

笑顔でそう言い、次に冷たい目で男性を見る。

 

「今回はちょっとたしなめただけのつもりだが、もしこれを逆恨みでもしてこの二人や関係のない連中に手出しをしてみろ。その時は本気で貴様らを叩き潰す。覚えておけ。そうこいつらにも伝えろ」

 

「「ひゃ、ひゃいっ!!」」

 

宇宙を駆ける傭兵の殺気に男性は裏返った声でそう言い、それから炎佐は軽々と三人の男性を店の外に運び、男二人が彼らを抱えて去っていく。それから炎佐は店長に深く頭を下げて謝り、店内にいた客にも頭を下げ――こっちはむしろ怖い連中がいなくなって助かったと感謝されたが――注文品の代金を支払い、里紗と美柑を連れて店を出ていった。

 

「いっやー! やるじゃん氷崎! 最後の睨みは凄かったよマジで」

 

「あんなもん、鼻歌交じりに出来る程度に抑えたよ」

 

「きゃーかっこいー!」

 

里紗は炎佐の左腕に抱き付きながら炎佐を褒めたり甘えたりしており、炎佐はやれやれとかぶりを振った後美柑の方を見る。

 

「美柑ちゃん、大丈夫? 怖くなかった?」

 

「え? えと、はい……」

 

炎佐は心配そうに美柑に声をかけ、それに美柑は驚いたように目を丸くした後こくこくと頷く。と、里紗が頬を膨らませた。

 

「氷崎ひどーい。なんであたしは心配しないのさー?」

 

「美柑ちゃん優先に決まってるでしょ?」

 

里紗の言葉に炎佐ははっきりそう言い、それに美柑がぱぁっと顔を輝かせる。

 

「美柑ちゃんは子供なんだから。しっかり守ってあげないと」

 

「……」

 

が、その直後の言葉でその輝きが消え、彼女はゆっくりと炎佐の前に歩き出る。

 

「ふんっ!」

 

「いたってうわっ!?」

「うわっとっと!?」

 

炎佐の脛に蹴りを決めた後そのまま足払いに繋げて炎佐をこけさせる。その腕に掴まっていた里紗は炎佐を見捨てるように手を離し、炎佐は歩いていたこともあって勢いよくずっこけた。

 

「な、なんなの?……」

 

「知りませんっ!」

 

炎佐はいきなり美柑が怒った理由を理解できないかのように倒れたまま呆然としたように呟き、それに対し美柑は頬を膨らませてふんっと鼻を鳴らしながら歩いていく。

 

「はぁ~あ。流石に美柑ちゃんに同情するわ……」

 

訳が分からず動かない炎佐の横で里紗は呆れたように額に手を当てて呟くのであった。




え~。前回はマジ失礼しました。暴走しすぎました。心から反省しております……。
今回は前回とは打って変わってほのぼのと女子二人とのデート(後ついでに喧嘩)です。喧嘩に関してはオチが思いつかなかったので今回のヒロイン二人をナンパさせて炎佐にぼこらせてたらなんか結構続いちゃった感じですけど。さて次回はどうしようかねぇ……ま、それでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。