IS/勇者王ガオガイガー─白き翼の戦士と勇気ある者― 作:オウガ・Ω
中国奥地、数ある霊峰の中で最も天に近く数多の星が落ちたような轟音が響き、水飛沫が幾多の虹を生む巨大な滝が流れ落ちるココは《五老峰》
凄まじい勢いで落ちる《廬山の大滝》を前に立つ少年、して編み笠を被る小さな老人が座していた
「疾風よ、わかるかの?眼前にある廬山の大滝を……」
「………」
「………この五老峰で学んだことを忘れた訳では無かろう……」
「老師…わかりません」
「傷が癒えたとはいえ、光が閉ざされた…自身に残された四感を極限までに研ぎ澄ますのだ……」
編み笠を被る小さな老人…老師に諭された少年…疾風は閉ざされた視覚以外の四感を極限までに研ぎ澄ました…光なき世界に身を置く
ただ感じるのは廬山の大瀧の音、そして大地に立つ感覚、水と緑の匂いを強く感じ取った
一週間前、疾風はラウラ、鈴と共に五老峰へ治療のため、そして師である老師へ再び指導を受けるために戻ってきていた。そして廬山の大瀧の前へ二人に寄り添われ立つと呼びかけた
『老師、竜崎疾風です。どうかお姿をおみせください!ろ…』
『ふぉふぉ、そう声を大きくせんとも聞こえておるぞ、久しぶりじゃの疾風よ。知らぬ間に可憐な花を二輪とはすみにおけぬのお。ほっほっほっ』
ふわりと、笑みをむけ杖をつき歩く老師…この地上で神《冥王ハーデス》を討つ為に女神《アテナ》を護る十二人の黄金聖闘士として戦った一人。天秤座《ライブラ》の童虎が降り立つ。二輪の可憐な花といわれ慌てはじめた
『ろ、老師、ラウラと鈴は…そ、そんな……それよりお久しぶりです……あ、あの老師?』
『して、疾風よ。その目はどうしたのだ?』
『そ、それは……』
『あ、あなたが老師様なのか?お願いだ!私の嫁を助けてくれ!!』
『ちょ、ラウラ、老師様に失礼よ。廬山の老師さま、疾風を、私たちの疾風を助けて…お願いします!!…』
『……ふむ、二人とも話を聞かせてくれるかの?』
疾風を庇うように膝をつき頭を下げるラウラ、鈴のただならぬ雰囲気に童虎は二人から話を聞いた。そして目を閉じた
(………まさかゴルゴン三姉妹の一人と戦い、二人と銀髪の乙女の友を救うために目を……疾風よ。お前はココまで我が弟子《紫龍》と同じ行いを。友、そして義の為に戦う……哀しくもあり喜ばしいことであるが)
かつて、己の全てを教え伝え…友の為、女神アテナの為に戦い自ら傷つく事を厭わない。義を重んじる不器用な弟子《紫龍》と重ね涙した
何よりも疾風を案じ、この霊峰《五老峰》まで来た二輪の花…ラウラ、鈴に紫龍の無事を想い待ち続けた春麗と
しかし、童虎はわかってしまう
たとえ光無くとも、疾風は友の為、未来の為に戦いの場へと戻る事を
その為に、光に頼らない力を手にするためにココへ戻って来たと。そして今に至る
(疾風よ…お前は紫龍に似ておる…。なぜこうも似てしまったのじゃ、背にある双龍がそうさせるのかのう…神代の時代にいた天秤座の黄金聖闘士と同じ双龍の証を)
《背に二つ龍を持つ者、真の要となる者なり。星を砕く武具を正しき事に用い、邪悪なる神の望みをも断つ》
神代の時代…聖衣生まれし大陸《アトランティス》で、邪悪な力に吞まれた《巨大な亀の守護神》を生まれたばかりの黄金聖衣を纏い《神鳴る力》で殴り殺した《神殺しの靁獅子》と共に当代の女神アテナに付き従った天秤座の黄金聖闘士の背には猛り狂う《双龍》の証があったと伝えられ以降、歴代天秤座の黄金聖闘士は背に猛々しく、時に優雅な証を持つ者が歴任していた
童虎は前任の天秤座から聞かされていたのを思い出しながら疾風から目を離し、別方向を見ると岩陰から銀髪とツインテールが見え隠れしている
『ラウラ。もう少し詰めなさいよ。老師様にバレるでしょ!?』
『む?そちらこそ詰めろ……それよりアレが日本で言うゼンというものなのか…』
『全然違うから!ったくどこでそんな変なのしったの?』
『クラリッサからだ。さすがは我が部隊一のヤーパン通だ、いろいろと為になる。あの滝の前では身体が冷えてしまう。今宵はテルマエで夫として私の肌で暖めてやらねばならんな』
『な、な、な、なにいってんのよ!!って言うかは、は、は、は、肌でって。う、うらやま……あんたはいろいろすっ飛ばしすぎよ!!あ、あたしだって疾風と…その…でも最初は痛いし…きれいな夜景の見える場所なら』
『ふむ、それもいいな。しかしヤーパンには人気の無い公園や、フェスタの日に神殿の裏や中で二人っきりで契るといいと……』
『だ・か・ら!アンタは部下の言葉を真に受けないの!!……それに、いまは』
『……ああ、少し冗談が過ぎたようだ……鈴』
『わかったんならいいわよ……疾風、大丈夫かな』
『……Dr.ヘルガは限りなく0といっていた…でも決めただろう?』
『……もし、光りが戻らなくても。私は……いいえ私たちは』
『『疾風を護る。そして帰る場所になるんだから』』
轟音と共に流れ落ちる廬山の大瀑布の中の前に立つ疾風の耳に、ラウラと鈴が口にした言葉は聞こえない。しかし天秤座、ライブラの童虎《ドウコ》の耳にハッキリと聞こえ、編み笠と深い皺、髭でわからないが笑みを浮かべる
(……………疾風を護り、帰る場所になるか……ラウラ、鈴…ワシがこうして顕界していられるのも、コレが最後なのかも知れぬ。もしもの時は疾風を頼むぞ……)
そう、二人に願ったその時だった。強烈で闇よりも深い悪意、この世界に満ちる闇と同じ存在を童虎は感じた時。大瀑布が生み出した激しい流れが削り抜いた水底に置かれた黄金の箱、《天秤座の黄金聖衣櫃》が震えだし光りが溢れ、天秤座の黄金聖衣が姿をあらわすと同時に分解、剣、坤、槍、円盾、トンファー、三節坤が水底にふわりと浮き、先の悪意に警戒するかのように円陣を取り様々な方向へ切っ先を向け動いた
(…ワシの聖衣が反応した?…また来たのか?………)
邪悪な気配を数ヶ月で何度も感じていた童虎…だがこの仮初めの躰では黄金聖衣を身に纏うことすら出来ないのだ。歯がゆさを感じるも今は疾風に指導をつけるしかないのだ
「はあ、はあ……」
「疾風よ、闇の中にて光射さぬ世界で頼りになるは何かの?五老峰で学んだことを思いだせ……」
「はい、老師」
GGGの仲間たち…友の元へ戻るために老師にうなずき修業に集中する疾風…轟々と流れ落ちる廬山の大瀑布の轟音を見に受ける姿を鈴、ラウラは岩陰から見守るしかない
双龍は再び天翔る日は果たして…
閑話 光なき双龍、その手をとる乙女
了