IS/勇者王ガオガイガー─白き翼の戦士と勇気ある者―   作:オウガ・Ω

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「…アテナ」


「どうしましたか黄金聖闘士、射手座サジタリアスの松陽」


「………黄道第十二宮守護者、ピスケスのアリシアが戦死しました……外なる神に憑依されたプレシアと自らの血を浴びせて相打ちに…」


「そんな……アリシア。貴女にはまだ生きててほしかったのに…」


「アテナ、もうこれで四人目だ…カプリコーンのシグナム、タウラスのヴィータ、ジェミニのユウタに続いて…乙女座《バルゴの霧也》が四年前にバイオネットとの戦いを終わった日に黄金聖衣と資格を返還しなければこんな事にはならなかった」


「ザフィーラ、霧也が返還したのは何か理由があるはずだ…」

「俺は霧也には何度か会いに行きサンクチュアリに戻るよう何度も言った…だが拒否された、四年前にナニがあったんだ?」


「わからない。ただ《罪なき人を傷つけた自分には黄金聖闘士、聖衣を纏う資格がない》としか聞いてないんです……理由を知る燐達がアスガルドから戻らない限りは」


聖戦が始まり2ヶ月。最強を誇る黄金聖闘士十二人のうち四人が戦死した。サンクチュアリにいる黄金聖闘士は僅か三人、白銀聖闘士《杯座》クラテリスのシャマル、青銅聖闘士は子馬座エクレウスのソラしかいない。アテナの結界により辛うじて侵攻を防いでいるが破られるのは時間の問題、連戦に次ぐ連戦に聖衣補修にユーノはジャミールとサンクチュアリを行き来し、アスガルドに現れた外なる神を倒す為に5人の黄金聖闘士を派遣していた

危機的状況の空気にアテナはゆっくりと黄金の杖《ニケ》を手にし光を生み出した

光はやがてアテナへ変わり現れた事に驚く三人をよそに黄金の杖ニケ、さらにアテナの神聖衣を纏わせた

「貴女に頼みがあります。四年前にナニが起きたかを調べてきてくれますか?」

「はい、今から四年前…バイオネットが存在していた時代ですね…わかりました。必ず調べてきます」

光に包まれアテナ神殿から四年前、バイオネットが暗躍していた時代へと跳ぶのを見送るアテナ。

「…霧也のことは私に任せてください…皆は早く躯を休めてください。戦いはまだ始まったばかり、燐達が戻るまでわたし達が人々を外なる神から必ず守りましょう」

四年前、霧也が黄金聖闘士、聖衣を返還した理由…この聖戦の行く末を決めるものとなるのかはまだわからない






第十八・五話 不協和音ー双龍の決断ー

「………触覚剥奪」

 

 

「うわあああ!?」

 

 

仏の世界《太蔵曼陀羅》が辺りを埋め尽くす中、静かに声が数珠を振るう音と共に響く…乙女座《バルゴ》のアスミタの後継者《犬神霧也》の天舞宝燐を受け五感の一つ《触覚》を奪われる統夜

 

 

「…私や疾風、凍也、弾……そして燐が受けた苦しみはこんなモノではありません……あなたの罪の大きさを」

 

「俺はお前の里や燐って奴に何も……俺がやった罪って!」

 

「これを見てまだいえますか…」

 

 

曼陀羅界の一部が切り替わり見えた光景に体を奮わした…今までがまるで映画のコマ割りフィルムが激流のように流れ溢れ出した。統夜しか知らない事を何故霧也が知っているのか?

 

その理由は一つ。犬神の里を滅ぼしたバイオネットの手により脳…正確に言うと霧也の持つ《読心》能力が原始脳に当たる部分にあることを突き止めた沙華堂牙儖、フリール・ルコックの手で開頭され打ち込まれた《特殊電極》によるさらなる能力強化により《リミビットチャンネル》が覚醒。他人の記憶、性格には世界中の生命体の記憶が常に流れ込む。対象者の記憶にチューニング、リーディングした結果だった

 

 

「……味覚剥奪」

 

 

「はぅ!ぁあああ…………!、!?」

 

数珠が再び振るわれた瞬間、舌にしびれにも似た何かを感じたのを最後に声がでなくなる…霧也は静かに口を開いた

 

「今、あなたに残されたのは三感、聴覚、視覚、嗅覚だけ。自らが犯した罪の重さを知らず生き、他者を不幸にし続けた……さあ自身の罪を残り三感を失う間に悔いなさい…」

 

 

「!!!!」

 

声も出せず身体の触覚、味覚を失った統夜の残された五感は三感のみ、このまま技を受ければ廃人になる。必死に打開策を模索するも浮かばないなか、無慈悲に数珠が振るわれたその時、太蔵曼陀羅界が砕け血と死臭が漂う世界《冥界》へと戻る、同時に統夜の剥奪された触覚、味覚が戻り膝をついた

 

 

「……天舞宝輪が破られた?」

 

攻防一体の乙女座バルゴの最大奥義《天舞宝輪》。破るには二つしかない。黄金聖闘士三人一体の女神アテナにより封印された禁断の闘法《アテナ・エクスクラメーション》か、もしくは《神》…前者はまずない、何故なら黄金聖闘士はこの場には自分しかいない。後者の可能性しかない

 

その時、巨大な小宇宙が遥彼方…先の未来から送られてくる光が冥界に集まり二人の前に降り霧也は無意識に膝をつき頭を垂れた

 

 

腰まで届くような美しい髪に優しい笑みを浮かべ右手に黄金の杖《ニケ》を持つ白いドレスを纏う女性を前に統夜は思わず声を漏らした

 

「た、束?」

 

『……不動統夜さん、残念ながら私はアナタの知る篠ノ之束ではありません…若き乙女座バルゴのアスミタの継承者。犬神霧也、あなたは彼になぜ天舞宝輪をかけるのです。彼の話に耳を傾けましたか?』

 

「ア、アテナ…彼は悪しき力を持って数多くの人々を苦しめ…」

 

『霧也。あなたの力ならば善か悪か解るはずです…彼の本質を見極めるのです……』

 

 

…柔らかな笑みを向け霧也に諭しながら束?から安らぎにも満ちた、すべてを包むような不思議な暖かさを伴った光が包むと麻痺していた感覚が回復していく再び統夜の頭に声が響く

 

『……今から四年後の未来から《ある事》を確かめに意識と小宇宙をとばしここまで来ました…』

 

 

『ある事?』

 

 

『…私の時代での聖戦を左右する黄金聖闘士、彼が聖衣を返還した理由を!?……不動統夜さん。少し事情が変わりました……早くこの冥界から現世へ霧也と共に戻りなさい』

 

 

『ま、まってくれ…か、母さ………』

 

黄金の杖《ニケ》から光が溢れ包まれ二人の姿が消えると、束は無限地獄で業火にやかれる女性に杖をかざす。炎が消え光に包まれ瞬く間に焼けただれた肌が治っていく、まだ目を覚まさない彼女に神秘の輝きを秘めた女神を模した《聖衣》、いや《神衣(カムイ)》を装着させた時、様々な記憶が流れ込んできた

 

『……あなたは自ら望んでこの冥界に来たわけでは………姿をみせたらどうですか?』

 

異様な空気に気づいた束の周りに黒い影が無数現れる…黄金の杖が光り輝き瞬く間に霧散していく中、どこからともなく声が響いた

 

 

ー篠ノ之束…いや女神アテナ。その魂を地上へ連れ帰させるわけにはいかない……我らが神《沙華堂牙儖》様に刃向かう縁者は未来永劫苦しませるのが我々の定めー

 

 

『……それはあなたがたの身勝手な理屈にすぎません。この方は十分に苦しんだ。死んでなおも無限地獄に止まらせ苦しみを与えるのは間違えています』

 

 

ー………ならば力尽くでもその魂を返させてもらおうかあああああ!!ー

 

無数の影が躍り出ると一つの形へなる。束…聖闘士たちが守護する女神アテナは黄金の杖《ニケ》をかざし防ぐと同時に統夜の母を不思議な光に包む

 

『……写し身である私ではあなたを本来の場所へ送ることができません。一時的に《Gクリスタル》に匿います……アテナの神衣(カムイ)、彼女をお願いします』

 

 

ー逃すかあああああ!!ー

 

怨念に満ちた叫びが冥界に響くと同時に光が溢れ、やがて消え去った頃には黒い影も女神アテナの姿はどこにもなかった

 

 

 

 

第十八・五話 不協和音ー双龍の決断ー

 

 

「これは一体どういうことかね。霧也君」

 

「……………」

 

深夜のGGGメインオーダールームに大河の声が響く。その視線の先にはGGG諜報部主任《犬神霧也》、そして異世界から次元跳躍しGGGに保護されている不動統夜。そして火麻参謀、獅童博士、研究開発部副主任ユーノ、機動IS部隊第二小隊隊長ラウラ、クラリッサ、竜崎疾風、凍也の姿。やはり家に泊めようと統夜と連絡するも繋がらない事に不安を覚えたに大河は娘たちをマドカに任せGGG本部宿舎内に向かい、割り当てた部屋に入りみたのは魂が抜けたように倒れた統夜、結跏趺坐した霧也。急ぎ医務室へ連れて行こうとしたが二人の意識が覚醒、事態の異様さにただ事ならぬと判断し、聞くも霧也は一切答えなかった

 

「霧也。君は統夜君に何をしたのか……」

 

 

大河の言葉は鈍い音にかき消された。自分達の目の前で統夜が思い切り霧也の顔を殴り、その勢いで吹き飛んだ霧也。ゆらりと立ち上がり憎しみの目を向けるその目を真正面から統夜は受け止め構えを解いた

 

「これから先お前がどう思おうとお前の勝手だ。だがな、俺はこれでお前を許すつもりだ」

 

「ふざけないで下さい!?あなたのした行為がどんなものか、理解しているのですか!!」

 

「あぁそうだな。確かに俺がした事は最低だろうな。だがな、それを言ったらお前はどうなんだ?」

 

「・・・どういう事ですか?」

 

憎しみの目で睨みつけながら、統夜を霧也は見ていた。だがしかし、質問の答えが分からず不思議そうにしていた。

 

「もしも、俺がお前と同じだったら?同じ苦しみを持っていて、同じ理由で攻撃されて、もしも止める人間がいなくて相手が死んで、もしもそれが敵の策力だったらどうするつもりだ?」

 

「そのようなこ『あったらと言ったはずだ』・・・」

 

「もしそうだったら、お前も俺も『この世界とは無関係な人間』を殺した事になる。ただ相手と『似ている』、同じような『思考を持っている』ってだけで殺されたんじゃ、何の意味も無いからな」

 

「「「・・・・・」」」

 

「俺としてはお前への制裁はこれでおく。それと、GGGのメンバー全員に悪いけど、俺はこのバカのおかげで死に掛けたので、追加で『俺がこの世界の歴史や最近のIS学園側の事件等を見て、俺が知っている方面の情報の掲示』をしない事にしました」

 

「「「「・・・は?」」」」

 

これにはGGGの面々も不思議そうな顔をした。『情報の掲示』をしないというのは分かるが、この『世界の歴史とIS学園側の事件』を見てと言ったのもあり、意味が分からないからだ。

 

「正式には貴方達の生きているこの世界の歴史で関与しているだろうと思う『存在』と、IS学園で起きた『織斑一夏の変化した姿の名前とその総称』と、おまけでこの世界の未来で起きる可能性が高いだろう『ある特殊な存在情報』も掲示しない?と言っているんです。貴方達の部下の独断専行によって何の関係も無い赤の他人を殺しかけたという、管理不行き届きと言う事でそうさせてもらいます。俺が自分の意志でそちらに掲示するようなものは別ですが、それ以外では一切話しません」

 

 

「未来で起こる可能性?不動統夜君、君はわたし達、いやこの世界でにナニが起こる事を知っているというのかね?」

 

 

「……ええ、あなた達の未ら…」

 

大河に呼び止められ応えようとした統夜の言葉は、メインオーダールームに響いたアラートにかき消され獅童博士、ユーノはすぐさま状況を確認するためキーをたたく

 

正面スクリーンに映されたのは無数の蛇が髪のようにうねらせる全長約15メートルもあるキメラ…街を蹂躙し進む先にあるのはGGG中国がおかれている科学院航空星際所。そこへまっすぐに向かう姿にメインオーダールームにいるメンバーに戦慄が走る

 

「素粒子Z0反応確認!間違いありませんゾンダーISです!!」

 

「GGG中国、ヤン司令からも支援要請が来ています!」

 

「ただちにGGG機動IS部隊出動せよ!メンバー編成は火麻参謀、疾風、凍也、ラウラ君率いるシュヴァルツェア・ハーゼ隊。三段飛行甲板空母、三式空中研究所を緊急発進!ユーノ君、千冬君はメインオーダールームに待機!中国へ急行せよ!!」

 

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

大河の号令の元、先ほどとは打って変わり出動用意するメンバー。しかし霧也だけ何もいわれていない…

 

「霧也。君には引き続き更織家令嬢の護衛を頼む……あと」

 

 

霧也に近づき軽く耳打ちすると目を見開く、確認しようとするも大河は中国政府高官とのホットラインが入り事態収拾に向けての細かい調整に入っている。ちらりと統夜を目を向けそのままメインオーダールームから姿を消した

 

(………おかしい、あんなゾンダーは原作にはいない……)

 

原作に無いゾンダーに胸騒ぎを感じる統夜をよそに三段飛行甲板空母、三式空中研究所が緊急発進、そのまま一路中国へ進路を取った頃。GGG中国がある科学院航空星際所より離れた場所では中国軍戦車大隊が足止めをすべく砲撃を開始していた

 

 

「戦車隊!目標の足止めを最優先だ!」

 

 

「た、隊長!このままでは突破されます!星際所から増援が到着……」

 

 

『ゾ、ゾンダアアアアアアアア!!』

 

頭部から伸びた無数の蛇が戦車隊からの砲撃を防ぎ戦車に絡みつき振り回しそのまま地面へ叩きつけようと振り回す、中にいる操縦士が死を覚悟する……が次の瞬間何かが飛来、巻き付いた蛇を切り払い戦車をつかむ影

 

 

「しっかりなさい!まだ諦めたらダメよ!!」

 

 

「凰鈴音代表候補?何故ここに!」

 

 

「本日付けでGGG中国支部《科学院航空星際所》所属《凰鈴音》よ、後数分したら日本から機動IS部隊が到着するから、私たちで持ちこたえさせるわよ」

 

 

「GGG日本…機動IS部隊が来てくれるのか!各隊員、勇者たちが到着するまで持ちこたえさせるぞ!」

 

 

「「「「オウ!」」」」

 

 

GGG日本…機動IS部隊が来てくれる。それだけで沈んでいた気力が再び勢いを取り戻した…勇者ISを駆る彼らの活躍は各GGG支部、そして年端もいかぬ少年達の勇気ある姿と命を守ろうとする姿は軍でも知らぬモノはない。そんな中、凰鈴音は昨日…急遽本国から帰還命令を受けGGG中国でのヤン司令との会話を思い出した

 

 

ー凰鈴音代表候補、急に呼び出してすまない。知っての通り我が中国にもGGG支部置かれることになった、それに伴い科学院航空星際所はGGGへ編入される凰鈴音代表候補もGGG機動IS部隊への参入が決まったー

 

 

ーは、はい。GGG中国の名に恥じないよう地球防衛に尽力します!ー

 

 

ーああ、君の活躍に期待している…………少しいいかー

 

ーは、はいー

 

 

ー………GGG日本機動IS部隊に竜崎疾風、竜崎凍也がいるのは本当かね?ー

 

竜崎兄弟のことを訪ねるヤン司令…いると答えると少し表情が変わる。嬉しさと悲しみを帯びた眼差し。以前にバイオネットの気象兵器によるテロを防いだ未確認IS《撃龍神》との接触した際に記録されていた声とヘッドギアに隠れているモノのわずかに見えた顔を見て聞いた時にもみせた

 

確かヤン司令には死に別れた《テラフォーミング・テクノロニクス》の権威であった妻と双子の息子がいたことを思い出す…もしかしたら疾風と凍也はヤン司令の…だがあくまでも憶測に過ぎないと鈴は振り払う。それに深く聞くのは上官に対して失礼だ。でも聞いてみたい気持ちもある

 

悩むうちにGバリアシステム搭載の立ち会いしてほしいと連絡が入りうやむやになってしまった…今は自分たちの後ろにある街を守ることに神経を集中する

 

『ゾ、ゾンダアアアアアアアア!?』

 

 

戦車隊の集中砲火に加え、龍砲による援護砲撃に進行速度を徐々に遅れ砲火により煙に包まれた。が煙に紛れ無数の蛇型ミサイルが戦車数台に着弾、いや融合し蛇をもした戦車へ変わり味方であるハズの戦車隊へ砲火を浴びせる

 

「や、やめなさい!柳隊長、早く攻撃を止めて!!」

 

 

『ダメだ。コントロールが効かない!!』

 

 

『くそ、止まれ!撃つな~!!』

 

 

敵味方に別れ混戦の状況をあざ笑うかのようにキメラゾンダーIS?は鈴へ狙いを定めミサイルを撃つ。かわそうと瞬時加速、ジグザク飛行するも追尾してくる

 

「く、しっこい!きゃっ!?」

 

あらぬ方向からの砲撃、見ると蛇型戦車数台からの砲撃だと気づくもスラスターに損傷警告、姿勢制御を必死に行う鈴に再び砲火が迫る

 

『うおおおおあああああ!?』

 

雄叫びがこだますると無数の雷が雨のように降り注ぎミサイルを撃破していく中、地面に大穴をあける黄色い影に驚く鈴の身体がふわりと風がふく。緑の装甲に身を包んだ少年の顔を見て頬が赤く染まる

 

「雷龍、いい加減着地のコツをおぼえさい。遅れてすいませんGGG日本機動IS部隊《風龍》これより防衛行動に入ります!街の方は兄が民間人の避難誘導を始めています」

 

 

「ま、またせすぎよバカ……でも来てくれてありがとう疾風、あと雷龍も」

 

 

『なんかついでって感じ何だけどな~まあ今はあの蛇モドキを弱らせてコアをえぐり抜こ………』

 

 

再びミサイルが襲いかかる…しかし三条の閃光にすべて撃破される、見るとシュヴァルツェアハーゼ隊の面々の姿…しかしラウラだけはゆっくりと疾風に近づくと口を開いた

 

 

「疾風、私の前で浮気とはいただけないな…」

 

 

「イ、イヤデスネ、コレはその…」

 

だらだらと冷や汗を滝のように流す疾風。ドイツの冷水と畏れられたラウラの言葉からひしひしと怒気を感じている…

 

「……まあ、今回は疾風特製《杏仁豆腐》で手を打つとしょう。さあいくぞ鈴、クラリッサ、雷龍」

 

内心ホッとする疾風はIS雷龍の背中にあるミキサータンクからフォンダオダンで牽制。雷龍はラウラと共に蛇型戦車へ接近、鈴の龍砲が動きを止め、ラウラ、クラリッサがプラズマソードで切り裂き搭乗者を救出、雷龍の電撃で完全に破壊していくと同時にシンパレート値が三段飛行甲板空母内にいる束の前で上昇していく

 

「85、89……100!シンメトリカルドッキングいけるよハッ君!!」

 

 

「『シンメトリカルッ!ドッキングッ!!!』」

 

 

シンパレート値100を超えた雷龍(スタンドアローンモード)、風龍がウルテクスラスター全開で飛翔、各部装甲がパージ。雷と風がまう中で疾風の身体へ装着。レイドゥーンが胸につくと額のGストーンが輝く。右腕にシャオダンジィ、左腕にデンジャンホーから風と雷をあふれさせながら叫んだ

 

 

「『撃ッ龍ゥウ神ッ!!』」

 

 

「クラリッサは疾風の援護を。鈴はワタシと一緒に先制をかける!合わせろ!!」

 

 

「誰に言ってんのよ!あん……ラウラこそあたしにあわせない!!」

 

 

螺旋状に錐もみ機動。あの一件以降疾風を巡る恋のライバルとなった二人の息はピタリとあい見事な連携を見せ真正面へ向かうラウラ、鈴。それぞれ龍砲とレールガンが火を噴く。不可視の砲撃とレールガンが顔面に着弾。視界を防ぐと同時にクラリッサ、疾風が挟撃を仕掛ける。煙が立ち上らせながらゆっくりと顔を上げたキメラゾンダーISの目がクラリッサをとらえた

 

 

「な!?か、躯が動かな……た、隊長………」

 

 

キメラゾンダーISの瞳が輝いた瞬間、クラリッサが自身の愛機《シュヴァルツェア・ヴァイク》が石化し落ちていく。地面へ当たる寸前で疾風が抱きかかえ鈴、ラウラと合流し距離をとる

 

「しっかりしろ!クラリッサ!!返事をしろ!!」

 

 

「な、なんなのよアイツは!?ISが搭乗者ごと石化するなんてあり得ないわ!」

 

 

『「二人とも落ち着け……あのゾンダーISは今までのとはナニかが違う…まるで神話に出てくるメデューサみたいだ」』

 

 

絶対防御で守られているはずのISが石化する…異様な事態に三段飛行甲板空母の火麻参謀、メインオーダールームで状況をみていた面々の表情が驚きの色に染まる。困惑する二人を落ち着かせた疾風は石化したクラリッサを預けた

 

『「鈴、ラウラ。今すぐクラリッサをつれて三段飛行甲板空母に引き上げるんだ」』

 

 

「な、なんでなの?それにひとりじゃアイツからコアを」

 

 

「……鈴、疾風の言うとおりにするんだ。今の私たちでは勝てる確率は少ない…かえって足手まといになる。クラリッサのことも心配だ」

 

「でも疾風まで石になったら…」

 

 

「『大丈夫だ。心配するなって…さあ速くいくんだ。獅童博士が対抗策を考えてくれるはずだからな』」

 

諭すように声をかけると無言で頷く二人はクラリッサをかかえながら何度も何度も振り返りながら三段飛行甲板空母が待機している空域に向かうのを見届けるとキメラゾンダーIS改め、メデューサゾンダーISと相対する

 

 

『「…………でてこいよ!いんだろ?ドクターウェスト」』

 

 

「よく気づいたであ~る!さすがは我が子《アドバンスドチルドレン》にして《ツインデュアルカインド》の片割れであ~る!!」

 

 

「『ざけるな!オレたちはお前達、《バイオネットの子》じゃない!!』」

 

 

「別に照れなくても良いではな~いで~すか~」

 

風と雷が荒れ狂わせ叫ぶ疾風、それに対して陽気にくるくるとメデューサゾンダーISの頭の上で回りながらぴたりと止まり笑顔を見せるバイオネット、上級幹部《アルケミスタ》ドクターウェスト…疾風を見る目には狂気に満ちている

 

「まあ、世間話はここまでにしてぇ…のんびりしてていいのかなぁ?」

 

 

「『何のことだ?』」

 

「さっき石になった彼女、あと30分したら完全に死んじゃうよお~ん?なぜって顔してるねぇ~この新しい商品は我らの総帥様がぶち殺したゴルゴン三姉妹を祖体にしてるのである!速く倒さないと……ホンモノの石になっちゃうよおん♪」

 

 

ゴルゴン三姉妹。ギリシア神話に登場する化け物姉妹…見たものを石に変える魔眼を持ち髪が蛇、下半身が大蛇のマガモノ。メデューサは英雄ペルセウスに首を跳ねられ討ち果たされた、しかし残る二姉妹は行方知れず。目の前にいるゾンダーISの素体に使われているのは二姉妹の片割れ。神話のマガモノをゾンダーにしたこともだが、それ以上に石にされたクラリッサの命が三十分持たない事に疾風は焦り始めた

 

 

(神話のマガモノ…以前に老師から《神話級のマガモノは黄金聖闘士でも討滅は困難》と聞いたことがある。一刻も速くヤツを倒さなければクラリッサさんの命が、いや…この先にある街で避難誘導をしている凍也達にも危険が及ぶ)

 

 

「シンキングタイムは終わりでありますか?さあ行きなさいエウリピョア!久々にテストをしてあげるであ~る!!」

 

 

「『ク!』」

 

メデューサゾンダーの瞳が開き赤く光る、その場からウルテクスラスターで離れ飛翔する、先ほどまでいた場所にあった木々が石化。蛇型ミサイルが蜘蛛の子を散らすように襲いかかる。シャオダンジィから超圧縮空気弾を放ち撃破、その隙を狙い攻撃を仕掛ける疾風に見開かれた瞳から赤い光が輝く、とっさにデンジャンホーを楯替わりにして後ろに回り込み躯をひねると同時に蹴りを放とうとした。しかし蛇の髪をかき分け二つ目の顔が現れ怪しく光った

 

 

「『うわっ!』」

 

慌てて飛翔するも左足に違和感。みると緑色の装甲が石へ変わりバランスを崩し地面へ落ちる疾風…あの時、僅かに目を合わせただけで石になった事に驚く姿ににんまりと笑みを浮かべ『次はどこかな~次はどこかな~』と歌を歌っているドクターウェスト

 

(左足は完全に石化している…どうすれば…老師)

 

 

「よそ見はいけないなっであ~る!」

 

 

「ゾンダアアアアアアアア!!」

 

 

『「な、うぐわああああああああ!?」』

 

 

いつの間にかに背後をとっていたメデューサゾンダーISはメカメカしい尻尾を使い疾風《撃龍神》を締め上げたまらず声を上げる。各部装甲に亀裂が走り警告を示すメッセージが響く。ゆっくりと身体を自身の眼前まで近づけ完全に石にするべく瞳を開こうとしたその時

 

 

「疾風えぇ!」

 

疾風の耳に声が届く。同時に締め上げていた尻尾が切り裂かれ、解放された疾風をガシッと抱える二つの影…

 

 

「『り、鈴?それにラウラ?三段飛行甲板空母に戻ったんじゃ?それより何で此処に戻ってきたんだ!』」

 

 

「何って助けに来たのよ。それに左足が石になってるじゃない。無理しないでって言ったのに」

 

「…一人で二人を相手にするのは戦術的に不利だ…それに苦戦する嫁を助けないで何が夫だ…」

 

 

「『だからって!』」

 

 

「ぞ、ゾンダアアアアアアアア!!」

 

雄叫びと共に迫るメデューサゾンダーISの目がカッと見開かれた…左足が石化しウルテクスラスターすらも先ほどの攻撃で損壊。ほぼ無防備のラウラ、鈴を守るために動かぬ体にむち打つ…しかし二つの何かが疾風の視界をふさぐ。二つの何か、それは鈴とラウラがまるで楯になるように立ち石化していく姿に声を上げた

 

「『な、なにをしてるんだ!鈴、ラウラ!!なんでこんな事を!!』」

 

 

 

「…前にバイオネットのテロが起きた時、竜巻に飲まれそうになって諦めかけてた…でも疾風は諦めなかったばかりかあたしを助けてくれた…だから…今度……は…」

 

 

「…あの日、ゾンダーになったわたしを…真っ暗なアソコから手をとって助け出してくれた…今度はわたしいや…わたし達がおまえ…を…守……る」

 

 

完全に石化し最後まで聞き取れなかった…しかし疾風の耳、いや心にははっきりと響いた。自分を守るために二人が楯となり石化した…ギリギリと拳を握りしめ血が滲む

 

「安っぽい!安っぽすぎるであ~る!甘っちょろい三文芝居は………反吐がで……」

 

 

「『………黙れ!お前に……二人の何がわかる!!』」

 

 

「まだまだ減らず口が言えるみたいですね~でも今の状況をみるであ~る!このまま仲良く石化するであ…」

 

ドクターウェストの高笑いにも似た勝利宣言が響く。だが疾風の耳には入っていない。ただ石化した二人…ラウラ、鈴を見ながら初めて出会った日を思い出していた

 

頭に浮かぶのは二人の様々な顔…特に皆といるときの笑顔…ゆっくりと目を閉じやがて開いた目には澄んだ瞳…決意と覚悟の色を見てビクッと震えた

 

 

「『……ドクターウェスト、俺にはまだ覚悟が足りなかったようだ…その結果が今の状況を招いてしまった……だが宣言しよう。石にされた三人、そしてオレの後ろにある街の皆を守る…』」

 

 

「な、なにをする気で……」

 

 

 

 

狼狽えるドクターウェストをよそに、疾風は背を向けると右手に装着された《シャオダンジィ》を格納、あらわになった手をゆっくりと顔に近づけた直後、水をくぐもった音が静かに響く、その足下には血が滴り落ち振り返った。まぶたは堅く閉ざされ、血が涙のように溢れ出す姿にドクターウェストは身震いした…理解できなかったのだ

 

 

「な、なにをやっているのである!まさか!エウリピュアの石化を逃れるために目を潰した?気は確かであるのですか!」

 

 

「『オレは正気だ…さあかかってこい!ゾンダーIS!!』」

 

 

「な、なら望み通りにするである!エウリュピア!ヤツを殺せ!!」

 

『ゾンダアアアアアアアア!!』

 

「『ぐ、くあ!』」

 

再生を終えた尻尾で何度も叩きつけ、蛇型ミサイルをこれでもかと言わんばかりに浴びせるエウリュピアゾンダーIS。疾風は光無き世界の中であらゆる方向から来る攻撃に耐えながら反撃するもむなしく空を切る…出血により意識が薄れていくも全身からみなぎる闘志は激しさを増し両足に力を込め拳を握り立つ姿は三段飛行甲板空母、三式空中研究所、メインオーダールームにいる面々も目が釘付けになる

 

(な、なんなんだよ。何で彼処まで出来んだ…あのままじゃ不味いだろ!!)

 

 

攻撃を受け続けながらも立つ疾風の姿と原作にないゾンダーに困惑する統夜。装甲が砕け散らせながら何度目かになる攻撃を受け宙を舞い地面へ落ちる疾風。もう立つな、誰もが皆そう思った

 

ー「『ぐ、ぐうう……ま、まだだ……』」ー

 

 

「博士!速く疾風のところに凍也たちを!!」

 

 

「わかっとる、まだ避難が終わらん事には動かせられん……バイオネットめ、神話の怪物まで蘇らせるとは…」

 

三段飛行甲板空母で指揮を取る火麻参謀の言葉が響く中、モニターリングしている束の雰囲気が少し変わっていることに誰も気づかない。ようやく避難誘導を終えたとの報が届いた時、トドメを誘うとエウリュピアゾンダーISが全身から蛇型ミサイル、そして尻尾を前へ突き出し高速回転させ突っ込んでくる

 

(どこからくる…急がないとラウラ、鈴、クラリッサさんが!)

 

暗闇の中、相手の気配を探る疾風…焦りはじめたその時。黄金の杖を手にした女性?が光と共に現れ暗闇を吹き飛ばした…晴れ渡った先には無数のミサイルと高速回転する尻尾を突き出し迫るエウリュピアゾンダーISの姿とコアをはっきりとらえた

 

 

(コ、これは…幻?)

 

…血を流しすぎて見えた幻かもしれない。だが暖かな光は疾風に真実だと確信させるには充分、ボロボロの躯の奥から生命から生まれる宇宙、小宇宙(コスモ)が最大限に今、燃え上がる!!

 

 

「『見えた!ウオオオオ!!唸れ疾風ッ!轟け雷光ッ!双(シャアアアアンッ)頭(トゥオオッ)龍(ロオオオンッ!)ッ!!』」

 

 

「バ、バカな!こんな力はツインデュアルカインドには付与してないであ~~~~~~る!い、ぎゃあああああああーーーーーー」

 

 

「ぞ、ゾンダアアアアアアアア!?」

 

 

深緑と黄金の鱗を輝かせる双龍…IS撃龍神最大の必殺技《双頭龍》がドクターウェストを丸飲みにし全身の骨という骨をかみ砕き、メデューサゾンダーISの強固な身体を貫きすすむ。内部を貪り喰い体表に躍り出るやいなや額にあるコアを貫き通しえぐり取ると残された身体は爆発、あとにはボロボロになった疾風こと撃龍神がコアを手に立つ姿

 

「……う、わたしは一体」

 

「あたし、石になったのに」

 

エウリュピアゾンダーISを倒したことで、石化が解けた二人は疾風の姿を探す。少し離れた場所に立つのを見つけた二人は駆け寄る…だが顔を見て声を失う、堅く閉ざされた瞼からは血が流れ深緑と黄色の装甲を朱に染め手に持つゾンダーISコアにシーリング処置を施し終え疾風が二人に顔をむけた

 

 

「『鈴?ラウラ?…石化は解けたみたいだな…どこも怪我ないか?』」

 

「は、疾風…お前、目を!!」

 

 

「ま、まさかあたしたちを助けるために…」

 

 

口元を手でおさえ呆然となる二人にただ優しく穏やかな笑みを向ける…だが目を押さえ苦しみだし数分後、避難誘導を終えた凍也達はすぐさまGGG中国、科学院航空星際所内にある病院へ疾風を運び込んだ

 

偶然なのかドイツ連邦からGGG中国へ来訪していたスコルピオン総帥、腹心にして世界的に有名な医学博士でもあるヘルガ博士がおりすぐさま緊急手術がおこなわれた

 

 

「我が祖国ドイツ連邦を救った竜崎女史の息、いや勇者を必ず救わねばならない。皆の力を貸してくれ……これからオペを開始する。脈拍不安定、出血多量によるショック症状に近い。すぐさま輸血の用意を」

 

 

「は、はい!ダメです型が一致しません!!彼の血はRH(-)です」

 

 

『……なら私の血を使うといい』

 

 

「…ヤ、ヤン司令?ですが…」

 

 

『事態は一刻を争う。限界まで私から採血しろ…急げ』

 

「わ、わかりました」

  

採血ルームからヤン司令の血液が送られ手術台で治療を受ける疾風へと輸血。やがてバイタルグラフは安定しまるで精密機械以上に繊細にヘルガの手により治療が続けられていく中、手術室の外では検査を終えた凍也、鈴、ラウラ、シュバルッエア・ハーゼ隊、戦車大隊の隊長の姿があった。皆が思うのは疾風の安否だけだった

 

 

やがて手術室のランプが消え扉が開き目を包帯で巻いた疾風がベッドに眠る姿に皆が安堵の表情を浮かべる。最後に出てきたヘルガ博士はマスクを外しゆっくりと口を開いた

 

「竜崎疾風、彼の命には別状はない……ただ、目の方は二度と光を取り戻すことは無い。万が一奇跡が起きない限り『一生』を誰かの手に引かれないと生活は難しいだろう」

 

 

「う、うそ…冗談よね……冗談だって言ってよ!」

 

「ヘルガ博士、嘘だと、嘘だといってくれ!お願いだ疾風は私たちを助けるために光を失ってしまった。何か方法を!」

 

二人に詰め寄られるヘルガ博士…しかし目を伏せるのを見てラウラ、鈴は本当のことだと悟る。力なく座り込むと一目をはばからず大粒の涙を床へと落とし手術室前に泣く声が木霊した

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「お願いだ!君の力をオレに貸してくれ!!」

 

 

「な、ナニしてんだよ!そんなこといわれても…」

 

 

「途中まで連れて行ってくれるだけでいいんだ。彼処にはオレの大事な仲間たちがバイオネットと戦ってるんだ。現場についたら放り投げてくれてもいい、だからお願いだ!」

 

 

……GGG本部のメタルロッカールーム、その中心で全身の至る所に包帯を巻き、血を滲ませながら土下座し懇願する燐の前には異世界から来た不動統夜の姿。力を貸してほしいと何度も言葉を口にする姿に、いやそれ以上に驚くべきモノに言葉を失っていた

 

『……………………………』

 

 

土下座する燐の背後に不思議な輝きを持つ鎧らしきモノを纏い立つ女性の姿…無限地獄で苦しみ続けている不動統夜の母。その表情は悲しみと怒りが垣間見え、何かを訴えるようにも見えた

 

 

第十八・五話 不協和音ー双龍の決断ー

 

 

                     




君達に最新情報を公開しよう。

皆を救うために光を失った竜崎疾風は療養の為、もう一つの故郷《五老峰》へ帰った

燐に続き疾風のいない中、ガイゴー、バイオネットがアフリカに現れたとの報にGGG機動IS部隊は三段飛行甲板空母、算式空中研究所で向かった先で視たモノは?

遂に黒い鋼の悪魔がアフリカの大地を震撼させGGG機動IS部隊に危機が迫る!!


残された統夜は燐の行動にナニを視るのか?

IS《インフィニット・ストラトス》ー白き翼と勇気ある者ー


第十九話 黒い鋼の悪魔(前編)


次回もファイナルフュージョン承認!!


ーサンジェルマン伯爵with????ー


コレが勝利の鍵だ!!


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