ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第十二話 旧校舎で怪談騒ぎ!

「ねーねー聞いた? 最近ウワサの幽霊話!!」

 

彩南高校2-A教室。そこの生徒である里紗の元気な声が聞こえ、それぞれの机に突っ伏していたリトと炎佐が頭を上げる。

 

「なになに? 幽霊ってお化けのこと?」

 

その話題にララが食いつき、里紗が「まあ似たようなもんね」と言うと未央が「最近旧校舎に幽霊が出るっていうウワサがある」と言う。

 

「ただのウワサだろ? ありえねーよ、幽霊なんて」

 

と、リトが口を挟んだ。

 

「ホントなのよ! 怪しい物音が聞こえたりとか」

 

「不気味な声で“出ていけ~”っていうの聞いた人がいるんだって!」

 

リトの言葉に対しリサミオがそう言い、しかしリトは信じてない目で「どーかなぁ……」と呟く。

 

「じゃあさ! ホントかどうかみんなで確かめに行こーよ!」

 

いきなりララが目を輝かせながらそう言い、それにリトがへっと声を漏らすとリサミオが「いいねいいね!」と乗り気な様子を見せ始める。

 

「あの~……勝手に旧校舎に入るのはどうかと思うの……一応クラス委員として私は……」

 

「つべこべ言わずにアンタも来るの!」

 

「えー!?」

 

青い顔で止めようとしていた春菜も里紗によって強制的に仲間入り。そして女の子だけで行かせるわけにはいかないとリトと炎佐も同行を決める。

 

「……」

 

前の方の席ではクラス委員になる事すら叶わなかったが風紀委員となった少女――唯が現代法学入門という本を読みながら彼女らの話を聞いており、また何かしでかすつもりだと予測すると目を鋭く研ぎ澄ませた。

 

 

それから昼休み。リト達は旧校舎に探検にやってきていた。ちなみにララが先頭で「幽霊さんいますかー?」と呼んでおり、リトは最後尾で、家庭科室から盗んできたのだろうかフライパンを持って前かがみになっており、炎佐は後ろから二番目を陣取って目線のみを動かして不審な影がないか辺りの観察を行っていた。と、炎佐は足元を何か動く気配を感じる。

 

「キャーッ!!!」

 

その瞬間春菜が悲鳴を上げて里紗に抱き付く。

 

「ど、どーした西連寺!?」

 

「落ち着いて春菜」

 

「ネズミが走っただけだよもー」

 

リトが慌てて彼女に呼びかけ、リサミオがそう言う。

 

「大丈夫? 春菜」

 

「う……うん」

 

ララの言葉に春菜は震えながらやはり震えた声で頷く。

 

「でもさァ、別に大したこと起きないね」

 

「やっぱただのウワサかもねー幽霊なんて」

 

リサミオがけらけらと笑いながらそう言う。その瞬間、ゴトッという音が聞こえ、炎佐が一番に音の方に顔を向け、残るメンバーも少し遅れて一つの部屋を見る。と、部屋の中からミシッ、ミシッ、という古い板を踏みしめる足音が聞こえてきた。

 

「ちょっと……誰か扉に近づいてきてるよ」

 

「やだ……まさか、本当に!?……」

 

リサミオが呟くと炎佐が前に出ようとする。が、彼は何かを感じ取ったのか「ん?」と言いたげな顔を見せ、その直後扉が開く。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

と、いい具合にパニクッていたリトが開いた扉に突進、そこから出てこようとしていた相手を捕まえる。

 

「み……みんな! 今の内に逃げるんだー!!」

 

自分が犠牲になってでも皆を助けようとする自己犠牲心。

 

「…………その言葉、そっくりそのまま返すぞ。リト」

 

「へ?……ん?」

 

しかし、目を点にしながら炎佐がツッコミを入れ、それに「へ?」と間の抜けた声を出した後リトは気づく。今自分が捕まえている相手の、なんか柔らかい感触に。

 

「……」

 

「……ヤミちゃん!」

 

里紗が呆然とし、ララが驚いたようにその相手を呼ぶ。リトが捕まえている相手、それは以前リトの抹殺を依頼され、それからリトを暗殺するまで帰らないと言って地球にとどまっている宇宙一の殺し屋――金色の闇ことヤミちゃんだ。

 

「ヤ……ヤミ……」

 

「結城リト……え……えっちぃのは……」

 

リトは顔を真っ赤にしながらがくがくと震えだし、ヤミも頬を赤く染めながら呟くと共に、彼女の金色の髪が巨大な拳のようなものに変身(トランス)する。

 

「キライです!」

 

「ぶべっ!」

 

そしてその拳がリトを殴り飛ばした。

 

「ヤミちゃーん。こんなところで何してるのー?」

 

「プリンセス……私はただ、ここに古い本がたくさんあるので読んでいただけです」

 

髪を変身させた拳でリトを押さえつけているヤミにララが話しかけるとヤミはそう言って上を向く。たしかにヤミがさっき出てきた教室を示すプレートには“図書室”という名称が書かれていた。

 

「へー。本好きなんだね。ま、暗殺者なんてやってたら本なんか読む暇ないか」

 

「プリンセスにエンザこそこんな所で大勢で何を?」

 

炎佐が呟き、今度はヤミがララ達に問いかける。

 

「ね……ねーララちぃ」

 

と、未央がその話に割り込んできた。

 

「そのコ……たまに校内で見かけるけど……友達?」

 

「あ、うん。ヤミちゃんってゆーの! カワイーでしょ!」

 

未央の次の里紗の言葉にララはそうヤミを紹介する。

 

「へー」

 

「ホントかわいー」

 

「ねー。さっき髪の毛でパンチしてたよね。あれ何?」

 

「キャー! 肌スベスベー!」

 

リサミオがヤミに抱き付きながら質問攻めにする。と、ヤミと炎佐は同時に進行先に目をやり、ヤミは消えるかのような高速移動で女子高生二人から脱出する。

 

「? どうしたの? ヤミちゃん、エンザ」

 

「何か……います」

 

「え?」

「何かって……何?」

 

ララの言葉にヤミが返し、ララと里紗が呟くように問いかける。

 

「あなた達!!」

 

と、通路の曲がり角から一人の女子生徒が姿を現し、その声に春菜がびくっとなる。

 

「そろいもそろってどこへ消えたかと思ったらこんな所へ入り込むなんて! ここは校則で立ち入り禁止のはずでしょ!!」

 

「なーんだユイかー」

 

「なんだとは何よ! 気安く呼ばないでっ!!」

 

現れたのが唯だと知ったララがそう呟くと唯はそう叫んだ後春菜をびしっと指さす。

 

「西連寺さんもどういうつもり!? クラス委員のあなたがいながら!!」

 

「ゴ……ゴメンなさい~……」

 

唯の注意に春菜が謝る。

 

「……ヤミちゃん」

 

それを聞き流しながら、炎佐はヤミに話しかける。二人とも全く警戒を解いてはいない。

 

「君が感知したのは古手川さんの気配だけじゃないよね?」

 

「……その質問、あなたにそのまま返します」

 

「答えは同じ、か」

 

炎佐の言葉にヤミがそう返し、炎佐はその言葉の意味する事を理解する。

 

――出ていけ……――

 

そこに、突然そんな声が聞こえてくる。

 

――出ていけ……――

――出ていけ……――

――出ていけ……――

 

「ちょっ……気味の悪い声出すの止めてよララさんっ!!」

 

「わ……私じゃないよー」

 

気味の悪い声に唯がララの悪戯と思ったか叫ぶがララは自分じゃないと返す。

 

「ほ……ほほ、本物の幽霊!?……」

 

――出ていけ……――

――さもなくば……――

 

リトが震える声で呟き、春菜はもう涙目になって声を出すことすら出来ず震えている。その瞬間、ビシビシッと何かがひび割れるような音を聞いた炎佐が全員の方を見る。

 

「皆!! ここから離れろっ!!!」

 

叫ぶと同時に前方に飛ぶ炎佐とヤミと、その直後割れる床板。しかし一般人であるリト達や何が起きているのかまだ理解しきっていなかったらしいララは、突然床板が割れるのに反応できず床板が割れた後に出来た巨大な穴に落っこちていった。

 

「ど……どうしよう……」

 

「みんな、落ちちゃった……」

 

結果的に最後尾にいて偶然穴に落ちずに済んだリサミオは床板が割れてその下に人が落ちた衝撃によってか埃の舞っている目の前の状況を見ながら呟く。

 

「床が腐っていたみたいですね……」

 

「もしくはあの謎の声か……」

 

と、前方の方にいたヤミと炎佐は大穴を回り込みながらリサミオの方に移動、ヤミが床を確認しながら呟くと炎佐はさっきの謎の声を思い出す。

 

「とりあえず氷の階段でも作るか……」

 

下に行くための道を作ろうと炎佐は考える。

 

「とりあえず下に行くよ! ほら炎佐早くっ!」

 

「おわっ!?」

 

しかしその瞬間後ろから里紗が炎佐を引っ張り、しかも服を引っ張っているため上手く炎佐の首が締まり炎佐は咄嗟に首元に手をやる。そっちに意識が持っていかれたため、彼は何かが落ちるようなカツンという音に気づかなかった。なお、ヤミは未央に手を引っ張られている。

 

 

 

 

 

「やっばぁ……下に降りる階段どこだっけ」

 

「暗いし分かんなくなっちゃった……」

 

旧校舎をさまようリサミオに炎佐、ヤミの四人。リサミオが辺りを見回しながら困ったように呟き、彼女らは理科室の前へとやってくる。

 

「「……」」

 

と、炎佐とヤミが足を止める。

 

「ん? 炎佐?」

「ヤミヤミ、どーしたの?」

 

「いや……」

「さっきと同じ妙な気配が……」

 

「「え!?」」

 

リサミオの問いかけに二人が言葉少なく呟くと二人は怯えたような声を上げる。その時、ヤミの目の前の古い木椅子がガタッと音を立てたかと思うとガタガタガタッと勢いよく震えだし、さらに古い本や上履きなどがどこからともなく飛んでくる。

 

「イヤー!!」

「ポルターガイストだーっ!!」

 

リサミオが悲鳴を上げるが炎佐とヤミは動じることなく、炎佐は片足を上げる形で構えを取り、ヤミは右腕を刃に変身させる。

 

「はぁっ!!!」

「ふっ!」

 

炎佐の鋭い連続蹴りとヤミの連続斬りが本や上履き、あとちょっと飛んできた木椅子などを砕き斬り刻む。

 

「……何者だ?」

「隠れてないで出てきたらどうです?」

 

クールに決める賞金稼ぎ二人にリサミオが「おぉ……」と感嘆の声を漏らす。が、その後少ししてから二人は構えを解いた。

 

「気配が消えた……」

 

「……幽霊……というのはよく分かりませんが、この建物……調べてみる必要がありそうですね」

 

炎佐に続いてヤミがそう呟いた瞬間、突然背後からリサミオがヤミ目掛けて襲い掛かった。

 

「!」

 

ヤミがその気配に気づくが、もう遅い。

 

「いやー確かにこれは!!」

 

「よーく調べてみる必要がありそうですねー♪」

 

里紗がヤミの背後から胸を揉みしだき、未央がスカートをめくって肌を触る。

 

「自由に身体が変形するなんてすっごーい! あ、しかもノーブラ」

 

「そしてすべすべの肌~」

 

「ちょっ……やめてください、あっ……」

 

予想だにしなかったセクハラ攻撃にヤミは悶え、困った表情で炎佐に目を向ける。

 

「エ、エンザ、助け……」

 

「俺は何も見てない俺は何も見てない俺は何も見てない……」

 

しかし助けを求めようとした相手は目の前のセクハラ光景に対し絶賛現実逃避中だった。

 

 

 

 

 

それからヤミが解放されてから彼女らは再び出発。歩き回った末にようやく一階への階段を見つけた。

 

「これで一階に降りられるね!」

 

「ララちぃ達大丈夫かな~」

 

リサミオがそう話している横で炎佐とヤミが何かに気づいたように足を止める。

 

「二人とも、止まって」

 

「ん?」

「どしたの、氷崎?」

 

炎佐の言葉に二人が足を止めて振り返り、ヤミと炎佐が見ている方に顔を向ける。と、いきなり消火器がガタガタガタッと音を立てて揺れだし、やがてふわりと浮かんだ。

 

「キャー!!」

「またポルターガイスト!!」

 

リサミオが互いに抱き付きあいながら悲鳴を上げる。

 

「同じ手は――」

「――通用しませんよ」

 

しかし炎佐とヤミは宇宙を駆ける傭兵の目を見せており、炎佐は左手の指に氷の針を生成。ヤミは髪を刃に変身。二人は同時に炎佐が氷の針を投げ、ヤミが髪を伸ばすように操り、空中に消火器を貫き斬る。その瞬間消火器がぼふんと爆発したかのように辺りが白い煙に包まれる。

 

「!?」

 

そしてその煙が晴れると、

 

「あ……あれ?」

 

「あ!!」

「真っ白な……人!?」

 

里紗の言う通り真っ白な人間。誇張抜きでそうとしか表現できない者が消火器を掲げながら立っていた。

 

「透明な身体もこうすればよく見えますね」

 

「と……透明人間!?」

「じゃあポルターガイストは……あいつの仕業!?」

 

ヤミが衣服についた消火器の粉をはたき落としながら真っ白な人間に呼びかけ、リサミオがそれに反応する。と、炎佐は再び左手に氷の針を生成し、真っ白な人間を睨みつけて針を投擲、威嚇なのかその相手の足元に刺さった針は一瞬で床を凍らせる。

 

「氷漬けになりたくなかったら大人しく俺達の質問に答えてもらう」

 

「ええ。あなたが何者で……何故、こんな事をしているのか……」

 

「……」

 

宇宙でも名の知れた傭兵と宇宙一の殺し屋、その二人に睨まれている真っ白な人間はたじろぎ、一歩下がる。

 

「ひーっ! 助けてみんなー!!」

 

そして突然彼らに背を向けると助けを求めて走り出す。

 

「「……みんな?」」

 

その言葉に炎佐とヤミがぼそりと呟く。

 

――ぐふふふ、愚かなヤツらめ――

 

――おとなしく出ていけばいいものを――

 

突然聞こえてきた気味の悪い声、それに二人が顔を上げた瞬間、二人の足元から何か触手のようなものが床を破壊して二人向けて伸びる。

 

「!! エンザ!」

 

「わっ!?」

 

いち早く気づいたヤミが炎佐を突き飛ばすが、そのために自分は触手に捕まってしまう。そしてその直後床が崩れていき、ヤミとリサミオ――炎佐の視界の端で二人纏めて触手に捕まっていた――が触手と共に下に落ちていく。

 

「ちっ!」

 

それを見た炎佐は舌打ちを叩き、廊下の中央に開いた穴へと飛び込む。そして左手を前に突き出すと共に氷の道が出来上がっていき、炎佐はそれを滑り降りて階下へと向かう。

 

「は……離してよ~!」

 

「ぐへへへ」

 

その先には謎のタコみたいな触手を持つ一つ目の巨大生物とヤミ達と同じように触手に捕らえられているララの姿があった。

 

「リト!」

 

「炎佐!!」

 

ララの他、触手に捕まっていないメンバーにリトや唯、気絶している春菜を見つけた炎佐はそっちの方に飛び降り、彼の呼びかけにリトも声を上げる。

 

「無事か?」

 

「ああ。でもララが……ヤミも捕まってるし、一体どうすりゃいいんだ……」

 

「大丈夫、任せといてよ」

 

炎佐はまずリト達に大丈夫かと聞き、それにリトが頷き捕まっているララとヤミを見る。それに炎佐はふっと微笑んでそう言い、巨大生物を睨みつける。

 

「エンザ、いざ参る!!」

 

叫び、戦闘モードの鎧を装着するために必要な簡易ペケバッジを取り出そうとポケットに手を入れ、彼の名乗りに何か威圧を感じたのか巨大生物が僅かに怯む。

 

「…………?」

 

しかし炎佐はごそごそとポケットを探っており、時間が止まる。そしてやがて彼はだらだらと汗を流し始めた。

 

「ど……どうした?」

 

沈黙に耐えきれずリトが尋ね、炎佐は心なしか顔色を悪くさせながらリトの方を見ると唇を動かす。

 

「バ、バッジが……ない……」

 

「なにいいいぃぃぃぃっ!!??」

 

直後響き渡るリトの絶叫。

 

「お、おおおおいっ! どうすんだよ!? お前、鎧なしで能力使えないのか!?」

 

「つ、使えない事はないが、服が燃えたり凍ったりしたらやべえから派手なのは使えない……ただでさえ人質が多くてめんどくせえ状況だってのに……しょうがない」

 

炎佐はしょうがないと呟いた後、懐に手を入れると刀の柄を取り出して左手に握ると、目を閉じて左手に力を込め刀に刃を生成し、両瞳が青色に輝いている目を開く。しかし力を抑えているためかその刀身は短く、刀というよりはナイフに近い状態だった。

 

「あのデカブツはボクが押さえます。リトは西連寺さんと古手川さんを連れて逃げて」

 

「で、でも!?」

 

「フフフ」

 

エンザの言葉にリトが声を上げると巨大生物がフフフと笑う。

 

「逃がさないぜ……」

「ヒヒヒ」

 

そして彼らの逃げ道を塞ぐかのように、ミイラ男から半魚人、狼男に一つ目巨人(サイクロプス)のような姿をした者達が次々と現れてきた。

 

「な……な……な」

「いっぱい来たー!!」

 

「ぐはははは! 俺達の縄張りに入った事を悔やむがいい!!」

 

リトと唯が悲鳴を上げ、巨大生物が叫ぶ。そして炎佐、リト、唯、まだ気絶したままの春菜が囲まれ、エンザはリト達地球人三人を庇うように立って刀を構えているが力を抑えている上に多勢に無勢、さらに三人を守らなければならないと考えているのか不用意に飛び出せない様子。しかし彼が睨みを利かせて威嚇しているため謎生物の集団もおいそれと近づけない様子を見せており、その後ろでは唯が「これは夢、そうに決まってる」と現実逃避を始め、リトが「そんなわけあるかー!」と叫んでいた。

 

「う……う~ん」

 

「! さ……西連寺!」

 

「結城君?……私……どうして?……」

 

春菜は呻き声と共に目を覚まし、顔を上げると彼女は目を開いたまま硬直する。その視線の先には例の謎生物の大群がいる。

 

「さ……西連寺!?」

 

硬直した春菜にリトが声をかけながら手を伸ばす。と、彼女からプツンと何かが切れた音が聞こえたような気がし、直後、春菜は偶然近くにあったものを掴む感じでリトの腕を掴み、リトは「へっ!?」と声を上げる。

 

「きゃーっ!!!」

 

「うわーっ!!??」

 

「古手川さん危ないっ!」

 

「きゃっ!?」

 

突然春菜は悲鳴を上げてリトを振り回し謎生物を撃破していく。その光景にヤミやララ、巨大生物までもが呆然とする。ちなみにエンザは春菜の暴走に唯が巻き込まれないよう咄嗟に彼女を押し倒していた。

 

「いやああぁぁぁ!! 来ないでー!!!」

 

春菜はリトを鈍器の如く振るい謎生物の集団を撃破、完全にパニクッたまま巨大生物の方に突進していく。

 

「うわわわ来るなー! お……お前も捕まえてやるっ!!」

 

巨大生物はそう叫んでヤミ達と同じように春菜をニュルニュルとした触手で捕まえる。が、そのうじゅるっとした感触に春菜は声にならない悲鳴を上げてさらに一歩踏み込み、巨大生物目掛けてリトをハンマーのように振り下ろし、叩きつけた。ゴズッという音が響き巨大生物は目をぐるぐる渦巻にして昏倒、拘束が緩んだのかヤミも素早く脱出する。

 

「ヤミちゃん、沢田さんをお願いっ!!」

 

と、敵がいなくなったため自由に動けるようになったエンザが巨大生物の方に走りながらヤミに向けて叫び、ヤミも捕まっていたリサミオの方を見る。二人は触手から離れたはいいがこのままでは床に叩きつけられてしまう状況に陥っていた。

エンザの指示にヤミは黙って頷くと素早く未央の方に飛びながら背中に天使のような純白の羽を生やして彼女を助け出す。

 

「きゃー!!――」

「よっ、と」

「――わっ!?」

 

そしてもう一人落ちていた女子――里紗はエンザが助け、そのまま地面に着地する。その後ろで巨大生物も倒れ込み、ズゥンという地響きが響いた。

 

「大丈夫? 籾岡さん」

 

「あ、う、うん……って、ちょっ!?」

 

エンザが声をかけ、里紗も呆然とした様子で頷くが我に返ったように目を見開くと途端に慌て出す。里紗はさっき背中の方から落っこちており、エンザはそれを抱きかかえるように助けた。要するに現在エンザは里紗をお姫様抱っこしている状態だ。

 

「あ、ごめん」

 

しかしエンザは特に気にする様子も見せずに里紗を下ろし立たせる。

 

「それにしても、お化けたくさんいたんだねー」

 

唯が「西連寺さん……まともな人だと思ってたのに……」と唖然とし、その春菜は武器にしてしまったリトに向けて謝っている横でララが感心したようにそう言い、それに対して炎佐とヤミはそのお化けと思われる者達を一瞥する。

 

「違うよ、ララちゃん」

 

「はい。どう見ても皆、宇宙からの来訪者です」

 

「え?」

 

炎佐とヤミがそう言い、ララが「え?」と言う。すると巨大生物がよろりとよろけながら立ち上がり、「その通りだ」と言った。

 

「お、俺達……みんな故郷の星でリストラされたんだ。宇宙を放浪してる内にここに流れ着いて、いつの間にかそんな連中が集まって……」

 

「リ……リストラ?……」

 

「う……宇宙にもリストラなんてあるの?」

 

「当たり前じゃん。宇宙人だって仕事して食い扶持稼いでんだから」

 

巨大生物の説明にリトと唯が呟くと炎佐がそこのとこは地球人となんら変わらないというように返す。

 

「なるほどね……それで、住処を守るために幽霊騒ぎを起こしてたワケ」

 

と、いきなりそんな女性の声が聞こえてきた。

 

「ハロー、氷崎君」

 

「御門先生!」

 

「はい、落とし物」

 

「って、あ!?」

 

挨拶もそこそこに炎佐に近づいて何かを渡す女性――炎佐。それを首を傾げながら受け取り、受け取ったものを確認すると炎佐はあっと声を上げた。御門が手渡したもの、それは炎佐の簡易ペケバッジだ。

 

「騒がしいからここを調べに来て、その時に二階に空いてた大穴の近くで見つけたのよ」

 

「……そうか、籾岡さんに引っ張られた時に落としたんだ。助かりました。御門先生」

 

御門から説明を受け、炎佐は納得いったように頷くと御門にお礼を言う。

 

「ミカド……」

 

「あの有名な、ドクター・ミカド!?」

 

と、宇宙人達がざわめきだし、御門はそっちに目をやるとくすっと笑った。

 

「フフ……あなた達、このコ達に手を出してよくその程度ですんだわね?」

 

『え?』

 

御門の言葉に彼らは間の抜けた声を出し、御門がそれぞれララ、ヤミ、炎佐を指し示しながら説明していく。と、宇宙人達はさらに驚愕に目を見開いた。

 

「デ、デビルークの姫と……」

 

そう言いながらララを見る。

 

「殺し屋“金色の闇”!?」

 

叫んでヤミを見る。

 

「さ、さらにあのレアもの傭兵“エンザ”!?」

 

最後に炎佐――渡されたペケバッジに変な細工をされてないか確認のため鎧姿になっていた――を見る。

 

「ひいぃぃ~っ! 殺さないでぇ~!!」

 

「やだ、そんな事しないよー」

 

宇宙人の一部はかのデビルーク王の娘であるララに怯え、

 

「ごめんなさい~! 許してください~っ!!」

 

「す、少しでも触れたら斬りますよ」

 

巨大生物は涙目になってニュルニュルの触手をヤミに近づけて許しを請い、

 

「も、申し訳ありません! あの傭兵エンザ様とはつゆ知らず!」

「許してください燃やさないでください凍らさないでください!」

 

「……炎佐、お前宇宙で何やったんだ?……」

 

「うんまあ……色々」

 

さらに別の宇宙人の一部は炎佐に向けて土下座し、その光景を見たリトが半目で炎佐を見て彼も苦笑で返したりとなる。

 

「しっかし……事情はわかるけどここに住むのはやっぱマズイと思うのよね~」

 

そんな放浪の宇宙人達にとっては命懸け、炎佐達にとってはテキトーに流しても良い謝罪が行われている横で御門が口を開く。そして彼女は少し考える様子を見せた後、「仕方ない」と呟いた。

 

「私があなた達に仕事を紹介してあげよっか!」

 

『え!?』

 

御門の言葉に放浪の宇宙人達が声を上げる。

 

「!? ちょ、ちょっとドクター・ミカド!? まさかまたあなたの新薬のモニターとか言いませんよね!?」

 

『え!?』

 

しかしその直後の炎佐の慌てた声にも声を上げた。

 

「やーねぇ。そんな危ない事一般人にさせられないって」

 

炎佐の言葉に御門はころころと笑いながら返し、炎佐が「うぉい」と半目で漏らすが彼女はスルーして放浪の宇宙人達に目を向ける。

 

「知り合いに地球で遊園地の経営者やってる宇宙人がいるの。あなた達オバケ屋敷とかピッタリじゃない?」

 

「ホ……ホントすか!? すげー!!」

 

御門の提案に放浪の宇宙人達が歓声を上げる。その後ろでは唯がリトに「もしかしてあの先生も宇宙人?」と尋ね、リトも苦笑しながら「実はね……」と返していた。

 

「しっかし、結局お化けの仕業じゃなかったんだね」

 

「ホントホント。何度もビビって損しちゃった」

 

「しっかし、あの人達も宇宙人って分かるとそんなに怖くないよね!」

 

「あはは!」

 

リサミオが笑いながら話し合い、落ち着いた春菜もふぅと息を吐く。

 

――よかったですね……皆さんお仕事が見つかって……――

 

「「「え?」」」

 

突然そんな声が聞こえ、女子達がえっと声を出してそっちを見る。

 

――これで私も静かに暮らすことが出来ます……ありがとう――

 

そこには和服を着て周りに人魂を浮かせている儚げな雰囲気の少女が半透明の姿で立っていた。その姿を見た全員が固まり、少女は笑みを見せる。

 

――あ、申し遅れました。私、400年前にこの地で死んだお静と言います♪――

 

『……』

 

少女――静は礼儀正しく挨拶するが、その挨拶に返す者は誰もなく、

 

「ギャー!!! ホントに出たー!!!」

「うわぁあぁー!!!」

 

直後、旧校舎に悲鳴が響き渡った。




ども……前回の感想が思った以上に迷い猫に染まっていたことに驚いています……っていうか、仮にもToLOVEる原作なのにほとんど迷い猫に対する反応っていう感想なのはいったいと思っています。いやまあ、前回にToLOVEる要素があったかと聞かれたらゆっくり首を横に振るしかないのも確かなんですけども、むしろ迷い猫に関してでも感想をくださる読者様がいらっしゃる事を感謝しなければならない立場なのでございますが……(色々言い訳中)。
さて今回は旧校舎幽霊編……炎佐にはちょっと戦えなくさせるためにバッジを失くすアクシデントを取らせていただきました。そうでもしないとあの巨大生物瞬殺ですし。まあ、鎧を装着するための簡易ペケバッジがある意味彼の弱点ですね。服を鎧を変えないと高熱や低温に服が耐え切れず裸になってしまうという意味で。さて次回はどうするか。ま、それでは~。

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