I.S.F インフィニット・ストラトス×Fate   作:ボイス

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 第二整備室に士郎と本音は足を運んでいた。

 目的はひとつ。先日、楯無との模擬戦により破損した『アーチャー』を修復整備するために。

 模擬戦とは言え無傷ではない。戦闘行為により、損壊した部分を補修するため、士郎自身が直せるところは直し、システム系統に関しては本音に手伝いを頼んでいた。

 千冬と真耶は状況を知っているだけにIS実技の授業では口裏を合わせて士郎に訓練機を使わせていた。とは言え、事情が事情ではあるが、いつまでも訓練機を使うわけにも行かない。

 名目上はデータ取りを生業として『アーチャー』を士郎に与えたものである。使い潰してハイ終わりとはいくはずもなく。当たり前ではあるが、世界に限られた数しかないコアの一体である。放置するわけにもいかず、当然修理をしなくてはならない。

 そのため、本音の協力を得て機体整備に着手することになった、のではあるが――

「ひゃー、しかしまー随分と派手にやったねーエミヤん」

 ハンガーに吊るされた機体を改めて眼の当たりにした本音は正直な感想を述べていた。

「外装もボロボロだし。まー、あの会長の『清き熱情』を直撃したから無理もないかな――て、んー?」

 首を傾げながら機体をじっと見入る彼女。破損した一部に顔を寄せ、無言のまま。さらにはぶかぶかの袖をまくり指先で断面をなぞってさえもいた。

 本音の様子が気になり士郎は声をかける。

「どうかしたか?」

「…………」

 問いかけには応えず、ひとしきり損壊箇所を見て回る本音は――やはり先と変わらず首を傾げるだけ。

 不思議そうに『アーチャー』を見ながら、やっと士郎へ返答していた。

「んー、なんだろう……おかしな感じがするんだよね。なんだか、壊れた部分が……例えると、まるでガラスで造られたような感じ……」

 顎に袖を当てて――だが、本音のその表情は、眉を寄せたものへと変わる。

「それに、ISは本来自己修復機能があるんだけれどねー、エミヤんのはどういうわけか機能してないっぽいんだよねー。なんでだろー? エラーかなー?」

「…………」

 無言ではあるが、本音の後ろに立つ士郎は内心でぎくりとしていた。整備事に精通している彼女の観察眼はやはりすごいなと胸中で呟く。

 あくまでも装甲は士郎の得意とする投影のもの。言わば外面だけでしかない。本来のIS装甲修復機能など施されているはずもなく。新たに投影しなおしたパーツと組み替えていくしかないため、本音の指摘に対し、士郎は正直気が気でならなかった。

 ならびに、いつまでもこのまま投影だけでやり過ごすことにも限界が来ている。少しずつではあるが正式な装甲を手配してもらい組み替える必要もある。故に、願わくば、どうかこれ以上深く追求されませんようにと念じながら――

 ――と。

 願いが叶った、と言うわけでもなく、よくわかんないやとすんなり諦めたのか、本音は手際よくコードを『アーチャー』につなぎ、機体データを展開しはじめていた。各スペックを用途に合わせて調べていくと、しばらくして無言のまま見入っていた彼女は、うーんと小首を傾げていた。

「ハイパーセンサーの値がずれてるね。センサーが衝撃の影響でこれってなると、他のも結構ずれがあると思うよー?」

「……それはつまり、直りそうってことか?」

 最悪では廃棄なのかと心配する士郎だが、本音はぶんぶんと頭を振っていた。

「うんうんー、大丈夫ー。壊れたわけじゃないからねー。システム値に関しては修正すれば元に戻るよー。間接部分の部品は代えないとダメかもねー。まーやれるトコまでやってみよー」

「助かる」

「えへへー、頑張るからー、苺がいっぱい乗ったホールケーキが食べたいなー」

 振り返りにこりと笑う本音に、ああそれならと士郎は頷く。

「なら、プリンもつけるよ」

「おおー、頑張るよー!」

 追加デザートの言葉に火がついたのか、勢いよくかちゃかちゃとキーボードを叩いていく本音。片手でキーを叩きながら、もう片方の手は制服のポケットからチョコレートを取り出していた。片手だというのに器用に包装紙を剥がし口へと運ぶ。

 無償ではなく、ちゃっかりとしているところがいかにも本音らしい。見返りのお駄賃はエミヤんのケーキだー、と確約できたことを嬉しそうに口にしながら。士郎もただで手伝ってもらうつもりはない。本音の約束には苦もないことだ。逆に言えばお菓子程度で手を貸してもらえることに感謝している。

 余談ではあるが、こちらの世界に来てからお菓子を作る機会が格段に多くなった。

 先日も、ラウラに頼まれたお菓子を作ったものだった。その際に一騒動あったりしたのだが。

 料理に関して言えば、士郎は和食が尤も得意とするものだ。どちらかと言えば、作れなくはないが菓子類というものはそれほど得意なものではない。

 お菓子系を作ることになったのも些細なもの。一夏が千冬にコーヒーゼリーを作ることがあるという話をたまたま聴いてからだ。

 気まぐれで甘みを強くしたものを作ってみたのだが、これが意外にも好評だった。このことをきっかけに、彼は菓子も作るようになっていく。

 なにかに作ってと頼まれた当初は、本を片手に見ながら作ったものだ。だが、次第に数をこなしていくうちに、いつしか士郎なりのアレンジが加わったいわゆる「オリジナル」が作られていくことになる。数をこなせば当然レパートリーも増えるものだ。

 菓子製作の腕も上がっている。桜や凛、イリヤスフィールが知ったらそれは驚くことだろう。

 眠たそうな顔のまま、だが相変わらず一年生でありながらIS整備の腕は確かな本音。チョコレートを片手に作業している格好がどうもいまいち納得はできないのだが。

「うーん……見た限りだけど、たぶんスラスターの方は問題ないと思うよー。目立った問題もこれと言ってないとは思うけれどー、後は実際飛んでみてからかなー。不具合があるかどうか調べて微調整はしないとだけどねー」

 かきり、と音を立ててチョコレートを齧りながら――思い出したようにくるりと向き直ると、本音は士郎の腰を袖でぺしぺしと叩いていた。

「エミヤん、物理シールドはつけないのー?」

 シールドと聴き、士郎はスパナで腕部装甲のボルトを締める手を停めていた。

「慣れないものがあるからなぁ。俺には必要ないかなぁ」

「ふーん、エミヤん剣でビシバシとあーって飛んだり跳ねたりするし、弓でぴゅんぴゅん射抜くの得意だもんねー。受けに回るって言うよりか、それすらも攻めに転じてるしねー」

 言いながら、本音は身振り手振りでばたばたと動いてみせる。彼女の言うとおり、盾に頼り戦うよりは、双剣で攻防をする方が性に合っているものがある。双剣であれば、瞬時に防御にも攻撃にも転じることが出来るからだ。

 そっかそっかとひとり納得すると――再度チョコレートを齧りながら――本音はケーブルに接続したノートPCの作業に戻る。ダルダルの袖だというのにかちゃかちゃとキーボードを叩いていく。

「ねー、エミヤん、訊いてなかったけれどさー、会長と何で模擬戦なんてしてたのー?」

 機体反応速度の数値を照らし合わせながら作業する本音は何気なく声をかけていた。

「あぁ? あー」

 正直な話をしたとして、眼の前の少女は果たして理解するだろうか……と、ついそんなことを考えながら、士郎もまたスパナでの作業をこなしながら返答する。

「……ちょっとしたことがあったんだ。それはもしかしたらどうでもいいことかもしれないことなんだけどさ、でも、俺はそれがすごく気になった」

「…………」

「ひとりあれこれと考えて悩んだところに、尻を叩かれてな」

 『尻を叩く』という言葉を使い濁しながら彼。だが、触れた内容は事実であり間違いではない。

 果然として、本音は小首を傾げながら訊き返していた。

「悩んでるのに叩かれるのー? お尻叩かれると痛いよねー。わたしもお姉ちゃんに怒られて叩かれたことあるしー。じゃーわたしが慰めてあげるー。頭撫でてあげるよー」

「なんでさ?」

 苦笑を浮かべながら士郎は作業を続けていた。「ぶー」と声を漏らしながらキーを叩く本音に今一度視線を向け――考える。

 包み隠さず話をした場合、彼女はいったいどんな反応を示すだろうか。

 きちんとした説明をするかどうか迷ったが、敢えてそれ以上なにも言わなかった士郎は――不意に、そこで彼の視線はとある箇所へ向けられていた。

「あの子……」

 視線の先に立つのは、以前見たことがある眼鏡をかけた水色の髪の少女。相手も此方の存在に気づいたのだろう。ちらと一瞥だけして、何事もなかったかのように自身の作業に戻っていた。

 無言のまま、じっと見入る士郎に気づき、チョコレートを食べ終えた本音もまた「どうしたのー?」と視線を向け――

「あー、かんちゃんだー」

「かんちゃん?」

 訊き返しながらも、目線は以前見た打鉄弐式の整備作業をこなしている少女から外れることはない。

「かんちゃんはねー、専用機が完成しないから学園の行事ぜーんぶ休んじゃってるんだよー。クラスリーグマッチも学年別タッグトーナメントも。楽しいこといっぱいあるのにさー。臨海学校も行かなかったんだよー。夏休みも何処にも行かないで、ずーっと弐式を組み立ててるの」

「…………」

「まー、本当のところは、おりむーのせいなんだけれどねー」

「一夏のせい? 布仏、それってどういうことだ?」

 聴き咎めた言葉を問いただそうと本音に向き直る士郎だが、返答の声はない。それもそのはず、本音は応えず少女の方へと駆けていた。どうしようかと迷った士郎ではあるが、彼もまた後を追うようについて行った。

 士郎が歩み寄ったころには、少女の横をちょろちょろと忙しなく動き、ぴょんぴょんと飛び跳ねてもいる。

 明らかに少女の作業の邪魔をしているのが丸わかりだ。煩わしそうに眉を寄せる相手に、さすがにまずいと思った士郎は注意していた。

「布仏、相手に迷惑をかけるなよ」

「えー、かんちゃんに迷惑なんてかけてないよー。ねー、かんちゃん?」

「…………」

 自覚がないのか本音はけろりとそう応える。だが、相手の少女の表情が物語る意味を士郎は見逃していなかった。

 手伝う、やめて、と会話を交わすふたり。

 改めて少女を見るが、やはりどこかで見たことがあるような気がしてならなかった。他人の空似、とはこういうことを言うんだろうかなと考えながら。

「何手伝うー? スラスターの出力調整ー?」

「やめて……触らないで……お願いだから……」

 勝手にかちゃかちゃとキーボードを叩く本音を引き剥がそうとするのだが、全く動こうとはしなかった。

 眼につく行動に出始めた本音を慌てて士郎は制止する。

「いいからやめろって布仏、この子も嫌がってるんだからさ。ええと……」

 そこで士郎は少女に視線を向けて言葉が続かなくなっていた。よくよく考えてみれば、相手の名前を知らないからだ。

「かんちゃんは『簪』て言うんだよー。髪飾の簪てあるでしょー? あの字の『カンザシ』だよー」

「カンザシ?」

 首を傾げる士郎に頷き、少女の腕を取って本音は楽しそうに口を開く。

「あー、そういえばエミヤんは知らなかったっけー? かんちゃんはねー、じゃじゃーん。なんと日本の代表候補生でー、会長の妹さんなんだー」

「会長?」

 そう言われ、しばし脳裏で考え……ようやく合点がいったのだろう。ああ、と声を漏らし、改めて士郎は少女――更識簪へ視線を向けていた。

 対して、男子にじっと見つめられることなど経験したことのない簪は少々気恥ずかしそうにドキドキしながら。

「君、アイツの妹か」

「…………」

 僅かながらに表情に変化を浮かばせ簪は頷く。

 言われてみてようやく気づく。以前見かけた時、何処か知っている人物に似ていると思いはしたが、楯無の妹と言われて、すっきりとしなかった疑問は氷解する。

「かんちゃんはねー、自分ひとりでISを組み立ててるんだよー、元は倉持技研が造ってたんだー」

「ひとりで?」

 驚いたように口を開く士郎に対し、簪の気は重かった。彼女にしてみれば、余計なことは言わないでほしかった。姉と比べられると思ったからだ。

 だが――

「それはすごいな。一から造るなんてさ」

「……でも、まだ出来てない……」

 士郎の声に簪は思わず返答していた。彼女自身も何故つい応えたのかはわからなかったのだが。

「? ひとりで一から作ってるんだろ? なら、言っちゃなんだけれど、時間がかかるのはしょうがないだろ?」

「……姉さんは……わたしと違って、こんなに時間がかからない」

 今度は意図して自虐的にそう呟く。だが、士郎の反応は首を傾げるだけだった。

「なんでさ? 姉は姉で君は君だろ? それにゴメンな、俺、何も知らないからさ……まずアイツに妹がいたってことも今知ったモンだし……」

「…………」

 そこで簪は不思議そうに相手を見ていた。知らないとは言え、自分を「楯無の妹」とは見ていない。「簪」という一個人として見てくれていることに。

 今までの人間は、簪に「更識楯無の妹だから出来て当たり前」という眼でしか向けてこない。その見方でしか自身の存在を受け入れられなかったことが苦痛でしかなかった。

「それに前も見たけれど、一から造ってるとなると当然自分で考えた武装も組み込むんだろコレ。そりゃ自分用に造りたくもなるだろうなぁ」

 前に見たときと大きく違っているのは打鉄弐式の肩。大きな翼のようなスラスターがその存在を顕すかのように。

 機体を見る限りでは完成しているように見える。些か疑問に思ったことを彼は口にしていた。

「なぁ? ここまで出来てるのにまだ完成してないって言うのか? 素人見で悪いんだけれど、もう十分過ぎるような気がするんだけどな」

「武装がまだ……」

 言いにくそうに応える簪に、士郎は、ああそういうことかと納得する。

「あーなるほどな。自分専用の武器ともなれば、そりゃそう簡単にはいかないもんな。じっくり考えて造るわけだ」

「…………」

 何処かずれた認識の相手に簪は少々困惑していた。説明するべきか悩む彼女に構わず、士郎は続ける。

「自分だけの武装なんて、誰にもマネされたくないもんな」

 故に――

 士郎の口にした言葉は、簪の氷結した心にヒビを入れるもの。

 本音も気づいているのだろう。にこにこしながら言葉をかけていた。

「ねー、言ったとおりでしょー、エミヤんはかんちゃんをそんな風には見ないってー」

「……うん。本音の言うとおりの人かもしれない」

「?」

 ひとり意味がわからず首を傾げる士郎に対し、本音は秘密だよー、としか言わなかった。

 再度首を傾げながらも士郎は改めて『打鉄弐式』に視線を向けていた。

 じっと機体を眺め、指先を触れさせている彼に、簪もまた以前のようにその姿を見つめていた。

「改めて訊くけれど、ひとりで造るとなると結構難しいんじゃないのか?」

「……別に」

 素っ気なく応えるが――唐突に向き直られ、真正面から相手の顔を見てしまう。視線が絡み合うような感覚に襲われ、一瞬ドキリとした簪は慌てて顔を背けていた。その頬には多少ながら赤みがさしている。

 簪の態度を不思議がる士郎だが、気にせず言葉をかけていた。

「……なあ、もし迷惑じゃなければ手伝わせてもらえないか?」

「え?」

 落ち着きを取り戻した彼女はその言葉の意味を理解しかねて振り返っていた。

「ああ、いや、無理にとは言わない。君が全てを自分ひとりの手で造りたいって言うのなら、それは余計なお世話かもしれない。でもさ、ごめん。さっき布仏から聴いたんだけれど……君、今までの行事に出てないんだって? 夏休みも何処にも行かないで作業してたって聴いた。せめて、来月のキャノンボールだっけか? あれに間に合えるように協力したいかなって」

「…………」

「せっかく此処に入ったのに、何の行事にも参加してないのはつまらないだろ? 代表候補生なら尚更だと思うんだ。俺の一個人の意見としては、ひとりで造るよりは、誰かと一緒にやればもっとはかどるんじゃないかと思ってさ。なにか手伝えればと思ってな」

 申し訳なさそうに言う相手に簪は無言。だが、しばらくして考えるように言葉を吐いていた。

「あなたの機体も、あなたがひとりで一から全部造ったって聴いた……」

 感情のこもらない眼で『アーチャー』を見る簪。その言葉に、だが士郎は「まさか」と応える。いったいどこからからそんな話が流れたのかが不思議だった。

「なんでさ。変な話が独り歩きしてるぞソレ。俺なんかが個人で造れるわけないだろ? 素体はもともとあったものだしな……そこに装甲が施されたものだよアレは。PICも、偏向重力推進――なんだっけ? あのなんたらとかいうのもわかんないし、とにかく、システムというシステムなんてさっぱりだよ俺は。それこそ布仏とキャス――葛木先生に手伝ってもらったものだよ」

「えへへー」

 名を呼ばれ、本音は得意気に笑っていた。対照に、士郎は若干苦笑を浮かべながら。

「それに、君の機体が遅れてるのは俺にも責任があると思うし」

「……どういうこと?」

 眉を寄せて訊ねる簪に士郎は頷き説明していた。

「俺の武装もさ、その倉持技研てところで造ってもらったんだ。少なからず、君の機体製作に影響を与えたのは確かだと思う」

「……別に気にしてない。それに、弐式を引き取ったのはもっと前。今の倉持技研はもう携わっていない。あなたは関係ない」

 これ以上あなたと話すことはないとばかりに、ふいと顔を背ける簪。士郎は怒らせたかなとバツが悪そうに頭を掻いていた。

 ごめん、気を悪くしたなら謝るよ、と前置きし、彼は続ける。

「頑張っているヤツを手伝えてあげればって思ってさ。それだけだよ。他意はない」

 軽率だったと告げる相手に簪は無言。だが――ちらりと一瞥し、口を開いていた。

「考えさせて……」

 それだけ言うと、簪は今度こそ本当に身体さえ背けて機体の調整作業に戻っていた。

「…………」

 これ以上は迷惑をかけられないなと判断すると、士郎はわかったと軽く応え、本音に呼びかける。

「ほら、これ以上邪魔しちゃ悪いだろ?」

「えー? 大丈夫だよー」

「いいから」

「あーうー」

 なおもキーボードをかちゃかちゃと弄る本音の制服の襟首を掴み、無理やり引き剥がすようにずるずると連れて行く。さすがに男子の腕力にはかなわない。

「…………」

 少しばかり悪いことをしたかなといった表情を浮かべる簪に軽く手を振り、士郎は構わずに本音を引きずっていく。

 ばたばたと袖を振り「えー、かんちゃんのお手伝いするー」とごねる本音の声が第二整備室に響いていた。

 

 

 同刻――

 生徒会室にいるふたりは向かい合うように座っている。ひとりは生徒会長の更識楯無。もうひとりは織斑一夏。

 互いの格好は胴着に袴姿のまま。些か場には不釣合い――ある意味滑稽な姿とも言えよう。

 疲れた表情を浮かべながら、一夏は何故こんなことになったのか今一度思い返していた。

 時間は一時間ほど前にさかのぼる。

 一夏は楯無に生徒会室へ呼び出されていた。室内に他の人間は居ない。虚もまた席をはずし姿は見せていなかった。

 唐突な話は、彼女からの専属コーチの申し入れだった。

 二年生、三年生の中には男だからということで物珍しさにISの指導を買って出て来る者が後を絶たない。

 気心知れた人間に教えてもらえば楽なもの。故に一夏は丁重にそれら申し出を断っていた。楯無からの話も同じものだと捉えてのものだ。

 当初は相手の押しつけに近い指導を拒んでいた一夏ではあるが、しつこいように言い寄られたため、やむを得ず条件を出していた。

「俺が負けたら従います」

 その言葉を彼は瞬時に後悔する。場所を畳道場に移し、律儀に着替えさせられ、そこで組み手として楯無を相手にしたのだが、結果は一方的だった。

 無論のこと、楯無の圧勝である。徹底的に叩きのめされた。まさに『一方的に』だ。

 無手での心得がないわけではない。篠ノ之箒の道場で習った程度ではあるが古武術に覚えはある。だが、それでも赤子の手を捻るかのように簡単に手玉に取られるとは思わなかった、というのが一夏の心境であろう。

 相手は女の子。腕力では自分が勝るという愚かであり浅はかな考えがあったのも油断といえる。

 なんにせよ、舐めてかかろうとも、本気でかかろうとも、結果はいずれも変わらない。一夏は楯無に勝てなかった。

 意地で喰らいつきはしたが、やがては気を失うほどに攻め立てられ『負け』となった一夏は約束通りに指導を受けることになる。

 眼を覚ました一夏を連れて再び生徒会室に戻り今に至る。

 戻る最中に自動販売機からお茶と紅茶を購入した彼女。以前、士郎相手に同じことをしていたのだが、今回違うのは楯無がお茶で、一夏に紅茶が渡っている。

「…………」

 眼の前でお茶を口にする楯無を無言のまま一夏は見入る。

 相変わらず、彼女……更識楯無の考えていることはわからない。自分を学園祭の景品にしたり、ランサーを特例部費アップの標的にしたり、と。我侭放題、自由奔放、勝手気ままなことをしている。教師に怒られもしているようだが、本人は気にした素振り――反省の色すら全くない。

 それらを踏まえた上で、一夏は考えていたことを口にしていた。

「あの……何で俺なんですか?」

「あら、負けたら従うって言ったのに、一夏くんは反故にするの?」

「いえ、そうではないですけれど……士郎もいるのに」

 士郎ではなく、何故自分なのか――

 そんな疑問を投げかける相手の返答に対して、両手を組んで顎を乗せていた楯無は笑みを浮かべるだけだった。

 わかりきったことを口にする。

「ああ、それは簡単よ。単純明快。君が弱いから。だから、おねーさんが一からしっかり鍛えてあげる」

「…………」

 ――無言。

 想像できていなかったわけではないが、いざ実際に面と向かって言われると些か応えるものがある。

「弱いから、ですか……?」

 傷心、とまでメンタルが弱い一夏ではないが、追い討ちをかけるように楯無は容赦なく言葉をかけていた。

「弱いわよ。今の君は。いくら相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与えられる零落白夜があろうとも、ね。それは当たらなければ意味がない。何よりも、今の君は士郎くんよりも弱いわ。彼の機動性はわかるはずよね?」

「ええ……」

 素直に一夏は頷いていた。だが、自分にだってプライドはある。確かに士郎の技能が上がっているのは知っている。しかし、だからといって福音を相手にした自分が全く適わないと言われるのは心外だった。

(だからって、福音だって死に物狂いで相手したんだ。その俺が士郎に適わないなんてことは……ない)

 それが驕りだという事に彼は気づいていない。

 十分に発揮できていない第四世代の機体性能。対象のエネルギー全てを消滅させる白式の単一仕様能力、零落白夜特殊兵装の雪片弐型――

 今現在に至るのは、それらに頼るものであり、純粋な自身が持つ実力の賜物ではない。そこを一夏は勘違いをしている。

(これはやばいかな……本人は気づいてないけれど、ちょっと天狗にはなってるわね……)

 容易に楯無も相手の心情に気づいている。

 一夏の顔つきが変わったことに――厄介ね、と彼女は漏らしていた。

「無理ね。今の君では士郎くんには勝てない。一夏くん、あなたは技能が追いついていない。機体に助けられているだけよ」

「…………」

「士郎くんは技能も相応にあるわ。確かに荒削りであるのは否めないけれど、一夏くんと違って機体に頼った戦いはしていない。彼とアナタの違いはまずはそこ」

「……先輩は、ずいぶんと士郎を買っているんですね」

「ええ。実力を間近でハッキリと見たもの。世辞でも贔屓目でもなく、伸びるわよ、彼」

「その『先輩』から見て、士郎はあなたに勝てましたか?」

 自嘲気味に笑う一夏に「いいえ」と楯無は応えていた。

「おねーさんが勝ったわよ?」

「なんだ」

 思わず呟かれた相手の言葉が気になり、楯無は小首を傾げていた。

「何か言いたそうね」

「ええ。だってそうでしょう? 先輩に勝てなかったわけでしょう?」

「ええそうね。彼は勝てなかったわ。でもね、士郎くんが『本気』であればどうかわからなかったものではあるけれど?」

「……どういう意味ですか? 士郎が手加減していたってことですか?」

 声のトーンが変わり訊ねる一夏だが、楯無はおどけて見せるだけ。

「さあ? そこまで教えてあげることはできないけれど、話を戻すわよ? はっきり言って、福音に勝てたのも白式の機体のおかげよ。君の純粋な実力じゃないわ」

「…………」

「もし、士郎くんが福音を相手にしていたとしたら……彼ならもっと巧くできたかもしれないわね」

「また士郎を出すんですか?」

 苛立ちが募り、意識せずとも語気が荒くなる。楯無に向ける表情も強張ったものだろう。

 挙句、事件に巻きこまれた身でありながら自分たちは必死に福音を停めたのだ。本来であれば、幾ら四人の代表候補生が含まれているものの、学生……実力的にラウラやセシリアなどの優れたIS環境があるとはいえ、入学した一年生が対処するものではない。

 僅かな情報と、軍用機でもない自分たちの機体、その場に有り合わせた残存武装で事にあたったのだから。何もしていない人間にとやかく言われたくはない。むしろその場に居なかった人間を引き合いに出されても不快なだけだ。

 結果さえ否定するかのような言い方は納得できない。

 一夏が強く反発するのも当然と言えよう。だが、そんなものを気にする彼女ではなかった。

「見方を変えましょうか? なら、酷な言い方をするけれど……君に相応の技術があったとしたらどう? 福音にてこずった? 箒ちゃんたちも護れたんじゃなくて?」

「……そんなのは……」

「済んだことはしょうがないわよね。大前提で暴走事件に巻き込まれるなんて想像もつかない話よ。後になって『もしかして』『すると』『したら』と仮定の話をしても意味がない。わたしは卑怯な言い方を口にしている。君の言いたいことはわかるわよ。一夏くんがいたからこそあの程度で済んだことであり、一夏くんがいなかったらより酷いことになったでしょうね。じゃあ、これからの場合はどう? もし、また無人機が現れたらどうするかしら? 福音と同じような高スペックを持ったタイプだとしたら? 今のままでは何も変わらないわよ。眼の前で誰かが傷つくのを黙って見ていられる?」

「…………」

「第二形態移行で浮かれるのはいいけれど、それだけではダメよ。与えられただけで満足しているようじゃあ勝てないもの。努力して技術を研磨して積み重ねていくことこそ意味があるものよ」

 手にしていたお茶の缶に口をつけると――楯無は唇を舐めて、相手を見据えていた。

「報告にあったけれど、福音はただの暴走機体じゃあなかったんでしょう? 名目上は暴走とはなっているけれども、搭乗者を護るかのように動いていたとも聴くわ。福音自体が意志を持ち、本能的に動いていたとしたら? 山田先生の授業で習ったはずよ? ISにも意識に似たものがある。そんな機体が相手なら……話を戻すけれど、士郎くんは巧く対処できていると思うのよ。思考戦闘、判断能力には正直驚かされたし……極端な言い方すれば、まるで相手の心を読んでいるかのようにね」

「…………」

「なんでそう言える、て顔してるわね。言ったでしょ? 戦ってみたからわかるものだし、君も白式で勝負すれば理解するわよ。もっとわかりやすくするなら、互いに訓練機で勝負すれば、結果は簡単だと思うしね。同じ機体、同じ武装になれば尚更に。100パー、君が負けるもの」

 一夏は無言のまま、ただ黙って相手の話を耳にするだけ。

「比べられるのが嫌なら強くなりなさい」

「…………」

「わたしは別に君を貶めるつもりは微塵もないわよ? ただ、認めるべきところを認めれば、それは見直すべき箇所ということにもなると思うの。違う?」

「……それは、先輩の勝手な見解でしょう? 俺が士郎に劣る、てのは」

 ぼそりと、一夏の口から発せられた声音は酷く冷たいものだった。

 不機嫌な相手を冷静に見つめ、彼女は言う。

「今の君は誰も護れはしない。誰かに護ってもらうのがオチよ。それに、ついでに言っておくけれど、いつまでも士郎くんを下に見ていないほうがいいわよ? その考え方、おねーさんは好きじゃないわ」

 楯無の指摘に一夏は僅かながらに息を呑み、たじろいでいた。

「俺は、別にそんなつもりは……」

「そう? わたしにはさっきから君が上だと考えての物言いに聴こえているけれど。彼、技術の上達が異様よ。あっという間に抜かれるわよ?」

 既に抜かれているけれどね、とは胸中で呟いておく。

「そりゃ士郎の上達振りは否定しませんよ? でも、だからって……」

 それはさすがに言いすぎだと考える。専用機を持ったとは言え、ラウラやシャルロットに勝てるとは思わない。それが一夏の考えだ。

 だが、楯無は違う。

「そう? わたしとしては、一年生の中で最強に近いのはセイバーちゃんは別として、士郎くんだと思うけれど?」

 一夏もセイバーの実力は十分納得している。幾度となく模擬戦を見て、自身も戦った。彼女は誰と戦おうとも負け知らずだ。それはわかる。だが、次に名前が挙げられた士郎に関しては疑問を持つ。そのために自然と一夏の口は開かれていた。

 だが、ここで本来であれば、セイバーとランサーの実力は相当のものと捉えられるだろう。にもかかわらず、然して話題に上がらないのはキャスターによる認識阻害の魔術の暗示によるもの。

 相応の実力を有しているふたりへ、千冬と真耶を除いた学園生徒、教師はそれ以上の反応を示さない。

 認識をずらされているふたりにとって、「今」の会話においてセイバーという存在を認知はしているがそれだけのもの。必要以上に意識が働きかけると抑圧され、脳裏から消えている。

「ラウラやシャルがいるのに、ですか?」

「ええ」

 にべもなく応える楯無に対して、一夏はなおも追及していた。自分が思うことを告げるように。

「……AICや高速切替があるのにですか? それに、搭乗時間だって――」

「だから?」

 たった一言を切り返す。本当につまらなそうに楯無は問いかける。逆に一夏は呆気に取られていた。

「いや『だから』て――」

「AICや高速切替があるから彼が勝てないと思うなら、とんだ見当違いよ。事実、まれにとは言え、勝っている姿を見たことがあるでしょう?」

「…………」

 言葉はない。楯無が言うように、ラウラとシャルロット、鈴と模擬戦をして10回に3回は士郎が勝つ。箒にはほぼ六割方。それが何を意味するのかは説明するまでもない。

「それに――」

 士郎と一夏の明確な違いに触れようとして――喉まで出かけた言葉を呑みこんでいた。

 口が止まり、唐突に黙る楯無に一夏はいぶかしむ視線を向ける。

「なんですか?」

「あー、うん。ごめんね。なんでもない」

 ぱたぱたと手を振りながら彼女は適当に会話を続けていく。喋りながらではあるが胸中では別のことを、まるで自分自身に囁くように呟いていた。

(だって、つじつまが合わない話じゃない? 勝負だっていうのに、身を挺してわたしを護ろうとするんだもの……)

 模擬戦での士郎を思い出す。奇妙な行動ではあったが、不思議と笑うことはできなかった。それになぜか、嬉しいという感情が心中に浮かんだことも彼女自身不思議に思うことだった。

(どうしてわたしは『嬉しい』と思ったのかしら?)

 これらのことを彼女は誰彼なしに公言もしていない。自分が信頼する虚にさえも。全ては楯無の胸裏に秘められたまま。

 話す内容を選びながら彼女は口を動かしていた。

「君、彼の戦い方を何も見ていないのね。たまたま勝った、ではないわよ。勝つための戦い方をして勝ったこと。まぐれで勝ったものと考察して勝ったものは違うわよ」

「……それは……わかりますけれど」

「いい、一夏くん。君は何か勘違いをしているから敢えてハッキリと言うけれど、士郎くんを下に見るのはやめなさい。いつまでも、彼が他の専用機持ちたちに勝てないというイメージも捨てたほうがいいわよ。いずれ……ううん、近いうちに、今の勝率は大きく変わるわよ。機体性能の差があるからと言うのは逃げ口上にはならないわよ? それを言うならシャルロットちゃんが一番当てはまるわよね。彼女、第二世代型の機体で君や箒ちゃんの第四世代型を相手に上をいくじゃない?」

「…………」

「つまりはそう言うこと。彼は同じ相手に同じ戦い方はしない。この方法が効かないなら別の方法で、と戦闘の最中に思いつき次の瞬間には行動に移して、躊躇せずに向かってくるもの。二種類の武装しかないのに多様に絡めて挑みかかってくる姿勢は、ある意味ゾッとするわ。高速切替というけれど、士郎くんの武装展開時間も見事なものよ」

 実際に相対してその実力は楯無自身確かめている。独学で覚えたものかどうかはわからないが、そこから更に伸びるだろうと踏んでいる。

「それともうひとつ。搭乗時間が少ないから勝てないってのはおかしなものよ? 君、自分のことは言える? それにその差を彼は腕でカバーしてるもの。今の君は全てにおいて劣っているわよ」

「言ってくれますね……だから、俺に指導をすると?」

「ええ」

「どうしてですか?」

 その言葉に、楯無は肩をすくめて見せていた。

「それは、わたしが学園最強だからよ。うぬぼれと捉えてもらっても構わないけれど、学園最強の称号は伊達じゃあないのよ?」

「……セイバーやランサーにも勝てると?」

 ありゃ、そうくるかと呟きながら――

「うーん、一夏くんにしては結構難しいことを訊くわね……」

 意外と痛いところを突くなんて生意気よ、とおどけてみせるが彼女の胸中は複雑だ。

 埠頭での一件を、今思い出しても寒慄を覚えるものがある。簪のことを侮辱されかけ、幾ら頭に血が上ったとは言え、ランスの一撃を容易にかわされていたこと。あまつさえ、これが血なまぐさい戦場であれば、必殺に近い一撃を避けられもすれば、自分に次はない。

 相手の技量であれば、いくらでも此方に襲いかかっていたはずだ。しかし、それでもランサーは動こうとはせず、一切手を出してはこなかった。

 踏みつけていたランスから脚を離し、何事もなかったかのように背を向けると、座り直し竿を振るう。

 何故反撃しないのか、眉を寄せる楯無ではあったが後から考えれば行き着くところはひとつ。「しない」ではなく「しなかった」としたら、と結論づけていた。つまりは、相手にするほどの価値にも満たない輩と処理されたと言うことなのだろう。

 冷たく見据えるランサーの眼――見定め、相手の力量が大したものではないと悟った嘲りの色。路肩に転がる石でも見るかのように。

 手を下すまでもない。情けをかけられたとでも言うべきか。

 ランサーに恐怖を覚えるよりも、敵とさえ認識されなかったこと、歯牙にもかけられなかったことが悔しかった。

(舐められる、と言うことがこれほど悔しいなんてね……)

 士郎との模擬戦の影響でIS『ミステリアス・レイディ』が本調子ではなかったからなど、自分に対する都合の良い言い訳でしかない。しかしながら、楯無も黙って引き下がるわけにはいかないものがある。普段はおちゃらけ飄々としているが、意地は持っているのだから。

 故に――楯無は嫣然と笑う。

「……でも、『勝ってみせろ』と言われれば、勝ってみせるわよ? 生身の強さイコールISの強さとはいかないでしょう? 逆も然り、ではあるけれど。それじゃ応えにならないかしら?」

 自分で口にしていながらも違和感は拭えないものだ。

 正直に言えば、薄々ではあるが、士郎はまだしもセイバーとランサーには説明がつかない異常さを楯無は感じはじめていた。だが、その「なにか」が釈然としない。隔靴掻痒の感がある。

 一夏の手前、勝ってみせるなどと分をわきまえない発言をしているが、本心ではどうなるかなどわからなかった。

 しかし、勝たねばならない状況に追い込まれでもしたら、彼女は己が身にいかなる事が起こりようとも勝つつもりでいる。それが楯無なりの覚悟と意地だ。

「ほら、わたしのことなんてどうでもいいでしょう? 士郎くんは着実に技術を高めてくる。逆に一夏くんは第二形態移行しているにもかかわらず技術はそんなに上がっていない。これは大いに問題よ。弱いままでも別にいいや、気にしない、と言うのなら話は別だけれどね」

 楯無は再度肩をすくめてみせていた。

「一夏くんは動きに無駄があるの。そこがもったいないところなのよねー。今まで他の子たちとの模擬戦を見てきたけれど、気になって仕方がないのよ。わたしが指導したらバリバリ強くなれるわよ?」

 建前ではそう告げるが、本音としては別のものがある。

(自分の身は自分で護らせる、なんては公には言えないものね……士郎くんの存在がライバルとして引き合いになってくれればいいんだけれど)

 暗部の『草』として動く者からの報告に名が挙がる、とある組織の存在が一夏にとっては避けて通れない相手だと理解した上でのものだ。そのためには、彼自身に力をつけてもらわねばならない。いつまでも誰かに護ってもらうわけにはいかなくなってくる。

 付け焼刃であるのは否めないが、手っ取り早く直接彼女が教え、今のうちから鍛錬をこなさせることに越したことはない。

「ま、強いわたしが教えるんだから、一夏くんも当然強くなってもらわないと。まずは機体性能に頼りすぎるところから変えていきましょうか」

「…………」

「腐るか腐らないかは君次第よ? 本気で誰かを護りたいのなら、強くなってみせなさい。言い負かされるのが嫌なら、相応の実力を身につけなさい。君が強くなれないと言ってるわけじゃないわ。素質はあるわよ。だからそれを開いていくだけ。ただ、そのためには――」

 諦めないことね、と言葉をかける。

 一夏は返答もせず無言のまま。だが、握り締められた両の拳には強く力がこめられていた。


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