ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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お待たせしました。
アルベリヒは今回でぼろ雑巾にしません!


第三十八話 「行われていた非道実験」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第三十八話

「行われていた非道実験」

 

 突如この世界に現れた新興ギルド、ティターニアのリーダーアルベリヒ。

 彼が誘拐事件の真犯人であり、そして同時に茅場晶彦の言っていたこの世界に入り込んだ悪意、その正体は現実世界にてアスナ……結城明日奈の父である結城彰三がCEOを務める総合電子機器メーカー『レクト』のフルダイブ技術研究部門に勤務する研究社員、須郷伸之だった。

 その正体をアスナが語った事でキリト達は今目の前に居る男がどういう存在なのかを理解したのだ。

 以前、リーファが言っていたSAOの元々の運営会社だったアーガスが倒産した後、SAOのサーバー管理を行っていたのはレクトのフルダイブ技術研究開発部門であるレクトプログレスだと。

 アスナが言うには、彼はそこの主任を務めているというのだから、彼がキリト達の命を握っているというのも、あながち間違いではない。

 

「いやぁ、まさか実験の最中にトラブルが起きてこんなゲームの世界に閉じ込められる事になるとは思ってなかったけど、ここなら自由に研究の続きが出来るのでね……まさに私の為に用意された実験施設とでも言うべきなのかな」

「ふざけんじゃねぇ! 何が実験施設だ!! 攫った人たちに何をしてやがるんだてめぇは!」

「研究内容は秘密さ、凡俗な君達に、この僕の偉大な研究が理解出来るとは思わないからねぇ」

 

 どこまでも人を見下した態度……否、この男はクラインの事もキリトの事も……アスナ以外の全てのプレイヤーをモルモットとしてしか見ていないと、その態度が語っている。

 そして、アスナについてもクラディールのような下卑た眼差しだけではなく、まるで道具をみているかのような視線すら感じられた。

 

「そうそうアスナさん、現実世界では貴女はこの僕と婚約する事になるかもしれませんよ」

「何ですって?」

「何せ、貴女のお母様はこのゲームに貴女が囚われた事に対して酷く落胆しておられましたからなぁ……貴女のお父様の提案で、僕と結婚して結城家での貴女の立場を少しでも守ろうとされているご様子」

「そう、父さんと母さんが……」

 

 こんな男と結婚するなど御免だが、4年も顔を見ていない両親の話を聞けたのは有り難かった。ただ、母が落胆していた理由について凡その予想が出来てしまったのか、ひどく微妙な表情を浮かべる。

 

「もう少しで今の研究も大きく進展しそうなんです。ここで邪魔をされる訳にはいきませんねぇ……仕方ない、キリト君とクライン君には僕のモルモットになってもらうとしましょうか」

 

 そう言うと、アルベリヒは腰に差していた鞘から細剣を抜いて右手に構え、左手には件の短剣を握る。

 反射的にクラインが刀を構えるが、キリトは何処か冷めた目でアルベリヒを見つめ、剣を抜く様子を見せない。

 

「おや、キリト君は抜かないんですか? まさか、黒の剣士様ともあろう者が、本気の僕に恐れを成したのかな?」

「違うよ……呆れてたんだ」

「な、何!?」

「お前、レベルは幾つだ?」

「ふ、ふん! 聞いて驚け! 今の僕はお前達よりも高い200さ! このスーパーアカウントを使えばレベルを高く設定する事も、入手困難な超激レア装備すら手に入るんだ。正にこの世界では神の如き力を振るえるんだよ!」

「神……神ねぇ、ハリボテだらけの仮面の王様が精々って所だな」

 

 そこでようやくエリュシデータとダークリパルサーを抜いたキリトは隣でランベントライトを構えるアスナに視線を向ける。

 それに気付いたアスナは一つ頷くとキリトから距離を取り、いつでも動ける様に準備に入った。

 

「クラインは手を出さなくて良い」

「お、おい! それはいくらなんでも……」

「良いさ……あいつはレベルと装備だけだ」

「なるほどな……一応、短剣にだけは気をつけろよ」

「わかってる」

 

 クラインも後ろに下がらせて一歩前に出たキリトは両手にある2本の剣を構えながら、細剣と短剣の擬似二刀流モドキをしているアルベリヒに嘲笑を向けた。

 

「構えからしてなってないな」

「き、貴様! この僕を侮辱するつもりか!!」

「侮辱でも何でもしてやるさ……この世界に生き残る多くのプレイヤーを守るためなら、お前を何処までも虚仮にしてやる」

「くっ……ふん! ならば僕の手で無様を晒せぇえええええ!!」

 

 相変わらずソードスキルを発動させるという事を知らないかの如く闇雲に突っ込んできたアルベリヒを、キリトは冷静に身体を反らす事で避けて、すれ違い様にエリュシデータを一閃する。

 黒い刃は寸分違わず短剣の刃を破壊し、アルベリヒの絶対の自信の大本を消し去ると、足を引っ掛けて転ばせた。

 

「ひっ! ヒィイイイイイイ!!!?」

「どうしたアルベリヒ……さっきまでの余裕、何処に行ったんだよ」

「み、見下ろすな……僕を見下ろすな愚民がああああああ!!!」

 

 立ち上がりながら細剣を突き刺そうとしてきたアルベリヒだったが、それすら払われ、アルベリヒの手から弾き飛ばされてしまう。

 完全に武器を失ったアルベリヒはレベルやステータス、武器の差などを完全に覆すほどのキリトとの圧倒的な実力差に恐怖したのか、腰を抜かしながら後ずさった。

 

「逃げるなよ……この世界の神を名乗るなら、この程度で逃げ出すな! あの男なら、こんな場面だろうと、どんな場面だろうと、絶対に逃げなかったぜ……あの、茅場晶彦は!!」

「か、かや……茅場、だと!? 僕を、茅場以下だって言うのか!?」

「ああそうさ、実力も、心も、何もかもがお前は茅場に劣っている! お前が名乗るこの世界の神なんてな、空席になっている茅場の席に偶然座っただけのお前が、偉そうに踏ん反り返っているだけの事なんだよ」

「……ゆ、許さない……僕を何処までも虚仮にしやがって、このガキがぁ! 覚えていろ、絶対に貴様は、僕がこの手で殺してやる!」

 

 そう言うと、転移結晶ではない何か特別な転移アイテムを隠し持っていたのか、その場から突然アルベリヒの姿が消えた。

 逃げたのだろう。もうこの場に戻ってくる事はあるまい。

 

「さっすがキリトだな、全然余裕で倒しちまうなんてよ」

「あの程度ならクラインにだって出来るよ、武器破壊(アームブラスト)は教えただろ?」

「いや、まぁ……出来るだろうけど、おめぇほど鮮やかにゃあ出来ねぇって」

 

 基本的に、キリトは仲間内には武器破壊(アームブラスト)を教えている。

 前回は黒の剣士の十八番、代名詞とまで呼ばれたシステム外スキルだったが、今はキリトと仲が良ければ誰もが使える当たり前の技術になっていた。

 

「とりあえず、アルベリヒがこの場所に居たってのが気になる。あの短剣で転移させてたにしても、アルベリヒ本人がこんな高層に居たって事は、もしかしたら高層の何処かにあいつ等のアジトがあるのかもしれないな」

「そうだね、ストレアさん、調べられる?」

「ちょっと待ってね」

 

 ストレアが目を閉じてシステムにアクセスを開始した。

 この高層全体のマップ情報を呼び出し、何処か不審な点が無いか総チェックをしていると、ストレアの検索網に何かが引っ掛かる。

 

「見っけた! 丁度良い事に87層……この場所から直ぐ近くにシステムの裏を突いた隠しスペースがあるよ」

「案内頼む」

「こっち!」

 

 走り出すストレアの後に続いてキリトとアスナ、クラインも走り出した。

 暫く走って到着したのは何の変哲も無いただの岩場なのだが、ストレアは何の躊躇いも無く岩場の一部に飛び込むと、岩にぶつかる事無く中に入り込んだ。

 どうやら岩になっているのは映像であり、入り口がそこにあるらしい。システムの裏を突くとは、この事だったのか。

 

「お、おいおい……こりゃあ」

 

 キリト達が中に入ると、唖然としてしまった。

 中にあったのは何かの研究施設と呼ぶべき空間、大型コンソールや何かの巨大ポット、そしてそのポットの中に入っている行方不明になっていたプレイヤー達の姿、どうやら当たりらしい。

 

「ひどい……」

「……っ!」

 

 一目散にキリトはコンソールに走り寄り、コンソールを起動させてシステムをチェック、解析していくと、操作をしてポットを開放、中に居たプレイヤー達を救助する。

 ポットから出てきたプレイヤー達はシステム的に眠っている状態だが、ポットから出してしまえば暫くして目を覚ますだろう。

 だが、今はそれよりも確認しなければならない事があるのだ。

 

「これは……アスナ、クライン、ストレア、来て見ろよ」

 

 キリトが見つけたのは、到底許すわけにはいかない研究内容の全てが詳細に記されたレポートだった。

 アルベリヒ達が行っていたのはVRMMO技術を利用した洗脳実験、VRという点を利用し、人間の脳に直接命令を送り込む事で精神を操作し、自由自在に人格を操る技術の研究だ。

 

「ふざけるなよ……こんなもの、人間が人間にやって良い事じゃねぇだろ!?」

「此処に捕らえられた人達も、もしかして……」

「いや、まだ大丈夫みたいだ……研究はまだ途中段階みたいだから、まだ人格改変とかまでは出来ないらしい。ただ、暫くは寝込むかもしれないけど、少し長く休めば元気になるだろ」

 

 凡その事はこれで知ることが出来た。ストレアが一緒に見てくれたので、内容は全てストレアが記憶してくれている。

 もう見るべき点が無いのを確認すると、今度は今ここにあるデータの全てをデリートしていく。こんなデータ、残しておく訳にはいかない。

 

「なぁ、キリトよ」

「なんだ?」

「一つ気になってたんだが、良いか?」

「作業しながらで良いならな」

「ああ、それは構わねぇよ。さっきおめぇが言ってたアルベリヒの持ってるスーパーアカウントってのは何だ?」

 

 一瞬、手が止まってしまった。

 クラインが隣に居ることも忘れて口走ってしまっていたが、スーパーアカウントの名前を出すのは不味かったかもしれない。

 

「スーパーアカウントってのは、茅場が持つゲームマスターのアカウントであるマスターアカウントに次ぐ権限を持ったアカウントの事だ」

「何だよそれ! てことはアレか? ヒースクリフがいねぇ今、あいつがこの世界で一番の権力者って事かよ!」

「一応、な……」

 

 この世界では、ヒースクリフ不在の今、アルベリヒの思い通りの事が殆ど可能になっていると言って良い。

 だが、それも絶対ではないのだ。アルベリヒが持つスーパーアカウントは、唯一この世界でキリトのみが対抗を許されているのだから。

 

「次は絶対に捕まえる……これ以上、あいつの思い通りになんてさせない」

「うん、わたしも……あの人のこれ以上の狼藉は許さないよ」

「だな、ぜってぇ捕まえようぜ」

「アタシもあいつ気に入らないから、会ったらボコボコにしてあげるよ」

 

 最後のデータをデリートし終えたところで、アルベリヒを必ず捕らえる事を誓った。

 100層まで残り僅か、ようやく此処まで来たのだから、もうこれ以上余計な事をされる訳にはいかない。

 次に会った時、それがアルベリヒとの決着の時だと、心に決めるのだった。




次回! ついにアルベリヒが……。

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