昔から変なものをよく見た。それは「
まあ、昔からちょくちょくちょっかいをかけられるだけだし、大して気にしてもいなかった。
でもさ……
「これはないって思うんだ」
『ん、坊主 どうした?』
少し低めの玄関の門の柱の上で目の前で二股に尻尾の別れた翡翠色の目の猫が笑った。
その先にはちょっと嫌な雰囲気のある赤煉瓦の館がある。蔦も結構へばりついていてこう、風情? おもむき? があるね。
呆然としていたら猫がまた話しかけてきた。
『坊主、何でんなところに突っ立ってんだ? まあ、聞こえねーだろうがな』
「いや、聞こえてるよ。悪いんだけど、ここが『常葉荘』であってるのかな?」
ここは一応母方の祖父が経営しているアパートみたいな物のはずなのだ。僕が高校に入ったので一人暮らしを始めたいと言ったところ、あることを条件にこのアパートにタダで住まわせてもらえることになった。
僕の言ったことを聞いて猫が少しだけ納得したような表情をした。
『なんだ。爺の孫か、おーい 誰か?』
猫が扉のほうへと声をかける。すると、扉がいきなり開いた。
「?!」
驚く間なんてなくて、人間の形をしたもの、動物の形をしたもの、なんだかよくわからないのまで様々な種類の奴らが寄ってくる。
「へぇ、この子が彼の孫なのね」
「ふんっ、またずいぶんと頭の中身がなさそうなガキだな」
『……まあ、そこそこ見どころはありそうだな』
『なんて素敵なイケメン魂、これはあの方よりも素敵な方かもしれませんね!』
「おにいちゃんは遊んでくれる?」
「だめだめ。お兄ちゃんはまだ、来たばっかりだもの」
口々にいろいろと言われてわけが分からなくなっていると、猫が大声で怒鳴った。その体躯から出てくるとは思えないほど大きな声だ。
『うるせーんだよ。さっさとこの坊主を中に入れろ!』
「やれ、口うるさい猫又だね。わかったよ、少年 こっちへ来な」
白い着物を着た色白の女性が僕の腕を引っ張って、館の中へと案内する。こうして、僕の常葉荘での生活が始まることとなったのだ。
☆
そのあと、僕は広いエントランスホールへと出た。シャンデリアとか僕、初めて見たよ。
僕を引っ張ってきてくれた女性がぱっと僕の腕を放して振り返る。
「さて、みんな自己紹介と行こうじゃないか」
そういうと、そこにさっき寄ってきていた面々がずらっと勢ぞろいしていた。いつの間に移動しているの?
「じゃあ、一番手はわたしからね」
茜色の着物を着た髪の長い女の人が前へと進み出た。おお、結構美人だ。
「わたしは
「あ、はい どうも」
差し出された手を握り返す。するとちょっと周囲からざわめき声がした。何で?
「ほう、中々度胸があるガキだな。いや、愚鈍なだけか」
「作家! まったく、こいつがごめんな。さっさと自己紹介しな」
「ふん、紹介にあずかった作家だ。もう死んでかなりたっているものでな、名前は忘れた」
そう言うと青色の髪をしたスーツ姿の男の人は不機嫌そうに鼻を鳴らす。これはあんまり関わっちゃまずいかな? てか、この人幽霊なんだ。
「「おにいちゃん、こんにちは」」
不意にそばから声がした。声がしたほうを見てみれば、白と黒のフリルのドレスを着たそっくりな女の子が二人いた。僕が気が付いたことに気が付いたらしく、二人は笑う。
「わたしはありす」
「あたしもアリス」
「「よろしくね」」
見事な息の合いっぷりだ。でも、それがどこか人形を思わせるような気がした。そんなことを考えていると、背後に誰かが立つ気配がした。ばっと振り向くと、そこにはとりあえず普通っぽい男の人がいた。
『……俺は響谷、よろしく』
「あ、はい ごていねいにありがとう」
おじぎをされたのでおじぎで返す。その時に彼の足が妙に鳥っぽかったのは気のせいだと思いたい。てか、正直気のせいであってほしいんだけど?!
地味にパニックになりかかっていると、青を基調とした服装の女の人がこちらへとやってきた。
『
これは丁寧そうで普通そうな人が来た。そう思ったのもつかの間
『まあ、そんな御託なんぞどうでもいいのです! 素敵な殿方、あなたのお名前をお聞かせくださいな』
違った。この人たぶん、この中で一番のはっちゃけぶりだ。それから狐の耳としっぽらしきものが見えているのも気のせいだと思いたい。
「え、えっと その前にあなたとあの猫の名前聞いてない気が」
うん、僕のことをこの中に案内してくれた白い着物の人とあの猫の名前を聞いていない。
「ふむ、まあそっちが先だね。あたしは
ユキさんがそう説明しようとするとそこへ猫が現れた。煙がすっとあらわれるみたいだ。
『あほんだら、自己紹介くらい自分でするさ。俺は明火、見ての通り猫又だ』
「そっか、ユキさん 明火 よろしくお願いします」
僕へと視線が集まっているのを感じる。うん、ここは失敗しないようにしないとね。
「えと、本日からここでお世話になる、明久です。気軽にアキとでも呼んでください、よろしくお願いします」
ばっ、と頭を下げた。一瞬だけ部屋の中が全部静まった気がする。でも、それも一瞬だけで終わった。今までいたらしき他の『何か』も加わって拍手が起こった。拍手に耳がつぶれそうになるけど、歓迎の声だけは聞こえた。
「ああ、よろしくな」
「よろしくね」
『ふん、それなりに自己紹介はできるか』
『お名前も素敵です!』
『……よろしく』
「ほう」
「「よろしくね。アキお兄ちゃん!」」
夏目っぽいのが書きたかった……のはず。
全然雰囲気出てないけど、ちなみに妖のモデルは某例外処理の従者さん達+α、まあ普通にわかるだろうけど。