前回の話
麗羽が何進の暗殺にSAN値チェックをファンブル失敗して狂気発症からの闇堕ち。
「やっと涼州に帰れる目処が立ったわ………
「ふふ…いつもありがとう、お疲れ様
黄巾党の反乱が勃発してから直ぐの事。
ボク達は涼州から洛陽へと急遽呼び出された。
何故呼び出されたのかを不思議に思いながらも洛陽へ到着すると、そこからは急展開で何故か月が黄巾党討伐の将軍なんかに任じられる事になった。
いやボク達も自分の領地の事とか色々あるんだけど!?
討伐協力ならまだしも将軍って何で!?
優秀な諸侯なら他にもいるでしょ!?
洛陽のご近所なら兗州の曹操とかさぁ!
不満に思いながらも、仕方ないので領地の留守番役に色々と連絡を送り、同じ涼州に領地を持つご近所さんの馬騰や韓遂にも助力をこうてよろしく頼んだりした。
無駄に借りを作ってしまって気が重い。
しかもそれでいて宦官からは無理難題を言いつけられるし、中央官僚からは成り上がりの余所者扱いで嫌がらせを受ける。
それでも何とか任務を真摯にこなし、ようやく黄巾党の反乱も終息に向かいやっと任務から開放されたのだ。
洛陽の郊外で陣幕を張り、二・三日後には退陣して涼州に帰れる所まで来たので、久し振りに月と二人でのんびりお茶を飲みながら………中央での愚痴をかましていた。
「まったく本当に何なんだろうね? わざわざボク達を中央に呼び出しておきながら、遠ざけようとしたり、管理下におこうとしたり、政治闘争に巻込もうとしたり…中央の腐敗は酷いって聞いていたけど、今回の事でつくづく思い知ったわ。 ボクは出来れば二度と関わりたくないよ」
「へぅ…軍の規模に対して糧食が足りなくなった時は、本当に危なかったね」
まさか後方支援もろくにされず、味方から兵糧攻めにされるとはこのボクの目を持ってしても見抜けなかったわ。
「そのせいで途中からはボクと月が洛陽に残る事になって、あいつ等の相手をしながら補給線の維持をしてたもんね。………涼州だったら直ぐにでも軍罰を課せたのに」
月の手前、あまり強い言葉は使いたくないが…あれは確実に斬首されるべき酷さだった。
そのせいで政治家でもない月に宦官や官僚とのやり取りで要らぬ気苦労を掛けてしまったし、前線に立つ
…それに華雄の抑え役にもなって貰ってたし………。
………やっぱり中央なんてろくな事がない。
唯一の成果と言えば、廖化の新作がかなり早い段階で手に入った事くらいだろう。
しかも内容が中央政治をぶった斬っての立身出世物。
あれは今のボクの立場からしたら、凄く気分爽快になる物語だった。
きっと廖化は今の中央政治を苦く思っているんだわ。
凄く話が合いそう。
そんなこんなで月に愚痴を聞いて貰っていたら、陣幕近辺の警邏をしていた華雄から緊急の伝令が届いた。
「馬車の群れがこっちの方に逃げて来てる?」
「へぅ〜…追手らしき人達もいるって………何か不味い事でも起こっているのかな詠ちゃん…」
………絶対に起こってる。
そんなのまず間違いなく面倒事だ。
もぉ〜! 何で大人しく涼州に帰らせてくれないかな!?
「………とにかく、その馬車群にも追手にも話を聞いてみない事には判断が出来ないわ」
「うん…じゃあ華雄将軍には追手を止めて貰って、私達はその馬車群に話を聞きに行こうか」
「護衛に恋も連れて行きましょう。…何も無いのが一番だけど…一応、念の為にね」
伝令に急ぎ恋を呼び出して貰い、私達はその馬車群の所へと向かった。
そして_____
その場には_____
何故か宦官と皇子が居た。
絶対に特大の厄介事だぁ〜!!!!!
………どうして………どうして_____
無理して予定を詰めていたら、今頃涼州への帰途でこの事態を回避出来ていたのに………。
過去のボクは何で余裕をかましたんだろう?
中央は面倒だって思い知らされていた筈なのに………。
「こ、皇太子殿下!? 何故この様な所に………」
月が皇子の存在を認めた瞬間に慌てて礼をするので、ボク達もそれに倣って皇子とその供回りに礼をする。
そして皇子の側近の宦官から語られる出来事は………胃の中身をブチ撒けたくなる様な内容だった。
_____
何してくれちゃってるのよ袁紹!?
霊帝の崩御に便乗して後宮に無理やり押し入り宦官を虐殺!?
って、霊帝崩御しちゃったの!?
あぁもう! そんな事より皇子と何太后を手中に納めて政権を奪取しようとしたなんて、どうしてそんな無茶苦茶な事…そんな事して手に入れた政権なんて誰も認める訳ないじゃない!
というか何進は何をしているのよ!
きちんと部下の手綱くらい握りなさいよ!
「…何進は………袁紹に利用されたのだ。 奴は何進を暗殺し、それをあたかも我らが暗殺したかのように言いふらして、その敵討ちを大義に此度の暴挙に出た。………董 仲穎中郎将、伏してお頼み申す。 どうか我らを…皇太子様を保護し、洛陽へと赴き袁紹の暴挙を止めては貰えぬだろうか…。 既に何太后様は奴に捕えられてしまった。………せめて皇太子様だけでも奴の手から…」
………胃が…胃が痛い。
何か見えない手で直接胃を鷲掴みされてるかの如く…胃が痛い。
そんなお願いされたら、月なら絶対に_____
「わかりました。 私が皇太子様を支援させて頂きます」
だよね、知ってた。
ボクはそんな優しい月が好きだよ。
でも今回はちょっとだけ恨めしいかな。
…でも実際の所、皇子を見つけてしまった時点でこの返事以外の選択肢なんて無いんだよね。
ここで何もせずに涼州に帰ってしまったら、皇子を見捨てた不忠者として評判を落とす………だけでは済まないか。
恐らくは涼州での統治がままならなくなるだろう。
この国の皇子すら見捨てる統治者にいったい誰がついて来たいというのだろうか?
黄巾党の反乱が終わったのに、今度は自領で反乱が勃発しちゃうわ。
仮に袁紹に協力しようものならそれは漢王朝への反逆に等しい行為な訳で………月にそんな選択が出来る訳がない、と同時にもしそんな選択をしてしまったらそれは政権の簒奪者への協力者になるってことで………やっぱりろくでもない未来にしかならないだろう。
………うぅ…結局はこうして皇子に肩入れするしかないのか。
ボク達は急遽予定を変更し、皇子を連れて洛陽へと進軍する事になった。
その進軍の最中にボクは月へと一応の忠告をしておく。
「わかってるとは思うけど、あまり宦官の言う事を信用しないようにね? 今回の話だってどこまで本当なのかわからないんだから」
まぁ月も黄巾党反乱時に宦官からの無理難題で散々振り回されていたから、あいつ等が一切信用も信頼も出来ない事は理解しているだろうけど。
「うん。 私もあの人達の事はあまり信用出来ないんだけど…ただ、袁紹さんが追手を出して皇太子様を捕らえようとしていたのは事実だったから…とにかく今は宮中まで戻る事が大事かなって………それで袁紹さんからも話を聞いて………へぅ〜…そこからどうしよぉ詠ちゃ〜ん」
えっと、とりあえず袁紹に皇子と宦官の身柄をこちらが預かる事を了承させないといけないわね。
………難しいわ。
こんな事しでかした奴が簡単に納得するとは思えない。
霊帝の葬儀を執り行い、皇子の即位もしなくちゃいけないか。
………何進が死んだ今、誰が喪主を務めるのよ…まさか皇子?
その皇子の後見人争いで絶対にまた政争が起こるじゃない!
崩壊した宦官組織をある程度復活させて後宮の機能回復も急がないと。
………宦官ってそんな簡単に人が集まる組織じゃないわ。
っていうか絶対に袁紹が反対する。
皇帝即位後の政治体制も新組織して整えるのも必須か。
………誰がこの混乱中の中央で官僚になりたがるのよ。
危ない野心家か、それこそ袁紹派閥の奴しかいないじゃない。
それじゃあ最終的に袁紹政権になってボク達の努力に何の意味もない!
ざっくり大雑把に考えるだけでも全部が全部特上の難題案件じゃない。
しかもそれを害悪とも言える宦官を管理しながら、ボク達の事を成り上がりの余所者と嫌っている官僚の協力を得て、滅茶苦茶反発して来るだろう袁紹と話し合いながら調整するの?
ハハハハハハハハ_____
絶対に無理!
………でもそんなの…月には言えない。
今も不安そうに、泣き出しそうな顔をしている月には言えない。
「だ、大丈夫だよ月…ボクが…ボクが何とかするから」
震える声で、精一杯の虚勢を張る。
うぅ~…この洛陽へと続く道は、ボク達を地獄へと誘う道だ。
………覚悟を決めろ賈 文和。
月を地獄への道になんて歩ませない。
月の道はボクが切り開く!
覚悟とは暗闇の荒野に進むべき道を切り開く事らしいので、おそらく詠ちゃんにはやると言ったらやるスゴ味があるのかもしれません。
漆黒の意思を持つ麗羽vs黄金の精神に目覚めた詠vs吐き気を催す邪悪の宦官でバトル開始!
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この話をもって3視点での反董卓連合軍編の導入は終わり、次話から主人公視点に戻し話を進めます。
次話の投稿予定は、一週間以内です。