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ある日、競技場のある運動公園。
葵が走ってやってきた。
「はあぁ~、いいお天気!
す~、は~・・・いい気持ちです!
新緑が鮮やかで、ウキウキしてしまいますね!
今日は頑張りましょうね♪」
葵を追いかけて萌木と誠がやってきた。
「ハァ、ハァ・・・冷泉さん、待っ・・・あ、足はや、い・・・!」
「まったく、元気だなぁ・・・」
「霧塚さん、疲れるのはまだ早いですよ。
これから運動場なのですから!」
遅れて風子と良介がやってきた。
「ずいぶん楽しそーですね。
ウチらが運動するわけじゃねーですからねー?
けど忙しーんで覚悟しといてくださいよ。
お客さん多いみたいですから。
救護室にも人員振り分けますからね。
そんなにないとは思いますが・・・
もし大きなケガの場合は桃世に回復魔法の許可を出してますんで。
そん時は良介さん、おねげーしますよ。」
「わかった。
その時は任せてくれ。
で、今日は大きな試合があるんだっけ?」
「そそ、名門大学のね。
テレビやマスコミもちょこちょこいますよ。
とゆーわけで、わかっていますね?
我々魔法使いがすること。」
「ああ、社会貢献として施設の警備や案内をし、自らの立場を学ぶ。
そういったことで、魔法使いのイメージ向上をはかる・・・だな?」
「さすがですねりょーすけさん。
で、取材頼まれたらちゃんと対応すんですよ?」
すると、萌木は暗い表情になった。
「うっ・・・やっぱりあるんですかねぇ・・・断っちゃだめですかねぇ・・・
わたし、知らない人とお話するの苦手で・・・」
「だからやるんですよ。
苦手だからは言い訳になりません。
コミュニケーション能力は鍛えるもんです。
霧塚、頑張りましょ。」
「あ、あうぅ・・・でもわたし、ただでさえ声も小さくて・・・あがり症で・・・
人前で・・・あんなこと、できるんでしょうか・・・」
「いっぺんやっちゃえばどーってことねーですって。
女は度胸です。」
「もう今から心臓が破裂しそうです・・・」
と、葵も風子に話しかけてきた。
「あの、わたくしもなにかおかしなことを言うかもしれないので!
霧塚さんが一緒にいて下さると心強いです。
がんばりましょう!」
「そですね。
なるべくおかしなことは言わないよーに。
間宮 千佳と桃世 ももが先に着いてるはずです。
合流したら仕事内容を訊くこと。
やるからには徹底的にイメージアップしよーじゃないですか。
グリモアが問題児収容施設でないこと、世に知らしめてやります。」
「そんな風に思われてんのか、学園は・・・」
良介は呆れた。
「水無月さん、いつも眠そうでいらっしゃるのに、気合いが入っていますね!
わたくしも尽力いたします!
皆で一緒に知らしめましょう♪」
「ほ、ほんとにだいじょぶかな・・・?」
萌木は不安そうな顔をした。
「もう不安しかねえわ、俺・・・」
誠は苦笑いをしていた。
***
競技場内、千佳と葵がいた。
「あっちー・・・もう夏じゃん、この暑さ。」
「間宮さん!
脱水症状をおこしてはいけません。
すぽーつどりんくを!」
葵はスポーツドリンクを渡そうとした。
「千佳でいいって。
てか、うちより競技場のお客さん見てないと。」
「あっ、す、すみません間宮さん!
わたくしったら・・・」
「だから千佳でいいって・・・
で、あのさ。
あそこでテニスしてるイケメン見える?」
「イケメン・・・イケてるメンズですね?
どちらのメンズでしょう?」
「手前側のコートの、今こっちむいてる人いんじゃん。
あれ完全にバテてない?
助けてあげたら恋のチャンスだと思うんだけど。」
「あのメンズがバテていらっしゃるのですね!
早速行ってまいります!」
「ちょ、ちょっと待ってよっ!
うちが声かけようと思ってんだから!」
「はっ・・・申し訳ありません、わたくしったら出すぎた真似を!
では、あのイケてるメンズを間宮さんが介抱している間・・・
わたくしはさらに、間宮さんにすぽーつどりんくを・・・?」
「だーから、うちのことはいいんだってば!
あんたは観客案内っ!」
2人の会話を良介と風子が見ていた。
「なにをじゃれあっているんですか、あそこは・・・」
「知らん。
で、千佳は放っておいていいのか?」
「間宮はほっといても失敗するんで大丈夫でしょ。
良介さんはナンパしちゃだめですよ。
健全におねげーしますね。」
「それは嫌でもわかって・・・おい、風子。」
良介は風子の後ろを指差した。
「こっちはこっちで・・・あ、はいどーぞ、臨時救護テントはあちらです。」
「うん?
足を痛めた?
よかったら俺の肩を使ってください。
風子、そっち支えてくれ。」
「りょーかいです・・・うっし。」
「歩けますか?
ゆっくりでいいですからね。」
良介と風子は救護テントの方へ向かった。
「おいおい、ずいぶん列があるな。」
テントの前の行列を見て驚いた。
「今日は暑いですからねぇ。
熱中症が朝から何人も・・・」
「だとしても、こんなにいるか?」
「確かに。
テントから人が溢れてるじゃねーですか。」
「仕方ねえ、すいません。
とりあえず冷やす物持ってきますね。」
良介と風子は救護テント中に入った。
***
テント内、ももは困惑していた。
「うわ!
また熱中症?
手が足りなすぎるよ~!
回復魔法とかそんなに使わないってきいたんだけど・・・
あたしじゃ役不足かも・・・椎名先輩いたほうがよかったかな・・・」
もものところに良介と風子がやってきた。
「桃世。
なんか急病人多くねーですか?」
「あっ、良介先輩に水無月さん。
やっぱ多いよね?
暑いからかなぁ。
怪我人も多いんだよー。
頭がクラクラしちゃうのかな。」
「だとしてもいくらなんでも・・・」
今度は千佳と葵がやってきた。
「桃世さん!
この方がグッタリしていらっしゃって。」
「あああ、ごめんなさい、ちょっと待ってて・・・みんな並んでるから順番に!」
「もぉ~はやく助けてあげてよっ!
苦しそうじゃん!」
「無茶言うな。
見たところ脱水症状みたいだが・・・」
さらに萌木までやってきた。
「熱中症には経口補水液が効きますよ!
作り方は水1リットルにお塩を・・・」
「霧塚。
アンタさん案内係でしょ、なにやってんですか。
早く持ち場に戻る。」
「ふぁ、ひゃい・・・」
「あの、あのっ!
けーこーほすいえきとはなんでしょう!?」
「冷泉も競技場に戻る。」
「は・・・はい・・・」
「吸収しやすいお水のことです。
自分でも作れますよ。」
「まあ!
本当ですか?
わたくし世間知らずなもので、教えてくださいまし!
それをみなさんに飲ませればよろしいのでしょうかっ!」
黙って聞いていた良介が口を開いた。
「あのよ、こっちのことはこっちがなんとかするから・・・持ち場に戻れぇっ!!」
良介の怒号が響いた。
「ははは、はいぃっ!」
「なんとっ!
そのお水はお薬なのですか!?」
「冷泉さん!」
萌木は葵の腕を引っ張っていった。
「千佳、お前も競技場に戻れ。」
「やだ。
ここにいる。
イケメンの目が覚めて【君が助けてくれたのか】ってなるかもだし・・・」
「てめぇ・・・いいかげんにしろや、ゴルァ・・・!」
良介は指をバキバキ鳴らしながら千佳を睨みつけた。
「りょーすけさん、どーどー、落ち着いてくだせー。」
「わ、わかったよぉ・・・行きゃいいんでしょ・・・」
千佳は早々にテントから離れた。
***
少し経って、葵は犬を追いかけていた。
「お待ちください!
犬さん、盗んだものをお返しください!」
「もーいいじゃん、ほっときなって!
どうせペットボトルでしょ!?」
千佳が呼び止めた。
「でも、こんなに暑い中、飲み物がないと倒れてしまいますっ!」
「あの犬、足速すぎるよ・・・捕まえるのムリくない?」
「むーっ・・・これで何度目でしょうか。
次来たらとっちめます!」
「とっちめ・・・」
「ひ、ひいぃぃぃ~!
助けてください~!」
萌木が悲鳴をあげながらやってきた。
「あぁ、だめだめっ、や、ぶけ、あぁっ・・・!」
萌木は盛大にこけた。
「あっちも犬にやられてる・・・」
「霧塚さん、大丈夫ですか!?
ここにもいけない犬さんが!
こら、犬さん!
めっ、ですよー!」
葵は犬を追いかけていった。
「うぅ。
足を噛まれました・・・犬も追い払えないなんて警備員失格です・・・」
「犬ってすぐ本気出してくるよねー。
なんなのって感じ。
うわー、ストッキングうしろビリビリじゃん。
ムカつくねー。
血とか出てない?
へーき?」
「はい、少し痕ができただけで・・・びっくりしましたけど・・・」
「てか、あれホントに犬?
なんかキモイよ?」
「それなんですけど・・・わたしもなんかおかしいなって。」
「間宮さん!
間宮さ~ん!」
葵が帰ってきた。
「あれ?
犬はどしたの?」
「あちらに倒れてらっしゃる方が・・・お助けしないと!」
「え、また?
もおぉ~、忙しすぎない!?」
そこに良介と風子がやってきた。
「こらっ!
アンタらなにやってるんです!
売店の列が伸びてますんで整備してください!」
「ぜんっぜんイケメンアスリートと話す暇ないんだけど~!」
千佳は列の方へ向かっていった。
「犬ねえ。
デバイスが反応するってことは、そういうことなんでしょーけど・・・」
「人も多いから、騒ぎにならないように対処しないとな。」
***
千佳は怒っていた。
「やっぱ魔物だったんじゃん!
おかしいと思ったんだよー!」
「あわわわ・・・すみません、わたしがもっと早く気付いていれば・・・」
「アレは見分けるの難しーんで、しゃーないですね・・・」
「気づくのが遅れたのは俺たちも反省点だ。
気をつけなきゃな。」
「いきなり向かってきたから何かなと思ったよ。」
誠はため息をついた。
ちなみに倒したのは誠である。
「しかしおかしいですね。
魔物があれだけはっきりと犬の姿取るには・・・
タイコンデロガ級の強さが必要なはずなんですけどねー。」
「だよな。
やっぱり気になるな。」
良介は顎に手をやった。
「弱い魔物は出来損ない。
強くなるに連れ完成に近づいてゆく・・・それが原則。
なのにあの魔物、子犬っぽさはかなりのレベルでしたよ。
弱かったのに。」
「まるで他の力を犠牲にして、犬の姿を取ろうとしたように見えるな。」
「魔物にそんな知性があると仮定してもおかしい話ですよ。
弱い子犬の姿をとって、アスリートたちをケガさせる・・・
それって、魔物にとってどんなメリットがあるんですかねー?」
「ねえねえ、うち、そろそろ、行っていい?
あの人むっちゃカッコいいから、ちょっと声かけてくる。」
「千佳は当事者意識を持てよ・・・」
良介は呆れた。
「ま、データは持ち帰って分析してもらいましょ。
今はそれより・・・」
「みなさーん、もうすぐパフォーマンスの時間ですよー!」
「ポンポン、ばっちり用意してきましたからね!」
葵とももがやってきた。
「おっ、いいじゃん、かわいー!」
「ありがとーごぜーます。
さすが購買部、備品の手配も確実。」
「うぅぅ・・・ほんとにやるんですか・・・?
チアガール・・・」
「やりますよ。
ここで魔法少女の魅力をアピールしないと。
社会奉仕、魔物退治、チアガール・・・好印象間違いなしです。」
「そ、そうかもですけど・・・なんだか手足震えてきましたぁ・・・」
「大丈夫!
毎日練習したんだし、自信持って踊っちゃいましょー♪」
「霧塚さん、お気持ちはとてもよくわかります。
わたくしも短すぎるとは・・・
いざとなったらポンポンで隠しますので、どうぞ思いっきり!」
「や、スカートの長さとかじゃなくて・・・あの・・・!」
「よーし、そんじゃ着替え終わったら準備運動しましょー。
これも社会奉仕のうちです。
やるからにゃー、全力でいきますよ!」
「それじゃ、俺たちは違うところで見てるから。
頑張れよ。」
「ええ、わかりました。
見ててくださいね、りょーすけさん。」
風子は良介に笑みを見せた。
「(相変わらずイチャイチャして・・・)」
誠は呆れ笑いをした。
「(風紀委員長と良介、結構仲良いみたいだけど・・・もしかして・・・まさか、ね。)」
千佳は2人の関係を疑いながら更衣室に向かった。