ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第十話 新学期と炎佐の女友達?

彩南高校へと続く通学路。炎佐は今日は珍しく一人で自転車を押しながら学校へと向かっていた。片手で自転車のハンドルを握っており、もう片方の手には携帯電話を持って誰かと話している。

 

[エンちゃん、高校二年生おめでとーっ!]

 

彼の従姉弟であり互いにとって家族のような存在――霧崎恭子だ。彼女の元気なお祝いの言葉に炎佐は苦笑する。

 

「はいはいありがとう。でもキョー姉ぇも学校じゃないの?」

 

[まあ、一応始業式はどうにかね……クラス替えを見て、クラスメイトと担任を確認して……そっから仕事?]

 

「……ご苦労様」

 

恭子の苦笑交じりの言葉に炎佐は頬を引きつかせて労を労う。

 

[えへへ、エンちゃんからそう言ってもらえるだけで頑張れちゃうな! あ、そうそう。マジカルキョーコの監督や共演者にスタッフが、また見学に来なよってさ。もちろん私も歓迎するからね!]

 

「……考えとくよ」

 

炎佐から労いの言葉を聞けたことが嬉しいのかほわほわとした声質になった恭子はその後思い出したように伝言を伝え、それに炎佐は曖昧に言葉を濁す。

 

「あっ、氷崎ー!!」

 

「やばっ!? じゃ、じゃあねキョー姉ぇ! また後で!!」

 

[え、ちょっとエンちゃ――]

 

突然聞こえてきた少女の声に炎佐は慌ててそう言い、電話の向こうで恭子が何か言っているのも無視して電話を切り、すぐに携帯を鞄の中に隠すようにしまうと声の方を向いた。

 

「お、おはよう! 籾岡さん!……あれ、沢田さんは?」

 

「おはよ。未央はちょっと用事があって遅れるってさ。ねえ、さっき誰かと電話してなかった?」

 

「え? ああ、うん……家族とね。さてと、急がなきゃ!」

 

話しかけてきた少女――里紗に対し炎佐はギリギリ嘘ではない嘘をつき、逃げるように自転車にまたがる。と、里紗は炎佐の自転車の後方に着けられている荷台を見て何かを思いついたようににやりと微笑んだ。

 

「そりゃっ!」

 

「わっ!?」

 

いきなり荷台に飛び降り、そのままの勢いで炎佐にがしっと掴まる。

 

「ちょっ、もっ、籾岡さんっ!?」

 

「にしし。楽ちん楽ちん、あんただって役得でしょ?」

 

なかなかに実っている胸を相手の背中に押し付けながら里紗は炎佐に抱きしめるように掴まり、炎佐は顔を赤く染める。

 

「おーおー真っ赤になっちゃってまあ。そらそらしゅっぱーっつ! 早くしないと人目についちゃうよー?」

 

「あーもう……」

 

里紗の言葉に炎佐は呟いてペダルをこぎ、一気にスピードを乗せるとそのままの勢いで学校まで自転車を走らせる。

 

「おー早い早い! これから毎日炎佐の自転車に乗ろうかなぁ? 楽でいいし」

 

「沢田さん置いてっちゃうよ?」

 

「あー。んじゃ三人乗り?」

 

「無理に決まってんでしょうが」

 

里紗のにゃははと無邪気に笑いながらの言葉に炎佐は呆れたように返し、二人を乗せた自転車が学校の校門前へと到着する。

 

「そこの自転車! 止まりなさい!!」

 

と、いきなりそんな声が聞こえ炎佐は驚いたように自転車を止める。と、彩南高校の制服を着た、黒い髪を伸ばし、いかにも真面目そうな雰囲気を見せる少女が厳しい視線を見せていた。

 

「自転車の二人乗りは校則違反よ! あと、自転車通学の許可を取っているの!?」

 

「自転車通学の許可証はこれ。まだ期限ギリギリセーフのはずですが」

 

少女の毅然とした注意に対し自転車から降りた炎佐――里紗もその隣に立った――は慣れたように許可証を提示、少女はそれを見るとうんと頷く。

 

「許可証は確認しました。けど、自転車の二人乗りは校則違反よ!」

 

「えー? 別にいいじゃないの少しくらい……」

 

「えーと、言い訳するなら僕は籾岡さんに無理矢理――」

「あぁ~ん炎佐ひどぉい! 私を売るのぉ?」

 

少女の注意に里紗がめんどくさそうに頭をかくと炎佐がそう言おうとすると里紗はいきなり猫撫で声でそう言いながら炎佐の腕に抱き付く。

 

「わ、ちょっ籾岡さんっ!? む、胸が当たってっ!?」

 

さっきまで自分の背中に当たっていたものが今度は腕に当たってきたのに炎佐は慌てたように叫ぶ。と、少女が眉を吊り上げた。

 

「ハ、ハレンチなっ! あなた達の顔は覚えましたからねっ!!」

 

少女は顔を赤くしながらそう叫び、二人を指差して叫ぶと頭から湯気を出していそうな勢いで校舎の方に歩いていった。

 

「なんだったの?」

 

「普通に怒られたんだよ……じゃ、僕駐輪場まで行ってくるから」

 

「ほいほい。んじゃ私はクラス名簿見てくるから、ついでに氷崎のも探しといてあげるわ」

 

里紗は頭をかいて呟くと炎佐は呆れたようにそう呟き、駐輪場の方に自転車を押し始めると里紗はそう返してクラス名簿が貼られている昇降口の方に歩いていく。それを見送って炎佐はやれやれとため息をついてから駐輪場まで行き、自転車を駐輪場に止めると自分も昇降口へと向かう。

 

「ん? やあ」

 

「あ、九条先輩」

 

そこに突然かけられる声、炎佐はその声の方を向くと声の主を見て声を漏らし、声をかけてきた女性――九条凛の横に立つ金色の髪をなびかせた綺麗な女性――天条院沙姫が怪訝な目を見せた。

 

「凜、知り合いですの?」

 

「え、ええ。沙姫様のクリスマスパーティの時にもいたのですが……」

 

「……ああ、言われてみれば。ララと一緒にいる男子の一人でしたわね。凜とはよく話しますの?」

 

凜の説明に沙姫は炎佐をまじまじと見た後思い出したように頷いてから尋ね、それに炎佐は苦笑した。

 

「いえ、会った時挨拶するくらいです」

 

「そう……ああ、ララに伝えておいてくださる? 彩南クイーンは私のものです、と」

 

「……伝えときますよ」

 

「ええ。行きますわよ、凜、綾」

 

沙姫と炎佐はそう会話をし、沙姫がそう言って歩き出すと綾がその後を追い、凜は少し疑念のこもった目を見せながら炎佐を見る。

 

「クリスマスの時から感じている違和感……君の正体、いずれ聞かせてもらう」

 

その言葉に、炎佐はクスリと笑みを見せて目も怪しく細める。

 

「僕に勝てれば教えて差し上げますよ」

 

「……ふん」

 

炎佐の言葉に凜はふんと鼻を鳴らすと沙姫の方に歩いていった。

 

「朝から色々と大変ね、氷崎君」

 

凜を見送っていた炎佐にさらに声をかける女性、それに炎佐はやれやれと肩をすくめて声の方を向きその声の主――御門の姿を認めると苦笑した。

 

「見てたんですか?」

 

「まあね。籾岡さんと二人乗りで登校して、古手川さんに注意されて九条さんと挨拶して。朝から女の子とべったべたね」

 

御門はくすくすと笑いながらそう言い、続けてニヤリ、と妖しく笑う。

 

「……ああ、お姉ちゃんとお電話もしてたっけ? まあ正確には従姉弟でしかも――」

「ドクター・ミカドであろうとも、その秘密をばらしたら……消します。せめてもの情けで焼死か凍死か好きな方は選ばせて差し上げますが」

 

「あら怖い。冗談よ冗談♪」

 

彼女のその言葉を聞いた瞬間炎佐の目から光が消え、御門に殺気が放たれる。しかし常人ならば間違いなく怯むその殺気を御門は平然と受け流しころころと笑いながら返した。その悪戯っぽい笑顔を見た炎佐は毒気が抜かれたようにため息をつき、その瞬間殺気も消える。

 

「さ、もう行きなさい」

 

「ええ。それではまた」

 

そろそろ登校する生徒の数も多くなってきている。御門の促しに炎佐も頷くと新しいクラスの確認のため昇降口へと向かっていった。

 

 

 

 

 

それから時間は過ぎて掃除の時間。炎佐達は廊下の掃除を行っていた。ちなみにリトとララが一緒にいる。

 

「クラス替えしたから新しい友達も出来そうだね!」

 

「そーだな」

 

「そうだね。まあこっちとしてはリトやララちゃんと違うクラスにならなかったのはありがたいよ、別クラスじゃ何かとフォローが難しいしね」

 

「たはは……」

 

箒を持ちながらのララとリトの言葉に雑巾を絞りながら炎佐が返すとリトは苦笑を漏らす。

 

「ちょっとあなた達! 話があるんだけど!」

 

「ん? あれ、朝の……たしか御門先生から古手川さんって呼ばれてたっけ?」

 

と、そこに朝炎佐と里紗を注意した女子が声をかけてくる。と女子は目を吊り上げた。

 

「丁度いいわ。あなたも聞いていって」

 

「はぁ?」

 

「同じクラスの人だよね、初めまして~」

 

女子の言葉に炎佐とリトが首を傾げ、ララは無邪気に挨拶する。それを女子は無言で聞いた後、口を開く。

 

「古手川唯……元1-Bのクラス委員よ。一年の時はA組のクラス委員の西連寺さんが甘いおかげであなた達も好き勝手やっていたようだけど、私が同じクラスになった以上そうはいかないわ」

 

「え? 好き勝手って……何?」

 

「とぼけないで!」

 

女子――唯の言葉にリトが尋ねると彼女は一喝、その後恥ずかしそうに目を伏せた。

 

「私、見たんだから……いきなり下駄箱でその……裸になったり……」

 

「リト……」

 

「ちょっまっ! それは誤解っつうかなんていうか……」

 

唯の言葉を聞いた炎佐が冷たい目でリトを見ると彼はわたわたと弁解を始める。

 

「と、とにかく! これからはあんな非常識は許しません!!」

 

「まあ下駄箱で全裸は非常識だよね……」

 

唯の言葉に炎佐は苦笑を漏らし、唯は次にララのお尻――正確にはそこから伸びている尻尾――を指差した。

 

「大体何? そのシッポ! 学校にそんなオモチャ持ってきていいと思ってるの?」

 

「えー!? だってこれは……」

 

「本物だもんねー♪」

「ララちぃは宇宙人なんだもん♪」

 

「リサ! ミオ!」

 

「あなたは!!」

 

唯の指摘にララが説明しようとするとその後ろから突然里紗と未央が現れてララに抱き付き、里紗の姿を見た唯は朝の二人乗りの事を思い出したのか眉を吊り上げる。が、直後彼女が放った言葉の意味を頭で理解したのか不思議そうに眉をひそめる。

 

「って、え? 宇宙人?」

 

「そ! そして尻尾(ココ)は――」

 

唯の呆けた声に里紗は妖しく笑いながらそう言い、ララの尻尾をつまむ。

 

「弱点なのよねー♪」

 

「あぁっ! や、やめてぇ~!……」

 

尻尾を掴んだりキスしたりし、ララが喘ぎ声を出すと唯も顔を真っ赤にしながら「何変な声出してるのっ!」と叫ぶ。

 

「結城ーっ!!!」

 

「!?」

 

と、突然怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「なんで僕だけ別のクラスなんだーっ!!!」

 

「うわ、レン!?」

 

そう怒鳴りながらレンがリト目掛けて突進、彼の胸ぐらを掴む。

 

「何か裏工作したな! そうに決まってる!!」

 

「バカ! んなわけねーだろ!!」

 

怒鳴り合い押し合いへし合い髪の引っ張り合いの喧嘩に発展。ララ達女子三人があらあらと観戦し、炎佐は呆れたようにため息をつくと止めるのもめんどくさいと思ったかリトが落とした箒を拾うと形だけでも掃除に戻った。

 

「ケ、ケンカは止めなさい!」

 

慌てて唯がその仲裁に入ろうと二人の間に割り込む、と、その時ふわっと彼女の髪が舞い、レンの鼻をくすぐった。

 

「ふぇ……ま、まずい、ふえっ……へっきし!」

 

意図せず鼻をくすぐられたレンがくしゃみをしたその時彼をぼふんっという感じで現れた煙が覆い、驚いた唯はしりもちをついて煙を見上げる。

 

「な……何?」

 

呆然と煙を見上げ呟く唯。とその煙の中からだぶだぶの男子制服を着た、レンと似た髪色をしている可愛い少女が現れ、彼女はリトを見ると目を輝かせた。

 

「リトくん! きゃはっ!」

 

「うわっ、ルン!?」

 

少女――ルンはいきなりリトに抱き付きその勢いで押し倒す。

 

「プリンセス・ルンまで……」

 

「ど、どーゆーこと?」

「レンレンが女の子になった……」

 

本気でめんどくさくなってきたとため息をつく炎佐の横で未央と里紗が目をパチクリさせる――ちなみに唯は目を丸くしてさらに呆然としていた――と、炎佐は思い出したように頷く。

 

「そういえば二人はプリンス・レンとプリンセス・ルンの関係を知らなかったっけ」

 

「あ、そうだっけ。実はレンちゃんも宇宙人なんだ。くしゃみすると性別が変わって、女の子のルンちゃんになるんだよ」

 

「で、見ての通り人格は独立してる。まあ新手の二重人格みたいなものだね」

 

「マジ!?」

 

「すげー! いかにも宇宙人って感じね!」

 

炎佐の言葉にララが頷いて説明、炎佐も補足すると未央と里紗が歓声を出した。ちなみに唯はこれ以上ないくらい呆然としており、心なしか顔から血の気が引いていた。

 

「それにしても、リトとルンちゃんも仲良しなんだね~」

 

「あーえっと……」

 

ころころと鈴のような笑い声で笑うララに炎佐がコメントに困る、とリトはどうにかルンの拘束から脱出するがその逃げ出した先にはララが立っていた。まあ逃げるのに必死でその先まで見えていなかったのだろう、リトとララが正面衝突してしまった。

 

[イテ]

 

と、いきなり聞こえてくるそんな声に炎佐は声の方を向く。そこにはララのつけていた髪飾りもといコスチュームロボットのペケが転がっていた。

 

「……って!?」

 

少し黙った後炎佐は事に気づく。ララの衣服はペケが自身のデータの中にあるものを使って再現しており、そのペケがララから外れてしまっている。

 

「な、なんてハレンチなーっ!!!」

 

現在彼の視界に入ってはいないだろうが恐らく現在ララは真っ裸、響き渡る唯の悲鳴と怒号の混ざり合った声を聞きながら炎佐はため息を漏らしてペケを拾い上げるのであった。

 

 

 

それから掃除も終わって生徒達は教室に戻り、このクラスの担当である老齢の男性教員――骨川が教壇に立つ。

 

「えー、今日は新学期の初日なのでぇ、このクラスのクラス委員を決めたいと思いまふ。誰か立候補者はいまふか?」

 

「はい!」

 

骨川教諭の言葉に一番に唯が手を挙げる。その近くの席で未央が一年の時に学級委員を務めていた春菜に「どうする?」と尋ね、春菜はそれに忙しくなるだろうしと迷っている様子を見せていた。

 

「はーい!! 私、立候補しまーっす!!」

 

「え!?」

 

と、ララが手を挙げて立候補し唯がそれに驚いたように叫ぶ。

 

「お、おいララ本気か!?」

 

「うん! なんかおもしろそーだし♪ 大丈夫だよ、分かんない事は春菜に教えてもらうから。ね、春菜?」

 

「え? うん、いいけど……」

 

リトが叫び、ララが楽しそうにそう言うと春菜もぽかーんとしながら頷く。それを見たリトは困った様子で炎佐を見た。

 

「え、炎佐、どうする?……」

 

「まあ、止めても無駄だと思うよ?」

 

リトの困った様子での言葉に炎佐は苦笑を漏らし、リトは「ですよねー」と言いながらがくっと肩を落とす。その近くでは唯がララにクラス委員を任せたらどうなるか分からないと燃えていた。

それから次の休み時間、唯とララはそれぞれ演説をしていたが唯のものはとても真面目なのに対しララのものは荒唐無稽と言うか春菜のフォローもあってまるでボケとツッコミ、唯のものに対し真面目な拍手を送る生徒とララのものに対し面白そうに笑う生徒。とても正反対になっていた。

 

「真面目すぎるクラスもイヤだけど、ララが委員長ってのもすげー不安が……」

 

「正直同感だね、これ以上心労が増えるならザスティンに追加手当もらいたいくらいだよ」

 

「とか言いながらお前笑ってんじゃねえか……」

 

「デビルークのプリンセスに振り回される経験なら豊富だからねー、まあザスティンには敵わないけど。ちなみに僕ランキングでの第三位はプリンス・レンだけど、リトもすっごい順位上げてるからその内追いつくかもね」

 

「嬉しいやら悲しいやら……」

 

リトの机に突っ伏しながらの言葉に炎佐も冗談っぽく笑いながらそう言い、リトは机に突っ伏したまま呟く。

 

その後にもリトと唯がララの発明品――クラスの男子と女子に聞いた意見をちょっとずれた解釈の元に作り上げたものだ――によって騒ぎに巻き込まれたりとあって時間は進んでいく。

 

「え~ではぁ、クラス委員の投票結果を発表しまふ。ちなみに男子の委員は立候補が一人だけだったのでぇ、元1-A委員の的目あげるくんに決定しました」

 

「よろしくお願いします」

 

骨川の紹介に合わせてメガネに坊ちゃん刈り、いかにも真面目そうというか昔ながらの委員長みたいな男子生徒が挨拶する。

 

「で……女子の方でふがぁ、集計の結果ぁ……」

 

骨川は集計結果の用紙を読み上げていく。

 

「ララくんが2票」

 

それを聞いた唯の表情が明るくなり、嬉しそうに両頬を手で押さえる。

 

「で、古手川くんも2票と……」

 

「は?」

 

しかしその次の言葉を聞いて固まる。

 

「西連寺くん30票、というワケでクラス委員は西連寺くんにお願いしまふ」

 

「え!?」

 

他の二人に圧倒的大差をつけてクラス委員に就任した春菜に拍手が送られる。

 

「私?……立候補してないのに……」

 

「だってさー。ララちぃには悪いけど春菜の方が慣れてるっつーか」

「ごめんね~ララちぃ」

 

ぽかーんとしている春菜に里紗と未央がそう言い、未央はすまなそうにララに謝る。

 

「え、別にいいよ。私も春菜に入れたし」

 

しかしそのララ本人もあっけらかんとした顔でそう言い、それにリトはずっこけてララにツッコミを入れる。が、ララは「私に向いてないみたいだし春菜が一番だ」と言っており、炎佐も苦笑する。

 

「まあ経験者だし程よく真面目だし、ララちゃんのとんでもない言動に対するフォローとかも上手だしね……多分それで票が集まったんだろうね」

 

炎佐の呟きを聞いてか聞かずか春菜は前に出る。

 

「じゃあ西連寺くん、よろひく」

 

「はい。えっと、よろしくお願いします」

 

骨川の言葉に春菜は頷いた後、クラスの皆に向けて頭を下げてよろしくお願いしますと挨拶した。

 

「認めない!! こんなの絶対認めないっ!!」

 

教室の後ろでは唯が悶えながらそう声を上げていた。

 

そしてやっと放課後になり、リトは疲れ切ったようにため息を漏らす。

 

「あー、なんかすっげー疲れた……」

 

「あはは、大変だね。あ、僕夕飯の買い物あるから」

 

「お~。また明日な」

 

疲れたようにひらひらと手を振るリトに炎佐は苦笑を返しながら自転車にまたがり、走り出した。彼が向かうのは学校近くのスーパーだ。この時間帯は割引サービスが行われている商品がいくつかある。

 

「……ん?」

 

と、その途中で炎佐は見覚えのある後ろ姿に気づき、少し道を外すとその後ろ姿の方に走った。

 

「やほ、美柑ちゃん」

 

「え? あ、氷崎さん!」

 

炎佐の呼びかけに少女――美柑は振り返って炎佐を見ると驚いたように目を丸くし、さっきまで彼女と話していた少女の一人が首を傾げた。

 

「美柑、知り合い?」

 

「え? あ、うん。お兄ちゃんの友達の氷崎さん」

 

「氷崎炎佐です。よろしく」

 

「あ、ども。あたし小暮幸恵っす」

 

「乃際真美です」

 

美柑の紹介に合わせて炎佐が笑顔を浮かべながら挨拶するとさっき美柑に問いかけた少女――幸恵が挨拶し、もう一人の少女――真美も挨拶する。それから美柑が不思議そうに首を傾げた。

 

「ところで、こんなところでどうしたんですか?」

 

「どうしたのって……今日いつものスーパーで特売の日でしょ?」

 

「……」

 

美柑の疑問の声に炎佐がきょとんとしながら尋ね返し、それを聞いた美柑は目を点にし、

 

「あーっ!!!」

 

直後思い出したように口に手を当てて声を上げた。そして慌てて幸恵と真美に向けて手を合わせる。

 

「ご、ごめん! 私買い物して帰らなきゃ!」

 

「あはは、美柑もうっかりさんだなー」

 

「ふふ。じゃあまた明日ね、美柑ちゃん」

 

美柑の慌てての言葉に幸恵と真美はそう言って頷き、ばいばいと手を振って歩いていく。

 

「あーもううっかりしてた……ありがとうございます、氷崎さん」

 

「別にいいよ。じゃ、せっかくだし後ろに乗ってく? ランドセルは僕の荷物と一緒にカゴに乗せとけばいいし」

 

「あ、えっと……じゃあお言葉に甘えて」

 

炎佐の提案を受け、美柑はランドセルを炎佐の自転車のカゴに乗せると彼女は後ろの荷台に乗って炎佐の身体に手を回してぎゅっと掴まり、炎佐は「行くよ」と一言言って自転車を走らせた。

 

「ところで……」

 

と、いきなり美柑が話しかけてくる。

 

「今日から新学期でしたけど、お兄ちゃんはどうでしたか?」

 

「ああ、今日からいきなり大変だったよ。朝は今の美柑ちゃんみたく二人乗りで学校に向かうことになるわそれで注意受けるわ、ああ僕とリトとララちゃんは一緒のクラスだったんだけどね……」

 

美柑の問いかけに炎佐は今日朝から起きたことを順々に説明していく。

 

「二人乗り……いつもそんなことあるんですか?」

 

「いつもじゃないよ。今日はたまたま。まあ、結構仲の良い女の子だったからちょっと困ったけどさ」

 

「ふぅ~ん……やっぱり氷崎さんも男の子なんですね~?」

 

「ぶふっ!?」

 

炎佐の頬を赤らめながらの言葉に美柑が小悪魔のような笑みを浮かべながら返すと彼はぶふっと噴き出して美柑を見る。

 

「美柑ちゃんはどこでそういう言葉を覚えてくるの!?」

 

「あはは。ほら前向かないと危ないですよー?」

 

「まったくもう」

 

炎佐の頬を赤くしながらの叫びに美柑は楽しそうに笑ってそう言い、炎佐は呆れたように前を向く。

 

「で、委員長の選挙でララさんとその古手川さんって人とで投票。結局西連寺さんに決まっちゃったそうなんですけど……」

 

美柑は今日の学校でのハイライトだった委員長選挙の話題を出す。

 

「結局、氷崎さんって誰に投票したんですか?」

 

「……」

 

その言葉に炎佐は少し困ったように黙る。

 

「……美柑ちゃん、地球には義理っていう言葉があるんだよ? 僕は幼い頃から傭兵としてデビルーク王家にはお世話になってたんだ。だからこういうところで義理を通すのはむしろ自然なことであって……」

 

「要するにララさんに投票したわけですね」

 

「……まあね」

 

炎佐の並び立てる言い訳を美柑がすぱっと切り捨て、炎佐はこくこくと頷く。

 

「でも、ララさんがクラス委員だとなんだか不安ですね」

 

「リトと同じこと言ってるよ。流石兄妹だね」

 

「からかわないでください」

 

美柑の言葉に炎佐がそう言うと彼女はぷくっと頬を膨らませ、相手の機嫌を損ねたことを悟った炎佐が「ごめんごめん」と謝る。

それから自転車はスーパーに着き、二人は自転車から降りてそれぞれ荷物を持つ。

 

「さってと、今日は何にするかな?」

 

「決めてないんですか?」

 

「今日は野菜が安いみたいだから野菜料理でも作ろうかなって。後はスーパーについてから考えるよ」

 

「……はぁ」

 

炎佐の呑気な言葉に美柑は呆れたようにため息をつく。

 

「それなら、晩御飯は家で食べますか?」

 

「……いいの?」

 

美柑からのいきなりの提案に炎佐は目を丸くし、美柑はひょいっと肩をすくめた。

 

「別にいいですよ。買い物忘れてたの思い出させてくれたのと、ここまで乗せてくれたお礼です……」

 

そこまで言うと美柑は炎佐に先程の小悪魔のような笑みを浮かべた。

 

「でも、もちろんただ飯食らおうなんて思ってませんよね~?」

 

「……美柑ちゃんの分の買い物の代金、いくらか負担させていただきます」

 

「よろしい」

 

美柑の突きつけた要求に炎佐が苦笑しながら返すと彼女は満足そうに頷く。

 

「じゃあ早く入りましょう。腕を振るって美味しい料理を作ってあげますからね!」

 

袖まくりをしながら自信満々にそう言う美柑、それに炎佐は少し考える様子を見せやがて思いついたようにぽんと手を打って美柑を見た。

 

「そうだ美柑ちゃん、僕が代わりに作るから負担なしってのは駄目かな?」

 

「……」

 

その言葉を聞いた瞬間美柑は半目になり、つかつかと炎佐の近くに歩き寄る。

 

「ふんっ!」

 

「あだっ、あいたぁっ!!」

 

直後炎佐の脛に突き刺さる美柑のつま先蹴りとそこから繋がる踏みつけ。炎佐が悲鳴を上げ、美柑は彼を睨みつける。

 

「一応お客様なのにそんな真似させられるわけないでしょ!」

 

そう言って彼女はふんっと顔を背け、

 

「……バカ」

 

うつむき、小さな声で呟く。心なしか頬が赤い。

 

「え? なんだって?」

 

完全に不意を突いての脛と足へのコンボ攻撃にその足を押さえて悶えていた炎佐は涙目になりながら顔を上げ、それに美柑は少し黙ると彼の方を向き、悪戯っぽい笑顔を見せた。

 

「なんでもありませんよーっだ! ほら、早くしないと置いてっちゃいますよー?」

 

悪戯っぽくちろっと舌を出してそう言い、無邪気に笑いながら炎佐を呼んでスーパーの中に軽やかに駆けていく美柑。それを見た炎佐もやれやれとため息をついて立ち上がると美柑を追ってスーパーに入っていった。




今回から新学期、新キャラも登場しつつ今回はこの作品の中で炎佐のヒロインを予定している方々と絡んでもらいました。ああ、今のとこ唯はその予定ではありませんのでご注意ください。まあまだ分かりませんけどね。
さて次回はどうしよっかな? ま、それでは~。ご意見ご感想あれば歓迎いたしますのでよろしくお願いいたします。

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