IS/勇者王ガオガイガー─白き翼の戦士と勇気ある者― 作:オウガ・Ω
すみきった朝の空気が満ちる御凰道場の板張りの床にたつ二人の少年…一人は赤い髪が目立つ胴着姿の燐、対するは金髪の髪に水色の瞳が特徴の少年が構えながら様子をうかがう
「ッ!」
まず仕掛けたのは燐、まっすぐ胴めがけ拳を打つ…が弾かれ金髪の少年の拳が燐の顔面をとらえ堪らずグラッとふらつく…が腰を沈め身体を捻り上段蹴りを放つ、だが腕で防ぎニヤッと笑みを浮かべた瞬間、空気が弾ける音が無数に響き辺りに風が舞う、見ると互いの腕と脚、拳と蹴りがぶっかりやがて風が狭い道場内に溢れ震え出す止まる気配は見えずさらに激しさをますかに見えたその時
「そこまで!道場を壊す気ですか燐、レグルス」
「え、ご、ごめん師匠」
「悪い悪い、つい熱くなってしまったよ……でも燐、マッハを超えられるようになったな」
「え?じゃあレグルス兄貴のライトニングボルトが撃てるようになるの?」
「どうかな~まあとりあえず、身体を拭いてから飯にしようぜ燐」
「わかった兄貴!」
いそいそと外にある井戸へ向かい釣瓶を使い水を組み上げ浴びる燐を見るレグルスに蓮が口を開いた
「どうですか燐は?」
「ん、まるでダイヤの原石だな……それに本人も気付いてないかもしれないけど小宇宙に目覚めてるし、もしかしたら《獅子座》の継承者になれるかもしれないな」
「女神の聖闘士ですか…前にも燐は氣の鍛練していると宇宙みたいなのが身体の内に感じるといってましたね」
「少しずつだけど第七感《セブンセンシズ》に目覚めてるからしれないけど珠に光速拳が混じってるからな……シジフォスに俺が弟子をとったって知ったらどんな顔するかな~」
「ふう~スッキリした……ってレグルス兄貴、シジフォスって?」
水浴びを終え道着の上着を肩にかけ水を滴らせながら燐が訪ねてきた
「ん、ああ…燐には話してなかったけ。オレの師匠で射手座サジタリアスの黄金聖闘士シジフォス…みんなの模範になる聖闘士だった……っとその前にちゃんと拭きなよ…でないとオリエが」
―燐!ちゃんと拭かないと風邪曳くよ……もうじっとしてて―
「は、はい…」
プンプン怒りながら心の声でのやり取りをする二人に笑みを少し浮かべつつ寂しそうにレグルスは語りだす…誇り高き黄金聖闘士であり叔父であるシジフォスの物語を
二十数年前
異形の甲冑を纏った邪悪なる神の欲望にまみれた機械甲冑姿の戦士が黄金の箱を背負い走る少年を追う
『逃がすか人間!食らえ!!』
「くっ!」
巨大な手裏剣が少年の体を切り裂こうとした瞬間、黄金の光の軌跡が忍者を模した鎧を着た戦士の回りを通り抜けた瞬間、背後にいた機械人形が四角よりも細かく切り裂かれ消えていく
忍者?の眼に写るは黄金の鎧を纏った一人の少年…ゆっくりと手刀を構えた姿に恐れを抱く
「ここより先は山羊座、カプリコーンのエルシドが相手をしよう……邪悪なる異形よ、我が大いなる聖剣を受けよ!エクスカリバー!!」
振り抜かれた手刀から産み出された斬撃が残る機械兵?を切り裂く
「いけ!シジフォス!!その子を安全な場所へ」
「すまないエルシド…後で必ず会おう」
「ああ、わかった」
黄金の箱を背負う少年シジフォスが走り去るのを見て構えるカプリコーンのエルシドの表情からは焦りの色が見える
(あと少しだけもて…我が身と我が聖剣よ…頼むぞシジフォス!)
身体が透け始めながらもエクスカリバーを振るうエルシド…だが押し寄せるデクーの武器が突き刺さる
「ぬ、くうう!?」
『人間ごときがてこずらせてくれたな…このバル・スパロスの手で死ねることを光栄に…な、なに?貴様、腹筋を締めて』
深々と突き刺さった手裏剣が食い込んでいく様に焦りだす
「遥か…離れた…東洋の地《ニホン》には『肉を切らせて骨を断つ』とあるらしいな……内にある小宇宙よ…我が聖剣よ……邪悪なる神をも切り捨てよ……………さあ受けてもらうぞエクス・カリバー《聖剣抜刀》!!」
『な、なに!うあああああああああああああ!!』
黄金の煌めき…いや太陽の光が辺りに溢れながら滑らかに細かく切り裂かれていくバル・スパロス…エルシドの体はゆっくりと光に飲まれ消え去っていく
―………シジフォス…………この世界の希望を頼んだぞ!―
「っ!逝ってしまったのかエルシド………今は……」
天へ還る黄金の輝きを見る彼、シジフォスの腕には生まれたばかりの小さな赤ん坊がすやすや眠っているのを目にしながらゆらさぬぬよう…山と山を飛びきりたった崖を越えた
閑話 黄金の翼―クルイシキカイノカミ―
エルシドが逝き数日がたつた……私は今ニホンと呼ばれる国に来た
だがそれ以上に気になることがある。なぜ私は生きているのだろうか……心臓を抜き取り忠誠心を見せアテナ・エクスクラメーションを放った直後からの記憶がない
気がつけばサジタリアスの黄金聖衣箱の近くに倒れていた…そして夢神を倒し死んだ筈の山羊座カプリコーンのエルシドもいたことに驚いたときだ
「この鳴き声は……これは!?」
「…信じられん……この赤子…まさか」
気がついたエルシドと近くを探ると岩肌に布に包まれ元気になく赤ん坊、抱き上げると泣き止み私たちに笑顔を向ける赤んぼうから包み込むような暖かで優しさに満ちた小宇宙が溢れだすのを見て私たちはこの子を――――と確信しサンクチュアリへ向かった
だがサンクチュアリは存在していなかった、それ以上に私たちがいた頃よりも遥かに進んだ文明に圧倒された
すこしばかりの手持ちの金(金塊)を換金し必要な服を買い揃え旅をし一月が過ぎた頃だった、私たちの前にニンジャのような聖衣にも似たモノをまとった集団が襲いかかってきた
「………貴様ら何者だ」
『答える必要はない!その赤子を渡せ!!』
「……どうするシジフォス……」
「今はこの子をお守りする……」
聖衣を纏い撃退したが日に日に襲撃を受ける回数が増していき私たちは疲弊し始めてきた……街から街へ移動しながら敵の正体を探るも手がかりはなかった
ただ彼らは変わった声と同時に協力な一撃を繰り出してくる
―アタック・ファンクション!―
―必殺ファンクション!―
今まで出会った事のない未知の敵…聖衣にも似た鎧には全く見覚えがない
ただわかるのは冥王ハーデス以上の邪悪な意思…いや《ナニかに対し優位に立とうとする邪な欲望》に満ちた小宇宙を肌に感じ取った
共にこの子を守るために戦っていたエルシドはもう居ない……だがニホンの地なら安全に…
『見つけたぞ下等な種よ!ソレを渡してもらおうか!!』
「……断る、この御方は我等《聖闘士》が守る希望……お前たちのような邪悪な輩に渡すわけにはいかない」
背中にある黄金の箱が開くと人馬…黄金の翼を広げ弓と矢を構えたサジタリアスの黄金聖衣を纏い拳を構え小宇宙を高め撃ち放つ
「小宇宙よ、燃え上がれ!!ケイロンズ・ライドインパルス!!」
『ぐ、ぐああああああああ』
黄金の光と共に消え去るのを見届け時、新たな小宇宙を感じ振り返る
私の目に映ったのは神が介入したトロイア戦争に出てくる英雄アキレス…いやアキレウスを思わせれ暗い蒼と白の彩りの聖衣にも似た鎧をまとい、緑色の光を湛えた盾と剣を構えながら見下すよう私へ目を向けている
『……下懺な人間ごときに負けるとは恥を知れ………………ソレを渡してもらおうか』
今までとはけた違いの圧力…私たちを襲ってきた敵の主力のようだと判断し小宇宙を燃やし構える
「断る!」
『ならば死ね!人間!!』
大きく構えた剣を振るうのを見て拳で弾き、そのまま殴りつけるも円盾で防がれた
(恐ろしく硬い盾だ……龍聖座の盾と並ぶかも知れない…だが負けるわけにはいかない!!)
私の背後には聖衣箱に守られるよう眠る子を、この世界の《希望》を守らなければいけない使命がある、何度も何度も拳と蹴りを繰り出すも盾で防がれる
『………下等な人間にしてはよくやるな……褒美に我が最大の一撃で葬ってやろう』
―必殺ファンクション!―
不思議な音声が響くと輝きながら剣から槍へ持ち変えたアキレウスに似た者が私へ迫るが微動だにせず動かない
(風を感じ大地と一体化する……イオニア兄さん…………!)
『な、何!我が必殺ファンクションを!?』
当たるまで数センチで槍を下から弾きあげ、光速の早さで背後へ回る
「お前の敗因は相手を格下だと決めつけ実力を見誤った事だ………燃え上がれ小宇宙よ………ケイロンズ・ライドインパルス!!」
『ふん、そのような攻撃など我が盾の前では……な、何!』
ケイロンズライドインパルスの威力を凌ぐかに見えた盾に亀裂が広がっていく
『ま、まさか、いままでの盾への攻撃は我の盾を砕くものだったのか!グアアアアアア!?』
叫び声をあげアキレウス?は岩肌へ叩きつけられたのを見て聖衣箱のある場所に向かい抱き抱えようとした瞬間痛みが走った
「カハッ……」
腹部から伸びた円錐状の金属の塊…いやアキレウスが持っていた槍だと気づく
『に、人間ごときが!我らが機鎧神《アラュムチ・シィエナ》《ヤムゥヌノ》より授かった機神鎧《フレームド》を傷つけてくれたな!』
強引に抜かれた部分から血が溢れだし意識がもうろうとしながら膝をつきそうになる私の脳裏に声が響く
―シジフォス、この世界の希望を頼んだぞ―
ぐっと足に力を込めそのままアキレウスと向き合う。エルシドから託された希望を守らなければこの世界は…
『まだ立つか……エターナルテロメアーゼでの修復はあとわずかで終わる我と違い、貧弱で限られた命しか持たぬ下等な人間よ。次でお前は終わりだ!』
―必殺ファンクション!―
再び光を纏い槍をつきだすアキレウス…だが私は意識がすべて澄みわたってる。それにこの感覚…あの時黄金聖闘士が持つ第七感(セブンセンシズ)を超越した
「………!」
『な、何!』
無意識につきだした拳から光が走ると同時に槍が跡形もなく砕かれ動きが止まるアキレウスを前にし小宇宙を高める
「燃え上がれ小宇宙よ、第七感を超えろ!目覚めろ第八感《エイトセンシズ》」
『な、なんだこの力は人間が持つ力ではない!まさか我らと同じ…』
「私はお前が言う限りある命しか持たない人間だ…だが限りがある命を持つからこそあらゆる不可能を乗り越えられる……永遠の命を振りかざし人を見下すことしかできないお前達には到底理解はできん!ケイロンズ・ライドインパルス!!」
『ぎ、ギャアアアア!この程度、再生機能で修復?できないだと!なぜだ!?』
第八感に目覚めたシジフォスのケイロンズライドインパルスに天高く打ち上げられるも再生機能が機能しないことに驚きの声をあげる
「私たち聖闘士の闘法は物質を構成する原子を砕く、あるいは運動を止めるモノだ……お前の再生機能が如何なモノであろうとも物質で生まれている以上内部は原子がある……それを完全に砕いただけだ」
『バ、バカナアア――――――――』
断末魔を最後に跡形もなく消えたのを見た私は膝をついた、腹部からの出血が止まらない。真央点を突いたとしてもあと数時間の命しかもたない
「ぐ、さあ参りましょう…今から安全な場所へ私がお連れします」
聖衣箱から赤子を抱き上げ聖衣をしまい歩き出すも意識がもうろうとし始める…この子だけは安全な場所へお連れしなければ
人目を避け山中を歩き数時間、開けた場所へ出た私の前には赤い柱で作られた門に長く続く石階段…何故かわからないがサンクチュアリと似ていると感じながら石段を一歩ずつ登り木造の神殿?のまえに来た時ぐらりと身体が揺れ柱にもたれ掛かるように倒れてしまい立ち上がろうとするも力が全く入らない
ふと見上げると空には星が輝いている…腕のなかで眠る子もいつの間にかに目を醒まし笑顔で見ている
だがもう私は立ち上がれない…この子を守ることができ…な
「君!しっかりして!!」
耳に響く声に力を振り絞り顔をあげると黒い髪にワフク?姿の女性が傷を見て手当てしようとするも手を止める。助からないことを知っているからだ
力が抜けていくのを感じるも私は必死に意識を繋ぎ止め腕の中にいる子を女性へと手渡し優しく抱き抱えるのを見ながら背中に背負った聖衣箱を前に差し出し最後の言葉を紡ぐ
「……邪悪なるモノからこの子を守り戦っ……て…きたが…わ、私の…命はここまでのようだ………お願いです、この…子を……この子をお願いできますか」
「は、はい…この子の名前は?」
「そ、その子は…ぐ、ごほっ!」
「無理をしたらダメよ!」
「……いつか…わかります……そして仁・智・勇を兼ね備えた者…に……この射手座サジタリアスの黄金聖衣…を………授け…て……くださ…い」
「……」
女性へそう告げ私の意識は闇に落ちた…広がるのは只の無、だが最後の希望を託すことができて良かった
もしこの子が成長し目覚めた時は黄金聖闘士が揃っているはず………まだ見ぬ若き黄金の聖闘士よ、君たちに…………を……託す
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「き、消えた………でもこの箱と赤ちゃんは……でも安心してね。私があなたの代わりに、この子が成長するまで守ります…どうか安らかに」
「どうした?それに黄金の箱とお前の腕の中にある赤ちゃんは?」
「託されたの…きずだらけの男の子に……ねえあなた、この子を私たちの子供にしましょう」
いきなりの子供にしようと言う妻の言葉に困惑する夫…だがその目から強い意思を感じとった
「………わかった、では名前をどうする?」
「……まだ時間はあるからゆっくり考えましょう、それにまだ寒いから風邪引いちゃうわよ。あなたその箱を家に」
「ああ」
黄金の箱を背負う宮司とすやすや眠る赤ちゃんをだいたい巫女服姿の女性は社内にある家へ歩いていった
この日、神社の境内で倒れたきずだらけの一人の少年から託された赤ん坊は子供がいない宮司と巫女の養子となった日から、二十数年後に物語は動き出す
「……シジフォスはアテナと聖闘士たちの道を切り開くために心臓を秤にかけられた…死んだかと思った…でも残された小宇宙全てを禁断の技に使って天に還ったんだ……続きはまた今度だ燐」
「…レグルス兄貴。オレ、強くなれるかな…黄金聖闘士みたいに……」
「なれるさ、何せオレが燐の師匠やってるんだからな。午後からは座禅を組ながら氣と小宇宙の高める鍛練やるぞ」
「わかった!」
駆け出す燐を後ろからタオル片手に走るオリエを見るレグルスの身体がスウッと透け始めてくる
「レグルス、あなたの時間は…」
「ん、あんまりないなあ…でも燐ならオレの全てを受け継いでくれるって信じてるよ……それまで頼んだぜ蓮」
「わかりましたレグルス………燐がこれから先に起こる困難に折れることなく前へ進む心を私とオリエが鍛えましょう……」
軽くうなずく二人の背後にある神座に白い布に包まれた箱から微かに黄金の光を漏れるもやがて消え去った