I.S.F インフィニット・ストラトス×Fate   作:ボイス

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 はじめに、今回の話は、四季の歓喜さんの作品「IS学園潜入任務~リア充観察記録~」と「アイ潜IF外伝」とのコラボになります。
 互いのオリジナル亡国機業員メンバーだけが出ています。
 両作品のキャラを知っているとわかる内容です。知らない方にとっては、すみませんが、全くさっぱりな内容でしょう。
 本編の「I.S.F」「IS学園潜入任務~リア充観察記録~」「アイ潜IF外伝」各作品内の時間軸とは一切関係ありません。
 わたしサイドで言えば、Fate勢は全く一切出ておりません。
 四季の歓喜さんサイドで言うと、セイス氏が楯無嬢と一戦やらかすようなこともございません。

 ・ただ騒いでいるだけです。
 ・オチを求めても、それは酷ってものですよ?

 あくまでもおふざけ企画の話になります。
 だが、わたしは謝らない。


外伝短編
幕間EX1 とある亡国機業員の交流風景


 煌びやかなネオンに彩られる繁華街。

 時刻は夜を迎えるが、人の波は途切れることがない。雑踏にまぎれたビルディング。

 人々の往来により、喧騒に包まれる中、ホークアイはビルを見上げていた。

 サングラス越しの双眸は、目印となる建造物の看板に。

 小洒落たデザインのバー。

「…………」

 手にした一枚の紙片へ視線を落とし、指定場所に間違いが無いことを確かめると、彼女は連れを伴い建物へと入っていった。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 フェニックスという言葉を、一度は聴いたことがあるだろう。

 ご多分にもれず、死ぬこともなく、永遠の時を生きるといわれる神話や伝説上での鳥である。

 日本では「不死鳥」や「火の鳥」などの呼び名が定着しており、東洋では「鳳凰」や「朱雀」になぞらえられている。

 さまざまな伝承でも多く語られている。死しても炎の中から再び蘇り現れる、と。

 キリスト教徒にとっては、この鳥を再生のシンボルとみなして教会の装飾に用いられたりもする。

 ヨーロッパで流布したグリモワールと呼ばれる魔術書によれば、悪魔学によりソロモン72柱の魔神の1柱とも記されている。

 閑話休題。

 なぜ、このような話に触れるのか?

 前置きが長くなるが、それは、この言葉に相応しい者たちがいるからだと言えよう。

 フェニックスの縁語は、「不死身」「再生」「永遠の生命」――

 自分の夢を追う男たち。

 人が持つ夢には様々なものがある。夢とは無数にあり、他者の夢と必ずしも同一となることはない。

 だが逆に『人』の『夢』と書いて『儚い』と読む。

 夢が叶う者もいれば、中には心半ばで夢が叶わず挫折してしまう者もいる。

 しかし――

 挫折することと、諦めることは違う。

 布仏本音の手によって、一部コレクションは確かに消失し、二度と己が手に戻ることはない。

 男たちが直面した状況は、例えどのようなことがあったとしても覆ることのない事実であり現実である。が、言い換えれば、今となっては、それは些細な顛末事でしかないだろう。

 恐怖、という「もの」は確実に存在した。だが、そんなことで諦める男たちではない。

 自分たちは曲がりなりにも「亡国機業」に携わる人間たちだ。恐怖に打ち克てずに、なにが秘密結社と呼べようか。

 男たちは何度でも蘇る。いや、この先、例え同様の困難に直面し、絶望しようとも、彼らの魂は燃え尽きることは決して無い。

 苦汁をなめようとも、泥水を啜ろうとも、己が信念、欲望のために。

 何度転ぼうとも、どん底に叩き落されようとも――

 その都度、立ち上がり、はい上がる。

 そう。

 つまりはどういうことかと言えば――彼らは懲りもせず、オークション大会を開いていたのであった。

「お前ら、盛り上がってるかああぁっ!?」

『おおおおおおおおぉぉぉっ』

 震撼、という言葉が当てはまるような男たちの声量。だが、実際は防音設備が完全に備わっているため外部に漏れることはない。

 表向きは何処にでもあるバー。亡国機業の息が掛かった建物の一室は異様な熱気に包まれていた。

「…………」

 無言のまま、セイスは呆れた表情のまま一同を見入る。この気力をもっと別のところへは向けられないのだろうか、と。

 次の商品がステージ上に掲げられ、スポットライトが当てられる。

「お馬鹿さんな皆さま方も、程よくいい感じに仕上がっていて大変愉快で滑稽です。司会のわたくしも嘲笑を浮かべざるをえません。さて、続いては……篠ノ之箒の風呂上り姿の秘蔵写真三枚セットで、開始価格は三千から」

「うっは我慢できねえっ! 一足飛びに二万だ俺はッ!」

 ファース党員アイゼンが財布を握り締め壇上へと駆ける。

 表示されると同時に群がる猛者たち。罵声と怒号を耳にしながら――

 つい先程落札した、ケーキを食し口の周りをチョコレートで汚しているラウラの写真を眼にしたひとりがぽつりと呟く。

「……この僅かに映ってる赤髪は誰だ?」

「あれ? お前のにも映ってんな。俺の写真にも映ってんぞ?」

 言って、別の男が差し出した写真は同じようにオークションで落札したシャルロットの写真。寝巻き姿でフォークに刺した果物を齧る一枚。だが、そこにも赤髪が映っていた。

 メインの被写体を邪魔する映り方ではない。隅にちょっと赤い髪が写されている。そこまで神経質になる程度ではないが。

 馬鹿騒ぎに興じる一同を見るともなしに眺めながら、隅の席でカクテルを口にするホークアイと、ジュースを飲むスノー。ピザを手にするサンシーカー。その横に座るルナはパフェを食べていた。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 人で賑う店内に眉を寄せながらも、ホークアイはひとりの店員を捕まえると、紙片を見せて訊ねていた。

 店員は怪訝そうな顔をしていたが、紙面に書かれた名前と相手の名前を確認すると、顔色を変えて場所へ案内していた。

 先までの喧騒も全く聴こえない地下への通路。恐縮しきった店員に声をかけるでもなく指定された一室へと通され――

 青い髪にサングラス、スーツ姿の女性、その後ろには連れと思しき白い髪の少女と、黒髪の子どもの姿。

 明らかに場違いな三人に対し、室内の男たちに緊張が走る。

 貸切となっていた一室に誰かが入ってくるなどありえない。更に言えば、今日この日、地下を利用するのは自分たちだけだった。

 居合わせる者たちも、誰が先かを争うように、自ずと身構えていた。

 懐に手を差し込んでいる者もいれば、腰に手を触れさせている者もいる。中には既に銃器を取り出している者まで。

 拳銃、ナイフに手をかける。

 だが――

 そんな空気に物怖じせず、ホークアイは、ずかずかと室内へと歩を進めていた。

 瞬間――

「停まれ」

 ごり、とホークアイの側頭部に銃口を押し付けているのは――ナイフのように鋭く、ぎらついた双眸のセイス。

 しかし、構わずに歩を進めようとするホークアイへ、さらに銃口がぐりと押し付けられていた。

「停まれと言ってる。次は無い」

「…………」

 ホークアイは無言のまま、視線だけを拳銃を握る相手へ向けていた。

 スノーはどうしていいかわからずにおろおろとし、サンシーカーも不思議そうにセイスを見上げるだけ。

 一触即発となる空気。

 それを制したのは――オランジュだった。

「ストップ。落ち着けよ、セイス」

「あん?」

 ステージから降りたオランジュは、セイスの銃を下げさせ、ついでホークアイに歩み寄ると、じっと相手を見据えていた。

 と――

Vivaldi(四季)

 オランジュが口にした言葉に――

Delight(歓喜)

 ホークアイは、間を置かずに返答していた。

 合言葉にオランジュは満足したように頷くと、懐から封筒を取り出していた。それを手渡す。

「悪いな、お嬢さん方、連れが失礼した。コイツは、俺らの中でも特に真面目な奴だからな、精神的にも物理的にも石頭……」

「おい?」

 不服めいた声を発するセイスだが、オランジュは相手にしていなかった。

 あくまでも、彼の視線はホークアイへと向けられている。

「もとい、堅物でね。とりあえずコレ渡すから、そっちも例のモノを出してくれない?」

「…………」

 特に返事をするでもなく、ホークアイは封筒を受け取るだけ。中身を確認せずに、今度は逆に彼女が手にしていたトランクをオランジュへと渡していた。

 そして、オランジュはそのまま――いつの間にかこちらに近寄っていたメテオラへとトランクを放り投げていた。

 ぞんざいな扱いではあるが、メテオラは難なく受け取ったトランクの中身を確認し――確かに、と呟くと、振り返って声を上げる。

「はいはい、皆さん、ご清聴。スコール派だからと言って、今日この御三方にいらぬちょっかいを出されませんように。フォレスト氏からのお墨付きです。出したら容赦しませんよー。主にティーガーさんが、実力行使でお話です」

 スコール派と聴き――唐突に誰かが声を上げていた。

「待て、コイツ、見たことあるぞ。確か――お前、スコール一派の『鷹の目』か!?」

 『鷹の目』、との言葉にざわりと周囲が騒がしくなる。

 スコールとは、自分たちが所属するフォレストと異なる派閥。同じ亡国機業に所属はしているが、進めるやり口、方針、信念は違う。いわば、味方でありながら敵でもある間柄だ。

「ホークアイってことは、ナリから見て、そっちのガキは……スリーマンセルの一角、サンシーカーか……」

「となると、こっちの白いヤツは、ディープスノーか」

「スコール派がなんの用だ?」

 どうしてそいつらがここにいる――?

 いくらメテオラからの口頭による説明、ならびにフォレスト、ティーガーの名を出されようとも、『フォレスト派』の男たちにとっては納得できぬものがある。

 譲れぬものは譲れない。納得できぬものは納得できない。

 故に。

 面倒くさそうに――至極面倒くさそうな表情で、メテオラは口を開いていた。

「別ルートで入手した品々、あなた方にとっては補給物資となりますよ」

 補給物資――

 その言葉に一部の人間は固唾を飲み込む。

「つまり、そいつぁ……?」

「新しいオークション品(弾丸)が補充されたってことですよ。ここまで説明されないとわかりませんか? 残念です。それではこの補給物資もなかったことに――」

『ようこそいらっしゃいましたっ! フォレスト一派として、本日は盛大に歓迎させていただきますっ!』

 平身低頭。

 突然の態度の豹変に、ホークアイはその表情を困惑に歪め、スノーはなにがなにやらわからず眼を白黒させ、サンシーカーは面白い人たちだねと笑っていた。

 居心地悪そうに、銃を抜いたセイスも頭を掻きながら「悪ィな」と一言漏らし、背を向けていた。だが、その眼はすぐさまオランジュへと向けられていた。

「つーか、知ってたんなら、先に言っといてくれよ……」

「すまんすまん、エムに口止めされてた」

 その言葉を聴いた瞬間、セイスは頭を抑えて口から呻きを漏らしていた。つまり彼女――マドカは、何も知らない自分がホークアイたちと接触すれば、確実に揉めると予想していたわけであり……

「……あんの野郎、タチの悪いドッキリを……」

「悪態を吐きつつも、そのエムちゃんの写真の為に仕事を頑張るセイス君でした、マル」

 オランジュが余計な一言を口走り、瞬時にセイスに殴られたが――フォレスト一派の連中にとってはいつもの光景であり、特に気にする者は、この場にひとりも居なかった。

「お嬢ちゃん、お菓子食べるか? 食いたいモンがあれば頼めるぞ」

「ホント?」

 バンビーノに手招きされ、サンシーカーはたかたかと駆けると、同じぐらいの年齢の少女――ルナが居る一角にちょこんと座り、渡されたメニューに眼を通す。慌てたスノーが、迷惑かけちゃダメだよと制止するが聴き入れられない。

 そうこうしていれば、スノーの分としても、何か勝手に注文がされる。

「子どもが食いそうなものを三人分」

 瞬時に遠慮するスノーではあるが、男たちは聴き入れていなかった。

 話には聴いていたが、これほどまでとは思わなかった、というのがホークアイの心情であろう。

 彼女がこのオークション会場に足を運んだことに、特に意味はない。

 メインはオークションではなく、交流、としてのものだった。

 フォレストからスコールへ持ちかけられた他愛もない話。同じ部下を持つ者同士、「部下同士の交流」をしてみないか、と。 

 スコールは特に断る理由もなく、「ウチの子たちにちょっかい出さなければ」との一言でオーケーを出していた。

 自分たちの知らないところで話はトントン拍子に事が進み、気がつけば、トランクと紙片を渡されていた。

「ホーク、サニとスノーを連れて出かけてらっしゃい。話は済んであるから。楽しんでらっしゃい」

 そう告げるスコールの表情は、なんと楽しそうなことか。

 トランクに詰められているのは、オークション品としか聴かされていなかったため、何が入っているかなどはわからない。

 思い出したかのように、ホークアイはスーツのポケットから小さな封書を取り出していた。それをメテオラへと渡す。

「おや、何か御用で?」

「スコールから」

「スコールさんから? 中身は何です?」

「知らない。あなたへ渡して、とだけ告げられている」

「ふむ」

 スコールから名指しで直々にとはなんだろうか、と小首を傾げながら受け取り、メテオラは中身をその場で確認する。

 中身は、執事姿の格好をした更識簪が映る写真。その数六枚。

 瞬間――

「思う存分呑んで食べていってくださいな」

 彼もまた頭を低く一礼していた。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 フリルのついたミニスカートのメイド服の箒――

 大正浪漫漂う矢絣柄の袴姿のシャルロットとセシリア――

 黒一色のナーススタイルのラウラ――

 チャイナドレスを纏う鈴――

 果ては、ほんのりと肌が紅く火照る風呂上がりの姿――

 五枚の写真とネガ、メモリーカードの三点セット。

 中には部分部分のみを鮮明に、それでいて雑音もこもらず、音割れもしていない抽出されたクリアーな音声データ。

 表示された品々に、大枚が飛び交い、その都度悲鳴と怒号すらも飛び交っていた。

 男たちは己の『夢』のために、軍資金を湯水の如く惜し気もなく使う。

 不意に――

「ヘイ、ホワイトフロイライン、さっきからあんまり食べていないようだが?」

「イェア、がっつり食わねぇーとデカくならねぇーぜ?」

「え? あ……いや……その……」

 もそもそと食べていたスノーへ、突然陽気な声がかけられる。

 驚き、顔を上げ――だが彼女は言葉を失い固まっていた。

 無理もない。

「ウェイト、ウェイト。オーケー、みなまで言うんじゃないさ、フロイライン」

 わかったわかったと両手で制し、男――ホースはニヒルな笑みを見せていた。きらりと光る歯がまぶしい。

 彼はそのまま、ビールが注がれたグラスを手に持って、横に立つディアーへと声をかけていた。

「ヘイ、ブラザー」

「どうした、ブラザー?」

 ホースの声音に対し、ディアーは眉を寄せておどけたように応えていた。

「どうやら、こちらのキュートなフロイラインは、恥ずかしがり屋さんのようだ」

「ファッツ!? おいおい、一体全体そりゃどういうこった? どうして恥ずかしがるってんだ?」

「まぁそう慌てなさんな。そんなにでかい声を出しまっちゃ、産まれたての仔猫が驚いて飛び上がるように、フロイラインもショックを受けちまうさ。とりあえず落ち着こうや。出なけりゃ話せるもんも話せねえ」

「おっと、こいつはすまねえな。俺たちは亡国機業であって、救命士じゃあないものな」

 言って、手にしたビールを煽る。ふうと息をつきディアー。

「で、聴こうじゃないか、ブラザー」

「ああ、説明するためには、ふたつニュースがある。グッドなニュースとバッドなニュースだ。どちらから聴きたい?」

 ホースの言葉に、そいつは素敵だと肩を竦める。

「なんてこったい。なら、まずは、グッドな方から聴こうか。何事も、いい話から聴くもんさ。そうすりゃ気持ちの整理もついて落ち着ける」

「オーケー、ブラザー。いい話ってのは他でもない。俺たちのようなナイスガイと相対しちまって、フロイラインは、ガチガチに固まって緊張しちまってんのさ。南極大陸の氷床のように」

「ヒューッ、そいつァ難儀だ。融かすには、ナパーム弾でも骨が折れるぜ」

 言って、ハッハッハッ――と陽気に笑い合うふたり。

 ちなみに、『ナパーム弾』とは、極めて高い温度――種類にもよるが、大まかに千度前後――によって、広範囲を燃焼し破壊する焼夷弾である。

 確かに緊張もするだろう。スノーにとっては生まれてはじめて直面するタイプだ。良い意味であろうとも、悪い意味であろうとも、どう接していいのかがわからない。

 だが、なによりも――

 実際は、がたいのよい黒人ふたりを前にして、スノーはただただ萎縮するだけ。

 考えてみてほしい。

 いくら、亡国機業がひとり、スコール派、スリーマンセルの一角、ディープスノーとて、戦場から離れれば、年相応の少女でしかない。それが眼の前に男性――しかもがっしりとした肉体、星型の黒いサングラス。片やアフロ、片やモヒカンともなれば、そのインパクトは強烈過ぎる。

 互いに「ブラザー」と口にする以上は、兄弟なのだろう。だが、どちらが兄で弟かなど判別することはできない。違いは、随分と自己主張が激しい個性的な髪型のみ。

 それよりも、これほどまでに見事な自意識過剰は、一体何処から来るのだろうか。

 困惑する彼女に気づきもせず、ディアーは続ける。

「じゃあ、次は、お待ちかねのバッドな話ってヤツを聴かせてもらおうか?」

「イェア。それはな、ブラザー……俺たちのような、クールでありながらホットなナイスガイに出会っちまったホワイトフロイラインのことさ。悪いが、俺たちには心に決めたヴィーナスが――」

「なに大前提で、告られてそれを断るシチュにしてんだ馬鹿兄弟」

 唐突に、ホースとディアーの背後からかけられた声音。

 疾風――まさに疾風。

 スノーの双眸が捉えていたのは、一陣の風。

 長い黒髪をなびかせ、スーツ姿の女性が脚を跳ね上げ一蹴する。瞬時に男たちふたりの延髄へ叩き込むと、文字通り『一撃』で昏倒させていた。

 床に叩きつけられてピクリとも動かないふたりの襟首を掴み、めんどうくさいと声を漏らした女性は引きずり去っていく。

 入れ違うように、のそりと現れた長身の男。スキンヘッドにサングラス姿の彼――ストーンは、スノーに対し軽く頭を下げていた。

「すまねぇな、迷惑をかけた」

「あ、いえ……そんなことありません。ビックリしましたけれど……面白いおふたりですね」

「……ホントすまん」

 口数少なく、再度詫びの言葉を告げると――

「ヘイ、ブラザー」

「なんだい、ブラザー?」

「俺はそうとう酒が回ったみたいだ。眼の前に居たはずのフロイラインが、愛しのマイシスターに見える」

「オゥ、そいつぁ妙だ。俺にも見える」

 あっさりと復活を遂げたホースとディアーの声に――間髪入れず、再度打撃の音が聴こえる。

 が――

 どうやら二撃目は各々防いだのだろう。

「それよりもエムたんの写真は何処だ?」

「エムたんの衣類は何処だ?」

「うるせぇ! お前らも、今は一応フォレスト派にも分類されてんだ! 品位を下げる発言すんじゃねえ! あげく、誰がテメェらに写真も衣類も渡すか!」

 響くセイスの怒号。

 しかし相変わらず、スノーたち、スコール派の三人以外の連中は気にも留めない。

「ヘイ、ナマ言ってるんじゃねぇぞ小僧!!」

「エムたんの為にも、今日と言う今日は、その低い学習能力に分を弁えさせてぶはぁ!?」

「学習能力うんぬんを、テメェらにだけは言われたくねえええぇぇぇ!!」

「ブラザー!?」

 しかし、幾らなんでも限度はある。無駄に騒ぐ一角に頭を痛め――ストーンは三度、スノーに対し「すまない」と口にすると彼もまた騒ぎの方へと向かっていった。

「…………」

 無言のまま、ステージへ視線を向けていたスノーだが――ゆっくりと顔が右へと向けられていた。

 視界に映るは、酒を口にするホークアイと、同じく酒を手にするアイゼン。

「アンタさ、趣味は?」

「狙撃」

「へぇ、なら……特技は?」

「クレー射撃」

「なるほど。そいつぁスゲェや」

 ホークアイの淡々とした返答にうんうんと頷いて――

 だが瞬時にアイゼンは声を荒げていた。

「おい、それ逆だろっ!?」

「?」

 アイゼンの指摘にホークアイは不思議そうに首を傾げる。

「ああ、ダメだコイツ……誰かー、水もってこい」

 ただの酔っ払いじゃねーかと悪態をつくアイゼンの声を掻き消すように、マイクを握るメテオラは口を開いていた。

「さー、じゃんじゃかいきましょう。次は――」

 言って、大型スクリーンに映し出される――苦悶の表情を浮かべるシャルロット

 瞬間――

 飲み物や食べ物を口にしていた面々は、ぶふぉっっ、と盛大に噴出していた。

 だばだばと口から零しながら――だが、眼はしっかりとモニターへと釘付けにされている。

 説明するかのようにメテオラがマイクを握り、口を開く。

「えー、今流れているのは、先日、IS学園に潜入した際に、シャルロット・デュノアとの交戦記録を映像として撮ったものです。ちなみに交戦者はそこに座るホークアイ女史」

 一同の視線が向けられる中、既に数杯のカクテルを口にして程よく頬に赤みが差し、サングラスに隠れた眼はとろんとしている。

 視線に気づき、無言のまま――Vサインを出すホークアイ。なんだかんだで普段は冷静沈着な彼女も、先から延々と酒を口にしていれば酔いもする。

 スノーはおどおどしながら飲み物を頼み、サンシーカーとルナは食べながら楽しそうにキャッキャウフフと話をしている。

 と――

「なん……だと……!?」

 血相変えて壇上に上がったのはオランジュだった。

「唐突すぎんだろうが!?」

 胸倉を掴み上げられるメテオラは――だが、不思議そうに首を傾げていた。

「お嫌でしたか?」

「馬鹿野郎、大好きに決まってんだろうが」

 亡国機業、シャルロッ党突撃隊長たるオランジュは、満面の笑みを浮かべていた。

 対してメテオラは、うんざりとした顔で相手を押しのけていた。

「はい、気持ち悪いんで、ちょっと離れてくださいね」

「さり気に酷いこと言ってね?」

「気のせいでしょう」

 ステージで言い合うふたりはさておき、シャルロットの映像は、逐一 ここぞというところは表情をアップに映されている。

 なんと言えばいいのだろうか。男の求める角度を余すことなく捉えている、とでもいうべきか。実に良いタイミングでアングルが切り替わるのだ。

 が――

 何の前触れもなく、そこで映像はぶつと途切れていた。

 打ち切られたことに男たちから「ああっ」と残念そうな声音が漏れる。

 ぶーぶーと非難がましく、もっと見せろとごねる連中を相手にせず、メテオラは淡々と告げていた。

「これ以上は御見せできません。欲しければ自力で手に入れてください。断っておきますが、映像のシャルロット嬢は脱ぎません。あくまでも、苦悶に歪む彼女の表情のみです。変な期待はしないように。手に入れてどうこうしようが知ったことじゃないんで、言わせんな恥ずかしい。ちなみに、複製データはありません。これ一点の原本限り。さー、あなたたち、欲しけりゃ殺しあって奪い取れーい」

 この言葉に俄然やる気を見せているのは、オランジュのみ――ではなかった。アイゼンといった他の党員たちもどこか乗り気だったりする。

 それは何故か。

 答えは至極簡単であり、情けないこと。

 映像に写るシャルロットの表情が悩ましげだったからだ。

 それは、シャルロッ党員ではない連中でさえ、心を動かされたといっても過言ではない。

 ブラックラビッ党、オルコッ党、セカン党、ファース党――

 己が唯一と崇拝する偶像を重複するなど言語道断。

 だが、心のどこか、隙間から囁かれるは悪魔の言葉。

「たまにはいいんじゃない?」

 誘惑に容易く打ち負けるとは、己が信念の脆さを意味する。万死に値するのは十分と言えよう。

 ――が。

 女神は囁く、この映像に打ち克ってこそ、真の愛党者。これは己が信念を試すべきための試練であると。

 まあ、簡単に言ってしまえば、なんだかんだと建前をでっち上げればどうとでもなる、ということなのだが。

 すべからく、男という生き物の「サガ」と言ったところか。

 気合も十分に男たちは戦線に乗り込んでいた。

「いよーっし、ならさっさとはじめんぞ!」

「おー、ノリがいいですね皆さま方。なら、開始金額は10万から――」

「いきなりハードル高ぇなオイっ!?」

「足元見やがって畜生ッ!!」

「誰か金貸してくれええぇぇ!!」

 メテオラの告げる金額に出だしで幾人かが挫かれる。

 阿鼻叫喚とした叫びの狂宴を耳にしながら、ホークアイはカクテルを喉に流し、スノーはコーラを飲み、サンシーカーはもぐもぐとハンバーガーを食べ、ルナはアイスクリームを口にしていた。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 臨時収入によって、いい感じに懐具合も温まったホークアイ。サンシーカー、スノーの三人は帰途につく。

 遅い時間であるはずが、人の波は途切れていない。

「はー、お腹いっぱい」

 ホークアイの手を握り、横を歩くサンシーカーは満足そうに呟いていた。

「サニ、退屈じゃなかった?」

「ううん。ルナとお友達になれたし、お話できたし。ちょっとお酒と煙草臭かったけれど」

 サンシーカーにとって、地下室での出来事は良くわからなかった。

 男たちは事ある度に騒ぎ、叫び、泣き、笑う。表情の変化にびっくりはしながらも、それでも楽しんでいる、ということは彼女でもなんとなく察しはついていた。

 同年代ぐらいの少女――ルナ、と名乗る子と仲良くなれたことが、彼女にとっての一番の収穫であろう。

 得意気になってルナが口にする内容も、サンシーカーにとっては良くわからないことばかりだった。ただひとつはっきりとしたことは、ルナという子は、すごく頭のいい子なのだろうと捉えていた。

 スノーはスノーで終始言葉少なく、びくびくしながら出された料理や飲み物を口にしていた。決して嫌がっている素振りもない。

「お土産もいっぱいもらったし、帰ってからスコールと一緒に食べようね。オータムも来ればよかったのに」

「…………」

 帰ってからまた食べる気なのかと呆れるスノーと笑うサンシーカー。なんだかんだとふたりとも楽しめていたことに対してホークアイは内心安堵し――

 ふと、表情を強張らせ、背後を振り返っていた。

「どうかした?」

「……いや、なんでもない……」

 声をかけてくるスノーにそう返答し、ホークアイは向き直る。

 今すれ違った鼻唄を口ずさむ少女は、どこかで見たような気がするのだが、それが思い出せない。

 しかし――

 狐を模したような髪留め、どこか眠たそうな表情、サイズに合わぬダルダルの袖をぶんぶか振り回している格好は、一目見て決して忘れることがない十分すぎるインパクトであるはずなのだが。

 やがて少女の姿は雑踏の中へと消えていく。

 単なる自分の気のせいかと思い直し、ホークアイはサンシーカーとスノーの手を取り、駅へと向かって歩いていった。




 四季の歓喜さんのオリキャラ亡国機業メンバーと絡ませたかっただけ。
 それだけに尽きます。
 って、か、絡んでねぇーっ。

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