Muv-Luv -a red shiver-   作:北方線

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どうにもシンヤ君像がはっきりしてこない。
まあうちのシンヤ君はすこし感情的ってことでお願いします(汗)


第2話 赤い戦慄

京都市街地

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

男は持ちうるすべての砲門を迫りくる敵、BETAに向けた。

つい数十秒前自らの教え子たちが進んだ道へ進ませないために。

今の自分の体ではまともに機体を動かせない。そして機体自身も損傷している。そうな長くは持たないだろう。

である以上未来がある者たちに全てを託し自分はここで礎になろう。

男はそう考えてトリガーを引き続けた。突撃級には正面からではほとんど火器が

意味をなさない。しかしただひたすらに進みくるBETAに撃ち続けた。

身体に次々に打ち込まれた弾丸により倒れる要撃級や突撃級、そして巻き込まれつぶれる戦車級。

 

しかし次々に屍を乗り越えくるBETAについには銃弾がつき残すは自決装置のみになっていた。

 

 

 

「…ここまでか」

 

 

 

男は流れ出た血のせいで意識は朦朧としながらも最後の手段を使おうとしていた。

 

幸い機体の動力自体は問題なく稼働している。稼働をエネルギー臨界まで

上昇させ、自爆すれば

ここらに集まったBETAを葬るには十分過ぎる火力だ。

 

 

 

そういやあ小させぇ頃花火とかすきだったなぁ…、まさか自分が玉になるとはあの頃は考えもしなかったぜ。

 

 

 

男はそう自嘲しながらも動力の稼働状態を臨界値ギリギリに上げ、

自決用爆弾の起動準備を行っていった。

そして、早く早く近づいてこい、とBETAを急かした。

 

 

だが肝心な所で不運は襲ってくる。

自決装置の回路に異常が起き即座に発動ができなかったのだ。

どんなに起動しようとしてもタイマー設定になり爆発まで50秒はかかってしまう。

それでは意味がない。もうBETAは目の前にいるのだから。機体に武器はもうない。抵抗もできない。

 

 

 

「最後の最後でこれか…しまらんな。すまんな、ひよっこども」

 

 

 

彼はおのれの不運、絶望を感じ、目の前からの死を与える衝撃に目をつむった。

 

 

 

 

 

しかし数秒しても何も起きない。死とはこんなものなのか、と

男はいぶかしく思い重たい瞼を開けた。そして目の前に広がる光景に衝撃を受けた。

なんと自分の目の前にいたはずのBETAの大半が地に体液をまきちらし絶命していたのだから。

 

そして、ふと視線をその奥向けると、

そこには赤い姿をした戦術機、ではない人型のなにかが、一方的にBETAを

蹴散らしていたのだ。

 

赤い人型が手に持つ剣を振るえばBETAの頭部が飛び、

剣をブーメランのように投げたかと思えばそれは勢いを失うことなく

突撃級の堅牢な外郭にさえ阻まれず地面に刺さりようやくその勢いを止めた。

そして赤い人型はその剣にワイヤーを飛ばし剣を捉えると鎖鎌のごとく

振り回しBETAに死を与えていく。

その戦いぶりから赤い人型はBETAの命を狩りに来た地獄の使者にすら見えた。

 

 

 

男は一瞬その戦いに目を奪われたが、自決装置のカウント音に我を取り戻した。

 

 

タイマーのカウントは確実に進んでいた。赤い人型の奥からはまだ無数のBETAが押し寄せてきている。いくら赤い奴が強いとはいえすべてを食い止めるのはおそらく無理だろう。なによりこれ以上進ませては新人の後ろに行かれてしまう。食い止めるためには大規模な爆発でまとめて吹き飛ばすしかない。今まで赤い奴の情報を得たことはないし、通常時ならば絶対に信用などしない。

しかしあれは少なくとも自分を守るように戦っている。ならば現状味方でないにしろ敵ではないと判断した。

そしてオープン回線で通信を入れようとした。

しかし、あちらが回線を閉じているためか通じなかったため外部スピーカーで赤い人型に呼びかけた。

 

 

 

「赤い人型!、誰だかは知らんがここはいい!

俺の後方に向かったヤツらの援護に行ってくれ!!」

 

 

 

赤い人型はワイヤーを引き手に戻した両刃の剣を一薙ぎし、自身の周囲の敵を切り裂くと跳躍し

男の機体のすぐ横に降り立った。

大きさ的にはパワードスーツ程度なのにあの戦闘力そしてまるで本当の人間みたいな動きをする。

これは本当に中に人間がいるのか、人間の技術なのか、もしやこいつは新しい…。

 

 

 

「・・・それは君を見捨てていけ、そういうことでいいのかい?」

 

 

 

 

自分の言葉が通じたことで少なくともこいつもBETA、ではないにしろそういった類のものであるという最悪の状態でないことに男は安堵し、また赤い人型、エビルの声を初めて聞いた男はその声の若さに内心驚きながらも肯定の声を上げた。

その言葉に少し考える仕草を見せた赤い人型は、少し軽い言葉で告げた。

 

 

 

 

「どの道俺はもう持たん。貴官のおかげで時間は稼げたが

ここでやつらを食い止めねばこの先の防衛線までも喰い破られかねん。

頼む!」

 

 

 

素性もわからぬ謎の人型、それに頼るのもいささか危険、軍人としては失格ともいえる。

だが自分の勘、死に瀕し極限まで高まったそれがここは信じろ、そう訴えていた。

死の間際で思考がくるっているのかもしれない。だが、ここは、最後の己を信じるのみ。

自爆までの時間は残り10秒を切った。もう猶予はない。

男はわずかに残った力を振り絞り機体をBETAに向けて突撃させた。

 

 

 

「頼んだぞ! 赤き武者よ!!」

 

 

 

エビルが止める間もなく男はBETAの中心まで突撃し、そして光となった。そしてその強大な余波を浴びながらも微動だにエビル。

 

 

 

「まったく、俺の答え聞いてないよね。…でもここまでやったんだから

無視するつもりもないけどね。それに、どうにも心が昂ぶってくる」

 

 

 

こんなに感情的じゃなかったはずなのにね、そう零しながら

エビルはまだ燃え盛り辺りを照らす町に背を向け、示された方向に全力で飛行し始めた。男の最後の願いを果たすために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市街地外縁付近

 

 

 

 

 

唯依は己を守ってくれた瑞鶴を見上げ一言感謝を述べた。そして仲間が落ちたと

思われる方向へと向かった。

少し進むと地下鉄の階段あたりへ落ちた瑞鶴が見つかった。

しかしそのコックピットは解放されており、中には誰もいなかった。特に中に痕跡もなかったため周囲を調べるために辺りを軽くライトで照らす。

すると唯依はコックピットの真下に能登和泉が大切にしていたロケットを見つけた。

いつも彼女が惚けていた彼氏の写真が入っており二人の笑顔はとても綺麗だった。

 

 

 

「和泉…」

 

 

 

しかし、彼女が常に大切に持ち歩いていたこれを落とすなんて、そうそう考えられない。

唯依は嫌な予感を振り払うように地下の先へと進んだ。この選択が正しかったのか、それとも間違ってたのか答えはその先にあった。

 

 

唯依は見つけてしまった。

激しい出血の跡、そして引きずられた跡。唯依は自分の中の警鐘がなり止まず、

嫌な予感を押さえためらいながらも、その先をライトで照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにはある意味予想道理の、最も外れてほしかった光景が眼下に広がっていた。

 

間違いなく能登和泉だったものが、BETAに咀嚼されていたのだ。その眼に光はなく

ただ四肢を、身体をBETAに喰われてた。

 

その光景を見た時唯依はこみ上げる嘔吐感をなんとか押しとどめ、声を押しとどめた。

今声を上げれば間違いなく気づかれる。それだけは避けなければいけなかった。

なんとか表面上自分を落ち着かせた唯依はもう一人の仲間、この付近に落ちたであろう山城上総を探さなければと、自分に活を入れゆっくりと辺りを探った。

もうしゃべることのできぬ友、能登和美に黙祷を捧げながら。

 

 

 

 

 

 

 

それはすぐに見つかった。瑞鶴に異常なまでに纏わりつく戦車級。はぎ取った装甲を

咀嚼し次々に瑞鶴を裸にしていく。

間違いなく山城上総の瑞鶴だ。

 

唯依は山城上総に通信を入れ無事を確認しようとしたがノイズしか入らず。

瑞鶴が解体される音しか聞こえない。何とか通信を入れようと繰り返すが、

ついにはコックピットがむき出しにされて山城上総の姿があらわになってしまった。

山城上総は頭か血を流し、体を震わせ、満足に動けない状態だった。

そして唯依は彼女と目があった。

そして彼女は決意をした眼を唯依に向けて言い放った。

 

 

 

「…篁さん、お願い私を撃って!」

 

 

 

「えっ…」

 

 

 

唯依は一瞬思考が止まった。

山城は唯依に自分を撃てと、BETAに喰われる前に撃ってくれと懇願してきた。

彼女の言ってることはわかる。しかし理解するのと納得するのは別なのだ。

唯依はふるえながら銃を構え山城を撃とうとするが、引き金が引けない。

 

決して仲が良かったわけではない。むしろ悪かったと言える。それでも彼女は

自分の仲間で、命を預けあった。そんな彼女を自分が殺す。

 

仲間を自分の手で殺す。それはBETAを目の前にした時以上の恐怖を唯依に与えた。

 

まだひよっこ、初めての戦場で中仲間の命の選択を決断できるほど

唯依は成熟していなかったのだ。

 

 

しかし徐々に伸びてくる戦車級の手に山城は叫びを上げる。

 

体は激しく震える。自分の体がBETAに蹂躙される姿を想像し、山城は理性を

失う前に最後の願いを叫んだ。

 

 

「早く撃ってよー!! こいつらに喰われる前に、唯依!! お願い!」

 

 

 

山城の悲痛な叫び。恐怖からその声は震え、彼女の顔からは絶望、恐怖以外の感情が消えていた。

その姿を見たとき唯依は自分の中の何かが『プツリ』と切れた音を

確かに聞いた。

 

 

 

「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

山城の最後の懇願、仲間を殺すことへの自分の覚悟、それが自分の中でわけもわからなくなるほど混ざり合い、

照準があちらこちらへ定まらぬまま唯依はその引き金を引こうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがその時、横から赤い何かが山城の元へと疾駆していったのだ。

 

 

一瞬の出来事だった。唯依は夢でも見ているのかと思った。いやそれは山城も同じだろう。

唯依が放った弾丸により自分は命を断たれるはずだった。

 

しかし、自分はまだ生きている。唯依が外したわけでもない。銃声はしていない。

何故、何故、何故。

山城の頭の中はそれでいっぱいだった。

 

唯依はその姿を見ていた。

山城に伸びていた魔の手は赤い影により全て切り払われ彼女は危機から脱していたのだから。

自信の拳銃はいまだ前方を向いているがそれは何もとらえておらず、

彼女の視線の先には赤く、刺々しい身体をした戦術機、というには小さすぎる。

パワードスーツといったほうが的確だろうか。それが立っていたのだから。

 

 

 

「ふん、こんな害虫共がよくもまあここまで地球を荒らしてくれたものだね。

久しぶりだよ。こんなに気に入らないことは」

 

 

 

赤き超人、エビルはランサーについた体液を振り払うと視線だけコックピットで

固まっている山城に向ける。

 

 

 

 

「君、動けるの? 動けるならあっちの彼女とこにいってまとまっててくれない?

離れられてると面倒だからさ」

 

 

 

その時山城は初めて自分の前にいるエビルに気付いた。それと同時に

 

自分はまだ生きている。

 

それを実感し、体からいろんなものが抜けていくのを感じた。

 

 

エビルは山城が反応しないのでもう一度唯依のほうに行くよう促した。

 

 

 

「ねえ、聞こえてる? 動けないなら手くらいは貸すよ」

 

 

 

その声にようやく我に返った山城はどうにか体に力を込め唯依のほうに向かった。

その歩みはゆっくりであったが確実に生という実感を与えていた。

唯依は体を引きずるように向かってくる山城に駆け寄り肩を貸し後ろに下がった。

 

唯依の肩には間違いなく大切な仲間の重さ。先ほどまであった命を奪う恐怖、葛藤が

今の自分の中から消えているのに唯依は山城を手助けするので精一杯で気付いてはいなかった。

 

 

 

彼女らが合流したのを見たエビルはBETAと彼女らの間に身体を割り込ませテックランサーを構えた。

 

 

 

「あ、あの…」

 

 

 

「ん? 何か用かい?」

 

 

 

「…ありがとう、ございます、 助けて…いただいて」

 

 

 

山城はエビルに向かって感謝を述べる。少なくとも相手はBETAではなく、自分は死から

助けられた。彼女は混乱しながらも目の前の人物に助けられたという事実だけは

はっきりと認識していた。目の前の存在が味方なのかは分からないが今は助けられたことにただ感謝していた。

山城のその声はとぎれとぎれで死の恐怖から逃れたばかりのためか震える小さな声だった。

 

しかしその言葉は確かにエビルの耳に届いていた。

 

 

 

 

「ああ、気にしなくていいよ。頼まれちゃったしね、君たちの事。

それに今は感情を発散させる相手がほしかった所だったからね」

 

 

 

 

エビルは山城の言葉に軽く答えると、そのままBETAへと突貫していった。

表面は冷静でも、エビルは内心害虫共に対する怒りで

いっぱいだった。BETAをみると自分たちの運命を翻弄したラダムを思い出さずにはいられず、目の前で惨劇が起こる瞬間がかつての自分たちを思い出させ冷静ではいられなかったのだ。

エビルは体からにじみ出る怒りをそのまま力に変えBETAにぶつけていった。

多くが戦車級だったが無駄に数だけはいる。

 

 

一気に減らすか。

 

 

エビルはそう考え、テックランサーをブーメランのように投擲し、直線状のBETAを一気に切り裂いた。すこし地面に向けて斜めに投擲したため最後尾の戦車級を切り裂いたところで地面に刺さり停止した。

それを目の橋に映しながらエビルは肩に搭載されている二刀の剣、ラムショルダーを装備した。それは手を覆い篭手のようであったが、先端に鋭い剣がついていた。そして体を回転させ腕を広げて自分の周りのBETAを切り裂いていった。

 

 

 

「まったく、鬱陶しい!」

 

 

 

敵の数が思うように減らないことに苛立ちながらも両手の剣は前から向かってくるBETAを縦に切り裂き、横は腕を薙ぎ数体をまとめて切り飛ばした。次々に積みあがっていく死体の山に囲まれないように少しずつ移動をしていった。

横にいた敵を切り裂いた勢いでそのまま回転し、後ろから来ていたBETAを蹴り穿った。唯依達のほうに

向かいかけたBETAは真っ先に切り裂かれ、周囲を囲まれかけると驚異的な

跳躍をし、空中でラムショルダーを収納しテックワイヤーを使いテックランサーを回収するとそれで下にいるBETAを切り飛ばす。そして再びテックランサーを投擲し、BEATの命を絶っていく。

 

 

BETAは瞬く間にその数を減らしていった。

 

 

 

 

その姿は見たものに恐怖を抱かせるほどのすさまじさであり、

のちに彼の戦いを見たものはその姿を以て

 

 

 

『赤い戦慄』

 

 

 

と呟いた。

 




誤字脱字あったら報告お願いします。

シンヤくんのおかげで山城さん生存ルート余裕でした。

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