IS/勇者王ガオガイガー─白き翼の戦士と勇気ある者―   作:オウガ・Ω

34 / 48
八年前

衛生軌道上に浮かぶ巨大なドーナツにもにたリングが特徴的な宇宙開発公団、国連宇宙開発局所属の多目的実験モジュール《01》。その居住用モジュールにある一室、薄暗い室内にほのかな明かりが照らす

「ハッピバースディ燐~」

イチゴ、オレンジで彩られたケーキには八本のロウソクの火が揺れ、目の前に座る赤い髪が目立つ少年が大きく息を吸いふう~っと火を消すとクラッカーの鳴る音と同時に歓声が上がる。明るくなった室内にはモジュール01に勤める職員、そして…

「燐、八歳の誕生日おめでとう~コレはお母さんからのプレゼント」

「ありがとうお母さん。開けていい?」


「いいわよ」

七歳から八歳くらいの少年、燐はさっそく母《獅童マヤ》からのプレゼントの包装を開き中をみる、地球と星を簡略化したエンブレムが目立つスケボーを手に目をキラキラ輝かせる

「コレって、阿嘉松工業の《ジェットスケボーmark-Ⅱ》!しかも阿嘉松社長のサイン入り……ありがとう、大事に使うね♪」


「いいわよ 。でも勉強もがんばるのよ。さ、次はアナタのよ」

「燐、ワシからはこれだよ~ほいっと」


明るく笑いながら燐を窓へ連れて行くのは、燐の父にして生体医工学の権威《獅童レイジ》。やがてたどり着くとホロスクリーンを操作する。すると周囲がガラスの様に透けだし足元に蒼く輝く地球が広がる。その壮大な美しさに目を輝かせる燐に笑みを浮かべながら肩を軽く撫でた


「どうじゃ、衛星軌道からみる地球は…」


「すごい。すごいよ。コレが宇宙から見た地球……束お姉ちゃんが言った通り、凄くキレイで大きいよ!!」


「そうじゃろ……燐、あと少ししたらお前の大好きな束くんが来るから安心せい」

「うん!…………お父さん、アレが束お姉ちゃんのシャトルかな?」

興奮覚めやらない麟が指差す方向にはロケットいや、スペースシャトルらしい影…だが次の瞬間モジュール01に激しい振動とアラートが鳴り響く

「な、何事だ!」

ー獅童主任!現在モジュール01周囲に未確認のISらしき影を複数確認。攻撃を受けています!!ー

「何だと!すぐに地上へ緊急通信、および未確認ISへ攻撃停止を呼びかけるんだ!」


ーダメです。地上と繋がりませ…うわあああ!!ー

再び激しい振動が揺らし、レイジは各セクションの人員へ避難を呼びかけながら、震える麟を抱きしめた…その時、ノイズ混じりの通信がモジュール01にひびきわたった

ーああ~テステス。( ゚∇^)] モシモシ聞こえますか~モジュール01のクソ研究者諸君、我々はとある会社に雇われたIS部隊で~す。さてさて単刀直入に言わせて貰うんだけどさ……今から我々の最大の取引先であるお得意様《バイオネット》、《遠峰コーポレーション》に不利益になること、金にもならない糞くだらない夢なんざを、あの糞ウサギの作ったISで叶えようとするアンタらを皆殺しにするよ…アヒャ!!ー

麟が見た影が大きく姿を変え、青を基調とした全身装甲のIS《グランバード》の瞳が怪しく輝く。それが合図のように周囲に展開した黒い塗装が目立つ《ゲシュペンスト》数機が、赤いバイザーを輝かせ、M90アサルトマシンガン、スラッシャラリッパー、メカブラスターキャノンでモジュール01へ躊躇なく攻撃、撃ち放ち、大きく穴があいた隔壁から内部へ侵入、手を上げる研究者、その家族達に警告無しで身体を引きちぎり、フレイムキャノンが火を噴く。焼け焦げた匂いが充満し、血なまぐさい香が漂い。ぶちまけられた内臓、肉片、血潮が隔壁を赤く染めていく

「んん~トレビアアアン。流石は勇者ファイバードの性能だな…かっこいいなだけあって最高だぜ。ゲシュペンスト・S、他のゲシュペンストと共に糞ウサギが作った第二世代ISコアを回収。残りはこの糞施設の主任獅童レイジ、獅童マヤを探し見つけ次第殺せ……ガキは生かして捕まえろ…抵抗するなら半殺しにしろ」


『フヒャハハハ!楽しんでいますね~ーーーー様』

「ギムレットか、お前にも探して貰おう。くだらない夢を持って、《千年前に俺たちを裏切った者》の血は根絶しないといけないからな…この世界を楽しんで過ごしたいんだよ…俺の作った台本通りにな……さてと害虫駆除をはじめるか」

「た、たのむ助け……」

「ああ、助けてやる……死は救いって言うからな」

懇願する研究者の頭を手にそのまま持ち上げ軋む音とと同時に握りつぶし、脳漿と血液が無機質な指の隙間から流れ、頭から下が無くなった《それ》を壁に叩きつけ、肉片となって飛び散るソレをゆがんだ笑みを浮かべながら、一方的な虐殺を再開。人類の夢を担う施設は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わった


人類の夢を叶えようとする人々、罪なき人々、明るい未来へ進もうとする人々の怨鎖の声が木霊した


今日、両親から初めて招かれたモジュール01で誕生日を迎え幸せいっぱいだった獅童燐の《地獄の二年間》の始まりの日となった……













第十五話 風と雷(前編)

「なんなんだお前は!」

 

 

……なんだこれ?なんで俺コイツとたたこってるんだっけ…それによくわからないけど左手が熱くなる度に力が…力が体の奥から溢れてくる

 

ー空は良い…何処まで穢れなき蒼き空は我らソルダートの誇りを顕す……ー

 

 

ーだ、誰だ!ー

 

真っ青に何処までも青い空が目の前に広がる。俺の前に白い鎧を着た騎士が俺をまっすぐにみている

 

 

ー……ほう?以前と違い私を認識できる様になったか…どうやら戦士の自覚が目覚めたようだな。Jジュエルの戦士として果たすべき責務をー

 

 

ー待ってくれ!俺はJジュエルの戦士なんかじゃない……責務ってなんなんだよ!ー

 

 

 

ー……聞け、誇り無き力、信念無き力、己のためだけに振るう力は只の獸以下だ、お前の前にいるのは力に溺れた意味を理解せぬ者………《誇り無き者》の一人だ………ー

 

 

ー誇り無き者?…ー

 

 

ー……科学という悪魔に信念と魂を売り渡し力を手にし神と名乗るもの…与えられた力を欲望のままに振るう二度目の生を受けた愚者をそう呼ぶ……《誇り無き者》は平気で周りの人々を傷つける。まるで神にでもなったようになー

 

 

白い鎧をきたヤツの言葉はまるで染み込むように響く…そうだ目の前にいるのは愚かな者、誇り無き者…ならばやることは一つだ

 

「……誇り無き者は敵だ!」

 

俺/私は目の前の敵を斬る……身体を捻りラディアンアトリッパーで高振動ワイヤーを切り払い黒いISの眼前に迫り懐へ潜り込み蹴りを叩き込みガードを崩す、がら空きなった上半身めがけビーム刃を振り抜く

 

 

信じれないって顔をするなコイツ…慢心が負けを呼ぶ事を身を持ってしれ!

 

 

「止めるんだ一夏ああぁ!!」

 

 

悲鳴にも似た声……箒の声が耳に届いた時、目の前が真っ暗になる……身体から力が…抜け…コレは……Jジュエル凍……結…コマ……ン………ア……ル……マ……か?

 

「一夏!」

 

「…………」

 

 

誰かに抱きかかえられ、恐れの色に染まった瞳を向けるアイツをみたのを最後に意識を泥沼のような闇へ落ちていった

 

 

第十五話 風と雷(前編)

 

 

IS学園 保健室

 

「………ん……ここは?」

 

 

身を起こしあたりをみる。保健室のベッドに寝かされている、それに左手が暖かい、箒が俺の手を包むように握りしめイスに座って眠ってる…それに、ずっと昔にこんな光景を見た気が……

 

 

ーJ、手を出してください。アジャスタをー

 

ー私なら大丈夫だ。今は身体をいたわれ…この惑星の環境になれてはいないのだからな…ー

 

 

な、何だ?今の…ん?なんか周りが騒がしいな…箒を起こさないようにカーテンの隙間から外をみると

 

 

「イタタッ!優しくしなさいよアンタ!」

 

 

「少しじっとしてください。打ち身に軽い打撲これだけですんだのは絶対防御のお陰ですね。凰さんの治療はこれで終わりです…さあ、次はオルコットさんです」

 

「は、はい……あの、その凍也さん……痛くしないでくださいね」

 

 

「……わかりました。まずは……」

 

 

軟膏を手に出して背中の赤く腫れてる個所へゆっくりと伸ばしていく

 

 

「ひゃん!?」

 

 

「あ、すいませんオルコットさん。冷たかったですか?」

 

 

「い、いえ。お気になさらず……続けてくださいまし(凍也さんの手、スゴく暖かい……なんかクセになって…アン!)」

 

…セシリア、スゴく気持ちよさそうな顔をしてるな……み、見なかったことにしよう、流石に人の恋路を邪魔したらなんたらって言うからな。しかしセシリアが凍也の事をな。ん?

 

「ん……」

 

 

「よう、起きたか箒」

 

「…あ、ああ!か、身体は何ともないな?痛いところも無いのだな?」

 

パって手を離し慌てながら身体の具合を聞いてくる箒…何かしたのかな俺?

 

 

「まあ、すっきりした感じかな?箒が手を握ってくれたお陰かな…あ、看病してくれてサンキューな」

 

「そ、それならいい。それと千冬さんから言伝あるんだ…」

 

 

「千冬姉から?」

 

「『一夏のIS《白式》に異常がみっかったからメンテに出しておく。一応、トーナメントまでには終わらせて返す。それまでは獅童、篠ノ之と無理しないように訓練するように』……だそうだ」

 

 

「…そっか。でも返ってくるならいいか。で千冬姉は?」

 

「…千冬さんは白式を倉持技研に届けにいってる。と、とにかくだ、今は休め。明日からは私と獅童で特訓だ。でだ、覚えてないのか?」

 

 

「何のことだ?確か俺…あいつの攻撃を受けて…それから…ウウ!」

 

 

錐をねじり込むような痛みが頭の芯から響く…それに誰かと話していたような気がする……く、頭が痛い

 

 

「だ、大丈夫か?無理はするな、さ、早く横になれ」

 

 

「ワリィ。じゃあ少し眠ったら部屋に戻るわ…箒は先に戻っていいぞ」

 

 

「い、いや、私は残る。病み上がりの一夏を残していけるか……それに」

 

「?」

 

 

「い、いや何でもない………とにかく休め。いいな」

 

 

「お、おう…」

 

 

箒の言葉に甘えて眠るか…でも何か言い掛けてたのを気にしながら、眠りについた…でもなだれ込んできたクラスメート達から今月末のタッグマッチのパートナーを組んでくれやなどで対応してたら休む時間が無くなってしまった

 

★★★★★★★★

 

IS学園最深部

 

「……レイジ先生、どうなんですか」

 

『あわてるでない。束くんが解析を始めたばかりじゃよ…千冬くん、この映像は二年前に君が見た一夏君の姿と酷似しておる。ドイツ第三世代機を歯牙にかけぬほどの機動性、さらには高出力のプラズマソード…もはやコレは白式ではない。全くの別物じゃ』

 

「わ、私が聞きたいのはそんな事じゃない!一夏は、一夏は大丈夫なのかと聞きたいんです!……あんな姿なんか、もうみたくなかった……普通の生活を送って欲しかったのに……」

 

 

『す、すまん。千冬くん、君の気持ちを考えずに言ってしもうて……』

 

目を伏せ謝るレイジ先生の姿を見て、慌てる千冬。二人が会話するのは数時間前の出来事。一夏の白式が有り得ない変異をとげ、かつての教え子であるラウラ・ボーデヴィッヒが駆るシュヴァルツェア・レーゲンを

圧倒的な力を見せたのを見て、急ぎ千冬が駆けつけた時には赤い光剣の刃がラウラの胴を凪ぐ寸前で消え、元の姿へ変わり白式を強制解除し倒れる一夏を抱きかかえた時の胸の内は不安で一杯だった

 

一夏を箒に任せ、あの姿を知るレイジへ連絡を取り《白式》の解析を束に頼んだ千冬はラウラが起こした事の顛末には自分が深く関わっていることを知り後悔していた

 

 

(……全て私のせいか……)

 

 

胸の内で小さくつぶやき、束からの解析結果をただ待つしか出来なかった

 

 

★★★★★★

 

 

「……………」

 

 

真っ暗な室内で小さく毛布をくるまる少女ラウラ・ボーデヴィッヒ…その瞳は虚空を捉え、その手は微かに震えている

 

その原因は、数時間前の変異した白式をまとった一夏に対しての底知れない力。今まで自身を築き上げてきた経験、誇り、そして世界最強のIS操縦者、自らを鍛え上げた教官にしてブリュンヒルデ《織斑千冬》の教導がガラガラと音を立て崩れた

 

「……っ!」

 

手の震えが止まらないラウラの手に何かが触れる。竹で編まれた蒸籠を手に取る

 

ーボーデヴィッヒさん?今日はどうしました?ー

 

 

ーボーデヴィッヒさん。今日は新作が出来たので食べてみますか?ー

 

 

ー……そんなに慌てたら、喉を詰まらせま…ああ?いってるそばから。はい、ゆっくり飲んでくださいー

 

 

ー迷惑じゃないかですって?そんなことないですよ。ボーデヴィッヒさんのおかげで新しいメニューも出来たんです。それに……いえ、何でもないですー

 

 

「………ハヤテ………ハヤテ……」

 

 

気がつくとラウラは学園の外へと出ていた。向かうのは何時も疾風が料理を振る舞うドイツ大使館から離れた場所にあるコンテナハウス。疾風の顔がみたい。その一念だけでようやくたどり着いたラウラの目には堅く閉ざされた扉、その向こう側には人の気配すら感じられない

 

ラウラは待つ…コンテナハウスの主《竜崎疾風》を。だが無情にも時間はただ流れていく。ポツポツと雨が降り始め、やがて勢いを増しその身体を濡らしていく

 

「………あはは……」

 

乾いた声が響く…

 

「…………わたしには最初から何もなかったのだな………………あはは……」

 

 

悲しみ、喪失、絶望…それらの感情が綯い交ぜになった声が虚しく響く。やがておぼつかない足取りで学園へ向かい歩き出した

 

 

★★★★★★

 

 

学年末トーナメント開催の日、俺は燐、箒、シャルルと共に発表された組み合わせに目を疑った。

 

 

「最初っからアイツとやり合うのか…コンビをくむのはシャルルか」

 

 

「仕方ないさ。一夏くんは篠ノ之さんと組むんだろ。ならば有利だと思うな…」

 

 

「何でだよ?」

 

「一夏くんと篠ノ之さんは幼なじみだ。つまり互いの長所と短所を補いながら戦うことができるはずだ。それにボーデヴィッヒさんのIS対策は万全だからね」

 

 

「そうだな。そろそろピットに向かうか。メンテから帰ってきたばかりの白式だけど勝ってみせるさ」

 

 

「その意気だ。その前に篠ノ之さんを迎えにいったらどうかな?あんまり待たせると怒るかも」

 

 

「わ、わかった。またな燐」

 

 

肩を軽く叩き、俺は箒を迎えに通路を慌ただしく駆け出した。途中、千冬姉とばったりあって「通路を走るな」って怒られたけど

 

 

「さて、オレもそろそろ行くかな…ん?」

 

一夏くんと別れたオレの目にシャルルの姿が見えた。そろそろ試合が始まるに何であんな所に?ゆっくりと歩み寄るとシャルルとは別な声が耳に入る

 

 

「久し振りだな…シャルル」

 

「……はい…父さん…」

 

黒いサングラスに金髪をオールバックにし、顎ヒゲに黒いスーツに朱いネクタイ姿の長身の男性を父さんと呼んでる、まさかシャルルの父親なのか

 

「さて、本題に入ろう。織斑一夏の白式、獅童燐のガオファーのデータを渡してもらおうか?」

 

 

「え?でも連絡するまで指示を待てって…」

 

「私からの指示を待っていただと?言われなくてもデータを入手するぐらいは出来なかったのか……何の為にお前を日本へ送ったのか理解していなかったようだな。流石は《あの女》の娘なだけはあるな。指示がなければ動けないようなグズなお前にも出来る仕事を与えたというのにな、身体を使って誑し込む事も出来んとは」

 

 

「だって、ボクは…ボクは……」

 

 

顔をうつむかせ言葉を漏らす足元に何かが落ちる。シャルルが泣いている…それ以上言うなよ。

 

 

「……やはりお前なぞに期待した私がバカだったようだな。そんな役立たずにはもう用はない、娘ですらもない。デュノアの名前も捨て、二度と私の前に姿を見せる…な?」

 

 

言い切る前にオレは胸ぐらをつかみあげていた…我慢できなかった…

 

 

「あんたは、あんたはシャルルの父親だろ!なんでこんなひどい事言えるんだ!血を分けた娘なんだろ!!」

 

 

 

「り、燐?」

 

 

「それがどうした、子は親の言葉に従うものだ。リン?……そうか、お前が男性操縦者の片割れ《獅童燐》か…このグズにだいぶ入れ込んでるみたいだな。この役立たずが欲しいのか?ならくれてやる……変わりは幾らでもいるからな」

 

 

…もう、我慢できない。堅く握った拳が顔面へ穿たれようとするも寸前で止められる。華奢な手…シャルルが顔を俯かせながら掴んでいる

 

 

「…燐、ボクなら平気だから……殴るのは止めて。この人はIS学園に招かれた来賓だから。お願い…」

 

 

来賓…つまりは国を代表して来た……殴れば国際IS委員会を通じて学園に迷惑がかかる。熱くなった思考が冷えゆっくりと手を離すと、まるで意にも介さず風に襟を正し此方を振り返らず、その場から歩き去っていった

 

「……シャルル?」

 

 

「………少しだけ。少しだけ、このままで居させて。お願い」

 

 

顔を埋めるシャルルの言葉…痛々しくてオレは何も言わず、ただ優しく背中を撫でるしかなかった。そんなとき聞き慣れたメロディーと同時にシャルルの髪が淡い緑に輝く、慌てて懐から端末を取り出す。

 

 

《大阪に素粒子Z0反応確認。GGG機動IS部隊は出動されたし》

 

 

……こんな時に素粒子Z0反応?しかも大阪。それに今の状態のシャルルを連れていけない。束さん達、三式空中IS研究所メンバーによると、ゾンダーISコアの復元時間は数分。Gバリアで封印すれば二時間は持つと言ってる。それに大阪ならIS学園まで三段飛行甲板IS空母なら往復一時間以内で着ける距離。でも……

 

「…行って燐…」

 

「え?」

 

「ボクなら平気だよ。それに大阪には燐の力を必要としてくれる人がたくさん待ってる。前にも言ったよね……『この力はゾンダーISから人を守る為に神様がくれた力じゃないかって』……だから行って。ボクは燐からたくさんの元気をもらったから。ね」

 

「シャルル………わかったよ。行ってくる!なるべく早く戻ってくるから」

 

「うん、いってらっしゃい。燐」

 

 

精一杯の笑顔を見せるシャルルの声を背に受けて走り出す。オレの力を必要としてくれる人達が待ってる場所へ…

 

★★★★★

 

 

「来たか…」

 

「ああ、来てやったぜ」

 

 

淡々としながらも冷たい眼差しを向けてくる。隣にはシャルルの姿。抽選で決まったらしいがアイツの様子をみる限り心を許し、信頼してもいないって空気を帯びている

 

 

「一夏、そろそろ時間だ。気を抜くな」

 

「わかってる。あとは打ち合わせた通りに…」

 

 

カウントが始まり、やがて0を示し開始を告げる音が鳴り響く。まず仕掛けてきたのはラウラ、リボルバーカノンからの砲撃が火を噴く。それを小刻みにスラスターを動かしかわしていく。

 

「ボーデヴィッヒさん、援護するよ!」

 

オレンジ色の装甲が目立つラファール・リヴァイブを纏ったシャルルが銃を構え撃ってきた。身体を捻りながら旋回するも火線が追いかけてくる

 

そこに影が割り込む。影の正体は打鉄をまとった箒の姿、回避運動を取りながら間合いをつめブレードで横凪ぎに切り払う。がマシンガンから近接ブレードへ持ち替え防ぐシャルル

 

「やるね篠ノ之さん!でも負けないよ!!」

 

 

「デュノアこそ、その切り返しの速さは感嘆に値する。それより、相方を放っておいていいのか!」

 

 

「え?うわっ!?」

 

 

近接ブレードで押し返すと同時に、左手にアサルトライフルをコール、銃身下部に配置された円形の弾頭を打放つ。迷わず切り払うシャルルの前でまばゆい光が照らし視界を奪う

 

普段の箒ならば使わない手…それ以上に組み上げられた戦略的行動の裏には燐からの指導があったからだ

 

ー…状況にあわせて柔軟に行動する。常に変化するのは戦いの場では当たり前だ。今月末のクラスマッチはツーマンセル、互いを補い支え共に勝利する事が目的だ。当然、一対一の戦いを持ち込まれた際の対応もやるよー

 

ーお、おう/わ、わかったー

 

 

二人の為に訓練メニューを考え、実践と改善点を探しあうを繰り返したかいあって、二人の間には強い信頼関係が生まれていた…

 

 

ーお、やってやがんな。織斑、篠ノ之、俺も参加するぜ!!ー

 

 

ーち、ちょ!火麻参謀!近接ブレードを振り回したら危ないですから!!ー

 

 

……火麻の乱入もあったが、シャルルの足止めをした箒はそのまま一夏と合流、真っ直ぐにラウラのいる場所へ向かう

 

「………少しは知恵を付けたか、だが私には通用しない……」

 

 

「そうかよ!」

 

 

雪片を構え切りかかる。それをプラズマ手刀で受けワイヤーブレードを射出、絡め取ろうとする…が、背後に回り込んだ箒が距離を取りながらアサルトライフルをバラマくように弾丸の雨を降らせる。が寸前で不可視の壁に阻まれたように弾が止まる

 

「……無駄だ。この停止結界《AIC》の前では…」

 

 

「それはどうかな!今だ!一夏!!」

 

 

「オウ!いくぜ!」

 

声に気づき振り返ったラウラが見たのは零落白夜を解放した雪片弐型の青白い刃が自らを切り払う光景、踏みとどまることが出来ずに勢いよく、アリーナの壁へ叩きつけられ当たりに土煙が舞い上がる

 

「や、やったのか?」

 

 

★★★★

 

 

負けた…もう私には何もない………いや、最初からなかった…

 

朦朧とする意識の中、一人ごちるラウラの脳裏には自らの出生から現在までの記憶が溢れ出す…しかしそれすらも色あせやがて砕けていく。

 

ー…私は何のために生まれ生きてきたのだ…ー

 

 

「我が輩がお答えしましょうか~遺伝子強化試験体C-0037…ラウラ・ボーデヴィッヒ少尉」

 

 

「私を知っているのか…出来損ないと笑いに来たか」

 

 

「いえいえ、あなた様のお力になろうかと、思い出しなさい。あなたがココへ来た理由を………大事な大事な織斑千冬をかつての姿に取り戻すためでありま~す。そのための力をあなたへぇ~プレゼンッ!フォーユー!?」

 

クルクル回りながらラウラに近づき取り出すのは紫色に輝く結晶《ゾンダーメタル》。それを押し付けるように額へ当てると瞬く間に融合、紫色の光が怪しく輝く

 

「さあ!行くのであ~る!我が輩のかわいいゾンダーIS!レッツゴオッ!」

 

★★★★

 

「……!危ない一夏!!」

 

箒の声が響くと同時に身体が押され、光が走るとアリーナの壁が大きく震え貴賓席にいる名士達も慌てる中、土煙から現れた姿に唖然となる一夏

 

黒いウサギと人が融合した何かが両肩から巨大な砲を構え立つ姿に数ヶ月前に現れた馬型ISを彷彿させるフォルムに見覚えがあった

 

 

「一夏!箒!逃げて!あれはゾンダーだよ!!」

 

『ゾ、ゾンダアアアアアアアア!!』

 

咆哮をあげるや否や、両肩の砲門が火を噴き一夏と箒に迫る。辛くも散開し回避するもあまりの破壊力に地面に大穴があくのを見て青ざめる。だが下手に逃げればアリーナのシールドが貫かれ、観客席にいる人達に被害が出る

 

「あれはまさかボーデヴィッヒなのか!」

 

「間違いないだろ!燐も居ないし、箒!千冬姉と連絡は!」

 

「ダメだ!通信がつながらない!どうしたら」

 

 

(燐と凍也は大阪に現れたゾンダーISとの戦闘中…コアの状態にならないと浄解出来ない。どうしたら)

 

「よけろシャルル!」

 

声に気づいたシャルル、その眼前には黒いウサギと人が融合したシュヴァルツェア・レーゲン・ゾンダーが迫ろうとしたその時だった

 

 

ー廬山!双龍飛翔!!ー

 

 

凛とした声と共に、緑と黄の双龍が行く手を遮り押し返した。三人の前に黄色いダンプカー?、その上に立つ紫色の人民服に大きな編み笠をかぶった少年が構える姿…地響きを立てながら降り立つ黒ウサギ・ゾンダーISをみる

 

 

「……大丈夫ですか?」

 

 

「は、はい……あなたは?」

 

「詳しく説明する時間はあまりないので…織斑一夏くん、篠ノ之箒さん、シャルル・デュノア隊員はこの場から離れてください…いくぞ雷龍」

 

 

『ああ、一週間、京都、山形、四国を三回巡って迷いに迷って岩鉄に案内されてようやくIS学園にたどり着いたんだ。いくぜISチェンジ!!』

 

 

黄色いダンプカーが瞬く間に分離、少年の身体へ装着。電磁架台《デンジャンホー》へ登場する姿に既視感を感じた一夏、シャルル。そしてアリーナの観客を避難誘導するセシリア、鈴がよく知る人物と似ている

 

(ア、アイツ、あの時の緑と黄のIS!)

 

(まさか、凍也さんの弟《竜崎疾風》さん?)

 

 

『…さて、黒ウサギを助けるか、少し荒っぽいが我慢しろよ!ティガオ4!ラアアアアイ!!』

 

 

『ゾ、ゾンダアアアアアアアア!?』

 

高出力の雷が黒ウサギゾンダーISの全身を包む。たまらず声をあげた時、疾風の耳に声が響く

 

 

ー…助けて……だれか…ー

 

《ボーデヴィッヒさん?やめろ雷龍!!》

 

 

疾風の声に放電を止める雷龍。黒ウサギゾンダーISは巨大な砲門を向け砲撃する。雷龍のアーマが弾けるように消え、変わりに緑のアーマが装着。同時にミキサータンクを正面に構える

 

「ティガオ2!フォンダオダン!!」

 

 

ミキサータンク正面の砲口が開き、超圧縮された空気弾が迫る砲弾とぶつかり相殺する。胸を撫で下ろす疾風に雷龍の声が響く

 

『おい、疾風!なぜ僕と変わった?』

 

「ボーデヴィッヒさんの声が聞こえた…苦しんでいる…雷龍、アレをやるぞ』

 

 

『わかったよ。黒ウサギのあんな声聞いたらやるしかないだろ……二度目のシンメトリカル・ドッキングを』

 

黄色いダンプカーのライトの明滅に頷くと大きく空へ飛翔する…三式空中研究所でゾンダーISコア解析作業を進める束の前にシンパレート・ウィンドウが開いた

 

「こ、これって疾風くん、雷くんのシンパレート・ウィンドウ。日本に帰ってきてるんだ!」

 

 

60 、70、 80 、85、 89、 90、 99…そして 100を超えシンパレートウィンドウにドッキング可能を示すコマンドが表示された

 

 

「『シンメトリカル!ドッキング!!』」

 

疾風の纏う風龍、隣を飛翔する雷龍がバラバラに分離、装甲形成と同時に左に緑、右に黄色のパーツが装着。左腕にシャオダンジィ、右腕にデンジャヲンホーが楯のように付き、最後にヘッドギア、胸部装甲がドッキングし地へと降り立つ

 

「『撃ッ!龍ウゥ神ッツ!』」

 

「ははは、また合体した。もう驚かないぞ…」

 

 

「一夏、多分アイツも燐の仲間だ…」

 

 

やや、驚きながら疾風こと、IS撃龍神をみる三人をよそにウルテクエンジン全開で黒ウサギゾンダーISへ接近、互いの拳を掴むように握り踏ん張る…

 

『「く、なんてパワーだ!第三世代ISをベースにするとココまで上がるものなのか!!」』

 

 

『ゾンダアアアアアアアア!』

 

 

『「な、身体が動かない!まさかAICか!!」』

 

 

 

 

両腕が塞がり、さらにAICにより身体の自由を奪われ、肩部砲口に光が集まるのを間近にし、拘束を解くべく必死に動こうとする疾風と雷龍にゾンダーISコアに取り込まれたラウラの声が響くと同時に様々な光景がよぎり、気づくと真っ暗な空間に立っていた

 

ーココは?ー

 

 

ー多分、黒ウサギの心の中だ………こんなに冷たくて暗い場所にいたのかよー

 

 

ー……雷龍、ボーデヴィッヒさんは私達と《同じ》だ…ただ違うのはー

 

ーわかってるよ。さっさと探そうぜ……ボーデヴィッヒをー

 

 

ーその必要は無いようだー

 

疾風の視線の先には顔を俯かせ座り込むラウラの姿。近寄ろうとするも見えない何かに阻まれ近づけない…やがて疾風はゆっくりと口を開いた

 

 

ーボーデヴィッヒさん。私の声が聞こえますか?ー

 

ー……聞こえているー

 

 

ーこんな所から早く出ましょう。ボーデヴィッヒさ…ー

 

 

ー嫌だ。私は何もかも無くした。教官の弟にも勝てず、今まで私が積み上げてきたモノはすべて壊れた……私は弱い。最強である私は失敗作たったんだ。生きる資格なんて無……ー

 

ーボーデヴィッヒさん。あなたは強いですよー

 

 

ーな、何をいう。私は負けたんだ…ー

 

 

ーあなたはずっと、真っ暗なココで必死に耐えてきた。私がボーデヴィッヒさんの立場だったら耐えきれないでしょう。あなたは負けた事で初めて《自分の弱さ》に気づいた。ならばコレから少しずつ、一歩ずつ確実に、あなただけの強さを探しましょうー

 

 

ーこんな、こんな弱い私でも強くなれるのか?生きていいいのか?ー

 

ーはい。さあいきましょう……ー

 

 

優しい眼差しと声に、のばされた疾風の手を恐る恐る握るラウラ…暗く冷たい空間に亀裂が生まれ、砕け眩いばかりの光が溢れ出した

 

 

『「こ、ココは?現実世界に戻った。AICが解けている……今ならばいける!」』

 

 

両腕に力を込め地を蹴りそのまま、頭に乗りそのまま腕を捻るとたまらず手をゆるめた。それを見逃さず大きく腕を振るう撃龍神のシャオダンジィ、デンジャヲンホーに風、雷のエネルギーがほとばしり、さらに強くなる

 

『「ボーデヴィッヒさん!少しだけ痛いですけど我慢してください!!唸れ疾風!轟け雷光!」』

 

 

両腕に蓄積された腕を頭上に構えた時、雷と風のエネルギーがある生き物の姿を取る…雄叫びを挙げながら振り抜いたのを見た黒ウサギゾンダーISが動きを止め見上げた瞳には緑、黄に輝く龍が猛狂いながら迫る

 

 

『「双・頭・龍!!(シャアアントォウウロオオオオン!!)」』

 

 

『ゾ、ゾンダアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーー』

 

 

黒ウサギゾンダーISの胴体を貫き、全身を噛み砕きながら破壊、同時に電磁バリアを展開し額のゾンダーISコアを摘出、そのまま撃龍神の両腕に抱きかかえると同時に残された体躯は爆発。しかしバリアに阻まれ押さえ込まれた

 

 

『「………ゾンダーISコア摘出完了!……シャルル・デュノア特別隊員。浄解お願いします」』

 

 

「え、でも……」

 

人前で浄解モードには成れないと言いかけた時、煙幕がアリーナ内を包む。突然の事に驚くシャルル、箒、一夏に向け声が響く

 

「デュノア隊員。周囲にフオッグガスを展開しました。篠ノ之箒さん、織斑一夏くん。コレから起こることは内密に……」

 

 

それっきり声は途絶え、シャルルは浄解モードへ姿を変え差し出されたゾンダーISコアを前に立つと目を閉じ静か手をかざした

 

 

 

『…クーラ・ティオー・テネリタース・セクティオー・サルース・コクトゥーラ』

 

 

緑色の長い髪を揺らし、その指先から暖かな光が溢れ包み込むとISコア?がグニャグニャと崩れはじめた顕した姿…ボロボロのISスーツ姿の少女《ラウラ・ボーデヴィッヒ》が憑き物が落ちたかのような表情を浮かベながら、そのままぐらりと倒れるのを見た疾風は慌てて抱き止めた

 

 

「ふう~終わったよ。えと……」

 

『「ああ、自己紹介がまだだったな。俺の名前は撃龍神。またの名を竜崎疾風だ。よろしくな………んで聞きたいことがあるんだが凍也兄貴はいるか?」』

 

と、先ほどまでと打って変わり砕けた感じで三人に話しかけ聞いてくる撃龍神こと竜崎疾風。あたふたしながら答えようとした時、シャルルのラファール・リヴァイブに通信が入り耳を傾けたシャルルの耳に信じられない言葉が響いた

 

 

『デュノア隊員、急ぎこちらに着てください!燐が歪曲空間に取り込まれました!!あなたの力を貸してください!!』

 

 

「え!?」

 

 

第十五話 風と雷(前編) 了

 

 




君たちに最新情報を公開しょう!

後ろ髪引かれる思いでシャルルを残し、大阪へと凍也と共に向かう燐

しかし、それはバイオネットの罠だった!


迫り来るタイムリミットを前に我らが勇者の運命は!


ISーインフィニットストラトスー 白き翼と勇気ある者

第十五話 風と雷(後編)


次回の更新にファイナルフュージョン承認!


G-IS-07《アリエス》with《ユーノ・スクライア》


コレが勝利の鍵だ!!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。