ひといずin Angel beats!   作:堂上

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先日、AB!のゲームの発売日が未定になってしまいましたね…残念です…。
それでは、最終回です。どうぞ。


最終回

そんなこんなあれやこれ、かくかくしかじかと色んな事があったが、なんとかゆりが起きるまでに卒業式の準備が出来た。

日にちを数えてみるとゆりが眠った──つまり、この死んだ世界戦線の最後の戦いが終わってから3日が経っていた。

「やーっと終わったぜ~」

グーッと腕を伸ばし体を反る日向。

「ったく、お前が興奮して暴れっから無駄に時間かかっちまったろーが」

この少人数でやる慎ましやかな卒業式に丸3日かかってしまった元凶を一睨みする。

「興奮って…とっしー、そういうのは夜にしようぜぇ~」

「そういう意味の興奮じゃねえんだよ!」

からかい目的なのは明白なのだがつっこまずにはいられなかった。

「はいはい、痴話喧嘩はそのへんにしてゆりの所に行ってみようぜ?もしかしたらもう起きてるかもしれないしな」

 

-保健室-

「まだ寝てる、か…」

保健室のベッドでスースーと寝息をたてているゆりを見て日向が呟いた。

「さすがにこんなグッドタイミングで起きてるわけないか」

「いえ!音無さんは間違っていませんよ!悪いのは全て空気も読まずに寝ているこの女です!」

音無が自嘲気味に吐いた台詞に励ましのつもりなんだろうけどただただゆりをけなしている直井。

お前ブレねえなぁ。

「ん…」

まるで自分がけなされたのを察知したかのようにゆりが息をもらした。そして…

「あっ…」

目を、開けた。

「此処は、どこ?」

急に目が覚めて少し混乱しているようで辺りを見渡す。

「保健室だ」

音無が優しく答えるがその答えにもまた困惑している。

「保健室?あなた達どうしてまだ居るの ?」

身体を起こし再び質問をしてくる。

「無理しちゃだめ」

「大丈夫よ。奏ちゃん」

目覚めたばかりのゆりに気をつかってなだめる立華だがもうゆりは完全に快復したみたいだ。

「まぁゆりっぺにしては大変だったよう だしな」

「お前3日も寝てたんだぜ?」

「僕達の活躍ぶりを早く聞かせてやりたかったのによ~」

「よくそんなのでリーダーがつとまって いたものだな」

「あなた達まで…一体何してるのよ…影はもう居ないんじゃないの?なら邪魔するものは何もないはず…」

今までは主に音無と立華しか目に止まっていなかったようだ。次々に言葉をかける俺達を見て驚いている

「ああ…分かってる。」

「だったら…」

ったく、うちのリーダー様は分かりきったことばっか訊きやがるなぁ

「まだお前が残ってるじゃないか?」

みんなの気持ちを音無が代弁する

「いっ…」

「お前が残ってる…」

「わっ私?…あははそっか何て言うんだ ろ…」

なんだこの反応?えらくもじもじしてやがる。

「んだよ?せっかく待っててやったんだからもっと喜べよ?」

「多分だけど…もうゆりが戦ってた葛藤がとけてる…」

「「えっ?」」

ゆりが羞恥のあまりシーツで顔を隠す。

「くっ…」

「そうなのか…?ゆり…」

「えっ?…えっと…それは…その…」

「この反応は…マジっぽいな…」

「よし僕が催眠術ではかせてやろう…」

直井がニヤリと悪い表情をし、目を紅く光らせる。

「やめろこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ブッ!」

いきなり立ち上がりシーツを直井にぶちまける

「と…嫌がると言う事は…的中…」

「えっ…いやそんな事ないわ…ほらっ私 リーダーなのにそんな簡単にとけちゃってた ら良い笑いぐさじゃない…ねっ?あははあは はあは…」

ダメだコイツ…嘘つくの下手くそだ…

「じゃあ催眠術で…ぐほぉ」

またもや催眠術を使おうとした直井に今度は枕をなげる

「そうよ!とけたわよ!!悪いかぁぁぁぁぁ ぁぁ!!」

「あっ…認めた。」

「ぎゃはは!逆ギレじゃん!」

「うっ…」

出夢の真っ当な意見とあっさり認めてしまった自分にガックリとうなだれている

「はぁ…奏ちゃんいじわるなんだ…」

「ゆりがあまのじゃくなだけ。」

「貴方言うのね。でもなんとなく嬉しいな」

「何が…?」

「ゆりって呼んでくれて…」

「どうして?」

「だって…友達みたいじゃない?」

「友達…そうね。」

立華がニコッと笑う。

「じゃあ準備は無駄にならなかったわけだな!」

すっかりゆりと立華が2人の世界に入っていたのを音無が戻す

「ああ」

「準備って…何か始まるの?」

何も知らないゆりはやはり戸惑っている

「最後にしたい事があるんだ。奏やったことないんだってさ」

「えっ?何を…」

「卒業式さ」

 

ゆりを加え保健室から体育館に移動している。

「「ふんふんふんふん」」

立華と出夢なんて上機嫌にスキップしながら鼻歌を歌っている。

「他の皆は…?」

「全員行ったよ…」

「そっか…よかった」

やっぱり知ったこっちゃないなど言いつつ心配してたんじゃねえか。

「そーいや野田がお前がまた辛い人生だったときにお前を守れるような男になっとく、みてえなこと言ってたぜ?」

「野田くんが?…もう、ほんとにバカなんだから…」

少し瞳を潤ませていたがそれを隠すように明後日の方向を向く

「なんだかんだ言って…皆結構楽しんでたんだよな此処の暮らし。それがわかったぜ。

それも…ゆりっぺのおかげだと思う… 」

「そっ」

日向のこっぱずかしい台詞に素っ気ないがなんだか嬉しそうに返事を返す

「あぁ…高松も行けたんだせ!NPCになった後でも正気に戻れたんだ!」

「あいつプロテインだぞーっつったら飛び起きやがってさ」

「ぷっ、彼らしいわね…」

「あんま驚かないんだな?」

確かにもう戻らないと諦めていたはずなのにゆりは当たり前のように話を聞き笑っていた

「んっ…?」

「NPCになったら戻れねぇって言ってなかったっけ?」

「想いの強さでいつか人に戻れるようにしてあったのね」

「あ?」

「なるほどな…」

「おいおい!わかんねえの俺だけなのー?!」

きっと…こいつも出夢と同じように影に呑まれ一度NPCになりかけたんだろう。そして、それを自分の想いで打ち破ったんだろう。

「「ふんふんふふーん」」

「その歌なんだっけ?さっき作業してる 時も口ずさんでたよな?」

立華と出夢が歌っている鼻歌に聞き覚えがあったようで気になっていたみたいだ

「なんだっけ?」

「My songだよ!岩沢の歌ってた!」

「てか立華知らずに歌ってたのかよ!」

「メロディーに罪はないわ」

「知らねえよ!?つか、意味わかんねえし!」

出夢までつっこませるなんて立華…なんてやつ

「ま、まあまあ。でもこの曲良い曲よね」

「うんっ」

「だなっ!」

 

「わあーっ」

体育館の中に入り周りを見渡し歓喜の声をあげる。

こんだけ喜ばれんなら作った甲斐があるよな

「俺達で作ったんだ。文字は奏」

「そうなんだぁ…奏ちゃんは卒業式したことなかったんだ?」

「僕もしたことないぞ!」

偉そう胸を張って威張る

「威張るこっちゃねえだろ」

「そう、で面白いのかなって」

「面白かねぇよ」

少し呆れたように言う日向

「でも…字を書いてる時は楽しそうだったけどな」

「女子は大抵泣くんだぜーっ」

「ふっ…これだから女は…」

「ふぅん…」

「マジで?じゃあ僕も泣く準備しとなきゃな!」

卒業式の経験がない組に日向が偏見のある常識を教えてしまった。

つか泣くのは準備するもんじゃねえよ…

「じゃあ…始めようか…!」

「今から?」

何故か当たり前のことなのに驚いてるゆり

「何の為に着替えたんだよ?」

「そもそも此処に長居しちまったらダメだろ?」

「あっ…その…本当に消えるのかなって ?心の準備が…」

また保健室に居たときみたいにもじもじしている。

「なんだ…それでも元リーダーか?」

「なっ…何よ!」

一応バカにされたりするといつも通りっぽくなんだな

「お前皆が消えたらリーダーっぽくなく なったよな?何か…」

「っ…ええ?そ…う?」

音無の一言にあきらかにキョドっている

「確かに何か変わったな…」

「え…?どう?」

「そうだな…なんか女の子っぽくなった 」

「あー、確かに言われてみりゃそうだ」

きっともうみんなが消えて肩の荷が下りたんだろう。影との戦いも気持ちの整理の一端を担ってくれたのかもしれない。

「えっ…それ喜べば良いの?…怒れば良いの?」

「戦い終えたらそんなこともわからない 無垢な女の子に戻っちまったんだなぁーゆりっぺも可愛いとこあんじゃん」

あー、お前がそういうこと言うとさぁ…

「ぬ…くっあぶああぶあぶぶ&*/"@&% 」

「ぬくっ…痛いっ痛い」

照れちまってなにがなんだかわかんなくなっちまってんじゃねえか…

「うふふ…ゆり面白いの」

「ふっ」

「タラシはこれだからなぁ」

「いやそれお前に言われたく…」

ボキッと骨が折れる音が響き渡った

「よしっ!始めんぞ!」

何気にひでえな…

 

「開式の辞。これより死んだ世界で戦ってきた死んだ世界戦線の卒業式をとり行います。」

ついに、卒業式が始まった。進行役は音無が担当する

「ではまず戦歌斉唱」

「そうだったぁ…」

これがあるんだったぁ…改良したっつってたけど嫌なオチしか思い浮かばねぇ…

「戦歌?何それ?ていうか人識くんどうしたの?」

「死んだ世界戦線の歌だよ。校歌の代わりみたいなもの。人識は…まぁ気にしないでくれ」

「え、ええ…。ていうか、私そんなの作らせた覚えないわよ?」

「それも奏が作った」

「僕も手伝ったんだぜー?」

「そうだったな。奏と出夢が作ってくれたんだ」

それが余計に不安を煽ってくんだよ…

「はーい歌詞回してー 」

音無が歌詞の書いてある紙まわしていく。

とりあえず歌詞をチェックすっか…──ガシッと横から手を押さえられる

「人識、歌詞はぶっつけ本番のお楽しみだぜ?ぎゃはっ!」

「て、てめえ…」

畜生、歌詞がおかしかったらストップさせるつもりだったっつーのに…!

「メロディは?」

「校歌って大体似たようなものじゃん… 適当に歌っておけば合うだろ?」

そうしている間にも着々と戦歌斉唱へのカウントダウンが進んでいく

「ではせーの!!」

くそっ!南無三──!

「おそらの死んだー世界からー お送りしーます お気楽ナーンバー 死ぬまでにー食っーとけー 麻婆豆腐ー あーあ麻婆豆腐ー麻婆豆腐ー」

「「…………………」」

「…ってなんだよこの歌詞?!先に誰かチェックしとけよ!歌っちまっただろ!!」

「あー!ちくしょう!やっぱ無理にでも歌詞にチェック入れときゃよかったぁ~!」

俺と日向が不満の声をあげると立華がゆりの後ろにひっつく

「まぁ奏ちゃんなりに一生懸命真剣に書いたんだからそんなに言う事ないじゃない… ね?」

「だからぁ!僕も手伝ったんだって!」

「あ、ゴメンね出夢くん」

なぜだかゆりは立華に甘過ぎる…出夢に対しては軽いし

「真剣にって…お気楽ナンバーって堂々 と書いてあるんだが」

「でも…何て言うんだろ奏の気持ちがつまってるような気がするよ」

「どこにだよ?」

「麻婆豆腐にか?」

「頭からケツまで」

そう言われてもう一度歌詞を見直してみる

「あぁん?…うーんっ」

まぁ、確かに…

「かはは。試作品よりはだいぶマシか」

「試作品どんだけなんだよ…。ま、でも確かにつまってっかもな」

「やったね。奏ちゃん」

「うんっ」

 

「…次は?」

「次は…卒業証書授与!!」

例によって音無の司会で進めていく

「あるの?」

「作ったんだよ。また主に奏がな」

「えっへん」

珍しく(いやまああんま立華の事は知らねえけど)テンションが高い立華が胸を張る

「…で授与する校長は?」

NPCが消えた…それはつまり生徒だけでなく教師たちも残らず消えてしまったという事になる。だからこそ当然の疑問だ。それに答えるのは

「俺っだよ!」

髭とハゲヅラをかぶった日向である。

「………………うわぁ」

思いっきり、そりゃあもう清々しいくらいのドン引きだ。

「くそぉ!俺がじゃんけんで負けたんだよ 文句あっかぁー!!!!」

「ふっ…貴様にはお似合いの役だ」

「くそっくそっいつも何で俺ばっかりこんな役なんだ!!」

「しゃーねえじゃん!お前一発で一人負けたし!」

「ぐぅ…」

「さっ…始めようぜ!!」

やっぱ日向の扱い酷くね?

 

「卒業証書授与!」

例によって例のごとく音無の宣言で進行されていく

「…では…立花奏!」

「はいっ」

音無に名前を呼ばれ勢いよく返事をする。

やはり初めての卒業式で緊張しているみたいで、少し動きが硬いがしっかりと日向から卒業証書を受け取って戻ってくる

 

「次…中村ゆり!」

「はいっ!」

ゆりは卒業式経験者だからだろう、立華のように硬くならずに歩を進めていく。

「それ似合ってるわよっ」

「…ほっとけ!」

証書を受け取る際にハゲヅラ姿の日向に一言かけることも忘れない

「お…」

階段から下りてくる途中でゆりは証書に目をやると、目を潤ませて

「…ばかっ」

そう呟いた。

 

「次…直井文人!!」

「はいっ」

直井はやはり直井らしく偉そうにポケットに手を突っ込みながら歩いていく。

「我を讃えよ」

日向の目の前につき、証書を受け取る…その一連の動作に移る前にそう言った。

「はぁー?…ったくうーんお務めご苦労様でしたっ!!!!」

直井「…ふっ」

半ばヤケクソに直井を讃え、証書を差し出す。

直井はそれに満足したようで片手で証書を受け取り、戻ってくる。

 

「次…匂宮出夢!」

「はいっ!」

出夢も卒業式の経験がないのでやはり動きは硬いが皆と変わらず、普通にしっかりと証書を受け取る。

階段に差し掛かり証書を見ると

「ぎゃはっ」

と笑った。

なんて書いてんだ?ゆりは泣いてたし出夢は笑ってるし

そう考えている内に出夢も着席する。

 

「次に…零崎人識!」

「…はいっ!」

こういう行事で返事するのなんか照れんだよなぁ…

「はいよっ」

「サンキューな」

日向から証書を貰い、どんな内容なのか見てみる。

 

卒業証書

 零崎人識殿

あなたは本校において

みんなのために

がんばりぬいたことを

証します

    死んだ世界戦線

「かはは、なるほどなぁ」

確かにこりゃ嬉しいかもしんねえ

 

「音無結弦!!はいっ!!」

自分で自分を呼び、日向から証書を受け取る

「それ取れよ」

「えっ?…じゃあ…」

音無から変装道具を外すように促され少し戸惑いながら取っていく

「日向ひでき!!!!」

「…うぇっ?は…はいっ!!!」

音無が隠し持っていた証書を日向に渡す。

「…なんだよ参ったなへへへ。…ありがとな」

「こちらこそすっげぇ世話になった」

お互いに今までの事を思い出してか、感謝の言葉を送りあい、硬く握手を交わした

 

「卒業生代表答辞!」

いよいよ卒業式も終盤に差し掛かり、音無が名残惜しそうにしながらも進行を続ける。

卒業生代表は、もちろん音無だ。すこし咳払いをしてから語り始める

「振りかえると色々なことがありました 。この学校で初めて会ったのは中村ゆりさんでした。」

俺が最初に会ったのは日向だったな…それからゆりに連れられていた出夢に会って、グダグダだったけど仲直りして…と、音無の答辞を聞きながら、この世界に来た時のことを思い出していた

「いきなり『死んだのよ』と説明されました。そしてこの死後の世界に残ってる人達は皆一様に自分の生きてきた人生を受け入れられず、神にあらがっていることを知りました。私もその一員として戦いました。

しかし私は失っていた記憶をとり戻すことにより、自分の人生を受け入れることができました。それは、かけがえのない思いでした。それを皆にも感じて欲しいと思い始めました。」

思えば音無がまず此処から卒業させようとしたのが俺と出夢だった…俺はまだ離れたくない一心で止めちまったけど、おかげでアイツと本当に恋人になることが出来た

「ずっとあらがっていた彼らです。それは大変難しいことです。でも彼らは…助けあうこと、信じあうことができたんです。中村 ゆりさんを中心にして出来上がってできた戦線は、そんな人達の集まりになっていたんで す。その力を勇気に、皆は受け入れ始めました。皆最後は前を見て立ち去っていきました。」

そこで、音無の声音に少し涙が混じって来た。きっと先に消えた野田達のことを思い出しているんだろう

「ここに残る5名も、今日をもって卒業します。一緒に過ごした仲間の顔は忘れてしまっても、この…魂に刻みあった絆は忘れません。皆と過ごせて本当に良かったです…!

ありがとうごさいました…!

卒業生代表、音無結弦!」

パチパチと他の皆から拍手が送られる。

「全員起立!あおげばとおとし斉唱!」

音無の言葉に一斉に起立する。

そういや、出夢この歌歌えんのか?

「「あーおーげばーとおーとしー わがしのーおんー」」

あれ、歌えてるじゃん。

そしてドンドン歌が進んでいく

「「いまーこーそわかーれめー」」

少し間を置き

「いー「「いー」」」

あきらかに誰か一人早い奴がいた

「遅いぞ貴様!!」

誰が聴いても直井が早かっただけなのだが、全力で日向に押し付けにかかる

「おっ、なーにぃ!?明らかにてめぇが早かったろ!!」

「貴様が遅いのが悪いんだろ!!」

「私達は合ってたわよね?」

「うん…」

「もー!せっかく奏と一緒に練習したのによー!」

「ああ…だから歌えたのか」

「本当音無の時と違うよな!?お前!!」

直井のミスからみんな思い思い喋りだし、なんだかグダグダだ。

けどまあ、こういう風のが俺ららしいっちゃ俺ららしいわな

「せーの!」

「「いざーさーらーあーばー」」

音無のかけ声で仕切り直し、歌い終える。

「………………」

「「うふふふ」」

しばし沈黙した後立華とゆりが笑い出し、次に音無たちも笑い始め、出夢と目が合い、俺達も笑った。

最後は笑って締める。なんだか安っぽいドラマの台詞っぽいけど、まぁ悪かねえかもな

「閉式の辞、これをもって死んだ世界戦線の卒業生を閉式といたします!!

卒業生、退場!」

退場、それはこの卒業式では、この世界から去るという意味だ。

「…ふっ、女の泣き顔なんて見たくない。 先に行く…」

帽子で顔を隠し、歩きだす直井。音無の前で足を止め、帽子をとると 泣いていた。

「おめぇが泣いてんじゃねぇかよ…」

「ま、なんか予想出来てたけどな」

俺達の言葉には目もくれず、涙でボロボロになりながら音無に語りかける

「…音無さん。音無さんに出会えてなかったら僕は…ぐすっ…ずっとむくわれなくって…でも…僕はっ」

そこまで言い、涙を袖で乱暴にぬぐう。そして、消える直前の光の粒が現れる。

「もう迷いません。ありがとうございました!!」

直井の感謝の言葉を受け、肩ポンポンと叩き頭をなで

「ああ…もう行けっ」

「…ありがとう…ございます。」

最期の最期まで音無に感謝を述べて、直井は此処を去っていった

「…行ったか…さあて、次はだーれが泣く番だぁ?」

しんみりとさせないようにあえて軽い調子で次に此処を出て行く奴を促す

「泣きなんてしないわよ!」

次はゆりが行くようだ。

「奏ちゃん、争ってばっかりでごめんね。 どうしてもっと早く友達になれなかったのかな?」

立華の肩に手をかけて、後悔を全面に出した表情で語りかける

「本当にごめんね」

「ううん」

「私ね長女でね。やんちゃな弟や妹を親 がわりに面倒みてきたから、奏ちゃんに色々なこと教えてあげられたんだよ?奏ちゃん世間知らずっぽいから余計に心配なんだよ?色 んなことできたのにね。色んなことして遊べたのにね。もっと…もっと時間があったら良いのにね。もう…お別れだね…」

生前、護れなかった妹や弟たちを思い出してしまったのか、目に涙が浮かんでいる。そして身体から光の粒が浮かんでいく。

「うんっ」

ゆりが立華にぎゅっと抱きつき

「さよなら。奏ちゃん」

「うんっ」

立華に謝罪と別れの言葉を口にし、俺達の方に向きなおる

「じゃあねっ」

立華と話していたときのような湿っぽさはもうなく、晴れやかな表情でそう言った

「ああ、ありがとなゆり。色々世話になりまくった」

「まあ早く向こうで野田と逢ってやれよ」

「ぎゃはは!ゆり、人識と会わせてくれてあんがとな!」

「リーダー、お疲れさんっ」

「うんっ!じゃあまた何処かで!!」

そして、軽く腕をふり、ゆりもこの世界から去っていった。

「はぁ…」

「どうした?ゆりが居なくなって寂しくなったのか?」

急にため息をついた日向を茶化すように声をかける

「んー?いや、次は俺だろうな~と思ってよ」

ニカッといつもみたいな笑顔を向けそう言う

「いや…俺でも良いぜ」

「何言ってんだよ?奏ちゃん残して先に行くなよ」

「なら僕達でもいいんだぜ?」

「お前らもどうせなら少しでも長く居てえだろ…俺が行くって、ユイにも早く逢いてえしな」

「そうか…」

「ああ。色々ありがとな。お前が居なけりゃ何にも始まらなかったし、こんな終わりも迎えられなかった。感謝してる。」

きっと戦線が出来た頃にはこんなことになるなんて露ほども考えていなかったはずだ。なにせ、本来この戦線は神に抗うという目的で結成それていたんだから。

それを音無は変えた。敵だと思われていた立華の力を借りて。

「たまたまだよ。よく考えたら俺ここに来ることはなかったんだよな」

「どういうことだ?」

「俺はちゃんと最後にはむくわれた人生を送っていたんだ。その記憶が閉ざされていたからこの世界に迷いこんできた。それを思いだ したからむくわれた人生の気持ちをこの世界で知る事ができた。」

「そうだったのか。本当に特別な存在だったんだなお前」

「へへ、だから皆の力になれたのも、 そういうたまたまのおかげなんだよ」

「そっか…人識に出夢、お前らも本当にありがとな。お前らがみんなを護ってくれなきゃこんな風に気持ちいい卒業式なんて出来なかったかもしんねえ」

正直、影と戦った時は出夢の目を覚まさせるまで俺の方が護ってもらってたからなぁ…

「いや、変わんねえよ。お前らならどういう道筋になったとしても最後にはここにたどり着いてたさ」

「えー、僕の力無しじゃ無理だっただろ~?」

てめえ影に呑まれたじゃねえか!というツッコミが喉まで出掛かっていたがなんとか飲み込む。元を辿れば俺のせいだしな。

「俺もお前には感謝してる。出夢と会ったのも仲直りしたのも、きっかけはお前がくれたんだからよ」

「へへへ、それこそどう行ったってこうなってたろーが」

「かはは、かもな」

そこまで話して日向が少し間を置く。

「そんじゃま、長話もなんだし行くわ」

「あ…会えたらユイにもよろしく」

「おお!!運は残しまくってるはずだからな !!使いまくってくるぜ!!」

「もし歩けなくてもちゃんと面倒みてやれよ?」

「ったりめーだっつーの!」

そしてやはり光の粒が身体から出てくる。

音無に近づいていき、音無と手を2、3回パンパンと叩き合い最後にハイタッチをし

「おしっ!!じゃあな親友!!!!」

日向も此処を出て行った。

 

「じゃあ次はまあ俺達っつー感じかな?」

「そだな!卒業生代表様だし?ぎゃはっ」

「おいおい、その呼び方はやめてくれよ」

仰々しい呼び方に苦笑する音無。

「かはは。音無、お前にもマジで感謝してんだぜ?俺はこんなでもな」

「僕もだ!人識と恋人になれたのはお前のおかげだからな!」

言うやいなや俺の腕にくっついてくる。

「そんな…俺はただみんなに俺と同じ気持ちをって…それだけだよ」

「それだけでも、俺達にとっちゃこんな事奇跡なんだよ。んで、それを起こしてくれたのがお前だ」

生きてる頃の事を考えたらこんな風に出夢がくっついている。…なんてそれこそ死んでも考えられなかったはずだ。

「だからそんな大げさに言うなよ。らしくねえって」

「かはは。そりゃそうだな。じゃあ今のは戯言ってことにしといてくれ。

…じゃあちっと俺ら外行くわ」

「そっか…じゃあ、またな」

「おう。向こうで逢おうぜ」

後ろ手に手を振り、体育館を後にする

 

出夢と腕を組みながら最後にとこの学校を歩く。

もう此処に居るのは本当に俺達だけなんだな…。

もう教師の声も生徒の声も聞こえてこない。

長いようで短かった…そんな定型文のような言葉がしっくりくるような此処の生活は本当に楽しく、離れがたい。だけど、必ず去らなければいけない。だから足を止め、声をかける。

「出夢…」

「………ん?」

ん?と訊いてはいるが俺が何を言うのかは勿論分かってるんだろう。よりいっそう腕に引っ付いてくる。

「もう、時間だ…」

「うん…」

離れなくてはいけないと思えば思うほど出夢のことが愛しくて愛しくて愛しくて、堪らなくなる。

こうして引っ付いてくる姿も先ほどまでのような元気溌剌ないつもの姿も。

勿論決別した時の不安定な姿だって…愛おしい。

でも、だからこそ…此処を出て、向こうで逢いたいんだ。

「ぜってぇ、迎えにいく」

「ったりまえだばぁか…」

出夢の目から雫が1滴、2滴と流れ落ちていく。それを指で拭う。

すると、俺と出夢の両方から光の粒が浮かんできた。

もう、覚悟ならできてる。

「出夢、好きだ…愛してる…」

「僕も、人識が…大好きだよ…」

消えていく身体を動かし、出夢を抱きしめる。今出せる自分の力全てを使って。

どんどんと、意識が薄れていく。

──生前の記憶も

──ここでの記憶も

色んな記憶が薄れていく。

───だけどその中で1つ輝いている物がある。それは1つの意識とも言えるし、記憶とも言える。

ただ1人の愛する人─────────────

 

 

 

 

 

───────────────

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

都心の中心地、セミが泣き続けるほどの真夏に、人混みをかきわけるように走りつづける少年が1人。

長い黒髪をたなびかせて走るその姿は何かを追い続けてるようだ。

「はぁっ、はぁっ、くそ!ここに、ここにいるはずなんだ…!アイツが…!」

ついに体力が尽きたのか少し人が少なくなったところで立ち止まる。その表情は苛立ちを隠せないようだった。

「畜生…!はぁっ、はぁっ、どこ…に…」

伏せていた顔を上げた時、人混みに小さな間隔が空き、少年の視線はその一点に釘付けになる。

「…みつけた…!」

再び人混みが押し寄せたが少年はお構いなしにその人の波に突っ込み、逆らいながら進んでいく。

「やっと、やっと、やっと………やっと…!」

手を伸ばしながら進む。少しでも早くそこに着きたくて。

再び、少しの間隔が生まれ、少年はそこに居る1人の少女を再確認する。

そしてその少女も、少年を見た。

2人の視線が交錯する。

「──しき?」

「待ってろ、すぐ行く」

少年は最後の力を振り絞って人混みを突っ切った。

「ひと、しき?」

「ああ…やっと見つけたぞコノヤロウ」

「人識ぃ!」

少女が少年に飛びつき、うわっと少年は驚きながらも優しく受け止める。

「ずっと、探してた…」

「うん、僕も…」

「愛してる…」

「僕も愛してる…」

2人は抱きしめあう。お互いを確認するように。これが夢じゃないことを確認するように。

 

────これは、普通じゃない少年と少女が普通じゃない場所で普通に恋した物語

 

 


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