IS/勇者王ガオガイガー─白き翼の戦士と勇気ある者―   作:オウガ・Ω

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四年と八ヶ月前

宇宙開発公団最深部

同リハビリルーム


「はあっ、はあっ…」


「リッ君、落ち着いて。ゆっくり握って」


「う、うう…」


束の声を聞きながら握るのは無数にならんだ卵、そのうちひとつをゆっくり慎重に握る


「そう、その調子だよリッ君」


「う、うう……うわっ?」

だが手に握られた卵にヒビが入り割れ手にベッタリと黄身と白身がつく


「は、はあっ、はあっ、はあっ!?」


「リッ君!落ち着いて!!」

声が響いた瞬間、全身から高周波ブレードが伸び床や機材、卵が乗った台を切り裂いた


「う、うう…うわああああああああ!?」


うめきながら頭を抱え叫びだすと燐はまるで崩れるように倒れ、その身体から陽炎が立ち上る。慌てて駆けつけた束がインタークーラーコートを被せ強制冷却すると全身から伸びた高周波ブレードがゆっくりと身体の中へと戻っていった


―――――――――
――――――――


「いかんの、わずかな感情の昂りで高周波ブレードが出るとはの」


「先生、このままだとリッ君は力のコントロールができないよ…どうすれば」


「うむ~燐の《細胞》と《特殊形状記憶流体金属》は感情の昂りに反応しやすい…なら方法はひとつ、燐が自分自身の身体をコントロールするしかない」


「で、でも、さっきは失敗したんだよ先生」


「なに、一人だけ今の燐をまかせられる人物を知っておる…」


そういいレイジは自身のデスクにある端末を開く。すると白髪の青年が画面に出る


『久しぶりですね。どうしたのですかレイジ博士』


「挨拶も抜きですまないの…君に頼みたいことがあるんじゃ」


『構いませんが…』


「実はワシの孫を君に預けたいんじゃが…無理ならばい」


『いいですよ』


「引き受けてくれるのか!」


『はい、貴方には色々としていただいた恩があります。喜んで引き受けさせてもらいます』


「すまんの御鷹君」


行かせる日時を取り決め通信を切るレイジ。そのまま後ろを振り返る

「…てっきり束くんは反対するかと思ったんだがの」


「い、いえ。御鷹先生ならリッ君をまかせられます…今のリッ君に必要な事を教えられますから」


「…自然科学の権威にして《氣》の使い手《御鷹蓮(ごおう・れん)》博士なら今の燐を救えるかもしれん」


「はい」


少し涙ぐむ束と共にXルームで身体を冷やされながら眠る燐を見るレイジ。燐にとって最高の師《御鷹蓮》と出会いの日は近づきつつあった





第十.五話 竜崎疾風

中国奥地。その天まで届く程にそびえたつ山々に仙人がすむと言われ、霧に隠れた最奥にまるで天から流れ落ちできたような巨大な大滝の前に二つの影が見える

 

「ろ、老師。無理です!」

 

「ホッホッホッ疾風よ、すべて理づくめで考えてはいかん」

 

 

「お言葉ですが老師。廬山の大瀑布を逆流させることなど人の力では無理です!」

 

 

ゴウゴウと勢いよく落ちる滝を前に上半身裸の竜崎疾風が叫ぶも轟音にかき消された

 

 

第十.五話 竜崎疾風

 

 

「疾風、お主の中にある力《小宇宙(コスモ)》を感じ信じるのじゃ…このような瀑布など容易く逆流させることなどできるじゃろう…」

 

「は、はい…」

 

 

水しぶきをあげる大瀑布を前に目を閉じ内にあるナニかを感じ高める疾風。バイオネットの気象兵器を破壊し日本へ向かう途中、この秘境《五老峰》へ迷い込んで数ヶ月

疾風は廬山の大瀑布の前に座した老師《童虎》(ドウコ)に人柄を気に入られ、ある闘法を伝授されていた

 

 

―小宇宙―《コスモ》

 

 

老師…童虎が言うには人の体は全て原子《小宇宙》で出来ている。この闘法はその原子を小宇宙で砕くと言うものだった

 

 

(小宇宙…)

 

内にある宇宙…小宇宙(コスモ)を感じようと目を閉じる疾風

(ほう、視覚を閉じたか…)

 

風が凪いだ次の瞬間、疾風は拳を大瀑布へ突き入れるが弾かれ拳から血が流れ落ちる

 

(どうすれば小宇宙を感じることができるんだ…)

悩みながらも拳を、蹴りを叩き込む疾風…徐々に脚と拳が赤く染まっていき岩場に落ちていく

 

 

「はあっ、はあっ…」

 

 

「疾風よ。あの時の事を思い出すのじゃ…」

 

 

「…っ?」

 

一ヶ月前、五老峰に迷い混んだ疾風…なぜかIS雷龍が起動せず途方にくれ歩いてた彼の前に現れたのは巨大な熊。牙を向き巨腕を振りかぶり殴られ岩肌に叩きつけられ意識を失い五感が薄れる疾風に牙を向ける熊を前にして《二度目の死》を感じたときだった

身体の内から沸き立つ力…銀河いや小宇宙が溢れだし無意識に立ち打ちはなった拳《双頭の龍》が熊を貫き吹き飛ばし、そのまま意識を失い気がついたときは編み傘を被った老人に介抱されていた

 

 

この場所が五老峰と呼ばれ龍神伝説発祥の地であることを知り因縁めいたモノを感じながらも助けてくれた事を深く感謝した疾風の礼儀正しさを気に入られ今に至る

 

 

(私が二度目の死を覚悟した時に感じた小宇宙…あの時の感覚を思い出すんだ………)

 

 

深く瞑想しながら構える疾風…その背中に双頭の龍が浮かぶと同時に宇宙が見えた時、カッと目を見開いた

 

 

―廬山双龍波!!―

 

 

双頭の龍のオーラが廬山の大瀑布を逆流させながら天を翔る疾風、その姿に老師も目を向ける

 

 

「フオッフオッフオッ、双龍、天を翔るか…ワシの役目も終わりじゃの」

 

 

満足そうな笑みを浮かべ童虎は誰に聞かせるでもなく呟いた

 

 

翌朝、朝靄立ち込める五老峰。廬山の大瀑布の前にたつ疾風と老師…疾風はピシッと姿勢をただし左手のひらに拳を当て頭を下げた

「老師、この数ヶ月ご指導ありがとうございました」

 

 

「そう固くなるでない疾風よ。お前が身に付けた小宇宙を正しい事に使うのじゃぞ…」

 

 

「はい老師。あなたから受けた教えは一生忘れません」

 

「うむ」

 

 

再び軽く一礼し背を向け歩き出す疾風。その姿が見えなくなるまで見送り童虎は杖をつき歩き出しやがて大滝の前に座した

 

「…疾風よ、これから先《命を守るための戦い》があるだろう…ワシは力を貸せぬが《命の獅子》と仲間たちと共に立ち向かうのじゃ…さらば…じ…ゃ…我が…最後の…弟子よ」

 

 

まるで砂が崩れるように姿がほどけ消え去る童虎…そのあとには何も残らなかった

 

 

――――――――

――――――――

 

 

「う、うまい…この料理はなんなのだ!?」

 

「中華粥です。ボーデヴィッヒさんは胃が少し弱ってるみたいですから豆乳を入れ優しい風味になるように作ってみました」

 

 

「……こんなに美味しいものがあるとは知らなかった…」

 

「いえ、この世界は美味しいもので溢れてますよ」

 

 

「そ、そうなのか……」

 

 

「それに食事はナニかをなすための力になりますから…ん、包子も蒸し上がりました。さあ暖かい内にどうぞ…ボーデヴィッヒさん?」

 

 

「……ナニかをなすためか……ではいただこう」

 

 

ナニかがない混ぜになった感情がこもった瞳を見せるラウラ、しかしそれは消え去り出来たばかりカニ身入り包子(パオズ)をハムハム食べる姿に少し笑みを浮かべる疾風の頭に声が響く

 

 

 

(疾風!なんで黒ウサギに飯ご馳走してんだよ)

 

 

(雷龍、ボーデヴィッヒさんは食の大切さを知らない……それは悲しいことだ)

 

(…ったく、お前の食のこだわりはわかったよ。だがな、なんで黒ウサギにここまでするんだよ…俺らを独房に入れてコンテナに積み込んで日本まで連れて来たんだぞ)

 

(……そういう雷龍だって前みたいにトゲがなくなったな)

 

 

(う!それは……と、とにかくオレは寝るからな!!)

 

 

 

 

それっきり声が消え、疾風はため息をつきながら空を見上げる……真っ黒な雲が広がり昼間でも街灯を着けないと歩けないほどの闇。疾風の瞳…右目が緑に輝く

 

(バイオネットの気象兵器ではないか…何とかして大河さん、レイジ博士、燐、凍也、霧也と連絡を取らなければ…ん?)

 

 

振り返ると包子《パオズ》を食べ終えスウスウ眠るラウラ、疾風は静かに蒸籠と皿を片付けると簡易ソファーへ抱いて運びそっとおろし寝かせ再び空へ向けた疾風の目に暗い空を翔るナニかが写る

 

 

(あれはガオファー?まさか燐が近くにいるのか…)

 

 

思わず立ち上がろうとする疾風…しかしナニかに引っ張られる。見ると服の裾をソファーで眠るラウラがナゼか握っている、なんとかはなそうと手を伸ばすも中々離そうとしない

 

やがてため息をついた疾風はスッと座り込んだ

 

 

(……すみません燐、私は今動くことができません。それにあの雲は高濃度の酸素で構築され私と雷龍の装備では大爆発を起こしかねません……凍也の装備ならば街へ被害を出さずにできるはず)

 

やがてガオファーが雲へと吸い込まれるように消えていく

 

 

(…少しだけ待っててください……必ず皆と合流します)

 

 

心のなかで小さく呟き座禅を組み目を閉じ疾風は瞑想を始めた

 

 

兄弟竜が揃う日は刻一刻と近づきつつあった

 

 

第十.五話 竜崎疾風 了

 





次回は本編!

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