ひといずin Angel beats!   作:堂上

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第47話

「───────あ」

突然、意識が覚醒した。…ような気分だ。

「つまり、ここは私の失恋したことによる嫉妬を表現しているということだ。わかったかー?」

でも勿論そんなわけはなくて、いつも通り、家から学校にやってきて、授業を受けていたのだ。居眠りしてたわけでもないし。

────なら、なんで今起きたような感覚なんだろう?

「よーし、もうここ消すぞー?」

「え?…あーーーーー!!」

ノート全然書いてないじゃん!?なんで?!

「どうかしたのか、匂宮?」

急に大声を出したから皆の注目を集めてしまった…恥ずかしい…

「…いえ…なんでもないです…」

 

「ねー出夢ー、さっきはどしたの?なーんかボーッとしちゃってさ」

「ボーッとって…あたしそんな…」

あれ?…あたし、自分のことあたしなんて言ってたっけ?もっとこう…

「ほーらまたー、何ー?何か悩み?」

「え、いや、悩みとかじゃないけど…」

「けど、なによ?」

「えっと、あんた名前なんだっけ?」

向こうはこっちの名前を知ってる。それは当たり前だ、クラスメートなんだから。…じゃあ、なんであたしは今この人の名前が分からないんだ?

「なに言ってんのよ~、あたしよ。咲よ」

さき…サキ…咲…

「あ、ああ!そうだったね!」

「も~、しっかりしてよ~」

なんで今まで忘れてたんだろ?一学期からずーっと仲良くしてたのに…

「ゴメンゴメーン」

「いつもはしっかり者なのにどしたの?」

「いや、どうかしたとかじゃ…「もしかして恋?!」…は?」

「ボーッとしてたのも好きな人の事考えてたんでしょー?」

「え、や、は?」

「誰々ー?誰が好きなのー?もしかして永野くん?」

「違う違うちがーう!」

引っ付いてきていた咲を振りほどいて叫ぶ

「もう!すぐに色恋沙汰に繋げないで…」

あれ…でも確か、あたしは誰かの事が好きだったような…

『キーンコーンカーンコーン。キーンコーンカーンコーン』

沈殿していた意識がチャイムの音で引き起こされる。

「あ、チャイムだ。じゃ、また次の時間訊かせてね~」

手を振って自分の席に帰っていった。

 

「いいかー、この香辛料を追い求め…」

誰だろう?

この、記憶の奥の奥に押し込まれている人は…

大切な人だった。そう、自分の頭も心も言っている。

そして、この記憶はそこまで古いものではないはずだ。彼の横にいる自分は今と変わらない姿だから。

「じゃあ、なんで…」

不意に窓の外を見る。

すると、そこになにか得体の知れないものと戦う誰かが見えた。

「っ?!」

一瞬、頭に稲妻が走る。

なにかが揺り動かされるような感覚──なにか、思い出せそうな──「ねぇ、どうしたの?匂宮さん?具合悪いの?」

思い出せそうだった何かが引っ込んでいってしまった。

「ううん。大丈夫」

「そ、そう?」

「うん。ゴメンね」

きっと、端から見たら大丈夫じゃないんだろう。後ろの子も少し怪訝そうにこっちを見ている。

そういえば、また名前が分からない。

どう考えてもおかしい。2人もクラスメートを忘れるなんて。

「あたしは…一体…」

そうだ…そもそも『あたし』という一人称からして違和感を感じる。

彼と話している自分は自分の事をなんと読んでいた──?

あたし?──違う

わたし?───違う

ウチ?─────違う

出夢?──────違う

記憶を探っても探っても探っても、答えは出てこない。

『かはは。おい、あんま暴れんなっつーの』

唐突に頭の中で声が聴こえてきた。

『ぎゃはは!そんなの僕に死ねっつてんのと一緒だぜ?──。』

僕?────そうだ。僕だ。僕は自分の事を僕って言っていた。

肝心の彼の名前と思われる部分は加工され、モヤがかかったように聞こえない。

でも、あと少し───あと少しで思い出せる。

そう思った瞬間。窓が割れ、黒い、ドス黒い何かが津波のように僕を飲み込んでいった。

「な、なんだ、これ…!?」

必死に手足を動かしてもがく。

あともうちょっとなんだよ!あいつの事を、あともうちょっとで───────────

『出夢!手ぇ伸ばせ!馬鹿やろう!』

声が聴こえた。アイツの声が。

記憶に残っていたような声じゃない、生のアイツの声が。

「くっ…!」

必死に手を伸ばした。声のした方に。誰だか分からない、アイツの声に。

すると、フッと手を引っ張られる。真っ暗な津波の中から、光の差す場所に────

上へ、上へと、昇っていくと、記憶が──アイツの記憶が戻ってきた。

ああ、そうだ──アイツの──僕の大好きなアイツの名前は───

「人識!!」

 

 

「人識!!」

地面に引きずり込まれそうになっていた出夢を俺は手を握り締めて引っ張り上げた。その瞬間、俺の名前を呼んで抱きついてきた。

「バカ!ったく、なんでお前はあんな事を!」

抱きしめ返しながら、先ほどまでの不安や恐怖などを全て

振り払うように怒鳴る。

「なんでって、お前が影に喰われそうだったから…」

「──っ!」

そう言われるとぐうの音も出ない。だけど

「それでも!お前が居なくなったら意味ねーだろーが!」

「そんなの、僕も一緒だ。だからおあいこだろ?ほら、泣くなよ…」

「は?泣いてねーよ…」

言いつつ、目の下を擦ってみるくと、濡れていた。

「あ?んだ、これ?」

「だーかーら、それ、涙だろーが」

涙?そんなわけない──今まで、それこそ、あの欠陥製品から出夢が死んだって聞かされた時だって流れなかったものが、なんで今更…

「な、もう僕は大丈夫だからさ」

スッと手を俺の頬に添え、涙を拭う。

その手から出夢の体温が、感触が伝わってくる。

「ああ…もう、大丈夫だ…っ!」

言って、出夢の手を握りしめる。

「ていうか、影は?!」

ガバッと起き上がって、周りを見渡す。

「大丈夫だよ」

「おーい!人識!もう出夢大丈夫なのかー?」

「藤巻…」

「おう!目ぇ覚めたみてえだ!」

「悪い出夢!俺のせいでよ!」

「い、いや、別に…」

「おお!目が覚めたか!もう、戦えるのか?」

「五段?おお、戦えるぜ!」

「まだ居るぜ。見て見ろよ」

出夢が周りを見渡すと、ちょうど大山が弾を撃ち、どこに居るかがわかった。

「大山もか」

「おう。皆お前が影に飲み込まれちまって俺がお前にかかりっきりになってたら助けてくれたんだぜ?」

「そっか。ぎゃは、なら僕たちが皆助けてたのは無駄じゃねえってことだな!」

「おう!さ、立て」

手を貸して立たせてやる。

「まだ影はいるからよ、とっとと戦線復帰してやんなきゃよ」

「そだな。この借り、何億倍にもして返して…って、あれ?」

さあ今から戦闘再開とばかりに構えた時、影達が霧状になり散っていく。

「あ?んだこれ?」

訳も分からず言葉を漏らす藤巻

「人識、もしかしてさ」

「ああ、多分、ゆりたちがやったんだろ」

こんな事出来んのは別行動のゆりたちだけだ。

「あ!てかこれじゃ借り返せねー!」

「それはどーでもいいけどよ…」

「そうだぞ。もとはと言えば俺達が助けられたのだから、おあいこだ」

「そーいうことだ」

「え~、なんか釈然としね~」

肩を落とす出夢。

「なんにせよ、とりあえずアイツらが帰ってくんの待つしかねーな」

それから少し経ち、音無たちがゆりを抱えながら帰ってきた。

「どーしたんだよ、ゆりのやつ?」

「分かんねーけど、泣き疲れて眠っちまってたよ」

日向がざっくりとした説明をしてくれたが正直、状況がわからなかった。

「いや、もうちょっと状況とかちゃんと説明しろよ」

「そうだな」

苦笑をもらして、音無が代わりに説明してくれた。

まず始めに駆けつけたとき、ゆりは影に飲み込まれかけていたこと。

それを助け出して一緒にギルドの奥に進んだこと。

そしてそこに第2コンピューター室という敵の本拠地と思われる場所があったこと。

そしてゆりが1人でそこに入り影が消えたと思って音無たちも中に入ると眠っていたらしい。

「そっか。そういや、NPCたちも居なくなっちまったんだな」

話を聞き終えて、話題転換する。

「NPCが居なくなったって、高松は?!高松はどうなったんだ?!」

日向がNPCという単語から高松の事を思い出して叫ぶ

「そういやそうだ。ちょっと捜してみっか。お前らあっち行ってくれ。俺達は向こう捜すから」

役割分担を決めて、二チームに別れて高松を捜し始めた。

 

捜し始めると、案外あっさりと見つかったようで、すぐに音無たちが呼びにきた。

誰も居なくなった学校の教室の一つに高松はいた。

机に突っ伏して寝てしまっているようだ。

「ったく、高松のやろう呑気に寝てやがんだぜ?」

「しょうがない。起こすか」

そう言い、五段が高松の身体を揺すり声をかける。

「おい、起きろ高松。特製のプロテインがあるぞ」

「どこですか!?」

「アホだ」

そんなんで起きんのかよ。

「あれ?一体今まで何を…?」

「バカ。お前影に飲み込まれてさっきまでNPCになっちまってたんだぞ?」

「え、NPCにですか?そんなことが…」

「あったんだよ」

少し困惑している様子の高松だが、まあ、無理もない。今回の事はそれほどイレギュラーな問題だった。

「では、どうやって私は戻れたのでしょう?」

「それは多分、ゆりっぺのおかげさ」

「そうですか…やはり頼りになる私達のリーダーですね…」

「とりあえず、保健室にでもゆりを置いといてやろうぜ。それから校長室で会議でも開こう」

「そうだな」

 

ゆりを保健室のベッドに寝かし、校長室に場所を移して今この世界に残っているメンバー全員を集合させた。

「で、どうする?」

真っ先に切り込んだのは日向だ。

「どうするって、なにを?」

「そりゃ今後をさ。皆出てくのか?」

「俺は、ゆりを待つ。そう約束した」

「そりゃ俺もだけどよ」

「僕も音無さんが残るのなら勿論残りますよ」

この3人はまあ、元から明言していたからそうだろうな。

「私は…もう、出て行くことにします」

「遊佐…。そっか、お前はそうすんだな…」

「はい。もう私の役目はおそらく果たしたと思いますので」

淡々とただ事実を口にしていると言う風だった。

「僕も行きますよ。もう僕はしたいことも出来ましたしね」

「竹山…」

「クライストですって、はぁ」

「わりーな」

「いいですよ、もう」

「俺も出て行くぜ。ひさ子も待ってるしな」

「僕も、入江さんが待ってるから行くよ」

「藤巻に大山もか…へ、ったく最後の最後でノロケやがってよ」

日向が鼻の下を擦りながら言う

「私も、出て行くことにします。なんだかさっき起きて皆さんの顔を見たら心がスッと晴れたので」

「俺も行くとする。もう肉うどんもないしな」

「お前は最後までそれか?!」

「はは、冗談だ。もう、思い残す事はない。ただそれだけだ」

「そっか…」

「me too」

「TK、お前もか?」

「Yes,もう充分だぜ、Foooo!」

「かはは、最後までテンション高けえな」

「私も、去ることにしよう」

「椎名っちもか?」

「ああ、もうお前らと充分楽しく過ごせた…それに、そもそも私は昔消えかけていたしな。ゆりがまだ消えるなと言ったから残っていたが…もう、ゆりも大丈夫だろう」

ニコリと今まで見たことがない穏やかな笑顔をする。

「…ああ、そうだな。サンキュー、いつもゆりっぺを守ってくれてよ」

「浅はかなり」

「まーたそれかよ」

あはは、と皆が一斉に笑う

「野田は残るんだろ?ゆりっぺが起きるまで」

「いや、俺も行く」

「なっ、嘘だろ?お前いっつもゆりっぺゆりっぺって」

「俺は、ゆりっぺよりも先に行ってゆりっぺがもしまた次の人生で何かがあったとしても守れる男になっていなければならない」

「でもよ、先に行ったからって先に生まれる保証ねーんじゃね?」

出夢が珍しくまともな発言をした。

「それでもだ。少しでも可能性を上げておきたい」

「そーかよ。ったくお前は頭っからケツまで変わんねえなぁ」

「うるさいぞ」

えらく嬉しそうな日向を照れてるのか鬱陶しそうにあしらう野田。

「人識たちは残るんだよな?」

「ん?ああ、最初から俺達は最後までいるつもりだったし。な?」

「もち!」

「じゃあ残るのは奏とゆりを合わせて7人か」

「でも、ちょっと悲しいね。これで戦線も最後だと思うとさ」

「そうだな…そうだ!なら、皆一つずつ何かものを置いていくのはどうだ?」

「おっ、それ良いじゃん!音無!」

「なら僕はこのパソコンを置いていきます。僕の全てがここにあるので」

「俺はハルバートを置いていく。いつも共に戦った相棒だからな」

「んじゃあ、俺は長ドスにすっか。なんだかんだで、やっぱコイツがねえと落ち着かなかったしな」

「なら私はこのインカムを」

「私はこの小犬達を置いていこう」

「my accessory!」

「僕はポテチにしようかな」

「俺は柔道着を置いていこう」

「これで全員置いていく物は決まったな」

皆の思い出の詰まったものが校長室に所狭しと散らばっている。

「じゃあそろそろ行くか…」

「ああ…」

すると、皆から発光する球のような物が出てくる

「俺達は先に行って、貴様らを待ってるぞ。ゆりっぺが起きたらさっさと追ってこい!じゃあな」

代表で野田が最後に言葉を残して───消えた。

 

「じゃあゆりが起きるまでどうする?」

「結弦。私、卒業式してみたい」

「なんだ奏?お前卒業式したことなかったのか?」

コクリと頷く天使…いや、立華。

「僕もしたことない!」

「いやまあお前そもそも学校行ってねえからなあ」

「やりたい!僕もやりたい!」

手を上げてピョンピョン跳ねる。

「んー、じゃあやるか!まずは色々準備しないとな」

「私、卒業証書つくりたい」

「じゃあ字は奏に任せて、人識と出夢は力仕事を頼む。俺と日向と直井は飾り付けをしよう」

テキパキと皆に指示を出す

「お~、なんかテンション上がってきたな~」

「ふん、愚民が。この程度でテンションが上がるなど」

「いや、お前もソワソワしてるじゃねえか」

「していない!」

「あーもー、いいからとっとと始めよう。ゆりがいつ起きるかわからねえんだから」

「そうだな。じゃ、準備開始だ」

 




なんだか文章が安定せずに台詞ばかりになったりするのは作者の力不足によるものです。読みにくくなってしまって申し訳ありません

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