ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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皆だいっきらいな男、再登場。


第三十六話 「事件発生」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第三十六話

「事件発生」

 

 ストレアがキリト達の家族になってから一週間、攻略にストレアが参戦する事になり、攻略ペースは更に上がったと言えよう。

 既にアインクラッド攻略も89層に到達し、残すところ11層でこの世界をクリア出来るというところまで来ていた。

 そんなある日の夜の事だ。キリトとアスナ、ユイ、ルイ、ストレアが22層のログハウスでのんびりと寛いでいた所にアルゴが尋ねてきたのは。

 

「今日、此処に来たのはキー坊たちにとある情報を提供するためダ」

「情報? いくらで売りつける気だよ」

「いや、ちょいと真面目な話なんダ……情報料も無料ヨ」

 

 いつものアルゴの軽いノリじゃない。それだけで尋常じゃないほど真剣な話であると予想出来たキリトは茶化すのを止め、アスナもアルゴに出したティーカップに紅茶を淹れた後、キリトの横に座り、ユイとルイは大きなソファーにストレアを挟み込む形で座る。

 

「最近、中層、下層プレイヤーが行方不明になる事件が続発しているんダ。生命の碑を見ても行方不明になったプレイヤーの名前に横線が入っていないことから、生きているのは確実なのだガ……最初に行方不明になったプレイヤーは既に2週間、誰も姿を見ていないらしイ」

 

 フレンド登録をしているプレイヤーが現在地を確認しても不明と出るだけで、その行方不明になったプレイヤーとは以後、音信不通状態になっているとのこと。

 

「更に最悪なのは、一昨日前……ついに攻略組のプレイヤーからも行方不明者が出てしまった事だナ」

「攻略組の奴まで!?」

「うそ……」

 

 行方が判らなくなったのは攻略組のソロプレイヤーの一人らしい。

 一昨日前にフレンドのプレイヤーと飲んで、そのまま別れてホームに帰ったらしいのだが、翌日会う約束をしていたにも関わらず現れず。現在地を調べても不明、生命の碑にも横線が入っていなかったことから、同じ行方不明事件の被害に遇った可能性があると思われている。

 

「今、この情報は現在アインクラッドに存在する全てのギルドに通達している所ダ。ソロプレイヤー達や非戦闘プレイヤー達にもフレンドを通じて情報を流して貰っていル」

「判った。ちょっと問題だな……アルゴ、明日攻略組ギルド……いや、現在アインクラッドに存在している全ギルドの団長を集めて欲しい」

「何をする気ダ?」

「対策会議とか、色々と話し合わないといけないだろ。特に、攻略組から今後も行方不明者が出て攻略が遅れるのはそろそろ時期的に不味い」

 

 既に何名か、アインクラッドでHPが0になった訳でもないのに死亡したプレイヤーが存在している。

 恐らく、現実世界で死を迎えてしまったのだろう。これ以上の攻略の遅延は危険なのだ。故に、そうならない為にも対策会議をしておく必要がある。

 

「判ったヨ。明日、場所ははじまりの街の広場でいいカ? あそこなら広いから集まれるだろウ?」

「ああ、構わない。時間は正午で、必ず副団長と二人で来る様にも伝えてくれ」

「判っタ」

 

 一人で来させないのは行方不明事件の対策の為だ。もし来る途中で行方不明にでもなられては大変なので、必ず一人で来ることを禁じておかなければならない。

 それを理解してか、アルゴも深く問わずに頷き、早速メッセージの作成に入った。

 数分後、キリトとアスナにアルゴからのメッセージが届き、それが先ほど話し合った内容と、明日の正午にはじまりの街の広場に集合という旨が書かれているのを見るに、恐らくはアインクラッド全ギルドの団長、副団長にメッセージが送られたのだろう。

 

「じゃあ、俺っちは帰るヨ。キー坊、アーちゃん、ユー嬢ちゃん、ルー嬢ちゃん、スーちゃん、またナ」

 

 アルゴが帰宅した後、キリトはソファーに座ったまま先ほどの話の内容について考え込んでいた。

 以前、茅場晶彦が言っていた悪意とは、この事なのではないか。そう思えてならない。そう考えると嫌な予感がしてくる。

 生命の碑に横線が入っていないという事は死んでいない。それは間違い無いのだろうが、だからと言って無事であるとは断言出来ない。

 

「アスナ、どう思う?」

「う~ん……今は情報が少なくて何とも言えないけど、確かなのは何者かに誘拐されているって事、かな」

「だよなー……そうなると今生き残っているプレイヤーが……8000人ちょいだっけ? その中から犯人を探し出さなきゃいけないって事だ」

「ちょっと、無理があるよねー……」

 

 流石に何千人単位のプレイヤーの中から候補を搾り出すのは不可能だ。勿論、黒鉄宮の牢獄に入っている犯罪者プレイヤーは候補から外れるにしても、それでも数十人程度減るだけで、意味が無い。

 

「父さん、母さん、もう少し候補が絞れるんじゃない?」

「ストレア?」

「だって、攻略組の人も行方不明になるって事は、犯人は少なくとも攻略組レベルのプレイヤーって事だよ。だったら8000人から200人ちょっとくらいまでは絞れる」

 

 現在、攻略組の人数は150名ほど。そして攻略組ではないが、それに順ずるレベルのプレイヤーも入れればストレアの言う通り200名ほどに絞れる。

 

「なるほど……でもそれでも多いよなぁ」

 

 何にしても、明日の対策会議で色々と検討されるだろうから、その結果次第だ。

 今日の所はこのくらいにして、早々に寝ることにした。明日は会議で大忙しになるのは間違い無いだろうから、キリトとアスナも今日ばかりは熱い夜を過ごす事無く眠るのであった。

 

 

 翌日、キリトとアスナは第1層はじまりの街にある中央広場……2年前、茅場晶彦によってデスゲーム開始宣言が行われたあの広場に来ていた。

 既にアインクラットに存在する各ギルドの団長、副団長が数名集まっており、姿を現したキリトとアスナを見て少しばかりざわつく。

 

「有名人は色々大変だねー」

「お互いにな」

 

 攻略組トップギルドにして、アインクラッド最強夫婦と名高い黒の剣士キリトと閃光のアスナが揃って現れたのだ。当然、その知名度はアインクラッドで知らぬ者は居ないほどであり、中層や下層ギルドのプレイヤーにとって初めて顔を生で見る事が出来た今日という日、興奮する者や、憧れの眼差しを向けてくる者ばかりだった。

 

「ようキリト! アスナさん! 相変わらず有名人はどこ行っても騒がれるのな」

「クライン、来てたのか」

「おうよ! ……って、テンション上げたいところなんだけどよ、流石に今日ばかりはそうも言ってらんねぇよな」

 

 クラインも既にアルゴから聞いているらしく、珍しく表情が真剣だ。

 

「やぁキリト君、アスナさん、クライン君、88層のボス戦以来だね」

「ディアベル、流石にはじまりの街を根城にしてるだけあって、軍は到着が早いな」

「まぁね」

「それに、ワイらも今回の話は聞いとる。真剣にならなアカン場やさかい、遅れるわけにイカンやろ」

 

 ディアベルの後ろに居たキバオウも、今回の話を重く受け止めているのか、いつもの不機嫌な表情ではなく、見たことも無いくらい真剣な眼差しをしていた。

 他にも聖竜連合からブルーノとその副官が、血盟騎士団からも正式に団長となったゴドフリーが副団長を連れて集まっている。

 そろそろ会議の時間である正午、これでキリトの見覚えのある面子は揃ったと言えよう。

 

「おや、黒の剣士様じゃないですか、お久しぶりですねぇ」

「っ! お前は……アルベリヒ」

 

 突然、キリトの後ろから掛けられた声に驚き、振り返ると、そこには以前攻略組入りを希望し、残念ながら見送られ、それ以降の音沙汰が無かったギルド、ティターニアの団長であるアルベリヒが立っていた。

 相変わらず爽やかな笑みを浮かべ、キリト達を……どこか見下した眼差しを向けている。

 

「昨夜突然メッセージが届いて驚きました。まさか行方不明者が出ているとは……及ばずながら、この僕も、そしてティターニアの全メンバーも事件解決に尽力させて頂く所存ですよ」

 

 言葉は頼もしいのだが、何故だろうか、その言葉に全く感情が込められていない様に感じる。

 いや、それどころかこの状況を面白がっているようにも思えなく無いのだ。まるで、行方不明者が出たことで心配し、こうして集まった皆を箱庭の上から観察しているかの様な……そんな印象だった。

 

「……」

「おや、これはこれは閃光のアスナ様、本日もお美しい。本日はどうぞよろしくお願いします」

「え、ええ……そうですね、今回は攻略じゃないし、貴方の力をお借りするかもしれません」

「光栄ですよ、アインクラッド最強の片割れからそのようなお言葉を頂けるなど、恐悦至極」

 

 ようやく、アインクラッド全ギルドの団長、副団長が集まり、正午を迎えた。

 広場の中央に作られた壇上にはアルゴと、皆を代表してキリトとアスナが立って早速だが今回の事件のあらましと、今後取れる対策、そして事件解決のための調査と行方不明となったプレイヤーの捜索などについて説明が行われる。

 

「以上が、今回起きた事件の内容ダ。次に対策についてだが、黒閃騎士団副団長のアスナより伝えるヨ」

「……皆さん、こんにちは。黒閃騎士団副団長のアスナです。それでは先ず、今後の対策についてですが、これから事件解決までの間、全プレイヤーは一人行動を自粛、以降は必ず二人以上のPTを組んで行動するよう心掛けてださい。また、怪しい人物を目撃した場合、直ぐに行動せず、必ず応援を呼ぶ事。最悪、いつ何処に居たのかさえハッキリと判れば良いので、後を追わずに日時、場所、状況、相手の人数や顔、装備などを後に攻略組ギルドに報告してください」

「アーちゃん、ありがとうネ。次に調査と行方不明になったプレイヤーの捜索について黒閃騎士団団長のキリトからダ」

「え~と……黒閃騎士団団長のキリトです。事件の調査については、大手攻略組ギルドの調査部門から人員を裂くことになっている。また、中層、下層のギルドからも捜索参加希望が居れば言ってくれ、攻略組の調査隊と一緒に行動してもらうことになる。また、行方不明になったプレイヤーの捜索についても同じ様に人員を派遣する。捜索について、もし偶然何か手掛かりを見つけたプレイヤーが居たら必ず直ぐに攻略組のプレイヤーに知らせてくれ」

 

 基本的に調査と捜索を行うのは黒閃騎士団、血盟騎士団、聖竜連合、アインクラッド解放軍の4大大型ギルドだ。

 1層から25層までを解放軍が、26層から50層を聖竜連合が、50層から75層を血盟騎士団が、76層から現在の最上層である89層を黒閃騎士団が調査する事になっている。

 

 

 キリト達の演説後、調査や捜索について方法など議論され、大まかな概要が決まった頃には既に空も夕暮れで、今日の所は解散となった。

 皆がそれぞれのホームに帰宅する中、キリトとアスナは他の攻略組ギルドの団長を集めて話し合いを継続中である。

 

「それでキリトよ、お前は今回の事件……どう思う?」

「確証は無いけど、怪しいと思う奴なら一人だけ居る」

「キリト君、それって……」

 

 やはり、以前直接相対した事のあるディアベルは気付いたらしい。

 そう、あの好青年という印象を持ちながら、何処か掴み所の無い、違和感しか感じられない男……アルベリヒだ。

 

「奴は、何か隠している……そんな気がしてならないんだ」

「キリト、お前がそう言うって事は何かあるんだな?」

 

 ブルーノの問いにキリトは頷いて返す。

 何も無ければべつにキリトだってアルベリヒを疑ったりしない。だが、あの男が何かを隠しているのは間違い無いと確信している。

 

「あいつ、前に攻略組加入テストで俺と戦ったんだけど……2年もこの世界に居たとは思えないくらい弱かった。しかも、装備なんかは俺達より確実に良い物使っているし、ステータスなんかも正直俺やアスナ以上の筈なのに……だ」

 

 恐らくレベルも100を超えているキリトよりも上なのだろう。それだけのステータス、装備を持っていながら戦闘は明らかな素人、これでは何か隠していると考えない方が可笑しい。

 

「兎に角、皆もあいつの動向にだけは注意してくれ」

 

 キリトの言葉に、全員神妙そうに頷き、漸くこの場は解散されるのだった。




次回は遂に事態が動きます。

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