I.S.F インフィニット・ストラトス×Fate   作:ボイス

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「終わったら迎えに来る。悪いけれど、それまで此処に居てくれ」

「…………」

 抱えるセシリアを士郎はアリーナ外壁の梁に降ろしていた。

 足場はしっかりしており、外壁枠の骨組みに掴まる彼女は向き直っていた。

 士郎の顔色は悪く、呼吸は荒い。口元、頭部から流れる血で汚した面様。

「……お待ちになって」

 降下しようとする『アーチャー』の腕を、伸ばしたセシリアの手が掴む。

 足を踏み外せば怪我程度ではすまない高さ。無論のこと、『ブルー・ティアーズ』は全壊に近い損傷によって展開はできない。

 危ないと判断した士郎は咄嗟に彼女の身体を支えていた。

「……オルコット、頼むから動かないでくれ」

「…………」

 セシリアは士郎を見入るだけ。

 だが――

 こちらを見る士郎の眼の動きに若干違和感を覚えた彼女は――唐突に理解し、声を荒げていた。

「士郎さん……あなた……右眼が見えておられませんのねっ!?」

「…………」

 掠れたセシリアの声音に――士郎は無言だった。

 事実、片眼の視神経は魔術行使の影響により視えていない。

 度を過ぎた魔術は、術者の回路と神経を破壊する。

 呼吸をするたびに身体を蝕む苦痛。『甲龍』に蹴り砕かれた箇所を鉄製の魔力が補強していく。

 それでも、当の士郎はセシリアの視線から逃れるために顔を背けることしかできなかった。残る片眼が向けられた先は、眼下のステージ。

 その姿を肯定と受け取った彼女の指先に力がこもる。

「ハイパーセンサーは――視覚リンクは、視神経接続しますのよ!? 今すぐに起動なさい!」

 眼が見えていないなど悪い冗談にも程がある。もしかしたら、自分(『ブルー・ティアーズ』)や『甲龍』、『シュヴァルツェア・レーゲン』の襲撃のせいで視覚や脳に影響が出ているのかもしれない。

 まくし立てるセシリアに――しかし、士郎は困惑したように返答していた。

「いや、今の俺のセンサーは生きてないんだ。ちょっと事情があって、使えなくてさ」

「――ッ、何を呑気なことを――ならばなおさらですわ! 今すぐおやめになって! もう、あなたが傷つく必要はございませんのよっ!? それに、これ以上は、あなたの身体が持ちませんのよ!? 無理をしても、あなた自身が壊れてしまってはどうにもならないんですのよっ!? どうしてそれがわからないんですのっ!?」

「…………」

 だが、士郎は頭を振るだけだった。

「……オルコット、心配してくれるのは嬉しいよ。でも、今の皆の機体が明らかにおかしいのもわかるだろう? 何も出来ないわけじゃない。現に、こうしてお前を停めることができたんだから」

「……あなたの身に『もしも』があればとは考えませんの!? 放っておけばいいんですのよっ! 誰かがそのうち停めてくれますわっ! 例えあなたがこの場から離れたとしても、誰もあなたを咎めませんわっ! いいえっ、わたくしが、非難などさせませんし、文句なども言わせませんわよっ! ですから、どうか考え直してくださいまし! お願いですから……」

 セシリアの叫びに確証などない。暴走する機体を停めてくれる者など、この場には他には居ない。彼女自身も勝手なことを口にしているのはわかっている。だが、それでも敢えてセシリアが声を荒げるのは、これ以上傷つく士郎の姿を見ていられなかったからに他ならない。

 しかし――

 士郎は返答の代わりに、くしゃり、とセシリアの頭を優しく撫でるだけだった。

「言ったろ……現に、お前みたいに停めることができるんだ」

「……士郎さん」

 今一度、彼の名を呟いたセシリアではあるが、そこで彼女は悟っていた。

 この人は、何を言っても聴きはしない。どれほど自分の身体が傷つこうとも、そんなことは一切気にも留めず成すべきことを行うだけである、と。

 例えどんなにやめてと頼んでも、彼は笑って応えるだけだ――

 数秒ほど相手を見つめていたが、ようやくして彼女は口を開いていた。

「士郎さん……後で、お話したいことがございますの。ですから、どうか、わたくしと約束してくださいませ」

「…………」

 言いたいこと、訊きたいこと、謝りたいこと、怒りたいこと――

 口にしたいことは、それこそ多々ある。

 セシリアの両手が伸ばされ、士郎の左右の頬を軽く打つように添えられていた。

「よくお聴きになって……いいですの? 必ずわたくしの前に戻ってきますように。約束を違えましたら、わたくし、あなたを許しませんわよ。ですから……決して……決して、無理はなさらないで……」

「……ああ」

「淑女との約束ですのよ? 破ったりしたら……それこそ、永久に許しはいたしませんわ。あなたの頬を叩いて叩いて叩きまくって、そのお顔を、鏡を見るのもイヤだと言うぐらいに、無残な潰れたパンケーキにしてさしあげますから」

 パンケーキは元々潰れた形状なのだが、と喉まで出かけた言葉を士郎は呑み込んでいた。自分もまた相手の発言に対してさり気ない指摘が出来るということは、思ったよりも余裕があるのだと気づいていた。

「はは、そりゃ大変だ。なら、なおさら破るわけにはいかなくなったな。ああ、約束するよ」

「…………」

 気楽に応える相手ではあるが、セシリアの顔は浮かない。

 口にはするが、セシリアから見ても士郎の身体はもはや限界に近いのは容易に見て取れる。

 それでも彼は諦めもしなければ弱音も吐きはしない。

 安心させるかのように、士郎はセシリアの頭を再度ぽんと触れていた。

「じゃ、またあとでな」

 言って、士郎はセシリアの指を優しく取る。

「あ」 

 名残惜しそうに離れる指先を――だが、セシリアはぎゅっと握り締めていた。

 背を向け、黒弓を手に士郎はステージへと疾る。

「また、あとで……」

 士郎の言葉を反芻するように呟き、両手を自ずと胸元へと運んでいた。

 祈るように手を重ね、静かに独りごちる。

「……ご武運を」

 刹那――

 不意に、彼女の身体に悪寒が奔り抜けていた。

「――っ!?」

 慌てて背後を振り返るが――特に目立つものは視界に映りはしない。

 周囲に視線を向けはするのだが、やはり、これといったおかしなものは見当たらない。

 だが――

 誰かに見られているような、明らかな視線を彼女は感じていた。

「……なんですの?」

 狙撃者たる彼女だからこそ、同類の存在に気づいたのやも知れぬ。

 吹き抜ける強い風を受けて、セシリアは大空を仰ぐのだが――視界には、何も映りはしなかった。

 

 

 更識簪という少女は、模擬戦になれていない。

 あくまでも基礎となる戦術程度は独学で把握している。だが、それはあくまでも映像や教本による情報からの知識であり、実技学習とは違う。

 物事に対処する術も、理想と現実では大きく異なるように。

 実技訓練を殆どしていない彼女にとって、実戦――いや、これが実戦と括る状況であるかは別であろう。明らかに違和感を醸し出す橙色の機体を前に、薙刀を手にする簪の胸中は穏やかではない。未完成のIS『打鉄弐式』を纏っているとはいえ、その身は極度の緊張と恐怖に震えている。じっとりとした汗が頬を伝う。

 更識簪という少女は、授業らしい授業には一切出てはいない。整備室に閉じこもり、独自開発、組立をする己の専用機『打鉄弐式』の着手に没頭しているのが常である。

 誰にも頼らず自身ひとりで組み立てる一番の理由は、姉と比べられるからであった。

 どんなに頑張って、努力した結果を出したとしても、必ず告げられる言葉は決まっている。

「さすがは、楯無ちゃんの妹さんね」

 子供心に気づいてしまう。どんなに努力しようとも、自分は姉に勝てはしない。

 いくら優秀な成績を残したとしても、『姉』である楯無の『妹』だからという括りで出来て当たり前だと判断される。

 逆に、僅かでも結果が劣れば、浴びせられる言葉もまた決まっていた。

「お姉ちゃんは、あんなに立派なのに」

「楯無ちゃんの妹なんだから、もっと頑張らなくちゃいけないよ」

 姉の名を引き合いに出され、必ず見比べられてしまう。

 純粋に、簪は、一個人として見てもらいたいだけだった。そこには『更識家』も『姉』も関係がない。更識簪というひとりの少女を見てほしい。ただそれだけだった。

 すごいね、頑張ったね――

 褒めてほしかった。誉めてもらいたかった。

 更識楯無の妹ではなく、更識簪というひとりの人間として。

 ISを誰にも頼らず、ひとりで黙々と組み立て作業する姿は姉への当て付けであり、見返すためであろう。

 努力は人を裏切らない――

 努力は必ず報われる――

 そんな言葉は嘘っぱちだと簪は思う。どんなにひたむきに打ち込み頑張ろうとも、報われないようならば、はたして自分はどれほど『努力』を積まなければならないのか。

 どれほど辛酸を嘗めねばならないのか。

 この世界に神さまがいるならば、簪は思う。どうしてこの世はこんなにも無慈悲なのだろうか?

(わたしの頑張りは、一体、誰がわかってくれるのだろう)

 甘い考えだと言われてしまえばそれまでであろう。だが、物心ついた頃から何をしても万能な姉が傍にいたら?

 どんなに頑張って努力をしても、天賦の才を持つ姉の前では水泡と化す。

 諦念してしまい、気鬱となった心では全ての物事において卑屈な態度をとってしまうのも無理からぬことではなかろうか。

 とある哲学者が残した言葉がある。

 苦しみは人間を強くするか、それとも打ち砕くかである。その人が自分の内に持っている素質に応じてどちらかになるのである――

 簪にとっての苦しみは、まさしく打ち砕かれる存在であろう。

 人は平等を求めるが、能力は平等ではない――

 人は平等ではない――

 まさしく、その通りだと彼女は思う。

 努力が必ずしも結果を生むわけではない。生まれ持った才能の差がある場合は、同じだけ努力をしたとしても無意味であると簪はそう捉えている。

 だが、ひとつだけ簪が間違っていることがある。

 他者を妬み嫉み羨む一方で、簪もまた知らぬ誰かに同じように思われていることを。簪自身がそのことに気づいてないだけであり、自分にしかない才能があることにも気づいていない。

 誰かを羨ましいと思うように、誰かに羨ましいと思われているかもしれないことに。

 更識簪という少女は、人付き合いが苦手である。

 人との接触を極端に避ける。クラスメイトであろうとも、教員であろうとも。他人と触れ合うことは、他人の声すらも聴こえてしまう。

 他者との関わりを遮れば、不快な声を耳にすることもない。

 揶揄、嗤笑、嘲弄――

 故に、自然と自分の世界に閉じこもることにそう時間はかからなかった。

 他人の声を聴こえなくするには壁を作り、塞ぎこんでしまえばいい。

 誰も自分をいじめない。誰も自分を傷つけない。誰も自分を馬鹿にしない。

 誰も咎めず、誰も責めない。

 聴きたくもない言葉を耳にして、これ以上自信の心を傷つけられなくて済む。

 そんな彼女の磨耗する心を癒してくれるのは、アニメーション作品である。

 勧善懲悪。変身ヒーロー、ロボット作品――

 アニメーションの世界では、所詮は虚偽であり、仮想現実の類の作品であれど、簪にとっては憧れてしまう。

 困っていれば颯爽と現れ、苦しんでいれば助けてくれる。弱者を護る、そんなヒーローに。

 他人を拒絶する更識簪は、他者の干渉を一切許さず、如何様にも氷結した心は融けることはない。

 そう、衛宮士郎という男性に会うまでは。

 いつしか、氷に覆われた簪の心にヒビは入り込み、少しづつ、本当に少しづつ氷は崩れていくことになる。

 凍てつく寒い冬が終わり、うららかな日和の春が訪れるように――

 はじめて自分をひとりの『人間』としてみてくれた人。

 はじめて自分を更識楯無の『妹』とは見てくれなかった人。

 衛宮士郎がISの技術をひたむきに努力し、少しでも腕に反映させようと切磋琢磨し励んでいる姿を彼女は知っている。

 図書室で人知れず過去のさまざまな映像記録を見て独自にISの操作性、技術面を学習している彼の姿も見たことがある。

 最初の頃は稚拙な動きで、その無様な操作性に周囲は失笑を漏らしていたという話も耳にしていた。

 だが、例えどんなに笑われようとも、例えどんなに嘲られようとも、彼は立ち止まることをやめず、努力し前へと進んでいる。

 同じ努力をしている自分とは雲泥の差であることを簪は理解していた。

 どうして、笑われても平気でいられるのだろうか?

 どうして、諦めないのだろうか?

 自分は当に逃げだしているというのに。

 他人に無関心であったはずの彼女が気にかける。それが心を動かされ、興味を持つということであることに果たして簪本人は理解しているのか。

 気がつけば、簪は図書室で関連書籍を広げる士郎へと歩み寄り、何気なく訊ねていた。

「どうして、あなたはISに乗るの?」

「…………」

 深い意味など無く、何故自身の口からそう問いかけたのか、明確な答えは持ち合わせていない。

 彼女の言葉に、一瞬士郎は無言となり、僅かに視線を逸らし黙考していた。数秒の間を置いてから、彼は気恥ずかしそうに返答する。

「どうして……か? そうだな……どうして乗っているんだろうな……?」

 考えてみたところで根本的な答えはひとつ。成り行きである。だが、馬鹿正直にその経緯を簪に話す士郎ではない。

「あなたのお兄さんの操縦と比べられて、嫌じゃないの?」

「ランサーと? そりゃまあ正直に言えば悔しくないって言えば嘘になるけれど、こればっかりは俺個人の能力だからな……」

「…………」

「先の質問なんだけどさ……どうしてISに乗っているのかって訊いたけれど、正確な答えには当てはまらない上で言うと……俺はさ、自分の見える範囲の人を護るために強くなりたいんだ」

「…………」

 簪は思わず無言となる。

 が、彼女の脳裏に思い浮かんだ言葉がそのまま口から紡ぎ出されていた。

「強くなりたいから、ISに乗るの?」

「……いや、強くなりたいから乗るわけじゃない。俺には、護りたい人がいるんだ。そのために、俺は強くならなくちゃいけないんだ。その一環で、今の俺はISにも乗っているんだと思う」

「……誰かを護る……」

「ああ」

「……なんだか……ヒーローみたい」

 士郎の発言は、簪自身が好むヒーロー作品に登場する主人公が述べる口上のようで強く反応してしまっていた。

 相手の告げた言葉に、士郎もまた頷き応えていた。

「ヒーロー、か。そうだな。正義の味方、かな……」

「正義の、味方……?」

「ああ」

 口にする言葉に照れはするが、ふざけている様子は見えない。眼は真剣さを物語っている。

 幼い頃から憧れ続けた人のために、憧れ続けた物になろうと願う。誰もが幸福であってほしい、誰かのためになるならばと、そう繰り返し続けていた想い。そのために――

「俺は、正義の味方にならなくちゃならないんだ」

「…………」

 正義の味方――

 簪にとっては、夢や絵空事としか思えなかった。高校生にまでなって、まさかそんなことを実際に口にする相手がいるとは思わなかった、と言ってしまってもいいだろう。

 ISに乗ることとそれがどう繋がるのかわからず、思わず、相手には悪いが笑ってしまいかけはしたが……それでも口元が踏みとどまったのは、士郎が洒落や冗談で口にしているのではなく、本心からの言葉であるということが理解できた。

 純粋すぎるほどに、相手の眼は真摯を告げる。

 眼は口ほどに物を言う――

 そんな彼を見て、どうして笑えるものか。

 その言葉の意味を深く訊くことはできなかったが、惹かれる言葉であったのは事実。

 更識簪という少女が、衛宮士郎という少年との距離を僅かばかりであるが縮めることが出来たのは、それがきっかけでもあった。

 IS技術面の知識に乏しい彼へ参考程度に意見を述べもした。実技訓練に関しては逆に彼女が参考に取り入れられる部分も在りもした。

 互いにとって、不足している部分を教えあって補える間柄とでも言うべきか……

 衛宮士郎の存在が、更識簪の心を変えたのは紛れもない事実であろう。

 

 

「……っ、はあっ……はあっ……」

 息が苦しい。呼吸があらい。

 相手の動き全てから眼が離せぬ彼女は、心身ともに疲労困憊している。

 更識簪は戦闘が得意なわけではない。それは、持ち前の性格、気弱さが影響し、一年生の専用機持ちの中では、取り分け下位に辺るレベルといえよう。しかし、そんな彼女が他の代表候補生に劣らず、逆に勝るものがある。いわゆる情報判断能力である。

 相手の戦闘データから対処法を探し出す術は、簪にとってはそう難しい方法ではない。

 しかし――

 どんなに計算しようとも、致命的となる部分は経験である。

(怖い――)

 頭で考えてはいるが、身体が行動に移らない。

(怖い、怖い――)

 何よりも、彼女が相手にしている機体はシャルロットが乗る『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』――

 型遅れとなる第二世代型ではあれど、第三世代型と渡り合うには遜色ない機体であり、今は束により最大限界値までスペックは引き上げられている。

 そんな機体を相手に、簪が互角の攻防を繰り広げられるはずもない。

(怖い、怖い、怖い――)

 機動性、反応速度、極めつけは精密性。それら全ては簪を圧倒的に凌駕する。

 あげく、シャルロットもまた一夏と同じように狂気に呑まれ、凶暴性を増していた。普段の彼女からは想像が出来ぬ哄笑を漏らし、『打鉄弐式』へと襲いかかっている。

 抑圧された感情のタガが外れ、正常な判断が下せていない。

(怖い、怖い、怖い、怖い――)

 剣、銃器と使い分けてくる相手機体に対して、ISを纏い、絶対防御に包まれているとはいえ、今の簪の胸中を支配するのは恐怖心一色。

 正直に言えば、簪はこの場から逃げ出したかった。だが、それでも彼女が逃げずにこの場に留まる理由は一点のみ。衛宮士郎への配慮に尽きる。

 どういうわけか、相手は士郎へと向おうとしている。であれば、例えどんなに実力に差があろうとも、今この場で自分が抵抗すればするほどに、士郎への被害が及ぶこともない。

 自分自身が懸命に耐え、踏みとどまらせれば、彼へ向うこともない。

 『白式』を相手に孤軍奮闘する真耶と同様に、己もまた眼の前の一機でも押さえ込めることができるのならば――

 今の簪は自分のためにシャルロットを相手にしているわけではない。ひとえに、士郎のためである。

 彼女が誰かのために、自分の意思で動くのはこれが初めてのことであろう。

 残存するシールドエネルギーも僅かばかり。頼りとなるミサイルポッドの残弾数も無駄には出来ぬ今の簪にとって、唯一の武装は心許ない薙刀のみ。

 なによりも、相手にするシャルロットは機動性、ならびに技術性においては他の専用機持ちの中でも頭ひとつほど飛び抜けている。

 脅威となる高速切替の使い手の彼女に対し、未完成の荷電粒子砲の『春雷』と誘導ミサイルの『山嵐』が役に立つとは思えなかった。

 もとより、ハナから勝負になどなりはしない。

 『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』の行動予測がことごとく覆されている。

 簪なりに独自に入手していたシャルロット・デュノア、ならびに専用機体の詳細スペック、搭載武装、戦闘行動パターン。

 それらデータから対処するべく最善たる『行動』を導き割り出すのだが――

 シールドエネルギーが尽き、行動不能にならずいられるのも簪自身の粘りもあるが、一番の立役者となるのは竜牙兵の存在であろう。

 簪の意思に呼応するかのように、シャルロットの剣戟を防ぎ、または盾となり銃弾から護る。

 脚止めをする異形の間を掻い潜り、薙刀で斬りかかる簪ではあるが、シャルロットは意に介さず刹那に近接武装で切り払っていた。

 精密な動きの相手に綻びを生じさせるなど至難の業であり、針の穴を通すようなものだった。

 一瞬たりとも気を抜けば、即座に倒される。

 懸命に喰らいついていられるのは、全く役に立っていないとも言い切れぬ彼女の行動予測も少なからず影響している。

 半円を描くように打ち弾いたブレードを、薙刀の切っ先を巧みに絡め受け流す。

 だが――

「――っ!?」

 手元に確かに捕らえていた刀身の質量は唐突に消えていた。

 押さえ込んでいた対象が消失したことにより、なにもない虚空を薙刀が払うことになる。

 馬鹿正直に斬り合う必要などない。武装量子変換によって、シャルロットの手に握られているのは、重機関銃「デザート・フォックス」――

 バランスを崩し、背を向けるかたちとなる簪めがけて銃弾が撃ち込まれていく。

「君……動きに無駄が多いよ? 予測可能な単調すぎる攻撃。目先のことばかりに囚われすぎてる。視野が狭い。だから……」

「――っ」

「回避に頭が回っていない。教科書通りの動きが効くと思ってるのかな?」

 背部に搭載されている連射荷電粒子砲『春雷』の存在が脳裏をよぎるが、稼動データが取れていない武装が実戦で役立つはずもない。

 例え牽制で使うにしても、シャルロットを相手に効果があるとは思えなかった。逆に、射撃移行の間を狙われては自分はただの的となる。それだけはなんとしても避けたかった。

 ならば、自分に使える手段は――

「…………」

 怯えて後ずさろうとする脚を懸命に堪え、簪は意識を集中させていた。

 銃撃の雨に晒されながらも、簪は恐怖心を押し殺し――

 薙刀を両手で握り締め、スラスターを展開した彼女は『瞬時加速』による突貫を下していた。

 銃撃する相手に突貫するなど無謀であろう。シャルロットにとって、『瞬時加速』を伴う斬撃を防ぐことなど造作もない。それは、一夏を相手に模擬戦をこなしていた際によく使われた手だからだ。

 耳障りな金属音を奏で、振りかぶられた薙刀は案の定シャルロットに防がれていた。

 しかし――

 ひとつだけ、シャルロットは極々些細なミスを犯していた。今、シャルロットが相手をしているのは、一夏ではなく簪だった。更に言えば、『白式』ではなく『打鉄弐式』である。

 簪が『瞬時加速』まで使ったのは、斬撃を狙ったわけではない。本懐は別のところにあった。それは、間合い。

「零距離ならっ――」

 叫びと同時に、ウイングスラスターの板は既にスライドしており、そこから高性能小型ミサイルが顔を覗かせていた

 至近距離で起こる爆発に簪自身も巻き込まれる。

 爆風と衝撃をまともに喰らい、簪はその身を地面へと叩きつけることになる。

 十分な受身などとれるはずもなく、呼吸を詰まらせながらも彼女は結果に満足していた。

 ディスプレイに浮かぶエラーの数々。一部システムダウンが生じる『打鉄弐式』を起き上がらせ――

「これなら……いくらなんでも……」

「いくらなんでも?」

 投げかけられた声音に、簪はぎくりとし、瞬時に顔を上げていた。

 立ち込める砂塵、煙の中、ゆっくりと……だが、確かにその姿を現すのは『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』――

 簪の表情が驚きに変わる。相手の機体に損傷らしい損傷は一切見受けられなかった。

「なんだっけ? 零距離なら? 零距離なら、僕を倒せると思ってたのかな?」

「――ッ」

 防御パッケージ、ガーデンカーテン――

 二枚の実体シールドと、二枚のエネルギーシールドにより防御機能を向上させる。シャルロットの機体が全く無傷である理由は、シールド展開のために。

「……なん、で……?」

「うん。思い切りに関しては、いい判断だと思うよ。相打ちを狙ってでも倒そうという気迫は見事だね。でもさぁ……」

 二コリと微笑み、シャルロットの機体は加速する。

 一瞬にして詰め寄られ、蹴り上げた爪先は簪の腹部へ叩き込まれていた。

「――っ、あぐっ」

 蹴り倒され、苦悶に呻く簪は――更に苦痛の悲鳴を漏らすことになる。彼女の腹に機体重をかけた脚で踏みつけたままシャルロットは続ける。

「相手の武装のことを考えないで、見境なく手札を切るのはおススメしないし、得策じゃあないね。それは、ただのお馬鹿さんでしかないよ? ひとつ、勉強になったでしょ」

「うあああっ」

 圧迫される腹部の鈍痛に眼を見開きながらも、必死に暴れ簪は逃れようとするが、橙の脚部は動きはしなかった。むしろ苦痛を増加させるように逆に力を篭めて沈みこませてくる。

 助けに入る竜牙兵ではあるが――それら異形を、シャルロットの高速切替による銃撃の豪雨が粉砕していた。

「直撃すれば確かに厄介ではあるね。ずいぶんと高性能な火薬を積んでいるようだけれど、当たらなかったら意味はないよ? 『Possession inutile(役立たない所有)』……なんだっけ? 確か日本語で言うところの……ああ、宝の持ち腐れってヤツだね」

 撃ち砕かれ、崩れる竜牙兵は修復が追いついていなかった。それは、キャスターの魔力供給が低下していることを意味している。

 キャスター自身も気づいている。簪のフォローに回りはしたいが、相対する二機が邪魔をするため、思うように動くことができない。

 加減などせず、鈴とラウラのふたりを機体ごと消滅させるのは簡単だった。殺害すれば一瞬であろう。だが、敢えて搭乗者の身を優先とするのは士郎の命でもあるために。

 しかし、簪を護るために動いていたのは、なにも竜牙兵だけではない。

 シャルロットの両手に握られる銃器は、唐突に弾かれていた。

「――ッ!?」

 奇襲は続く。

 簪から引き剥がすべく、橙の機体を後退させるように降り注ぐ弓矢の群れ。

 跳び退き、足元へ着弾する『矢』を忌々しそうに見つめるシャルロットの視線が向けられる先――黒弓を構えて翔けるISの姿を捉えていた。

 一瞬にして――

 簪の眼前には、橙の機体の斬撃を黒剣で食い止める士郎がそこにいた。

 

 

 切り払うシャルロットが後方に跳び、間合いが十分離れたのを見計らい、士郎は簪の頭を優しく撫でる。

「悪い簪、遅くなった。よくデュノアを停めてくれてた。頑張ったな」

「衛宮くん……」

 向き直り、もう片方の手に白剣を呼び出し構える士郎に簪は慌てて声を上げていた。

「衛宮くん……あの人が突然……最初は機体を停める手段を教えてくれてたの、でも、突然苦しみ出したと思ったら……」

 背後で簪が立ち上がる気配を感じながら士郎はこくりと頷いていた。

「ああ、わかってる」

 眼の前のシャルロットもまた、先のセシリアと同様に負の感情に呑まれているのがわかる。

 肌に伝わる不快な雰囲気。

「デュノア……今すぐにISを解除しろ……でなければ、悪いが、俺は力尽くでお前を助けなくちゃならなくなる」

 言ったところで無駄であろうと頭では理解していながらも、士郎は口に出さずにはいられなかった。

 案の定、シャルロットは嘲笑を漏らし士郎を見据える。僅かに首を斜に傾けながら。

「助ける? 随分とおかしなことを言うんだねぇ? 僕は別に助けてもらう必要もないんだよ」

「…………」

 普段見慣れたシャルロットとは激しくかけ離れた表情。とても同一人物とは思えぬ『貌』に、士郎の表情も自然と強張っていた。

 簪を下がらせ、前に出る士郎にケラケラと笑い、手にする銃口を宙に向けながら――ああ、と思い出したかのようにシャルロットの眼が細まっていた。

「そうだねぇ……ならさぁ……僕を助けてくれるって言ったよね? じゃあ――死んでよ」

「デュノア……」

「死んでよ、士郎……君が死んでくれれば、僕は自由になれるんだ。そう、約束してくれたんだ」

 と――

 シャルロットは、自分が口にした言葉に違和感を覚えるように小首を傾げていた。

「約束――? あれ? おかしいな……? 約束って……僕は、誰と約束なんてしたんだろう……」

 ふと疑問に思う。自分は、そんな約束事を、一体誰と交わしたのだろうか。

「僕は……約束……誰と……僕は、僕は僕は……僕……ボク……ぼく……僕は……」

 父――?

 デュノア社――?

 フランス政府――?

 IS学園――?

 織斑千冬――?

 疑問符は浮かぶが答えは出ない。そもそも、何故自分は、士郎を殺さねばならないのか――?

「僕と、僕のお母さんと――」

 そこでシャルロットの思考にノイズが生じる。

 自分の母親は既に他界している。あんなに優しかった母――

 記憶はどんどんと改竄させられていく。

 疑問に思えば思うほどに、求める答えは捏造されて用意されていく。

 結果――

「ああ、なぁんだ……ひどく簡単なことじゃないか」

 ニィ、と口の端が吊り上る。ついで、シャルロットの双眸に宿るのは憎悪。その眼を見て、背をぞくりと竦ませるのは簪である。

「なんで、そんな大事なことを忘れていたんだろう」

 淡々と告げるシャルロットではあるが、表情は怒りに満ちていた。

 自分の母親が死んだのも、衛宮士郎のせいである、と。

 母が死んだ元凶――

 この男のせいで、最愛の母は死なねばならなかったのだ、と彼女は認識させられていた。

 ならば、憎む相手を許す道理がない――

「君のせいで――君のせいで母は死んだんだっ! 僕は絶対に許さないっ!」

「何を、言っているの……?」

 思わず呟く簪もまた状況が呑み込めていない。士郎のせいでシャルロットの母親が死んだ話など聴いたこともなければ、そんな情報も知りもしない。

 もとより、衛宮士郎が誰かを殺めるような人間には思えていない。

 簪の心境など知りもせずにシャルロットは続ける。

「君を殺せば、僕は自由になれるんだ! 僕を助けるって言ったよね? ならさぁ、今すぐ死んでよっ! そうすれば、僕も母も自由になれるんだからさぁっ!!」

「――デュノアっ!」

 大容量の拡張領域を活用したシャルロットが得意とする高速切替。

 斬り合っていたかと思えば銃火器に持ち替えての近接射撃、間合いを離せばブレードに変更しての接近格闘。一定の距離と攻撃リズムを保ち得意とするシャルロットの戦闘方法。

「――ッ、さすがに厳しいかッ」

 片眼が塞がれていることによって生じる掴めぬ距離感。

 まともに銃撃を喰らうわけにもいかず、感覚だけに頼る双剣による攻防。

 ならば、勝負を決めるには速攻をしかけるしかない。

 と――

 一気に間合へと踏み込み、彼は双剣を駆使して斬りかかっていた。

 シャルロットへ肉薄し、接近戦へ持ち込む士郎ではあるが――

 それが罠であることに気づいていたのは簪だった。

「ダメっ! 衛宮くん――誘いに乗っちゃダメっ!!」

 簪の叫びが士郎の耳に響くが、聴こえたところで既に遅い。

 橙色の機体の右腕の装甲がはじけ、露となる凶器。自ら間合いを詰めていた士郎は逃れることが出来なかった。

 相手が接近戦を仕掛けてくることに気づき、逆手に取っていたのはシャルロット。

 殴りつけられる衝撃――

 パイルバンカーに腹を撃ちぬかれ、鮮血が溢れ出す。

「――っっ!?」

「衛宮くんっ!?」

 臓腑を貫く激痛に、士郎の口蓋から叫びと血が吐き出される。身体を駆け抜ける想像以上の破壊力に意識を失いかけるのだが、それでも、眼に力は篭ったまま。

 リボルバー機構により、次弾炸薬が装填され連射をさせるわけにはいかない。両手に握る双剣を魔術で強化し――刹那にパイルバンカーの砲身を斬り断っていた。

 わき腹に深々と突き刺さる杭はそのままに。咄嗟に間合いを離す士郎ではあるが、激痛に膝を付きかける。対して、シャルロットは手にブレードを握り締めていた。

「死んでって言ってるでしょ!」

 視界の塞がれた右側面を取るシャルロットの手に握られるブレッドスライサー。その切っ先が士郎の首へと叩き込まれる――寸前に、斬り弾いていたのは機体ごと割り込ませていた簪だった。

「させないっ!」

 渾身の力を込めて橙の機体を払う簪の身体は震えている。薙刀を握る手も震えるが、それでも彼女は己の恐怖心を拭うように相手を見据え士郎の前に立っていた。

「……ぐっ、すまないっ、簪っ」

「お礼なんかどうでもいい! あなたの右はわたしが受け持つから、衛宮くんは相手に集中して!」

 振り返りもせずそう告げはしたが、簪は一目見て士郎の右眼が視えていないことを看破していた。

 僅かな構え、動き、それらはほんの些細なことであったとしても、観察力に長けた簪だからこそ気づいたものであろう。

 加えて、もはやこれ以上時間も掛けていられなかった。わき腹からぼたぼたと血を撒き散らす士郎の身体は既に限界であることも彼女は理解している。

(これ以上、衛宮くんには無理をさせられない……なら、わたしも出来ることを――)

 黒ずんだ血の色に気を失いそうになる簪ではあるが、己を奮い立たせると士郎の補佐をするのが、今の自分に課せられた使命と捉える。

「……わかった。でも、無理はするなよ……俺の傍から離れるな。お前は、俺が護る……」

 自分の身体よりも他人を心配する士郎に驚きと呆れを感じながらも――

「…………」

 無言のまま頷く簪――

 気配で悟る士郎――

 そのふたりが同時に動く。

 簪の操る薙刀のリーチを活かし、士郎は双剣を駆使して一気に踏み込んでくる。

 士郎の攻防を補助するように、簪は薙刀を手にカバーする。

 薙刀と双剣の二種の攻撃、リーチの異なる斬撃に、シャルロットは忌々しく舌を鳴らすだけ。

 なによりも、簪の薙刀を意識すれば双剣が迫り、士郎の双剣を意識すれば薙刀が迫る。

 さらには――

「――っ!?」

 殊更シャルロットが歯噛みするのは、簪の斬撃に乗じてフェイルノートによる狙撃を絡める士郎の存在である。

 高速切替で士郎を狙えば簪が邪魔をし、簪を狙えば士郎が邪魔をする。

 そうかと思えば、シャルロットの近接格闘に合わせた黒弓。近接射撃に切り替えれば双剣でことごとく間合いを潰してくる。いずれもその生じた僅かな隙を狙うのは簪である。

 いうなれば、士郎と簪によるふたりでひとつの、砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)

 即興であるにもかかわらず、ふたりの息が揃うかのような攻防は、士郎が簪の動きに合わせているために。

「――っ、このっ――」

 しかしながら、シャルロットにとってはたまったものではない。自身が得意とする戦法を、容は違えといえど、同様の事を再現されているのだから。

 ある意味、どちらを対象の重点に置くか二者択一を迫られる状況であろう。

 ふたりによる攻防は続く。

 簪も先までの恐怖はない。大怪我を負っているというのに、それでも果敢に攻め、傍にいる士郎の存在が己を鼓舞する。

「鬱陶しいねぇっ! 本当にさっ!」

「ぐっ――」

 叫び、シャルロットは双剣を斬り弾く。勢いのまま『アーチャー』の機体が逸れる――瞬間、簪が伸ばした手が士郎の腕を掴むと、機体重をかけて旋回する。

 遠心力を伴い――結果、眼前には再び厄介な黒と白の剣が迫ることとなる。

 呻き、シャルロットは斬り防ぐことしか出来なかった。

「目障りなんだよっ、君はさっきからっ――!!」

 業を煮やしたシャルロットが標的を簪へと定め襲いかかる。だが、当然士郎はその蛮行を黙認するはずがない。

「悪い、デュノア!」

 横から飛び掛るように斬りかかり、シャルロットの防御を崩したところへ、蹴りを叩き込み蹈鞴を踏ませ――

 プライベート・チャネルで交わされていた戦術通りに、士郎と簪は動いていた。

「下がって、衛宮くんっ!」

 入れ違うように割り込む『打鉄弐式』のミサイルポットが開かれていた。

「この距離なら――外さないっ!」

「――ッ」

 シャルロットが息を呑むが、簪が口にしたように全ては反応が遅すぎていた。

 二基による八門のミサイルポッドから放たれていた誘導ミサイル。マルチロックオンシステムが機能しなくとも、至近距離からの着弾をかわせることもできずに、爆発に巻き込まれた橙の機体は――ガーデンカーテンを展開し、爆煙を切り裂き姿を現す。

「馬鹿のひとつ覚えだねぇ! この程度で僕を倒せると思ってるの!? 甘いよ! 僕の機体は――」

「確かに、わたしひとりでは無理……でも、今は衛宮くんがいる! ひとりでは勝てなくても、ふたりがかりなら停められる!」

 立ち込める黒煙の中から聴こえる簪の声に嘲笑を漏らしたシャルロットは――

「停める!? ハッ――何を言ってるのかな、君はさぁっ!」

 だが、抜け出したその先に、視線を向けた彼女の表情は一変する。

 視界には回りこんでいた士郎が立っていた。手に握られているのは黒弓。

 更には、エネルギー媒体の矢は、既に放たれている。

 『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』の両腕、両脚の関節駆動部分を射抜れ、がくんと動きが停まったところへ、横合いから疾る簪の『打鉄弐式』のミサイルポッドが再度開かれていた。

 その間にも、シャルロットの脚止め役を買って出る士郎の攻手は止まず。『アーチャー』を駆り、頭上から射られる矢は橙の機体のスラスターを撃ち抜いていく。

 完全に逃げることも出来なくなったところへ――

「あなたは言った……()()()()()()()()()()()()。確かにその通り。だから、衛宮くんに脚を止めてもらう必要があった! 今度こそ、()()()()()()!」

 避けることも、防ぐことも、動くこともできなくなった相手めがけて八連装ミサイルが発射される。

 残る限りに撃ち込まれたミサイルの爆発による爆発。連続して起こる爆発の嵐の直撃を受けたシャルロットの意識は閃光に包まれ、そこでぶつりと途切れていた。


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