IS-サクラサクラ-   作:王子の犬

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湯煙温泉の惨劇(四) 湯煙

 桜は部屋に引き返した。ドアノブが水のような液体でぬれている。

 

「ほかの人が来たんか」

 

 恐る恐る中に入ると、見知った女生徒たちが窓辺で朗らかに話している。窓が開いており磯の香りが風に運ばれてきているようだ。窓辺まで伸びた木の葉から黒褐色のベニシジミが飛び立つ。誘われるように部屋へ迷い込むと、天井を回ってから桜の肩で(はね)を休めた。

 

「本音、マリア様。おんなじ部屋やったね」

 

 ポケットから取りだした部屋割り表を広げ、皆に見せた。部屋割り表が戻ってきてから座布団に腰を下ろす。

 座卓の大部分が撮影機材で埋もれている。コンパクトデジタルカメラを弄ぶと、側面に貼られた鉄十字のステッカーを見つける。

 

「私もいるぞ」

 

 押し入れからラウラが這い出す。スカートがめくれ白いショーツと尻肉の一部が露わになっていたが、糸くずを払うのにかまけて気にした様子はない。

 撮影機材の山から四角いプラスチックケースを引っ張り出して、ポケットに納める。

 ヘッドライトにスイッチを入れ、再び押し入れへと戻っていった。

 

「来たときからずっとだよ〜。おとなりが織斑先生の部屋だからじゃないかなぁ?」

 

 言われてみれば隣室の周囲をうろつく生徒が多かったような気がした。

 

「今日の部屋割りだけどさ〜。うちのクラスの櫛灘さんが決めたんだよ〜」

「へえ……あの人が」

 

 本音の言葉にうなずきながら旅行鞄から旅のしおりを取りだす。タイムスケジュールを眺めて、すばやく万年筆型ボールペンで感想を記す。ペンを置き、ポットの蓋をあけて湯気を確かめてから人数分の茶を用意した。

 

「ありがとー」

 

 本音とマリアが口々に言った。

 

「ボーデヴィッヒさん。お茶、置いとくけど」

 

 と、押し入れに向かって声をかける傍らで、電子書籍を呼んでいたマリアが照れたように笑い、ラウラの足の裏を見下ろす位置に腰を落ち着けた。

 ——マリア様。あかんって。ボーデヴィッヒさんは冗談通じんお人や。

 本音に救いを求める。

 と、本音はおどけたように袖で口元を隠してマリアの向かいに座る。

 観念した桜も傍に寄って白い足の裏を眺めた。

 

「これを使います」

 

 マリアは桜に新品の面相筆を握らせた。

 本物の玉毛(猫の毛)を使った品である。

 

「マ……マリア様。……本音も……」

 

 これは神仏の導きなのだ。

 ふたりの期待を裏切るなどできるものか。

 足裏の皺を一筋ずつ丁寧になぞった。

 

「うぅん……ああああぁぁぁあぁぁ……」

 

 彼女らしからぬ陶然とした声にドギマギしてしまう。

 三人で見つめ合い、クスッと吹いてしまった。

 そして桜には聞き取れぬドイツ語の早口。頭を中天井にぶつけ、壁を照らすヘッドライトが激しく揺れた。

 這い出してきたラウラは眼帯をつかみ取り、瞳に(とも)した焔が燃え上がる。

 悪戯した張本人を探して桜たちをにらみつけ、傲然(ごうぜん)と腕を組んだ。

 

「貴様ら」

「さ、さぁ……」

 

 すっとぼけていた桜が後ろ手に隠した筆を弄ぶ。

 

「し、知らん。知らんよ」

 

 越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)は、視覚能力を大幅に向上させるのだ。

 体側からはみ出した茶玉を捉える。

 膝を突いて、本音、マリア、桜の順に顔を寄せる。

 ラウラは華やいだ笑みを浮かべ、自首を迫った。

 

 

 

 

 

 

 女湯の前で浴衣姿のナタリアが思案に暮れて行ったり来たりしている。するとそこへ巾着を肩に掛けた桜があらわれた。

 

「ナタリア? お風呂、次だと思っとったけど」

 

 桜が首をかしげた。

 

「メガモリ! ちょうどよかったあ……」

 

 ナタリアは桜の手を取り、壁際へと導く。

 入浴時間になった女生徒が続々と集まってきており、会話の気配を察して、声をかけることなくふたりの傍を通り過ぎていった。

 桜は用心深く友人に話しかけた。ナタリアは騒々しい気質で、むやみに人を巻き込みたがる。

 つい先ほど『消えたおっぱい』問題を提示してみせた。

 ——それに。

 ラウラも同じ時間帯に入浴する。浴場の収容力の関係で生徒たちの入浴時間はAとBの2グループに分けられている。桜たちはAグループとして先に入浴する。

 ——心配ない。心配ない。

 入浴中はカメラを誰かに預けるよう進言してある。乙女の肌をカメラに納めるのはよくない、と言ったら納得してくれたのだ。

 箒も入浴する。霊的に困った事態に陥るとは考えにくい。

 ナタリアが深刻な表情で打ち明ける。

 

「デュノアさんも入るなら、ダリル先輩の宿題ば解ける可能性が」

 

 とっさに女湯の暖簾(のれん)を確かめる。本音が「サクサク〜先に入っちゃうよ〜」と手を振ってきた。

 

「わかったわー! すぐ済むから湯船で待っとって」

 

 桜は顔を戻し、ナタリアに手短に話すよう求めた。彼女は好奇心に目を輝かせ、興奮した口調のまま小声でささやいてきた。

 

「手段はこう。風呂場で雑談をかわす。専用機の話題を振るとええわ。社長令嬢なんやし、いろいろ口にするはず。そいから……もうひとつ頼みがあって」

 

 ナタリアが桜の様子を窺い、彼女にしては珍しくまごついている。

 

「言って。早う行かんと」

()()で確かめる。難しい思うばってん……やってほしか」

「……え?」

 

 桜は聞き返した。

 

()()でお願い」

 

 ——触手!? 触手って()()()()()()()()()()()()()()……?

 何かの言い間違いだと思って再三確かめたが、ナタリアは同じ言葉を繰り返した。

 別れたあと、頭を悩ませたまま脱衣所へたどり着く。

 Aグループのほとんどが脱ぎ終わっており、下着や衣服が雑然とそれぞれのかごへ放り込まれている。

 桜は空きロッカーを探した。上段と中段がことごとく埋まっている。仕方なく最下段のロッカーを使った。

 浴場は広く、白い湯気に満ちていた。

 少女たちが生まれたままの姿で、湯をかぶると楽しげな声があがった。

 石けんの香りにまざって蜜柑の甘酸っぱい香りが揺らめいている。

 入浴剤の代わりに地元産の蜜柑を浮かべた蜜柑風呂がある。

 桜は本音を探した。髪が長いから洗うのにも時間がかかるはず。やがて、念入りに肌を磨く姿を見つけた。

 暫しのあいだ、泡で覆い隠された本音の白い素肌に見とれてしまう。彼女の肌を目にするのは初めてではないが、やはり意識してしまうものだ。

 ——きれい。

 桜は頭を振り、周囲へと気をそらした。向かいのカランには谷本や鏡がいる。一瞥しただけで腰のくびれまでわかってしまう。

 本音の隣を陣取っていた四十院神楽が谷本にシャンプーを借りようと振りかえった。

 桜の姿を認め、次に本音の横顔を眺めると急に湯をかぶって立ちあがる。

 神楽は無駄口をたたかない。桜の肩に触れ、視線で合図を送る。

 ——座らんとあかんみたい。

 桜は本音の隣に腰を下ろし、桶に湯を溜める。身体を洗うのに没頭していた本音が気づくまで静かに湯を浴びる。

 

「かぐ……サクサク!?」

「遅うなった。ナタリア、話が長くて」

「も〜言ってよ〜。いじわるなんだから〜」

 

 不満げに頬を膨らませた本音だったが、内心は(よろこ)んでいるようだ。

 桜に自分のシャンプーとボディソープを貸し与える。

 手ぬぐいを泡だてていると、ふらりとやってきたラウラが桜の背中を洗いたいと申し出てきたのだった。

 

「貴様と私の仲だ。トーナメントの礼だと思ってくれ」

 

 一組の生徒は驚いた。ラウラ・ボーデヴィッヒはいかにも扱いづらい、独善的な生徒だと思っていた。

 ひとつ屋根の下で寝たことのある本音は、ラウラが誤解を受けやすい少女だと知っている。彼女の()いところが表に現れたのだ。学園で毎日ラウラを見かけている生徒はどうだろうか。

 もちろん桜は感激した。ラウラに仲間だと認められているのだ。

 

「せやったらお願いしてもええ?」

「任せてくれ。()()()()()()()()()()()()()

 

 ——クラリッサ? ああ……大尉さんな。

 正面を向いてラウラの心遣いを待つ。

 だが、気負っているのか、背中を流すにしては時間がかかりすぎやしないか。桜は気になって振りかえろうとした。

 だが、心意気に水を差すのも悪いと思ってこらえた。

 

「くすぐったから言ってくれ」

 

 ラウラが言う。

 

「……ぁ」

 

 背中になめらかな心地良さが広がり、吸い付くような感触に途惑う。桜は心地良さのあまり悩ましげな溜め息をついた。いつのまにか目をつむって身を預けてしまっていた。

 

「ま、待って、待って! 誰か止めてあげようよっ!」

 

 シャルロット・デュノアがひどくあわてた様子で、ラウラを引きはがす。背中の感触が失われ、桜は目を開けた。

 ——すごく気持ちよかった……でも、デュノアさんの声。何があったん?

 合点がいかず首をひねる。

 ラウラを探して辺りを眺めた。

 シャルロットとラウラが向き合う。シャルロットが正しい背中の流し方を教え諭している。どうやらクラリッサの教えは大間違いだったようだ。

 

 

 

 

 

 

 露天風呂に足から浸かった。桜のまわりに生徒の気配はなく、皆ちりぢりになって昼間の疲れを癒やしている。

 談笑する声が聞こえ、桜はあたりを眺めた。白い湯煙が立ちのぼるなか、誰かの背中を見つけて表情が和んだ。湯をかきわけて近づき、声をかけた。

 

「おとなり。ええですか」

 

 夜天を彩る星座が煌々(こうこう)と輝いている。

 

「どうぞ。お構いなく」

 

 と、言われて初めてシャルロット・デュノアだと気がついた。

 シャルロットが少し奥へずれ、場所を譲る。

 

「ここは暗くていいね。夜天(よぞら)を見てごらん。西の天に金星と木星がいて、寄り添うように接近している。君は目がいいかい? 手をかざして円を作ってごらんよ。わっかの中に入ってしまうほどだ。日本だと今の時期を逃すと、しばらくふたつの惑星は別離してしまう。一年に一度の逢瀬を重ねているのは織姫と彦星だけじゃないんだよ」

 

 桜は隙間に身を入れて、頭を岩を象ったタイルに軽く乗せる。シャルロットに促されるまま夜天に手を伸ばして円を形作ってみた。

 なるほど、惑星が逢瀬を交わしている。

 

「サクラサクラ……さんだよね」

「そうです」

 

 シャルロットは掌で湯を汲み、肌を伝って水面にわずかな波紋が立つのを愉しんだ。

 素の彼女が見られるのは貴重だ。

 

「デュノアです。トーナメント期間中は失礼したね」

 

 桜は苦い笑みを浮かべた。

 

「デュノアさんはもっと取っつきにくい人だと思っていました。でも……違っていたのですね」

 

 シャルロットは感心したように桜を眺める。

 

「きみは普通でも話せるんだ。あ……ごめんよ、今のは失礼だったね」

「デュノアさんも流暢に話しますね。誰かよい先生についたとか?」

「小さかった頃、通っていた学校に日本人の友だちがいたんだ。その子と話したくて勉強したんだよ。髪が黒くて肌がきめ細かくて、面立ちが……そうだなあ。織斑先生に似ていたよ。遠縁のご親戚なのかもしれないね」

「へえ。日本人のお友達が」

「そう。名前はマドカって言ってね。漢字だとどう書くんだっけな」

円夏(まどか)、とかですか」

「かもしれない」

 

 いくぶん困ったようすで応える。

 

「サクラさんはどう書くんだい?」

 

 桜は名前とその由来を説明する。三姉妹の末っ子だと告げると、シャルロットは親近感を覚えたらしい。自分にも弟がいる。シャルロットははにかんだ。

 

「といっても従弟だけれど。これが自分でも気味が悪いくらいそっくりなんだ。男にしておくのはもったいないくらい女っぽい顔でさァ、よく服を交換して遊んだよ」

 

 桜にも奈津子(次姉)とよく服を交換させられた時期があった。奈津子は長姉に憧れを抱いており、長姉と顔立ちが似ていた桜を特にかわいがった。桜自身は佐倉の血を濃く受け継ぐ奈津子がうらやましくてたまらなかったのである。

 

「ちなみに従弟(おとうと)さんのお名前は……」

「シャルル。シャルル・デュノアだよ。笑っちゃうよね。……一応解説しておくと、フランスではシャルルという名前はよくあるんだ。カール大帝のことをシャルル1世とも呼びあらわす、とかね。シャルルは男性名だから、女性名に替えるとシャルロットになるんだ。まるで双子みたいだろう? 年齢(とし)も一緒。ぼくの父の姉さんの子どもで、気持ち悪いくらい父の少年時代とそっくりなんだ。似なくていいのに悪癖までそっくりでね」

「悪癖?」

「そうさ。()()()()()()()()()()……あと、()()()()()()()()()

 

 最後のほうは小声でよく聞き取れなかった。シャルロットの困ったような顔つきが気になったが、水を差すのは悪いと思ったからだ。

 シャルロットは従弟の話をしてくれた。IS学園へ入学する前、トゥールーズの高校に(リセ)少しだけ通っていたときのこと。従弟に間違えられて告白されたり、修羅場に巻き込まれたりしたこと。

 桜は話に耳を傾け、相づちを打つ。従弟の話をしているシャルロットは生き生きとしていてとても素直だ。仲が良いだけに歯がゆく思うあたり、桜にも覚えがあることだった。

 

「シャルルくんは今もフランスで学校へ行っておられるのですか」

「あー、どうだろう。アイツ、真面目に行ってるのかな。今も誰かの尻を追っかけてるのかも。成績だけは維持してるってのは風の便りで聞いたなあ」

 

 桜はナタリアに頼まれたことを言おうか、迷った。

 

「あのぅ……変なことを聞いても」

 

 シャルロットは厭な顔ひとつせず快諾した。

 

「浜遊びのとき、その、水着が」

「その話。今日、君で四人目だよ」

 

 最初は櫛灘、ふたり目はFe女史、三人目は鷹月だという。

 

「あれはね。叔母の会社の試作品をつけてみたんだ。わざわざフランスから送ってくれてね」

 

 シャルロットは叔母が経営する会社がISスーツを企画・販売していることを認めた。化繊に強く、デュノア社のISスーツ製造を請け負っていたという。デュノア社そのものはタスクに買収されてしまったが、叔母の会社は《Dunoirs》をはじめとする自社ブランドが好調だ。

 

「言っておくけど、ぼくはシャルロットだよ。その証拠に、ほら。触ってくれて構わない」

 

 桜は手を伸ばそうとして、途中で気が引けた。

 ——ナタリアのあれ。触手やなくて指触やと思う。だいたい触手なんてもの、どこから手に入れるつもりなん。

 逡巡していると、シャルロットが手首をつかみとって胸に押しつけた。蕾の硬さが十代らしかった。

 

「……本物や」

 

 意表を突かれた桜がやっとのことで答えると、シャルロットが手を離す。

 

「肉の塊をぶらさげていたっていいことなんかないんだ。あげられるのなら君にあげたいくらいだよ……」

 

 

 

 

 

 風呂から上がって本音と談笑していた桜を、箒が部屋まで迎えに来た。

 

「来てくれ」

 

 すこし思いつめた様子で、桜の手をとって急いだ。

 

「私の部屋に来てくれ。佐倉にも、見てほしいものがあるんだ」

 

 箒の部屋には、簪と千冬、真耶がいた。簪はもともと箒と同室で、壁のそばで体育座りしている。数珠をもった束が簪の前にまんじゅうを置いた。

 

「箒ちゃん。戻ってきたんだ」

 

 妹を気にしながら、饅頭(まんじゅう)を積む手を止めない。

 箒のとなりで室内をぼんやりとながめていた桜を無視して簪に向きなおると、むにゃむにゃ座敷童様、と呟いて手を合わせた。

 まもなく箒がテーブルの脇に腰を下ろし、座布団の上で行儀よく正座した。

 束は拝むのに飽きて箒の傍に寄る。持参したと思しきトートバッグからノート型端末を取りだして見せ、画面を点灯する。箒に紅色のイヤーカフスを外すよう求めた。

 

「今から箒ちゃんのISソフトウェアを調整するよんっ。この端末と紅椿のISコアを接続するよーっ」

 

 桜は真耶と並んでのぞきこむ。

 しばらく砂嵐がつづいたあと、突然鮮明になりもっぴいの部屋が映し出された。誰もが隣りあった人と顔を見合わせている。何度も瞬きして、錯覚だと思って画面を確かめたが、やはり四体のもっぴいが映っている。

 箒ら全員が束を一斉に見た。束は反応を予期していたらしい。

 

「メンテナンスモードだよ。この四体のマスコットキャラがISコアを統括している。セキュリティの観点から紅椿のコアを直接弄れないようにしてあるんだ。秘密のキーを知ってないと何人たりともRootが取れないってわけ。だから束さんもルールに則ってメンテナンスモードで作業するよ」

 

 真耶だけが真剣なようすで何度もうなずいている。

 桜と箒、千冬は束の説明をぼんやりと聞いていた。三人の視線は画面に釘付けだ。

 四体のもっぴいは追いかけっこをしており、円を描きながら短い手脚を振っていた。

 

「じゃあ、システムログを見ようか。えーとどれどれ……」

 

 束は黒板色のコンソールを開いて、キーボードをたたいてコマンドを打ちこんでいく。

 

「あった。あった。これだよ」

 

 ——モッピー観察日記!?

 篠ノ之姉妹をのぞいて目が点になる。桜が恐る恐る箒の顔をのぞきこむと、箒の顔がいささか紅潮し、体内を巡る血が煮えたぎっていくのがわかる。

 ギラギラとした負のオーラを隠そうともしなかった。

 束が閲覧コマンドを実行する。

 

「最初がISコアの状態を略式で表したものだね。ふふふ。どうなってるか楽しみだよ」

 

 束は「現在のもっぴい。総合評価」までスクロールした。

 

・現在のもっぴい。総合評価。

 ・体力 つかれやすい

 ・知力 あたまがわるい

 ・気力 はたらきたくない

 

「あれぇ……」

 

 束の目が泳ぐ。さらに文字を送っていく。

 

「……篠ノ之さん?」

 

 その文言を目にした桜が箒を気づかった。

 

・モッピーへの評価

 ・A モッピーはえっちぃ

 ・B モッピーはえっちぃ

 ・C おっぱい

 ・D 最初期と比べてずいぶん態度が軟化した。意思疎通の努力が感じられる。……難しいことは詳細をまとめておいたから参照してほしい。ここではむしろ、ささいなことよりもおっぱいについて議論すべきなんじゃないかな。最近のモッピーは成長が著しいんだ。どんぐらいっていうと、ワンサイズアップしたんだよ! 成長期って素晴らしいよっ! モッピーのおっぱいを自由にできる男の子がうらやましいよ。もちろん、女の子でもうらやましいな。ふふふ……もっぴぃ知ってるよ。モッピーの想い人が誰かってこと。誰と■■■なことがしたいって? それはね■■■■■■■(以下文字化け)

 

「箒ちゃ……おっかしいなぁ……っと……」

 

 箒は姉に向けて怒りを露わにした。ギョッとした束がすばやく終了コマンドを打ちこむ。

 

「ね・え・さ・ん」

「すぐパッチを適用するね!! 何度か再起動するよーっ」

 

 画面が消えるまでの間、もっぴぃは「おっぱい! おっぱい! おっぱい!」と腕を振りながら合唱(シュプレヒコール)を続けた。

 

 

 


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