グリモワール魔法学園【七属性の魔法使い】   作:ゆっけめがね

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※この作品の主人公は原作アプリの転校生ではありません。
 閲覧者様のイメージを壊す可能性があります。
 それでもOKという方は、よろしくお願いします。


第68話 ベテランの一角

朝の学園の校門前、良介が1人で歩いていた。

 

「良介さん、良介さん!」

 

「ん?」

 

良介は誰かに呼ばれたので振り向くと、さらがいた。

 

「おはようございますぅ!

あのですね、実はですね・・・

わたし、クエストに行くんですよぅ!」

 

「クエスト・・・ああ、商店街のクエストか。」

 

良介はデバイスでクエストを確認した。

 

「はい!

商店街のひとたちが困ってるみたいなんですぅ!

副会長さんから、行ってみたらって言われましたのでお請けしました!」

 

「へえ、薫子さんにか。」

 

「わたし、やっとクエストを自由に請けられるようになりまして・・・

ですから、今日は頑張っちゃいますよぉ!」

 

「よし、それじゃ俺も請けるかな。」

 

「では、よろしくお願いしますね!」

 

さらはそう言うと、先に行ってしまった。

だが、なぜかすぐに戻ってきた。

 

「ん?

どうした、さら。」

 

「商店街・・・前に行ったことがあるんですけど・・・どこでしたでしょうか?」

 

「バスに乗って行くんだよ。」

 

良介は呆れ笑いをしながら言った。

 

「あ、バスですね!

ありがとうございますぅ!

それでは、シロー、出発ですよう!」

 

良介とさらはクエストに向かった。

その頃、生徒会室。

虎千代と薫子がいた。

 

「仲月に単独のクエストを許可したのか。

アイツもそんな歳になったんだな。

フフフ、いつまでも小さいから気づかなかったぞ。」

 

「学園生活は私たちなどよりずっと長いのですけれどね。

今までも誰かのパーティに所属して、という形で後方支援をしていましたが・・・

まずは簡単なクエストから、徐々にこなせるようになってもらいましょう。」

 

「なんといっても、物心ついたころから学園にいるのは仲月だけだからな。

ある意味、アイツが一番グリモアの生徒らしいかもしれん。」

 

「今日のクエストは商店街に出現した魔物の掃討です。

規模は少数。

全て幼体で、人に危害を加える力は持っていません。

ですが出た場所が場所だけに、急いで討伐することになりました。

仲月さんなら、商店街の方々へのイメージも悪くないでしょうし。」

 

「こんなに小さい子を戦わせるなど不届き千万、となるんじゃないか?」

 

「仲月さんはみなさんを助けるために全力を尽くしてくれます。

良介さんがいっしょですし、戦いが終わっても元気でしょう。

小さくてもこんなに強く、自分たちのことを考えてくれている・・・

と受け取ってもらえれば僥倖ですね。」

 

「まあ、仲月を送り出す時点である程度の打算は仕方ない。

だが、魔法使いはみんながそうでないといけない。

強く、人々のことを考えている・・・誰が行っても、そういう印象じゃなきゃな。」

 

「ええ、もちろんですわ。」

 

2人が話していると、聖奈が入ってきた。

 

「会長、副会長。

対策開発局局長がお見えになりました。」

 

「そうか。

誰だっけそれ。」

 

虎千代がそう言うと、茉理が入ってきた。

 

「ほら~、だから茉理ちゃんって呼んでって言ったのにぃ!」

 

「あ、あなたは学園生ではない!

年も離れています!

馴れ馴れしく呼ぶなどできるわけがありません!」

 

「やぁん、お堅いところもカ・ワ・イ・イ。

背伸びしてるのねぇ~。」

 

「ああ、神宮寺の。

ようこそ、生徒会室へ。」

 

「なんの用事でしょうか。」

 

「おっと・・・いやね、そろそろ初音ちゃんと話してもいいんじゃないかなって。

試用期間?

終わってほしいな~って・・・まだ信用できないかな?」

 

「ああ、そういうことか。

ふむ・・・まあ、いいんじゃないか?」

 

「会長・・・!」

 

「もともと神宮寺に【信用できる人材】として紹介してもらったんだ。

それなのにあまり疑うと、なにがなにやらだからな。

局長。

一般生徒と同様の行動制限をあなたに与える。

学園生の入れる場所ならどこでも行っていい。

誰と話してもいいぞ。」

 

その言葉を聞くと茉理は嬉しそうに笑った。

 

「アリガト。

今までは関係者?

しか話せなかったからね。

グフフ・・・・・」

 

茉理は怪しい笑みを浮かべた。

 

「ただし、一般生徒は授業がある。

その邪魔はしないように頼むぞ。」

 

「ラジャ・・・あ、生徒会長さん。

その喋り方だけど・・・」

 

「年上のあなたに偉そうな話し方をして申し訳なく思うが、それが仕事だか・・・」

 

「いやいやいや、違うのよ。

全然オッケー!

でもね、呼ぶときは茉理ちゃんって呼んでね。

それくらいいいでしょ?」

 

「わかった、茉理ちゃん。」

 

茉理は嬉しそうに笑った。

 

「ごちそうさま!」

 

茉理はスキップ気味に生徒会室から出て行った。

 

「あの方は本当に成人しているのですか?」

 

「こら、薫子。

そういうことは言うもんじゃない。」

 

「JGJ関連は私の担当です。

お任せ下さい。」

 

「ではまず、茉理ちゃんと呼べるようになってくださいね。」

 

聖奈はその言葉に困惑した。

 

「会長がそう呼んだのですから、もう失礼は当たらないでしょう。」

 

「は、はい。

善処します。」

 

聖奈はため息をつきながら出て行った。

 

   ***

 

良介とさらは話しながらバス乗り場に向かっていた。

 

「良介さん、今日はよろしくお願いしますねぇ。」

 

「ああ、よろしくな。」

 

「わたし、あんまりクエストに出ないのでみんな心配してましたけど・・・

良介さんといっしょなら、きっと大丈夫ですぅ!

それに、ししどさんがお守りをくれましたし!」

 

「お守り・・・?

結希が?」

 

「この・・・えーと、発信機で、わたしたちの場所がわかるって・・・

危なくなったら、ししどさんがすぐにきてくれるっていってましたぁ!」

 

「そ、そうか。

しかし、結希がそんなもの渡すとは珍しいな。

(どう考えてもGPSとかそういうやつの類だな・・・)」

 

「ゆきさん、よくシローと遊んでくれるんですぅ。」

 

「結希が・・・シローと・・・?」

 

良介はその姿を妄想してみたが、まったく思いつかなかった。

 

「ふぇぇ?

そんなにふしぎですかぁ?

ししどさん、シローのことをとってもきょーみぶかいっていってました。

ほかには・・・えーと・・・いいコンビになれるっていってくれました!

だから今日は・・・練習のせいかを、良介さんにみせてあげますぅ!」

 

「そうか・・・

(興味深い・・・?

シローには何か秘密でもあるのか?)」

 

良介は首を捻りながら、バス乗り場に向かった。

 

   ***

 

少し遡って、数日前。

良介は噴水前にいた。

そこに春乃がやってきた。

 

「良介。

ちょっと待て。」

 

「ん・・・春乃か。

何か用か?」

 

「この前、秋穂を助けてくれたことに礼を言う。

あのときは1人じゃどうしようもなかった。」

 

「そうか・・・。」

 

2人は少し無言になった。

 

「それだけ。」

 

春乃が去ろうとすると、良介は呼び止めた。

 

「春乃、秋穂は大丈夫なのか?」

 

「ん?

ああ、秋穂はすぐによくなったわ。

この前、結婚式場の警備に行ったでしょう。」

 

「ああ、確かにそうだったな。」

 

「後遺症がなくてよかった・・・」

 

「そう・・・だな。」

 

「アンタも秋穂のことを知った。

でも、あの子には言うな。

随分よくなったけど、あの子はまだお母さんのことを思い出して泣く。

自分のことを知ると、ただでさえ辛い人生が耐えがたいものになってしまう。

アンタもあのときの秋穂を見れば、伝える気なんか失せるわ。」

 

「(その気持ち・・・なんとなくわかるような気もするな・・・)」

 

「今まで、ずっとあの子に障壁を張り続けてきた。

それしか方法がないと思っていたから。

1度、霧が入り込んだらどうしようもない・・・なにを読んでもそう書いてあった。」

 

「それで・・・春乃はどうする気なんだ?」

 

「探す。

治すための方法を、探す。

あたしと秋穂は、そこからだ。

・・・それだけ。」

 

「そうか。」

 

良介が背を向けると春乃は続けて話した。

 

「あともう1つ。」

 

「ん?」

 

「これで秋穂を付け回すことを許すと思うな。」

 

「フッ・・・」

 

良介は鼻で笑った。

 

「何が可笑しい。」

 

春乃は良介を睨んだ。

 

「お前に、そして秋穂に伝えておけ。

死にたくなかったら俺に関わろうとするなと。」

 

「・・・何?」

 

「俺は助けをするが、俺を助けようとする必要はない。」

 

「どうして、そんなことを言う。」

 

「これ以上、何も失いたくない。

それだけだ。」

 

良介はそう言うと、去っていった。

 

   ***

 

商店街。

良介は変身し、さらと歩いていた。

すると、さらが話しかけてきた。

 

「この前のこと、大変でしたねぇ・・・おケガ、ありませんでした?」

 

「ああ、大丈夫だよ。

もう治ったから。

けど、どうしたんだ?」

 

「わたし、ずっと学園にいるのです。

いち、にぃ・・・じゅうねんですねぇ。

最初のころはあんまり覚えてないんですけど・・・

たくさんの先輩たちに優しくしてもらったのですよぉ。」

 

「へぇ、そうだったのか。」

 

「先輩たちはほとんど卒業してしまいましたけど・・・

ひとりだけ、卒業の前に亡くなっちゃったんです。

そのときの生徒会長さんで、とっても強かったんですよぉ。」

 

「そうなのか・・・生きていたら、是非とも会ってみたかったな。」

 

「お話では、魔物と戦ったときのちっちゃなケガがもとで・・・

うちどころが悪かったっていってました。

ですから、良介さんもおきをつけてくださいねぇ!

たくさんクエストに出てる良介さん、とっても心配です。」

 

「あ・・・うん・・・気をつけるよ。

(ほぼクエストに行くたびにボロボロになることが多いから、なんとも・・・)」

 

と、さらのポケットに入っていたシローが何かに反応した。

 

「ふぇ?

シロー、どうしましたか?」

 

「さら、魔物だ。」

 

「あっ、こっちに来ますぅ!」

 

良介とさらは身構えると、魔物は突進してきた。

良介は軽く体を捻って躱すと、魔物に拘束魔法をかけた。

 

「さら、今だ。」

 

良介が言うと、さらは魔法を撃つと、魔物は消滅した。

 

「やりましたぁ!」

 

「よし、この調子で行こう。」

 

良介とさらは次の魔物のところへと向かった。

 

   ***

 

購買部前。

チトセと薫子がいた。

 

「ええ、そうでしたね。

新しく作られた歴史はわからない。

あなたはただ、前の歴史と【同じところ】を見つけて、変えていく・・・」

 

「その通り。

だからこのゲートの謎を宍戸さんが解いてくれるなら・・・

全力でお手伝いするわ。」

 

「初めて裏世界に行った後、あなたは急に自分のことを話しだした。

なぜですか?

裏世界にいくことに、どんな意味が?」

 

「なにも変わっていなかったから。」

 

「こちらを変えたのなら、元の歴史である裏世界に変化がないのは当然では?」

 

「もちろんそうよ・・・でも・・・なにかありそうなの。

完全に2つに分かれている・・・にしては、不自然な点があるもの。」

 

薫子は不思議そうな顔をした。

 

「私もずっと、世界は2つあると思っていた。

でも、この前過去の裏世界に行った人たちの話を聞いたでしょう?

表世界の彼女たちが子どもだったころ・・・大人の彼女たちと会っている。

裏世界から来た?

いいえ、裏世界はその頃、ゲートは見つかっていない。

彼女たちは・・・どこから来たの?」

 

薫子は無言でチトセを見た。

 

「ね?

この世界には何かがある。

まだ、誰も知らない何かが。

それを突き止めなければ、問題は解決しない・・・」

 

チトセは去っていった。

薫子は購買部に入ると、ももがあいさつしてきた。

 

「副会長、こんにちは!」

 

「(この子には【生まれていないからわからない】といった・・・

けれど実際は、彼女は虎千代の運命について知っている・・・

あえて嘘をついたとすれば・・・

裏世界の第8次侵攻・・・おそらく学園の生徒は・・・)」

 

薫子は顎に手をやったまま考え込んでいた。

 

「副会長さん?」

 

ももはその様子を見て首を傾げた。

少し離れた廊下に誠がいた。

誠はこれまでの話を全て聞いていた。

 

「(完全にチトセがももに話した内容は嘘だな。

恐らくあいつは裏世界の第8次侵攻時点で生まれている・・・いや、もしかしたらその時を知る当事者かもしれない・・・

そうでなければ会長のことを知っているのはおかしいからな。

となれば・・・)」

 

誠は頭の中を整理した。

 

「裏世界の誰かが化けて、偽名を使ってやってきた・・・」

 

そう言うと、誠は鼻で笑った。

 

「まさか・・・な。」

 

誠はその場から去っていった。


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