ジョジョの奇妙な冒険 第5部外伝〜真実への探求〜   作:京都府南部民

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第27話 ワインセラーの明日①

「うへへへ~、見よ!我が誇りあるドイツに伝わりし800年の伝統!いざ、3本ラッパ飲み!」

 

「はっはっはっは!良いぞぉ、もっともっとぉ!」

 

「はむはむ、ハムハム。むしゃむしゃ、サラダサラダ。もぐもぐ、ペペッ、ペペペペペッ!ペペロンチーノ!ペペロンチーノ!」

 

テーブルに並べられた数々のイタリア・ドイツ料理

カルパッチョ、オッソ・ブーコの匂いに、シュバイネハクセの食感があれば文句を言うことは許されない

おまけに、ヴェネツィアワインをがぶ飲みしているのだ

これ以上の贅沢はあるまい

 

「よぅし、音楽流すぜぇ!我が愛しのディキシーランドジャズだ」

 

「……ゴクゴク、っぷはぁ!やっぱり、ワインはジョッキで飲むに限る」

 

「ドイツに伝わりし800年の伝統その2!極太ソーセージ10本かぶり付き!」

 

とは言うが、口に放り込んだソーセージはドイツ産ではなくアメリカから輸入されたものだ

それに先ほど飲んだビールも3本ともカナダ産

そう、このパーティにドイツ産のものは一切使われていない

見えない嫌がらせほど、性質のワルいものはない

 

「お~い。酒がなくなったぞ~」

 

「ほいよ」

 

「ん…ぶふぇ!何だこりゃ!?」

 

「あぁ、すまねぇ。お前ブランデーはダメなんだよな。こっちがワインだ」

 

「ったく、最初からちゃんと渡しやがれ」

 

キュポン!

 

コルクの音が小気味良く響く

銘柄はシャトー・マルゴー

フランスで最も格式高いボルドーワインだ

ほのかな酸味が舌を刺激する「女性的な味」にボニートは感嘆を禁じ得ない

 

「見よ!我がドイツに伝わりし800年の伝統パート3!逆立ちビール飲m…」

 

「もう、そういうのいいから」

 

「えっ、うわぁ!ちょっとうわっ!」

 

一つだけ補足することがあるなら、ワインというものは好き嫌いというより飲める飲めないのどちらかだ

体質の問題といったほうがよかろうか

少なくとも、通ぶりたい連中が最初に飲んで酷評するというのはよく聞く話だ

 

「しっかし、えぇ?豪勢なもんだな。幹部ってのはそんなに儲かる仕事なのか?」

 

「そりゃあな。どこぞのフーテン気取りのテンガロ暗殺者に比べたら……サラリは良いほうだ」

 

「フーテンとはひどいな。せめてボヘミアンだろ」

 

どちらも似たようなものだと思うが、どこかに違いがあるのだろう

だが、ホル・ホースが奔放無頼の生活を送っているのは確かだ

ある時は南米の大農場で、またある時は中央アジアの山岳地帯で、と世界を駆け巡っている

そして今はイタリアに

 

「おい、グーデン。何かしろ」

 

「待ってました!見よ我がドイツに」

 

「だから、それはいいって!」

 

「んぎゃ!」

 

「しゃあねぇ。どれ、今度は俺がやってやろう」

 

「『皇帝』の早撃ち披露とかは見飽きたぞ」

 

「誰がそんなせこいことするか。レッドソックスの応援歌だよ」

 

ナポリにボストン野球の歌が聞こえる

サッカーの町だからできる芸当であろう

 

「負けてらんねぇな、俺たちもナポリの歌だ!グーデン!」

 

「いや、僕ディナモのファンなんで、そういうのはちょっと」

 

「……………………」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

次の日

ボニート達は非常に厄介な敵に遭遇していた

お片付けだ

二日酔いの頭にはきつすぎる

 

「グーデン、そこの顧客名簿持って来い」

 

「はい」

 

「これどこに置いときゃいいんだ?もう、字が読めなくなってるが…」

 

「よこしな…何だ3年前の決算用紙じゃねぇか。捨てろ捨てろ」

 

パーティのあとの片づけほど、楽しくないものは無い

何が嫌かと聞かれると、その荒れ果てた部屋が自分たちの手によるものだからだ

酒浸しになったソファ、食い物のカスが挟まっているファイル、床に散々と付着しているチーズ

どれもこれも、自ら進んでやろうという気にはならないものばかりだ

 

「ピザもひっくり返っちまってんじゃねぇか…濡れ雑巾!」

 

「すまねぇな、ホル・ホース。水道はこの前止められちまってなぁ、唾でもつけといてくれ」

 

「唾でも?それがあるじゃねぇか」

 

ホル・ホースが指さしたソレ

昨日のパーティで残ったスコッチウイスキーだ

しかし、それだけはさせてなるまいとボニートは抱えて後ずさりした

 

「これは今日の晩酌に使うの、床拭きなんてもったいねぇや」

 

「だから愛飲者気取りは面倒なんだ。まぁ良い、ちょうどこういうものがある」

 

積まれたごみ山の底からもう一つボトルを取り出した

産地ボリビアの銘酒、シンガニだ

バケツにそれを注ぎ、雑巾を浸す

実に頽廃的な雑巾がけだ

 

「ボニートさん、台所掃除してたらこんなの出てきたんですけど…」

 

「ん?あぁ、それなぁ…確か…」

 

「確か?」

 

「そうだ、思い出した。ブラジルの知り合いから貰ったお麻薬だ」

 

「お、お、お麻薬ぅうううぅぅう!?」

 

別にそこまでビビる事ではないだろう

ギャングの事務所にある白い粉といえば大体察しがつくものなのだが、グーデンにその耐性はなかったようだ

 

「ちゃんと管理してくださいよ!小麦粉の隣に置いてあったんですからね」

 

「今度からコショウの横に置くようにする」

 

「そういう問題じゃ……」

 

抗議の声を上げようとするが、無駄だと悟ったのかそれ以上は言わなかった

今思えばこういうことは何度かあったのを思い出す

電話のメモ帳代わりに土地の権利書に書こうとしたのを必死で止めたことがある

これからもグーデンの苦労は続くであろう

 

「おい、シンガニ足りねぇぞ。やっぱりスコッチじゃねぇとな」

 

「あー、ばかばか!汚い手で触るな!折角のラベルがベタベタになっちまうじゃねぇか、もう可哀想だったねスコッチちゃん」

 

「……しゃーない」

 

「あれ、どこに行くんですか?」

 

「シンガニが無いんじゃ、ビールで拭くしかないだろ」

 

「ビールですか…………ん、ビール?ホル・ホースさん待ってください!ビールはダメです!それ僕の晩酌に…」

 

「なぁにが晩酌だ、どいつもこいつも!ビールなんて大衆蒸留酒、そこいらの安物スーパーで買えるだろうが!」

 

「や、安物!?あれはドイツの教会で作られた至高の逸品ですよ!」

 

「クライストの血はぶどう酒だ。麦じゃねぇ」

 

「そ、そんな~」

 

この3人の思考回路にミネラルウォーターを使うというものはないのだろうか

シンガニの上にビール、とてもじゃないが好いブレンドとは思えない

どうせ床に伸ばすのならウーロン茶のブレンドをおすすめする

 

「ボニートさ~ん、僕の晩酌が~」

 

「おぉ、哀れなるグーデンドルフよ。それではこの1000ユーロを使いビール5本、レタス3玉、ドレッシング、パン5斤を買いに行くがよい」

 

「う、う…」

 

「鵜?」

 

「うわぁ~ん!領収書ボニートさん名義にしてやる~!」

 

グーデンが泣きながらに事務所を飛び出した

この前のトンネルで受けた仕事との落差に泣きたくもなるだろう

 

「寄り道すんじゃねぇぞ。横断歩道は手を上げろよ。寝る前に歯ぁ磨けよ~」

 

「診断書、ボニート・E・ゼルビーニ。身長191cm、体重75㎏、虫歯経験有り……」

 

「恥ずかしいこと言うんじゃねぇよ…」

 

どうにも締まらない男だ

 




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