ジョジョの奇妙な冒険 第5部外伝〜真実への探求〜   作:京都府南部民

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第26話 水は水③

「………………」

 

この風景に似つかわしくないクラシック調のイスが一脚

座れという意味だろうか

慎重にだ。慎重にならなければ

 

『どうした?座りたまえ』

 

「!」

 

ボスの…声だ…

ポルポさんやペリーコロさんのような人間性が全く感じられない

冷たい

機械的な声でも人間的な声でもない

氷だ…解けることのない氷のような声ッ!……

 

『娘には逃げられてしまったが、君がちゃんと任務を果たそうとしたのは知っている』

 

「そ、そr」

 

『いや、それには及ばない。ブチャラティの始末は我々でつけておく』

 

!?

今のは、なんだ?

俺は声を発した覚えは無い

だが、ボスには伝わっている

緊張のあまり、記憶が吹っ飛んだってか?

いや、そんなバカなことが…

 

『ところで、報酬についてだがブチャラティの分を君に上乗せすることにした。それでも不足というのなら』

 

「それでは…あn」

 

『あぁ、君の父親アルバーノの一件は残念だったよ。有能な男だったよ、わたしの正体を探らなければ親衛隊に入れる予定だった』

 

まただ

この感覚、すべてを見透かされているような感覚

ボスは知っているというのか?俺のこれからの動きを…

 

「ですg」

 

『安心したまえ、君は信頼できる。ポルポも言っていた『良くデキる奴が入った』とね。そうだ、ブチャラティの持つシマを全て譲ろう。元々はポルポの物だ、周りの者も納得してくれるハズだ』

 

このままやり過ごすしかない

違和感だらけのこの会話を何とか果たさなければ

 

「ところd」

 

『ペリーコロ?素晴らしい人物だよ。わたしの…組織のために自ら死を選んだ。君もそれを見ただろう?』

 

「は、はい」

 

『ならば結構。…中々に楽しかったよ、こうして声で会話するというのは久しくてね』

 

ならば、姿の一つや二つ見せてもらいたいものだ

だが、俺はボスの声を知ってしまった

もし、迂闊にソレを漏らせば…ゴミ捨て場を墓としなければならない

この会話もだ

 

『新しい任務は…追って伝えよう。しばらくは『待機』を命ずる』

 

「………」

 

 

 

 

 

空気が変わった

押しつぶされるような感覚から解放された

ヴェネツィアの潮風が安心を教えてくれる

 

「よりにもよって、言われっぱなしかよ…ボニート・E・ゼルビーニ」

 

そうは言うが、流石に相手が悪すぎる

向こうはイタリア社会を半ば牛耳っている男

俺は精々町長レベル

 

「(だが、良い収穫もあった…ボスさんよ、すまねぇが少しカマをかけさせてもらったぜ)」

 

ボスはきっと気づいていないだろうな

おかげで、俺は確信を持つことができた

後は奴の所在地を調べ上げるだけ…

 

「(フフフ…やっとだ。あと一歩で掴む事ができる……この俺を24年間も縛り続けた手紙を破り捨てることができる……だが、今は『待ち』だ。そう『待ちの一手』)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

「おっ、戻ってきたか」

 

「首の皮見てみるか?」

 

「やめろ、野郎のうなじなんて見たくもねぇ」

 

軽い冗談で2人は安堵した

船着き場には中型のホーバークラフトが停留している

ホル・ホースの話によると、ここの教会の神父が島とヴェネツィアを行き来する為に買ったが、結局水上バスを利用することになり裏口で埃をかぶらせていたらしく、こちらの事情を話すと快く貸してくれたとのことだ

 

「それで、これからどうすんだ?」

 

「思うところはたくさんあるが、とりあえず事務所に戻って任務達成祝賀パーティなんて、いきましょうかねぇ!」

 

「おっ!そりゃ良いなぁ。この所、何も食っちゃいねぇからなぁ…パーッとやろうぜ!」

 

「うーん、上等なワインにかぶり付きたくなる肉、世界種々のフルーツ盛り合わせ!」

 

「イタリアだからなぁ、皿に盛られたパスタとならぁ、ピッツァピッツァも堪らねぇってモンだ」

 

「よぅし、じゃあ早速事務所に帰って、もうバックバク食ってやっからなぁ」

 

「ヒヒッ、楽しみだ」

 

 

 

―ヴェネツィア上陸―

 

「んふふふふ、ヴェネツィアのワインって言ったら世界最高峰だかんなぁ、目移りしちゃう!」

 

「なぁに、気持ちの悪いコト言ってんだ。…ん?…こりゃあ、アンダルシア産のやつじゃねぇか!へぇ、ワインショップってのも立ち寄ってみるものだな」

 

「ボニートさーん、野菜とかは買い込みましたよ」

 

一行はスデに観光気分でヴェネツィアを回っていた

パーティ用の物を買って立ち去る予定だったが、ヴェネツィアの魅力に引き込まれてしまったのだろう

ゴンドラを乗りまわし、愛の接吻の前で記念撮影をしたり、ドゥカーレ宮殿で王族ごっこもした

 

「う~ん、買った買った。これだけありゃあ、お前らみたいな食い詰め者でも満腹になるだろうぜ」

 

「お前もな」

 

「トホホ、やっぱり僕は荷物持ちなんですね……」

 

ワインショップを出ると、辺りは騒然としていた

いつもならあちらこちらと人々が行き来しているのに、今に限って一方向に流れて行っている

 

「何だ、何だぁ?」

 

「……さてな…見に行く?」

 

「野次馬になんのは悪くねぇ」

 

「えぇ~、まだ歩くんですか?もう帰りましょうよ~」

 

「ダダをこねるなよ、何かのイベントだったりして」

 

野次馬は広場を中心に出来上がっていた

しかし、人が壁になっていて何が起きているか全く分からない

ただし、警察に救急車が見えた。喜ばしいことではなさそうだ

 

―なぁ、アミーゴ。一体何が起きたっていうんだい?―

 

―見たわけじゃねぇが、話によると銃殺された死体がいきなり現れたって話だー

 

「(銃殺?…)グーデン、ちょっと持ち上げるぞ」

 

「はい」

 

「俺は?」

 

「……散歩でもしときな」

 

「…はいよ」

 

厄介払いされたというのにホル・ホースは嫌な顔をせず、その場を離れた

さて、現場を見てみよう

うむ、確かに無残だ。2人の若者の体にはそれぞれ複数撃たれた跡がある

 

「ボニートさん!アレ見て!」

 

「?」

 

この前やっと一人前にはなった部下が何かを発見したようだ

指が刺されている方向を見ると、その存在にボニートも気づいた

彼らの服に着いているアレ

それはボニートの第2ボタンにもついているアレだ

 

「パッショーネのバッジ……」

 

「これをやったのって…もしかして」

 

「…引き揚げるぞ。これ以上ここにいる理由は無い」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

 

手に持った荷物を激しく揺らしながらグーデンが後から追いかける

しかし、ボニートはそんなことお構いなしにずんずんと進んでいく

彼は一刻でも早くこの場所を離れたかった

ヴェネツィアを嫌いになったわけではない

バッジを見た瞬間、彼は感じたのだ

どこからかは分からない

だが、はっきりと感じ取った

あの大鐘楼で味わった、押しつぶされるような感覚を

 

 

 

 

数時間前の襲撃の反動もあり、3人は高速道路を悠々と進んでいた

パトカーに追いかけられることもないし、ヘリのミサイルを気にすることもない

 

「で、どうだった?」

 

「お前の察したとおりだ。モーターボートで足早に去っていく裏切りご一同様を見たよ」

 

「どこに行ったと思う?」

 

「方角からして、マルコ・ポーロ国際空港だろうな」

 

「やっぱりか」

 

陸路も海路も全てパッショーネの構成員で監視されている事を知っての行動だ

大方、そこで金持ちの私用チャーター機でも盗むのだろう

ボスがそう簡単に逃がすとは両名とも思っていない

きっと何かしらの対策を練っているだろう

 

「追わねぇのか?連中を殺っちまえば、お前の株はさらに上がると思うが」

 

「俺が上げたいのは株じゃねぇ、給料と身長だ」

 

「いわゆる三高ってやつだな。高収入・高身長・高学歴…」

 

「全く嫌な時代だぜ。時勢よりも教科書を読むやつがエラいんだからなぁ」

 

「それが時勢だろ?」

 

「……あぁ、違いねぇ」

 

ボニートの哀愁にホル・ホースが皮肉で返す

逆もまたしかりだ

2人の付き合いは、ちょうど7年前のロシアから始まった

イギリス人は「友とぶどう酒は古いほどよい」と口を揃えて言うが、7年を古いというには無理があるだろう

彼らの間には友情もなければ義理もない

だが、利害の一致というのはあまりにも寂しすぎる

何か、こう……言葉で表すのも難しい関係なのだ

 

「だけど、どうしてブチャラティは裏切ったんでしょうね?今、イタリアでぶいぶい言わせてるのは、このパッショーネのはずなのに」

 

「…………」

 

グーデンの素朴な問いを、ボニートは敢えて返さなかった

頭に残る『始末は我々の手でつけておく』との言葉

思い出すだけで、身震いする

要は『手を出すな』ということだ

それに加え絶対守秘義務を突きつけるボスの性格

簡単に答えてしまえば、ボニートも対象に入ってしまう

 

「何でだろうな……」

 

「ま、そう考え込まえねぇ方が良いんじゃねぇか?知らぬが仏だ」

 

「……何かごまかされたような」

 

空返事に納得がいかないのは仕方がない

もし、ヘタに喋ればそれこそ水道管に四肢バラバラで投げ込まれる可能性がある

何としてもそれだけは避けなければならない

 

「あぁ、もう!これからパーティだぞ!仕事の話はナシだ」

 

 





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