倉橋家の姫君   作:クレイオ

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ハッフルパフの先輩

 

 朝食を除き、昼と夜は実家から食事が届くものの、コミュニケーションの場として食事の席は重要である。

 その夜、怜奈はドラコとその取り巻きとともに夕食をとりに大広間に向かっていた。魔法薬学の授業で怜奈がセブルスに楯を突いたことは、すぐに学校中に広まり、怜奈は噂の的になったが、怜奈の予想通り彼女自身に意見する者はスリザリン上級生にも現れなかった。それだけ倉橋家の力はイギリスでも強いのである。ちらちらと視線を感じるが、それはいつもの事なので怜奈は少しも気にしなかった。

 席に着くと、ドラコ達は料理を皿に取り分け、怜奈はマカロニ・アンド・チーズを少量だけよそった。実は、既に実家から届いた夕食を食べたのである。周囲の者もそれを知っているので、もっと食べるべきだとは言わなかった。

 クラッブとゴイルがシェパーズパイを口に詰め込んでいるのを視界に入れないように気をつけていた怜奈は、ふいに誰かに肩を叩かれ、驚いて振り向いた。そして、そこに立っている人物を見て一層目を丸くした。

 

 「レイナ様、久しぶりですね」

 

 「リアン!ああ、そういえば、あなたはホグワーツだったわね」

 

 「そう、ハッフルパフです。ずっとレイナ様に声をかけようと思ってたけど、いいタイミングがなくって」

 

 黄色いネクタイのがっちりした男子学生だ。彼の後ろにもう一人、同じネクタイをしたハンサムな男子学生もいる。

 怜奈に声をかけた少年はリアン・ブルーム。ハッフルパフの3年生である。彼の母親は怜奈の叔母・藤木寧々の学友兼お目付け役で、倉橋家庶流の出身だ。また、彼の父親が怜奈の母・スピカの知人という縁もあり、怜奈とリアンは幼少からの友人だった。しかし、リアンの母親が倉橋の中でも下位の家柄出身のため、母親が怜奈に対して敬語を使う姿を見てきたせいか、リアンも怜奈に対して敬語を使ってきた。直すタイミングを逸したため、二人の間ではそれが普通になってしまっていた。

 

 「私の方こそ、ばたばたしていて挨拶が遅れてしまったわ。ごめんなさいね」

 

 「仕方ないですよ。それより、入学おめでとうございます。本当はハッフルパフに入ってほしかったんですけどね」

 

 リアンが肩を竦めたので、怜奈はくすくすと笑いながら「ごめんなさい」と言った。だが、リアンはあまり気にしていないらしく、すぐに快活な笑みを浮かべた。

 

 「レイナ様はスリザリンだと思ってましたから。俺が教えることなんてないだろうけど、困ったことがあったら言ってください。力になりますよ」

 

 「まあ、嬉しいわ。ありがとう、先輩」

 

 怜奈が冗談っぽく言うと、リアンは嬉しそうに相好を崩した。

 

 「ああ、こいつは俺の親友のセドリック・ディゴリーです。セドリック、この人は俺の遠縁にあたるレイナ・クラハシ嬢だ」

 

 怜奈の視線に気づいたリアンが、彼の後ろに立っていたハッフルパフ生を紹介した。セドリックというその青年は爽やかに笑い、握手を求めた。

 

 「はじめまして。君の噂はリアンから聞いてるよ」

 

 「はじめまして、ミスター・ディゴリー。噂ってなにかしら」

 

 怜奈が手をとって小首を傾げると、セドリックはリアンを横目で見てにやりと笑った。

 

 「セドリックでいいよ。リアンの奴、君の組分けの時から『彼女は俺の遠縁で、幼馴染みたいな人だ。日本の超名家出身で、美人なだけじゃなくて頭もいい』って自分のことみたいに自慢してるんだ」

 

 リアンは恥ずかしそうに耳を赤くした。そして、やや不自然に話題転換した。

 

 「そうだ、レイナ様。スネイプに注意したって噂を聞いたけど本当ですか?」

 

 「僕も聞いたよ。理路整然とスネイプに意見したって。君、勇気があるね」

 

 今度は怜奈が顔を赤くする番だった。噂が他寮にまで広まっていることは知っていたが、面と向かって言われると少々気まずく感じる。だが、後悔している訳ではないので、怜奈は頬を染めながらも毅然とした態度を崩さなかった。

 

 「気になってしまったの。仕方ないでしょう?あのまま放っておくと、スネイプ教授の株が下がってしまいそうだったしね」

 

 「まあ、俺は今さらだと思うけど」

 

 ぼそりとリアンが呟いた。確かに、あの程度でセブルスのこれまでのスリザリン贔屓による悪評が減るとは怜奈も思っていない。ただ、目の前で見てしまったので注意したに過ぎず、言わば自己満足の行動だった。苦笑する怜奈に対し、セドリックは感心した様子である。

 

 「二人はもう食べ終わったの?」

 

 怜奈がそう言うと、リアンとセドリックははっとした風に慌てた。

 

 「ああ、そうだ!早く食べないと食事時間が終わっちゃうぜ」

 

 「そうだね、行こうか。レイナ、また話そうね」

 

 「レイナ様、失礼します」

 

 「ええ、ごきげんよう」

 

 小走りでハッフルパフのテーブルに向かう二人に手を振る。彼らが去った後、怜奈は近くに座っていた女子生徒から「あのハンサムな上級生と知り合いか」と口々に尋ねられ、冷や汗を流しながら答える羽目になるのだった。

 

 

 




 少し短め。
 新たなオリキャラが登場しました。彼は今後、怜奈の親族兼友人としてよく登場し、ムードメーカー的役割を果たします。
 また、原作キャラも登場しましたが、セドリックは今後の怜奈にとって欠かせないキャラクターになる予定です。

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