ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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始まりましたSAOIM編!


SAOIM編
第二十八話 「これから」


ソードアート・オンライン・リターン

 

第二十八話

「これから」

 

 アインクラッド76層主街区アークソフィア、此処の転移門をアクティベートし終えたものの、キリト達攻略組には活気が無かった。

 それもそうだろう、今まで頼れるリーダーの一人だったヒースクリフの裏切りと、ログアウトを賭けた戦いで異常が起き勝負そのものが有耶無耶となって未だにログアウトできないのだから。

 それに何より、此処から先はキリトとアスナにとっても未開の地と言える場所で、今まで通用した未来の知識など役に立たなくなる事が多くなる。

 必然的にキリトとアスナの持つ情報の優位性までもが失われた事を意味するのだ。

 

「キリト君、とりあえず俺達軍は一度、ホームに戻るつもりだ。君達はどうする?」

「そう、だな…俺たちも戻るとするか」

「そうだね、情報の整理とかもしないとだし、街やフィールドの探索は明日以降にしよう?」

 

 アスナの言う通り、此処は一先ず解散して、それぞれのギルドは自分達のホームに、ソロプレイヤー達もねぐらに戻った。

 キリトとアスナは黒閃騎士団のメンバーを先に返して情報収集ではなく観光気分でアークソフィアを歩く事にする。

 

「良い街だねー」

「ああ、雰囲気がどこかはじまりの街に似ていて賑やかだな」

 

 転移門から中央広場に移動して、そこから色々と見て周った。

 先ず最初に確認したのは商店街にある武器屋と防具屋。下の階層で売っている物との違いがあるか、レアな装備があったりしないかなどのチェックを行わなければならない。

 

「う~ん、特に75層と違いは無いねー、レア装備も無さそう」

「だな、ブラックレザーやティニタースソード、ディニスタースレイピア…今の装備のままの方が十分強い」

 

 店先に並んでいる防具や片手剣、細剣を見るが、明らかに今の二人の装備よりも貧弱な物ばかり。

 特別凄い物やレアな物も無さそうなので、現状エリュシデータ、ダークリパルサー、ランベントライトという最高位の武装を持つ二人がこれ以上ここに居る理由は無いだろう。

 

「今日はもう帰る?」

「いや、もう少しくらい観光してから帰ろうぜ」

「じゃあ、このままデートしようか」

「そうだな」

 

 特に欲しい物があるわけでもないので、そのままウインドウショッピングによるデートをする事に相成った。

 途中でクレープを買って二人で別々の味を食べさせ合ったり、占い師に占ってもらったり、噴水の前にあるベンチに座って休憩したり、夕方までずっとデートを楽しむのであった。

 

 

 夕方になり、キリトとアスナは転移門から22層コラルの村へ転移し、そこから徒歩で愛娘達の待つログハウスに向かっていた。

 ザ・スカル・リーパーとの戦いから始まり、ヒースクリフとの戦い、そして76層のアクティベートと、中々急がしいスケジュールだったので、特にキリトは随分と疲れている。

 

「んん~……はぁ、疲れたなぁ」

「もう、オヤジくさいよキリト君」

「しゃあねぇだろ、ボス戦とヒースクリフ戦連続で戦ったんだし」

 

 寧ろVR空間とは言え疲れない方がおかしい。それだけキリトは戦ったのだから。

 

「でも、キリト君から聞いた時はショックだったよ…団長、本当に消滅したんだね」

 

 明日奈の言う団長は言うまでも無く未来のヒースクリフ…茅場晶彦だ。彼の魂が消滅した事を聞いた時、アスナは随分とショックを受けていた。

 見知った人物が死んだのだから、それも当然だろう。ヒースクリフとの付き合いは何だかんだで彼女の方が長いのだから。

 

「そして、結果として横槍は防げたけど、俺達はデスゲームの本来の目的である100層を目指さなければならなくなった」

「ヒースクリフさん、何処に行ったのかな?」

「多分だけどあいつは100層に居る可能性がある。そこで今回の事を調べているはずだ」

「じゃあ……」

「ああ、100層で、今度こそ最後の決着になる」

 

 キリトとヒースクリフという存在の、今まで全ての因縁がそこで、決着となるだろう。だからそれまでは何があろうと死ねない。

 何としてでも100層まで辿り着き、ゲームクリアするのだ。

 

「これからは全てが未知の世界だ。アスナ…気を引き締めて行こう」

「勿論、どんな敵が待っていてもキリト君はわたしが守るから、キリト君はわたしを守ってね?」

「ああ、必ず守るよアスナも、ユイも、ルイも…皆ね」

 

 キリトの肩に頭を預けてきたアスナに顔を寄せ、サラサラの絹のような優しい手触りをした栗色の髪を梳き、漸く付いたログハウスのドアを開けた。

 帰ってきた二人を出迎えてくれたのは、愛娘二人のタックルと抱擁。それを受け止めユイをキリトが、ルイをアスナが抱き上げて抱きしめる。

 きゃー、と楽しそうに笑うユイと、声こそ出さないものの母の温もりに気持ち良さそうな顔で胸元に頬を擦り付けるルイを見て、もうウチの娘達は世界一可愛い天使に違い無い、などと親馬鹿なことを考えているキリトとアスナだった。

 

 

 夕食を終えてキリトとルイ、アスナとユイが順番に風呂に入り、寝巻きに着替えた後はリビングのソファーに座りながらこれからの事について話し合いをする事になった。

 先もキリトがアスナに言った通り、これから先は何もかもが全てキリトとアスナの未来の知識が役に立たない未開の地だ。

 何が起きるのかも予測不能な現状、今までの情報から整理して推理したり、方針を定めて行く必要がある。

 

「一先ず俺達はまだ時間的猶予が若干だがある。75層攻略が前回より少し早いから現実での俺達の衰弱死もまだ先になる」

「でも、だからってもたもたしてたらタイムリミットを迎える人達も出てくるかもしれないね」

「大丈夫……暫く、は…ボスも、大したことない」

 

 ルイが言うには76層のボスは75層が危険極まり無い奴だったため、比較的弱いのだとか。

 勿論、安全マージンを確り取っておかなければ勝てる相手ではないが、今の攻略組の平均レベルなら十分余裕らしい。

 

「それから、現在レベル90超えしてるのって誰だっけ?」

「パパとママ、クラインおじさんとエギル小父様、ベルさんとクルミさん、シリカさん、ディアベルさん、グリセルダさん、ケイタさん、サチさん…11名ですね」

「俺が99で、アスナが97だったな…クラインが…確か92って言ってたか?」

「うん、エギルさんが90で、ベル君とクルミちゃんは91、シリカちゃんが90、ディアベルさんが93でグリセルダさんとサチちゃんが92、ケイタ君が93だよ」

「やっぱ最高でも90台前半か…まぁ、今の段階でそのレベルならこの先も安全マージンは問題無いか…」

「攻略組の平均、も…87…だから…暫く、余裕……」

 

 前回より攻略組が強いと思う。だからだろうか、ザ・スカル・リーパーとの戦いでも犠牲者が若干少なく済んだのは。

 そして、既にクォーターポイントは全て通過した。この先は100層まで目立った強さのボスと遭遇する事も無い。

 今までの攻略ペースを考えるのなら、少しだけレベル上げに時間を使っても問題無いくらいの時間的余裕がある。

 

「でも、俺達が一番警戒しなければいけないのは、横槍の犯人だ…茅場の話ではこの世界に悪意が入り込んだって話だけど…ユイ、この世界にデスゲーム開始後から新規参加する事って可能なのか?」

「結論から言わせてもらうと、可能です。ソードアート・オンラインのソフトは一万本しか発売されてませんけど、亡くなった方のソフトを別のナーヴギアに入れて新規登録するか、そもそも購入してもデスゲーム開始まで一度もプレイしていなかったのを後から開始する、などと言った方法を使えば」

「そっか…と言うことは、もしかしたら横槍の犯人がアインクラッドにログインした可能性があるな」

 

 そう考えるのが自然だろう。だけど、それを探る方法は無い。

 キリトが持つカウンターアカウントはあくまでもスーパーアカウントで引き起こした現象を打ち消すの権限しか持ち合わせて居ないし、ユイとルイのGM権限も特定のプレイヤーを探す事はできないのだ。

 

「地道に探すしか無いな…それじゃあ、次の話だな。茅場が言ってたMHCP02ってやっぱり…」

「ん、メンタルヘルスカウンセリングプログラム試作2号…私を含めて9体存在するプログラムの一人」

「ユイちゃんとルイちゃんの、妹か弟になるのかな…?」

「です。元MHCP01だったわたしと、現MHCP01のルイにとっては妹ですね。名前は確か…」

「MHCP02、コードネーム“ストレア”」

 

 ストレア…それが、茅場晶彦が会えと言ったMHCPの名前。

 

「ストレアちゃんかー…きっと、今頃エラーを蓄積してるだろうね」

「ああ、もしかしたらユイやルイの時みたいにフィールドに出てるかもしれない。ストレアって名乗る子が居ないか調べてみよう」

 

 調べるのは黒閃騎士団と血盟騎士団、聖竜連合、アインクラッド解放軍という巨大ギルドと、鼠のアルゴで行う事にした。

 後、話し合うべき事と言えば、横槍が入った際に起きたであろうエラーだ。何か不具合が出ていないか、という事なのだが…。

 

「簡単なエラーはカーディナルに消去されたみたいです。ただ、大きなエラーは処理し切れなかった点もあったみたいで、わたしの権限で調べられる限りですとモンスターの出現率がアインクラッド全体で上がってしまった事、一部のNPCのAIが誤作動を起こした事、それからユニークスキルが一部失われていますね…」

「何!?」

「うそ!?」

 

 ユニークスキルが一部失われていると言われ、慌てて自身のステータスを調べたキリトとアスナは二刀流と神速が消えてなかった事に安堵する。

 

「あ、ユニークスキルの一覧でしたらパパの権限でも見れますよ」

「お、そうなのか」

 

 試しに左手でシステムウインドウを開くと数ある項目の中からユニークスキル一覧を発見したので開く。

 すると神聖剣、二刀流、神速という見覚えのあるスキルが載っており、文字が薄くなっていた。他のスキルについては文字が濃いので、薄くなっているのがプレイヤーの取得したスキルという事になるのだろう。

 

「えっと、まだ取得されてないのは暗黒剣と射撃、無限槍、抜刀術、手裏剣術…あれ、これだけ?」

「全部で10、ある筈…無いの、は…エラーで、失われた、可能性……ある」

 

 という事は10ある内の2つが失われたという事だ。最も、取得方法が不明なので、だからどうしたという話なのだが。

 

「しっかし、こうして見るとユニークスキルも色々とあるんだな」

「だねー、抜刀術とか明らかに刀用のスキルだよ」

「クラインとかに似合いそうだな」

 

 実力的にもクラインなんかは合うかもしれないが、取得出来るかは運もあるので、期待はしない方が良い。

 

「それにしても、エラーの影響が少なくて良かったね」

「はい、未来の茅場晶彦が防がなければ最悪は全員の死、そこまでいかなくても、もっと致命的なエラーが出てたかもしれません」

 

 取得スキルの初期化など、起き得ただろうエラーを例に出したユイに、キリトとアスナは改めて消滅した未来の茅場晶彦に感謝するのだった。




次回から76層以降、つまりはインフィニティ・モーメントの話を織り交ぜながら進めて行きます。

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