IS-サクラサクラ-   作:王子の犬

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狼の盟約(十二) Aブロック決勝

 第六アリーナに用意された戦場(バトルフィールド)は熱気に包まれていた。

 シャルロットはぐるりと観覧席を見回す。観覧席には生徒や来賓客。タスク社の社員たちが衛星回線を通じて様子を確かめているであろう。

 社章がカメラに映っているか。見切れてはいないだろうか。ついそんなことを考えてしまい、くすりと笑った。

 

「シャル?」

 

 一夏が不思議がった。

 

「ごめんごめん。ちょっと思い出しちゃってさ」

「思い出す?」

「職業病、かな。僕たちって広告塔じゃない。だから……」

 

 シャルロットは「見て」と思わせぶりに自分の胸を指差す。

 一夏は生唾を飲みこみ、穴が空くほどじっくり見つめてからつぶやく。

 

「B……いや、Cだな」

 

 ――え? そんなアルファベットないよ?

 予想外の反応に戸惑った。

 だが、下着のサイズのことだと気づいて耳まで真っ赤になった。

 

「もうっ……」

 

 頬をふくらませて唇を尖らせる。

 

「ここに企業ロゴがあるよね?」

 

 タスク社の企業ロゴがちょうど心臓の上に貼られている。男ならうっかり間違えてしまうに違いない。ちなみに同じ企業ロゴは丹田、仙骨、太股にも存在する。とてもあざとい配置だった。

 一夏は理解したと言わんばかりに首を縦に振った。

 

「ついカメラ映りを気にしちゃうんだ。今日のトーナメントはそこまで気にしなくていいのにね」

 

 シャルロットは苦笑いを浮かべ、わざと舌を出す。一夏がまだ見ているような気がしたものの、あえて注意しなかった。

 

「ふうん。やっぱり企業代表だとそういうの、気にするんだな」

「一夏のところはそういうの、ないの?」

 

 白式はいわば宙ぶらりんの機体で、零式と弐式にまつわるいがみ合いから遠ざけられていた。

 

「ないな。IS学園に来てから企業の人と二回しか会ったことがない。その前はうんざりするくらい付きっきりだったから、俺としてはうれしいんだけど」

 

 一夏が「そういうもんだろ?」と首をかたむける。

 ――いやいやいや。え? だってこの前、零式と弐式の人が来てたよ? あいさつしたらよく来るみたいなこと言ってたよ!

 シャルロットは上目遣いで一夏を見上げた。

 ――おかしいな……。倉持技研はとんがった装備を作るので有名だし、積極的に試験をしているものとばかり思ってたんだけどなあ。

 手裏剣型ホーミングミサイルや剣玉飛槌(フレイル)。IS用シャベルからIS用バールなど多彩な装備であふれている。Bブロックでは、打鉄弐式が巨大な剣玉で訓練機を殴り倒す場面さえあった。

 ――やっぱり拡張性がないから……。

 シャルロットは白式の貧弱な装備について対策を講じていたものの、焼け石に水だと考えていた。

 セカンドシフトでも起きないかぎり、根本的な解決は不可能だろう。それまで雪片弐型と近接ブレード、すなわち八〇〇発しか撃てないマイクロガン(XM214)でがんばってもらうしかない。

 一夏がかわいそうに思えて目尻に涙が浮かぶ。

 

「え? どうしたんだよ。涙なんて……」

「ううん。悲しいからじゃないんだよ」

 

 不憫だからなんて口が裂けても言えなかった。

 ――この試合が終わったら、倉持技研ともっと連絡を取り合うようにアドバイスしよう。

 シャルロットは強く願った。

 眼下には、ナタリア・ピウスツキのラファール・リヴァイヴ。IS用に給弾機構を見直し、軽量化された六二口径七六ミリ速射砲(コンパクト砲)を抱えている。

 学年別トーナメント四日目・第一試合。Aブロック決勝戦が始まった。

 

 

 襲いかかる赤色。

 ナタリア・ピウスツキが放った弾丸は一夏の逃走経路を確実に塞いだ。

 

「――ぐっ!」

 

 地面から足を離した瞬間に被弾。一夏は二日目、三日目にはなかった重い一撃にうめくことしかできなかった。

 無数の炎が降りかかる。至近距離での爆発によって生じた破片が、ウイング・スラスターの基部に直撃する。運悪く可動部のすき間に破片が挟まり、一夏は思い通りの飛行ができずにいた。

 どうして、と原因を探ろうと思い立った瞬間、右足に被弾する。

 一夏の不調を感じ取ったのか、シャルロットが背後から飛び出し、高速切替により五五口径アサルトライフル(ヴェント)六一口径アサルトカノン(ガルム)を左右の手に実体化する。腰部スラスターベース六基に負荷をかけ、まっすぐ突貫する。

 が、全身に白い増加装甲を搭載した打鉄・千代場アーマー搭載型が立ち塞がった。

 腕周り異様に太くなった打鉄は腰部スラスター上部と両肩に搭載した巨大盾を展開している。ISを操る鷹月は瞬時に状況を判断することで壁役に徹した。ナタリアが次弾を六連続で射出する。まるで狙い撃つかのようだ。

 白式は精確にばらまかれた弾丸に覆いかぶせられ、シールド・エネルギーの減少を止められずにいた。

 

「くっそおおお!」

 

 視界が白く染まり、凄まじい衝撃が機体を揺さぶる。

 

(アン)!」

 

 白式は背部のスラスターを全開にして零落白夜を発動させる。

 瞬時加速で距離を詰めようとするも、直線的な機動はいとも簡単に読み取られていた。

 頭を殴られたような衝撃が走り、一夏は思わずのけぞった。眼前にフィールドが迫ってきている。次の瞬間、顔から地面に突っ込み、錐揉み回転しながら土煙を蹴り立てる。

 寝転ぶようにうつぶせになり、ついで仰向けになってひっくり返る。ズシリと体が重くなるのがわかった。指一本動かせない。シールド・エネルギー枯渇を知らせるメッセージが眼前に表示されていた。

 空気を裂く音が遠い。

 ――まただ……俺は!

 二度目の途中脱落だった。待機していた回収機が飛び出すのが一夏の瞳に映った。

 

 

「一夏!」

 

 シャルロットは四枚の白い防楯に手こずっていた。高速切替(ラピッド・スイッチ)により装備を大口径化して対応するも、その防楯は何も通さなかった。弾丸が複合装甲の最下層に展開されたシールドへ到達したとき、運動エネルギーが分散させられてしまうのだ。

 ナタリアが放った弾丸が至近弾となって炸裂する。

 

「弾種を変えてる?」

 

 回避した弾丸が隔壁に到達したとき、音が何種類に分かれていた。

 シャルロットは約一〇〇メートルの距離を保ちつつ、五五口径アサルトライフル(ヴェント)六一口径アサルトカノン(ガルム)での射撃を続けていた。

 ――もうやられた。

 織斑・デュノア組の最大の弱点は織斑一夏と白式だ。ISの強みは汎用性だが、白式はその強みを自ら捨てるような調整が施されていた。

 一点突破型。

 IS関係者のなかでは白式を暮桜の後継機とする見方が広まりつつある。惜しむらくは織斑一夏が千冬の後継者と呼ぶには時期尚早なことだろう。機体と搭乗者の経験値が圧倒的に不足している。

 一夏には間合いを詰める技術がない。肉親である一夏がどれだけ姉に近づこうと努力したところで、現時点では足元にすらおよばなかった。

 ISコアから警報と同時に連続した射出音が奏でられ、シャルロットの瞳に二四個の単眼が映りこんだ。

 白煙のすき間を縫って赤い光が飛び交う。

 ――近接信管!

 山なりになって外れるかに見えた弾丸は、シャルロットの手前で爆発し、金属片をばらまいた。

 

「な――?」

 

 間髪をいれず耳を聾するような轟音が迫る。千代場アーマーの補助装備として納入された四菱製マイクロミサイルの群れだ。二四基の翼端板が広がり、ロケットモーターが所定の出力に達した。

 シャルロットは顔をしかめ、直上に退避する。マイクロミサイル群のうち一基はロケットモーターの不具合により失速し、地面に突き刺さって爆発する。

 いったん、統制射撃の対象をマイクロミサイルに切り替える。

 指先で撃鉄を引くイメージが浮かぶ。養成所で受けた訓練の記憶と重なり、シャルロット・デュノアという個を忘失する。射撃に徹することで、赤い血で動く機械に成り代わる。一夏に抱いていた感情が消え去り、デュノアに()()()()見目麗しい広告塔としてのシャルロットに変貌していく。

 血が騒ぐ。

 方向転換したマイクロミサイルが噴煙を上げて迫る。シャルロットが知覚した瞬間、左右の銃口から炎が噴き上がった。

 二三個の花火が形成され、茶色い爆発煙のなかを瞬時加速で突っ込む。

 視界が覆われて何も見えなくなる。前進を続けるうちに白い装甲を目にする。接続された開放回線に向かって叫んでいた。

 

「僕は、こんなところで!」

 

 

「アタマとるのはうちらたい! そいばってん、あんたらではなか!」

 

 壁役の鷹月の後方で、ナタリアがもう一基の六二口径七六ミリ速射砲(コンパクト砲)を実体化させる。弾丸を撃ち出すたびにPICが反動を押さえ込んでいた。

 

「シズネ、プラン九」

 

 ナタリアの合図で察したのか。密着した状態のまま、まるでジグザグに斜面を滑降するかのように高度を下げた。移動しながらもシャルロットの回避経路を塞ぐかのように、濃密な弾幕が出現する。

 ――分厚いかっ。

 シャルロットはとっさに高出力マルチウィングスラスターの向きを変え、円弧を描くように動こうとした。

 その程度で危険は去らなかった。

 

「君らは――!」

 

 赤い炎を捉える。シャルロットは機体を横倒し、上下逆さまになった状態で右手の武器を瞬時に六一口径アサルトカノン(ガルム)から腕部搭載型物理防楯(コート・オブ・アームズ)へ切り替える。試合用のためオレンジ色に塗られた防楯は丸みを帯びた菱形だ。インドコブラの斑紋のような二つの排気口が特徴的だった。そして裏側にパイルバンカー・灰色の鱗殻(グレー・スケール)を搭載している。

 肘を畳み、腕を引く。溜めを作り、一気に突く動作だ。弾丸で貫くことができなければ、さらに太く硬いもので刺し貫けばよいのだ。シャルロットは唇を真一文字に引き結び、その瞬間を待った。

 透けた橙色の閃光。驀進を始めた弾丸が腕部搭載型物理防楯(コート・オブ・アームズ)に当たって弾かれる。

 シャルロットは鮮やかな一挙動で上下反転し、防楯を鷹月の打鉄に押しつける。激しい振動が装甲越しに伝わるも操縦者保護機能によって無効化される。

 目を見開き、視界の奥で穴だらけになった白い装甲が体勢を立て直す。腰部に増設されたスラスターが息を吹き返し、前に出た。

 

「歯ア食イしばれッ――」

 

 灰色の鱗殻(グレー・スケール)の基部で瞬間的に生じた化学変化が大量の熱を生み出し、閉塞したシリンダー内部から逃げ道を求めて金属杭を押し出す。

 息継ぎすら許されはしない。シャルロットが腕を突き出すのにあわせて、金属杭が白い防楯と激突した。

 鷹月の動作が一瞬かたまった。金属杭が運動エネルギーを消費し尽くそうと複合装甲の表層を食い破る。装甲表面の塗料が粉塵に変わり、太陽光を受けてキラキラと輝いていた。

 ――食い破れ!

 甲高い金切り声が木霊し、シャルロットは右ももに激しい衝撃を感じる。腰部の高出力スラスターを狙ったものだ。シールド・エネルギーが低下するもラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを撃破するには至らない。

 

「シズネ。一号、二号スラスター噴射停止。三号、四号出力最大」

「う――」

 

 ナタリアの冷静な声が開放回線(オープンチャネル)から聞こえたとき、均衡が崩れた。

 鷹月が体を開き、傾斜をつけ、鋭く腰を回す。装甲で強化され、打鉄の太い右拳が腕部搭載型物理防楯(コート・オブ・アームズ)を下からすくい上げるように打ち抜く。

 シャルロットの視野が回った。運動エネルギーを消費し尽くした金属杭が次の射出に備えて元の位置へと戻る。

 炸裂。そして閃光。

 光学系センサーが一時的に潰され、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの落下が止まらない。大きく傾き、不安定な姿勢だ。シャルロットは透けた橙色の光が直進する様子が見て判断を下す。地面にぶつかる直前に高出力スラスターを全力噴射した。空気抵抗により機体が激しく揺れる。

 ――飛行にPICは使えないっ。

 安定した機動は読まれる。一夏が狙い撃ちにされた大きな理由だ。彼はその言葉を身をもって証明してしまった。

 小型推進翼を広げ、機体の低下を防ぐ。シャルロットの視界が開けて瞳に青空が映し出された瞬間、轟音が降りかかってきた。

 真横に逃れることで射弾をすべて外す。

 ついで腕部搭載型物理防楯(コート・オブ・アームズ)六二口径連装ショットガン(レイン・オブ・サタディ)高速切替(ラピッド・スイッチ)。小型推進翼を収納し、機体を落下させる。後ろ向きに土煙を蹴り立てながら、推力を残して蛇行する。

 ――これも読むか!

 風が強まる。弾丸が右頬をかすめる。

 弾丸が機体の手前で炸裂する。破片が腹部を襲い、皮膜装甲によって事なきを得る。

 だが、条件反射で口内に酸味が広がった。

 投影モニターにシールド・エネルギーが残り六割だというメッセージが明滅する。シャルロットは体をのけぞらせ、六二口径連装ショットガン(レイン・オブ・サタディ)を撃発する。距離は未だ一〇〇メートルを保っていた。

 ショットガンの弾片が撒き散らされた。六二口径七六ミリ速射砲(コンパクト砲)から放たれた弾丸と接触して赤い火花が散る。

 頭を押さえつけるかのように放たれる弾雨。精確な射撃が降りかかる。

 その最中、シャルロットの父、エドモン・デュノアの顔がよぎった。庶子として家に迎え入れられ、顔を合わせても言葉を交わすことがほとんどない関係だった。経営危機の苦労か、皺が深く刻まれた顔。補助金打ち切りの知らせがフランス政府から通達されたときの絶望。

 シャルロットは心を奮わせた。

 立ち向かえ。

 敵を打倒しろ。

 シャルロットの脳裏に養成所での教えがよぎる。訓練で躊躇するシャルロットに向かって、()()()は言った。「逃げるの?」

 ――僕はデュノアの血を受け継いでいるんだっ!

 警報が鳴っている。

 

「……ぐっ」

 

 被弾による赤い明滅。

 ――ピウスツキの意表を突くには……。

 遮蔽物がなければ作ればよい。ナタリアは(打鉄)に身を隠し、砲口だけを露わにしている。

 シャルロットは目を走らせる。意識を保ちながらISコアに命令を流し込む。

 燃費向上とスラスター延命用の保護回路を切断。マルチウィングスラスター制御部にそれぞれドット〇一秒、ドット〇二秒……と動作の遅延を設定する。

 爆散したショットガン・シェル。合間を縫って、何発かがすり抜ける。次弾が炸裂し、土をえぐる。弾片が降り注ぎ、装甲に刺さっていく。

 ほどなくして命令受領と返答。ISコアが示した緑色のメッセージは一度点滅して消えた。

 

「僕は決して」

 

 ――逃げない!

 全力で土を蹴る。飛び上がって体をひねり射弾を外す。

 

「あぁあああああ!」

 

 一基目の瞬時加速。Gが跳ね上がり、PICと操縦者保護機能が作動する。一基目がエネルギー放出を終えて沈黙。間髪をいれず小型推進翼が向きを変える。続いて二基目がシールド・エネルギーを喰らって飛翔する。

 ショットガン・シェルが破裂し、六二口径七六ミリ速射砲(コンパクト砲)の銃撃と交錯。橙色の火花が出現する。

 二基目が沈黙。

 続いて三基目が瞬時加速を始める。六二口径連装ショットガン(レイン・オブ・サタディ)から腕部搭載型物理防楯(コート・オブ・アームズ)、そしてパイルバンカー・灰色の鱗殻(グレー・スケール)高速切替(ラピッド・スイッチ)

 回り込みに成功し、ナタリアの脇を捉えた。灰色の鱗殻(グレー・スケール)を振りかぶり、両腕を突き出し、炸薬に点火する。シールド・エネルギーを食いつぶしながら、四基目の噴射を始める。

 瞬時加速後、金属杭が到達する。

 

「――え?」

 

 ナタリアの目が見開かれ、シャルロットの眼前から消える。ラファール・リヴァイヴが隔壁に突っこみ、衝撃が会場中に伝播していた。

 ――まだだ。もう一撃!

 ラファール・リヴァイヴが六二口径七六ミリ速射砲(コンパクト砲)を再び構えなおす。

 再びナタリアの顔を捉える。膝をつかみ、二発目、三発目と金属杭を打ち込み、彼女の脱落を確定させた。

 

 

 残るは鷹月ひとりだ。

 振り向きざま、実体化した二八口径三七ミリ狙撃砲(フロラン=ジャン・ド・ヴァリエール)で速射していた。

 

「鷹月さん。あとは君だけだよ」

 

 千代場アーマーを撃ち抜けるとは思っていない。足止めの効果はあるはずだ。

 

「五、四、三」

 

 開放回線(オープンチャネル)から鷹月の声が聞こえ、何かをじっと待っている。

 打鉄は防楯を展開したまま、右拳を握りしめている。紫電と高周波音を発しながら弾雨をひたすら耐えていた。

 

「二、一……ゼロ」

「何?」

 

 打鉄が腕を振りかぶって打ちだす。

 腕部に搭載された多段ロケット。一段目に点火した瞬間、周囲に水蒸気の白煙が生じる。二段目に火が点き、()()()()()()

 

「な――ロケットパンチだって!」

 

 打鉄本来の腕をはっきりと目撃した。ロケットパンチを隠し持っていたがために腕周りが太かったのである。

 土砂降りの雨のような銃撃を続ける。

 シャルロットは下方に飛ぶように後退した。振り向くと煙のなかからロケットパンチが姿を現す。

 拳を作ったとはいえ、マニピュレーターは精密機器だ。被弾し続ければ壊れる。

 ――百発以上当てたのに、どうしてっ!

 結果は違った。鷹月の操作が稚拙であることを差し引いても頑丈すぎる。

 二八口径三七ミリ狙撃砲(フロラン=ジャン・ド・ヴァリエール)から近接ブレード(ブレッド・スライサー)に切り替え、無駄のない挙動で反転する。

 ロケットパンチと交錯し、腕に刃を突き立てた。

 続いて六二口径連装ショットガン(レイン・オブ・サタディ)が煙を吐き出す。土砂降りの雨のような弾片がロケットパンチを包みこんでいた。

 シャルロットはスラスターへの負荷を高め、鷹月との距離を詰める。マニピュレーター、腕の被覆部が燃えながらも未だ拳の形を保っている。

 ジグザグ機動で翻弄し、再び腕部搭載型物理防楯(コート・オブ・アームズ)を展開。気勢を上げ、肘をたたむ。

 次の瞬間、シャルロットの姿が消えた。

 ロケットパンチが千代場アーマーに突っ込む。鷹月の意識が前方に集中したとき、灰色の鱗殻(グレー・スケール)が打鉄の肩に直撃した。

 

「これでお終いだよ」

 

 鷹月が背後を顧みるより早く、冥界の番犬(ガルム)が咆哮し、二八口径三七ミリ狙撃砲(フロラン=ジャン・ド・ヴァリエール)から赤い炎が乱れ咲いた。

 

「試合終了。勝者、織斑・デュノア組」

 

 

 


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