ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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ゲームとは違うタイミングで彼女が登場!


第二十九話 「妖精の森」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第二十九話

「妖精の森」

 

 アインクラッド76層を開放してから一週間、順調に迷宮区の攻略は進んでおり、もうそろそろボスの部屋も見つかるだろうと予測されている。

 また、76層で新たに発見されたクエストなども順次公開されてはいるものの、特に攻略に必要と思われる重要クエストは無いらしい。

 そんな中、攻略組の間で現在、とある噂が広まっていて随分と話題になっているものがある。

 

「76層の東の森に妖精が出る?」

「おう、モンスターや異種族NPCじゃない、その森にたった一人だけ存在するって噂だ」

 

 キリトはリビングの自分のソファーに座りながら目の前のソファーに座るクラインの話を訝しげに聞いていた。

 そもそも、朝早くから来て朝食までちゃっかり頂いているこの男、態々この話をする為だけに此処へ来たとのことだが、暇なのだろうか。

 

「妖精か~、なんかファンタジーみたいだねー」

「第3層でキズメルに会ってるだろ」

「あ、そうだったねー」

 

 前回も今回も世話になった(ダーク)エルフの女性NPCであるキズメルを思い出し、アスナも妖精がアインクラッドに居るのも不思議ではないと思い直す。

 

「で? その妖精がどうしたって?」

「いやな、そんな噂が多く出ているってのに、会った事がある奴は一人も居ない。姿を少しだけ確認した奴は居るけど、直に逃げられたって話なんだよ」

「神出鬼没か…直接会った事がある奴は居ないなら特殊な条件を満たした上で会えるNPCの可能性が高いな。何か重要クエストフラグなのかもしれない」

「ね、キリト君…行ってみない?」

 

 話を聞いている内に興味が出て来たのか、アスナが行ってみようと言い出した。確かに、キリトも興味がある。

 76層からは一切が未知の出来事ばかりで、今回の話も何か重要なイベントが待っている可能性も十分考えられるのだ。

 ならば根っからのゲーマーであるキリトとて、行かないなどという選択肢がある筈も無い。

 

「サンキュークライン、ちょっと行ってみるわ」

「おう、何か判ったら俺にも教えてくれ」

「わかった」

 

 クラインは暫くユイとルイの面倒を見てくれるとのことなので、二人の事はクラインに任せてキリトとアスナは早速コラルの村へ行き、転移門から76層アークソフィアへ転移した。

 

 

 アークソフィアに着いた二人は街の外へ出て早速だが東の森へ向かい、途中で出現するモンスターを倒しつつ先へ進んだ。

 流石に出現率が上がっているだけあり、進むのにも時間が掛かる。

 

「流石に出現数多いな、モンスターのレベルも76層ってだけあって高い」

「でもフレンジーボアなんて懐かしいのも居るんだねー」

「暫くぶりに見たよな」

 

 低層のフィールドなら出てくる事も多いが、高い階層にまで行くとフレンジーボアの姿も見なくなった。

 だが、この76層には低層のものとはレベルが明らかに違うフレンジーボアが出てきているので、懐かしさを感じる。

 

「おっと、森に着いたな…少し探索してみて妖精を探してみるか、探す中で何かクエストフラグがあるかもしれないし」

「そうだね、少し注意して歩こう」

 

 森に入って暫く歩いたのだが、中々妖精の姿は見えない。

 それに、妖精に会うためのクエストフラグも今の所見つからないので、これは本格的に重要なイベントなのか、別にフラグを立てる場所があるのか、それとも妖精自体が見間違いなのか、判断が難しくなってきた。

 

「で、この辺がクラインの言ってた妖精の目撃されたポイントらしいんだけど……」

「何も居ないね」

「ああ」

 

 妖精が目撃された場所に来たのだが、やはり何も居ない。モンスターは出てくるが、妖精らしい姿は何処にも見当たらないのだ。

 

「やっぱ会うには別の所でフラグ立てる必要があるのかな?」

「かもしれないな……ん?」

 

 ふと、キリトの視界に何かが映った。

 金色の…髪だろう。ポニーテールにして、緑色のジャケットとミニスカート姿、腰には細い片手剣を差している少女の姿。

 一見するとただのプレイヤーだろうが、キリトの目には確かに見えている。その少女がこちらに向けている背中には、緑色の薄い羽らしき物が生えているのが。

 

「アスナ、あれ」

「え? あ……」

 

 アスナにも見えたらしい。という事はキリトの見間違いではない。

 あの背中の羽、明らかに動いているという事は飾りではなく、本物だ。つまり、あの少女がクラインの言っていた妖精という事になる。

 

「キリト君、どうする?」

「話しかけてみるか? でも逃げられたりするかもしれないし…」

 

 どうするのかと迷っていると、少女の尖った耳がピクリと動いてこちらを振り向いた。

 まずい、見つかったか、と思って逃げられるのを覚悟したのだが、少女が動く様子は無い。それどころかキリトの姿を見て緑色の瞳を大きく見開いて凝視している。

 

「お…」

 

 少女が口を開いた。その口から出た次の言葉は、キリトを、そしてアスナを驚愕させるには十分なものだ。

 

「お兄ちゃん…?」

「お、お兄ちゃん!?」

 

 キリト、キリト君、キリトさん、団長、パパ、お父さんと、アインクラッドに来て様々な呼ばれ方をしてきたが、お兄ちゃんなどと呼ばれるのは4年ぶりだ。

 驚愕して動きを止めたキリトに少女が近寄ると、その手を取って心底嬉しそうな表情を浮かべる。これがNPCならユイやルイ並のAIが搭載されている事になるだろう。

 

「やっと会えた! お兄ちゃん!!」

 

 少女の声、そしてお兄ちゃんという呼び方は、どこか妹を思わせて懐かしさを感じさせるが、頭を振り考えを払うと隣で同じく驚愕しているアスナの方を見る。

 

「な、何かクエストが始まったのかな?」

「わ、わからん…でもそうかも、そういうクエストNPCなのかもな、この子」

「NPC!? ち、違うよお兄ちゃん! あたしだよ!」

「凄いNPCだねー、AIの機能が高いのかな?」

「だな、こりゃ本格的にユイやルイ並の性能だ」

 

 完全にNPC扱いしている二人に少女が業を煮やすかのように否定を続けるも、キリトは改めて少女を見やると次の言葉を発する。

 

「あのな、俺は君のお兄さんじゃない。俺の妹は現実世界に居るし、そもそも…」

「そ、そもそも?」

「俺の妹はそんなに胸が大きくない」

「っ!!」

 

 ぶっ飛ばされた。思いっきり顔面殴られてぶっ飛ばされてしまった。

 

「あ、あたしだって2年も経てば色々成長するよ! 成長期なんだから! っていうか久々の会話がセクハラって何!?」

「き、キリト君大丈夫!?」

「っててて…NPCに殴られるなんて初めてだな」

「もう! いい加減に気付いてよ! あたしだってば! 直葉! 桐ヶ谷直葉だよ!」

 

 4年ぶりに聞いた名前に、キリトの動きが止まった。

 いや、だけど現実世界に居るはずの妹が、こんな所に居るわけが無い。それに妹はゲームを嫌っていた筈だから、有り得ない。

 

「きりがやすぐは?」

「あ、ああ…桐ヶ谷ってのは俺の現実での苗字。で、直葉ってのは妹の名前なんだ」

「へぇ、キリト君のリアルの苗字…あ、キリト君の名前って桐ヶ谷って苗字から付けたの?」

「ああ、後は下の名前が和人だから、キリトにした」

「そっか、桐ヶ谷和人君、か~…」

 

 思わずリアルの名前を言ってしまったが、アスナになら良いだろう。

 それより、問題は妹の名を名乗った目の前の少女だ。

 

「ほ、本当にスグなのか?」

「本当だよ、やっと信じてくれた?」

「いや、俄かには信じられない…ゲーム嫌いの直葉が、そもそもSAOの中にスグが居るわけが無い」

「い、いや…まぁ確かにあたしもゲーム自体やらなかったんだけど、今はそれほどじゃないよ? この姿だってSAOとは別のゲームのアバターの姿だもん」

「別のゲーム?」

「うん、SAOが始まってから一年後に出たALOっていう新しいVRMMORPGゲーム、あたしね、それをプレイしてるんだ」

 

 話の内容からして、現実世界の事だろう。という事は本当にこの少女はキリトの妹、直葉なのだろうか。

 

「で、でも何でスグがSAOに?」

「えと…その」

「?」

「あ、あたしにもわかんない! いつも通りにアミュスフィアっていうVRゲームのハードがあるんだけど、それを被ってALOを始めようとしたんだけど、いざログインしてみたらALOの最後にログアウトした場所じゃなくて、此処に居たんだよ」

「別のゲームからのコンバート? でも、そんな技術、あったか…?」

 

 これは本当に目の前の少女が直葉で間違い無さそうだ。

 

「ねぇキリト君、この子は本当にキリト君の妹さんで間違い無いの?」

「ああ、どうにも話を聞いてると信憑性がある。それに現実での話をするNPCなんて存在しないだろ? そもそも妹のリアルの名前を何でSAOの中で聞くことになるんだって話になる」

「そっか」

「あの、お兄ちゃん…その人は?」

「あ、ああ…こいつはアスナ、俺が団長を務めてるギルドの副団長だ。で、判ってると思うけど俺は此処ではキリトな」

「あ、そうなんだ…えっと、初めまして、桐ヶ谷直葉です。このアバターの姿だとリーファって言います」

「よろしくねリーファちゃん」

 

 それから、色々と話を聞かせてもらった。

 現実では既にナーヴギアが回収され、別の会社がアミュスフィアという後継機を発売、同時にVRMMOゲーム、アルヴヘイム・オンラインというゲームを発売して、リーファはそれをプレイしていたという事。

 また、今のリーファの姿は間違いなくALOでプレイしていた時のアバターの姿そのままであり、名前も引き継がれているという話だ。

 

「姿まで引き継がれているってことはそのALOってゲームはSAOと同じシステムを積んでいるのかもしれないな、基幹プログラム郡やグラフィック形式とか、その辺りが」

「そうなのかな? あ、でも確かにSAOの事件でアーガスは解散してSAOのデータなんかはALOを発売している会社に委託されたって話をニュースで聞いたかも」

「じゃあ、その会社でSAOのシステムを使ってALOを作ったって事だね。でも、ゲームが違うのにSAOに来たのは何でだろう?」

「同じ会社でSAOとALOの二つを管理しているんだろ? なら何かしらのトラブルで二つのゲームが混線した可能性があるな」

「トラブル…」

 

 考えられるトラブルは75層でヒースクリフと戦っていたときに起きたあれだろう。

 

「とりあえず、クラインの言ってた妖精ってのはスグで間違い無さそうだ。その背中の羽を見て、妖精と間違えられたんだろ」

「あながち間違いじゃないけどね。このアバターはALOでの風妖精族(シルフ)っていう種族の妖精だから」

「あ、本当に妖精だったんだー」

「はい」

 

 一先ず、話はその辺にしておいて、キリトとアスナはリーファを連れて一度22層の家へ帰宅する事にした。

 これからの事、この世界での事など、話しておかなければならない事は山ほどあるし、キリトとしても聞きたい事はまだまだ沢山あるのだから。




次回はリーファとの話で、現実での話も聞かせてもらえる予定です。

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