倉橋家の姫君   作:クレイオ

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クリスマス休暇

 

 日本に帰り着いたのは夜も遅かったため、怜奈は風呂に入るとすぐに寝てしまった。

 翌朝目を覚ました時、怜奈は一瞬「ここはどこかしら」と思った。そして、窓の外から見える庭園を目にして、ようやく実家に帰って来たのだと思いだした。

 朝食は家族とともに居間でとった。騒がしいホグワーツでの食事に慣れてしまったので、怜奈は久しぶりの食卓がとても静かに感じた。食事が終わると祖父、父、叔父の出勤を見送り、スピカと泰生とともに使用人を連れて買い物に出かけた。街はクリスマス一色で、各所にリースやツリーが飾ってあった。夜には煌びやかなイルミネーションが点灯するのだろう。怜奈と泰生はスピカの気の向くままに飾り立てられ、帰宅する頃には二人の使用人が両手いっぱいに買い物袋を持たなければならなかった。

 クリスマス・イヴの夕食は家族皆が揃い、大客間でとるのが恒例である。今年も嫁いだ二人のおば以外が集い、豪華なクリスマス・ディナーを楽しんだ。怜奈がホグワーツの広間を飾るツリーについて話すと、弟・泰生と叔父・泰明が羨ましがり、既卒生の祖父・道泰、父・泰成、母・スピカが懐かしんだ。クリスマス・ケーキが登場し、泰成が杖を振るとツリーに飾られたオーナメントのサンタが動き出し、怜奈と泰生にケーキの入った皿を運んだ。泰生は珍しく満面の笑みを湛え、サンタをつまみ上げてけらけら笑った。

 翌朝、怜奈は芒の声で目を覚ました。

 

 「怜奈、ご覧よ。君宛のプレゼントがたくさん届いているよ」

 

 確かに部屋を埋め尽くすほど大量のプレゼントとクリスマス・カードが積んであって、怜奈は目を丸くした。怜奈が起きたことを察した侍女の沙希が入室し、やや疲れた様子で手元のリストを読み上げた。

 

 「呪いの検査は済んでおります。差出人はマルフォイ夫妻並びに息子のドラコ様、セブルス・スネイプ様、ビンセント・クラッブ様、グレゴリー・ゴイル様、リアン・ブルーム様、セドリック・ディゴリー様。その他の方はご両親名義で届いておりますが、全て読み上げますか?」

 

 「いいえ、結構よ。それから、今の方々以外へのお返しを準備して、すぐに発送してちょうだい。彼らは倉橋の名前を目的としているのでしょうから、適当な品で構わないわ」

 

 怜奈がそう答えると、沙希は恭しく頭を下げた後、慌ただしく部屋を出て行った。クリスマスの朝は毎年、祖父と両親へイギリスの知人からプレゼントがたくさん届くのを知っていたが、今年から怜奈の分まで増えるとなると、使用人達は大わらわだろう。宛先と差出人ごとに選別し、その全てに呪いの有無を調査しなければならないのだから。

 怜奈は澪を呼び出し、親しい者からのプレゼントを分けさせた。身支度を済ませて部屋に戻ると、澪が選別したプレゼントの隣で正座をして待っていた。彼女の頭を撫で、一つ一つ開けさせる。

 マルフォイ夫妻からはエメラルドがはめ込まれた時計、ドラコからはモスグリーンの二つ折り皮財布、セブルスからは魔法薬学の新書、クラッブとゴイルは其々お菓子の詰め合わせ、リアンからは蝶モチーフのネックレス、セドリックからは開くと星や花が舞うオルゴールが届いた。

 また、枕元には両親と祖父母からのプレゼントが別に置いてあった。両親は高級バスソルトとボディークリーム、祖父母からは白地に桜柄の入った振袖を貰った。嬉しかったが、この振袖を着て正月の挨拶回りをしなければいけないと思うと、怜奈は少し憂鬱になった。

 その日、怜奈はプレゼントのお返しを確認した後、セブルスのくれた本を読んで過ごした。内容はとても難しく、今の怜奈でも調合に成功する確率は半々に思えた。しかし、クリスマス・カードには「どれか一つを調合して提出すること」と書いてあったので、怜奈は父に調合の監督を頼んだ。泰成は快く引き受けてくれた。

 

 クリスマスが終わると、倉橋家は一気に正月の準備に追われた。年末年始は陰陽師の稼ぎ時といえる。新年を迎えるに当たってお払いの依頼が増え、来る一年の運勢を占ってもらいたいという客が増えるのだ。魔法に特化しているとはいえ、倉橋家にも陰陽師は多数いる。また陰陽師達の仕事が増える分、その皺寄せが魔法省に回ってくるので、お役所勤務の多い倉橋本家は一層忙しかった。

 怜奈も本家令嬢として陰陽関連、特に退魔の依頼をいくつか任された。そうやって過ごす内にあっという間に正月がやってきた。

 正月になっても忙しさは変わらなかった。特に元旦は、倉橋本家で庶流の人々と挨拶を交わした後、土御門本家の人々とも挨拶をしなくてはいけないので、怜奈は一日中動き回っていた。堅苦しい挨拶回りを終えて帰宅すると、怜奈は倒れるようにして眠り込んだ。

 

 ばたばたしている内にクリスマス休暇は終わってしまった。再び怜奈はスピカと付き添い姿現しでキングズ・クロス駅に行き、時差のせいで襲ってくる眠気と闘いながら、リアンとセドリックと同じコンパートメントに乗り込んだ。

 

 「すごく疲れてるみたいだね。大丈夫かい?」

 

 「新年の挨拶回りで忙しくて、あまり寝ていないの」

 

 怜奈が重たい瞼を擦りながら言う。だが、まずはプレゼントのお礼を言うべきだと瞼を上げ、ゆっくりと微笑んだ。

 

 「それより、二人ともプレゼントをどうもありがとう。リアンのネックレスはありがたく付けさせて頂いているわ。セドリックのオルゴールも寝る前に聞いているのよ」

 

 「こちらこそありがとう。君のくれたクィディッチ用のゴーグル、凄くかっこよくて使い易そうだった。次の試合の時に絶対に着けるよ」

 

 「俺も箒磨きセット、ありがとうございます。ずっと欲しかったけど、高くて買えなかったのですごく嬉しいです」

 

 セドリックとリアンは実に嬉しそうに笑った。何をあげるべきか悩んだが、クィディッチ関連の物で間違いなかったようだ。怜奈はアドバイスをくれた叔父に感謝した。

 少しすると、車内販売のカートを押したおばさんがやって来た。リアンとセドリックはお菓子を買ったが、怜奈は眠気に勝てずにいつの間にか眠ってしまっていた。目を覚ました時、怜奈はローブをかけられていて驚いた。セドリックが貸してくれたようで、自分の体より一回り大きいそれのお陰で、怜奈は全く寒気を感じなかった。お礼を言うと、彼は爽やかな笑顔を浮かべて「どういたしまして」と返したので、怜奈は英国男子のスマートさに感心したのだった。

 

 




 日本の陰陽道は神道、道教、仏教などの影響を受けているので、クリスマスを祝うか?という当然の疑問はありますが、魔法に特化した倉橋家ならば祝うはずという作者の独断でクリスマスパーティーを決行。
 それと、陰陽師が忙しいのは年末年始なのか?誰かご存じありません?

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