メイドさんと小さなご主人様   作:ハニトラ

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メイドさんは使い魔

「あなた誰?」

 

青空の下、メイド姿の少女をまじまじと見上げながら小さな少女が言う。メイド姿の少女とは違い、黒いマント、白いブラウス、グレーのプリーツスカートと一般的なトリステイン魔法学院の女生徒の服装だ。桃色の髪を揺らしながら鳶色の瞳がメイド姿の少女を見つめている。

 

対するメイド姿の少女はやけに落ち着いて見えた。一筋の乱れもなく肩口で揃えられた黒色の艶やかな髪。その黒髪にはヘッドドレスが乗り、細くも女性らしさを備えた身体は白フリルで縁を飾られた黒いメイド服で覆われている。少女は物珍しげにこちらを見ている人間に構わず辺りを見回す。

 

「ねえ、あなた大丈夫なの?」

 

桃髪の少女が心配そうに聞いてくる。いけない……詳しい状況はわからないけど、おそらくはどこかの上層階級の敷地であろう。無礼な態度で接して自分が所属する協会に傷が付くのは避けなければならない。

 

「はい大丈夫です。この身を案じていただき感謝いたします」

 

「そ、そう……それならいいわ。それよりあなた……」

 

「おいルイズ、そのメイドもしかしたら上級貴族の使用人じゃないのか?学院にいるメイドとは明らかにどこか違うぞ」

 

周囲にいたうちの誰かが言うと、ルイズと呼ばれた少女の顔が思案に染まる。だけどすぐに聞いた方が早いと思ったのかその口が開いた。

 

「あなたどこかの家に雇われていたりする?」

 

「いえ、協会には所属していますが今は誰にも仕えていません」

 

「協会?……まあいいわ。それなら貴族同士のいざこざも起きないだろうし」

 

ルイズが鈴のようによく通る声で安堵の息をもらす。それを聞いてメイド姿の少女はルイズをどこかの上層階級の息女と確信した。あの声質を自然に出すには幼い頃から上層階級に身を置き愛情ある環境で育つことが必要だ。自分の中の情報からそんな外国の上層階級の家柄とルイズに結びつきそうなものを絞っていく。

 

しかし、該当するようなものはない。ここがどこなのかもわからない。周囲にいるのは全員が外国の方のようだし、日本人らしき姿は見当たらない。そもそもここが日本かどうかさえ疑問だ。もしかして協会に敵対する組織に誘拐されたのかと不安になる。

 

十分にありえる話だ。一人で部屋にいた自分を何らかの方法で眠らせて連れてきたのだ。きっとあの大きな鏡から催眠ガスでも出ていたのでしょう。自分を捕らえて教会の秘密情報でも引き出すのだろうとそこまで考え……

 

「えっと、あなた本当に大丈夫?」

 

こちらを本気で心配しているルイズと呼ばれた少女の声に、多分違うだろうなと結論付ける。ならばこの状況は本当に何なのだろうと思う。一番可能性が高いのはいつまで経っても研修生止まりの自分を鍛えるための研修制度だろうか。協会から指示があった屋敷に行き、割り当てられた部屋にあった大きな鏡に触れたと思ったらこの状況だ。

 

「ミス・ヴァリエール、儀式の続きを」

 

大きな杖を持ち、真っ黒なローブを着た中年の男性がルイズに何かを促している。

 

「あの、ねえ……」

 

呼びかけにメイド姿の少女はルイズに向き直る。

 

「少し身を屈めてくれないかしら。そうしないと届かないから」

 

なんとなく言われた通りに身を屈める。視線が同じ高さになったところでルイズは静止の声をかけた。これで異性が相手だったらキスでもしそうだなと思う。

 

「少しだけ我慢してちょうだい。すぐに終わるから!」

 

真っ赤な顔のルイズ。なにをするのだろうかという疑問はすぐに解けた。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。彼女に祝福を与え、我の使い魔となせ!」

 

長々と呪文らしきものを唱え始めたと思ったら、ルイズの小さく柔らかな手のひらに頬を挟まれ……

 

「な、なにをっ……」

 

言葉は唇によって中断される。唇が重なった。あまりのことに身動きができず、力が抜けて地に膝をつく。ファーストキスだった。こんなわけのわからない状況で、しかも自分と同じ少女が相手で、唯一の救いは女性でも見惚れるような愛らしい少女が相手だったことだろうか。

 

協会の先輩が経験したようなご主人様との恋に憧れていた身にとっては中々に堪える。そういえば先輩はファーストキスの話になるとすごく微妙な顔をしていたなぁ……とそんなことを思い出す。ともかくファーストキスだった。恋人でもなければ、ちょっと気になっている仲の良い男友達でもない。可愛いけれど他人といえる外国の少女が相手……

 

そうやって放心している間に周囲からは人がいなくなっていた。遠目に空を飛んでいる姿が見えたがあまりの衝撃にどうやら幻覚まで見え始めたらしい。なぜか左手の甲からは痛みを痛みを感じるものの、協会の訓練に比べれば無視できる程度だ。そうしてようやく頭が落ち着いてきた頃にはメイド姿とルイズの少女二人。

 

もうなにがなんだかわからない。みっともないと感じながらも深々とため息をついてしまう。それからルイズと呼ばれていた少女の方を向く。

 

「ルイズ様……でよろしかったでしょうか」

 

「ええ、そうよ」

 

もう一度だけ小さくため息をつく。

 

「ここはいったいどこでしょうか?」

 

「え……っと、かの有名なトリステインの魔法学院よ」

 

……トリステインと言う名も魔法学院なんていう専門学校も聞いたことがない。

 

「それであなたはわたしが召喚したの。さっきやったのは使い魔召喚の儀式と使い魔契約の儀式よ。わたしはあなたの主人となり、あなたはわたしの使い魔になったわ」

 

抜けていた力がさらに抜け、気力がごっそりと削られる。なんだか物凄いめんどくさい事態になっている気がする。本当に残念なことにルイズが冗談を言っているようには見えない。

 

「あなたは……えっと、そういえばまだあなたの名前を聞いてなかったわね。あなた名前はなんていうの?」

 

力無く……それでも一応はご主人様らしき相手に半ば反射的に声は出た。

 

「MAID・UNION・SOCIETY、通称MUS所属、アナザー・ワン候補研修生の平賀才香です……」

 

地面に膝を付きながら、その身に大剣を背負ったメイド姿の才香はそう応えたのだった……




元ネタ知ってる人がどれだけいるかわからないけどとりあえず投下。爆発で地球にいったルイズがアナザー・ワンになってハルケギニアに帰ってくるか、サイトをTSしてメイド化するか迷ってこちらになりました。

才香の棒剣については何も思いついてないのでそのうち図書館でも行ってよさ気な剣の資料を発掘してきます。

次話にてクロス作品について触れるのでそれまでタグには加えないでおきます。それでは次話を投下するまで読んでくださったみなさんノシ

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