I.S.F インフィニット・ストラトス×Fate 作:ボイス
学園祭が無事終わってからというもの、布仏本音は一部の人間の雰囲気が変わっていたことに気がついていた。
違和感――
どこか態度がおかしく感じたのは、まずクラスメイトの一夏とシャルロット。セシリアとラウラに関しても、いつもと違うように感じ取れた、というのが彼女の正直な感想だった。
逆に、本音から見た箒と士郎、セイバーやランサーは変わらず、全くの普段通りだった。
一夏と士郎、セイバー、箒、セシリアとラウラは皆一緒に演劇に関わっていた。演劇の最中に何かあったのかと思いもしたが、本音が知っている範囲では特に問題がおきるようなことはなかったはずだと結論付ける。
喧嘩をしているようにも見えない。
楯無のせいで劇の途中は混沌としたものへと変わってしまったが、概ね楽しめた結果に終わっていた。
劇以降、一夏とシャルロット、セシリア、ラウラ、セイバーとランサーの姿は見ていなかった。
夕方にふらりと戻ってきたセイバーとランサーはクラスの出し物を引き続き手伝いはしたが、一夏たちが戻ったのは夜になってからだった。
クラスの頑張りによって、一年一組は好成績により目当てのデザートフリーパスを手に入れることができた。
唯一、一夏の王冠を手にする者は居らず、一部の人間に伝えられていた『織斑一夏との同部屋』はご破算になってしまったのだが。
学園祭の閉会式もつつがなく終了したが、普段であれば、お祭り好きの楯無が一言挨拶するはずなのだが、なぜか虚が代わりに締めくくっていた。
虚曰く、「会長は、はしゃぎすぎて疲れている」とのこと。
それら一連を思い出しながら、本音は、なんだろうと小首を傾げていた。。
違和感を覚える相手はクラスメイトだけではない。姉の虚、ならびに副担任の真耶に対しても同様に。
生徒会長の楯無に対しては、学園祭の演劇途中以降から、ここ数日まったく顔を見てもいない。
思いきって一夏やセシリアたちに話しかけてみれば、皆いつものように普段通りに接してくれる。
だが、ひとりでいる時、IS訓練時には、その表情は特に厳しい顔に変わっていることを本音は知っていた。
他のクラスメイト――さやかや癒子が言うには、随分と気合が入っているとは口にするが、果たしてそれだけなのだろうかと本音は考えていた。
正直に言ってしまえば「こわい」という感情。
皆、終始気難しい顔をしている。良く言って何かを考え、悪く言ってしまえばピリピリしている。
はっきりと変わったのは、やはり学園祭以降。
なにがあってそうなったのか、本音は答えを見つけられず、原因はわからない。
彼女は、ただただ小首を傾げるばかりだった。
先日のIS学園近郊でのIS展開、ならびに戦闘行為。
千冬の権限である程度は誤魔化し、または情報を隠蔽消去をしたが、それでも全てを隠しきることはできない。
国際IS委員会へ提出する報告書をまとめさせるために、セシリアとラウラは放課後別室へと呼ばれていた。
本来はセシリアとラウラのふたりも査問委員会に引き渡されることになっていたのだが、それを制したのは千冬だった。
ふたりも、と触れたように、査問委員会に身柄を引き渡すよう強要されたのは他に三人。シャルロット、セイバーとランサーである。一夏と楯無の両二名に関しては、IS学園内での出来事として関わりを抹消していた。
だが――
特にシャルロットの立場というものは微妙であった。
戦闘を行ったIS学園関係者は、真耶を含めて七人。教員ふたりの榊原菜月とエドワース・フランシィらは除外されている。この七人の中で、ケガの程度が酷かったのはシャルロットだった。
命に別状はないが、これがフランス政府にとっては格好の口実を与えることとなる。
フランス政府がIS学園と千冬に対して、責任をとるように求めてきたのだ。
「IS学園は、どのように責任を取るのか?」
「貴重な我が国の候補生に対する許しがたい行為」
「学生に実戦を強要するとはどういうことだ」
貴重な代表候補生への被害。いくらケガとはいえ、下手をすれば取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
ところが、これに噛み付いたのは当のシャルロット。
代表候補生という立場を軽んじ、首を突っ込んだことは自分の落ち度であり軽率な行為であったと認めよう。それでも、自分は友人を放っておくことはできなかった。セイバーやランサーのために手を貸したことに関しては、一切後悔はしていない。
自分自身がフランス政府から咎を与えられるのならば、甘んじて受けるつもりだったが、関係ない人間――千冬に対して――へ矛先を向けられるのが納得がいかない。
しかし、この点に関してはシャルロットもわかってはいない。IS学園において、不測の事態――『予測外事態の対処における実質的な指揮』は千冬に一任されている。
千冬の指示で行ったと言ってしまえば、それもまかり通るであろう。
とは言え、同じようにフランス政府の抗議もまた当然となる。
自分を盾にいいようにIS学園、担任教師に揺さぶりをかける態度がシャルロットは我慢ならなかった。さらにここにきて彼女を憤慨させることが起きる。
ハイエナのように何処から嗅ぎつけたのか、デュノア社まで難癖をつけてきていた。
フランス政府の対応はわかるが、デュノア社が然も我が物顔でしゃしゃり出てくるのが許せなかった。IS学園へシャルロットを編入させる際に性別を偽装していたことなど棚に上げて、である。
これにはさすがの温厚なシャルロットも、完全に怒りの限界を迎えていた。
千冬に対し――
「自国へ帰らせてください。僕が話をつけてきます」
などと、このように啖呵を切るほどに。
無論のこと、シャルロットが性別を偽り学園へ編入したこと、一夏や『白式』のデータを奪取することといった問題は実質的に解決は済んでいない。一時の感情を爆発させた、そんな彼女を帰国させる気も千冬は持っていない。なにより、大事な生徒を幾ら親族とはいえ、いいように利用しようとするデュノア社に接触させる気はない。
学園に在籍する以上は、如何なる手段を用いてもシャルロットを護る気でいる、のだが……
予想外の横槍を入れられるとは思いもしなかった。キャスターである。
彼女もまたフランス政府、デュノア社に対して、心良い感情を持ち合わせてはいなかった。むしろ敵意に近い。あげくは、査問委員会にわたしを出廷させろ、直接話をつけて来るのでしばらく留守にする、とまで告げてくる始末。
「織斑先生、二週間ほどお暇を頂きたいのだけれど、よろしいかしら? 理由? わざわざ言わないといけないの? そんなの決まっているじゃない。無様で虫けら以下のゴミ屑にも等しい馬鹿な連中を黙らせてくるためよ。のうのうとこの世に生きるのもおこがましいわ。ああ、それとシャルロットさんもお借りしたいの。当事者の意見て、
にこりと微笑みさえしていた。
たまたま居合わせていた真耶は悲鳴を上げることも動くこともできなかった。にこにこと笑いはするキャスターに対し、純粋に恐かった。
当然許可などできるはずがない。
普段は冷静に達観するキャスターではあるが、ことシャルロットに関した事柄となると熱くなり些か周りが見えていない。まるで、母親のように。
「落ち着きなさい」
「落ち着け」
セイバーとランサーもそんなキャスターに少々驚いていたりもしたのだが。
早まった馬鹿なマネはやめろと言い聴かせる――シャルロットも乗り気だったのが千冬の頭の痛いところだった――と、決して悪いようにはしないから大人しくしていろとだけしか言えなかった。
なんとかシャルロットに対する査問委員会への召喚も撥ねのけはしたが、セイバーとランサーに対してはどうあっても覆すことができなかった。当事者となるのは主にランサー、次点でセイバー。このふたりであるからだ。
ふたりはふたりで、特に反論も抵抗も示さない。むしろ自分たちだけで済むのなら、シャルロットたちに被害が及ばないようにしてほしいとさえ頼まれていた。
「すまんな……」
セイバーとランサーに頭を下げはするが、千冬とて、すんなりとふたりを委員会に引き渡すつもりなどない。
身柄を引き渡すつもりはないこと。織斑千冬が立会いのもと取調べを行うこと。あくまでも今回の戦闘行為に対してのみ言及すること。
これらを認めなければ、当IS学園は一切の情報提供、ないし委員会には応じるつもりはないと強固の姿勢で返したのだった。
「つ、疲れましたわ……」
机に突っ伏すようにうな垂れるセシリア。書き終えた横のラウラも机に伏してうんうんと唸っている。
纏め上げた報告書に眼を通した千冬は、やれやれと息を漏らしていた。
眼にした限りでは特に問題はない。概ね事実だけが記されている。誤った内容が記されていたその度に、彼女が指摘していたのだから。
まあ、よかろうと判断し立ち上がると、未だ死んだように動かないふたりへ声をかけていた。
「ご苦労だった。それとな、お前たちに伝えておきたいことがある。前以って言っておくが、非常に悪い話だ」
コーヒーメーカーから自分の愛用するカップにコーヒーを注ぎ、砂糖を探し千冬。
「な、何ですの、織斑先生?」
「…………」
含みのある言い方をする千冬に対し、思わずセシリアはたじろいでしまう。
そう構えるなと告げてから、彼女は目当ての容器からスプーンで二杯ほどカップに入れると向き直っていた。
「今朝方、とある筋からの情報が入ってな……『銀の福音』が奪取された」
「ほう……」
「それは、大変ですわね……」
世間話でもするかのような感じの相手に、伏せた顔のまま各々は呟き応えるのだが――
『!?』
耳に捉えた言葉は聴き間違いかといわんばかりに、瞬時にふたりは顔を跳ね上げていた。
ぱくぱくと口を動かし、信じられないといった表情で。
「なっ――」
「ど、どどど、どういうことですのっ!? うば、奪われたっ!? あの『銀の福音』が奪取されたと仰いましたのっ!?」
ばんと机上を叩き、セシリアは身を乗り出していた。
同様とまではいかないが、ラウラの眼も驚きに見開かれている。
あの『銀の福音』が奪取された――?
そんな話はにわかに信じられるはずもない。
瞬時に臨海学校での出来事が思い出されていた。
自分たちが命がけで停めた暴走機体。
ラウラにいたっては、あの機体はコアは無事であったが、暴走事故を招いたことにより凍結処理が決定され、アメリカ軍が何処かに永久封印したと報告を受けていた。
事実上の封印のはずである。あれほどまでの軍事スペック搭載のISを野放しになどできようか。
暴走事件時は、場所が海上故に民間人に被害が出なかったからまだしも、都市部で暴れでもされてはゾッとしてしまう。
大型スラスターと広域射撃武器を融合させたシステム。36もの砲口をもつウィングスラスター。
常時瞬時加速と同程度の急加速が行える高出力の多方向推進装置によって、超高速飛行されながら、高密度に圧縮されたエネルギー弾を全方位へバラ撒かれでもすれば被害は甚大であろう。
だが――
「落ち着けオルコット。やかましくてかなわん」
一言のもとに斬り捨て、千冬はコーヒーを口にしていた。
「こ、これが落ち着いていられますのっ!? 重大なことですのよ!? 何をのんきにしておられますのっ!?」
「そ、そうです教官! 『銀の福音』が奪取されたなど……冗談にも程があります!」
「わたしは冗談は嫌いだ」
『…………』
なぜそうも冷静でいられるのだろうか。
だが、千冬とて落ち着いているわけではない。ふたりは気づいていないが、彼女が淹れたコーヒーは塩味が効きすぎている。
顔に出すわけにもいかず、何事もなかった風に装い、千冬は一口だけ啜ったコーヒーを以後手には取らなかったのだが。
「この件に関しては、既にアメリカ政府が動いている。奪取されたとはいえ、それが何処に運ばれているかもわからん。知ったところでどうにもできんさ」
「し、しかし! だからといって、黙っているわけにもいかないでしょう!?」
「そ、そうですわ。情報を公開して、至急各国との連携を――」
ふたりが口にする甘い考えを、呆れた顔をして千冬は言い捨てていた。
「できるわけがなかろう? ISを盗まれましたなど。面子を優先する連中だ。しかも、暴走事故を引き起こして永久封印とされたはずの『銀の福音』だ。公表したくとも公表できん。オルコット、お前の国の二号機と同じようにな」
「それは……」
千冬にそう指摘されては、ぐうの音も出ずに黙ってしまう。
公に『サイレント・ゼフィルス』が奪取されたなどとは世界に公表していない。盗まれたなど、恰好の笑い草であり恥の何者でもない。実際に、イギリス代表候補生たる自分も、眼にし相対するまで知らなかったのだから。
無言となるセシリアに……息を吐き、だがな、と千冬は言う。
「遅かれ早かれ、この事実は、お前たちの耳に届くことだ。だが、今しばらくは公表はされずに隠匿される」
特にドイツともなれば、情報収集などはお手のものだろうとも踏んでいた。
「今一度言うが、アメリカにとっては二度目の失態だ。まずは自分たちで取り返そうとするだろうし、事実の隠蔽に躍起になることだろう」
「しかし教官、奪取されたとはもしや……」
ラウラが口にする思い当たる組織。
「亡国機業、で間違いございませんわね?」
後を継ぐように言葉を吐いたセシリアに、千冬は静かに頷くと今朝の出来事を思い出していた。
早朝の職員室、教員の姿もまばらの中、眠気覚ましに淹れたコーヒーを手にした千冬は自席に腰を下ろしていた。
と――
机に置いていた携帯電話から着信を知らせる電子音が鳴り響く。表示される名前に、千冬は眉を微かに寄せていた。
「こんばんは、ブリュンヒルデ、ああ、そちらの時間帯はモーニングでしたか?」
「珍しいな。お前がかけてくるとは」
「ええ、海以来ですね。お久しぶりです」
電話の相手は、ナターシャ・ファイルス。
コーヒーを手に取り、それでどうかしたかと問いかける。
「わたしとしては、のんびりとお話をしたいところなのですが、そうもいかないところでして……この通話記録も恐らく傍受されます。誤魔化せるのも数分なので、用件だけ伝えさせていただきます。よく聴いてください」
相手も口調、物腰から妙な雰囲気を感じ取った千冬もまた表情を強張らせていた。
「……なにがあった?」
「あの子――『銀の福音』が奪取されました」
「なんだとっ!?」
唐突に伝えられた内容は、彼女を驚かせるに十分な内容だった。
極力声を抑えたつもりでいたためか、周囲の教員に聴かれることはない。それでもさらに声を潜めて千冬は問いかけていた。
「奪われたと――いったい何処にだ?」
「亡国機業です」
亡国機業と聴き、千冬は苦い顔をする。
「……そんな情報は届いていないぞ」
「でしょうね。アメリカが全力で停めていますから。まだ何処にも漏れていない、ホットな情報ですよ?」
なにせ、現場に携わる人間からの話ですから、一番乗りですよ、とおどけた口調のナターシャは続ける。
「情けないことに、ものの見事にやられました。イーリも今はベッドの上です」
イーリと聴き、あいつもやられたのかと千冬は瞬時に悟っていた。
「……無事なのか?」
「あら? 心配してくれるのですか?」
「茶化すな」
「ふふ、失礼……イーリは命に別状はありません。頑丈だけが取り柄みたいで。わたしもですけれど……襲撃された基地兵士も重傷者は多いですが、死者はいません」
「死者はいない?」
「ええ。でも、基地の主要施設は見事に破壊されました。『
「アイツの機体とは確か……」
「ええ。お察しの通り、アメリカ第三世代型国家機体です。それも一緒に、恐らく奪われています」
「……『銀の福音』に実験機ともなると、上は黙っていないだろう?」
痛いところをつかれ、ナターシャもまた苦笑を含んだ声音で返答していた。
「
それはそれで、ある程度自由が利いて動けるんですけれど、とも応えていた。
「厳重なかん口令が敷かれていますので、情報が漏洩すれば、それ相応の処罰は受けることでしょう」
「ならば……なおさらだ。なぜ、そんな話を?」
「頼れるのが、あなたしかいないから」
「――っ」
隠すことも、下手に言葉を並べることもなく、ナターシャはただそれだけを口にしていた。
「行動制限がされている、今のわたしはなにもできない。気をつけてください。それだけを伝えたかったの。特に、ブリュンヒルデ、あなたの弟さん……素敵な白いナイトさんにも伝えてください。はっきり言いますが、嫌な予感がしてなりません」
「…………」
「弟さんも、先日、亡国機業に襲われたと聴きました。学園祭だったというのに災難でしたね」
「詳しいな。ある程度は規制を張っていたハズなんだがな」
「こちらの情報網は優秀ですよ。何人かの子が査問委員会にかけられそうなことも知っています」
「……実に見事な情報網だ。感心させられる」
「ふふ、もし、
面白いことになりますから、と笑う相手だが、千冬は苦笑を浮かべざるをえなかった。
「自国のことだろう? そんなことをすれば、お前の身にも不都合が生じるかもしれんぞ?」
まさか、そんなカードを握らせるために危険を承知でかけてきたのかと彼女は思う。
しかし――
「形振り構っていられないの。今のわたしは……話はそれだけです。お手間を取らせていただき、申し訳ありません」
言って、通話を切ろうとした相手に――しかし千冬は言葉を滑り込ませていた。
「待て」
「…………」
その言葉は相手に届いていたのか、通話はまだ続いていた。
千冬は口早に告げる。
「……
「…………」
「口実など幾らでも作れる。傷を癒すためやら、IS実技講師として
「……聴かせてください」
「早まった馬鹿なマネはやめろ。こんなわたしでも、力を貸すことにはやぶさかではない」
「…………」
しばしの無言。だが、かすかに含み笑いが千冬の耳には聞こえていた。
「ええ。その時には、お言葉に甘えさせていただきます。すみません。本当に時間切れのようです。なにかありましたら、またこちらからご連絡します」
「ああ。無茶はするなよ……」
「ふふ、それでは」
バーイ、とだけ告げられると、通話は切れていた。
今朝のやり取りを思い出していた千冬だが、割り切るように言う。
「このことを知っているのは、わたしと山田先生とお前たちふたりだけだ。いいか、くれぐれも絶対に他人に公言するな。特に、織斑と篠ノ之にはな」
「な、なぜですか?」
これに異を唱えたのはラウラ。彼女は福音を止めたのは彼であり、事実を知るべきではなかろうか、何よりも自身が敬愛してやまない千冬の弟である。
「ふたりとも満足な洞察力、観察力を身につけていない。操縦技術に関してもなおさらだ。自分たちの機体性能を存分に発揮できてもいない。そんなところに今回の事件を報告できるか。下手に知って、下手に動かれても困るだけだ。想像してみろ。織斑の耳にでも入れば、あいつは間違いなく勝手に動こうとするぞ」
「…………」
あの時のように、わざわざ機を逃したり、命令無視で飛び立ったりされてはかなわんからなと告げる。
『紅椿』を手に入れて浮かれる箒と、絶好の機会を逃し密漁船を守る一夏。ふたりの行動を思い出したセシリアとラウラは言葉もない。
だが、それは本当にIS技術不足によることだけだろうか。
千冬本人でも気がついていないように、ただ一夏を危険事から遠ざけているようでしか他ならない。
「なにも、そんなに険しい顔をするな。伝えるときは、わたしから伝える。いいか、絶対に他言することは許さんからな」
「……はい」
返答するセシリアとは違い、ラウラは真っ直ぐに千冬を見入り訊ねていた。
「教官、ひとつお訊きしてもよろしいですか?」
「……織斑先生だ。まぁいい。なんだ、ボーデヴィッヒ」
「なぜ、わたしたちにこの話をされたのですか?」
「なんだ、そんなことか」
呆れたように肩を竦めて見せると、千冬は話し出していた。
「お前たちに話したのも、現時点で話すに値すると判断したからだ。どちらかといえば、専用機持ちの中でも慎重派と捉えたこと。それにな……」
「それに?」
訊き返すセシリアに、ニヤリと笑い千冬は言う。
「ふたりがかりとはいえ、それでもいいようにあしらわれたお前たちならば、知っておくべきかと思っただけだ」
『…………』
「お前たちを信用しているからだ、と言えば満足か?」
そうまで釘を刺されては、ふたりは不承不承、素直に頷き返答せざるをえなかった。
だが、千冬が口にした「わたしが伝える」とは言うが、それは一体いつになるのだろうか……喉まで出かけた言葉をセシリアは無理やり呑み込んでいた。