ひといずin Angel beats!   作:堂上

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ゆりが起きるまでの間のお話です。短いですがどうぞ。


第48話

立華の一言で急遽卒業式をしようということになった。

もちろんその準備は自分たちでやることになる。俺と出夢は力と体力だけは人一倍あるため音無から力仕事を任されたんだが…

「お前のせいでもうやることなくなっちまったじゃねえかよ!」

「ぎゃはは~!メンゴメンゴー!つい張り切っちまって!」

全く反省してねえよコイツ…。

ただでさえ人数が少ないから用意する椅子の数が少なかったりで仕事も少ねえのに、張り切りすぎでもうやることねえじゃねえか…。

 

というわけで、今は休憩を兼ねて少し散歩中だ。

「なあ、ゆりっていつ起きんだろうな?」

もう影との戦いが終わり、ゆりが眠ってから丸1日は経っている。

「明日かもしれねえし、明後日かもしれねえし…もっと先かもしれねえな」

流石に永遠に起きない、なんて可能性は低い。だけど、実際いつ起きるかは全く予想出来なかった。

「早く起きて一緒に卒業式してえなぁ~」

「じゃあ早めに準備終わらせねえとな。他の奴らを手伝うか」

 

他のメンバーを捜す目的でさらにぶらついていると、もうNPCも消えてしまった教室の一つに人影を見つけた。

平均な女子の体格よりも随分小柄で輝くような白髪の少女。今回の卒業式の発案者、立華奏だ。

真剣な面もちで何かを書いている。

「なにしてんだ?立華」

「これ?これは戦歌を作ってるの」

「戦歌?なんだそれ?」

聞き覚えのない単語に出夢も疑問を覚えているようだ。

「校歌の代わり」

「あ~なるほど」

学校じゃなくて死んだ世界戦線の歌だから戦歌か。

「どんなのか見せてくれよ」

「あ、僕も僕も!」

「まだ試作段階なんだけど…まあいいわ」

「どれどれ~………っ?!」

こ、これは…どこからツッコめばいいんだ?!

なぜか詩の一区切りの終わりが全て横文字で痛々しいことこの上ないし、なんだかその横文字のせいでリズムが無理やりになってしまいそうだし、しかも最後が目指すは麻婆豆腐って麻婆豆腐なんて俺達目指してねえし!

「あのな立華これ…「すっげえ!カッケーな!」…は?」

「出夢、やっぱりそう思う?」

「おう!奏、これカッケーよ!インザヘルとか意味はよくわかんねぇけどカッケー!」

だ、駄目だ…俺の彼女も感性が狂ってたぁ~!ていうかお前らいつの間に名前の呼び捨てで呼び合う間柄になってんだよ?!

「私としてはやっぱり麻婆豆腐というのは捨てられなくてね…」

「うんうん!」

「だから最後に麻婆豆腐を…「ストップだ」…なにかしら?」

「これはボツだ」

「え…!」

マンガならここでガーンとバックに効果音が書かれていること間違いなしの定番ポーズで停止する立華。

「な、なぜ…?」

「理由は多すぎて一つずつ言っていたらキリがねえ。だがな、これはボツだ」

「で、でも…「ボツだ」……」

「奏!僕も一緒考えっからさ!もう一回作ろうぜ!」

「出夢…分かったわ。そもそもさっきのは試作段階のものだったし…今度こそ完成さしてみせるわ…!」

出夢の珍しいまともな励ましを受けて立ち直った立華はまたペンを持って紙に書き始めた。

ここは出夢に任せて他の所いくか。

 

またもや働き口を探しブラブラ当てもなく校舎を歩いていると、自販機の前でコーヒーで一服している音無を見つけた。

「おっす、休憩か?」

「人識、ああ。とりあえず一区切りってとこでな」

「お前んとこのお姫さん、今戦歌とかいうの作ってたから見せてもらったらひでぇ出来だったぞ」

先ほどの出来事をざっくりと報告すると音無は苦笑する。

「奏はああみえて天然だからなぁ」

あれを天然で片付けていいのか?若干中二病臭かったぞ…

「そういえばお前、出夢はどうしたんだ?いつも一緒なのに」

「お前のお姫さまと一緒に作詞中だよ」

「なんだ。お前のお姫さまも天然じゃないか」

ははっと快活に笑う。

そう言われるとなんとも言い返せねえ

「しかしよ、お前の方も一区切りってことはかなり早いペースで準備進んでるよなぁ」

「ああ。多分あと1、2日って所かな」

「早くね?もっとゆっくりやんねえとゆり起きんの遅かったらやることなくなっちまうぞ?」

「でもさ、ゆりが早く起きるかもしれないじゃないか。だったら早く終わらせて、ゆりがいつ起きてもいいようにしといてやりたいじゃないか」

と、照れたように笑いながら言うこの好青年を見て、ふと一つの想像が浮かんだ。

「なぁ、お前…この世界に残ろうとか、考えてねえよな」

だからだろう、こんな全く脈絡も無しに話題転換をしてしまったのは。

「──っ!?」

図星、か…。

「落ち着けよ。別にお前を責めてるわけじゃねえんだからよ。それとも何か後ろめたいことでもあんのか?」

「ち、違う。ただ…お前はなんでそんなことがわかるんだ?」

「わかんねえよ。俺は生きてた頃から人の心ってのが分かんなくて悩んでたんだからよ」

心探す為に人殺しまくってたしな。若さゆえの過ちってやつだな。

「ただよ、お前責任感が強えし正義感も強えからなーんか、つい想像出来ちまったんだよ。ここに残ってまた此処に来ちまった奴らを卒業させてやろう、とか考えてるお前をな」

「……………」

音無は俺の憶測だけで言ってる事に反論をしない。つまり、全部が全部当たりなんだろう。

「しかも、立華と一緒なら、とかな」

「───っ!?」

これも、図星。

「やめとけよ。確かに此処なら年をとらずにずっと居られる。けどな、それは生きてるってことじゃねえんだ」

ギリッと歯を食いしばるような音が聞こえた。悔やんでいるのか、はたまた怒っているのか。

「お前が考える通り、また此処に来ちまう奴らもいるだろうし、そいつらが俺達みてえに此処を出ることに抗うかもしれねえ。けどな、それをお前が責任を感じて手を貸してやらなきゃいけねえ道理もねえんだよ。

ま、俺の言いたいことはそれだけだ」

「…そうだな」

ようやく、俺に言葉を返してきた。

その表情は憑き物が落ちたようだった。

「なんか、ちょっと難しく考え過ぎてたかもな」

「かはは、お前は無駄に頭良すぎんだよ」

「無駄にってひでぇな。

さ、ちょっと奏たちの様子でも見に行くか」

コーヒーを一気に飲み干し、そう言った。

 

「出来たわ、最高傑作が…!」

「こりゃ皆の驚く顔が目に浮かぶぜ!」

音無との会話を終え、出夢たちの様子を見に行く事にし、教室に着いた俺達が見たのは喜びに震える2人の姿だった。

最高傑作か…。なんか嫌な予感しかしてこねえ。

「出来たのか?見せてみろよ」

「ダメだ!これは卒業式の日までお楽しみだ!」

「そうよ。またボツにされたら困るもの」

せっかく出夢がうまいこと言い訳をしていたのに立華のせいで台無しだ…。

やっぱり立華のがひでえ天然だ。

「はぁ…まあいい。嫌な予感しかしねえけど」

「そっか。戦歌作りも終わったのか。なら終わってないのは俺達の所だけか」

立華も自分の仕事はあらかたやりきったようだった。

「なら、皆で飾り付けするか」

「ぎゃはは!やりてえそれ!」

「結弦、私も」

やっぱり卒業式をやったことがない2人はこういうのがいちいち楽しいようだ。

「それじゃあ日向たちの所に行こうか」

「しゅっぱーつ!」

「ったく、走んなっつーの出夢!」

 

この後またもや張り切ってしまった出夢のせいで準備が長引いてしまったのはご愛嬌だ。

 




次回、最終回です

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