グリモワール魔法学園【七属性の魔法使い】   作:ゆっけめがね

72 / 117
※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。



第71話 パンドラ

良介とゆえ子は無事地上に戻ってきた。

夏海が眠っているゆえ子を叩き起した。

 

「ちょ、ちょっとゆえ子、大丈夫!?」

 

「ええ・・・すいません、とても眠いんですが・・・

ただ疲れているだけですのでご心配なく。」

 

初音は沙那の方を向いた。

 

「おい、沙那。

さっき、役に立てるかもしれないっていったの、なんだ?」

 

「あちらに用意してあります。」

 

「ん?

ぷっ、くくっ・・・!」

 

初音は沙那が指差した方を見ると笑い始めた。

 

「大声で笑ったら魔物が来るんだから、我慢しなさいよ!」

 

「だってあれ・・・子連れ狼じゃんか・・・う、うひひ・・・」

 

そこには乳母車が置いてあった。

 

「いいじゃない。

良介か誠に押させれば、背負うよりずっとマシだし。

ゆえ子も座れた方が楽でしょ?」

 

「ええ、そうですね・・・よろしくお願いします・・・」

 

「俺たちどっちかが押すのか・・・」

 

「ま、仕方ねえな。」

 

そこに、外を見ていた鳴子がやってきた。

 

「今日はもうすぐ日が暮れるな。

ここで夜を明かした方がいいな。

良介君も西原君も霧の濃い中を歩き通しだったんだ。

僕たちが警戒しておくから、ゆっくり休んでてくれ。」

 

少しして、良介は卯衣に魔力を渡していた。

 

「よし、これでいいな。」

 

「ありがとう。

魔力がいっぱいになったわ。」

 

「あなたと西原さんがいなくなったときは焦ったけれど・・・

彼女の予知、だんだんと精度が増しているみたいね。

私たちの戦闘で開いた穴、絶妙な場所だったわ。

ちょうど魔物が掘った洞窟と地表が一番近い場所だったみたい。」

 

「それについてだが・・・」

 

良介はゆえ子が言っていたことを結希に伝えた。

 

「魔物が西原さんを、狙って?

どうかしら。

12年後の今、魔物の知能は進化しているかしら。

ただ・・・戦力が低いとしてあなたたちを分断したのだとしたら・・・

あなたたちだから、また合流できたのも確かよ。」

 

「どういうことだ?」

 

「あまり気にしないように・・・さ、卯衣。

雀さんと警戒にあたってちょうだい。」

 

「わかりました。」

 

卯衣は見回りに向かった。

少しした頃、良介は鳴子のところに来ていた。

 

「鳴子さん。」

 

「ん?

なにか質問かな。」

 

「確か出発前の話だと、霧の護り手やテロリストがいるんですよね?」

 

「ああ、そうだね。

テロリストはいるよ、【今】も。」

 

「なら、待ち合わせてる人の顔とか教えてくれませんか。

人が出てきたら、どうすればいいかわからないんで。」

 

沙那は良介の話を黙って聞いた後、鳴子に話した。

 

「私も賛成ですね。

特徴を教えてください。

その方以外は、全員倒して構わないですね?」

 

それを聞くと、鳴子は静かに笑った。

 

「フフフ・・・いいよ、教えよう。

みんなも集まってくれ。」

 

鳴子がそう言うと、その場にいた全員が集まった。

 

「メモする必要はないよ。

なぜなら多分、君たちは見ればわかる。

僕が連絡を取っている相手・・・

それは【僕】だ。

この時代・・・12年後の、ね。」

 

「なるほど・・・未来の鳴子さんか。」

 

良介は鳴子の言葉を聞いて納得した。

 

   ***

 

翌日、良介たちは目的地に向かっていた。

 

「よし、今日はいいペースだ。

この分だと昼過ぎにはつけるかな。

この新街を抜けたら、県立風飛高校が見える。

【僕】はそこにいる。」

 

すると、夏海が鳴子に話しかけた。

 

「で、でも部長・・・今って確か、12年後ですよね?

だとすると、部長って・・・」

 

「その通り、30歳だ。

今が何日かわからないが、誕生日を過ぎてればね。」

 

「お、大人の部長!」

 

夏海は嬉しそうだった。

良介は話を聞いて誠と話していた。

 

「30歳の鳴子さんか・・・想像つくようなつかないような・・・」

 

「見たらわかるって言ってたから、あまり変わってないってことだろ。」

 

少し進んだところで鳴子が良介に話しかけてきた。

 

「良介君。

1つ、心配していることがあってね。」

 

「どうしたんですか。」

 

「ゲートの先はここだけじゃない。

ゲートごとにそれぞれの時代がある。

例えばこの前、霧の嵐でできたゲートからは【12年前】に飛んだ。

あのゲートは消えてしまったから2度行くのは難しいけど・・・

世界には、ずっと空いているゲートが【7つ】ある、と言われる。」

 

「7つもあるんですか。」

 

「そのうちひとつは大垣峰だよ。

その7つのゲートを通して、5人の【僕】と連絡を取ってたんだ。

だけど、実はその中に30より上の【僕】はいなくてね。」

 

「ちょっと待ってください。

ここの鳴子さんは・・・」

 

「そう、ここの【僕】は30なんだよね。」

 

良介は鳴子から視線を外した。

 

「(嫌な予感がする・・・少し覚悟した方がいいかもしれないな・・・)」

 

良介は両手に少し力を込めた。

 

   ***

 

鳴子はデバイスを気にし続けていた。

 

「連絡が途絶えたままだ・・・なにか余計なことに巻き込まれていなけりゃいいけど。」

 

「急いだ方がいいですか?」

 

夏海は鳴子に聞いた。

 

「いや、彼女が指定した時間につけば何も問題はない。」

 

夏海は不満そうな顔で鳴子を見ていた。

 

「なにか聞きたいことがあるのかい?」

 

「あ、いえ、今はそんなこと聞いてるヒマは・・・」

 

「答えよう。

場合によっては、君に無条件で物を教える最後の機会かもしれない。」

 

「え?

そ、それってどういう・・・」

 

「最悪の事態の場合だよ。

早く言うんだ。

もう少しで話すのも危険になる。」

 

「あ、あの・・・部長、この時期のことを知ってるってことは・・・

第8次侵攻でみんながどうなったかも知ってるってことですよね?」

 

「ああ。」

 

「ええとですね!

あたしっていったい・・・!」

 

「そこまでだ。

それは聞かない方がいい。」

 

鳴子は夏海の話を止めた。

 

「えっ!?」

 

「僕はね、夏海。

いろんな人間に、今より未来がどうなっているかを話した。

主に脅しとしてだけどね・・・政治家や先生やなんやらに便宜を図ってもらうため。

例え裏世界の方だったとして、自分の最後を知った人間はどうなると思う?」

 

夏海は少し考えた。

 

「わかりません。」

 

「絶望するんだよ。

それが大往生だったとしてもね。

教えるときは確たる情報を添付する。

写真が一例だ。

他にもまあ、いろいろ。

それらを用いて伝えた相手は、その死がいつだろうと絶望する。

自分の時がその時点より先に【ない】ことを知ってしまうからだ。

不思議とね。

寿命まで生きる人でもそうなるんだよ。」

 

「ええと、なんだか難しいです。」

 

「以上の理由から、君が何歳まで生きたということを教える気はない。

第8次侵攻で夏海が死のうと、その後数年間生き続けようと・・・

もしくは幸せな生涯を閉じることになったとしても・・・

君には絶対に教えない。

なおかつ、裏世界と表世界の君は【違う】。

裏世界の君がいつまで生きるのか、それは今の君には関係のないことだ。

実質的な他人の生死で絶望してしまったら僕が困る。

答えを教えないのは、僕からの愛情表現だと受け取ってくれ。」

 

「は、はい。

(その言い方だと・・・生まれてない、なんてことはなさそうね・・・

でも・・・・・)」

 

今度は初音が鳴子に話しかけた。

 

「なーなー、アタシのことは・・・」

 

「君には知っておいてもらうことがある。

君の生死より重要なことだ。」

 

「アタシの生死より重要なこと?」

 

すると、沙那が鳴子の話を止めた。

 

「お戯れはおやめください、遊佐さん。」

 

「君こそ見るべきだ、月宮 沙那。

今、この瞬間に校舎の周りに出てきた、彼らの服と装備を。」

 

そう言うと校舎の周りから人が出てきた。

 

「敵か?

なんだ、アレ。

霧の魔物じゃ・・・ないな。」

 

「っ!

いけません、初音様!

私の後ろに!」

 

校舎の周りから出てきた者たちは良介たちを銃で攻撃してきた。

良介は沙那の前に立つと、剣で銃弾を弾いた。

 

「くっ、こいつら・・・!」

 

「彼らは人間だ。

そして【僕】を狙っていた連中だ。

盗聴で情報受け渡しを知り・・・

接触しに来た間抜けな僕らを一網打尽にしようとしている。」

 

初音はその敵を見て動揺していた。

 

「どど、どうなってんだよ!

沙那!

アレ、ウチの社員じゃねーか!」

 

良介は一気に距離を詰め、相手を殴り飛ばした。

 

「まさか人間の相手をすることになるなんてな。」

 

良介を後ろから撃とうとした敵を誠が蹴り飛ばした。

 

「時間はかけられねえ。

一気に行くぜ!」

 

2人は相手の方へと向かっていった。

 

   ***

 

敵と戦いながら鳴子はみんなに呼びかけた。

 

「宍戸君、立華君は校舎の外までだ!

みんな焦るな!

僕はこの搜索で学園生の死人を出すつもりはない!

時間までに5分ある。

僕たちは【1秒たりとも】時間をずらしてはいけない!」

 

「無茶言ってくれるぜ!」

 

誠は敵の顔面に膝蹴りを入れながら文句を言った。

 

「【僕】が指定した時間だからだ!

この世界で頼れるのはルールだけだ!

余計な情報はシャットしている!」

 

「わけがわからないな!」

 

良介は敵の顔面を地面に叩きつけた後、そのまま後頭部を踏みつけた。

 

「いいかい良介君。

魔法は【なんでもアリ】なんだ。

僕たちの姿を見たところで、はたして信用に値するか?

僕だけにわかる符号があったとして、それが確実だという保証は?

JGJと霧の護り手が手を組んで、どれほど技術が進歩した?

命令式さえ見つければ、なにがどう偽装されててもおかしくないんだ。

それを考えると、なにも信用できない。

だから1つのルールを作った。」

 

それを聞いていた結希は卯衣を止めた。

 

「卯衣、突入は待って。

遊佐さんの言っていることがわかったわ。

未来の遊佐 鳴子は【時間ちょうどに入ってきた相手にデータを渡す】つもりよ。」

 

「は、はぁ?」

 

初音は唖然とした。

沙那は黙って聞いていた。

 

「相手の素性が信用できない以上、そのルールを守った相手を信用するしかない。」

 

「違う時間に入ろうとしたものは、攻撃される・・・」

 

「もしくは、その時点で遊佐 鳴子は消える。

2度目のチャンスはないでしょうね。」

 

「だ、だってあのボロ校舎、今にも壊れそうだぞ!」

 

初音は校舎を指さしながら言った。

 

「JGJってミサイルもあるんだぞ!

核も使うんだぞ!」

 

「そんなものは関係ないわ。

【彼女の指定した場所に指定した時間】・・・

そのときその場所が【どうなっていようと】渡す手段を用意してるはず。

盗聴の可能性はあるけれど、あらかじめ私たちが伝えられていた条件・・・

大丈夫よ。

卯衣。

校舎の入口は他には塞がれてるわね?」

 

「はい。

ここで校舎が破壊されるのを防ぎます。

残り276秒。

私は核を受けても活動可能です。

17時に突入します。

残存魔力量は許容範囲。

場合によっては良介君の魔力か魔法、誠君の魔法を必要とする可能性があります。

マスターに与えられた任務は【生きる】こと。

戦闘終了後、速やかな補給を要請します。」

 

鳴子は卯衣のことを見ていた。

 

「不死身の立華君がいるから、僕たちの勝利は約束されている。

とはいえ・・・うざったいヤツらだ。

僕と僕の感動の対面を邪魔する無粋な連中め。

神宮寺君がショックを受けないよう、穏便に済ませるつもりだったけれど・・・

良介君、魔力を借りるよ。

生徒会長の真似事をしてみよう。」

 

「真似事?

なにをするつもりですか?」

 

良介は敵に頭突きを入れたあと、鳴子のところにやってきた。

 

「ホワイトプラズマ・・・あれのようにとはいかないけどね。

魔力を流し込めっ!

あたり一帯、雷を落としてやる!」

 

鳴子は雷を撃ち始めると、誠もそれに合わせて魔法を撃とうとした。

 

「塵一つ残さず消滅させてやらあ!

インフェルノ・・・ブラスター!」

 

誠は両手から紅い炎を敵に向かって撃った。

雷を撃った鳴子は疲労していた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・山を1つ、なんてバカみたいな威力だな・・・到底無理だ。

しまった。

時計が壊れた。

立華君、余裕はあるね?」

 

鳴子は卯衣に時間を聞いた。

 

「残り12秒。

支障はありません。」

 

すると、敵がまた攻撃してきた。

 

「クソ、ミストファイバー製の装備か。

魔法抵抗が段違いだ。

生きてるなんて・・・」

 

「もうあんまりいないのだ。

僕たちが相手するアル。」

 

明鈴はそう言って、敵の方を向き、構えた。

 

「ああ、任せた。

僕は・・・入ろう・・・」

 

鳴子は校舎に入った。

しかし、鳴子はその目に入った光景を見て笑い始めた。

 

「ク・・・クク・・・

これが最後の謎かけか。

それとも君も・・・絶望してしまったか?」

 

そこには、口から血を流して倒れた鳴子がいた。

 

「これは・・・!」

 

良介は入ってくるやいなや、裏の鳴子に駆け寄った。

 

「良介・・・どうだ?」

 

誠は良介に聞いた。

良介は裏の鳴子の首筋と手首に手をやった後、立ち上がり黙って首を横に振った。

 

「自殺・・・なのか?」

 

誠は胸の撃たれた痕と裏の鳴子が持っていた拳銃を見ながら言った。

 

「いけないね・・・やっぱり僕は僕だ。

今日がその日ってことか。」

 

「どういうことですか?」

 

良介は鳴子に聞いた。

 

「僕は30歳以上の僕と連絡を取れたことがない。

いや、他の僕も同様だ。

薄々感づいていたが・・・ここで死んだからなんだな。

だが、僕はここで約束通りに来た。

いただくよ。」

 

「鳴子さん、なにを・・・」

 

鳴子は裏の鳴子の体を調べ始めた。

 

「ちょうど誰かがドアを開けた場合、【なぜだか知らないが】僕は自殺する。

その後、ここに来た相手にデータを渡す・・・好きなだけ体を調べろってことさ。

(なぜ死んだ・・・何か狙いがあるのか?

絶望しただけか?)」

 

鳴子は裏の鳴子の懐から何かを取り出した。

 

「あった、これだ。」

 

「見つけるの速いな。」

 

誠は呆れた。

 

「本人だからね・・・ま、名誉のために場所は言わないでおくけど。

良介君か西原君、君のデバイスを貸してくれないかい。

僕のはさっき壊れた。」

 

「ゆえのことを忘れないでいてくれてありがとうございます。

あ、ゆえのデバイス、余計なアプリが入っています・・・良介さんのもので・・・」

 

「鳴子さん、これを・・・」

 

良介は鳴子にデバイスを手渡した。

 

「さて、3人とも。

さっきの夏海との会話、聞いていたかい?

実を言うとね、僕は夏海が第8次侵攻で死ぬことを知っている・・・言うなよ?

そのほか、多くの生徒の生死を知っている。

歴史の違う裏世界では、そもそもグリモアに転校して来ていない生徒もいる。

そこの相違と【なぜ違うのか】を、僕はずっと調べていた。

表と裏は【どこが違うから歴史が違うのか】。

【裏で学園にいない生徒はなぜいないのか、何をしているか】とかね。」

 

鳴子はデバイスを触っているとデバイスに一覧が出てきた。

 

「【僕】が調べてくれた、表にいて裏にいない生徒の一覧だ。

ああ、聞いていたことだけど・・・やっぱりな・・・

これはデジタルデータだから、ねつ造の可能性はゼロじゃない。

だけどなんの準備もない良介君のデバイスで閲覧した・・・

それで信憑性を増してくれないかい。」

 

「ここまで来てねつ造もないですよ。

相違のあるクラスメートのことですか?」

 

良介が鳴子に聞いた。

 

「相違なんてものじゃない。

僕がどうして良介君に興味を持っていたと思う?」

 

良介も誠も黙っていた。

 

「結論から言う。

早田 良介、新海 誠、立華 卯衣、相馬 レナ、朱鷺坂 チトセ。

この5人は、この裏世界に【存在していない】。」

 

「俺も・・・?

どういうことだ?」

 

誠は困惑していた。

 

「死んでないし、生まれていない。

【いない】んだ。

少なくとも【今】は。」

 

「俺も・・・良介も・・・立華もいない・・・?」

 

「相馬君もいない。

【狼に育てられた少女】なんて新聞報道はない。

朱鷺坂君は・・・まあ、もっと未来のゲートから来た、と申告している・・・」

 

「良介さんと誠さんは・・・」

 

ゆえ子は鳴子に聞いた。

鳴子は良介と誠の方を向いた。

 

「良介君、誠君。

君たちは、いったい何者だ?」

 

「俺たち2人が・・・いない・・・?」

 

良介と誠はお互いを見た。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。