I.S.F インフィニット・ストラトス×Fate 作:ボイス
「……箒、そんなに熱くなるなよ」
「熱くなどなっていない」
「落ち着けって! そりゃまぁ、俺もアイツの言い方はどうかと思うけれど――だからって」
「うるさい! わたしは冷静だ!」
煩わしい一夏に対し、箒は語気を荒げ、一喝し黙らせていた。
「…………」
明らかに機嫌がよろしくない幼馴染に、どのように対処するのが最善の策であるかと困惑する一夏はただただ眉を寄せたまま。
それでもかける言葉を選ぼうとしている一夏から、箒はさっと視線を逸らしていた。
彼に当り散らすなど筋違いであるということは箒とて理解している。だが、いくら頭では理解しているつもりでも、それ以上に今の彼女の心は『怒り』の感情に支配されている。
憤怒――
(わたしの剣が、張りぼてだと……?)
自惚れているわけではないが、これでも箒は己の腕に相応の自信を持ち合わせている。それを――大した事のない、虚勢、張りぼて等と面と向って言われてしまっては、不問にするというような寛容な心を持ち合わせてはいなかった。
故に、彼女自身、知らずのうちに不用意に力が篭っている。傍から見ても、それはハッキリと解りえるほどのものだった。
(箒のヤツ、だから肩に無駄な力が入りすぎてるってのに……)
幼馴染だからという事と、自分も剣道をしていたから解る。それに気づいている一夏は、どう接していいか解らずに、声をかけるにかけ辛い状況に頭を悩ませていた。
が――
一夏の代わりに声をかけたのはセイバーだった。
「……ホウキ」
箒の耳に彼女の声は届いているはずだった。しかしながら、黒髪の少女は此方へ向き直るわけでも、視線を寄こすことさえもしなかった。
反応を示さない相手に対して――構わずに、セイバーは言葉を続けていた。
「ホウキ、肩に無駄な力が入りすぎています。もっとリラックスしてください。それでは、出せる力も、思うように出すことが出来ずに難しくなってしまいます」
「…………」
「イチカも、そのことを伝えたかったのです。今のあなたを心配していますよ?」
「…………」
変わらず箒は無言のまま。聴いているのかいないのか、彼女はそのまま中央に進み――正座をする。
「大丈夫かな箒のヤツ……」
自分が口にして言いたかった事を代弁してもらえたのは嬉しいが、変に力が入ったままでは邪念により思うように身体は動かなくなる。普段から頭に血が上りやすい箒の性格を知っているだけに、一夏は気が気でならなかった。
心配そうに呟く彼に、セイバーは『心配いりませんよ』と声をかけていた。
「大丈夫ですよ。ホウキは落ち着いています」
「そ、そうかな?」
「ええ」
セイバーにそう言われても一夏の不安は拭えない。だが、指し示すのを見て、ようやく気づく。
箒は正座したまま静かに眼を瞑ったまま。自身の精神を集中させるかの様に。
冷静になろうとしている――
瞑想する姿を見て、それ以上一夏は何も言わなかった。彼もまた腰を下ろして見守るしかない。
「まるで、あの時のわたくしと一夏さんのようですわね」
ぼそりと呟くセシリア。一夏もまた、返事はしなかったが、同じ事を思い出していた。
クラス代表者を決める際に争った口論。決闘を宣言し、次いでのISでの勝負。
セシリアにしてみれば、正に自分は――用いるものは違えど――今箒が行おうとしている事をあの時にしたのだと痛感していた。
なんとも言えない空気を纏う一夏とセシリアではあるが、それを払うかのように鈴は笑いながら場を和ませていた。
「ま、どーせ箒が勝つでしょ。アイツ、なんだかんだで剣道強いんだし。衛宮の兄貴には悪いけど、箒相手じゃ運がなかったと諦めるしかないんじゃないの?」
「……まぁ、そうだね」
何処か気まずそうにシャルロットも同意していた。
シャルロットも箒の剣道での強さは知っている。複雑な表情を浮かべるセシリアも箒が勝つだろうとは思っているのだが。
「…………」
だがひとり、一夏の横にちょこんと座るラウラだけは違っていた。彼女は無言のまま、箒に視線を向けるだけ。
見入る表情には何か不安なものを浮かべながら……
相手が現れるまでの時間、ただ静かに箒は瞑想を続けていた。
「ランサー、お前……どういうつもりだよ」
「つもりって?」
「勝負の事だよ! なんで篠ノ之に喧嘩なんてふっかけてんだよ!」
「なんでって言われりゃ、そりゃオマエ決まってんだろ………あー、アレだ、なんとなく?」
口煩い士郎の言葉に、ランサーは特に考えていなかったようにそう応えていた。
それが本心から言っているのかどうかは解らなかったが、士郎はただただ呆れるしかない。
「なんとなくなんかで問題起こすなよ! なに考えてんだよ本当に――おい、お前ホントに手加減しろよ!?」
「さっきから一々うるせえぞ坊主。わーってるっての。適当にやりゃいいんだろ?」
「本当にわかってるのかよ……」
「しつこい男は嫌われるぜ?」
「誰のせいだと思ってるんだ!」
怒鳴りながらも士郎はランサーに布に包まれた長物を渡していた。長さは二メートル程度といったところであろう。
「あ? なんだコレ?」
素直に受け取るランサーではあるが、対して士郎はひとつ溜息を漏らしていた。
「投影だよ。さすがに槍は拙いだろ? 相手を怪我させないように考えて棍を造った。だけど、こんな物でも、お前にとっては使い方次第で篠ノ之に怪我させるのなんて簡単なんだから――おい、本当にわかってるんだろうな!?」
「へーへー、わーってますって、マスターさまさま」
「ったく……」
気楽に応える槍兵のサーヴァントに、やはり士郎は不安を覚え息を吐くことしかできなかった。
本当に、最近の自分は溜息ばかりついているな、と士郎は自分自身に呆れながら歩を進め――その脚は不意に止まっていた。
「…………」
無言のまま視線を向ける先――
視界に映る少女を見て、瞬前まで疲れた顔をしていた士郎の表情には緊張が浮かぶ。
背後のマスターの異変を感じ、ランサーも立ち止まり振り返っていた。
「……坊主? どうした」
先まで此方に文句を言っていた士郎だが、ランサーに返答もせず一点を見たまま微動だにしない。
明らかに尋常ではない雰囲気をランサーは感じ取っていた。
そのまま彼も士郎が見入る方へ視線を向けていた。
ひとりの少女が立っている。水色の髪をした、何処か悪戯っぽい顔をした少女。
「…………」
ランサーの視線が少女から士郎ヘ向けられる。こちらに気づく事も無く、士郎は相手を見入ったまま。
主から再度少女へランサーは視線を戻していた。
と――少女、楯無は口を開いていた。
「こんにちは、衛宮士郎くん。また会ったわね。君が会いに来てくれないから、おねーさんの方からこうして会いに来ちゃったわ」
「……どうも」
気楽に声をかけてくる彼女とは違い、士郎は言葉少なめに淡々としたものだった。
明らかに警戒の反応を示す相手の姿に楯無は『寂しいなぁ』と一言呟くと、視線はランサーへと向けられていた。
「あなたが、衛宮ランサーさん……衛宮士郎くんのお兄さんね?」
「あ?」
不意にかけられた声音。眼の前の少女は、ランサーの脳裏には該当する人物が当て嵌まらない。その為、横に立つ士郎へ僅かに身体を屈ませ耳打ちしていた。
「誰だ? この嬢ちゃん」
「……更識楯無さん。この学園の生徒会長だよ」
「ふーん」
士郎の告げる言葉に、ランサーは然して興味も示さずそう応えていた。
生徒会長ということは、この学園に在籍する生徒たちの中で一番偉いヤツかという程度の括りでしかない。
「……で? その生徒会長さんが何用だ?」
「士郎くんの『お兄さん』て、噂に聴いていたので一度ご挨拶しておこうと思って。訓練機とはいえ『打鉄』を動かすのがすごくて、かなりの腕前とも耳にしました。それに、ご自身もお強いんですってね」
敢えて含みを混ぜたその物言いに対して――何か思う事があるのか――蔑んだ笑みを浮かべながらランサーは応えていた。
「嬢ちゃん、何をこそこそ嗅ぎ回ってるのかは知らねェが、言いたい事があるならハッキリ言った方がいいぜ?」
どうにもいまいち相手の思惑が掴めないランサーはただそれだけを告げる。
そんな問いかけに、楯無も肩を竦めながら応じてみせていた。
「ええ、ではせっかくですのでお言葉に甘えて。とは言っても、今日は衛宮士郎くんに用があって。というワケで、おねーさんと、ちょっと付き合ってほしーなー」
「坊主……」
小声で呟くランサーではあるが、その口調には『どうする?』と意味合いが含まれている。
だが、士郎は頭を振っていた。
「ランサー、お前は道場に行ってくれ。篠ノ之が待ってるんだから。彼女が言うように、用があるってのが俺みたいだし」
「…………」
こっちはこっちで任せてくれと無言で伝える。
士郎と楯無へ交互に視線を向けていたランサーだが――
「あいよ。ならそうするわ」
踵を返すと、そのままひとり剣道場へと歩いていく。
と――
「ランサー」
そちらを見もせずに、士郎は一言声をかけていた。ランサーは返答するでも立ち止まることもない。
士郎の言葉が何を意味しているのかは理解していた。絶対にやりすぎないでくれよ――と。
「…………」
故に、わざわざ返事はしなかった。
立ち去るランサーを尻目に、相対するふたりは無言だった。だが、表情は対照的だった。片方は険しく気難しい『貌』であり、片方は陽気さを滲ませ微笑を浮かべた『貌』である。
「うーん、相変わらず怖いお顔。そんな顔されちゃったら、おねーさん、とーっても困っちゃうなー」
「……用件はなんでしょうか?」
相手のペースに乗せられるわけにはいかぬと平静を装う士郎ではあるのだが、楯無は変わらずに気楽なままだった。
「うん、それなんだけれど」
言って、彼女は胸元から取り出した扇子で口元を多い――
「おねーさんとお茶しない? デートしましょう」
「……は?」
予想外の言葉に――
思わず眉を寄せた士郎は、自身でもはっきりとわかるほどに間の抜けた声音でそう訊き返していた。
「さー入って入って、遠慮しないで」
「はあ……」
楯無に手を引かれるままに連れて来られた場所は、IS学園の生徒会室だった。
重厚な開き戸を通され、眼の前に広がる部屋。自分が知る穂群原学園の生徒会室とはまた違う空間を物珍しく眺めていれば、椅子を勧められて座るように促されていた。
「ねー、士郎くん。緑茶と紅茶、どっちがイイ?」
「え? あー、じゃあ緑茶の方で」
「緑茶ね。はいどうぞ。粗茶ですが」
言って、ことりとテーブルに置かれ差し出されたのはスチール缶の緑茶飲料である。
「…………」
きちんとしたものを期待していたわけではないのだが、何と言うものぐさだろうと思わず士郎は考えてしまう。
ついでに言ってしまえば、この飲料缶は、先ほどここに来るまでの道すがりにあった自動販売機から楯無が購入していた二本のうちの一本であった。案の定、彼女はもう片方の紅茶の缶を開け、口にしていた。
無言のままにじっと見入る士郎の視線に気づいたのか、楯無の口元はにんまりとほころびる。
「なになに? おねーさんに見とれちゃった?」
「違います」
きっぱりと、その一言だけは告げておく。下手に話の矛先を握られても困るのだけでしかない。
「むー、士郎くんたら、そんなに照れることないのよ? おねーさんの魅力に見とれちゃったなら見とれちゃったって、素直に口にしても別に恥ずかしいことでもなんでもない――」
「もう一度言いますが、違いますし、照れていません」
その自意識過剰はどこから出てくるのか……士郎は頭が痛かった。
対する楯無はといえば、ノリが悪い相手の反応に哀しそうに眼元を覆っていた。
「そんな真顔で応えなくても……おねーさんは心が痛いわ……メソメソ……」
「……用がないのであれば帰っていいですか? 失礼します」
言って、がたりと席を立つ士郎に、慌てて楯無は『待って待って』と引きとめ懇願する。
正直、こんなところで呑気に『お茶』などしている場合ではないのだが。
気が気でないは、ランサーと箒のことであるからだ。
ランサーを信用信頼していないわけではないが、箒を相手にどれほど手加減をしてくれているかが不安でならない。
相手はただの人間なのだというのは当然理解しているとは思うのだが、士郎にとってみれば、心配なものは心配だった。
それを見透かされたのか、楯無は口を開いていた。
「箒ちゃんの事が心配?」
「……まあ、それなりに」
「ふうん。それなりに、かぁ……」
「…………」
「その口ぶりだと、まるで箒ちゃんが負けるのが当たり前、ていう感じに取れるんだけれど? こう言ってはなんだけれど、あなたのお兄さんが負けるとは思わないのかしら?」
「…………」
小首を傾げて訊ねる相手に――だが、士郎は無言を貫くのみ。
どうにもこの少女の前では、余計な事をつい口にしてしまいそうになる。何よりも、相手は此方が零した言葉を逐一拾うから手に負えない。
(……やっぱり、調子が狂うな……)
楯無が纏う独自な雰囲気から苦手意識を感じ取っている士郎は、手っ取り早く此処から出るために口を開いていた。
「それで? 用件はなんですか?」
「あら、話変えられた。んー、まぁ色々とお話したいことがあってね……どうしても訊いておきたいことがあるの」
「……なんでしょうか?」
「ISでのセイバーさんの動き、あれは傍から見ても、物凄いことだと思うけれど? 士郎くん、あなたから見てどう思う?」
口元で両手を組みながら訊ねる楯無。
予想出来得ていた部分指摘。やはりそういうことかと士郎は内心で納得していた。
その件に関しては士郎も概ね同意する。明らかにセイバーはやりすぎている。頑固者のせいでこういう事態になっているのだから。
だが、その問答に返す言葉も考えて用意している。そのために、その『答え』を彼は告げるだけだった。
「人間、誰にだって向き不向きがあるでしょう? それと同じことじゃないですか? セイバーは、たまたまISを動かす事に関して凄かった。それだけだと思いますけれど?」
現にそうなのだから。
「ま、そう言われればそうなんだけれど」
「それに、ISに対するセイバーの操縦を、俺に訊かれても困るんですけれど」
「うー」
そういう返答を期待したわけではないのだろう。『つまんなーい』と楯無は頬を膨らませている。
机に突っ伏しごろごろとする彼女を前に、士郎は『この人は本当に生徒会長なのだろうか?』と眉を寄せる。何と言うか、変なところは妙に子供っぽい。
そう思っていると、彼女は不意に顔だけ起こし、士郎へ視線を向けてきていた。
「ねぇ、もうひとつ訊きたいことがあるんだけれど、いいかしら?」
「なんでしょう?」
「おねーさんの事、そんなに警戒しないでほしーなー。別に取って食べたりしないわよ?」
「いや、正直言って、あなたが何考えているのかわからないし……警戒するのは当然でしょう?」
思わず士郎は本当の事を言ってしまう。
そもそも、何よりも――
「俺、あなたの事よく知りませんから」
「この学園の生徒会長よ?」
「いや、そうじゃなくて……生徒会長だっていうのは知ってますよ。一夏から聴いたし……そうではなくて、俺自身が、あなたの事を知らないって意味ですよ」
「じゃ、おねーさんの事、いろいろ教えてあげるから。趣味や特技、好きな食べ物、スリーサイズに、今なら特別に性感帯まで。その代わりに、士郎くんの事、おねーさんにいろいろと教えてほしーなー」
楯無は瞳をキラキラと輝かせ『教えて教えて』と訴えかける。
対する士郎はニコリと微笑み――
「お断りします」
言って席を立っていた。
まさか楯無も此処で断りを入れられるとは思わなかったのだろう。突然の事に信じられないという顔をする。
「え? おかしいでしょう? 普通この雰囲気だったら、お互い分かり合うシーンでしょう? 何が不満なの? 脱げばいいの? 脱げばいいの? おねーさん裸になればいいの? 裸体になって、士郎くんに抱きつけばいいの? ならとりあえず、今すぐ脱ぐからちょっと待って――」
「あははは、とりあえず、裸から離れましょうね」
制服に手をかけ、本当に脱ごうと暴走する相手に、士郎は極めて冷めた声音とともに、ただただ力のない笑顔のまま。
(ああ、駄目だ……この手のタイプは、カレンと同じだ……)
面倒臭さ、厄介さは士郎が知る少女、カレン・オルテンシアと同じかそれ以上であろう。どちらにせよ、此方の話が通じていない手合いであると割り切っていた。
何処か悟ったかのように――諦める。
七面倒くさい。
本当にそそくさと出て行こうとする相手に――楯無は回りこみ、冗談きついわよ、と士郎の頬を扇子でぷにぷにと突付く。
士郎にとって見れば本気だったのだが。
「ちょーっと待って、そりゃ初対面がアレだったのは、全面的におねーさんに非があるのは認めるけれど、ホントのホントに他意はないのよ。今日は、ただ純粋に、おねーさんは士郎くんとお話したいだけ」
「…………」
『他意はない』『今日は』という言葉が引っかかるが、無言のまま士郎は視線を向けていた。
楯無はうんうんと首を振る。
「そりゃ訊きたいこととか他にももっとあるわよ? 無いって言えば嘘になるけれど。でもね、これでも分別は持ってるつもりよ? 言いたくないことに関しては無理には訊かないし。あ、訊いてほしいってことならガンガン訊くけれど?」
正直に言えば、士郎は楯無を信用も信頼もすることが出来ていない。何を考えているのかがわからず、意図が掴めないからだ。嘘も方便、が適用されないとも限らない。
こんな会話を交わしていることすら意味があるとは思えなった。
じっと相手の顔を見入るのだが――
「もう、そんなにマジマジと見つめられちゃったら、おねーさん胸がドキドキしちゃう。照れるわよ」
キャッ、と可愛らしい声を上げて両手で頬を押さえる楯無だった。
「……はぁ……」
本当に話を聴かない人だと士郎は溜息を漏らしていた。
このままズルズルと進んでも、この少女の行動は変わらないままだろう。
ならばどうするか。
考えあぐねた結果……実質、士郎が折れた形になるのだが。
「……わかりましたよ。とりあえず、話をしたいっていうのはなんですか?」
話を聴いてもらえるとわかるや否や、楯無は士郎を椅子に座り直させる。そのまま彼女も対面に座っていた。
何と言うか、忙しい人だなぁと士郎は胸中で呟いていた。
「で、何の話をするんですか?」
だが、士郎の口調が少々気に入らなかったのだろう。『駄目ね』と一言漏らしていた。
意味が解らず、疑問符を浮かべる士郎に楯無は扇子を突きつけて口を開く。
「その喋り方よ。もっとフランクに行きましょう。良く良く考えてみれば、あなたは本来三年生なんだから……実質、わたしより先輩でしょう? 敬語じゃなくて、普通にしましょう」
「普通ったって……」
「わたしのことは、あなたの好きなように呼んでもらって構わないから。逆に、こちらはあなたのことを衛宮先輩て呼ぶことにするから。まずは、それから」
「はぁ……」
相手の提案に、しかし士郎は気のない返事を洩らすのみである。
「む? 反応鈍いなぁ」
「……わかったよ、更識……これでいいか?」
「うん、上出来。じゃ、改めて……よろしくお願いしますね、衛宮先輩」
「ならさ、俺からも言わせてもらうけれど、先輩はいらないよ。それこそ、そっちの好きなように呼んでくれて構わないし」
相手のその言葉に、楯無の表情に変化が生じる。
「……いいの?」
「ああ」
「じゃあ、士郎くんて呼んでもいい?」
「構わないよ。言ったろ? 好きに呼んでくれてイイって。一夏にも同じこと言ったし」
「ふふ、なら本当に改めまして。よろしくね、衛宮士郎くん」
「……よろしく」
当然のように差し出してくる彼女の右手を――士郎は、若干照れくさそうに握り返していた。
うんうんと頷きながら――楯無はニコリと笑う。
「で、早速なんだけれど、士郎くん……あなた、生徒会に入らない?」
「は?」
本当に、話の脈絡の無さに呆れた士郎は、二回目ともなる間の抜けた声を漏らしていた。