ジョジョの奇妙な冒険 第5部外伝〜真実への探求〜   作:京都府南部民

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第19話 かくも美しき我らの常識

「本当に終わったって感じだな」

 

「見てたのか、趣味悪ぃーぞ」

 

2人の顔色は晴れやかとは言い難い

そう、これは何度も言うように『何とも言えない勝利』なのだ

いつもの2人なら両手を広げ「やった!」の一言ぐらいはある筈だが、それもない

 

「乗客はどうだった?」

 

「ぴんぴんしてるとは言えないが、その内回復するだろう。それに向こう側も決着(けり)がついたみてぇだしな」

 

「そうかい…………」

 

思えば老化が止まっている

命綱だったロックアイスも溶け、束袋の中で水の塊になっていた

 

「あーぁ、こんなに疲れたのは初仕事以来だ」

 

「まったくだな。まぁ、スピードワゴン財団病院のリハビリよかマシだがな」

 

スピードワゴン財団

今まで学校に行ったことのないボニートでもその名は耳にしたことがあった

薬学医学に関しては世界トップクラスの権威を持つ財団

患者に差をつけず公平に診療することで有名だが、日陰者のホル・ホースが自ら進んでいくような場所ではない(無論、ボニートも日陰者である)

 

「前々から気になってたんだがよぉ、お前本当に何したんだ?」

 

「ヒヒヒヒヒ、守秘義務ってやつだ」

 

「……深くは聞かねぇよ」

 

その判断は賢明と言えよう

ホル・ホースは退院したというよりも『取引』をしたというほうが正しい

もっともそれがどのような内容なのかは分からないが…

 

「俺も一つ気になってることがあるんだが、いいか?」

 

「何だ?」

 

「その亀なぁに?」

 

ボニートの足元に亀が寄ってくる

とりあえず「大事なもの」とは認識していたが、実際のところ何なのか詳しいことはわかっていないのだ

 

「ブチャラティのもの……ってのは分かってんだけど、さっぱりだ」

 

「亀の密輸?」

 

「暗殺者をわざわざ送り込んでも欲しい代物か?」

 

「いやぁ、この甲羅の輝きといい。尻尾の色艶、たまりませんなぁ~」

 

「ゾーフィリアか……初めて見たぜ」

 

「バカ。動物愛護と言いやがれ」

 

亀がボニートの手に戻ってくる

見れば見るほど不思議な亀

甲羅にカギのような形の模様があるが、持ち主の趣味だろうか

とてもじゃないが理解できない

 

「嫌な目つきだ。俺ぁ嫌いだぜ、コイツ」

 

「アジアじゃ、これを精力剤代わりに使うそうだがな」

 

「マジか、では早速………」

 

「待ってくれないか」

 

後ろから手が伸び、亀が取り上げられる

ブチャラティだ

プロシュートとの戦いが後を引いているのか、疲労の色が見える

 

「お久しぶりだぁな、ブチャラティ」

 

「……あぁ、そうだな。ボニート・E・ゼルビーニ」

 

フルネームで呼ばれるあたり、ブチャラティのボニートへの信頼は高くないようだ

その事に勘付いたのか、ボニートは肩を竦める

 

「ほーん、コイツが噂のブチャラティか」

 

「あんたは?」

 

「俺か?俺はホル・ホース。縁あってボニートの…護衛?付き添い?まぁ、そんなところだ」

 

「そうか。俺の名前はブローノ・ブチャラティ。なり立てだがパッショーネの幹部だ」

 

自己紹介を終えたホル・ホースとブチャラティ

握手こそしないものの、互いの立場というものは説明できただろう

 

「男同士のむさ苦しい挨拶はそこらへんにしといて、だ。ブチャラティ、仕事の話を進めようじゃねぇか」

 

「俺は…いや、俺たちは今『ある人物』の護衛の任務に当たっている……」

 

「「…………………………」」

 

「そしてその人物は…」

 

ボニートたちの視線がブチャラティの手へと向けられる

亀が目の前に来たからだ

 

「この中にいる」

 

「!?」

 

「うぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

「ボスの娘!?お前、よく引き受けたな」

 

「自分でも驚いてるさ。これが幹部としての初仕事だからな」

 

亀のなかは意外と快適であった

少し湿っぽいのが気になるが、ふわふわのソファ・冷えたジュースがそれらを打ち消してくれる

ボスの娘、トリッシュ・ウナ

パッショーネのボスは、とにかく謎に包まれている

探ろうものなら社会的に抹殺、人々の記憶からも消し去られるという話もあるのだから恐ろしいものだ

それも今目の前にいるのは、そのボスの娘

ヘタに動けば、明日から下水道の水を永遠に飲まされることになるだろう

 

「で、お前らは今のところ何処に行くつもりだ?フィレンツェ行き急行に乗った以上、大体の推測はつくが……」

 

「ヴェネツィアだ」

 

「ヴェネツィアか……少し遠いな」

 

「あぁ、そこでできるだけ早い足が欲しいんだが…」

 

「ふむ、なるほど」

 

ボニートはソファ腰深く座り、どこか遠いところを見た

頭の中に残っている地図の記憶を最大限掘り起こしているのだ

副業とはいえ運送業を営んでいたおかげであろう

 

「(アヴェルサの駅は途中で見たから、今の場所は恐らくフォルミアを過ぎたか手前かのどっちかだろう。そう考えると………うん?俺たちは今どこにいるんだ?)なぁブチャラティ、そういやここってどの辺りうぇ!?」

 

亀が思いっきり揺れた

イタリアはヨーロッパの中でも地震が多い国だ

様々な原因が考えられるが、一般的にはユーラシアプレートとアフリカプレートの境目がイタリアに多く、断層が見受けられるのがその証拠である

他にも、シチリア島からアトラス山脈(正確にはカラブリア半島から)が海溝とつながっており、それが沈み込むことによって……………

 

「トラックが停まったのか?」

 

「おい、ミスタ!天井見張ってたよな?運転手に何が起こったんだ!?」

 

「え!?い、いやぁ~俺も見るのは見てたんだがなぁ~、だけど見えねぇような気も知れなくて…」

 

要はただの人災のようだ

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

「俺らはお客様だぁぞ!何で車探しなんかやらなくちゃならんのよ」

 

「黙って地図見ろボニート。サービスエリアまでどれくらいだ?」

 

「地球を5週半できる距離!」

 

「お、見えてきた」

 

「……チクショウ」

 

もはや、幹部の威厳はない

護衛のためとついてきたジョルノ・ナランチャ・アバッキオ・フーゴ・ミスタは疑問の目を向けている

 

「クソ~、いやな目で見てきやがって~俺はこう見えても年収5000万は軽くこなす男なんだぞ」

 

「『こう見えても』ってことは、少しは自覚がある訳だ。年収5000万のほとんどがドラッグマネーの奴への視線にゃ、まだ優しいほうだろ」

 

「お前はどっちの味方だ!」

 

「収入と給金が比例して多い奴の味方」

 

「守銭奴!資本主義!拝金主義!」

 

サービスエリアに到着した一行は車を盗もうと塀を超えようとする

そこに待ったがかかった

ブチャラティチームの中でも博識な人物パンナコッタ・フーゴだ

彼の主張は「車を盗まれれば通報と警察のコンピューターで1時間と持たず捕まる」というものだ

だが、反論の意見も出てくる

ミスタの主張では「またヒッチハイクをしてモタモタするほうが危険だ」になるそうだ

年長者のアバッキオはどっちともとれぬ発言

ナランチャはブチャラティの意見を聞こうというが、今ブチャラティはボスの娘のそばにおり、迂闊に動くことはできない

 

「あぁ~、話長くなりそうだから便所行ってくる」

 

「早く戻って来いよ」

 

ホル・ホースはこの論争に巻き込まれるつもりは無いようだ

 

「ボニートさん」

 

「うん?」

 

意外な人物からボニートの名前が呼び出された

ジョルノ・ジョバァーナだ

ポルポを暗殺しようとした第一容疑者の一人

しかし、ボニートにそういったものへの複雑な感情はなかった

ポルポはペンシルヴァニアでよろしくやっているし、そしてジョルノはそのことを知らず「自分が仕留めた」思っている

現状ではポルポ・ボニート側が勝ちの状況なのだ

 

「警察に追われず、それでいてスピードのある移動手段……知っていますか」

 

「…………生憎だが、運転に関しては公的にやってきたからな。この業界じゃ珍しく免停歴は0な筈だぜ」

 

「そう、ですか」

 

とはいえ、素っ気なくあしらうぐらいは許されるだろう

そもそも、ボニート達はいくら任務といえど、「客分」の立場

深い口出しは双方ともに御法度だ

 

「『100台』……『100台』盗めば、どれに乗っているか判別するのは難しいでしょう」

 

「「「「?」」」」

 

『ゴールド・エクスペリエンス』!

 

ジョルノのスタンドが車に攻撃を始めた

見積もって10台くらいか

それらの車は「カエル」へと姿を変える

これに目を見開いたのはボニートだ

『ゴールド・エクスペリエンス』の能力は植物をはやす能力だと認識していたからだ

 

「残った車に乗れば、探すのに10倍の時間はかかります」

 

「な、なるほどよー」

 

「(確かにサツの捜索網を潜り抜けるにゃ最適か……エルピディオの泣き顔が拝めるな)」

 

イタリアにこうして怪事件が、また一つ生まれた

列車ほどではないだろうが、何かしらのコラムには書かれるだろう

題名は「またもや珍事件!?車の集団失踪」となるか

 

「ブチャラティに伝えろ!車が手に入ったとな」

 

アバッキオの指示に、ジョルノは手に持った亀に顔を向けた

残った4人はセキュリティの甘い車の選別に取り掛かる

 

「よし、それじゃあ俺も一服しよう……か…な」

 

ぎゅるるるるるるっる!

ボニートの腹から素晴らしいほどに低温の重厚なハーモニーが流れた

急な事だったのか腹を抱えるボニート

あぁ、面白すぎる

 

「何で……このタイミングでぇ~、家から出るときは、ちゃんと用は足す派なのに……ぐぇ」

 

そこでボニートの頭にある言葉が浮かんだ

自分の相棒が言った最新の言葉だ

 

 

~便所に行ってくる~

 

 

「うぉぉぉぉぉおおお!あの野郎!これを見越してたって訳なんだな!」

 

サービスエリアに猛烈なスピードで駆け込む

途中で客にぶつかったが、彼の悲壮な顔に怖気づいたのだろうか、道を素直に譲ってしまった

無論、行きつく先は「toretta」の文字

 

「ホル・ホース!今すぐ出てこい!緊急事態だ!敵がやってきたぞぉ!」

 

「ハッ!今さら気づいたって遅いぜボニート!残念だが、俺は最後まで満足してから出るようにしてんだ!テメーは後20分間そこで悶絶してな!」

 

「に、20分!?おい、イタリアの憲法にはな、5分以上のトイレ占有禁止が明文化されてんだぞ!」

 

「だったら治外法権適用してやらぁ!俺の生まれた土地にはなぁ、トイレに入ったら満足するまで籠って良しとなってんだ!どうだ参ったか!」

 

「ぐぬぬぬぬ……」

 

皆様、氷の食べすぎにはご注意を

特にロックアイスなど

 

 

 

 

 

 






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