東方白霊猫   作:メリィさん

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今回は炎刻視点です。

最近は忙しくて小説に手を付けられてません。
主に手を出したいゲームが多くて(ぉ

では本編へどーぞ。


其の一「鬼神と猫」裏

 

炎刻。

 

それが俺が俺自身に付けた名だ。

生まれた当初、鬼など俺を含めた数人しか存在しなかったのだから仕方ない。

 

俺は人間の「力」に対しての恐怖によって初期に生まれた妖怪、鬼という種族の内の一人だ。

今でこそその数は多くなってきてはいるものの、初期に生まれたのはたったの4人だった。

俺たちは生まれて直ぐは何をしていいのか分からず、自身の事さえ分からぬ赤子同然の状態だった。

体つきも以前はそれこそ人の子と然程変わらぬ姿だった。

 

しかし成長していくに連れて鬼の本能とでも言うべきか。

強さへの渇望が生まれ始め、俺たちはより強い者を求めて各地へと散っていった。

彼らが今どこにいるのかは分からない。

まぁ、それは瑣末な事か。

 

俺も当然ながら、常に強者を求めて各地を回っていた。

道中新たに生まれた同族にも出会った。

しかしそれらはなんと軟弱な事か。

己の能力に胡坐を掻き、自らへの研磨を怠って御山の大将などと抜かしている。

襲うのも抵抗できない女子供や無力な妖怪、餌と認識されている人間程度のものだった。

彼らは本当に鬼なのか?

そう疑問を持つ程に彼らは軟弱だった。

しかし己に流れる鬼の血は確かに彼らを"同族"だと認識している。

 

認めたくないが、これが"今の鬼"だというのだろう。

誠に遺憾ながら。

 

俺はそんな彼らを見て鍛え直してやろうと考えた。

俺が強敵となる事で彼らの中に流れる鬼の血に渇を入れてやろうと思ったのだ。

そうして俺は様々な鬼の集落を襲撃して回った。

その結果は散々だったと言えよう。

襲った時に俺の力に抵抗できたものは誰一人としておらず、ただ蹴散らすだけの蹂躙

そのものだった。

種族として途轍もなく強力なはずの「鬼」

それがたった一人の同族に好きな様にされるさまは、実際に手合わせしてみて悲哀の

感情すら覚える程だった。

 

そして彼らに残ったのは「畏怖」と「恐怖」

俺は同族から阻まれ、蔑まれ、目を合わせれば一目散に逃げられる様になった。

 

一体どうなってしまったのだ?

鬼の誇りは?鬼の意義は?一体どこへと消えてしまったのだ?

 

俺はどうしようもない、怒りとも悲しみとも取れぬ複雑な感情を抱いた。

そしてそれを何処かに発散したくて、無意識に駆け出した。

思えばこの程度の感情、一晩寝れば忘れていたかもしれない。

 

しかしそこが運命の分岐点だったのだろう。

この無意味な行動が無ければ、俺は生涯唯一無二の友と心から想える"あいつ"に

出会えなかったのだから……

 

 

 

 

○●○●○●○●○●○●

 

 

 

 

 

「貴様、早く名を名乗れ」

 

駆け出して辿り着いたのは人間の集落。

俺はその訳の分からない感情を発散するべく意味も無く暴れていた。

鬼の誇りだとか抜かしていてよくぞ出来たものだと今では思う。

 

そんな時に俺はそいつと出会った。

最初こそ気にならなかったが、こちらを観察する様な視線が鬱陶しくなって声を掛けた。

すると返答として返ってきたのが珍妙な鳴き声。

俺は自身の経験上、こうした生き物が喋れる事が分かっていた。

鬼は成長していく過程で嘘に敏感になっていく。

それが今の鬼であっても例外ではない。

まぁそれ以前にこの様な生物など見た事も無いのだから、十中八九「妖獣」だろうと思うがな。

 

それを伝えてやればすぐに化けの皮は剥がれた。

理知的な口調でつらつらと言を並べた。

その目を見ても何を考えているかは分からなかったが、そんな事はどうでもいい。

難しい事など後で考えれば良いのだ。

とりあえず殴って叩き潰す。そうすれば大概なんとかなる。

そして正々堂々と戦う事を宣言し、名乗ったのだが……

 

こいつは名乗ろうとしない。

最初は怯えていると考えたのだが、奴の物怖じしない態度を見る限りそうではないだろう。

そして長い事(実際は数秒)待った後に漸く聞けたのが

 

「不肖ながら、わたしゃ名乗る程の名を持ち合わせておりませぬ故

種族名の『猫』とでも名乗らせて頂きましょう」

 

といった内容だった。

名前が無い?そんなはずはない。

これだけ頭が回るのだから必ずそのものを指す名が存在するはずだ。

 

この俺を愚弄する。

それが馬鹿だからなのか、それとも俺を敵として見ていないのか。

ならば一度牽制してやれば分かる。

適当に考えた挑発だが、知能の低い妖怪ならばこれで容易に激渇する。

 

だがこの「猫」という妖獣は良い方向で期待を裏切ってくれた。

 

「そうそう。こんな小さな獣相手に鬼が喧嘩してたらそれこそ情けない。

放っておいてどうぞ、続きでもなんでもしていって下され」

 

猫は当たり障りの無い言葉を言って立ち去ろうとする。

これで確信した。

こいつは俺を下に見ている。

 

俺は猫を呼び止めてやる。

するとあからさまに嫌そうな顔で振り向いた。

弱者に擬態する理由は分からないが、俺がそんな程度で騙されると思ったのか?

俺は奴が逃げられない様に、奴が落とした失敗を突いてやった。

 

「何故これ程の妖気を体に受けてなんともないのだ?」

 

そう、弱者なればこそ俺の妖気を受ければ萎縮する事だろう。

しかし猫は態度こそ擬態できているが、体の震えや目に浮かぶ恐怖の感情が全く見えてこない。

完璧に見えるが、ここだけが全く擬態できていなかった。

だが俺はこれすらも擬態なのではないかと踏んでいる。

俺を深読みさせてあえて呼び止めさせる……つまりは興味を持つ様に仕向けた。

こいつが何者なのか知らないが、こいつの真意は読めた。

 

こいつは――

 

 

「ククッ、よもやここで俺様以外の強敵に出会えるとはな……」

 

 

――俺をここから引き離すつもりだ!

 

人伝に「人間に傾倒する妖怪崩れがいる」と噂に聞いたが、まさかここで会えるとは。

不思議な縁もあったものだ。

しかもその者は強大な力を持って弱き人を守っているらしい。

前々から興味こそあった。

何故ならばその者は恐ろしいほどの力を持っているとある。

ともなれば俺にとってその妖怪は"新たな挑戦"へと繋がる好敵手となる。

 

そうと決まれば勝負せざるを得ない。

こんな機会、逃してなるものかっ!

 

「いざ勝負!!」

 

俺は駆け出す。

予想通り、猫も森に向かって走っていった。

 

 

○●○●○●○●○●○●

 

 

猫は器用にも木々の合間を潜り抜け、するすると何の障害も無いかのように駆ける。

大して俺は道の邪魔になる木は殴り倒し、踏み越えて猫を追いかける。

相手は慣れているのだろうが、それにしても状況の把握が早過ぎる。

恐らく目の前に現れた木の形状などからどこへ曲がったら良いか判別してるのだと思う。

だがそれが出来るのは余程この森を知っていて尚素早い判断能力と繊細な体捌きが必要とされる。

奴の実力がそれだけでも半端なものではない事が分かるというもの。

 

時折訳の分からん言葉を使ってくるが、恐らくは挑発して俺の追跡を途切れさせない様に

しているのだろう。

言葉が通じる事がこの戦術の最低限の条件となるが、俺と会話した時点で人並みに

会話できる事は確認済み。

それで挑発行動に出たのだろう。

生憎、最近の罵言はよく分からんのだが……

 

どれだけ追い続けたのかは知らないが、その追いかけっこも漸く終盤を迎える。

目の前に岩壁が見えてきたのだ。

恐らく何処かの崖の根元に来たのだろう。

これは好機と見ていい!

 

俺は思い切り腕を引き、渾身の力で突きを繰り出す。

これは流石に相手も相手をせざるを得ない筈だ。

しかしその最中で――

 

(……っ!?)

 

猫の姿が消えた。

能力は既に発動済み、既に止められるものではない。

拳は岸壁を捉え、轟音と共に岸壁を打ち砕いた。

 

「くそっ!爆発しやがった!」

 

先程の猫の声がした。

まだ近くにいる。

俺はそれが分かって安堵の息を吐くと、途端に嬉しくなって口元が釣り上がる。

奴には逃げる意思が無い。

寧ろこの場で倒そうと考えている。

 

それに先程の動き……恐らく体捌きだけで回避したのだろう。

あの速度で壁にぶつかれば丈夫な鬼の体とて傷くらい付く。

だというのに奴はどんな動きをしたのだろうか?傷一つ無い、痛がる素振りも見せない。

 

「いい加減諦めてくれませんかね?」

 

奴は諦める様に促すが、それは無理な相談だ。

俺は俺自身を鍛え上げ、数多もの強敵を打ち倒し、全ての妖の頂へと上るまで闘争をやめない。

目の前に強者が立っている、ならば戦うのが鬼の道理だ。

 

「無理だな。俺様は貴様を打ち負かして妖の頂点に君臨する」

 

俺は真っ向から相手の提案を跳ね除ける。

貴様は出来るだけ戦わない事が望ましいのだろうが、俺にそんな都合は一切関係ないのでな。

 

「……俺は見れば分かるくらい貧弱なんだが?今も恐怖でガチガチだし」

「嘘だな」

 

この期に及んでまだ嘘を吐くか。

最早そんな戯れ言、この俺に通じると思うのか?

俺は未だ逃れようとする猫に現実を叩きつけてやる事にした。

 

「鬼は嘘が嫌いだ……故に、俺様たち鬼は嘘は付かない。だからこそ、俺様たちは嘘に敏感だ。

見破ることなど容易い」

 

俺の言に猫の目が少し険しくなる。

恐らくこれ以上は無駄だと気付いたのだろう。

奴の言葉から察するに奴は鬼の事を知っている。

それどころかまるで何年も観察してきたかの様な口振りである。

そうなればこの程度の知識、奴ならば知り得ていると考えて間違いない。

 

「さて、隠し事は無用だ。そろそろ正体を現せ」

 

俺は奴に最後通告として言葉を投げかける。

しかしこれは藪の中にいた蛇を突っつく方が良かったのかもしれない。

思わずそう考えてしまうくらい、この時の事は印象に残っていた。

 

 

「……っ!?」

 

 

いきなり膨れ上がる力。

思わず目を見開き、息を呑む。

奴から感じる圧倒的な力、威圧感、そして見るだけでも恐ろしく感じる瞳。

強き者を求める俺が、この瞬間に恐怖を感じてしまっていた。

 

「――貴様の為を思って弱いフリをしていたのだが、どうやら無駄だったらしいな」

 

奴の態度が急変し、口調もまるで人変わりしたかの様に変貌した。

それは先程のような「弱者」ではなく「誇りある強者」

 

こいつはこれ程の力を今まで隠していたのか!?

 

俺の様な奴から悟られずに力を抑える方法なぞ、現存する妖怪でも知り得るのは極少数だろう。

それどころか妖怪にとって妖力というのは"強さの指標"だ。

単純に高ければ高いほど、自分が強い妖怪であると周囲に知らしめる事が出来る。

何故ならば妖力というのは人を襲って研磨するか、長い年月を生きなければそう簡単に増える事

は無いからだ。

最も手っ取り早いのは同族を食らう事だが、これはどの妖怪の間でも禁忌とされている。

食らえば瞬く間に情報が広がるが、今の所そういった話は聞かない。

 

ともなればこれは実力。

正真正銘の強者。

 

「漸く……漸く俺様と渡り合える奴が現れたか……!」

 

この数十年。

数多の地を巡るも相手に恵まれず、挙句見たのは数十年で堕落した同族。

 

どれほど落胆しただろうか。

どれほど失望しただろうか。

 

「どれだけ待ったか……百年、いや二百年?そんな事はどうでもいい――」

 

だが今、この場に立つのは強者のみ。

待ちに待った強者との対峙。

己に満ちるこの感情は鬼の本能、つまりは闘争。

この感覚……久しく忘れていた。

 

思わず口元が釣り上がる。

自分でも興奮しているのがよく分かるが、もうどうでもいい。

 

「死合え、話はそれからだ」

 

戦いたい。

満足が行くまで思う存分に()り合いたい。

相手はニヤリと笑みを浮かべながら最後通告と思われる言葉を告げた。

あくまで笑っている云々は雰囲気だが……

 

「もう嘘を吐いているとは考えないのか?」

 

確かにそう考えるのが普通だ。

だがこいつのお陰で俺はあの懐かしき戦場の感覚を取り戻せた。

そして俺の意志を理解し、こうして応じてくれている。

 

「貴様の様子を見れば分かる。この俺様の戦意に応えようとしてくれている事はな」

 

だからこそ最大限の敬意を籠めて言う。

 

"ありがとう"と……

 

俺はその誠意に応えるべく、拳を振り翳して雑念を捨てる。

全力で戦う。それが応えてくれた猫への礼儀と言うものだ!

 

「おおおオオォォォォォッ!!!!」

 

俺は全力で走り出す。

素で出せる最高速、その速度は下手な獣より速いと自負している。

その速度を維持しながら俺は拳を振り下ろして爆破。

しかし猫は素早く跳躍、難なく回避してみせた。

 

「避けたか……ならばこれはどうだ!」

 

続け様に遠隔で爆破。

俺の能力は視界範囲内ならば任意で爆発を起こす事が出来る。

だが相手は知っていたかのように木に飛び乗った。

 

(なんて身軽さだ……っ!)

 

俺はもう一度足場を爆破するが、軽業の如くひょいと避けてみせた。

どうやって爆発を察しているのだこいつは!

 

「面白い力を使うじゃないか」

「ほぅ、今ので俺様の力に気付いたか」

 

猫は着地すると同時に問いかけてくる。

この質問は別段珍しくもない。俺の力を見た者は皆一様に問いかけてくる。

……こいつは今までと比べてはいかんくらいに落ち着いているが。

 

だが次の言葉に俺は驚愕する。

 

「爆発現象を操る……炎系の力でも珍しい部類だ」

「……っ!その通り。俺様の力は『爆炎を操る程度の能力』……あらゆる爆発を起こす事が

出来る俺様の力だ」

 

俺は驚きを隠しながらもその問いに答えた。

今までの奴らは叫ぶのも手一杯だったというのにそこまで冷静に分析していたのか?

まさか能力の本質まで見抜かれるとは……

 

だが俺はまだ甘かった。

 

「確かに恐ろしい力だな……だが、俺の予測通りならその力は欠点があると見た」

「っ!?」

「その力はより強い力を引き出すには相応の代価が必要なのだろう?」

「なん……だと……っ!?」

 

 

俺はまたも驚かせられる事になった。

本質だけじゃない。たかだか数回の攻防で弱点まで見抜かれている……っ!

 

これほどの敵が今までいただろうか?

流石は噂に違わぬ妖怪だ。だが――

 

「まさかただの二回で見破られるとは……面白い!」

 

――だからこそ面白い!

 

俺は能力を使って一気に飛び出す。

俺が操るのは爆発現象だ。

無論、空気の爆発だろうが、飛び出す際の爆発力だって思いのままだ。

 

この際の俺の速度は音も置き去りにするほどだ。

人間の体ならば間違いなくグチャグチャだろうが、鬼である俺ならばどうという事はない。

急接近した俺は拳を振り下ろす。

が、そこには既に猫はいない。

 

(かわされたっ!?)

 

しかし意識をすぐに戻して追撃する。

手、足、能力、持てる力を全て使って肉薄する。

だが当たらぬ掠りもしない。

俺の速度より遥かに劣る筈なのに奴は二手三手先を読んで俺の猛撃を尽く避けていく。

 

「くっ!すばしっこい!」

 

思わず悪態吐く。

まるで心を見透かされてるかの様な気分だ。

何度となく空振りする攻撃に苛立ち、余計に空回りする。

そしてその事が祟ったのだろう。

 

「っ!?」

 

猫の眼前に力が溜まっていたのを気付けなかった。

そして気付いた時には既に遅かった。

俺は"何か"の直撃を連続して受け、勢いよく吹き飛ばされる。

 

必死に体制を整え、なんとか着地するも勢いに負けて地面を滑る。

 

だが相手は待ってはくれず、不定期に先程の攻撃をしながら接近してくる。

先程の通りの威力ならば迂闊に動くことは出来ない。

クソッ! 奴の思い通りか!!

 

避けられないならば迎え撃つ!

俺はそう判断して身構える。だが奴が後一歩で俺の眼前という所で――

 

――目の前から消えた。

 

「ガッ!?」

 

そして直後に走る強い衝撃。

俺は宙に弾き飛ばされる。

そのあまりの力にほんの一瞬気を失った。

 

しかしすぐに覚醒して狙いを定める。

此方もそうだが、相手とて翼が無いのだ。空中を動く手段はあるまい!

 

だが能力発動直前で猫はなんと宙を蹴った。

そしてそのまま一回転しながら尻尾を叩きつけてきた。

 

「っ!?かっはっ!!」

 

地面に叩き付けられ、その衝撃で肺の中の空気を一気に吐き出す羽目になった。

そして巻き上がる砂埃と共に、俺の意識は闇へと落ちていった……

 

 

 

 




書き上げる度に「もう少し上手くできなかったかな?」等と思ってしまうこの頃。

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