笛使いの溜息   作:蟹男

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この話はヴォルガノスを取り扱うに当たり最後まで迷ったテーマを折角なので使って見た物です。
前話に組み込むには内容がアレ過ぎるし何より二話続けてこういった内容は避けたかったので独立させました。パラレルワールドです、メタ発言も気にしないで下さい。


閑話 語られざる物語

「さて、どうした物か……」

 

目の前にある巨大なヴォルガノスの死体を前に考える。流石にこのまま放置して帰るという訳にはいかないが、コレをバラすのは手間が掛かる一人ではどれ程時間が掛かる事やら――そう思案している俺の耳に、呑気な声が届いてきた。

 

「あれー?シドじゃん、おいーっす。何やってんのこんな所で」

 

「おお、レクターか。丁度良い所に来たな。解体するのを手伝って行け」

 

「どしたの急に……って何コレ!?こんな馬鹿デカいの二人で作業すんの!?」

 

「文句を言うな。どうせ誰かがやらなければいけないんだ、運が悪かったと思って諦めろ」

 

逃げ出そうとするレクターの肩を掴み近くへ引き摺り戻す。やっと観念したらしく渋々道具を取り出した。

 

「つーかさー、俺だって遊びでこんな所に来た訳じゃ無いんだよ?ちょっとは俺の話を――」

 

「そんな事はどうでも良い。大した用事じゃないだろうが」

 

「いやいや、そんな事無いって!実はさ、俺――」

 

「お前が此処に居る理由なんてのはな、何処か遠くに居る姿の見えない誰かが困ったからだ。細かい事情なんぞ気にする必要は無い」

 

ハンターを高い所から動かしている人間がそう望んでいる――たったそれだけで俺達は動かされてしまう。そういう存在は確かに存在するのだ。

 

「ハア……もう良いよ、手伝ってくよ。それにしても……」

 

「どうした?喋ってばかりいないで手を動かせ」

 

「いやさ、折角来たのに普通にやってても詰まらないなー、って思ってさ。どうせだったら普通は出来ないことをしてみよっかな」

 

「何を企んでいる?無理矢理やらせている訳だから手伝っても構わないが……」

 

俺の言葉を聞いているのかいないのか、死体の周囲をぐるりと歩きながら細かく観察し始めた。後少しで一周するという所で足を止め、ヴォルガノスの顔をじっくりと眺めている。

 

「何か思いついたのか?」

 

「なーんかさー、コイツの顔って何処かで似てるのを見た事が有る気がするんだよね。なんだったかな……」

 

「それはそうだろう、始めて見る訳じゃ無いんだし」

 

「いやいやそうじゃ無くて。えーっと……あ!分かった、昔東方に行った時だ!」

 

そういえば以前、コイツはカタナとかいうのを勉強するために行った事が有ると聞いた気がする。向こうではこちらより技術の流出に気を配っている所為で何も学べなかったと言っていた筈だが……。

 

「こんな顔の鍛冶師でも居たのか?」

 

「違う違う、ウナギだよ!コイツに似た魚を食べた事が有るんだ!」

 

「ウナギというと……ああ、あの海とか川に居るらしい蛇みたいな奴か。よくあんな物食べようと思ったな」

 

「そうは言うけど結構美味かったよ?良し、信じて無いみたいだから俺が御馳走してあげよう!」

 

そうは言うがこの辺りでは捕まえたなどという話は聞いた事が無いし、これまで言った地域でも食べているのを見た事が無い。一体どうやって……まさか!?

 

「お前もしかして――」

 

「早く手伝ってよシド!溶岩を剥がすの大変なんだから!」

 

「いやいや落ち着け!お前が食べたのはウナギであってコイツじゃないだろう!」

 

「見た目が似ているんだから大丈夫だよ!それにさっき手伝うって言ったよね?えーっとまずは……」

 

駄目だ、まるで話を聞いていない。仕方無い、納得するまで付き合ってやるか。

 

「しょうがないな。で、どうやったら良いんだ?」

 

「確か眼の辺りに釘を打ち込むんじゃ無かったかな。代わりは……俺の双剣の片方でいっか。そしたらシド、俺が固定しておくから上から笛で打ち込んでよ。手に当てないでね?」

 

「分かった。よっ、と」

 

ヴォルガノスの体に上り顔に近づく。辿り着くとレクターが剣を支えて待っていたので、慎重に笛を振り下ろす。コン、コン……と先程まで戦場であった場所に似つかわしくない音がしばらく続き、とうとう完全に剣が埋没した。

 

「いよっし、第一段階終了!」

 

「なあ、これ何の為にやるんだ?」

 

「ん?確かウナギって結構ヌルヌルしてて捌きにくいんだよ。だからこうやって固定しないまともに料理出来無いんだ」

 

「……やる必要なかったんじゃないか?この重さでは滑りそうも無いし、そもそも全くヌルヌルしていないぞ」

 

コイツの表皮は冷え固まったマグマに覆われている。まだ剥がしたわけでは無いのだからゴツゴツしていて多少押した位ではビクともしないだろう。

 

「……こういうのは形から入るのが大事なんだよ。さて、次はいよいよ身を捌く――んだけど、先にこの溶岩取り除かないといけないよね」

 

「まあ当然だな。此処で諦めるか」

 

「いやいや、美味しい物を食べるならこの程度。という訳でシド、頑張って砕いて!破片は俺が取り除くから」

 

「ったく……大人しく一人でやっていれば良かったか」

 

ぼやきつつも動かぬ死体に鞭を打つように全身に攻撃を浴びせて行く。長い時間を掛けて全てを取り除いた時、ヴォルガノスは本当の肌の色を俺達に見せた。

 

「……なあ、本当に食べるのか?」

 

「流石にコレは予想外だったな……」

 

普段見ている肌の色は黒、マグマから出て来たばかりの時は紅くなっているのだが……目の前の体は金色に輝いている。見た目は良いかもしれないが、とても食べられる様には思えない。

 

「もう良いだろう?諦めて剥ぎ取りを……」

 

「大丈夫!確かにあの時食べたのは黒かったけど、聞いた話では金色の奴も居るみたいだから!さあ、身を捌いて――」

 

「言っておくがもう手伝わないぞ?流石にウナギとは違いすぎるからな」

 

どちらかと言えば黄金魚に近いが、そもそもアレだって食べられるかどうか怪しい物だ。この姿を見ても食べようと思うとは、余程食い意地が張っているのかそれともウナギとはそれほどまでに美味い物だったのか。

 

「分かったよ、もう……。しょうがないな、あの人達を頼るか」

 

「ちょっと待て。何を企んでいる?」

 

気にせず剥ぎ取りを開始しようとした俺の耳に聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。コレを食べようとする集団だと?

 

「大したことじゃないよ。俺一人じゃどうしようもないから寄食倶楽部の人達を――」

 

 

「や め ろ」

 

コイツはあの惨劇を忘れたと言うのか!?いや、勝手にやるのなら別に構わないが……この場合高確率で俺も巻き込まれるに違いない!これだけはやりたくなかったが――

 

「あんまり気にしないでよ、俺達だけで勝手に……し、シド?どうしたの俺に向かって笛なんて構えて。それで一体何を――」

 

「すまんな、レクター。俺だってこんな事はしたくないんだが……背に腹は代えられん」

 

「いや落ち着こう!?争いは何も生んだりは……あqwせdrftgyふjきおlp!?」

 

声にならない叫びを上げレクターが崩れ落ちる。俺だって自分の音楽が人を傷つける様を見るのはとても心苦しい。だがそれでも男にはやらねばならない時が有る――そしてそれが偶々今だった、それだけの事だ。

 

もしもコイツが音楽を理解するセンスを少しでも持っていたらこうは成らなかった筈なのに……何時の世も前衛的な物は中々評価を得ないものである。

 




(メタ視点での)登場人物紹介その二
レクター
当初は主人公と同じ様な悩みを持つ人間だった筈なのに、話の都合で適当に動かされまくる事になってし合った。名前の由来はハンニバル・レクター。その時点でまともな筈が無い。
ハンターとしてはゲーム的に言うと上手い事は上手いが強走薬などを飲んで敵の目の前に張り付いて乱舞し続ける為、他のプレイヤーにとってはかなり迷惑な存在である。ガンナーとは相性がいい筈だが。
これでもこの作品の中で出てくるG級ハンターの中では性格的にマシな方。善悪という意味ではなく常識非常識という意味で。

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