IS/勇者王ガオガイガー─白き翼の戦士と勇気ある者―   作:オウガ・Ω

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バイオネットによるアフリカでのプラネットエナジー解放点開放をGGG、獅童燐、不動統夜達の手で阻止して半日


国連総会《地球防衛会議》に出席していた大河長官は超音速ジェットに乗り、ある人物と通信を繋いでいた

「サンジェルマン伯爵、今回のアフリカでの件で色々と力添えをしていただき感謝します」


やや薄い紫の髪に端整な顔立ち。やや憂いに満ちた瞳を持つ青年…GGG最大の理解者にして世界の三分の一の富を有するサンジェルマン・ファウンデーションCEO《サンジェルマン伯爵》は軽く瞳を閉じ顔を横に振った



『かまわないさ、それよりロゼ事務総長が狙われたとショウヨウから聞いた…やはりアフリカでの件には内と外側からGGGを快く思わない悪意を感じた』


「……やはり国連総会および《地球防衛会議》メンバーに内通するモノがいると?私は」


『信じたくはないかも知れないが可能性は高い。ショウヨウ達は引き続き、ロゼ事務総長と有識者達の護衛につとめさせるようにする。詳しい話は私の城で話し合おう。あと例の件も含めてだが』


「……例の件、もしかして燐にあの話を?」


『そうだ。正式に燐をGGG機動IS部隊隊長への就任を打診しようと考えている…今までの実績を鑑みれば反対するモノはいないだろう』



「伯爵、燐はおそらく隊長就任を断る可能性があります………以前聞いたことがあります。『自分より隊長に相応しい人物は彼しかいない』と……」

大河長官の口から出た『彼しかいない』の言葉にサンジェルマン伯爵はある人物の事が浮かんだ…三十数年前に地球を救った彼等を率いた中心人物を

『……………オーリンの意思が生み出した勇者を率いた《隊長》か………だが拒む理由はそれだけでは無いはずだ』


「はい、六年前バイオネットに囚われ、マインドコントロールされた時の事が……」


『………………大河、いや君たちID5に救出されるまでの空白の二年間か…』


互いに言葉が途絶え、機体を震わす微かな音だけが響く…バイオネットに囚われ改造された燐。彼が救出されるまでに起きた空白の二年間に何が起きたのか?


それがあかされる日はまだ先か、それとも…



そして、燐が隊長を望む三十数年前、地球を救った勇者達の《隊長》とは?





第二十一話(裏) 嘲うモノ達

某所…薄暗い闇が広がる場に無数の魔方陣にも似た円環が輝き、中心から現れたのは一つの影

 

 

漆黒のマントに軍服にも似た豪奢なスーツ、青みがかった髪、そして顔に機械的なアイマスクを付けた青年。ゆっくりと歩き置かれていた玉座へと身を預けるように座ると、赤、紫、緑、黄色の輝く魔方陣四つ展開した

 

 

「ハアハアハアハアハアハア、おおぉ牙儖様……御帰還なされましたか」

 

 

「マイロード牙儖、馳せ参りました!で、あ~~~る!ヤアアア!!」

 

 

 

「ふへヒャハハ~、ギムレットここにおりま~す」

 

 

「ウェスト、ギムレット少し静かにしろ……牙儖様の眼前だ」

 

 

 

ハアハア息しながら肥満体の肩を揺らし膝をつくに白衣姿の中年男性《フリール・ルコック》、エレキギターをかき鳴らしクワッと目を見開くハイテンションな口調で話す《ドクター・ウェスト》、ピエロマスクを付け笑い声を上げるギムレット、白衣にスーツ姿の《リュウノスケ・ゾンダー》博士を前にゆっくりと足を組むは、全世界的規模の闇の科学を信奉しあり倫理観を無視、第三国に様々な兵器を売りつけ戦争幇助を行い莫大な利益を上げるバイオネット総帥、沙華堂牙儖は静かに顔を上げみまわした

 

 

第二十一話(裏) 嘲う者達

 

 

 

「…………フリール、あのババアがなぜ生きている?迅雷を12機送り込むよう命じたはずだが?どういうわけだ?散々根回しして抱き混んだ議員に払った金がムダになったんだがな?ギムレット、オマエには以前に我がバイオネットの障害となる忌々しい《屑転生者》ジークとヒューギの捜索を任せていたな。死んだと報告したよな?」

 

 

 

「ふひ?総帥、わ、私は確か~に二人の死亡を確認を………」

 

 

「お、おかしいですね~確かにフランスで死亡したと報告を…」

 

 

 

「……じゃあロゼのババアもジークもなんで生きてんだよおお!!おまえらは何をしてんだゴラアアア!!」

 

 

激高し声を震わせ、手のひらを開いたのをみて恐れの色をみせた。光の螺線が浮かんだ瞬間にフリール・ルコック、ギムレットの身体がふわりと浮かんだ瞬間、ぞうきんを絞り上げるようにねじ曲げられた

 

 

 

「ひ、びきがゅがあ!?や、やめ牙儖ざまあああ!?」

 

 

 

「ふひゃあああああああ!?ひひゃあかがあ!?」

 

 

 

 

骨が砕け叫び声が木霊し、肉塊同然となった二人から夥しい量の血がしたたり落ち床に水だまりのよう広がっていく光景に、リュウノスケ・ゾンダー、ドクターウェストは肝を冷やした

 

 

牙儖が二人の身体をねじ曲げ絞り上げる技…対象の周囲空間を文字通り圧搾、死に至らしめる《スパイラル・ブラスト》。ある世界にいた転生者が持っていた特典《強植装甲ガイバーに登場する超獣神将アルカンフェルの力》を奪い取ったモノを行使されれば構成員、上級幹部

であり《……》化した四人でも、ひとたまり無いのだから

 

 

十分過ぎようとした時、虫の居所が悪かった牙儖はようやく気を落ちついたのか、ゆっくりと手を閉じる。糸が切れたかのように床へ肉塊同然と化した二人が嫌な水音と共に落ちた

 

「……フリール、再生次第フランスへ迎え、ゾアティックウェポンの量産体制を整えるようアルベールに指示しろ……いいな」

 

 

「あ、あ、わ、わがりまじだ……が、牙儖ざまああ……ふひ…ハア、ハア……ウッ!?」

 

 

「ギムレット、貴様は《CROSS GATEーHeliosー》を使い、この世界にむかえ。面白い兵器を使ってるヤツ、雨生竜之介を《認識》したからな。クヒヒ、ゾンダーメタルも200程ばらまいとけ…いいな?」

 

 

 

「り、りょ、りょかいデスウ……キヒヒャハヒバビロン……アヒャハハフヒハア」

 

 

肉塊から血を吹き出しながら再生し答える二人?から目を離し、頭を下げ膝をつくリュウノスケ博士、ドクターウェストへ顔を向け肘をついた

 

 

 

「(ち、喜ばせただけか。)ウェスト、迅雷…ゲシュペンストシリーズのマテリアル生成は何処まで進んでいる?」

 

 

 

「マイロード牙儖さま!現在、マテリアルは成長次第、順次に摘出搭載可能なスケジュールであ~りま~す!我がバイオネットが誇る遺伝子操作技術で人為的に《サヴァン症候群児》を生み出し、ゾンダーメタルと有機的結合した制御ユニットとして使うとは、さすがは牙儖さまで~す!!」

 

歓喜するウェストに口角をつり上げる牙儖。迅雷シリーズ、先のガオーマシン強奪事件で使用されたガイゴーの制御ユニットとして組み込まれた獅童燐の父、獅童ライのデータを基に、人為的に生み出された《天才症候群の幼生体《E》シリーズ(13前後まで成長させた)》から脳髄から末端神経まで摘出、ゾンダーメタルを合わせ組み込んだ狂気の生体融合IS

 

 

 

 

 

《CROSS GATEーHeliosー》を使い、戯れに眺めていた世界でフェストゥムと戦う機動兵器《ファフナー》、そのパイロット達の出自を知り有効に使えると判断、数あるバイオネット・プロジェクト《G》で確立した《Eシリーズ》の研究成果を下地に生まれた。すでにGTへ数体が試供品として納めらる予定のモノのデータに狂気の眼差しを向ける牙儖…しかしある一覧に目を止めた

 

天才症候児、ゾンダーメタル適正の低い数人の幼生体と以前にモジュール01で奪い取ったISコアを用いた特殊戦術機動/広域殲滅/強襲型ISシリーズ《アストラナガン、雀武王、ディス・アストラナガン、SRX、エグゼクスバイン、龍虎王、デモンベイン》への高い適合係数に興をひかれるも、最期に表示された幼生体の詳細に目を落とし、ゆっくりとドクターウェストへ視線を向けた

 

 

「ウェスト……コレは何だ?」

 

 

「牙儖様、何かとは……こ、コレは…」

 

 

 

「…………なぜコイツらを作った?」

 

 

「牙儖様、コレはクエルボ博士の管轄でして……」

 

 

「クエルボ・セロ………たしか、《元》世界十大頭脳の一人でプロジェクト・O主任、そしてオマエの配下だったな?」

 

 

「い、イエスであります」

 

 

静かな口調から滲み出る威圧感に膝をつきながら頭を下げるドクターウェストの耳に信じられない言葉がかけられた

 

 

「………クエルボ・セロ、ヤツをプロジェクト・Oから外し、適合体を共々処分しろ」

 

 

 

「が、伽藍さま?ドクタークエルボは、Eシリーズの生み…」

 

 

「……適合体に使われたのは、バイオネットに逆らう失敗作共のDNAだ。ふざけたことに容姿まで同じだと?あ?冗談にも程があるのかわからないか?Eシリーズの生みの親だとしても度をこえてんのがわかんねえか!?なあ、ドクターウェスト。ヤツをスカウトしてきた貴様には責任をとる義務が生まれた。すぐに処分しろ、出来損ない共々な?」

 

 

「イ、イエスであります!!」

 

 

 

肘をつき鋭い眼差しから感じる威圧感にうなずき、ウエストが姿を周りに溶けるように消え、その場には膝をつくリュウノスケ・ゾンダーのみとなった

 

 

「…リュウノスケ・ゾンダー、ゾンダーISコア、してZXシリーズの状況はどうなってる?」

 

 

「ゾンダーISコアは順調に生産は進んでいる。各世界へ売り込める量まであと僅かだ。ただZXシリーズは我々を含めて五しか出来上がってないのが現状だな」

 

 

 

「心臓、肝臓、腸、目、腕だけか………スケジュールが遅れている…アフリカの解放点を利用して製造しようとした計画を、忌々しいGGGと出来損ないの失敗作共、不動統夜が邪魔してくれたせいか………やってくれたなまがい物《不動統夜》が来なければ」

 

 

「ZXシリーズは31全て完成にこぎつけ、GGGの戦力を叩き潰し、世界に我々バイオネットの力を示す作戦も失敗には終わらなかった…」

 

 

 

「ああ、そうだな…だが、剣を交えてわかった。不動統夜は見返りと、益が無ければ動かない、正義という下らない感情で動く事をしない自己中心的なヤツだと言う確証を得た。エルザからの調査からも敵も多く作っているようだからな……わざわざ敵を作るような発言と対応しか出来ない器の小ささが手に取るようにわかった……よく社長など出来るモノだ。旋風寺舞人よりも劣るな」

 

 

「牙儖様、つぎはどのようにしますか?」

 

 

 

「次の作戦はフリール、ギムレット、ウェストが戻りしだい伝える。オマエは引き続きZXシリーズの完成を急がせろ……いいな?」

 

 

「もちろん、全てはバイオネットのために」

 

 

 

かしづき白衣を翻し消え去るリュウノスケ・ゾンダー博士。一人残された牙儖は仮面の奥の瞳を細め、誰もいないはずの場所へと顔を向けた

 

 

「………いい加減出てきたらどうだ?退屈だろう?」

 

 

軽く殺気を込めた声に答えるようにパチパチパチと、両手を叩きながらスーツに身を包んだ、街ゆく人の十人が十人とも振り返るほどの美貌をもつ女性が柔らかな笑みを向け歩いてきた

 

普通の人間ならば死ぬ程の牙儖が放つ殺気を、気にしたそぶりすら見せない…異質な女が玉座の前で止まった

 

「あぁ、すまない。私の知り合いがこの世界に《来訪》されたのでね。引き取ろうと思ってきたのだよ」

 

「……オマエ、ここに来るのは簡単じゃねえはずだが?」

 

「私は少々特殊でね。これほどまでに《心地が良い場所》なら大歓迎だ。それと、私の名前は《ドライアス》だ。以後、君とは仲良くなりたいと思っているよ、釈迦堂牙儖」

 

ドライアスと名乗った女の影、いや背後に不気味な化物のような幻影を見て、《今の自分》では勝てないと判断し玉座の前に立つ女《ドライアス》を見据えた

 

「あの出来損ないの世界の出身って訳だな。わざわざ助けにでも来たのかドライアス?」

 

「…ふふ、正確にはあの子を元の世界に戻す為の手助けと言ったところだ。彼がいなければ、私は面白みが無いからね」

 

フフッと笑っているドライアスの言葉の意味が分からない。彼にとってまがい物《不動統夜》ににそこまで肩入れするのかが分からなかった

 

しかし、ドライアスは牙儖とは違う方法で、世界に《絶望》を撒き散らすために行動を起こし、そしてここに現れたのだと気づいた

 

僅に逡巡する牙儖、思考を分割しながらドライアスの提案も面白そうだと思いながら、ある答えにたどり着いた

 

 

(ドライアス……たしかファイバードが倒した宇宙皇帝ドライアスか……居心地がいい空間、人間の姿をしている事からマイナスエネルギーを蓄えるためにこの姿をとっているのかもな………なあ聞こえてるよな、火鳥勇太郎?オマエにとって懐かしい顔がここに居るぞ?)

 

 

(ド、ドライアス!たしかにあのとき、倒したハズだ)

 

 

(生憎、生きていたようだな?まあ、お前の倒したドライアスとは同一かはわからないがな………どうだ?今のお前をみたらどう思うだろうな?ファイバードさんよ?カイザーズ、バロン、ガーディオンを冥界に幽閉されてオレのISになった姿をな?)

 

 

(く、この悪党があああ)

 

太陽に翼のエンブレムの待機形態から苦悶に満ちた声を心地よく耳にしながら思考を再統一、笑みをうかべるドライアスを見る

 

(……飛んで火に入る夏の虫と言いたいが、今は剥奪は無理か……逆にオレが喰われてしまうのが目に見えてんな…)

 

 

力をヘリオスに封印され十分の一しか出せない牙儖では逆に返り討ちに遭いかねないとわかる。しかし本来の力を取り戻すためのカギ《冥王》は出来上がるまでは時がかかる。剥奪を仕掛ければ逆に喰われてしまう事を本能的に察した

 

 

「……ドライアス、あのまがい物が居なければ面白味が無いって言ったな?ならば、オレも色を加えるのを手助けしてやろうか?」

 

(ドライアス、お前の力はオレ様が本来の力が取り戻すまで…それまでは利用してやる、その時がきたら)

 

 

 

「それはありがたい。早速君の色も貰おう」

 

即決で、しかも一切迷う素振りすら見せずに、ドライアスは牙儖の言った案件を採用した事に、唖然となった

 

半世紀以上前、牙儖生み出した《バイオネット》が保有する技術は、この世界にとって完全な異端技術ばかりだ。

 

転生する前から持っていた知識もだが、転生後に得た特典に加え、1000年前に二人の転生者、ヘリオス・オリンパスの手で宇宙を観測できる地点《ボイド》に飛ばされ、長い年月を掛け地球に帰るまでに無数の惑星、善悪問わず《宇宙警察機構》を含めた組織を滅ぼし、技術や資源を全て強奪し半世紀前にようやく帰ってきた、以降も次元へ侵攻しなかば実験場的に新兵器開発運用し、滅ぼしては、存在する超技術や資源を搾取してきた。

 

その牙儖が、目の前で笑みを向けり、ドライアスに対し、別の意味で恐怖の念を抱くのも仕方ないのだろう。ソレを察したのか目を細めた

 

「ふむ。私が怖いのかね?それもいい感情だ。では私という存在を君に教えよう。そのほうが君も楽だろう」

 

そして悟った。眼前にドライアスはファイバードの敵《宇宙皇帝ドライアス》ではなく、別の次元に存在する《大暗黒邪神ドライアス》闇の力を愛する邪神だと言うことに。しかし、その世界の勇者達との戦いで敗れ《出来損ない》の世界、それも500年近く昔に来てしまったと

 

そこから、こいつが仕切っている組織である《GT》という教主を務める一方、完全復活、前以上の存在になるために暗躍している

 

 

語られた事実に牙儖、火鳥も唖然としながら、ドライアスの背に浮かんだ異形の姿を幻視した理由と、何故不動統夜へ肩入れするのか、牙儖の提案に迷わず即答したかも分かってしまった

 

 

だからこそなのだろう

 

 

これほどまでに面白く、自分以上に狂っているとも言える存在と対話し、出来損ないだと思っていた世界にいる事実は、歓喜するしかなかった。

 

 

「クク・・・アヒャハハハハハハハハハハ、アハハハハハハ」

 

 

口角をつり上げ狂気を全身から吹き出させながら玉座から立ち、牙儖は大きな声を出して笑った。半世紀前、、いや、1000年前、この世界で転生してから、初めてかも知れない《歓喜》とも言える産声

 

その狂気がドライアスも心地よいのか、笑みを浮かべている

 

 

 

(沙華堂牙儖、私を利用する腹積もりかも知れないが、そう上手くいくかな…此方の思惑に踊らされている事に気づいてないとはね。いずれ私が完全復活したら…)

 

 

((お前を喰ってやる/力を奪ってやる))

 

 

思惑を笑顔の下に隠し、笑みを向ける二つの巨悪、バイオネット総帥沙華堂牙儖、GT教主にして邪神ドライアスは手を結んだ…互いの真意を隠したまま、牙儖とドライアスという二つの悪の会合は終った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

牙儖との話が終った後、ドライアスはこのバイオネットのいる世界を見ていた。自らを見て振り向く男女の視線や、それに伴う負の感情の味を楽しみながら・・・

 

「(この世界は牙儖(かれ))と彼の組織である《バイオネット》のおかげか、とても気持ちがいい。だがしかし、私の好みでは無い者と手を組むというのも、いい加減に飽きたものだな)」

 

ドライアスにとって、バイオネットの総帥たる沙華堂牙儖という存在は、自分という存在を完全復活させるにはいい存在であるのだが、それ以外では手を組みたいとも思わない相手だ。例え完全復活のためといえど、面倒な仮面を被っての役は面倒だと思っていた。

 

 

ドライアスにとって、人間が気にしている自身や他人の美醜や、遺伝子の優劣、男女の差、体力・知力・運動能力といった面は何の意味も無いことを知っているのだ。

ドライアス自身、今自分がいるあの世界で500年も生き、元の世界でも数千年単位で生き続けてきた。

 

 

だからこそなのだ。

 

 

ドライアスは今いる世界で何度も《生》と《死》を体験し、そのなかで《人間の持っている可能性》を面白く感じていた。

 

何故《大暗黒邪神》とも言われた自分が、自分以外の神々から力を授かって、この世で最も弱く、儚く、時には自分以上に下劣な存在《人間》に負けてしまったのかを知りたかった。

 

500年といえる長き時間で、さまざまな人間達に出会ったドライアスは、何故自分が負けてしまったかという点に関しては分かってきた

 

それは神々が力を与えたからでも、自分という存在が弱かったからでも無い

 

 

人間は《諦めなかった》だけなのだ。決して最後の最後まで、諦めなかったのだ。

 

 

たったそれだけだった。《たった》という言葉にすれば陳腐かもしれないが、人間という存在は未来を、明日というものを自らの手にし勝ち取ってきたのだ。

 

だからこそ、ドライアスは別の意味で人間を観察する事を楽しむ過程で《転生者》なる他の世界に存在する神々の玩具にも出会った

 

そして、ドライアスが今注目しているのが、牙儖がまがい物と言う、《不動統夜》なのだ。

 

(牙儖(あれ)は彼を経営者としても無能扱いしていたが、彼は彼なりの方法で会社を運営している。無論敵も多いが、それ以上に味方も多い。彼の資料を少し勝手に改竄してやっただけであの評価。バイオネットの総帥とはいえ、別世界の方面を調べるのは少し下手なようだな)

 

牙儖が持っていた統夜の資料に関しては、一部はドライアスがGTの力で捻じ曲げていたものなのだ。

ドライアスにとって、転生者と呼ばれる存在を知った後、転生者が持っている知識や特典と呼ばれる別世界の能力は面白いものが多く、上手くいけば自分を完全復活させるための期間を短く出来る存在でもあったのだ。

 

 

実際、統夜の会社運営は下手かもしれないが、彼自身が《本気》で倒産に追い込んだ会社はあのデュノア社を除けば存在していない。

 

 

デュノア社の運営に関してはGTとしてもサタンの栽培以外はどうでもよかった会社だったので、統夜が介入しなくても、何時かは倒産するのは目に見えていた会社だったのだ。

 

統夜はできるだけリストラ等の人員カットは行なっておらず、どんなに小さなネジのような部品でも扱っている会社に対しても、できるだけ融資等ができるように対応している。

 

 

無論相手に発破をかけるために自分から敵をつくるような真似をしているし、会社を無理矢理乗っ取るようなやり方もしているが、相手の会社にいる家族や従業員を考え、下の組織扱いでできるだけ守ろうとしている。

 

言い方を変えれば、彼は利益を優先する面もあるのだが、逆に損を出しても救いたいと思った存在は救おうとする存在なのだ。そのやり方は卑怯かもしれないが、彼はそれすらも自身の《罪》として被っている。

 

だからこそ、彼には敵も多いものの、敵から味方になる者も多い。やり方は甘ちゃんだが、牙儖のように『恐怖』や『死』で忠誠を誓わせ、縛ってはいない

 

 

統夜は損をするが、それでも助けてくれる存在もいる。牙儖にはそれが無いために、牙儖の手腕が幼稚としか言いようが無いのだ。

 

 

この身体の元持ち主である東堂雫(とうどうしずく)も、ただのレズ好きのヤンデレ存在で、喰われたという事以外を除けば、《男に穢された》という絶望でそれなりに得たが、それ以外は『転生先であった』だけの存在だった。

特典もそれなりに今まで以上の面倒がおきなくなるだけで、それ以外を除けば役に立つ部分など無かった。

 

 

織斑春樹というのがそれなりに使える駒だというのがわかったので、そのうちに利用するだけ利用して正式に自分の身体にすれば、完全復活は遂げれるが、それでは面白くないのだ。

 

 

まぁこれから楽しみにしようとドライアスは楽しむことにした。自身の持っている《悪》としての最高の舞台を夢見て・・・

 

 

 

バイオネットが暗躍する世界に広がりつつある絶望を味わい人混みの中へと消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十一話(裏) 嘲うモノ達

 

 

 

 


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